第12話『死闘』Part2   Part1へ戻る

 ボウリング場。コケにされたみずきは元々の負けん気の強さも手伝い意気込んでいた。
「見てろよ〜『男』の実力見せてやるぜ〜」
(こだわってるわね…)
 くすくすと笑いたくなる衝動を抑えて七瀬は見守る。
 瑞樹は彼が扱うにはやや大きそうなボールの穴に指を突っ込む。
「もっと小さいほうがよくない? あんたの指じゃ大きいわよ」
「へっ…すっぽぬけたりゃしねーよ」
 格好よく決めて瑞樹はボールを持った状態でピンを見据える。狙いは一番ピン。
 彼はずかずかと前に歩み寄りつつ大きく後ろにボールを振ったら…見事にすっぽ抜けた。
(あ゛……)
 言った矢先にやらかしてさすがにすぐには振り返れない。
 それでも恐る恐る振り返ると、真理が送球を受けた一塁手のようにボールをわしづかみしていた。
「ご…ごめん…」
 まずは礼儀として謝った。それからよく見たら…上条は龍気炎。綾那はピンクショットの体勢。十郎太は苦無を構えていて姫子は薙刀を取り寄せていた。
 瑞樹には見えなかったが様子から察するに榊原と七瀬は出していたマリオネットを引っ込めたようで緊張が解けたように息を吐く。
 そして姫子以外の全員が見事にはもって言う。
「やると思ってた」
 返す言葉もなかった。
「心配は要りませんわ。瑞樹さん。例えどのようにすっぽ抜けても、わたくしたちはちゃんと防いで見せます。だから安心してボールを投げて結構です」
「………どーも……」
 もちろん姫子に悪気はない。だからある意味では性質が悪い。ちょっとむっとしたが自分が悪いので改めて投球に入る。しかし
「うひゃあ」
 今度は足を滑らせてまたもやすっぽ抜ける。だが榊原がブロッキングしたのでボールは誰にも当たらなかった。
(これではああされても文句は言えない…)
 3度目の正直でやっと前に投げた。ボールが右と左に散って4と4で8だった。

 変装した斑はうつむき加減に歩く。だが実際はゴーストフェイスキラーが『獲物』を見ていた。そして
(美しい手だ…携帯相手の喋り声も綺麗でしかも高い。さぞかし良い悲鳴を聞かせてくれるだろうな…長い髪も美しいが肝心の首筋が見えないな…やはり絞殺が一番醍醐味がある。細くて華奢な首筋が好みなのだが…あの声から察するに声帯も細い。つまり首も細いだろう。細身の女だけに外れてはいまい。
 決めた…今日の『相手』は彼女にお願いするかな)
 斑は五十メートルあけてから方向を変えた。もちろんGFKの頭部。それだけが独立して彼女を追跡している。
 独立した状態。これをリトルデビルと呼んでいる。姿は同じでも二つのモードがある。
 斑本人が細かく操作してリトルデビルの見たものや聞いたものが本体に伝達される操作モード。今がまさにそれだ。口もきける。
 それに対して最初に与えた攻撃命令に従い、解除以外の指令は通じなくなるが自動的に対象を攻撃する自動モード。
 斑も自分より強い相手から逃げた事がないわけではない。その際の足止めを願った際に発現したのがこのリトルデビル自動モードだ。
 それをさらに操作できるように訓練して、細かく意のままにできるようにしたのが操作モードだ。
 操作モードはコントロールとの兼ね合いで射程距離が50メートルだったのに対し、足止めから生まれた自動モードは100メートルもの遠さでも動いた。
 操作モードは本体が姿を隠しても50メートル先の情報がその場にいるようにわかるが、きちんと操作しないといけない。コントロールを失うと止まる。
 自動モードは細かい操作が要らない上に『射程距離』が格段に伸びるが、完全に自動になってしまうために斑本人にも情報が伝わらない欠点がある。ただしマリオネットのダメージは本体に撥ね帰らなくなる。
 今は尾行に使っているので操作モードだ。50メートルにやや足りない距離を保ち斑は尾行する。

 ボウリング場。瑞樹はすごすごと引き下がる。
「だから言ったじゃない。そのボールじゃ大きいわよって。コントロールできなかったんでしょ」
「うるせえっ。このお節介。そこまで言うならお前はオレよりうまく行くんだろうな」
 いつもの「夫婦喧嘩」ならここで七瀬がやり返すとこだが、七瀬がなぜかシニカルな笑みを浮かべる。瑞樹は「しまった」と言う表情になる。
「いいわよ。みてなさい」
 やたらに自信満万に七瀬はボールを構える。ゆっくりとしたステップで投球する。緩やかなカーブを描いたボールは10番ピン以外のすべてを蹴散らす。驚嘆の声が上がる。
(そうだった…こいつ中学のときもやたらに上手かった…忘れてた)
 七瀬はそつなく残ったひとつも倒す。スペアである。一言もない瑞樹であった。

「さて…僕の番か」
 七瀬が終わり次は男組で上条だ。すっと立ちあがる。
(またなにかやるんじゃないか…こいつ?)
 榊原の予想と言うか危惧した通りである。上条は口上を述べる。
「俺のこの手が光って唸る。ピンを倒せと輝き叫ぶ。食らえ!! 愛と怒りと哀しみの必殺!! ボウリングフィンガァァァァァァァァ」
 みんなが唖然とするのを尻目に、豪快にボールの穴に指を入れるとダイナミックに放る。
 7番と10番以外は倒したがこれは取りづらい。がっくりと両膝を折る。
「そんな…僕にはできないよ。兄さん」
「いつまで芝居してんだよ。ボールが戻って来たぞ。さっさと投げろ」
 真理にせっつかれて投げたが左のピンを狙うも外して8本どまりだった。

 もしも小学生の女児の中に紛れこんだら見事に解けこむであろう。それくらい綾那は小柄だった。どうしてもパワー不足になる。
 パワーファイトのクラッシュモードにしても体全体で技を仕掛けているのだ。だから綾那は考えた。非力を補う手段。
 そして思いついて…同じ下手で投げるソフトボールの…それもぐるっと1回転させるウィンドミル投法を実践してボールを真上に挙げた時点で肩をやってしまった。
「いったぁーい」
「大丈夫? 綾那ちゃん」
 即座に七瀬がダンシングクィーンで損傷を修復するが、それから綾那はおっかなびっくりで投げて結局3と2の合計5本。

 榊原の順番である。彼はまずレーンその物を見る。触っても見る。しまいには『ビッグ・ショット』までだして調べる。
「まぁ榊原さん。さすがは慎重でいらっしゃいますわ」
「うむ。まさに『石橋を叩いて渡る』とはこのことでござるな」
 そうなのだ。彼の行動はかなり理性的。ただし女が絡まなければ…だが。
 さんざん調べて結論が出た。
「整備不良だな。係員に言って移動させてもらおう」
「御託はいいからさっさと投げろぉぉぉぉぉぉ」
 短気な真理の膝けり(サンライズ・サンセット)を食らいもんどりうつ榊原。鼻を抑えながら
「お…お前今日はやたらと人をドついてないか」抗議するが当の真理は知らん顔。結局7と1。

「けっ。みんなちんたらやってんじゃないよ。アタイが見本を見せてやる」
 真理は無造作に16ポンドのボールをつかむと
「どぉりゃああああああああああ」
 雄叫びと共に腕を振る。だが何もおきない。すっぽ抜けを警戒するがボールはどこにもない。
「村上。ボールは…え?」
 瑞樹は唖然とした。みんなもだ。真理は珍しくごまかし笑いを浮かべていた。
 ボールはまだ真理の右手におさまっていたのだ。
「あ…はははははは…握力強いのも考えもんだな…」
 これが祟って3と4.

「風間。ルールはわかった?」
 それまでじっと見ていた十郎太に男たちが声をかける。いつもの無表情で答える。
「概ねは飲みこめたでござる。その大玉であのこけしを倒せばよいのでござるな」
「こけしって…」
「いざ。参る」
 多大な不安を抱かせつつ十郎太はボールを持ちすたすたと歩み寄る。
「えいやあっ」
 気合と共に放る。意外にも技よりもパワーで9本のピンを倒した。歓声が上がる。
「おおーっ」
「はじめて投げて」
「大した物だ」
 口々に称える。だが当事者は
「む…無念…不覚なり…」
 がっくりと膝を折っていた。
「なんだよ。はじめてで9本倒したからって嫌味だな」
 負けず嫌いの瑞樹が食って掛かる。
「戯言を申すな。例え九人斬っても一人逃せば任務失敗。そしてその生き残りに斬られるやもしれんのだぞ」
「い…いや…ボウリングを斬り合いにされても…」
 結局スペアならず。

 そして女子の中で一番不安視されていたのが姫子である。ソレを知ってか知らずかいつものにこにこ顔で
「それではわたくしもまいります」
と宣言して投球に臨む。まったくひねりのない真っ直ぐなたま筋。綺麗な直球で進むが非力故にすべては倒せず七番と十番。一番離れたピンが残ってしまう。
「あの…こう言う場合は先程の上条さん同様に左のピンを狙えばよろしいのでしょうか? それともお店の人に言って直して貰い…」
「いや…プライズマシンでクレーンに引っかかったんじゃないんだから…」
「どうせ狙うならどっちのピンでもいいから内側を弾いて、そのリバウンドでもう片方を倒すと言うのもあるけど…君も初心者だしね。難しいかな」
「ご教授ありがとうございます。瑞樹さん。ではそのように」
 姫子は丁寧に礼をすると言われた通りに試す。ビギナーズラックと言うヤツか。見事にその作戦通りにスペアを取る。
「わかりましたわ。こうすればよろしいんですのね」
 無邪気に喜ぶ姫子を見て瑞樹がつぶやく。
「やっぱり…素直が一番だな…」
 プレイは3時間に及ぶ。

 瑞樹たちのボウリングが終わるかどうかの頃。
 町の中。女は怯えていた。不気味な髭の男がついてきている。
 美人ではあったが彼女にはストーキングされる覚えはない。痴漢にしてはこんな人気のないところ…むしろ暴行をイメージする。
 女は歩調を速めた。勘違いなら引き離せる。もし悪意の尾行ならなおさら距離を置きたい。
 ビルとビルの隙間。隙間と言ってもバイクくらいなら突っ切れるだけの幅がある。そこを彼女は突っ切り大通りへの近道をしようとした。だがまだ日の当たるところでもがきだす。
「ア…熱い…(喉が熱い…声が出ない…助けが呼べない…)」
 突然に喉もとに焼け付く熱さを感じて彼女は助けを呼べなかった。激しくせきこむ。
「無粋だな…デートとは二人だけで楽しむもんだ。他には誰も要らない。私と君。それだけいればいい。そして君は今…私の物になる」
 髭の男が追いついた。不気味な低音でやや芝居がかって言う。
「私の名は…斑信二郎。さて。美しいお嬢さん。ぜひともお名前をお聞かせ願いたい」
 そんなことを言われても女は恐怖で何も出来ない。そう判断した斑は女のハンドバッグを奪い中から免許証を探し当てる。
「中山恵美子さんか。当年とって25歳。ふむ。よいね」
 恵美子はこの大胆な男に恐怖を感じて逃げることも出来ない。それを優しく宥めるように斑は恵美子の両方の頬を両手でなでる。
 もちろんゴーストフェイスキラーは彼女を燃やしてしまうための『導火線』を首筋に取りつけた。
「ふふ。これで君は私の物だ。まさしくこれは『死が二人を分かつまで』の『指輪』さ。今はまさに『初夜』さ」

 ボウリング場。微笑の少女たち。苦笑の少年たち。勝敗は明らかであった。
「賭けはそっちから言い出したんだからな。さぁて。何を食べさせてもらおうかな」
「はぁーい。ボクね。ハンバーグ食べたい」
「わたくしは一度ハンバーガーと言うものを食べてみたいのですがお父様に禁止されてまして。でもご馳走になるならこの限りでもないのではないかと」
「美味しければ高くなくてもいいわよ」
 勝負は僅差だった。だがそれを決めたのは瑞樹だった。
「まさか赤星が及川の代わりに投げて」
「よもやすべて斬ろうとはな」
「ドジだドジだとは思っていたがあそこまで」
「悪かったな。でもみんなも言えよ」
「うーん。でもなんかあんたが女子の方にいるのが当たり前になっちゃってて」
 交互に投げていて姫子の投球が終わり瑞樹の番になったときだ。瑞樹は女子チームのほうで投球してしまったのだ。
 普段の女扱いの影響か。本人含めて誰も違和感を感じず。しかもよりによってストライク。投げ終えてから気がついた。
 修正しようと思ったが「オレがまたこっちでストライクだしゃ同じだろ」と強気の瑞樹だったがダブルガーター。
 結局、この後の綾那が9本倒したのが響き女子チームが勝利したのである。
(やっぱりおれが払うのか?)なんて考えていたときだ。
「!?」
 それまでにこやかだった真理の表情が一変した。
「真理ちゃん? どうしたの」
「例えるならアンノウンを感知した翔一(仮)みたいに」
 真理は黙って右腕を差し出す。上条や瑞樹には見えなかったが、人形遣いたちにはうねるガンズンローゼスが見えた。それがアンテナが伸びるようにとある方向を指し示す。
「誰かが助けを求めている…」
 言うなり真理は走り出す。
「飯は後だ」
 瑞樹の言葉でみんなも走る。

 恐怖に竦んだ恵美子は反応すら出来ない。斑は苦虫を噛み潰した表情になる。
「これではつまらんな…『何がおきているのかわからない』と言うところか。仕方ない。ゲスな暴行魔と同等に扱われるのも癪だがもうちょっと現実的な恐怖を与えるか」
 言うなり斑は恵美子の唇をふさぐ。いきなりのキスに恵美子は驚く。さらに斑の手はスカートの中の下着に掛かる。
 ことここに至って恐怖で麻痺していた感覚がよみがえってきた。そして斑を突き飛ばして逃げる。
「ふふ。そうだ。そうでなくては『趣味の殺人』としては面白くない。『逃げ切れるかもしれない』と言う『希望』をずたずたに切り裂く。そのとき私は相手の心すら支配したことになる。まずは狩りの楽しみからだ。フォックスハンティングと言うところか」
 斑はサッカーボールをけり出すようにあしを振る。空気の衝撃波がブーメランのように飛ぶ。
「スパークカッターグライディン」
 空気の衝撃波は恵美子のストッキングに包まれた足を、踵をえぐった。
 もんどりうって倒れる恵美子。しびれる足。
 逃げ切れないと察した彼女は声を出そうとするが口を抑えこまれてそれも叶わないままに暗がりの中に引きずりこまれる。

 倒産して破棄され取り壊しを待つばかりの廃工場。傍らに人影ひとつ。『張り込み』をしていた。
(彼の予知通りならこの場所で何かが起きる。瑞樹は何者かと戦うことになる。それも命がけの。だが…ヤツが男であろうと言うのであれば手助けは無用。とはいえど死なせるつもりもない。恐らくその予知は私もかかわっているのだろう)
 赤星秀樹は店を妻に任せ息子を見守りにこの場にきた。彼は手にした包みに視線を寄せる。
(まだまだ私の本当の仕事を知られるわけには行かん。もっとも素性を隠すために誰が相手でもこれは身にしているがな)

 走り出した少年少女。しかしどうしても脚力に差が出る。瑞樹と十郎太。綾那が前で姫子。榊原。七瀬が後方だ。
 そして十郎太は絶えず姫子を視界に入れているため、おのずとつきぬけられない。
「場所は村上に聞いている。風間。姫ちゃんと一緒に七瀬も頼むぜ。おれは先に行く」
「承知した」
 瑞樹が抜け出した。

(むっ)
 斑信二郎は例え殺されても他人の肉体を奪って現世に舞い戻ってくる男である。それでいながら慎重な一面もある。
 だからサバンナでライオンの行動に目を配るシマウマのように接近者には敏感だった。
 リトルデビルを出現させてしまうと『導火線』も消滅する。自分の耳だけで判断した。
(拙いな…何人も来る。しかも駆け足。近いほうは…つまり速い方は軽い足音。女子供。いや…脚力から判断して小柄な男か。足音の感覚から判断する限り歩幅は狭い。かなり小柄だ。やや遅れて大きなストライド。これは間違いなく男。拙い…多すぎると口封じがしきれないかも。「逃げる」か)
 だが逡巡の間に瑞樹が駆けつけた。つくなり怒鳴る。
「てめえっ。そこでなにしてやがるっ」
 男だったため斑には少年が自分の教え子とは分からず。
 暗がりの上に変装。まして暴行魔が自分の担任とは思いもしない瑞樹。両者の対峙であった。

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