第12話『死闘』Part4   Part3へ戻る

 走る十郎太。とりあえず騒ぎの起きている気配を探るがどこにもそんな様子はない。立ち止まり辺りを見まわす。
(もっとさびれた方に誘われたか)
 彼は再び走る。

 廃工場の外。気配を殺した赤星秀樹は安堵の息を吐いていた。
(取り越し苦労で済んだか…瑞樹。逆境で強くなったか。男でありたいと強く願う事で…意志の強さは何よりも強い。所詮は欲望や衝動に身を任す『殺人鬼』などが勝てる相手ではない。
 だが…気になる。あの男。あれだけでは終わりではない気がする。今までの経験から来る勘だが…)

 その間合い。約5メートル。赤星瑞樹は大きくあえいでいた。
(疲れた…こんなに疲れたなんて初めてだ…そう言えばいつもの戦いだと七瀬が傷を直してくれるし、若葉が体力も補給してくれる。改めてあいつらに感謝だな…)
 彼はよろよろと斑に近寄る。
「吹っ飛ばされるそのときまで素顔を隠すとはな…その髭も付け髭だろう。サングラスと帽子も剥ぎとって顔を見てやる…」
 1歩1歩接近する。そのときだ。突如として斑が浮かび上がった。
「な…何? 寝たままの姿勢で…マリオネットかっ。マリオネットで自分の体を持ち上げているのかっ。まだそんな力が…」
 そして斑が輝き出す。比喩ではなく本当に体が光る。正確には光に包まれてと言うべきか。
「拙いっ。何かがやばいっ。自分に作用させるくらいだ。体力回復とか傷の修復とかしているのかもしれない。あるいは逃げる気か。いや…自殺と言う線もありえる。それもダメだ。ゆかりの件で聞きたい事は山ほどある。とにかく止めないと」
 瑞樹は力を振り絞り走り出す。ところが斑の周辺から吹き出す風におし戻され吹っ飛ばされる。
「うわあっ」
 ごろごろと転がり元いた場所まで戻される。なんとか体勢を立て直すと…そこには『まったく無傷の斑』がいた。
「なんだと? あれだけつけた傷はどうしたと言うのだ…」
「レストレイション。守りの切り札だ」
「レスト…レイション?」
「そうだ。蓄えていた破気全てを回復と傷の修復に当てた。今の私は君と戦う前の状態に戻った。つまり君だけがダメージを負い私は無傷。これがどれほどの絶望かわかるかね」
 教師に成りすましているからか。それとも元もとの趣味か講義でもするような調子で解説する斑。
 実際の話。こんな解説は死に行く相手にしか出来ない。だからかやたら饒舌になる傾向がある。
(なんだって…そんな…それでは体力満タンの相手にこの状態でまた戦う事になるのか…もう立っているのが精一杯の状態で…)
 確かに瑞樹は失意に叩き落された。

 姫神では探れない。十郎太も戻ってこないからまだ見つけていない。残っていた七瀬たち6人は焦れていた。
「まいったな…僕にはマリオネットのような能力はないから探せやしないし…」
「あったって俺のように予知能力じゃこの場合はどうしようもない。もう起こっていることを探れないなんてな…」
 自嘲するように榊原が言葉を吐く。やはりうつむいていた真理がはっと顔を上げる。
「それだ!! カズ。予知能力だ」
「はぁ?」
『話を聞いてんのか?』とでも言いたそうな表情で榊原は間抜けな声を出す。
「お前が予知していたじゃないか。喫茶店でさ」
「ア…そう言えば」
 七瀬はここで喫茶店でのことを思い出す。瑞樹に吹っ飛ばされた榊原は、確かにあのとき予知のマリオネット「ビッグショット」を発現させていた。
「おじさまはこのことを聞いていたのね…」
「しかし村上。この場合の俺は自分で何を言ったか覚えてないんだ。誰か聞いていたか?」
 七瀬が首を振る。他はその場にいないから論外だ。
「いいや。聞く相手ならいるさ。カズ。お前だ」
 真理はガンズン・ローゼスを出しながら近寄る。
「そうか! 確かに夢を忘れるように予知を忘れてしまうケースだが、心の奥底には残っているかもしれない」
「緊急事態だ。心の中。見せてもらうぜ」
 榊原は無言で頷いた。ガンズンローゼスがコネクトされた。二人の心が繋がった。
 息を呑んで見守る七瀬たち。心の中をさ迷う真理。受け入れた榊原の両者が脂汗をかく。そして
「わかった。赤星はさっきの髭野郎とどこか暗くて広い場所で戦っている」
「暗くて広い…体育館?」
「いや。イメージその物を見たがそんな綺麗じゃない。なんかこう…ゴーストファクトリーのような…」
「廃工場か…わらをもすがると言うヤツだな。なんとか探し出そう」
「十郎太さまにもお願いしましょう」

 街を駆ける十郎太。その懐に何かが入ってきた。十郎太は走りを止め気配を探る。
 マリオネットマスターでない十郎太だが気配は探れる。ましてこんなことをするのは姫神だけである。彼はそれを察すると懐に入れられたものを取り出す。
「文か」
 とりあえずそれを一読する。姫子からの連絡だった。
「うらぶれた工場でござるか」
 目星がつけば探しやすい。どうやら姫神もそう言う場所を探しに飛んだ。彼もまた走り出す。

 そして廃工場。感心したように斑が言う。
「正直なところ感服しているよ。私に『レストレイション』までも使わせるとはね。
 これは全ての破気を使う大技でね。これをやってしまうとしばらくは破気をたくさん使う技が出せなくなる。そう言う状況にもならなかったしね」
 補足しておこう。この技は自動発動ではない。
 何故ならば他者の肉体を奪う能力のためには斑はその時点の肉体から魂を切り離していないとダメなのだ。
 したがって敢えて死のうとしているのに勝手に直っても拙いのである。
 もちろん不測の事態で大怪我を負った時などは速やかに発動させている。あまり長い事、魂だけでいると『あの世』に連れていかれるのである。
 そうでなくても恨みはかなり買っている。引きずり込もうと亡者たちが手薬煉を引いている。
 ただ一気に損傷の修復。傷の修復。そして体力補給をするのでかなり多大なエネルギーを擁する。
 いつでも出せるわけではないが戦いの中で自然にたまる。ただその戦いその物で使ってもしまうが。
「君の名前を聞いておきたいが、もう口も聞けないほどに疲れ果てているようだね。だからと言って体力の回復を待つほど君を過小評価していないし時間もないかもしれない。
 本当は賛辞としてこの手で直接その首を絞め殺して差し上げたいところだが、それこそ『思いこみは危険』だ。疲れたふりをして私が近寄るのを待っているのかもしれない。
 このまま遠間からスパークカッターの連発で止めを刺すのがベストだな。なぶり殺しの形になるがね。ふふふ」
(ダメだ…指一本動かせない…このままだと殺される…七瀬…)
 瑞樹は必死で体を動かそうとするが必死の力も出ない。斑は大きく腕をスイングバックした。
「さらばだ。少年。私の記憶となり生きよ…今、殺しのときだ

「ふはははははははははははは」
 まさにその腕を振ろうとした刹那。高笑いが響く。
(誰だ!?)
 ここで『何事だ』とは考えずに『誰だ』と言う辺り、敵の多い人生を歩んできた斑の発想と言えるだろう。
(どういうことだ? 確かにあの小僧との戦いに没頭していたが、それにしてもこうまで簡単に接近を許した事などかつてない。
 いや…むろん敵意のない物は別だが…敵ではないのか? だから…)
 その考えは無残にも破られる事になる。高笑いの主がシルエットを見せた。何かを振り上げて、そして振り下ろす。
「むぅん。粉砕バットぉぉぉぉぉぉっっ」
 言葉通りにバットが屋根を粉砕した。大きな穴があき破片が降り注ぐ。斑は自分の身を守る事を最優先して瑞樹への攻撃をやめて破片を叩き落す。
 その隙をついて男が降りてきた。バットを振り下ろす。
「ガードしろっ。ゴーストフェイスキラー」
 指示に従いゴーストフェイスキラーは腕を十字に組んでバットを受けとめる。
 出来るのならばバットを真剣白刃どりのようにつかんで、先に動いて反撃したかったが緩慢なゴーストフェイスキラーでは盾になるのが精一杯であった。
 男も一撃だけで離脱する。ちょうど斑と瑞樹の間に立つ。まるで瑞樹をかばっているようである。
「貴様…その姿は…………誰だ?」
 憎悪を隠そうともせずに斑は尋ねる。
 乱入した怪人は全身を野球のユニフォームで包んでいた。手はバッティング用の手袋で。マントを着けている。
 口元はマフラーが覆面のように覆い、目元は仮面があてがわれていた。頭は野球帽。素肌がまるで見えない。これでは正体などわからない。
 そう。かつて入学式で悪漢高校との小競り合いに割って入り先日は遊園地で迷える七瀬に助言を与えた男。その名は。
「ふふふっ。得体の知れぬ姿と言うなら貴様も同じ。こんな暗闇でもさらせぬ素顔。やましさゆえか。
 そんな輩に名乗るほど安っぽい名も持ち合わせてはいないが、閻魔に申し開きをする際に困ると言うのもまた不憫。耳の穴をかっぽじって聞くがよい。
 私は…地獄から来た愛の使者。野球忍者。ビッグ・ワン
 あまりと言えばあまりに奇妙。さすがの斑も動揺を隠せない。

 散り散りになって探していた一同。その廃工場は上条が見つけた。
「ここかもしれない。とりあえず連絡しよう」
 彼はあらかじめ用意していたメモ帳にその場所の住所を書き記し高く掲げる。やがてそれは手から消えた。

 もとの場所で待機している姫子。その元に姫神が戻ってきた。誰一人として携帯電話を持っていないので連絡手段として姫神が巡回していた。誰かが見つけたらそれを姫神に知らせる。そしてそれを全員に伝達するのが打ち合わせだった。
「他のみなさんは見つけていらっしゃらないご様子。そこだけなのかもしれませんわ」
 再び姫神は全員のところを回る。
 人一人を燃やす能力とその残虐な精神。単独で突っ込めば返り討ちの危険性もある。だから集結してからでないといけなかった。

「…野球忍者だと…ふざけている。だがその奇矯な行動。まるで正体を隠しているように取れるぞ。その少年の関係者か」
「ふっふっふ。正体不明と言う点では貴様もそうだ。だが一つわかっている事がある。それは…
 貴様は弱い。絶望的なまでに弱いと言うことだ。
 人は誰しも破壊の衝動を持っている。負の感情を抱いて生きている。全員がそれに従えばこの世は地獄だろう。だがそうならない。
 それはそうだ。誰しもそれを抑える事が出来る。それすら出来る貴様は弱い。果てしなく弱い。
 獣とて殺すのは自分が生きるため。食べる以上は殺さない。貴様はその畜生以下だ。『人間』が負ける道理などない」
「…言わせて置けば…邪魔だてするなら貴様も殺す」
「ふっ。できるか? 先程の勝負も貴様が特殊能力を持ってなければこの少年の勝ちだ。それを今、証明して見せよう」
 ビッグワンはまるでバッターボックスの打者のようにバットを立てて構える。足はやや広い。
(姿も行動もワケがわからん。うかつに近寄るのは危険。とりあえずは牽制だ)
 斑はスパークカッターエアスラッシュを見舞う。それをなんとビッグワンはバットで打ち返した。
「な…なんだと? ならばこっちはどうだ」
 今度は低い軌道のグライディンだ。それも難なく打ち返された。
「おのれ」
 斑は敢えてエアスラッシュを放つ。そしてそれを盾にして歩み寄る。打ち返している隙を突くつもりだ。
 ところが今度はビッグワンは足を高く上げて構えていた。そう。不世出の大打者。王貞治の一本足打法だ。
 ギリギリまで見据える。猛烈なスイングは強烈な打球を斑に向けて打ち返す。なまじ歩み寄っていたのでガードもブロッキングも出来ない。まともに食らう。
「ば…バカな!?」
 腹を抑えて蹲る。見下すようにビッグワンは言い放つ。
「言ったはずだ。貴様の技などひとつも通用せんと」
「ほざくな。飛び道具だけではないぞ」
 斑は飛んだ。壁に貼りつきそのままビッグワンを目掛けて飛んだ。
 瑞樹との戦いでは天井を経由していたので見せていない軌道だ。
 だがビッグワンはやはり一本足打法で今度は斑本人をふっとばす。
「ぐはあっ」
 5メートル吹っ飛ばされさらに4メートルは転がった。もっとも転がったのは間合いを取ったように見える。ビッグワンは芝居がかって説明する。
「先程の少年との闘いでは思いこみがどうとか言っていたが、それで同じ愚を犯すとはな。この一本足打法はもともとが相手を直接たたく技。飛び道具の打ち返しはおまけのような物。さて…今度はこちらから打って出るぞ」
 宣言通りビッグワンは走り出した。斑はしゃがんだまま。いや…ジャックナイフのためを作っている。
(ただ走るとは思えない。恐らくは立ちガード不可かしゃがみガード不可の二択を迫る技。そんな選択は無用。攻撃に転ずる前に蹴り上げてくれる)
 ところがそれを見越してかビッグワンは回りこんだ。例えるなら二塁ランナーがホームに突入してキャッチャーのタッチを掻い潜るようにだ。
 この技。『タッチアップ』は三択である。まず走り、そして立ちガード不能なスライディングかしゃがみガード不能なぶちかまし。そして攻撃はしないが背後へと掻い潜る…その三択だ。狙いは斑の技の後の隙。再び強烈な打撃を加える。吹っ飛ばされる斑。
(く…くそっ…レストレイションで破気を使いきっていなければ…溜める事もできぬし…)
 強力な大技の使えない状態。しかしそれはそこまで追い込んだ瑞樹を称えるべきであろう。
 そしてその戦いを引き継いだビッグワンがゆっくりと歩み寄る。斑はのろのろとたちあがる。間近に寄った野球忍者は宣告する。
「さぁ行くぞ。貴様のようなヤツに振舞うのはもったいないが篤と味わえ。わが最大の技」
 たちあがった斑に強烈な一撃。それが始まりだ。
「V9」
 技の名乗りをあげると続けてバットの攻撃が見舞われる。合計6回。
 スライディングのように足を払い体勢を崩してキャッチャーのブロックのようにはたきこむ。
 そしてとどめに壁に向って投げ飛ばした。
「ぐおっ」
 べちゃっと言う感じで壁にたたきつけられてずるりと落ちる。明かにビッグワンの勝利だ。

 そして廃工場の外。全員が集まってきた。
「上条」
「ここだ。なんだか凄い音がしている」
「よし。すぐに確かめに行こう。赤星がいたらみんなで助けよう。一対一は避けた方が良いな」
 7人はまとまって突入する。

 その様子は中の斑にもはっきりとわかった。
(なんてひどい1日だ…さらに人が来るだと…5…いや。6,7人か。まとめて消すのは手間だ。全体を見るのだ。ここは一時引くしかない。だが…ただ逃げるつもりはない)
「とどめだ。殺人鬼。この球を食らうがよい」
 ビッグワンはへたり落ちている斑目掛けて速球を投げる。
 だがじっとしていた事でジャンプする力を回復させた斑は、それを避けて天井を突き破り屋根に立つ。
 陽光が逆行になり見えづらい。いきなり工場の中も明るくなり所々に影が出来る。
「人がきたな…この場は貴様に預ける。だがいずれ殺す。その前に…小僧。貴様だけでも口を封じる。リトルデビル。あの小僧の喉元を熱して窒息死させろぉぉぉぉぉぉ
 自動操縦のリトルデビルがふわふわと瑞樹の影目掛けて近寄る。だが七瀬たちがこれには間に合った。
「瑞樹!!」
「ひどい…血まみれですわ」
「なんだ? あの頭だけの不気味なマリオネットは…」
「みーちゃんに近寄ってるよ」
「何かやばい。スクリュードライバー」
 真理のガンズンローゼスが瑞樹を吊り上げて手繰り寄せる。すぐさま七瀬が傷の治療。綾那が体力の補給に掛かる。寄ってくるリトルデビルのほうには榊原が向かった。
「気味が悪いぜ。頭だけでふよふよ浮かんでて。まるで…」
「RXとの最後の戦いでボディを自爆させたガテゾーンと言うところかい」
 心配していた瑞樹が無事だったので軽口をたたく上条。負傷や消耗は治せるので心配しなくなっていた。台詞をじゃまされて苦虫を噛み潰した表情の榊原。
「人魂といいたかったんだよ。見た目も髑髏だしな。ぶちのめすのに遠慮は要らないな」
 言うなり猛烈に拳を繰り出す。だが逆に榊原の両手の拳から血が吹き出した。
「カズ!?」
「…な…なんて堅いマリオネットだ…砕けたのは俺の自信の方だ。パワーはあるマリオネットなのに…まずい。こいつはあくまでも赤星を狙っている。標的を消すまで行動を止めない」
 影が狙われていると気がつくには少し動揺が大きすぎた。だが
「だったら『標的がいなくなれば』いいんだな」
 体力を回復した瑞樹がいつものように自信たっぷりに言う。
「赤星。無事だったか。だが…」
「あの男…斑信二郎は『あの小僧』と命令していた。なら俺が…小僧じゃなくなりゃいいのさ
 言うなり瑞樹は水溜りにヘッドスライディングをする。たちまち少女の体へと変貌する。
 その途端にリトルデビルはさ迷い始める。目標を見失った…そんな感じに見えた。
「なるほど。男の瑞樹さんを追いかけていたから、女の子になられたので見失ったのですね」
 やがて斑が射程距離を超えて逃げたのでリトルデビルは目的遂行前に消失した。
 危機は去った。

 とりあえず走り去ったと見せかけて下水道をよろよろと歩く。休みつつなので百メートル行くのに十五分程度を擁した。
 逆にいえばそれだけの時間が経てば『始末』して帰ってくるはずだった。だが実際は
(な…なんだと!? 『失敗』だと…私はリトルデビルが相手をしとめた場合、その証拠として衣服の一部を持ってこさせるが手ぶらだと?
 あの小僧は生きている…戻ってとどめを刺すか…いや…ここは危険だ。そこまでの危険を冒すのは『趣味』の範疇ではない。今は消える。それしかない)
 再び斑は逃亡を開始した。

 戦いの後。助けてくれたビッグワンに歩み寄るみずき。右手を差し出す。
「助けてくれてありがとう。え…と…」
「ビッグワンだ。野球忍者。ビッグワンだ。少女よ」
「いや…こんな姿で実際に女だけど…オレ…本当は…」
 恥ずかしそうにみずきは言葉をつむぐ。
「ふっ。すまない。例え見かけはどうあれお前の内なる炎は確かに男の熱さ。それを感じた。しかし少年。それだけではいかん。激情に駆られてるだけではな。『明鏡止水』の心。今のお前に必要なのはそれだ」
(えっ? それっておじさまの…)
「さらばだ少年。ふはははははははは」
 マントを翻して両手をヘリコプターのように回転させて上昇して屋根から立ち去って行ったビッグワン。それを見て姫子は
「やはり正義の味方は普通では勤まりませんのね…」とポツリと言った。
「なんなんだ? あいつは?」
 初めて見る真理はすっかりビビっている。
「わからない。だが敵ではないらしい。そして敵…ゆかりを殺したやつの名前はわかった」
 ごくりと息を呑む一同。まったくの正体不明が一部だけでもわかるからだ。
「斑信二郎。それが…ゆかりの仇の名前だ」
 一同は沈黙してしまう。とてもではないが食事会と言う雰囲気ではなかった。

 人影のないところに移動してビッグワンは仮面を外す。覆面を取り野球帽を取る。その顔は赤星みずきの父。秀樹だった。
(友だちに感謝するんだぞ。瑞樹。偶然と言えど彼が予知してくれなかったら私が割ってはいる事は出来なかった。
 それにしても強くなったな…瑞枝はそのまま女の子になることを期待して女子としての通学を支持した。
 私も女になってしまったほうが楽と思い慣れさせるつもりでいたが、逆に『男でありたい』と思うからあそこまで強くなったか。
 体のハンディを超えてそうまで男に拘るのは七瀬くんのためかな)
 喫茶店マスターとは仮の姿。本当の職業は警視庁秘密捜査官であった。
 だがその仕事は仲間内以外では瑞枝しか知らない。警察関係者にも彼は退職した警官と言う認識をされているが表向きの話である。
 そう見せかけて仮の仕事をしながら凶悪犯罪者を倒す任務についていた。
 だがその素顔はあくまで極秘。故に彼は情報漏洩を嫌い逮捕した人間にも素顔を見せない。そのための扮装でありまたそういう格闘スタイルゆえの扮装でもある。やたらに変な行動は正体をぼかすためだ。
 彼は普段着に戻ると雑踏に紛れて岐路につく。

 夜。ビルの陰。ちんぴら達が髭の男を袋叩きにしている。髭の男は無抵抗のまま倒された…かに見えた。その体が光り髭の男…斑信二郎が無傷で立ち上がってきた。
「ありがとう。ゲスなお前らだが体力回復の役には立ったよ」
 敢えて因縁をつけて殴らせレストレイションを発動させる目的はすんなりと行った。瑞樹と戦う前の体に戻る。
「や…野郎…ふざけやがって」
「御礼に苦しまずに殺してあげよう」
 突っ込んできたチンピラにカウンターでゴーストフェイスキラーの両腕がそれぞれのあばらを砕き肺に突き刺す。
 悶絶する二人の首を一瞬でゴーストフェイスキラーはへし折り絶命させる。
「わあああああっ」
 残る一人は恐怖から逃げ出す物のあっさりスパークカッターを食らい転倒した所を燃やされた。
 残りの二人も順次消された。
(……こんなチンピラを殺して晴れる屈辱ではない。今度あったら必ず殺す。あの小僧…そしてビッグワン。正義だと。虫唾が走る)
 斑は家を出たときの服に戻るためにコインロッカーへと移動する。散々な『休日』だった。

 そして一学期の終業式。通知表の手渡し。
「上条くぅん。追試なんとかなったよォ。これで旅行に行けるね」
「わかったから抱きつくな…若葉…暑い…」
「続いて女子。赤星」
「はい」
 みずきから順に教壇に並ぶ。だがなかなか担任は通知表を手渡そうとしない。じっと見ている。
「やっだぁ先生。あたしがいくら可愛いからってそんな見つめないでくださぁい(うげ。俺もカオスも気持ち悪い)」
「ア…ああ。すまない(どう見ても女だな…実はこっちが男かと考えたが…われながら馬鹿馬鹿しい考えだ)」
 夏服で薄着のブラウスの胸元はこれ以上なく女を強調したふくらみだった。

 互いに宿敵がこんなに近いところにいるとは知らず6週間に及ぶ長い休みに突入する。


次回予告

 ピッチャー赤星瑞樹。キャッチャー赤星秀樹。ファースト村上真理。セカンド北條姫子。サード上条明。ショート若葉綾那。レフト榊原和彦。センター風間十郎太。ライト及川七瀬。
 これでまともな野球になるのかぁ。対戦相手のチームも曲者揃い。
 前代未聞の珍プレーの続出
 次回PanicPanic第13話「素晴らしきベースボール」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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