第14話『センチメンタルジャーニー』Part2   Part1に戻る

 バスターミナル。そこには『福岡ドーム直行臨時バス運行中』と横断幕が。
「判りやすくていいな。ガイドブック要らずだぜ」
 真理が言うとおりであった。順番待ちにははっぴを着たりメガホンを持っている一団がいた。当然だが大半はホークスファン。
 余談だが瑞樹はヤクルト。上条は巨人のファンであった。セの話ならパには関係ないがなんとなく話しづらかった。
 十分おきに出るバスは効率良く客を運ぶ。やがて瑞樹たちが乗る番になった。動き出す。
「考えてみれば回数券でも買えば安く上がったかな?」
「11枚じゃ半端だぜ」
「それもそーか」

 博多の町並みを横目にバスは走る。さすがに八人が驚いたのは『料金所』を通過したことだ。
「こんなとこ通るの?」
 海のそばを走りやがて古代ローマの闘技場にも似た福岡ドームが見えてきた。
 バスは目的地に到着した。上条が東京ドームとつい比較していた。
「(東京)ドームは(後楽園球場そばにあった競輪場跡を利用した)ああいう場所だから電車が主体だけど(あとから交通機関まで考えて造られた)福岡(ドーム)はバス主体みたいだね。ここもまるでバスターミナルだよ」
「そりゃここへ来たときのを思えばねぇ」

 福岡ドーム。日本唯一の開閉式ドーム球場。福岡ダイエーホークスの本拠地。そこの大きな階段の前に八人はいた。
「大きいわね」
「これだと『東京ドーム』がすっぽり入りそうだな…」
 球場は賑わいを見せていた。夏休みということもありさすがに親子連れが多い。チケット売り場は長蛇の列であった。
「あれに並ぶ羽目にならなくて良かったよ。まして福岡まで来ておきながらチケット売り切れじゃばかばかしいし」
 瑞樹は東京から持参したチケットを出してみる。さすがに福岡までくることなどめったにあるまいからと奮発してバックネット裏である。
「まさか東京でも買えるとは思わなかったなぁ。インターネットができるならオンラインショップもあったかもね。そうすりゃお店にすら行かなくてもチケットが手に入るし」
「ほほう。イントラネットとは便利なものでござるな」
「風間…まったく違うならともかくそれだと別の意味になるからまずいぞ」

「あっつーい」
 綾那が言うとおりであった。上天気だったのに曇ってきた。蒸し暑くなってきたのだ。
「どうする? もう入る?」
「せっかくだからいろいろ見たいよ。たとえば…あの『ドームミュージアム』なんてどう?」

「なんか(東京ドーム内の)『野球体育博物館』みたいだな」
 率直な感想が口をつく上条だが他は『野球体育博物館』に行ったことがないので判らない。
 ここではホークスの関連のものが展示してある。
「わぁー。ユニフォームも変わってるんだね。シマシマのだったんだ。こっちの緑色のは…『NANKAI』…???『ダイエー』じゃないの」
「ああ。もともとは大阪のチームだったんだけど福岡にやってきたんだ。反対に福岡にいたチームが埼玉に移ったのが今日の相手のライオンズ」
「へぇー」
 声は傍らの綾那以外からも聞こえた。別の声の主のほうを見ると瑞樹たち。
「なんだよ。君達まで」
「いや…お前が詳しいのってマンガとアニメと特撮だけかと思ってた…」
「おいおい。ひどいな…ゲームにも強いぞ」
「ハイハイ…」
「まったくみんな偏見で僕を見て…あ――――――――ッッッッッッ。あぶさんのバットだ」
 『南海』の主砲。門田のバットと並んで野球コミック『あぶさん』の主人公。影浦安武が使っていると言う設定の『物干し竿』と呼ばれる長いバットも展示されていた。上条は飛んでいった。
 余談だが『南海ホークスファンブック』の選手名鑑の外野手部門では影浦安武の名前も載っている。
「どう見てもマンガ一筋だよなぁ…」
 一通り見てからあとにする。

 好きな人となると開場と同時に入場して練習の様子から見ていたりする。だがたいていはホームチーム(この場合はホークス)が開場より先に打撃練習を終えてしまう。人気のない集中できる環境で行うためか。
 皮肉にも地元ファンほどひいきチームの打撃練習が見られないのである。
 また遠征チームが不利かと言うとそうでもない。球場そばを宿舎とするケースが多いのでナイターの後でもゆっくりしてられるが、地元だと自宅から来るのでこれが意外に本拠地から遠いのでけっこう早い時間に行動開始を余儀なくされたりしていた。閑話休題。
 瑞樹たちのは観光の一環なのでそれほど熱心な野球観戦のつもりもなかったが、さすがにプレイボールには間に合わせた。
「良し。いくか」
 妙に身構えて上条がドームの扉を通過するが拍子抜けした表情になる。
「あれ? 耳に圧力が来るはずなのに…」
 それは空気圧でエアドームを持ち上げている東京ドームならではの話。
 福岡ドームも大阪ドームも普通の建物といっしょである。福岡に至っては屋根のない状態にするくらいなのだし。

 バックネット裏の指定席に来る。上条がきょろきょろと辺りを見まわす。上条だけではなくみんなもだ。
「おっかしいなぁ。せっかくだから野球を見ながら食事のとれるスポーツバーにも行って見たかったのに」
「上条。あれではないのか?」
 榊原が指差すのは外野側の窓。いわれて見るとそれらしい。
「嘘だろ!? いかにも豪華な施設だから最低でも内野A(東京ドームの言い方)かと思ってこんな高いチケットにしたのに外野の方なの…」
 上条はへたり込んだ。楽しみだったようだ。

 指定席につきみんなはライオンズの打撃練習やホークスの守備練習を見ていた。姫子はずっと上を見ていたが天井は閉じたままだ。ようやく諦めたかみんなのほうに向き直る。
「今日は曇っていたから雨が降るのを予想して閉めているのかもしれませんね」
「うーん。一回の開け閉めでとんでもない金額がかかるから閉めっぱなしとも聞くけど…」
「でも残念ですわ。動く天井。見てみたかったですわ」

 試合は白熱していた。ライオンズが足をからめてノーヒットで先制すれば、ホークスは豪快な一発攻勢で逆転。
 それをライオンズが機動力で追いつき、両軍の先発投手が気迫の投球で最終回まで投げぬき、結果は引き分けだったが満足の行く試合であった。
「しかし凄いな。この声援」
「西武…いや。西鉄に逃げられてるからだろ」
「正確にはそのときはクラウンライターだけどね」
「でもびっくりしたね。あの風船」
「当たり前のことなのでござろうな。係りの者が身構えておるところを見ると」
 七回の裏。ホークスのラッキー7で応援歌がかかると大合唱。そしてジェット風船が飛び交う。
 更にあらかじめグラウンドに係員が整列して、拾い集め始めていた準備のよさにはみんな感心していた。
「さて。腹も減ったし。もうひとつのお目当て。屋台街へ行こうか」

 あまりうるさいから榊原の希望通りに『中州』へ立ち寄って見たが、いきなりしつこい客引きにつかまり振り切るのに一苦労だった。
 これを理由に榊原には中州をあきらめさせた。榊原自身も酒がまったくだめなこともあり(全員高校生なのだからもちろんだめだが)すなおにみんなで屋台街へと出向いた。
 そして…絶句。
「凄い…」
「どのくらい出ているんだろう…右を見ても左を見ても屋台で埋め尽くされてる」
 まさしくそのとおり。壮観な眺めであった。
「これだけ多いとどこで飲んだものだか」
「村上。高校生の俺たちが飲酒なんていかんぞ」
「あんたはタバコに博打。女遊びまでやるくせに酒だけはうるさいな…」
「でもおそばの屋台さんもあるようですからお食事だけでもよろしいのでは?」
「ウーム。それにしてもどこがいいんだろう」
「それならあの辺はどうかな」
 いきなり聞きなれない声がしたので一同は驚く。ただし上条の驚きは違っていた。
「大久さん!? どうしてここで?」
 声の主は上条の父。上条繁の同僚の大久刑事であった。旅先で会うとは思ってなかったゆえに驚いた。
「久しぶりだね。明くん」
「ご無沙汰してます。帰省ですか?」
「ん…ああ。そうなんだ。これから友人と呑みに行くところでね」
 これは嘘…と言うか方便である。
 福岡出身は事実だが、管轄で起きた事件の関係で出張してきたのである。
 もちろんやたらに吹聴できることではないので、お盆と言うこともあり帰省で話を合わせた。
 大久刑事からガイドされて彼らは歩く。

「お!? 君は確か赤星くん」
 歩いていると後方から今度は瑞樹が呼びとめられた。立ち止まって振り返ると屋台のいすから長身の男が立ち上がった。丸めがね。
「あ。いつかの名古屋の先生」
 これは思いがけない再会だった。出身とは聞いていたが。更に屋台からもう一人が半身を乗り出して声をかけてくる。
「どうしました。阿利さん」
「ああ井之上さん。東京での私の患者さんとばったりでして」
「へぇ。奇遇ですね」
 連れと思しき人物に今度は七瀬も見覚えがあった。
「あっ。いつもの駅員さん」
「おや。なんとお客さん達でしたか」
 二人ともだいぶ口調が怪しいし顔も赤い。
「先生…酔ってるでしょう」
「だいじょーぶ」
 酔っ払いの『大丈夫』ほど人を不安にさせるものもないような…
「まぁちょっとワインを五本ほど飲んでいるけど大丈夫。オレンジの箱で酔いを醒ましてから帰れば」
「阿利さん。ここは博多。中央線は走ってませんって」
 言って二人で大笑いする。妙な盛り上がり方をしている。
「まぁまぁ井之上さん。せっかく熊本に行ってたのこっちに呼びつけちゃったんですから一杯おごらせてくださいよ」
 また上機嫌で酒を酌み交わす。
「うぅむ。酔っ払いの話には脈絡と言うものがないでござるな」
 また呑み始めてしまったので立ち去ることにした。
「しかし博多で東京で知り合った人間に合うかね…」

 教えられた店は屋台の天ぷら屋であった。
「確かに…珍しいな。話の種に」
 もちろん八人も入れないから四人は別に出ているテーブルに陣取る。十郎太。姫子。榊原。真理はテーブル組だ。
「わっ。上条くん。『ふく』の天ぷらだって。どんなんだろ。お洋服の天ぷらって」
「…若葉…本気で言ってるだろ…」
 突っ込んだのは瑞樹だった。
「お嬢ちゃん。こっちのほうじゃ『河豚』のことを『ふく』って言うんですよ」
「え? そうなの」
 主に言われて赤面する綾那。
「でもふぐの天ぷらなんてのも珍しいね。頂きましょう。えーっと他には」
「ふくほど珍しくはないけど話の種に豚の天ぷらなんていかがです?」
「ではそれも」
 注文をしたら七瀬が何か考えていた表情をしていた。
「じゃそれ…七瀬。何考えこんでんだ」
「うーん。豚の天ぷらをどんぶりご飯に乗せたらそれってカツ丼なのかしら? 天丼なのかしら?」
「さ…さぁなぁ…」
 珍しく七瀬がボケたせいか突っ込みにも切れのない瑞樹。
「ボクねアイスの天ぷらー」
「さすがにないって…」

 珍しいものを見て周っていた。天神に戻っていたのであるが今度は上条がうるさかった。
「へぇー。こっちにもメイトできたんだ。ちょっと見ていかない? 地元限定グッズがあるかもだし」とか
「わっ。渋谷や新宿。アキバだけじゃなくこんなとこにもコスプレショップが」
「同人誌の店だ。これこそ地元限定が」
「同人誌なんて『トレス』で山ほど買えるんだろ。ほら行くぞ」
 真理に顔面を鷲掴みにされて引き離されていった。

 天ぷらや鍋の屋台にとどまらずなんと屋台のバーを見つけた。ご丁寧に主と思しき人物はバーテンダースタイルだった。
「お。おもしろいじゃん。よってこうぜ」
「僕のときは無理やり引き離したのに…」
 しかし真理をとめるのは一苦労だし実際に興味があったので付き合うことにした。

 屋台のそばにはテーブルを出してあるが誰もいない。ただ中年女性が片付けをしているのでたった今立ち去ったと言うところであろうか。かなり運がよいことになる。
 今度は反対に榊原。真理。十郎太。姫子が屋台で残りがテーブルであった。屋台には二人ほど先客はいたがそれでも入るのに問題はない。
「いらっしゃ…?」
 主は考えた。姫子を見る限り高校生ではないかと…だが榊原の老け顔が物を言い(真理の雰囲気もだが)店主は何も言わないことにした。突き出し(お通し)が出される。
「カクテルの店でキュウリぃ?」
 真理が怪訝な表情をするが和風のもので安心した十郎太が毒見をかねて食べる。
「やや辛いがうまいでござるよ」
「そういうことは早く言ってくれ…おじさん。水。水」
 まるで辛いものが駄目なのにうっかり口にしてしまったらしい瑞樹が慌てて水を求めてやってきた。主は水を差し出す。二杯も飲んだかやっと落ち着いた瑞樹。それがテーブルに戻ってから主が尋ねる。
「ご注文は?」
「ギムレットを頼むよ」
「ウチのは辛いよ」
「上等。そうでなくっちゃ」
 舌なめずりをしかねないほどにこにこした表情の真理である。
「拙者は酒はけっこうでござる。護衛でござるからな」
「まぁまぁ。よろしいじゃありませんか。屋台でのバーなんてとても珍しいですわ。せっかくですから…」
 護衛対象の自覚ゼロの姫子のコメントである。
「おっちゃん。カルアミルクあるかい? あの子にはそれ。こっちの目のとんがってるやつには焼酎か日本酒。とにかく和風で。こいつ(榊原)は…下戸だからコーラでもだしといてよ」
「鍋の煮え具合をしきるのを鍋奉行って言うが…こういうのは酒奉行とでも言うのか?」
 榊原は下戸なのでこんなときは子供扱いされたようで不満であった。
「あんた。テーブルのお客さん。フローズン入ったよ。ちょうど四人だし」

 これも何かの縁かと先客二人にも話し掛ける。
「しかしみなさん。ラッキーでしたよ。いつもここは満杯なんですけどたまたまさっきまとめて帰って」
「『いつも』ってことはよくくんの? 地元?」
「出身はね。今は池袋にすんでいるけど」
 軽くこけた。
「な…なんで遠く福岡の地で池袋の人間に出くわすかな…」
「俺も東京だよ」
「まぁ奇遇ですわね。こちらにはお仕事ですか」
「仕事は流しのおもちゃ屋兼警備員。そしてエッセイなんかを書いている。そういや『るり子SOS』止まってるな…まぁよいか。レスもつかんし」
 エッセイストはなんとなくけだるくやる気のない様子で言う。

 テーブル組。この中では純正の男(?)のせいか上条が一番強かった。三杯目に入る。
「はい。おまちどおさま」
「XYZか…危険な名前のカクテルだ。騒動でも起きようとしているのかな」
 気取った口調から何かを真似しているとはわかっていたが突っ込む気にはなれなかった。それより屋台のほうの笑い声が気になる。
「何だか知らない人と盛り上がってるみたいね」

 真理とエッセイストは意気投合していた。
「あんたたち気に入ったよ。よし。おれが一杯おごろう」
「え? ホント。それじゃサンライズ…」
 しかし意外にもエッセイストはさまざまなカクテルを頼んだ後で、シェーカーを借りてそれを混ぜ合わせてしまった。
「お待ち。名づけてブリザードプリンセス」
「う…」
 さすがの真理も言葉を失う。カクテルの透明感はなくにごっていた。どろっとした舌触りが容易に想像できた。
「村上。乗せたのはおまえだからな…責任持って飲み干せよ」
 正論ゆえに何も言い返せない。意を決して呑む。
 アルコールの度数はともかくやはりその舌触りが…それでも酒飲みの仁義とでも言うかきちっと飲み干した。
「いい呑みっぷりだな。そっちの三人は酒が駄目みたいだしみんな飲んでいいぜ」
「いやあ…お気持ちだけ…」
 さすがの真理も悪酔いしそうであった。

「うぇー。ちゃんぽんそのもの。さすがに参った…」
 タフで鳴らす真理も唸るほどだからその破壊力は相当のものだった。
「大丈夫ですか? 真理さん」
「うーん…ちょっと口直しが…」
「じゃ呑んだあとの定番でラーメンなんてどう?」
 上条が提案する。こっちもしたたかに酔っている。
「えー。これでラーメンまで食べたら太っちゃって…」
といっていた七瀬だったが付き合いで長浜ラーメンを一口食べたとたん
「うそ。とんこつなんて言うから油ギラギラと想像していたのになんてあっさりしてるのかしら。美味しい。きゃー。レシピ欲しい」
「…こんなときまで主婦してるなよ…でも実際うまいな」
 博多の夜はふけて行く。

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