第14話『センチメンタルジャーニー』Part5   Part4に戻る

 旅行も終盤に来ていた。最後は博多から新幹線での帰京。実質最後に回る場所。それがこの大分であった。一行は『地獄巡り』をしていた。
 前日は快晴。海水浴もした。もうみずきは旅行中に男に戻るのは諦めていた。中途半端はしないということで徹底していた。
 この日は半そでのライムグリーンのブラウスにピンクのミニスカート。ファッションベルトがウェストの細さを強調していた。
 足元はサンダルである。面白がって真理が足の爪を塗ったりする。もちろん顔も塗っていたが旅の恥は掻き捨てとなすがままになっていた。
 だいぶ女の習慣に抵抗のなくなったのは女の子として二日続けて女部屋で寝ていたせいか。あるいは続けて女でいたせいか。
 考えて見ればこの夏で半分女で1年過ごしたことになる。どこからどう見ても少女である。間違っても『実は男』と感づくものなどあるまい。

「この際割りきっちゃえばこの格好も涼しくていいや」
「確かに…男でも肩やスネを出しても法には触れないが俺が許さん。
 赤星もどうせ出すなら筋張った肩や毛だらけの足よりすべすべの綺麗な肌のほうがいいだろう」
「オヤジは何を力説してんだか…」
 拳を握り締める榊原を横目で真理が見ている。
「おれ割りと頭以外の毛は薄いよ。だから中学でも女に間違われていたし」
 元々がボブカットに近い髪型の上に男と思えないほどさらさらの髪だったのも手伝って、私服のときは少女と思われることがままあった。
 そのため昔から女っぽいものを嫌っていたのに現在ではこの有様である。
「今日はこの地獄巡りか。と言うと竜巻地獄や砂地獄。宇宙地獄やワニ地獄なんてのがあるのかな」
 話題を変える意図か上条が切り出す。
「ワニならそこにいるだろう。何せワニ地獄ってくらいだし」
「ええっ。でもスニゲーターいない…」
「バカ言ってるとワニのえさにするぜ」
 ここは鬼山地獄。またの名をワニ地獄だった。なんと150頭ものワニが飼育されていた。温暖な気候があうのだろうか。
 一行はそれぞれの『地獄』を楽しんでいた。
 コバルトブルーの美しい「海地獄」
 ほとんど動物園の「山地獄」
 カマド地獄でランチタイム。坊主。白池。金竜地獄と見て回る。
「しかし一条さん。なんだか効率の悪い回り方ですね」
「誰だよ。一条って? 気の向くままに回っていたらこうなったんだよ。さぁ。バスが来たぞ」
 あと二つの地獄(温泉)はバスか車でないとちょっと移動がつらいと言うことでバスを待っていた。

 どちらを先に見るかとなりまず『龍巻地獄』を見ようとなったが時間が空く。そこで血の池地獄を見ることにした。
「むぅ。まさしく血の色でござるな。おそろしや。悪行を為せばこのような地獄に落ちる」
「でもここのはお薬になるようですわ」
 皸などに効能のある軟膏として売っていた。時間が来たと言うことで最後の竜巻地獄を見に移動。

 竜巻地獄。25〜30ごとに間欠泉が吹き上がる。そのためか別府地獄巡りでも格段の人気を誇っていた。
「アシュラマンいたりして」
 なんて言う上条を無視してみんな前へ行こうとする。『動き』があるためか人気で人だかりができていた。
「ごめんなさーい。ちょっと前失礼しまーす」
 体の小さいのを利用して器用にすりぬけてみずきは前に出る。女のそばだと体を触ると(現時点では同性でも)面倒なので男のそばを通る様にしていた。
 その際に意識してないが胸元が相手に当たるが誰も文句はつけてこない。最前列に出るのに成功した。よく見える。
 (だんだん…『女の武器』使うようになってきたわね…)
 七瀬が心中でため息をつく。彼女は大柄の部類に入るので前に出るようなまねはしなかった。
「そろそろですよ」
 係員が愛想よく言うとみんな身を乗り出す。カメラを構えるものもいる。ごぼごぼっと音がしたかと思うと噴水のように温泉が。
「おおーっ」
 見物客から感嘆の声が上がる。
「まさに竜巻でござる」
 勢いよく噴出する。その迫力にみずきもつい前に出る。だが噴出した間欠泉は天井の役割になっている岩に当たり飛び散る。運悪くそのしぶきがみずきを直撃した。
「熱ゃー――――――っ」
 まさしく飛びあがるがそれだけではない。その姿で男に戻ってしまったのだ。女のウェストに合わせて絞めたベルトのままで…
「ぐ…ぐるじぃー――っ」
「あのバカ!!」
 みずきの悲鳴が途中から男声になっていたことから事態を察知した真理は『ガンズン・ローゼス』を出現させる。
『スクリュードライバー』
 一本釣りのように瑞樹を釣り上げるとそのまま一団で逃げた。

 物影に隠れると瑞樹は慌ててベルトを緩めた。
「あーっっっ死ぬかと思った」
「もう…バカ」
 火傷を治しながら七瀬が言う。鹿児島では疲労などから治癒力が戻ってなかったが<みずきが女で固定していて肌の状態が落ち着いたこともあり以前のような事態にはならなかった。
 今の火傷とともに日焼けの傷みも治された。
「さて…どこで水を調達しようか」
「せっかく男に戻ったんだ。トイレかどっかで着替えるよ」
「せめて宿まで待たないか?」
「やだ。こんなに長いこと女になっていたんだ。もう戻りたいよ」
「トイレを使うのはいいけどさ…どっちに入るんだ? 『女装』した状態で。メイクもしてるしなんとか女子用には入れても出るとき大変だぞ。
アタイ達が見張ってあげててもいいけど、他の観光客が入ってくるのは邪魔できないし」
「う…」
 どう考えてもここで男に戻るよりもう一度女になった方が手っ取り早いと考えがまとまった瑞樹は、しぶしぶもう一度女になることにした。
 上条が自動販売機でミネラルウォーターを買ってきた。それを受け取り頭から浴びた。
「はいはい。化粧直しもしなくちゃね」
 すでにメーキャップセットを開いている真理であった。すんなりと目を閉じ顔を向けるみずき。化粧にも抵抗がなくなってきていた。

 大分。最後の宿泊地は旅館であった。部屋に案内されるや否やみずきは着替えを持って女子部屋の部屋風呂に飛びこむ。女物は脱ぎ散らかしていた。
「もう。いくら男でもだらしないよ」
 とか言いつつ脱いだものを片っ端からたたんで行く七瀬。聞いているのかいないのか勢いよいシャワーの音。いい香りがする。
「あら? お部屋のお風呂も温泉ですか? まぁ素敵ですわぁ」
「へっへっへ。でもせっかくだから外がいいぜ。今夜は晴れるみたいだし露天風呂と言うのは最高かもな」
 おっさんじみている真理。だが異論はなかった。扉をノックする音。開けると
「ようこそいらっしゃいました」
 仲居が挨拶に来た。通り一遍の挨拶を済ますと初めて部屋風呂に話題を移す。
「あら? 早速お風呂ですか」
「あ…の娘はちょっと汗を掻いちゃったから」
 この部屋には女しかいないはずだからごまかしに掛かる七瀬。もっとも別に男が入っていても関知しないと言うものだが。
「そうですか。でも外のお風呂もいいですよ。ただ…」
「ただ?」
「混浴なんですけどね」
「え?」
 固まったのは少女達だけでなく瑞樹もだ。出ようと思ったら仲居が来たので出られなかったので話を聞いていたが。

 仲居が去ったのを教えられると瑞樹は男部屋へと移動する。
「おい。聞いたかよ。ここの風呂は混浴…」
「ぐへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「…とっくに聞いてたみたいだな」
 普段のダンディぶりはどこへやら。だらしなく『おっさんそのもの』のイヤらしい笑いを浮かべる榊原である。
「どうする?」
「好都合でござるよ。仕切りがないならいち早く姫のもとにはせ参じることができるでござる。それに不貞の輩が供に入るとあらばなおさら御側でお守りせねば」
「護衛らしい意見だな…榊原…は聞くだけ無駄か。上条は」
「いいんじゃない。どうせ人の目があるから変なことはできないし。何かイベントあるかもね」
「…なんだよイベントって…うーん。おれはどーせ普段から(自分の体で)女の裸には慣れてるけどあいつ等は…」

 女部屋。混浴と知った少女達は露天風呂を諦めるとこまで考えたが、困ったことに旅館のガイドにある露天風呂の作りは凝っていて興味を引く物であった。
「水着ではいるってのはどう?」
「ジャグジーじゃねーんだ。こうなったら度胸決めようぜ。みんなで固まってりゃ平気だろ。それに中には女もいるわけだし。そっちに紛れりゃ」
 真理の強引な展開で決着はついた。

 夜。豪華な食事を楽しんでいた。ほとんど最終日なのにこれまでを振り返らないのはまだひとつ残っているからか。
「カズ。そりゃ」
「……だから…高校生が酒飲んでいいのかよ。ちゃっかり注文しやがって」
 宿帳には真理と榊原が大学生(当然二十歳過ぎ)と記帳してあった。やはり高校生の一団では…と言うわけではなくこうしておかないと酒の注文ができないからである。
 ちなみに上条は「上条Q太郎」と記帳しかけたが止められた。
「なぁにぃ、アタイの酒が飲めないって?」
「ほとんどフォルテさんだな。村上」
「わぁ美味しい茶碗蒸。レシピは」
「こっちはミルフィーだし」
 などと上条が言っている内に押し切られて一口呑まされた。口当たりのよさに次は断らなかった。気がつけば4合は呑まされていた。
「ぎもぢわるい…」
「しっかりしろ。こんな所で吐くんじゃない」
 完璧につぶされた。上条と十郎太は二人掛りで部屋へと担いで行く。薦めた時点で意図を見抜いていた瑞樹は苦笑する。
「えげつないなぁ…いくら来られたくないからって」
 真理は笑顔でVサインを出す。酔い潰しが榊原を混浴風呂に入れないためなのは言うまでもない。
「なぁに。明日の朝にでもゆっくり入ってくれ。あんまり長引くなら姫に後から(姫神で)酒を抜かせに行くから。さぁ。アタイらは露天風呂に行くぞ」
 意気揚揚と浴衣姿で闊歩する真理の後姿をみながら同じ浴衣姿の3人娘がつぶやく。
「真理ちゃん凄いね」
「そうね…榊原くんを潰すためにとは言えど付き合って呑んでたのに徳利が五つ…」
「お一人で一升を飲まれてしまわれましたわ」
 噂の主が立ち止まる。3人娘の傍らにいた瑞樹に向けて言う。
「赤星。あんたなら(学校で水泳の授業などが一緒だから)いいぜ」
 その口調もまるでしらふと変わらない。ただ頬がほんのりと桜色で白い地肌と相俟って色っぽかった。

 混浴とは言えど脱衣所は別々である。結局、十郎太に頼まれ姫子の護衛の意味でも瑞樹は混浴風呂に付き合う。
 男モードなので脱ぐのに手間は掛からない。だがなかなか七瀬達は来ない。
(やっぱり恥ずかしいのかな…あれ?)
 瑞樹はどこからか聞こえてくる綺麗な歌声に興味を引かれた。

 少女達はさすがに躊躇していた。仲間で固まっていたこともあるし物珍しさもあり脱衣所までは来た。
 ここまでは普通の温泉と変わらない。しかしこの中には堂々と男がいるのだ。その前に裸体をさらすのはさすがにためらった。
 まだバスタオルを体に巻きつけている。だが
「綺麗な歌声ですわ」
「ありゃ女だな。よし。いっしょにさせてもらおうぜ。女ばかりなら女湯とかわんないし」
「そ…そうね…そうしましょ」
 意見が一致した。少女達は滑る床にもかかわらず足早に移動する。

(ありゃ? さすがに恥ずかしいか。どこへ…あの歌声のほうだ)
 瑞樹は放っておくことにした。下手に出向くと自分が七瀬達を覗く形になる。

 綺麗な歌声は続いていた。そっちにいるのは女と決めつけていた五人の少女は硬直した。
 岩を背に気持ちよさそうに歌っていたのはどう見ても青年だったのだ。青年もいつのまにか娘達に囲まれて驚いていた。
「あ…混浴だったな…ここ…でも君達がここがいいなら僕が移動するりゅん。ここなら確かに影になってて見られにくいしね」
 あくまで善意の発現だがそのまま湯船から出ようとしたのがまずかった。湯船に沈んでいた下半身が見えかかる。
「え?」
 動揺してバスタオルを抑えていた手が揺るみ、その豊かな母性的な胸を見ず知らずの男の前にさらしてしまった。それに気がついた七瀬は殊更甲高い悲鳴を上げる。

「な…なんだっ!?」
 さすがにそれを聞いては瑞樹ものんきに構えてられない。湯舟から出ると洗い場で人前だと言うのに水を被り女になると駆け出す。
 それを見ていた別の客は酔いの抜けない顔でボソッと言った。
「ひどい酔っ払いぶりだな…男が女に見えた…いや。女が男に見えていたのかな…ここ混浴だし…出よ出よ」

「どうしました。司令!?」
 駆け付けたのはみずきだけではない。金髪の美しい女性がバスタオルを体に巻きつけた状態で来た。だが悲鳴を上げたのが目前の少女と知ると
「司令?」
「ご…誤解だ。パーネル。僕は何もしてないりゅん」
「七瀬ぇぇぇぇぇぇ」
 修羅場をややこしくする甲高い声が近づいてくる。だが逆にそれがよかった。みずきが岩場で足を滑らせ湯船にダイブして頭を打ち付けたからだ。
 慌てて引き上げ介抱しているドサクサで、少女達と青年のいざこざはひとまず置かれた。

「そう…ごめんなさい。早とちりだったわ」
 パーネルと呼ばれた金髪の女性が照れ笑いを浮かべつつ謝罪する。本当は青年にするべきだが七瀬達にである。
「いえ…私達が勝手に女の人と思い込んだからいけないんです。でも本当に間違えますよ。綺麗な声ですね」
「ありがとう。でもその男の子もまるで女の子みたいな声を出せるんだね。最初は女の子かと思ったりゅん」
「オホホホホホ。その気になれば『もののけ姫』だって」
 しかし瑞樹は音痴である。マリオネットで怪我を治されたがスッ惚けていた。言うまでもなく変身体質も。
「でも紛らわしいことをした司令も悪いんですよ。ただでさえ音が綺麗に聞こえるお風呂で」
「それは屋内だからで露天風呂では影響ないりゅん。それからここでは『司令』はご法度だりゅん。『オーナー』と呼ぶように」
「あ…そうでしたわ。オーナー。失礼しました」
「オーナー?」
 怪訝な表情で真理が尋ねる。
「僕は市内で『パラダイスカフェ』という店を経営しているりゅん。よかったら後で名刺を渡すから来て欲しいりゅん」
「あ…残念ですがわたくし達は明日には東京へ帰らないと行けません」
「そう…残念だりゅん。でも大分に来たら寄って欲しいりゅん」
「ハーイ。わかったぁ」
 少女達は騒動のおかげで恥じらいを一時忘れ混浴温泉を楽しんだ。

 そのころ…
「ぐえ…吐く…」
「ま…待て。こんなところで出すんじゃない。榊原。トイレまで待て」
「辛抱するでござる」
 真理によって悪酔いさせられた榊原が何度も吐き気を訴え(その都度、本当にしていたが)介抱で手一杯の上条と十郎太であった。
 彼らが3人が温泉を楽しめたのは、戻ってきた姫子が榊原の酒を抜き綾那が体力を戻してからであった。
 遅くはなったが露天風呂を楽しんだことを記述する。

 翌日。福岡駅へ移動。昼食を取りみやげ物も買いこみ後は帰るだけである。既にそれぞれの指定席に収まっていた。
 滑るように新幹線は走り出す。誰も口数が少ない。体力の補給をしている高校生と言えど強行日程。さすがに疲れていたのだ。敢えて体力補給をせず眠ることにした。
 十郎太は眠っている。いや。眠ったふりをしているのかもしれない。
 その十郎太に守られている安堵からか、姫子は安らかな寝息をたてていた。
 普段は邪険にしている綾那と寄り添うように眠る上条。榊原と真理も同様だ。
 疲れてはいるが何となく寝そびれた瑞樹と七瀬。ぼそぼそと話し始める。
「いろんな事があったね…」
「そうだな…博多で阿利さんと会った時はびっくりしたよ」
「そうね。私はやっぱり最後の混浴温泉かな…思い出すだけで恥ずかしいわ」
「若葉は鹿児島の喫茶店が思い出なんじゃないかな」
「榊原くんは可哀想だったわね」
「佐賀のお城で姫ちゃんが本当に『お姫さま』なんだなとイメージとしてわかったよ」
 楽しく…だがどこか寂しく旅の思い出を振り返る。そのためか…七瀬の目に涙が浮かぶ。
「わっ。なんで泣くんだよっ」
「ごめんね…なんだか切なくなってきて…もう終わりかと思うと…ごめんね」
「センチになるなよ…旅はいつか終わる。だけどさ…また行こうぜ。今度は北海道なんていいかもな」
「うん…そうだね。また行こうね」
「ああ。みんなでな」
 新幹線は一路東京へと走る。たくさんの楽しい思い出とちょっぴりの切なさを乗せて。

次回予告

 やってきました。日本の夏が。日本最大の同人誌即売会『ブックトレードフェスティバル』…トレスが。夏トレが来た。意気揚揚とサークル参加する上条。それにくっついてきた綾那。そして話の種にと上条を尋ねた面々。だが彼らは『トレス』の実態を知らなかった。カルチャーギャップにどこまで耐えられるか。
 次回PanicPanic第15話「即売会パニック」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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