第16話『太刀に潜む魔』


 真夜中にもかかわらず四人の男達が戦っていた。ただしばらばらでもなけれぱ2対2でもない。1対3なのだが卑怯とも言ってはいられない。そうでなくとも普段から勝利のために手段を選ぶ面々ではなかったがさらに言えば今日はその余裕がなかった。
 『エレファントノーズ』
 巨漢…夏木山三の放つチェーンが木刀を持つ男を目掛けて投げられた。だが『木刀の男』はそれをあっさりと弾き飛ばす。
 「なにやってんだデブ」
 「使えない野郎だ」
 春日マサル。冬野五郎が毒づく。冬野は本気だが春日はフェイントだったようだ。冬野が怒鳴る合間に地面を転がり出す。そこからいきなり跳びあがる。ロッドを振りかざして自由落下。
 『モンキーライトニング』
 まさに稲妻のごとく頭上から襲いかかる。だがこれを『木刀の男』は『対空技』で叩き落す。
 「ぐはあっ」
 確かに高所から叩き落されてはいたが腹部を斬りつけられたために『く』の字に吹っ飛ばされてそれ故に尻から落ちた。もっとも無難な部位の上に早々と(ルール違反だが)出されているごみの上に落ちた。だからそれがクッションとなりダメージはあってもそれほどではないはずだ。だが
 「…ぐ…」
 立ちあがろうと手を伸ばすが春日は力が入らないように崩れ落ち気を失う。
 (あの野郎…技の『溜め』が要らなくなっている。いつもなら先読みしておかないとあんなことできないのに…それもあの…)
 冬野が分析しているうちに夏木が頭上から組んだ腕を振り下ろしにかかる。
 「エレファントタスク」
 丸太のような腕が唸りを立てて『木刀の男』を襲う。だがまるで見越していたかのようにブロッキング。夏木のボディががら空きになる。そこに駆け込み横に凪ぐ。分厚い脂肪に覆われた腹部。それを『突き』ではなく『凪いだ』のに声も出せずに倒れふす。脂肪が鎧となり凪いだのでは力が拡散する。だから突きなら効果はあっても横凪ぎで倒すのは難しかった。にもかかわらずまたもや倒れる。
 (まただ…これと似たのが…そうだ。五月に四季隊全員で無限塾を襲ったときにやられた俺たちがダメージ以上に消耗していたあれに似ている…まるで力を吸い取られているようだ…)
 実際、綾那には『エネルギー』を吸い上げられていたがマリオネットマスターではない彼らにはわからない話。今のも直感で悟った。
 ドクン。まるで木刀から鼓動が聞こえてきたようにも思えた。吸い上げた力を蓄えて何かが『胎動』しているように感じられた。
 「や…野郎!!」
 恐怖に駆られた冬野はナイフを投げつける。これも簡単にかわされるが狙いはその後だった。ナイフには釣り糸がついているのだがそれを手繰り寄せる。それが男の二の腕を傷つける。
 じろっと男は冬野を見据える。昏い…どこまでも昏い。それでいて肉食獣のようなぎらついた…暗い光だった。
 (あのやろう…いつもなら流血でトチ狂うのに…冷静なこっちの方がやべえ)
 ここに至っては自分の身の安全を考え出す。けん制でナイフを投げてバックステップして逃げる。だが一瞬で間合いを詰められた。
 「ば…バカな!? 人間ワザじゃねぇ。秋本。てめえはその…」
 「そうよ。彼はその木刀に支配されているわ」
 低めの女の声。ノースリーブのトップ。黒いミニ。ハイヒールが怪しい光沢を放つ。それが二人の間に割って入る。
 『風の盾』
 彼女の前に渦巻きが出現していた。それが秋本の凶刃から二人を守った。
 「誰だ!? オメーは?」
 お前呼ばわりされても怒らない。フレームのない眼鏡といまどき珍しいほど黒いロングヘアがこの態度と相俟って『大人の女』を印象付けた。落ち着いた声で名乗りをあげる。
 「私は氷室響子。無限塾で英語を教えているわ」
 「無限塾のセンコー…」
 「そしてあなたは悪漢高校の四季隊の一人。そのユニークな髪型。確か冬野君ね」
 「その辺で倒れている奴らも…そしてのした野郎もな…」
 そうだ!! 彼らは同胞。目的は違えど『悪漢高校総番』に継ぐ大幹部。四天王と言える存在であった。だから当然の質問が飛ぶ。
 「仲間割れの理由はなに?」
 「知らねえよ。あの野郎がトチ狂ってだれかれ構わずのして歩いているからちょっと呼んで来いといわれたらこのざまだ」
 戦いのスタイルは違えど力量は対等。相性はあれど三対一で遅れを撮る力関係ではない。
 「どうやらあなた達の手には追えないようね。二人を連れて逃げなさい」
 「お言葉に甘えたい所だがこのデブは100キロ以上ある。担いで帰るにゃ無理だぜ」
 聞いてなかった。正確には会話中に秋本が襲いかかってきたのだ。響子がそれを受け流し極力3人から離れるように移動する。
 「仕方ないわね。ちょっと『オイタ』が過ぎるようだからお仕置きしてあげるわ」
 秋本の攻撃をガードしたのはなんとマフラーである。
 「このクソ暑いのに…」
 「伊達や酔狂でしているわけじゃないのよ。このしなやかな布地でどんな攻撃も受け止め流してしまう」
 お喋りは余裕のなす技ではない。時間を稼いでいたのだ。
 「こっちよ」
 彼女は優雅な身のこなしで秋本の側をすり抜けるようにまわりこむ。正確には虎の姿をした風獣が彼女を運んだ。その間は風の結界で守られているから攻撃は当たらない。立った位置だけで言うなら冬野達との挟み撃ちの形になる。
 彼女は一枚の護符を出した。それを宙に投げて『雷獣』を呼び出した。真紅の龍の姿をしていた。
 「雷神牙」
 
その雷獣はごく弱い…それでも人に当たれば大打撃の雷を落とす。
 「わわっ。危ない。ちったあ考えて落としやがれ」
 冬野たちのすぐ間近。その雷は秋本の立っていた位置におとされたが秋本は察して響子目掛けてダッシュしていた。
 「警戒してまったく動かなければ命中だったのにね。でもこれで彼らからは引き離せたわ」
 再び彼女は護符をとりだす。それを地面にたたきつけた。
 「地雷震」
 上条が見ていたら『電ショック』と口走りそうな技だった。文字通り地面を走る雷だった。秋本はそれをなんと木刀を避雷針にしてかわした。
 「そんな…あの木刀が只者でないにしてもそんな使い方をしていたら持たないわ。簡単に壊れてしまうわ。自殺行為…いえ…むしろ
壊すために雷撃を受け止めたようにも見えるわ
 すべて受けきりぼろぼろの状態でもまだ木刀は無事だ。ゆらりと抜く秋本は常軌を逸した目をしていた。口元は修羅場を楽しむがごとくゆがんでいた。そして予備動作なしで駆け出した。響子を狙っている。
 「いけない!! 風の盾
 再び風獣の紡ぐ風の結界が前方に出現する。
 (この風の盾は絶対の防御壁。しかしそうは持たない上に一撃ごとに結界は弱まる。さらに私自身の攻撃も結界作動中は威力半減。耐えるしかないわ)
 秋本はお構いなしに切りつけまくる。あっという間に最後の結界までも突破された。思わず瞼を閉じる。攻撃を食らうのを覚悟したがこない。恐る恐るあけて見ると見知らぬ男が鉄の鞘(日本刀にしか見えない)で秋本の攻撃を防いでいた。
 「大丈夫でっか? お姉さん」
 柔和な笑みで語り掛ける。その言葉遣い。そして発音から察するに関西の人間らしい。頭には『かまわぬ』の手ぬぐいが。
 「え…ええ。助かったわ。ありがとう」
 「それはよかった。久しぶりに東京で『萌え』を補充しとったら百鬼夜行バスを逃してしもて宿がないかと途方にくれてたんやがこんな場面に出くわすとはなぁ。やはり刀はいつも手にしてなあかん」
 笑みを浮かべていた男は秋本を弾き飛ばすと抜刀術の体制になる。いわゆる居合抜き。その目にはすでに優しい光はなく修羅の目であった。一歩も動かないが完全に響子の盾にはなっている。
 『笑止…攻めぬものが守れる道理なし』
 秋本の声ではあるがどうも別人に思える。もっとも初対面の彼らにそれがわかるはずもないが。
 「ようはこの姉さんを守りさえすりゃええんや」
 しばし対峙していたがどうも遅まきながらこの異様な雰囲気で通報がされたようだ。サイレンがけたたましくなって近寄る。
 『貴様は…鬼ではない。われの糧にはなれぬ…無粋な奴らも来る。今宵はここまでだ』
 言い残し秋本は夜の闇に消えた。二人は緊張を解く。
 「なんや。あいつ。わいが『鬼やない』なんて…」
 「そうね…あなたには破壊衝動のような汚れはないわ。だから鬼じゃないのね。とにかく助かったわ。ついでといっちゃ何だけど彼らを表通りまで運んでくれないかしら。宿直室でよければ泊めて差し上げるわよ」
 「…人使いの荒い姉さんやな…まぁ乗りかかった船や。付き合いましょ」
 気を失った四季隊を全員無限塾へと運び込む。

 翌日。綾那。七瀬。姫子が響子に呼び出されそれに伴い結局八人みんなが無限塾に来た。
 事情を知らされ七瀬が傷を治し綾那が体力を補給した。指一本動かすことすらできなかった彼らも会話ができるレベルにはなった。
 七瀬も綾那も何しろ一度に三人に治療と補給をするのは消耗が激しいのでそれぞれ『ほどほど』にした。だから会話ができる程度のレベル止まりである。
 「何があったと申すのだ?」
 忍は徹底した現実主義である。十郎太はまず状況を知ろうとした。
 「うぬらほどのてだれ。三人がかりで後れを取るなど到底信じがたいのだが」
 春日と夏木は頑なに口を閉ざしたが冬野はこの状況で共倒れを図ったのか知っていることをしゃべり出す。『利用』には感づいていたがここは情報収集が先。とにかくしゃべらせることにした。
 「いいだろう。教えてやるぜい。まんざらおまえとも関係なくもないしな」

 「最近都内でこんな話を聞かないか。夜中になるとゾクだのやくざだのがやられるってのを」
 やや芝居がかって冬野は切り出した。
 「新聞で読んだぜ。『平成辻斬り』とな。証言によれば凶器は木刀一本。全員が一撃で倒されているとこらから相当の達人と推測されると」
 榊原の回答は冬野を満足させたようだ。
 「その話なら拙者も聞いたでござる。だが面妖なのは倒されたものの中には目だった傷もないのに衰弱の激しいものもいたとか」
 「ああ。しかもそいつはナイフまで出していたから殺る気は十分だったわけだがあっさりおねんねしやがった。あのデブとちびも多分それだぜ」
 ここまで聞いて一同は綾那の能力を連想した。綾那の場合は大気中から生命エネルギーをかき集めて対象者に注ぎ込み体力回復ができるがそれを応用すれば逆に相手の生命エネルギーを吸い取り戦闘不能に追いこむ事もできる。
 少女たちはマリオネットで会話を開始した。
 (エネルギーを吸い取るのかしら? 綾那ちゃんの『マドンナ』と同じ能力だわ)
 (でもでもあのお兄ちゃん。マリオネットマスターじゃなかったみたいだよ)
 (そうですわね。まったく戦いにお使いになりませんでしたわ)
 (意外に戦闘向けじゃない能力の主だったりしてな)
 「しかしそうなると何か変化かがあったんですか? 例えば神崎士郎から新しいベントカードを貰って……『秋本さんサバイブ』になったとか」
 「変化というならあの木刀だぜ」
 これより後は証言をもとにイメージと推理で補完された回想である。

 悪漢高校校庭で秋本が木刀を振っている。空を切り裂く。まさにそんな表現があう。気合を…破壊・打倒などの陰の行動に対した『気』…『破気』を高める。虚空に敵を見出したかそれを一刀両断するように振りかざす。
 ピシッ。木刀がその破気に耐えられず亀裂を生む。だが秋本はかまわず破気を高めた。その結果として木刀は振り下ろす前に刀身に当たる部分が木っ端微塵に砕け散った。
 「ちっ」
 舌打ちすると秋本は柄の部分を投げ捨てた。
 「くそっ。あの野郎に勝つにはかすっただけで大ダメージになる技でないとダメだ。だが木刀そのものが耐え切れねぇ。かといって本物じゃ表を歩く以前の問題だ。それに重さが破壊力を増すかもしれないが大振りな分だけあのすばしっこい野郎に当てにくくなる。
軽い木刀で日本刀以上の切れ味が…破気を刃にしようと思ったが木刀が耐え切れねぇ…どこかにないか。そんな得物が…」
 『力が欲しいか…ならばわれを探せ』
 (なんだ!?)
 どこから聞こえてきたかわからない声を探す秋本。
 『われはうぬの心に語り掛けておる』
 「心にだと!? 話に聞く『マリオネットマスター』か?」
 『違う。われは力。力そのもの』
 からかわれているのか…そう言う考えが浮かばなかった。不思議とまじめに対話するつもりにさせられた。
 「それでどうすりゃいいんだ?」
 『われの住処は闇。漆黒の闇。そこに来る気があるならうぬに「力」を授けよう』
 「なんだってやってやるさ。俺に力をくれるのならばな」
 『ならば今宵。案内しよう』

 秋本は十人の取り巻きを引きつれていた。単独行を好む男が探し物といえど多すぎる供である。なぜそうしたのか自分でもわからなかった。ただ連れていかないと行けない気がしたのだ(この辺りの描写はその取り巻きの証言を元にしてある)
 彼らが来たのは『神社』である。都内にこんな場所があるのか? と思いたくなるほど寂れた場所にあった。
 まるで人目を避けるように建立されていた。
 その中でも特に状態の酷い祠の前に秋本は立つ。
 「ここだ…な…」
 彼は背中から木刀を抜くと無数の突きを見舞い出す。
 『虎乱爪』
(こらんそう)
 バルカン砲のように傷跡をつけて行きしまいには祠の扉を砕いてしまった。わずかに残った部分も蹴りで粉砕する。
 土足でずかずかと上がり込む。その目前には『封印』を施された古びた木刀があった。『声』がより強く聞こえてきた。
 (さぁ早く。われの封を解け。さすればおまえはこの世でもっとも強い男になろう)
 うつろな目をした秋本は何も考えず(考えられず)木刀を手にした。力任せに札による封印を引き千切る。
 (まだだ。まだ真の封印は解けぬ。さぁ。まずはおまえの供を贄にしろ)
 頭の中に声が響くたびに秋本の思考ははっきりしなくなる。そうとは知らぬ取り巻きの一人が秋本の持つ木刀にべたべた触る。
 「秋本さん。こんな小汚い木刀を探してたんすか。一発で折れますよ。こんなの。鉄パイプか金属バットのほうがまだましでさぁ」
 一瞬だった。秋本はその男の腹に『切っ先』を入れた。
 血は流れないし第一切れてなどいない。それなのにその男はうめいて倒れ付した。顔色は青く生気がなかった。
 「なにするんすか!?」
 「野郎!!」
 色めき立つ一同。配下と言えど悪漢高校の場合は『カリスマ性』ではなく『腕ずく』である。軍門に下っただけで忠誠を心の底から誓っているわけではない。当然ながら身の危険が迫れば幹部相手でも容赦なし。全員がナイフを抜いた…が。
 腕の差もある。一対多数で逆に秋本は手当たり次第でよく取り巻き立ちは同士討ちを恐れたのもあろう。だがそれにしてもかすり傷ひとつ負わせられないとは彼らも想像しなかっただろう。
 全員が打ちのめされた。生きてはいるが精気をすべて吸い取られて身動き一つできない。秋本は消息を絶ちそして辻斬りが横行する。

 「これが俺らの知るすべてだ。もともと危ないやつだったがありゃもう手当たり次第だぜ」
 冬野の話は終わった。考え込む一同。榊原が口を開く。
 「手当たり次第…そうかな」
 「んだてめぇ。俺の話に文句があるのか?」
 「破気…でござるな」
 「破気というと『殺意の波動』とか『黒のソーマ』みたいなもんだね」
 (おまえも半分はそうなんだが…)
 半分女のみずきが心中で突っ込む。そして
 「破気…神気…破気…まさかあの野郎! 『破気』を求めてワルばかり狙ってやがんのか!?」
 さすがに冬野も気がついた。
 「そうかもしれないわね」
 黙って聞いていた響子が口を挟む。
 「夕べ私を助けてくれた人がいたけどその人は神気使いだった。だから敵には無用であり二対一の上に警察が近づいていたからか…それともその説で言うなら破気の収集が不完全だからかかまってこなかったけど」
 「捨てては置けぬな…」
 ポツリと十郎太は重い口を開いた。
 「十郎太さま…」
 つぶやく姫子に彼は向き直り頭を下げる。
 「姫。彼奴は拙者との果し合いを望み魔道に堕ちたもよう。ならばせめて拙者の手ですくいたく存じます。なにとぞ出向くことを御許しください」
 向かい合い真摯な表情で訴える。常に己を殺す彼には珍しい。それに対して姫子は聖母の微笑で
 「あの方の『気配』は強烈でしたわ。だから今でも覚えています。わたくしも探すお手伝いをいたします」
 「姫!! 危のうございます」
 「でも姫の言うとおりだね。あいつが『破気』を求めてさ迷うなら破気を持ってないアタイらのほうにゃ寄ってこないんだし…アタイも手伝うよ。そんなのを野放しにゃできないしね」
 「真理殿…」
 「私も行くわ。怪我を治せるもの」
 「七瀬!? えーい。村上の言う通り野放しにゃできない。おれも行くぜ」
 四季隊との面会とわかっていたので女になっていたみずきが甲高い声で同行を申し出る。
 「はーい。ボクも行くぅ。吸い取られたらボクが補給してあげる」
 「ライダー同士の戦いを止めるために僕は…」
 「決まりだな。さて…作戦会議と行こうか」
 結局みんなで出向くことになった。

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