第16話『太刀に潜む魔』Part3   Part2に戻る

 長い学生服…いわゆる長ランを着こんだその男はいきなり空間から出現した。
 「うおっ!?」
 短くうめくとそのまままるで二段ベッドから転げ落ちるように『ちゃぶ台』に落下した。けたたましい音を立ててちゃぶ台の上の晩酌セットが飛び散る。
 「ぐ…ぐぅ…こ…これは? なぜ『ここ』に?…そうか。あの娘。どうやら話に聞くマリオネットマスターか。
ふっ。どうやら人を『とばす』能力らしいが『あの男』が変なところにいたらどうするつもりだったのやら…
まぁ無我夢中の結果か。やむを得まい」
 それは姫子によって転送された総番。大河原慎である。
 そして姫子が転送先として選んだのは…実父である無限塾塾長・大河原源太郎のもとであった。彼女は塾長の自宅は知らなかったが塾長その人をマークして飛ばしたのだ。
 「おい。いきなり現れてわしの晩酌の邪魔をしておいて何をぶつくさ言っておる?」
 楽しみの晩酌を邪魔されいささかご機嫌斜めの塾長である。相手が実子であるのでまるで遠慮はない。
 「好きで貴様のところに現れたわけではない。今すぐ出て行くから安心しろ」
 言うなり身を起こし出て行こうとする総番を塾長が止める。
 「その前にちゃんと始末をして行かんか」
 「先につける始末がある」
 「貴様!! 親に向かってなんだその言いぐさは」
 「ふっ。貴様など既に親とは思ってないわ」
 あとはもう殴り合いの開始である。
 「あなた。何か大きな音がしてましたが…あら。慎。いつ帰って来たのよ? 母さんぜんぜん知らなかったわ。
あらやだ。ご飯がぜんぜん足らないじゃない」
 さすが総番の母にして塾長の妻。スケールが半端じゃなかった。

 戦場。総番は敢えて民家から離れた位置で暴走族と戦った。
 無関係のものを巻き込まないのもあるが警察に通報されてまた逃げられるのを避けるための処置だった。
 だからこれだけ騒いでおきながら未だに警察はこない。
 しかし『秋本』にしてみれば多勢に無勢は変わらない。しかも破気を使う者がいないため戦うメリットもない。だがそれにもかかわらず彼は刃を向けた。切っ先の向こうの十郎太はいつものように無表情に言う。鋭い眼光だけは厳しくなっているが。
 「秋本。正直なところを申す。一度お主と戦ってみたかった。だがそれは以前に戦ったような狂気にまみれたお主ではない。純粋に強さを追い求める武闘家としてのお主とだ。だが破気を捨て去るどころか支配されるとは…残念でならぬぞ」
 『くくく…何を言う。破気も狂気も関係ない。戦うからには相手を倒す。それだけだ。それにいかほどの違いがある』
 「神気によって倒れたものはその敗北を糧にさらに強くなる。だが破気によって地にふせばそれは何も生まぬ。ただ奪われるのみ。
秋本。お主を救いたいのだ」
 『くくく…ならばまみれよ。修羅の気に』
 秋本は予備動作なしで猛烈なダッシュをした。
 (な? 『ため』もなしに)
 驚く十郎太だが冷静だ。攻撃が突きと見るや右手だけを前に出し左半身は右半身に隠れた体勢を取る。左腕に至っては腰に当てる徹底ぶりだ。あごを引きのどを隠す。そしてインパクトの瞬間を予測して右手を払う。
 予測が当たり切っ先が触れる前に右手が刀身を払う。すかさず十郎太の隠された左腕がボクシングで言うフックとなり顔面に命中する。怯んだところに今度は木刀をはらうのに用いた右手をアッパー気味に炸裂させる。当然この場合一番狙いをつけ易いあごを狙う。さらに真上でなく秋本の立場でやや右上に向けて放った。これで単純に上でなくなり視界が混乱する。がら空きのボディ。そこに続けて見舞われたのが踏み込みながら腹部を撃つ一撃。
 『疾風拳』
 一撃。そして仰け反る間も与えずに続けて腹部へ痛打。3発目で相手をふっ飛ばした。
 「凄い連続技だ」
 「さしずめ5hitコンボ」
 傍らで見ている瑞樹達も驚嘆する早業だ。だが十郎太は攻撃の手を緩めない。秋本に向かって駆け出す。その秋本は立ち上がろうとしている。けん制でくないを投げる。秋本はどうもはじめからやるつもりだったらしく突きの連打。虎乱爪を使う。
 攻撃用というよりは防御目的。だからくないも弾き飛ばされたがそれでよい。
 「えいやぁ」
 十郎太は飛びあがる機会をうかがっていたのだ。秋本の頭上へと舞い上がりその天辺めがけて膝を落としにかかる。
 秋本が突きをやめ首だけ上に向けて薄笑いを浮かべる。そしてそのまま飛びあがる。
 『虎爪』(とらつめ
 「馬鹿な!? 奴の技はためがいるはず。こんな切り替え〔キャンセル〕はできぬはず」
 空中なのでガードはできない。攻撃体勢故にブロッキングもできず。まともに斬りつけられる。
 「ぐはあっ」
 十郎太は見事に打ち落とされた。
 「十郎太さま!!」
 悲鳴そのものという感じの姫子の絶叫が響く。十郎太がこうも見事に撃墜されたのも初めて見たなら姫子の狼狽もみんな初めて見た。
 「大牙」(たいが)
 本来なら脚力を生かし駆け込んだ勢いを剣に乗せるワザだがそれを近距離で見舞う。しかも連続3回。立ち上がりかけの十郎太はわずかに逃げそこねモロに食らった。
 まるで先刻のお返し。今度は十郎太が吹っ飛ばされた。
 (は…疾い…元より足は速かったが切りかえしが甘かったのが奴の弱点。だが『破気』…いや。『瘴気』をとりこみそれが克服されておる。このままでは勝てぬ。姫に被害が及ぶ…それだけはいかん。命に代えても…)
 うめきながら立ちあがる十郎太を見下ろす『秋本』
 『…他愛もない。この程度の忍にてこずっていたか…まぁ今しばらくの辛抱だ』
 ゆっくりと『秋本』は近寄り高々と木刀を掲げる。
 『くくく…仲間を思えば思うほど奴らのわれに対する憎悪が高まりこれを打ち破るほどの破気を与えてくれよう。よしんば憎悪にまみれぬならそれは神気の強さを示しそれもまた好都合。どちらに転んでもよい。まずはそっ首。刎ねてやろう』
 凄まじい速さで振り下ろされる木刀だが間一髪で十郎太は転がってよけた。
 『見苦しい…それほどまでに命が惜しいか』
 「惜しいでござる。忍には死を前提に仕掛けをするものもあるが第一はおのが命。拙者それは恥とは思わん。だが時には命を捨てねば生を拾えん。まさに今がそのときのようでござるな」
 言うと十郎太は自分のシャツを切り裂いた。そして鎖帷子をはずしあるのはただ引き締まった筋肉の細身の裸身。
 『ふふふ…何をするかと思えば。それを脱いだということは掠っただけでも致命的だと言うことがわからぬわけでもあるまい』
 「そこに甘えがあったのだ。まさに命を掛けねば死ぬ。それが拙者の力を十二分に引き出すであろう。そして」
 次の瞬間。まさに消えた。
 「なに!?」
 「えっ?」
 「どこ?」
 秋本。そして瑞樹たちも見失った。十郎太は秋本の上空にいた。落下して秋本の肩をつかむ。
 「着こみがなくなった分だけ軽くなった。拙者にかすり傷とて負わせられるか」
 つかんだあと落下のパワーを利用してそのまま派手に投げ飛ばす。

 大河原家では派手なコミュニケーションが続いていた。
 「どうしたどうした。『覇気』がないぞ。いや『破気』か」
 「くっ…」
 『木刀』に破気を吸収されて力の出せない慎は苦戦していた。その腹部に強烈な一撃。
 「くっ…」
 力なく倒れる慎。彼が弱いのではない。塾長がまともじゃないのだ。塾長は妻に
 「かあさん。布団を敷いてやってくれ」
意外なほど優しい声で言う。簡単に部屋を片付けるとにんまりと笑い晩酌を再開した。
 (ふふふ…なかなかに強くなってきたわい。だれと戦ってきたか知らぬがな。だが子供のけんかに親が出るのは親子ともども恥と言うもの。捨て置くか)
 彼はぐいっとあおる。

 戦場。形成逆転であった。十郎太は鎖帷子を脱いだことにより防御力は恐らく半分以下になったであろうが反面軽くなり敏捷性。跳躍力ともに今まで比べ物にならなくなっていた。
 『お…おのれ』
 『秋本』は攻撃が当たらず焦れていた。血走った憎悪にまみれた目を向ける。
 「無から有。有から無。諸行無常。万物は移り行く。追うは幻。実体なきものに切っ先を掠めることすらできぬ」
 まさに目にもとまらぬ速さであった。そして移動方向も不規則で予測はできない。

 「ス…すげぇ。これが風間の本来の力か」
 驚いていたのは瑞樹達も同様だ。助っ人に入ろうにも入れるレベルでなかったのも確かだが見ているだけであった。サポートの必要すらなさそうに感じた。
 「まるで加速装置だな…」
 「しかし…確かに攻撃はかわせるが倒すには攻撃をしないといけない。その瞬間…」
 『多大な隙ができる』と真理がいいかけたときだ。突然だが榊原のマリオネット。ビッグ・ショットが出現して消えた。予知を見せたのだ。
 「なんだ? 何を予知した!?」
 「いや…いつになくぼやけた予知で…ただいい感じじゃない…抽象的だが…『闇に呑まれる』…そんな所か」
 歯切れの悪い榊原である。
 「たとえるなら邪神ガタノゾーアとか根源的破滅招来体とか」
 「ちょっと黙っててくれ。もう少し細かいイメージを…」

 少し離れた場所。冬野と二人がかりで春日と夏木を救出した氷室響子である。二人の体を調べるが体力を消耗しているだけだ。
 (体力だけ? それはもともと少なかったわ。つまり『木刀』には何もされていない? 奇襲だったから何もできなかったと言う考え方もあるけど破気を吸い取るその木刀なら防御で盾にしたついでに接触したこの子から破気を吸い取っても不思議じゃないわ。ましてや戦って消耗している。なおさら…だとしたら『いらなくなった?』。そう言えばどうして破気を吸い取っていたの? 吸うからには必要なはず)
 「先生。ボクお手伝いできる?」
 綾那が七瀬を伴ってやってきた。彼女のマリオネットは体力回復。この局面では頼もしいマリオネットだ。
 「ありがとう。じゃ彼らに少しでもいいから体力を戻してあげて」
 「はーい」
 綾那は作業に取り掛かった。それを見た瞬間に考えがまとまった。
 (体力回復。復活のエネルギーだわ。それなら手当たり次第なのも話がわかる。あの木刀は破壊の権化…
ちょっと待って。逆なのかも…木刀が封じていたとしたら…

 十郎太の攻撃が前後左右から繰り広げられる。右横からストレートであごを。左横からフック。真後ろから蹴り。大胆にも正面からアッパー。打っては離れのボクシングで言うところの『ヒットアンドアウェイ』だった。
 『お…おのれ・・』
 『秋本』が苛立つ素振りを見せる。その真正面。およそ7メートルに十郎太が『出現』した。なんとそのまま突っ込んでくる。
 「馬鹿なっ!? そんな真正直にっ」
 瑞樹が焦るが姫子は涼しい顔だ。
 「ぬおっ」
 秋本が木刀を振り下ろすと同時に十郎太が跳んでいた。正反対の秋本の後方だ。
 一瞬、ほんの一瞬で振り返る秋本だが今度はその右手方向に十郎太が現れた。
 『馬鹿めっ。読めぬと思うかっ。もらったわっ』
 右利きの秋本が左方向に振り下ろすならさほど難しくはないが左となるとやりづらい。それを見越した攻撃だが読まれていた。
 秋本は力任せに木刀を振り下ろすがなんとそれを十郎太が両手で刀身の部分を挟み込んだ。いわゆる真剣白刃どりだ。
 「こちらに剣を振り下ろすのはそれこそ読めていたでござる。しからば捉えるのも難しくはござらん」
 『くっ…はなせっ。離さんかっ』
 だがまるで一体化したかのように十郎太の両手は木刀から離れない。
 「秋本…お主を魔人にした忌まわしき魔剣。拙者が葬りさるでござる」
 十郎太はそのまま木刀を横へと倒す。そしててこの原理で木刀を折りにかかった。そのときだ。
 「やめろぉ。風間ぁ
 「折ってはだめぇぇぇ
 予知を追及していた榊原。推理していた響子が同時に叫ぶ。
 『もう遅い』
 劣勢で苦悶の表情を浮かべていたはずの『秋本』はにやりと笑うとなんと自ら木刀を折りにかかる。
 「なに!?」
 両者の力が作用して見事に木っ端微塵に砕け散る木刀。
 「う…」
 糸が切れた操り人形のように力なく崩れ落ちる秋本。木刀の断面から黒い煙が漂い塊となる。
 「こ…これは…!?」
 塊は人の形となる。うっすらと反対側の景色は見えるが誰の目にも見える。人の姿をしていた。血塗られた色の軍服をまとっていた。
 『ぬわっはっは。我は剣を極めし者。うぬらの無力。体で思い知れい』
 ゆっくりとその魔人は降りてくる。

 今からはるかな過去。曾我部剛輝と言う軍人がいた。
 彼は軍人と言えど行きすぎた印象を持たせる武闘派だった。
 殺すことのみにとらわれた彼はついに味方さえ葬る暴挙に出た。
 当然だが軍法会議にかけられ処刑を言い渡された。
 だが死んだ瞬間にこともあろうにマリオネットが発現したのだ。
 処刑された無念。血に飢えた性格がマリオネットと一体化してしまった。

 オカルトは専門外の軍はとうとう見栄も何もかなぐり捨て退治屋に依頼した。何しろ銃も剣も利かない。
 退治屋はある神社の御神木の枝を材料に一本の木刀を削り出した。
 効果は覿面であった。剣の達人に依頼して切っ先を曾我部だったマリオネットの腹部に当たる部分に深々と差し込む。。
 『お…おのれぇぇぇぇ』
 苦悶の表情を浮かべ断末魔の呪いの言葉を吐く魔人。
 『邪悪なるものよ。神の御許で清められるがよい』
 木刀は曾我部を吸いこみ出した。抗うが抵抗空しく封じ込められた。
 『死なぬ!! この恨み…必ずや蘇り晴らしてくれようぞ!!』
 亡霊…もっと正確には曾我部の邪心は木刀へと封印された。
 その後。札を貼られた上に祠に収められていたがその老朽化で効力が失せた。
 だから封印は解けないまでも外へのコンタクトが可能となった。
 それで『外』へと呼びかけ秋本を手下として復活のための邪悪なエネルギー。破気を求めていたのだ。

 「そんな所かしら」
 戦場。時間稼ぎと推理の解明で響子が話していた。
 『くっくっく。まぁそんな所だ。我が名は曾我部剛輝(そがべごうき)・死と破壊を司るものなり』
 「ぼ…亡霊?」
 オカルトの苦手な七瀬がついおびえた声を出す。それを安心させるためかクールな物言いの響子。
 「いいえ。たぶん邪心にマリオネットがくっついたものね。亡霊とは波動が違うわ」
 「なるほど。秋本を仮の本体としてエネルギーを吸い上げていたのか」
 響子がしていた時間稼ぎ。それは秋本の治療と体力回復であった。このままでは自力で逃げられないし連れていけば足手まといだからだ。無論放置はできない。
 「しかしそこまで老朽化した木刀なら適当な所でへし折って出てくればよかったんじゃないのか?」
 真理の素朴な疑問だ。
 「たぶんそれはできなかった。何しろ封印してしまうものだったし。同じように神気を用いるものなら封印の影響もなく折れたかもしれない。だからこいつは神気を使う風間くんに勝負を挑んだ。私が初めて出会ったときに勝負してこなかったのは破気がたまりきっておらずまた警察も来ていたから。そうでしょ」
 『ふふふ。頭も切れる。だがうぬらは長居しすぎた。さっさと逃げればこの儂(わし)の餌食にならずに済んだものを』
 曾我部はゆらりと近寄ってくる。
 『復活祝いに刻んでくれよう』
 「くっ。『Heart』隊長みたいな長い顔と顎しやがってて…そのくせ声は渋く西村知道さんか」
 こんな場面でも相変わらずの上条である。
 『さぁ。泣き喚け。その無念さが儂の至上の馳走だ』
 魔人は歯をむき出して笑うと足も使わずに擦り寄ってくる。

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