第17話『Change』Part3   Part2へ戻る

及川家
04:50p.m

 どうやら『あの日』も終わりらしく。またかなり七瀬の体に慣れて来たみずきは調子が上がってきた…というか調子に乗ってきた。
 だから『つい』やってしまった。何もないところですっ転ぶなどと言う荒業を。
「いたたたた…」
「あらあら。大丈夫。みずきちゃん」
「はい。こんなのいつもですから…………」
 気まずい沈黙。青くなる七瀬(みずき)。一方驚きもしない虹子。
「やっぱり…様子がおかしいと思ったわ。あの子(七瀬)の持つ不思議な力のせいかしら?」
 これはもちろん七瀬のマリオネット『ダンシングクィーン』をさして言っている。だが「ダンシングクィーン」の能力は壊れたものを修復すること。
「あの…いつから…」
 観念してみずきは正体を晒した。その緊張を和らげるがごとく虹子は微笑む。まさに母の微笑だ。
「昨日から。みずきちゃんとケンカしていた辺りから。あの神父さんがそうなの?」
 『マリオネットマスター』と言う単語を知らないのでこう言う訊ね方になる。
「はい…それにしてもあっさり見破られていたんですね。オレ…けっこう真似していたつもりだけどどこが違いました?」
「何から何まで。全部が違うわ」
 ここまでいわれて七瀬(みずき)は苦笑するしかなかった。
「でも嫌な感じじゃなかったし。もしかしたらみずきちゃんかなと思ってたわ」
「凄いですね。そんなあっさり見破るなんて。いくら親子と言えど良くわかりましたね」
 文字通り舌を巻く。
「わかるわよ。あの子のことならなんだって」
「それに七瀬…あいつ『マリオネット』のことまで喋ってたんですね」
 これは意外に思っていた。人とは違う「超能力」。ひた隠しにするかもな…と。
「なんでも話すわよ。あの子とは」
 みずきは自分と父親の関係を考えた。こんな感じでは到底無い。また母と息子と言う関係も考えた。だがどちらにも当てはまらない。
「へぇー。仲がいいんですね」
 だからこの言葉が口をつく。それに対して虹子も微笑んで言う。
「そりゃそうよ。女の子にとって母親はね。生まれて初めての友達なのだから」

河川敷
05:01p.m

 事情を説明している七瀬。秀樹は真剣に聞いている。
「おかしいとは思ったのだ。あれ(瑞樹)にしちゃ手際が良すぎる。それに女らしいと。なるほど。そんなことが」
「はい。騙していてごめんなさい。後で伯母様や薫ちゃんと忍くんにも謝ります。それからみずきと交代します」
 神妙に頭を下げる瑞樹(七瀬)。だが秀樹は意外な申し出をした。
「いや…どうだろう。期限までそのままウチにいては。あれ(みずき)にしても君にしてもその体に合わせた服などは当然だが自分の家にあるのだ。交代しては面倒であろう。
 それに…いい機会だ。君のお母さんに少しあれをしごいてもらおう。多少は女性的になったくらいがあいつも思慮深くなっていいだろう。
 どうだろう。もちろん君はその間は女性として過してくれて結構。みんなには私から話しておく。どうかな?」
「おじ様…」

及川家
05:04p.m

「ごめんなさい。すぐに七瀬と代わります。ただオレの体なんですけどね」
「あら。待って。何を遠慮しているの? 昔は互いに良くお泊りしていたでしょ。だいたい七瀬(の体)に合うものがあちら(赤星家)にはないでしょ?
 それにね。ちょっとお願い。七瀬を後二日あなたのおうちにいさせてあげて。瑞枝さんと一緒に過して欲しいの。
 あの子ったら。下が弟二人のせいかけっこう怒鳴る所があるのよね。瑞枝さんのふわっとした所を見習わせてあげたいの。いいかしら?」
「はァ…どの道、入れ替わるにはオレん家で事情を説明しないと行けませんし。そうすると説明が面倒だし。だからこうしたくらいなのでそれはいいんですけど」
 もちろんこの時点でみずきは七瀬の方もばれているとは夢にも思ってない。
「決まりね。それじゃお着替えする?」
「な…なんでそうなるんですか?」
 まさかこう切り出すと思ってなかった。
「あの子はスタイルにコンプレックスがあるみたいなの。特に安産体型の大きなお尻を。そんものだからせっかく買ってあげたのにパンツルックをしてくれないし。みずきちゃんもズボンのほうがいいでしょ」
「そう言うことなら喜んで。正直スカートは足にまとわりついて歩きづらいですし」
 それでよくこける…とはさすがに蛇足で言わなかったが。

赤星家
06:23p.m

 ちょうど喫茶店に客がいなくなったのを見計らって家族が集められた。
 食卓にはコーヒーや紅茶が人数分並んでいる。コーヒーは秀樹。あとは紅茶とジュース。
 そして秀樹が今回の事態を説明している。
「…と、言う訳だ。姿こそみずきだが中身は七瀬君だ」
「…本当に……七瀬お姉ちゃんなの?」
 ポニーテールの中学生ニューハーフ。薫が尋ねる。
 ちなみに生まれてしばらくは髪を切られず。中学生になってから先端を切りそろえているくらいである。もちろん洗髪は女性用シャンプーを使っているので、長年使用の効果で男の髪なのにさらさらであった。
「ごめんね。騙していて」
 しおらしい瑞樹。女バージョンならともかく男バージョンでは絶対にない仕草だ。
「ちょっと信じられないわ。本当に七瀬ちゃんなの? からかってないかしら?」
「伯母様…信じられないのももっともですけど…」
 瑞枝は無言で立ち去る。二階に出向いて何かを探している。子供たちは怪訝な表情をしていたが夫には見当がつくらしく頭を抱えていた。やがて瑞枝が戻ってきた。その手にはフリルまみれのワンピース。
「だったらこれ着てくれる? 本当はみずきちゃんなら絶対に着ないはずよ」
「これ…着ていいんですか?」
 心なしか瑞樹(七瀬)の表情が輝く。七瀬も可愛い系の服を好む。
 だが(傍目にはそう思えないが)太っていると自覚している彼女は、余計に膨張して見えるその手の服を避けていた。しかし着てみたいのは女心。
「もちろんよ」
 にっこりと微笑む瑞枝。どうやらこの機とばかしに着せて遊ぶつもりだ。
「じゃちょっと待っててください。水かぶってきますから」
 もう男に成りすます必要がないので嬉々として風呂場へと向かっていった。
「まって。お姉ちゃん。あたしも手伝う。下着持って来てあげるね」
 事情を飲み込んだ薫も面白がって着せ替えに荷担する。
「ああ…可哀相な瑞樹兄ちゃん…」
こう言う家庭環境ゆえか妙に達観した小学生の三男坊・忍が長兄を哀れんで言う。

及川家
06:34p.m

 虹子は看護婦である。プロである。それでも女性だからか可愛いものには惹かれる。
 現在の七瀬(みずき)は薄いピンクのブラウスと黒地に白くて細いストライプのパンツルックだった。
 これでも充分に女性的だがブラウスをシャツ。女性用パンツをズボンと解釈すればジャンバースカートよりは遥かに妥協できる姿だった。
 地を隠さなくてよくなったからか少年らしい表情になる七瀬(みずき)。それがユニセクシャルな魅力をかもし出していた。
「思った通りだわ。確かにお尻は目立つけどかえってメリハリが利いてウェストが細く見えるわ。背も高いし。あの子ったら…もうちょっと自信を持てばいいのに」
 母親と言うか女性の先輩としてため息をつく。
「それはオレも思いますね。どうして女ってああまで細かい所まで気にするんでしようね」
 仕草は男性的だが体が女性だからなにか倒錯した魅力がある。
「それは仕方ないのよ。本能的なものだから。だからかどうかどうしても色々気になっちゃうのよ」
「ふぅん。そうなんですか」
「ところでその服の着心地はどうかしら?」
「いいですよ。女物って柔らかくて感触がいいし。動きやすいですよ」
 体操のように上半身を捻って見せる。くすりと笑う虹子。
「機能性からコメントするなんてやっぱり男の子ね。七瀬ならきっと似合う似合わないから言うわよ」

喫茶レッズ
07:34p.m

 客がいなくなったのを見計らってみずき(七瀬)のことを話していたが、入ってくれば対応に迫られる。
「迷惑をかけているから」とみずき(七瀬)が店番をすることにした。その間に夕食をとるのだ。
「いらっしゃいませ」
「赤星…いつからそう言う趣味になったんだ」
「榊原くん…真理ちゃん…どうしたの?」
「近くまで来たから寄ったんだけど…赤星こそどうしたんだよ。その喋り方」
 一瞬みずきのふりをするかどうか考えたがみずき(七瀬)。
 だが真理には通じないのであえて「ガンズン・ローゼス」で心を読ませた。

「そんなマリオネットマスターがいたのか…」
 事情を理解した二人は話に乗ることにした。神妙な表情の榊原。
「どうした? 何を考えこんでんだよ?」
 もちろん真理の能力を使えば思考は読めるがむやみに他人の心は覗きたくなかったし、プライバシーの侵害にもなる。
 それよりなにより真理の知る限り一番スケベな男である。エッチなことを自分の心に流されたくないのでいきなりつないだりはしない。
 もっともそんな色っぽいことを考えている表情ではなかったが。
「いや…『魂を入れ替えるマリオネット』ということは、もしも自分自身に使えるなら他人に成りすますことも可能だな…と」
「それで?」
「以前に赤星が遭遇した『斑信二郎』だが、検索をかけて見たら犯罪史で猟奇殺人の犯人でその名前が上がる。しかもその方法は必ず『焼き殺す』と言う手口。もしかしたら全部同一人物じゃないのかな…とな。焼き殺すのはマリオネットの能力で」
「そりゃ…そうかもだが「切り裂きジャック」みたいに名前のある殺人鬼を気取ってんじゃないの?」
「かもしれない…実際に時代も場所も違ううえに、ほとんどが警察に追われて死んでいると残っている」
「じゃ『ゆかりを殺した奴』もそれを気取って名乗っているんじゃないの」
「そう思っていた。だが…魂を入れ替える能力があるというなら話は別だ。全部が同一人物の可能性もあるぞ」
「だとしても変よ。マリオネットは一つのことにだけ特化しているわ。榊原くんの『ビッグ・ショット』みたいに念動力に使えるのもあるけど。『魂を入れ替える能力』と『ものを燃やす能力』は両立しないはずよ」
「そう言えばそうなんだがなにか引っかかる。なにかの条件でスイッチ可能なのかもな…」
 重苦しい雰囲気になる。

及川家
09:12p.m

「お…おばさん。な…なんで?」
 七瀬(みずき)は風呂場で固まっていた。虹子が全裸で入ってきたのだ。
「大丈夫よ。ウチのお風呂は場意外と広いから二人でも」
 熟女ゆえか堂々としていた。確かにみずきは自分の体で女の子の裸は見飽きるほど見ていたが、お湯をかぶれば男に戻るだけに風呂屋の女湯にも行った事はない。それだけに見なれてはいないのでどぎまきしていた。
「あなたお風呂は絶対に男の子でしょ。女の子の体の洗い方を知らないでしょう。だから今日は特別に付き添ってあげる」
「いや…そんな…子供じゃないし…」
「ふぅん…じゃあ女の子を洗ってあげたことあるのかしら?」
 意地悪な笑みを浮かべる。体は少女と言えど心は年頃の男の子。からかっているのは間違いない。事実七瀬(みずき)は赤くなって黙ってしまった。
「あるの? 七瀬じゃないでしょうね。間違いで泣くのは女の子なのよ。それをわかってて…」
「やってませんっっっっ!!! オレ童貞も処女もなくしてませんっっっ!!」
 つい声が高くなった上にとんでもないことを口走る七瀬(みずき)
「処女も?」
 これにはさすがにつっこみが入る。耳まで赤くしてみずきは訂正する。
「……すいません…言葉のあやです…」
 完全に自分を見失っている。虹子はいい加減にからかうのはやめるかと思い優しく肩に手をかける。
「あたしは看護婦よ。人の体を洗うのはなれているわ」
(あ…そうか…でもそれでも俺の立場になって欲しい…)
「大事な娘の体だもの。心配する親心もわかってちょうだい」
「…わかりました…あの…優しくしてください…」
 また墓穴を掘ったことを知り完全沈黙する七瀬(みずき)だった。

赤星家
10:01p.m

 瑞樹(七瀬)も入浴中だった。半分女で1年以上経つ瑞樹と違い七瀬は「半分男」で足掛け三日というところ。
 よくマスコミで言われるような男性との交流もない七瀬にとって大人の男の体は刺激が強すぎた。
 なるべく見ないよう見ないようにしていた。
 やっとの思いで入浴を終え(ちなみにばれたので1時間の入浴もまかり通った)脱衣所へと上がると薫がいた。
「あら? 薫ちゃん。ごめんね。もう上がったから」
 現在の肉体では男同士。精神的には女同士と言うおかしな二人だった。
「まだよ。七瀬お姉ちゃん」
 いうなり薫は隠していたコップの水をかぶせる。少女へと変貌するみずき(七瀬)
「きゃっ。つめたぁい」
「ごめんね。でもきっと遠慮して男の子姿で出てくると思ったから。中身が七瀬お姉ちゃんなら女の子でいいわよ。お姉ちゃん(みずき)が男の子で上がりたがる逆よね」
「薫ちゃん…」
 正直なれない男の体なので、できれば女でいる時間を多くしたかった。特に朝の「現象」は願い下げだった。
「はい。これ」
 ショーツとピンクのネグリジェを差し出す。ネグリジェの方は完全に箪笥の肥やしになっていた物だ。
 そして七瀬の趣味にもあっていたので1も2もなくそれを着用した。

及川家
11:12p.m

『どうしたどうした。ひゃっほーい』
『行くぜっ』
 画面に展開する派手な必殺技。格闘ゲームだ。幼い兄弟がしていたのに七瀬(みずき)が混ざったのだ。
『オレの勝ちだっ』
「よーしっ。オレ…私の勝ち」
「ねーちゃん。強いんだね。いつもはやめろって怒るのに」
「え…それは程ほどにしなさいって意味よ。うん」
 兄弟と父親には伏せていたので七瀬のふりをしていたがここでは完全に男の子モードになっていた。

赤星家
11:14p.m

「ねぇ。G6ではだれがすき?」
 みずきの部屋。ネグリジェ姿の二人。一応は男と女だが血のつながりがある上に精神的には女の子同士だった。
 他愛もない女の子トークをしていた。今も薫が切り出したのは男性アイドルの話題だったのだ。
(なんだか修学旅行の女部屋みたい)
 心中で苦笑するがこういう話がしたくて仕方なかった薫の心中を思うとむげにできなかった。パジャマパーティーは続く。

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