17話「Change」Part4   Part3に戻る

赤星家
8/30 07:23a.m

 まだまだ残暑は厳しいがみずき(七瀬)は爽快に目を覚ます。
「うーん。やっぱり女の子の方がいいわ」
 ネグリジェのボタンを外し脱いだそれを丁寧にたたむ。それから箪笥からブラジャーを出して当てる。
(でもこの手間の要らないのはちょっと男の子がうらやましいかな)
 そんなことを考えつつノースリーブのブラウスとチェックのミニスカートを着ける。そして洗面台へと行く。
「おはよう。みずき」
「あ…叔父様。おはようございます」
 この女性的な態度に秀樹は失念していた事実を思い出した。
「ああ。そうだったな。今の中身は七瀬君だったっけ」
「はい。明日の夕方までお世話になります」
 にっこりと微笑む。営業スマイルでもない本当に柔らかい笑顔。
(これは瑞樹に限らず男にゃできんな)
 改めて中身が本当の少女ということを認識した。

及川家
07:45a.m

 一方の七瀬(みずき)はこともあろうに着替えで戸惑っていた。
 いつもは寝るときは男なのである。登校前にシャワーで変身してそして女性下着をつけ女子制服を纏う。
 ところが現時点では体は24時間休みなく100%女である。
 起きたらいきなり胸が重いという経験はやってないわけではないが習慣にはなっていない。寝ぼけも手伝いよたついていた。
 よたつくにはもう一つの理由があった。「ナプキン」の存在である。これがどうしてもなじめない。
「ホントに邪魔だよなぁ。もう取ってもいいんじゃ…」
 ショーツを下ろして確認する。血は出ていない。
(おわったのかな? 体も軽いし…とっちゃえ)
 二日以上にわたって悩まされてきた「生理」も終わりやっと楽になってきた。

喫茶レッドスター
09:23a.m

 営業開始は十時からである。現在は開店準備の真っ只中。みずき(七瀬)も薫も瑞枝もそれぞれに可愛らしい格好をしていた。
 というのも現在のみずきは心身ともに少女である。しかも七瀬もこの華奢な体型でなきゃ着られない物を好んでいた。
 「着せ替え人形」になっているのだがあっさりとそれを受け入れた。
 普段からみずきに対抗心を燃やす薫だがそれが火をつけた。ここぞとばかしに取って置きを投入してきた。大きく広がるスカートだ。
 さすがに少女たちには張り合えないものの瑞枝もフリルのついた花柄ワンピースで可愛らしく装っていた。
 3人並んでサラダなどの野菜を切ったり下ごしらえをしている図はなかなか迫力があった。
(…まぁ…いいか…中身は七瀬君だし…)

及川家
11:23a.m

「ねぇちょっと瑞樹ちゃん。力仕事お願い」
 虹子が台所から広口ビンを持ってきた。
「力仕事って…普段のオレならいいですけど今は七瀬の体なんですよ?」
 もちろん「男ならではの仕事」を頼まれたのだから引き受けたかったが体が女だった。
「大丈夫。あの子は力持ちだし。それよりこのビンの蓋あけてちょうだい。男の子でしょ」
 「男の子でしょ」と言われるのは泣き所だ。それならと蓋にゴムを当てて力をこめてまわす。意外なほどあっさりと蓋は取れる。
「ホントだ。あいつめ…いつもはぶりっ子してるな」
「そりゃ力持ちの女の子なんて敬遠されちゃうもの。「ぶりっ子」くらいするわよ。あけてくれてありがとう。待っててね。今お昼作るから」

赤星家
00:12p.m

 みずきの体といえど少女に戻れて朝からそうして過しているので軽減されたが七瀬は家事がしたくてたまらなかった。
 だから夫婦が店にいる間に薫と忍。そして自身の昼食を作らせてもらっていた。
「わぁー。七瀬お姉ちゃんやっぱり上手」
 感心する薫は皮肉抜きだ。もともと七瀬のことを昔から「お姉ちゃん」と慕っていたのだ。借り物の肉体といえど現時点では本当に肉親であるわけだが。
「でもそれならなんでお姉ちゃん(みずき)あんなにドジなのかしら? 体が原因じゃないみたいね」
「そうねぇ…実の妹の前で言うのもなんだけど…あいつそそっかしいから」
 本当は「弟」だが精神的なものも配慮して妹と言う優しい七瀬である。

 そして時間が流れ…

喫茶レッドスター
04:11p.m

 秀樹は珍しくそわそわしている。
「あなた。そろそろ仕入れの時間じゃないかしら」
「うむ…そうだが…」
 何かを言いたいが言い出せない。そんな感じである。そしてさすがは夫婦。見ぬいていた。
「みずきちゃーん。パパの仕入れに付き合ってあげて」
「はぁーい」
 愛想のいい少女・みずき(七瀬)が返事する。それに対して小声で瑞枝が
「あ…ごめんね。七瀬ちゃん。力仕事だから男の子になってきてくれる?」
 これはピンと来た。

河川敷き
05:00p.m

 今度は瑞樹(七瀬)の方からグローブを持ってきた。もう嬉しくて溜まらない秀樹である。
「よろしくおねがいしまーす」
 女性的な礼儀の良さが出たがこれは野球少年に見えなくもない。
「ようし。いくぞ」
 言葉は力強いが中身が七瀬と知っているので荒い球は放らず胸元に正確なコントロールで投げる。グローブに収まる。
「取れましたぁ」
「ナイスキャッチ」
 できるとなると面白くなってくる。体全体を使って投げる。だがそれはジャンプして取れる球。
「あっ。ごめんなさーい」
「だが生きた球だったぞ。そうやって体で投げるんだ」
(そうか…バランスがいいのは邪魔になる胸がないからかしら?)
 再びボールを受け取る。言葉以上に会話しているようで実はキャッチボールは気に入っていた七瀬である。
 だから自分からグローブを持ってきたし男にもなってきたのだ。
(これだと男同士も悪くないかもね…)
 「父子の会話」は時間を惜しむように続いた。

及川家
07:34p.m

 ちゃんと元に戻るならこの姿での入浴も最後。だからかどうか今度は虹子が入るのをいやがらなかった。
 正直な話、気持ちよかったのである。まさに痒い所に手が届く。そんな間柄である。
(女同士って…母と娘ってこんな感じかなァ…優しくされて女は優しくなるのかな…オレも優しくしてあげなきゃだめだなァ…)

赤星家
8/31 08:00a.m

 いよいよ予定通りならこの日の五時には元に戻る。だから
「四日の間お世話になりました。ありがとうございました」
 みずき(七瀬)は頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ働かせてごめんなさいね」
「うむ。体はみずきでも中身は七瀬君だ。働いてもらった分は給料として払わなくてはな」
 言うと秀樹は茶色い封筒を差し出す。表には「及川七瀬様」と書いてある。
「そんな…ご飯だって食べていたしそれに…その…楽しかったし」
 これは社交辞令ではなく本心である。「小柄な女の子」として色々服を着られたのが。そして「男の子」として男同士のやり取りに入れたのも。
「まぁ受け取っておいてくれたまえ。ただあいつ(みずき)には言わないでな」
「(くすっ)はい」

及川家
08:02a.m

 さすがに三度目の朝で着替えもスムーズに行くようになった。パンツルックにしようとして思いとどまる。

「おはようございます。おばさん」
「おはよう…あらあら。無理してスカートはかなくてもいいわよ」
 七瀬(みずき)は普段どおりのジャンバースカート姿だった。
「いえ。この体をあいつ(七瀬)に返す日ですし。それからあの…」
 意外な申し出だったがみずきの優しさと解釈した虹子はそれを引き受けた。

商店街
01:01p.m

「みずき」
と…みずきが七瀬に呼びかけるのも奇妙だが実際は逆なのだからあってはいる。
 みずき(七瀬)は店の買出し。七瀬(みずき)は夕食の買い物である。
 みずき(七瀬)は七瀬(みずき)の顔を見て驚いた。薄くだが化粧していた。
「どうしたの…それにずいぶんと仕草が女っぽくなったんじゃ」
「この体だと…そしてスカートだとそっちの方が動きやすいみたいだ…お前こそずいぶん大きく足を広げて歩くようになったな」
「うん…ズボンって楽ね…」
 言外に互いにばれたことを察した。
「そうか…ところでどう? 似合っているか?
 なんだか四日の間と言えど女の子だったせいかなんとなくだけど考え方がわかった気がする。特に生理には参った…だからこの体。綺麗にして返したいと思って」
「自分の顔にいうのもなんだけど…綺麗よ。私も半分だけど男の子をして見てなんとなく理解できたわ」
「癪だけど…あの神父の言う通りだったな…」
「そうね…相手の立場に立って初めてわかることもあるのね…」
 そこに結論が達した。二人は互いの買い物のために分かれた。

喫茶レッドスター
03:21p.m

 最後までウェイトレスを希望したみずき(七瀬)だったのでその通りにしていた。
 注文を取ってカウンターに行きかけたとき眩暈がした。思わず目を覆うみずき(七瀬)。倒れる。
「どうした? 七瀬くん」
 異変にかけ寄る秀樹。
「あ…叔父様…この感覚…最初に入れ替わったときと…」
 言葉が途絶えた。糸の切れた操り人形のように四肢が脱力する。
「しっかりしろ。七瀬くん。七瀬くんっ!!」
 その言葉が届いたか目覚めるみずき。
「う…うーん…オヤジ? ここ(自分の家の)店じゃねーか? 店の外には来たが…この声…オレの声…」
「みずき…元に戻ったのか?」
「事情は知ってるみたいだな。オヤジ…今何時だ?」
 壁掛け時計を見るみずき。3時半。
「みずきっ」
 今度は七瀬が飛び込んでくる。こちらも明らかに元に戻っている。みずきの言葉どおりならちょうど外にいたわけだからこのタイミングもうなずける。
「元に戻ったのね」
「ああ。だがしかし…誤差で片付けるにはすこし早過ぎるよな…」
 猛烈に嫌な予感のした二人は店を飛び出して教会へと出向いた。

町外れの教会
04:46p.m

 探していたので手間取ったがそれらしい場所を見つけた。
 二人はそっと入ってみる。中には一人の中年女性がいた。恐る恐る尋ねる。
「あの…クルーズ神父はいらっしゃいますか…」
「それがいないのよ。次の説法会のお話をしに来たのに」
 どうやらここがクルーズ神父の教会には違いないようだ。それなら神父はどこに?
「七瀬。これを見てみろよ。このろうそくの台。一本だけろうそくが燃え尽きているぜ。単に交換が後回しで神父はろうそくを買いに出ているって落ちもありえるが…」
 七瀬は前々日に榊原たちとかわした会話を思い出していた。

 「斑信二郎」は「燃やす能力」と「魂を入れ替える能力」を両方持っているのではないか…と。

次回予告

 そのころ姫子たちは何をしていたか? 妹・愛子から電気街のイメージを間違って吹き込まれた姫子は行って見たいと切望する。だがさすがの風魔も不案内。そこで選ばれた案内人は上条だった。綾那。そして護衛の十郎太をまきこんでの珍騒動

 次回PanicPanic第18話「ツール・ド・電気街」

 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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