第19話『Death man』

 夏休み。この長い休暇は暑さ以上に私をいらいらさせる。『家族』との接触が多くなる。それだけ『趣味』に割ける時間がなくなってくる。
 フラストレーションを発散させる場を失い必要以上の接触。そしてかぶり続ける仮面が私をいらだたせた。

 私の名は斑信二郎。だが現在は中尾勝の顔と肉体。そして社会的信用を得て町に溶け込んでいる。
 けだるい朝だ。そろそろ限界だ。殺しをせずにはいられない。そうだ。それが私の『趣味』だ。
 タバコをやめられないスモーカーのように私は殺しをやめられない。私にとってはタバコをすうのと同じくらい他人の命は軽い。
 これは私が肉体から肉体に渡り歩ける能力を有していて事実上死なないからだが。そして中尾勝の肉体を奪ったのでこうしている。
 この肉体は健全な生活をしていたらしくよく鍛えられている。大変気に入っているのだが妻子もちというのはまずかった。
 前の浮浪者は戦える体に戻すまで時間を有したが、しがらみがないので気楽だったが今度はその逆だ。
 幸い『中尾の肉体』が覚えていることは魂の入れ替わった今もわかる。だから教師として教壇にも立てるし妻や娘の過去も知っている。
 しかしそれと自分を殺して芝居をするのは違う。皮肉なものだ。人を殺し続けるこの私が妻子の前では『自分』を殺し続けるのだからな。
 だから余計に『他人』を殺したくなる。
 いっそこの二人を亡き者にするのも手だ。私の力は死体を跡形もなくマリオネットの炎で焼き尽くせる。証拠は残らない。
 だが妻子が消息を絶って警察に駆け込まない夫がいたら間違いなく疑われる。知らん振りを決めても登校しない娘がいればクラスメートや担任も事情を聞きにくるだろう。
 いくら私が無敵でもそんなに一度に相手にするのはいささか骨が折れる。戦争のようにただ殺すのは私の趣味ではない。
 相手の悲鳴に酔い恐怖の表情を愉しみ絶望に打ち砕かれる様を堪能する。『人を超えた私にだけ許された高尚な趣味』だ。
 『人間』は狐を狩り、ウサギを狩り、鳥を撃ち、魚を獲る。自分より弱いものをどうしてもいいという理屈なら誰よりも強い私が『人間』をどうしようといいだろう。

 だがこうして他人に成りすますのもスリルがある。
 先日も中尾がタバコを吸わないのに、私がつい職員室でタバコに火をつけたのを見られて不審がられた。
 そのときは『あの事故』で嗜好が変わった事にしておいたが。
「あなた。おはよう」
 妻の百合子が笑顔で挨拶をする。倦怠期というものではないのか。この笑顔。
 どうも中身が入れ替わったことで改めて惚れたということらしい。
 私としてはひどく迷惑な話だ。それだけ注目を浴びることになるし。だが無視も出来ない。
 まさか中身の人格が違っていることなど想像できるはずもないが、ネガティブファクターは取り除いておきたい。
「ああ。おはよう」
 朝食の席に着く。もっともらしく新聞を広げる。だが文字など読んでいない。見ているのは台所にいる「妻」の後姿だ。
 普通の男なら尻にでも目がいくのだろう。ロマンチストなら髪の毛か。
 私の場合は『うなじ』だ。正確にはそこから首そのものをイメージする。
「絞め殺したい」
 時たま頭をもたげるその衝動を必死に押し殺す。今はダメだ。まだ『殺しのとき』ではない。

「おはよう。めぐみ。早いのね」
 ピンクのパジャマ姿で『娘』が食卓に着いた。この娘…何を考えているか計り知れぬ。思春期特有の雰囲気かもしれないが…まぁいい。小娘一人。どうということもない。

「おはよう」
 あたしはママ。そして『パパ』に朝の挨拶をした。『パパ』は値踏みでもするようにあたしの事を見ている。
 厭らしい目ではない。もっと冷たい…まるでお肉屋さんに出す牛でも見ているかのようだった。
 あたし、中尾めぐみはパパのこんな目を見たことはなかった。そう。あの『事故』までは。
 殺人犯ともみ合って相手を死なせてしまってからパパは変わった。
 記憶はちゃんとしている。けれどなんだか違う。誰かがパパを演じている。得体の知れない誰かがパパに成りすまして家に侵入している。そう思えて仕方ない。
「おはよう。めぐみ」
 「パパ」が穏やかな声で言う。猫なで声じゃない普通の声だが、あたしの思い過ごしなのかどうにも芝居のように思えてならない。
「……おはよう……パパ…」
 あたしも「パパ」を見つめた。この違和感を解き明かしたかった。
「どうしたの? めぐみ。パパをにらみつけたりして」
「う…ううん。なんでもないの」
 何も感づいてないのかママは平穏そのものの声で「さぁ。早く食べちゃいなさい」と言った。

 この小娘。何かを感じ取っているのかたまに私をこうして睨み付ける。いや。「凝視」とか「観察」のほうがしっくり来るか。
 この娘がマリオネットマスターなら私の「能力」を感知もしようが、見る限りその素養はない。たとえあったとしても私は自宅で能力を見せたためしがない。
 とはいえ、記憶はあれど魂は私。性格も斑信二郎のもの。当たり前だが「中尾勝」とは著しく違う。その違いに戸惑わぬはずもないか。
 困ったことにもともとの中尾はおしゃべり好きな男だったらしく、そこが一番の違いとなっている。まぁ食べ物を口に含めばしゃべらずにすむ。朝食にありつくとしよう。
「あら? パパ。それはにんじんのあるほうよ」
 しまった! 私はにんじんは別に苦手ではない。だが中尾は大のにんじん嫌いだ。くそっ。やはり食生活は要注意だ。

「ああ。だがめぐみの手前私が好き嫌いしてはいかんだろう」
 本当にパパは変わった。今までと好みも変わっている。前は娘のあたしが注意するほどにんじんを口にしなかったのに今ではたびたび口にする。
 間違って食べたという感じじゃない。反対にあれほど好きだったジャガイモを食べるとき嫌そうな顔をしている。
「ごちそうさま」
 あまり食べずにパパは席を立つ。
「あら?もういいの」
「ああ。今日はちょっと出てくるよ。お昼はいらない。明日から新学期なので色々とあってね」
 そそくさとパパは立つ。

 そうだ。明日から新学期だ。今度はあのやかましいガキどもと付き合わねばならん。それにあの「塾長」。私に敗北感に近い感情を与えたのはやつで二人目か。
 一人目は上条繁だが。両方ともいつかは殺す。だがまだそのときではない。これもまたおつなものだ。
 ふつふつと復讐心をたぎらせ晴らしたとき。私はどれほどの快感に打ち震えるのだろう。楽しみだ。
 とりあえずあの鬱陶しい「妻」と「娘」から明日以降は解放されるが待ちきれない。どこかに行こう。そして場合によっては…

 「パパ」の姿が見えなくなったのを確かめてからあたしはママに言った。
「ねぇ。絶対変だよ。パパ。あんなんじゃなかった」
 あたしにはどうしても以前のパパのようには思えない。まるでパパの中身だけ入れ替わったようだ。もちろんそんなことはありえないのだけど。
「にんじん食べるし。タバコもすってたし。何より暗いよ。あの事故から本当に人が変わったよ」
「そんなこといわないの。めぐみ。仕方ないわよ。事故とは言えど。そして相手が殺人犯といえど死なせてしまったのですもの。きっと今でも心の中で謝り続けているから明るくなれないのだと思うし、タバコもそのイライラを沈める手段かもしれないし。
 食べ物だってにんじんのおいしさに気がついただけかもしれないわ」
 ダメだ…ママはすっかり「あいつ」を信じている。あいつはパパなんかじゃない。
 何の証拠もないけど…あえて言うならあたしを見るぞっとする冷たい目。あれは絶対にパパのものじゃない。

 さて。どこへといったものか。そういえば…傷も一瞬で癒えたので忘れていたが、夏休み前にひどい目に遭わせてくれた少年がいたな。ウチのクラスの赤星みずきと同様の技を使う少年。何か関係があるのか。ちょっと探りに行くのもいいかもしれない。どうせ暇つぶしだ。
 私は駅へと向かった。

 乗り換えのとき。意外な顔を見た。上条明だ。そして若葉綾那もいる。若葉はあの上条に気があるようだからいつもくっついているがどこがいいのだか。
 とは言えど少々あの男がどこへ行くのか気になってきた。もしやこれから赤星と合流するのかもしれない。
 あるいはあの親父。私に敗北感を植え付けた上条繁がらみの可能性も。
 いいだろう。特に当てもない。私はリトルデビルを発動させた。二十メートルおいて尾行する。そのときだ。
 いきなり若葉が振り返った。それも「呼び止められた」とか「何かを見つけた」という感じで。この人ごみ。そして距離では簡単に私の姿は視認できまい。
 だとすると「ゴーストフェイスキラー」そしてそれから切り離された「リトルデビル」を感知した? まさか…な。
 須戸完がマリオネットマスターだったのはまだしも、他にもそんな能力者がごろごろいた日には…とりあえず慎重に尾行した。念のため電車の車両も隣にした。

 やがて到着した駅。私も試しに降りてみる。ここは…電気街? まぁあのオタク族が来る場所とは聞くが。
 迷いなくあの男は歩き続ける。やがてとあるビルに入る。ここは? 「プレイヤーズ」? どんな場所かは知らないがさすがに私だと『浮いてしまう』場所のようだ。
 なにしろいわゆる『オタク』と思しきやつらが闊歩しているのだ。往来なら通りすがりを装えるがビルの中ではそれなりの目的がある。直接の尾行はあきらめてリトルデビルだけを追跡させる。私自身は人待ち顔で立っている。
 そして上条は目的の回についたようだ。ポケットサイズの何か出したが…向かいにいる男も同じように出した。
 それを互いにどういうわけか窓ガラスにかざして奇妙なポーズをとり『変身』と叫ぶ。それから卓につくとそれぞれその『何か』からカードを出した。
 どうやらただの遊びらしい。無駄に時間を過ごしてしまった…だが上条明。父親とは違う『恐ろしさ』を感じる。心の奥底に何か。子供のような男だがそれだけに善悪の区別がついていないかもな。

 もっとも私ははじめからそんなもの取り払っているか。

 とんだ寄り道をしたが目的の駅へと降りた。
 さて。赤星の実家は喫茶店だったな。とはいえど私が客として行くのはよいが、そこで赤星本人と出くわしたら厄介だ。
 何の理由でわざわざこんな学校からも『中尾の自宅』からも離れた店に来たのかとなる。
 あの娘。おっちょこちょいだが学業は悪くない。実際に頭もいい。勘繰られるのはかなわん。
 私はなんとなくだが商店街を歩いていた。もちろん赤星の実家を目指してであるが。だがそこで別の人物を見かけた。
 及川! そういえば住所は近かったな。幼馴染を通り越して腐れ縁だったそうだな。いても不思議はないが…何かが変だ?
 あの娘。大柄ではあるが北条とはタイプの違う『女性的』な娘だった。だが今の及川はどこか違う。
 たぶん『中尾』をよく知る人物が見たら『私』を不自然に思うだろうな。そんな感じだろうな。まさか…入れ替わり?
 そうかと思えば今度は目的としていた赤星だ。こちらは男並みにがさつな筈だが今のはまるでそれを感じさせない。この二人。まさしく入れ替わったようだ。
 他の人間この発想に至れば『何を考えてんだ』となるが私は何しろ私自身が証明している。
 もしやどちらかがマリオネットマスター? 私のゴーストフェイスキラーが気づかれると厄介だ。こんな街中で騒がれてもかなわん。この場は立ち去るとしよう。 

 さて。手持ち無沙汰になったな…かといってそんなに早々と『家』に帰るつもりもないし。まだ二時だ。
 私は本当になんとなくだが町外れまで来てしまった。
 ふふ。そういえぱこの肉体を得る前のろくでもない思い出しかない浮浪者時代だが、こういう風に気ままに動いて当たったこともずいぶんあったな。
 なにしろ気まぐれで来た町で『趣味』に走りしくじって逃走した形だがこの『中尾』と出会えたのだから。
 だからというわけでもないが私は偶然を信じている。何かがある。このあたり。例えば…あの教会だ。
 私は入ってみることにした。

 ステンドグラスが陽光で輝く。天窓から光が差し込み暗い建物の中を照らす。なかなかに荘厳なものだが私には無縁のものだ。
 何しろ私は人を殺しすぎた。『天国』には間違ってもいけまい。地獄行きは確実だろう。
 万が一に死ねばの話だがな。
 もっとも私は何度となく死を経験している。だから私は「死」に対する恐怖が麻痺している。
 Death Man(死人)がいまさら死を恐れるはずもない。

 教会の中には誰もいなかった。いるのは小うるさいハエだけだ。神父はどうした? まぁたまたまはずしてもいるのだろう。
 辺りを見回すと小部屋を見つけた。あれが『懺悔室』か。私が懺悔をしたら一週間寝ずに告白しても足りないだろうがな。
 本当に興味本位で部屋へと入る。

 まるで電話ボックスのような小部屋だ。そして向こうの…神父が入るであろう方の部屋だが小窓だけなので人がいるのかどうかさえわからない。だから
「懺悔をなさりたい方ですか。少々お待ちください」
 この言葉に驚いた。何の都合かは知らないが…さしずめ聖書か何かをここに忘れて取りに来たというところかたまたまこの小部屋にいたらしい。だから見かけなかったのか。
 「間違い」とでもいって出ようかと思ったが…いや。かえって不自然だ。それに…これも面白いか。私は浮き上がらせた腰を下ろした。
「はい。私の罪を聞いていただけますか」
「どうぞ。お話ください」
「はい。実は私は人を殺しました」
 単刀直入にいってみた。小窓のせいで神父の顔は見えないが、息を呑んだことは明白だ。
「それは…堕胎をしたということですか?」
 新聞を見れば毎日どこかで殺人は起きている。だがそれはあくまで活字の向こうの世界。見知った町で、何気ない日常で「殺人」などという非日常的な行為があるとはにわかには信じがたいのはわかる。もっとも私には「日常」そのものだがな。
「私は今は教師をしています。だが、梅雨のころに『教え子』を手にかけました。
憎しみでもない。金のためでもない。ただ殺したいから殺しました」
 しばしの沈黙。そして搾り出すように「なんということを…」という。
 まぁ当たり前の反応だな。面白くなってきた。
「償いなさい。警察に自首してそしてその教え子に生涯かけて謝罪しなさい。さすれば神もあなたをお赦しになるかもしれません」
「それは無理でしょう」
 私は芝居っ気たっぷりに言う。これだ。これが面白いんだ。
「なぜそのようにおっしゃるのです?」
「私が殺したのは一人では利きませんから」
 それから私は思い出せる順に五人まで殺した状況を説明してやった。
「も…もう結構だ。あなたは呪われている」
 さすがに激昂して神父が言う。立ち上がってもいたような音がする。私はさらに「せりふ」を続ける。
「そうかもな。そして今ここで殺したいのは…神父さん。あんただよ」
 「芝居」のクライマックスが近づいてきた。

 神父は懺悔室から逃げ出した。これは意外といえば意外。確かに狭い場所ではわが「ゴーストフェイスキラー」が「導火線」を取り付けるのに有利だがそれをこの神父が知っていたとも思えん。
 むしろ「壁」が邪魔で安全と考えるはずだ。
 ステンドグラスからの光で照らされた神父の顔は声のイメージどおりの壮年だった。日本人でないのは発音でピンと来ていた。
「あなたは罰せられねばならない。神の裁きを。人の捌きを受けねばならない」
「御免だな。長すぎる人生だがまだまだ楽しみたいのでな。生きるために他の命を奪う。それは摂理だろう。ただあんたの番が来ただけだ」
「それは糧を得るため。あなたのは呪われた行為だ」
「さすがに神父は説教くさい。そろそろおしまいと行くか」
 油断していたのは認めよう。私は無造作に近寄った。神父の背中から何かが出た。何!? マリオネットだと?
「ファイナルカウントダウン」
 いかん。近づきすぎた。神父のマリオネットのリーチが届く。私は不覚にも拳を食らった。その直後に私の魂が引き離された。そして飛んでいたハエの中へと吸い込まれた。

 見えるのは随分と高い位置からの白黒の世界。人間の前方180度の視界と違い後ろまで見える。
 私も色々な肉体を渡り歩いてきたがさすがに人間でないものになったのは初めてだ。
 さて。どうしたものか。とりあえず魂だけの状態にならなかったのはよかった。
 何しろ私に殺されたやつらが私を地獄にエスコートしようと、手薬煉引いて待っているからな。だがハエの体といえど肉体を得ていれば手出しは出来ない。
「この私。ジョン・クルーズが神の代わりに罰を与えます。しばらくおぞましい虫として飛んでいなさい。この間にこの肉体は縛り上げて警察に引き渡します。
 安心しなさい。72時間たてば元の肉体に自動的に戻ります。ですがその間には警察の施設の中にいることでしょう」
 なるほど。そういう能力か。うかつだったな。
 もちろんそうなっても看守なり警官なりの体は奪えるがまた逃亡生活になる。ここで取り返しておいたほうがいいな。
 慣れないハエの体でなんとか燭台に近寄る。よし。そしてゴーストフェイスキラーを発動させた。蝋燭が炎上する。
「な…なんだ?」
 突然ろうそくが燃え上がったので神父が驚いている。もっと驚くことになる。私はそのまま炎の中に飛び込んだ。文字通り「飛んで火にいる夏の虫」だな。
「ば…馬鹿な!? 72時間たてば戻れると言ったはず。それなのに悲観して焼身自殺か」
 神父が十字を切る。ハエの体はあっという間にこげて私はハエの肉体から解放された。
 このゴーストフェイスキラーには二つの能力がある。ひとつは今見たように物を燃やす能力。導火線さえ取り付ければスチールだろうと燃やせる。
 またコントロール可能なので、満員電車の中で車両に焦げ跡もつけずに一人だけ焼き尽くすことも出来る。この場合はハエの体を焼く必要があったが。
 この能力は肉体を得ていないと発動できない。なぜなら魂だけのときは別の能力が出るからだ。私が焼身自殺もどきの行動を取ったのも魂だけになる必要があったからだ。
 ゴーストフェイスキラーは大鎌で「中尾勝」の肉体にくくりつけられたハエの魂を切り離し私の魂を中尾の肉体につなげる。よし。元通りだ。
 「私」のために祈りをささげていた神父が気がついたがもう遅い。私。そしてゴーストフェイスキラーの腕がクルーズ神父の首をつかむ。
「な? どうして…死んだはずでは」
「私は不死身だよ。こうして肉体を乗り移ってきていたのでね。それにしても恐れ入ったよ。『魂を入れ替える能力』とはな。似たような能力を持った相手と戦うとはな」
 私は腕に力を込める。神父の顔が苦悶にゆがむ。すでに導火線は取り付けた。
「くっ…」
 神父のマリオネットが私めがけて拳を振るうが今度はわかっているのだ。ちゃんとゴーストフェイスキラーでガードする。
「入れ替えようにもハエはもういないようだな」
 手段を封じられ神父は絶望した。さて。決めのせりふといくか。
「私の名は斑 信二郎。いわゆる殺人鬼だ。いつもならここで今まで殺した相手のことを語るがそれはもう終わっている」
 私は腕を放してやる。神父が大急ぎで呼吸をする。不思議に思いながらも助かったと思っているだろう。だから…
「今、殺しのときだ」
 ぱちんと指をはじく。希望から絶望へ。神父に取り付けた導火線が彼を火達磨にする。
「ぎゃああああああっっ」
「天国にいけるように祈ってあげよう」
 ふざけて十字を切って見せる。
「か…神は…あなたを許さない。地獄に落ちることになるぞ…悔い改めよ…」
 それが最後の「説教」だった。彼は動かなくなったので一気に燃やし尽くした。生きながらの火葬が終了した。髪の毛一本も残っていない。
 他にもマリオネットマスターとであったことはあるが、魂だけでマリオネットを繰り出せるのは私だけらしい。

 地獄に堕ちる…か。殺しをせずにはいられないこの魂は、すでに地獄に堕ちているのかもしれない。
 私は満足して教会を後にした。今夜はぐっすりと眠れそうだ。さぁ。明日から二学期だ。

 私の名は斑信二郎。今は中尾勝の肉体と社会的信用を得て町に溶け込んでいる。私は日常に潜む悪意にして死人(しびと)。

次回予告

 二学期開始。久しぶりの旧友との再会に喜び合うクラスメートたち。長い休暇の間に少なからず変化のあった面々もさすがにみずきの登校初日には驚かされた。彼女に何が起こったか?
 次回PanicPanic第20話「飛び込んできた天使」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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