第20話「飛び込んできた天使」Part4   Part3へ戻る

 夜九時。北条邸。姫子が電話に出ていた。相手は七瀬だ。
「まぁ。みずきさんが」
『そうなの。まだ帰ってないんだって。しかも奈緒ちゃんまで連れて。私と会ったのが五時くらいだからいくらなんでも遅すぎるわ。それで』
「わかりましたわ。探してみますね。折り返しお電話を差し上げますのでお待ちください」
『お願い』
 七瀬との通話を一度切ると姫子は、精神を集中させ自らのマリオネット。姫神を呼び出す。
「お願いしますね。今は女の子のはずですからわたくしにも気配は探せますわ」
 しばし瞑想するように探していたが
「これは…大変なことのようですわね。十郎太様に相談いたしましょう」

 埠頭。倉庫の中。みずきと奈緒は車の中に閉じ込められていた。
 拉致されたときには奈緒は寝ていたが、直後に目を覚まして泣き出した。しかし今は泣きつかれて眠っていた。
 みずきはいまだ薬が効いて眠っていた。正確に言おう。眠っているうちに再度薬をかがされたのだ。
「薬はどのくらいで体内の残留が消える?」
 満が現場にいた。どうしてもその目でしとめないと信用できないらしい。
「恐らくは三時間ほどで」
「よし。それまでに母親が見つからなかったらかまわん。この娘と心中したことにしてやれ。ところで…本当にそんなことが出来るのか?」
 満は異彩を放つ男に尋ねる。マントで体を覆った男は黙って芝居がかったしぐさで両手を大きく広げる。
 すると眠っているはずのみずきが、夢遊病者のようにドアロックをかけた。そしてイグニッションキーに手を伸ばす。
「わかった。だが今はやるな。ここで死ぬと体内に薬が残り司法解剖でばれる」
 いわれて男は念じると眠ったみずきは手を下ろし眠り続ける。
 そうだ。この男もマリオネットマスター。能力は単なる念動力だが、それでも内側からドアをロックして、排ガスによる無理心中に偽装するくらいは出来た。
 そして日本警察はこのジャンルには頼ってないので、どうしても自殺と断定するだろう。
 奈緒を殺すだけなら方法はいくらでもあるが、殺害となるとまず遺産の話は凍結されるだろう。
 だが病死。事故死。そして無理心中に巻き込まれたという形ではどうか。はっきりしているだけにそのまま別の展開に出来たはずだ。
 即ち…満が相続できると。それが望みだった。
「だがやはり死ぬなら無関係のこの娘が可愛さで連れ去ったはいいが、罪の意識から自殺したというのではなく、永田さやかが生活に疲れ果てて心中というほうがシナリオとしてはいい。
 まだ見つからないのか?」
「はっ。未だ連絡はありません」
「急がせろ」
「満様ぁ。もし母親が見つかった場合この娘は?」
 邪な期待をした配下の問い。満はにやりと笑うと
「そうだな…暴行された末に殺されたというのはどうだ? 無論DNA反応は残るがそれでもいいならな」
 それにもかかわらず盛り上がる配下たち。頭が良くなさそうだが女子高生。みずきの健康的な色気を振りまく四肢と寝顔を見せられて理性が飛んでいるところもあった。

 そのころ。
「見つけたぜ」
 ついに永田さやかが袋小路に追い詰められた。
「あっ…あああ…」
「へっへっへ…」
 恐怖に駆られる彼女。下卑た笑みを浮かべる別働隊二人。そのときだ。
「ふはははははははは」
「な…なんだ?」
「どこからだ」
 怪しげな笑い声に二人もおびえた声を出す。
「とおっ」
 その怪人は上から降りてきた。野球のユニフォーム。口元を覆うマフラー。目元を隠す仮面。そして赤い裏地の黒マント。
「だ…誰だ…てめぇ」
 問いかけながらも半分逃げかかっている。それほどまでに強烈な姿だった。もちろんこれを計算しての奇抜さだが。
「ふっ。貴様らごとき木っ端に語るほど、安い名も持ち合わせておらぬがあえて名乗ってやろう。悪事を為すとき恐怖とともに思い出せ。この名前。
 私は…地獄から来た愛の戦士。野球忍者。ビッグ・ワン」

 殺人鬼。斑信二郎さえたまげた相手である。単なる走狗ではたまったものではない。
「や…やろう。ふざけやがって」
「ぶっ殺してやる」
 二人は改造拳銃を手にした。密輸品の精度の悪い安物である。それを恐怖に駆られた心のままに撃つ。だが
「ふははははははははは」
 ビッグワンはマントを翻して回転する。まるでこうもりの羽のようにふわり広がる。
 やがて二人は弾倉のすべての弾を撃ちつくした。そして呆然とする。
「う…ウソだろ…」
「体の真ん中を狙ったんだぜ。いくらでたらめに撃っても半分くらいは当たっているはずだが」
 しかしビッグワンはぴんぴんしていた。
「ふんっ」
 マントをまた翻すとは幾つもの弾丸が落ちる。
「悪の心に貫かれるほど、このマントは安っぽくはないぞ」
「ば…馬鹿な!? 仮に防弾チョッキの素材にしても通さないだけならまだしも…」
「すべてからめとって防ぐなんて…人間業じゃない」
「さぁ。今度はこちらから行くぞ」
 ビッグワンはゆっくりと二人に接近する。
「に…逃げろ。こんなのと戦えるか」
「金をもらっても割に合わない」
 任務も意地もなく二人は遁走した。銃で倒せない相手を二人掛りでも格闘して勝てると思えなかった。
「逃さん。貴様らには証人になってもらうぞ」
 いうなり彼はバットを取り出してボールを打つ。野球の守備練習でやる「ノック」だ。しかも一球にとどまらずそれこそガトリング銃のように乱射される。
「千本ノックぅぅぅぅぅぅっ」
「ぐぎゃあああああっ」
 哀れ二人のチンピラは全身打撲で気絶。そこを縛り上げられた。本部へと連絡を済ます。そしてビッグワンは永田さやかのもとへと歩み寄る。
「大丈夫ですか? 永田さやかさん」
「ど…どうして私の名前を?」
 奇矯な怪人だが護ってくれたし紳士的な態度。そのせいかさやかはおびえた態度は見せなかった。
「お嬢さんはお元気ですよ。さぁ。逢いに行きましょう」
「奈緒が。奈緒は無事なんですか?」
 怪人を不審に思うより愛娘のことが気になる母親だった。それを見たビッグワン…赤星秀樹は
(なるほど…奈緒ちゃんがみずきにだけなつくわけだ…)
一人頷くのであった。パトカーのサイレンが近づいてきた。

 埠頭。満はいらいらしていた。
「定時連絡はどうした。電話がダメでもメールくらい来ないのか」
「はっ。未だありません」
「ちっ。仕方ない。やれ」
 満はマリオネットマスターに命じて「排ガス自殺」を偽装するように仕向けた。だが
「うおっ」
 あっさりと背中にくないを受けてうずくまる。どうやら予知能力はなかったらしい。
「だれだっ」
 予想外の展開にうろたえる。だがもっとあわてることになる。何しろ倉庫の扉が破壊音とともに吹っ飛ばされたのだ。
「な…なんだ…ガキ?」
 破壊された扉の向こうにいたのは上条と綾那だったのだ。二人が「爆熱ラブラブ龍気炎」でやったのは明白だった。
「ひどい。みーちゃんや奈緒ちゃん殺そうとするなんて。許さないから」
「覚悟しろ…今の僕は『凄まじき戦士』だぜ」
 綾那がひどく憤慨していた。上条も本気なのかいつもの乗りがなかった。だがそれに代わるがごとく三人の少女が。
「ふっ。いたいけな赤ちゃんを手にかけようとは言語道断。この麻神久子が正義の裁きを下して差し上げます」
「かっこいいですわぁ。まじんちゃん。もちろん私・谷和原友恵も正義クラブの一員として。いやそれ以前に人としてあなた方を許す道理はありませんわ」
「こ…降参したほうがいいですよ。今日の占いだと…」
 正義クラブ三人が名乗っていた。もちろん犯罪行為真っ最中の満が黙ってやらせるはずもない。
「ちっ。見られたか。始末しろ」
 全員の注意が扉に向かった。上条が腰だめに構える。二つの手のひらの作り出す宇宙に雷鳴がとどろく。
「龍気炎」
 雑魚の一人を吹っ飛ばした。それが号砲となった。
「えーいっ」
 綾那が高く飛ぶ。そして集団めがけて飛び降りる。
「エアスラッシュ」
 いくら綾那が小柄でも四十キロ近くはある。それが3メートルの高さから落ちてくるのだ。ダメージはかなりのものだ。
「ぐぎゃああああっ」
 哀れつぶされた男は車に轢かれた蛙のようにぺしゃんこになる。

 完全に『くないを投げた者』を失念していた。それが天井から降りてきた。
「えいやぁ」
 飛び降りざま十郎太は手薄になった警備を蹴散らす。
 そして真理がガンズンローゼスをロープ代わりにブランコのように降りてくる。もちろんついでに警備を蹴っ飛ばすのも忘れない。
 ガンズンローゼスをロープとして榊原がビッグショットで。七瀬がダンシングクィーンで。姫子が姫神でそれぞれマリオネットが「ロープ」を伝って降りてくる。もちろん本体もそれに伴っている。
「陽動作戦成功だな。北条。(二人を)出せる?」
「やってみますわ」
 榊原の問いかけに姫子が中の二人をテレポートさせようと試みるが
「ごめんなさい。やはり障害物があると人の移動は難しいです」
「理屈はどうあれダメだってんなら…直接壊すまでだな」
「させるかぁ」
 満のマリオネットマスターが汚名返上とばかりにマリオネットをむき出しにして襲い掛かるが
「邪魔だよ」
「ぐぎゃあっ」
 マリオネットがビッグショットのパンチを食らい本体も気絶した。
「さっさと出さないとな」
 榊原のビッグ・ショットが窓ガラスをぶち破る。
 二人にガラスが当たらないように後部座席のそれを破壊してドアロックを外す。
 そして今度は前方のドアロックを外してみずきたちを車から引き出した。十郎太と真理がガードをして相手を近づけないようにしている。
「みずき。みずき」
 七瀬が呼びかけるが眠ったまま。
「薬か…」
「そういうことでしたらお任せください」
 姫神がみずきの体内をまさぐる。そして体内の「毒素」を見つけ出して取り除いた。
「う…うん…」
 焦点の合わない瞳でみずきが目覚めた。
「みずき。よかった」
 安堵の涙を流す七瀬。
「七瀬…ここは…確か薬で眠らされて…はっ!? 奈緒? 奈緒は」
「無事よ。ほら」
 泣きつかれたゆえかすやすや眠る奈緒。それを見てみずきは「良かった」と涙をにじませつつ抱きしめる。

「えいやぁ。えいやぁ。えいやぁっ」
 気合とともに疾風拳という腹部への拳撃が見舞われる。十郎太の攻撃にうめき声すら上げずに男は倒れ伏す。
 目的がみずきたちの救出で、敵の混乱が任務の十郎太はあえて目立つように
 「これぞ。風間流」と挑発的に名乗りを上げる。

「あ゛っあ゛っあ゛〜〜〜っ」
 独特の「濁点ボイス」とともに「正義の鉄槌」と呼ばれる連続攻撃が見舞われる。久子の攻撃に相手は音もなく倒れふす。
 目的がみずきたちの救出で敵の混乱が任務の久子はあえて目立つように
「これぞ、まじん流」と挑発的に名乗りを上げる。
「かっこいいですわぁ。まじんちゃん」
 ビデオカメラ片手に久子を撮りつつも、ひょいっと簡単につっかって来た男を転がして関節を決めている友恵である。
「きゃーっ。怖いのぉぉぉぉぉ」
 と叫びつつ無差別に「戦車(チャリオッツ)」で突き倒しまくっているみなみもいる。

「いやあっ」
 殴った上条が右腕をぶるんと一回振る。そして真正面にけりを見舞う。それから続けざまに左右のパンチ。
 友を危険な目に遭わされたこと。無力な赤ん坊に対しての仕打ち。それが呼んだのは正義の怒りか。破壊衝動か。二つを持つ彼の状態は不安定だった。

「おらおらおらおらおらぁぁぁぁぁっ」
 真理はチンピラの一人の顔面を鷲づかみにするとそのまま猛然と走る。
 満に雇われたものたちは攻撃しようにも仲間を取られているし、それを見捨てても攻撃がそのチンピラを盾にして防がれ届かなかった。
「マンハッタン」
 つかんでいたチンピラを密集していた相手に投げ込む。あとはもう各個撃破だ。

 温厚な七瀬も切れると怖い。彼女はみずきたちのガード担当だったが、ここまでたどり着いたものもいる。それに対して珍しく積極的に攻撃を仕掛ける七瀬。
「赤ちゃんをこんな目に合わせるなんて許せない」
 右。左。続けざまに頬を張る。とどめに天まで届けとばかしに「アレグロ」と呼ばれる蹴りで蹴り上げる。

 さすがに姫子は護りに徹していた…はずが相手の来ないときは弓で援護射撃をしていた。
 おっとりとしている彼女もさすがに怒りを感じていたのかもしれないが、表情が微笑みなのでかえって怖い。

「満様。形勢不利です。ここはお逃げください」
 側近が脱出を勧める。だがここで逃げてもこの闖入者に通報されるのが落ち。ならば

 ぱぁん。乾いた爆発音が響く。銃声だ。動きが固まる。相手が一列になり拳銃を構えていた。
(しまった。いつのまにか俺たちだけに)
 榊原の立てた作戦としては、外から上条たちが派手に乱入してひきつけて今度は内側から十郎太たちが仕掛ける。
 そのドサクサにまぎれての救出。そしてその混乱なら相手が例え銃を持っていても同士討ちを嫌い使えないはず。
 だがいつの間にか二分化されていた。
「こうなったらかまわん。全員の口を封じる。撃ち殺せ」
 直情型の満は激情のままに後先考えずに射殺指令を出す。その刹那に一陣の風が突っ切る。
「大牙(たいが)」
 私兵の何人かが手から血を流して蹲っている。もちろん射撃のできる状態じゃない。
「秋本!?」
 そう。あろうことか助けに来たのはあの秋本。
「どうしておぬしが」
 冷静な十郎太が驚くほどの衝撃だ。血の匂いを嗅ぎ付けて割ってはいることにしたのか。だが
「ちっ。遊べると思ってきてみたら…子供よりたやすいぜ」
 木刀を肩にかけけだるい感じでしゃべる秋本。さらに
「モンキーライニング」
 頭上から春日がロッドを振り下ろしつつ降下。何人かを蹴散らす。
「春日さんまで?」
 七瀬にしても因縁の相手。春日が敵に回るならいざ知らず助けてくれるとは。
「けっ。俺としても貴様らの手助けなんざ真っ平だがな。だがあのお方の命令ならば」
「ええいっ。何をしている。そいつらも撃ち殺せ」
 だがその命令も遂行されない。
「うわあっ。目が…目がぁっ」
「痺れ薬だっ。それが霧にっ」
私兵たちが両目を覆ってのた打ち回っていた。
「かーっかっかっ。口上並べたりするから逆襲食うのよぉぉぉ。卑怯な手というのはいきなりやるもんだぜぇぇぇぇ」
 冬野が毒霧で射撃チームを混乱させていた。それをまとめて
「エレファントプレス」
 文字通り「潰した」のが夏木だ。陣形を立て直す。左から春日。夏木。秋本。冬野。
「ば…馬鹿な。悪漢高校四季隊が」
「俺たちを」
「まぁ。助けに来ていただけたんですね」
「え?」
 みんなは驚くが姫子は喜んでいた。
「勘違いするな。北条姫子。俺たちはお前らを助けたのではない。その不憫な赤子に力を貸しに来た」
 四季隊の中央を割って前に出る男。それは悪漢高校総番。大河原慎。
 戦力を欲する姫子は大河原慎にも頼んだのだ。その命を受けて四季隊が助っ人に来た。
 ちなみに警察に届けなかったのは確信がもてなかったから。それに下手に騒いでみずきたちを殺されてもいけないからである。
 とにかくこれで配下はすべて戦闘不能状態に。
「終わりだな。くだらん夢から覚めてよかったではないか。後は牢獄で余生を過ごせ」
 慎は心から蔑んだ目で満を見る。
「ば…馬鹿な。こんな奴らのために…」
 すべてを砕かれ満は両膝を突く。それがすべての解決を示していた。

「ありがとうございます。総番さん。そして四季隊の皆さん」
 姫子がぺこりと頭を下げる。これには一同も続く。何しろ射殺寸前を助けられたのだ。
「う…あ…え…」
 面白いのが四季隊の反応だ。ならず者とさげすまれたり、恐怖で人に頭を下げさせたことはあれど、感謝されたのは初めてでどう対処していいかわからなかったのだ。
「ふっ。その赤子がいるうちは無限塾に戦争を仕掛けることできん。早々に母親を見つけ出して帰すのだな」
 さすがに慎は大物で悠然と答える。しかしその言葉に猛反発するみずき。
「誰が返すかよ。こんな目に合わせるなんて母親失格だぜ。オレがこの子の母親代わりだ」
「赤星みずき。それで本当に良いのか? お前にとっても。赤子にとっても」
 正論だった。だから言葉に詰まる。

 大勢を決して気のゆるみが出たか満が逃げ出すのに成功した。みずきたちを閉じ込めていた車に乗り込む。
「しまった」
 エンジンをかける。そして逃走かと思いきや、なんとみずきと奈緒をめがけて走り出す。
「きゃっ」
 赤ん坊を抱えてかろうじてかわした面々。そして執拗に付けねらう。
「オレはもうおしまいだ。だが貴様らも無事で済ますか。殺してやる。殺してやる」
 奈緒を抱えて反撃不能のみずきは逃げるしか出来ない。大部分は姫神によって取り除かれたが、若干は薬の影響で足がもつれて転ぶ。
「奈緒」
 固く抱きしめ自分が盾となるつもりだ。まさにそれは母親の愛。それを踏みにじる男が狂気の声を上げる。
「はぁーっはっはっ。俺と一緒に死ねやぁぁぁぁぁぁ」
「地獄へは一人で行け」
 一体いつ。まさに瞬間移動でもしたかのように…止まった時の中を動いたように、上条がみずきたちの前で盾となっていた。
 ぞっとするほど冷たい声で言う。そして渾身のアッパーカット。
「真・飛龍撃」
「ぐぎゃあああああっ」
 車を「止める」どころか「仰向け」にふっ飛ばしてしまった。ひっくり返った亀のように転がり落ちる車。
 とっさに姫子が一人だけの満を救い出す。同時に車が爆発したので間一髪だ。
「す…凄い。見事な神気」
「なんて破気だ」
 正義クラブは「神気」と見たものが四季隊には「破気」に見えていた。
「どういうことだ?」
「それより上条君。車を殴ったりして拳は大丈夫?」
「ああ。このとおり」
 いつもの軽い乗りに戻った上条である。
 拳のほうだが全身を「気」で覆われている。特に拳はグローブのようになっていて、拳を保護すると同時に破壊力を増していた。
 ちなみに飛び上がった直後は全身を気で覆われているため、あらゆる攻撃が通用しない。全身無敵状態である。
(あいつ…赤星みずきを護るために神気を。そしてあの下衆に対する怒りで破気を出しつつ攻撃した。もとは同じといえど二つの相反する気を操るとは…)
 うなっていたのは総番だけではない。榊原もだ。
(どうしてあいつは赤星の前に回りこめたんだ。まるで瞬間移動。まさか…眠っていたマリオネットが発現したとでも…)
「よくやったな。少年たちよ」
 思考もあのビッグワンの登場で中断された。それほどまでにインパクトのある人物だが、今回は入り方が唐突ではあるが地味でもある。
「少女よ。よく赤ん坊を守り抜いた。さぁ。今こそ母のもとに帰すとき」
「えっ?」
 みずきはビッグワンの影に一人の女性がいると言われてはじめて気がついた。
「奈緒!」
 その女性。永田さやかは愛娘を見ると涙ながらに近寄ってきた。その姿を見て一同はひとつの疑問が氷解した。
(なるほど。みずきにだけなつくわけだわ)
(みーちゃんにスタイルそっくり…)
(顔なんかは似てないけど胸元とか小柄な体格とかショートカットとか)
 赤星瑞枝の場合は身長が高すぎたのだ。まさに代理の母を勤めていたみずきは、死線をともに潜り抜けたこともありすっかり情が移ってしまった。
 しかしさやかも放したくて放したわけじゃないのは今の態度でわかった。わずかな期間だけでこれだけ情が移ったのだ。
 おなかを痛めた母親が、親子の仲を引き裂かれるその気持ちはどれほどの苦痛か。赤ん坊が母親と離れて暮らすのが如何に心細く恐ろしいか。
 なんとなくだが感覚で理解できてしまった。だから
「そら。お前のお母さんだぞ。良かったな。もう離れるんじゃないぞ」
 すんなりとさやかに奈緒を渡した。
「まぁま。まぁま」
「奈緒。奈緒。ごめんね。ごめんね。もう放さない」
 固く抱きしめあう親子。嗚咽となってもう何を言っているかわからないが言葉など要らなかった。
(これでいい…これでいいんだ…これが一番幸せなんだ。あれ?…どうして…)
 みずきは自分の頬を熱いものが伝うのを感じて戸惑っていた。感動の親子再会に感涙したのか。それとも…
「ちきしょう。幸せになれよっ」
 自らも母一人子一人だった真理は涙を隠そうともしない。姫子はレースのハンカチで目頭を押さえ、綾那とみなみは抱き合って泣いていた。
「うん。うん」
 なんと総番。大河原慎も頷きながら泣いていた。悪を名乗っているが性根が腐っているわけではない。

「ありがとうございます。ありがとうございます」
 何度も頭を下げてさやかはパトカーに乗り込んだ。もちろん保護のためである。
 満たちは一応の理由は埠頭での大乱闘での逮捕だが、ここから遺産目当ての狂気であることは警察がたどり着くであろう。
 もちろん形式だけみずきたちは事情説明を求められたが、これはビッグワン…警視庁秘密捜査官である赤星秀樹のとりなしで乱闘については不問とされた。
 そうでなくても『素手で突進する車を跳ね返した』など説明したら『馬鹿にしているのか』といわれるのが落ちである。
「行っちゃったね…」
「…うん…」
 さびしそうなみずき。振り回されただけだったのに、いなくなると無性に寂しさが。そして抱いていたぬくもりが恋しい。
「まぁ元気出せよ。将来結婚したら今度は自分の子供作ればいいんだし」
 真理がわざとらしいほど元気に二人の背中を叩きつつ言う。
 もちろん七瀬に生ませろとからかっているのだが、感傷的になったみずきは何も考えず「女の直感」で返答した。
「そうだね…でもいつかあんな子を産みたいな…
「え゛!?」
 固まる一同。正体が男と知らない面々でも十分驚いたが知っている面々はなおさらである。
「あ゛…」
 失言を悟り口を押さえるみずき。たちまち赤くなり

 翌日の無限熟。ホームルームで出欠確認。
「続いて女子。赤星。赤星みずき? 欠席か…及川。何か聞いているか」
「はぁ…ちょっと引きこもっちゃって…」
 榊原たち事情を知るものは顔を見合わせて肩をすくめる。

 赤星家。瑞枝と薫。忍が天岩戸に立てこもったアマテラスを引きずり出そうとする神々のごとく説得を続けていた。
「みずきちゃん。ぜんぜん恥ずかしいことではないわ。それだけ奈緒ちゃんを愛していたんでしょう」
「そうよ。お姉ちゃんは子供産めるんだから将来本当に作ったらいいじゃない」
『うるせー。あんなこと口走って恥ずかしくって学校なんか行けるかよぉ』
 別れがつらくなるほど『母親』として過ごしていたせいか『あんな子が欲しい』というべきところで、つい口走った一言に恥じ入り男バージョンに戻って布団に包まっている瑞樹であった。


次回予告

 夏の終わり。榊原和彦に恋していた少女が報われなかった思いを告白に来た。だが彼女は榊原を美化していた。
本当はばくち打ちで親父ギャグを飛ばし。そしてスケベと知ったら夢を壊すのではないかとみんなは心配する。その「彼女」とは。
 次回PanicPanic第21話「夏の終わりに」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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