第21話『夏の終わりに』Part2   Part1へ戻る

 告白は続いていた。その際に精神があやめなものだから真理が照れたり『きゃっ』と頬を押さえたりという姿は奇異にすら見えた。
 何しろ身長170センチで上から90・61・89という3サイズである。美人とはよく言われるが可愛いとはあまり言われないだけにこのしぐさはまずない。
「なんか新鮮だね…」
「そうですね。普段なさいませんから。真理さんも年頃のお嬢さんですからもう少しやんわりとしていればこんなに可愛くなりますのに」
 綾那どころか姫子にまで勝手放題を言われていた。そのせいか
……いい加減に…人の体から出て行けぇぇぇぇぇっ」
 ついに真理がぶちきれてあやめを追い出してしまった。
「きゃあっ」
 一瞬、真理の姿がぶれたかと思うと重なり合うようにあやめの姿が。そして真理の肉体から弾き飛ばされ地面に転げる。
「いったぁーい」
(幽霊に痛みがあるのか?)
 榊原が心中で突っ込むがどうやら生前の習慣で『転んだ』→『痛い』となったらしい。
「あらあら。大丈夫ですか?」
「ひどいよ。真理ちゃん」
 姫子は身を案じ綾那は同情して抗議する。完全に生身の人間と同じ扱いをしていた。七瀬は目をそむけていたが。
 被害者というつもりの真理としては悪役にされてはたまらない。思わず怒鳴り散らす。
「やかましいっ。人の体を弄んで奪いやがって」
「体を…」「弄んで」「奪う…」
 おもわず鸚鵡返ししてしまうみずき。上条。十郎太。
 確かに意味はあっているが見本にしたいくらい完璧な真理の自爆である。
「だ…だからっ…そういう意味じゃなくてなあっ」
 失言を悟り真っ赤な真理である。
「ええっ。困りますっ。幽霊といえども女です。女の方とのお付き合いはご遠慮させてください」
 当事者であるあやめにとどめを刺された。
「あんたはだまってろっ。カズ。あんたも何か言って…」
(この娘と村上がくんづほぐれつ…げへへへへへへ…村上のダイナマイトボディとこの娘のスレンダーボディがあいまって…ご飯三杯はいけそうだっ)
 幻滅して恋が冷めても成仏できるのだが、それはなるべく避けたかった響子は百年の恋も冷めそうなスケベ面を目隠しでさえぎった。
「そーかそーか。あんたのほうが幽霊になって添い遂げたいか」
 心を読むまでもない表情をしていたので真理のほうもいきなり戦闘体制である。
「ちょ…ちょっとまてっ。校内暴力反対。先生も何か」
「村上さん…言っておくけど…殺しちゃだめよ」
「殺さない程度ならOKですね?」
 どうやらある程度は能力と関係。そして人間性を把握したらしく黙認する氷室響子である。

「それで…話を元に戻すがな…」
 今回は七瀬も綾那もあやめの味方になったため治してもらえず、ズタボロのまま話を進める榊原である。
「正直。俺は無理にデート…デートはいいけど成仏させなくてもいいんじゃないかと思っている。
 肉体こそ失ったけどある意味じゃしがらみがなくなったんじゃ。
『生』に執着しなきゃ食わなくていいし」
「それで…いつまでもかなわない思いに縛り付けられるの?」
 響子の言葉に一同ははっとなる。
「…それは…ある意味じゃ生きている以上にしがらみがあるのかもね」
 報われない思い。諦め切れない思い。それは…呪われた悪夢。
 人ならば時間が忘却の彼方へと運び去るかもしれない。別の思いを見つけ出すかもしれない。
 だが…時が止まった彼女はそこから先に進めない。
 それを理解した。榊原はすべてを察して「ふっ」と笑う。普段は老け顔といわれるがこの場合は「大人の表情」だった。
「わかった…俺でよければお相手しよう」
 そのときのあやめの表情はまさに生きた少女以上だった。輝きに満ち溢れていた。
「ありがとうございますっ」
 両手で握手しようと榊原の右手をつかもうとしてすり抜ける。
「そ…そうだった。この状況をどうにかしないと」
 みんなの視線が一人に集まる。さすがにたじろぐ真理。
「な…なんだよ。何を見てるんだよ」
「なぁ村上。どうしてもイヤか? さっき見ていた限りでは体を貸している間は意識を眠らしておけるだろう。傷は七瀬が治せるし体力は若葉が補充できるし」
「…赤星」
「なんだよ」
「この女はカズにめろめろなんだぞ。もしカズがその気になったら。そしてそのときの体が例えばもしお前のだったら」

 デートをしている二人。榊原とあやめだがその肉体はみずきのそれだ。
 露出の高い大人っぽい格好で化粧まできっちりしている。なにより表情や榊原に投げかける視線が女のそれだ。
『あやめ君。この世の最後の思い出をあげたい』
 頬を染めながらうなずきみずき(あやめ)。ベッドの上でつながる手と手。椿の花がぼとりと落ちて…

 ぞぞぞぞぞぞ。みずきは想像して悪寒に震えた。どうやら他の面々も想像してしまったらしい。
「た…確かに考え物かも」
「大丈夫だよ。マクは及川に再生してもらって、先に卵子を北条に出してもらえば絶対に妊娠しないって。記憶もないから処女喪失のそれはないって」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「それなら風魔の腕利きが見張るというのはどうだ? さすれば悪さも出来まい」
「まぁ。それなら安心ですわ。それでしたらわたくしが体を貸して差し上げても良いですわ。(姫子自身の意識が)寝ているうちに済むのでしょうし。
それに真理さんよりわたくしのほうが見た目も似てますし」
「な!?」
 思わず絶句するほど意外な姫子の申し出だった。
 説得しようとしたが姫子が意外に頑固なのは知っているし、君主に口答えなど許されない。
「…御意」
 それが姫子の意思ならば…と従う。だが
「ならば風魔総出で見張りましょう。海や川のそばに行かれるならば水軍も繰り出しましょう。周囲には剣術に長けたものを。遠方には弓の名手を。
万が一にも姫に危害を加えようものなら一欠けらの肉片も残さずに」
「だぁぁぁぁぁ。物騒なことを言うなぁぁぁ」
 十郎太が本気なのはいつもの鉄仮面が目を血走らせたから察することが出来た。
「あの…それに私。誰でも乗り移れるわけじゃありません。というより真理さんが初めてでした」
 やはりガンズン・ローゼスかと納得する面々。改めて真理を見てしまう。
「お…おい。アタイの立場はどうなるんだよ」
「でも真理ちゃんだけがあやめちゃんを助けてあげられるんだよね」
 綾那としては何気なく口にした「助ける」だがこの言葉がえらく真理には引っかかった。
 思わず流されそうになるがやはり「貞操の機器」ゆえに鬼になり
「だめだめだめだけめ。誰がなんと言おうと体は貸さない」
 さすがに強要はできることではなく。さりとて他の打開策もなく一度解散となった。

 あやめは響子が自宅へと招いた。そして帰宅するため駅へと向かう一同。
「仕方ない。肉体なしで彼女とデートしよう」
「それじゃ…ただの危ない奴だよ」
 みずきが指摘というより「突っ込み」を入れる。
「幽霊といえどマリオネットマスターでない赤星や上条にも見えたんだ。大丈夫だろ」
「でも映画館でも遊園地でも公園でも人がいっぱいよ。ぶつからなくても触ってすり抜けたら」
 七瀬が続いて指摘する。変なところも仲がいい。
「それでしたらどちらか人の少ない遊園地や映画館をお借りしてはいかがでしょう?」
 姫子には珍しく「お金持ち」の発想を見せる。
「がらがらの映画館や遊園地というのもなんか興をそぐよなぁ…」
「じゃエキストラってのはどう? 何。一万人は必要ないだろうし」
「ボクたちも行ってあげるから。ね。上条君」
 ちゃっかりと自分のデートを盛り込む綾那である。
「お〜ま〜え〜ら〜な〜」
 それまで黙って聞いていた真理が青筋立てながら口を開く。
「いくらわざとらしく相談しても体を貸すのはごめんだって言ってるだろ」
「だからお前抜きでもいいように相談してるんじゃないか。村上」
「忍びであればお役目のために体を差し出すくらいはするでござるが、おぬしはそこまでせずとも良い。あくまで己が意思とあらば止め立てせぬが」
 結局は真理の意思一つなのである。

 響子の自宅。彼女は実家で暮らしていた。いきなり幽霊を連れ込んでも親は何も言わない。何しろ親もそういう稼業だ。
「ごめんなさい。やっぱり村上さん自身の意思を無視できないわ」
「気にしないでください。デートだけなら私が姿を見せて声も上げれば、榊原君に変な目が行きませんから」
 無理しているのがわかる作り笑顔だ。
「やっぱり…ぬくもりが欲しい?」
「欲しいです。生きていた証に…好きだった証に…」
 それでもほとんど無理だろうと思っていた。

「ったく。あいつら勝手なことを並べやがって」
 学校から帰り私服になり外食を済ませ帰ってきた。すでにどっぷりと日が暮れていて日が短くなってきたことを感じさせる。
 彼女は玄関の明かりをつけた。玄関には鏡が据え付けてある。思わず自分の姿に驚く真理。
「母さん!!…の、わきゃないよな。『鏡』か。それにしても…なんかますます似てきたんじゃ」
 ハーフである彼女の輪郭は父親である日本人の特徴を受け継ぎ顎のとがったものであった。
 だが母から受け継いだ目鼻立ち。そして頑なに染めることを拒否する自毛である金髪。成長に伴い金の糸がますます綺麗になってきた。
 日本人が染めたり脱色してもまずこうはいかない。天然ものの強みだった。
 孤独には随分慣れたはずの彼女もふと母親を思い出すと途端に寂しさが募る。
「でも母さんはこんなに顎は細くなかったな。もっと割れていたな。ドイツ女のそれで」
 真理の母はドイツ人。真理の父とは地元で知り合った。
 よくある話で父の側にしてみれば「遊び」で母からすれば「本気」だった。
 だから来日してもわずかな期間を屋敷で暮らしたもののあとは生活費と養育費。
 そしてこのマンションをあてがわれて追い出された。そう真理は思っていた。
 財産分与に大きく関係する「実子」の登場が彼女に憎悪を向けたが仮面に隠されていた。
 しかし多感な少女はそれを読み取る能力を「ガンズン・ローゼス」という形で発現させた。
 世間の荒波に揉まれる母と娘。そのころにはすっかりすさみ今のように乱暴な言葉遣いになっていた真理である。
 本当は日本語の真理でなくマリーの彼女が、この世でもっとも憎悪しているといえる実父の苗字を名乗っているのはすさんだ実の娘でその名を貶める目的であった。
 実際、戸籍上は「認知」され村上姓ではあるが。
「…むなしいよな…さびしいよな…いくら好きでも伝わらないのは…」
 鏡をまた見つめる。
「思い出くらい作らせてやってもいいかな」

 次の日の放課後。
 今度は真理が招集をかけて屋上に前日と同じ面々が集まった。
「十。ほんとうに忍者軍団総出で監視してくれるんだろうな?」
「真理殿。それでは」
「あんたらも加わってくれるんだろうな」
 みずき。七瀬。上条。綾那に尋ねる。あまりの豹変に戸惑うが気が変る前にということか頷く。
「真理さん。それじゃ」
「ああ。仕方ないから貸してやるよ。その代わり絶対に手をつなぐ以上のことはするんじゃないぞ」
「はいっ」
 もしも生きていたなら涙を流しそうなあやめの表情だった。
「協力してくれてありがとう。だけど…どういう心境の変化?」
「別に。ただ無念に死んだ母さんを思い出してね。アタイはちょっと昼寝してればいいんだろ」
「そうと決まれば善は急げですわ。今日の帰りにでも」
「デートの準備のお買い物? ハーイ。ボクもいく」
「そうねぇ。そういうことならお付き合いさせてもらうわ。みずきもてつだってよ」
「ちっ。しかたねぇなぁ」
 やたら乗り気な姫子の提案にのりのりの一同。真理はちょっとだけ後悔する。

 そしてデパート。婦人服売り場である。
 最後のデートのための服である。まさにこの世を去る前の望みというわけであやめの服を買いに来た。
 なにしろあやめと真理の服の趣味は著しく食い違っていた。最後くらい自分らしくという思いやりである。資金提供は姫子。
「なぁ…本当にやるの? もったいなくない。たった一度のデートのためだけに」
「かまいませんわ。それに真理さんがあとは着ていただければ」
「アタイはまず着ないと思うけどなぁ」
 真理はタイトスカートを好み体のラインを強調したぴったりの服を着たがる。デザインも攻撃的だ。
 対してあやめは聞いてみたらすその広がるスカート。特にワンピースでフリルを使ったものを好んでいた。ギャップが激しかった。
「ちょっとアタイは耐えられそうにないよ…昼寝してていいかい」
 あやめをつれて物陰に行き、体を任せた。

「お待たせいたしました」
 途端に柔らかい笑みのまったくの別人格の真理になる。実際に別人だが。
「それじゃ行きましょうか」
 あまりぞろぞろ出向いても仕方ないし何しろ事前に榊原がその格好を知るのも興ざめ。
 だから同行者は真理。姫子。綾那。そして姫子。さらにみずきである。
 やはり男の意見も欲しいということである。
 みずきは両方の立場に立てるからちょうど良かったわけだが、女の仲間入りしているような男とみなされているような不思議な感覚であった。

 ところがこれが難航した。原因は趣味と体型のギャップ。真理の体格では可愛い服がないのである。さんざん探した挙句
「隣の店にしましょう」
と女子たちは意見を一致させて移動を開始した。たまらないのは肉体が少女でも心。そして感覚が男のみずきである。
(ここまで探したんならちったぁ妥協しやがれ)
と心中で毒づくが少女たちのバイタリティにはかなわない。
 疲れつつも移動する。

 結局は三件目で見つかり試着の段階になる。だが制服を脱いだらしい時点で「きゃっ」と短い悲鳴を上げる。
 これは見当がついていた。真理は黒い下着をつけていたのだ。
「あのっ…そのっ」
「たぶん真理ちゃんも白やベージュを持っていると思うわ。当日はそれを着けさせてもらいましょ」
という七瀬の言葉にカーテンの向こうに消える真理(あやめ)である。

「どうでしょう」
 カーテンを開けてワンピース姿を見せた真理(あやめ)。
 そこには隣のフィッティングルームを利用していた金髪の今野その子。紅毛の香下美香。白髪の山場仁恵のスケバン3人娘が宿敵・真理の登場に固まっていた。

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