第21話「夏の終わりに」Part3   Part2へ戻る

「む…村上!」
「真理!」
「こ…こんなところで…」
 三人の不良娘は恐慌していた。服を買いに来たらこんなところで宿敵の真理に出会うとは。
「?」
 だがあやめにしてみれば知るはずもない。
 また姫子たちにしてみれば真理と出合った抗争のときに、ちょっと顔を合わせた程度で印象が薄かった。
 金髪や白髪。紅毛といえば世間的には目立つが、その手の輩はいくらでも無限熟に攻めてくるし内部にもいた。
 真理(あやめ)と七瀬たちは互いにきょとんとして顔を見合わせている。冷や汗をたらしている不良3人。
「ああ!」
 そのうちにあやめはある考えに至った。ぽんと手を打つがそれだけで硬直する3人。見ていて哀れなほどだ。
「もしかして…村上さんのお友達ですか」
「と?」
「ともだちぃ?」
 世間的には同じ穴の狢…なのだろう。先制しようと言葉を選んでいた不良3人娘は思いがけない言葉に酸欠の金魚のように口をパクパクさせる。さらに
「こんにちは。はじめまして」
 にっこりと柔らかい笑みを浮かべてお辞儀をする真理(あやめ)。
 しかも着ている物がフェミニンなワンピースだ。
 顔面をつかんでいたり木刀を片手でへし折ったりしていたイメージと180度逆の行為。これがかえって「恐怖」を呼ぶ。
「な…なななななな…何を企んでやがる!?」
 今野その子が後ずさりながら言う。どうやら腰が抜けているようだ。
「気…気持ちが悪いぞ???」
 香下美香も後を追う。逃げ出したいが意地を張っている。髪は赤いが顔は青い。
「そ…そーかっ。読めたッ。精神攻撃って奴だな!!」
 「分析」することで恐怖を紛らわそうとしたのが山場仁恵だ。
「はい?」
 怪訝な表情をする真理(あやめ)だがそれがさらに違和感をあおり三人の心に「恐怖」を生む。
 震える体を互いに抱きしめて精一杯強がる様は滑稽にすら見えた。
「く…くっ。意表を突かれたぜ」
「確かに効くぜ。この場は引いておいてやる」
「だが次はこう上手くいくと思うなよ…」
 捨て台詞をはいて試着するつもりだった服をほっぽり出して逃げ出した。遠くで奇声が聞こえる。
「……あの方たち。真理さんに御用だったのでは?」
 頬に右手の人差し指を当てて首を傾げる姫子。
「何がしたかったのかしら?」
 七瀬も首をかしげる。
(女らしく振舞うと『精神攻撃』になる村上って…)
 みずきは心の中で真理に同情した。
「ねぇ。それより良く見せてよ」
 綾那が全体を見たがった。ゆっくりと後ろを向いたり横を向く真理(あやめ)嬌声が上がる。
「本当に新鮮だわ。真理ちゃんって背があるからこういう可愛いのはどうかなって思っていたけど」
「良くお似合いですわ」
「でもちょっと胸がきついです」
 あやめ本人は幽霊を見る限り胸があるほうには見えない。ただ真理の胸はとにかく凄まじい。それゆえの発言だが綾那がすねたのは言うまでもない。

 あやめに体を任せて胎児のように眠っていた真理は今の騒動で目を醒ました。
(何があったんだ?)
(あっ。真理さん)
 二人は一つの肉体の中で魂だけの存在として会話をする。
(真理さんのお友達が見えられたんですがご挨拶したら急に走り出して…)
(お友達? なんだぁ。そりゃ…わあっ!? なんだよ!? こりゃあ!!!???)
 鏡の向こうの長身の美少女はおよそ似合っているとは言えないフリルとレースがふんだんに使われた可愛らしいワンピースをまとっていた。
(これ着てデートするのか…町の中を歩くのか)
 前言撤回したくなってきた真理である。
(大丈夫です。この後ウィッグを買いに行くそうです。私と同じ黒いロングで。だから真理さんとはわかりませんよ)
(げっ。ヅラまで)
 真理は自分が黒いロングヘアーになったところを想像してみた。が、出来なかった。
 日本人女性が金髪にするとどこか違和感があるが真理にしてみれば金髪が地毛。黒髪のほうが違和感があった。
 ロングヘアも小学校のころならあったが美しいブロンドのロングは妬みを買っていたし「重かった」ので高学年からはショートにしている。
(まぁ想像できないってことはアタイとわからないということか…)
 とりあえず納得したのだがやはりここまでガーリッシュなのは自分で違和感があり。要するに見たくなかったからまた眠りについた。

 そして当日。日曜の朝。
「なんだよ。アタイは自分でメイクは出来るよ」
 タンクトップに短パン。胸の谷間とまぶしい太ももを晒した『悩殺スタイル』で鬱陶しそうに言う。
「姫子お嬢様のお言いつけです」
 姫子が派遣したメイクアップアーティストたちが押し寄せていた。
 最初は『余計なお世話だ』と突っぱねていた真理も
「はん。アタイがやるときつくなるからね。わかったよ。勝手にしな」
 どうにか納得して足を組んでドレッサーの前の椅子にどっかと腰を下ろす。だが
「まずはこれにおめしかえください」
 例のワンピースを差し出される。引きつる真理。実は一応確認で服からカツラまで全部つけてみたが「女装」しているみたいですぐに脱ぎ捨てた。
 正視に耐えられそうにない。
(赤星が女物を着る時にいちいち引き攣るが気持ちがよっっっっくわかったッッッッ)
 元が男のみずきとでは事情も違うというものだが…
「わかったよ。ちょっと待ってな」
 彼女は別の部屋へといく。そこには前夜からあやめがいた。
(あやめ。もうあんたに任せた)
 当初はすべて着てからあやめに体を任せる予定だったが(一応自分がどんな格好になるのか知るために)我慢できず一足先に眠ることにした。

 榊原和彦はセンスが悪い。悪趣味というほうが正しい。
 デートコースとして選んだのは海沿いだった。それ自体はいい。もちろん海水浴ではないがそれにしてもタキシードでいく場所ではない。
 盛装だから。それが理由だった。ご丁寧にバラの花束を持っている。そのまま待ち合わせている。
「お待たせ…しました」
 真理のマンションの前でエスコートすべく待っていた彼は、聞きなれない口調の聴きなれた声に振り返る。
「むらか…み?」
 確かに良く見れば真理とわかるがあまりにもいつもと雰囲気が違っていた。
 もともとメリハリの利いた体型の彼女はフリルやレースを余計に大きく見えると嫌っていた。
 実際大柄に見えるものの決して似合わないわけではなかった。
 なんと言っても印象を激しく変えたのは髪だ。黒いロングヘア。ウィッグのはずだが地毛にすら見える。
 メイクもいつもと違う。とにかく柔らかい雰囲気にしてある。ともすればきつくなりがちの目元に注意を払いそれでいて華やかな雰囲気は消していない。
 大柄でメリハリの利いた体型もことここにいたっては迫力というより愛らしく見えるから不思議だ。
「……本当に…村上なのか…」
「いいえ」
 彼女はハスキーボイスそのままに。だが普段は絶対に使わない柔らかく。そして恋した乙女の口調で言う。
「真理さんではありません。あやめ…保村あやめです」
 この柔らかい雰囲気。すべては一途に恋した娘が醸し出す。これからその最後の願い。この世で唯一遣り残したことを遂げるために榊原はやってきた。
「そうでした」
 にっこりと笑みを浮かべる。そして優しく
「さぁ。今日はあなたのお好きなように」
 エスコートのために手を差し出す。その手に右手を乗せながら真理(あやめ)は
「でははじめに…私のことは『あやめ』と名前で呼んでください」
 時間があればもしや到達したかもしれないそんな呼び方。彼はそれを理解した。
「わかったよ。俺のことも和彦でいい。さぁ。いこうか。あやめさん」
「はい」
 さん付けがまだ固かったがそれだけでも十分に彼女は満たされた。

「始まったね」
 行き先は決まっていたにもかかわらず本人公認の尾行がついていた。瑞樹と七瀬だ。
 瑞樹は半そでのシャツ。ズボンはさすがにそろそろ膝下を見せる気温でもなくなり、足首まで隠れる長さのジーンズだ。
 まぁふくらはぎまで見えているとなんとなく普段のスカートのときの癖が出そうだった。
 スイッチを切り替えるために女のときはここのところパンツルックはなかったので、パンツだけで十分男モードになれた。
 パートナーは言うまでもなく七瀬だ。彼女はライムグリーンのジャンパースカートと淡いピンクのブラウスだった。
「なぁ。行き先は海辺なんだろう。濡れた時のことを考えると女でいたほうが良かったかもな」
 すでに女子高生生活も半年でもはやだいぶスカートの抵抗もなくなってきた。男女の使い分けをする始末。
「確かに女の子同士の二人組みも『アフロディーテフォート』には行くけど…なんか恥ずかしいじゃない」
 アフロディーテフォートとは湾岸エリアにある女性のためのエリアである。ファッション。コスメ。エステと揃っていた。
 とは言えどカップルも多かった。そこに女二人組みでは恥ずかしいという意味だったが
「そ…そうだよな。学校でもないのに女でいく必要ないもんな」
 瑞樹は勘違いをしたらしい。とにかくつかず離れず尾行していた。行き先はわかっていたが。

 電車の中。渋面の榊原。ニコニコ笑っているあやめ。その向かいには姫子。同じような笑顔を浮かべている。傍らには無表情の十郎太。
 姫子はいつもどおりの小袖である。ロングヘアーは一本のお下げにまとめてある。
 傍らの十郎太もエスコート役という事で忍装束ではなく藍色の着流しであった。
「確かに監視付きはOKしたがここまで堂々やられるとな」
「あら? 榊原さんにはわたくしの姫神がお分かりになってしまいますから遠くからでも同じことですわ。それでしたらむしろ直接に」
 普通の人には見えないマリオネットだが同じマリオネットマスターには感知できる。つまり隠れていても意味はないということだ。
「むしろこうして姿を晒したほうが悪さも出来ずに良かろう」
 この時代錯誤の「忍者」が袖の中に入れた手に何を持っているのかあまり考えたくはなかった榊原である。
 開き直ってあやめとの会話を楽しむことにした。

 湾岸エリア。どのみち九月でもはや泳げるものではない。それなら近場でとなったし都内の観光スポットでもあった。
 直通もあったがあえて乗り換えモノレールで景色を楽しみながらやってきた。
(どうせ赤星たちもどこかにいるだろ。及川のマリオネットは近距離タイプだが。鬱陶しいから撒いてしまいたいが考えてみれば最後の「見張り」がこの中にいるしな)
 本来の魂。真理のことを言っている。
 もう少し先で降りるつもりであったが逆三角形の変わった建物に興味を持ったあやめが降りたいと主張したので仕方なく降りた。
 尾行の四人もだがあやめ以外は揃っていい思い出のない建物である。
 そう。ブックトレードフェスティバルの会場となった建物。東京ギガホールである。そして…そこには上条と綾那がいた。思わずこける榊原。
 (俺を監視する目的だからいるのはわかるが何でここなんだ? 目的地は隣でここには突発で降りたわけだが…なんで読まれた?
こいつも予知能力型のマリオネットを? それともホームズなみの推理を働かせたのか)
 彼をこけさせた男ならその原作者の名前を挙げそうだが。そしてその上条はしんみりとつぶやく。例によって芝居がかった物言いである。
「寂しい…あのつわものたちが集ったのと同じ場所とは思えない静けさ」
(……そういうことか……)
 上条もまた思いつきで降りただけと悟る。この日は企業の展示会が開かれていたがスーツ姿の人間をちらほら見かける程度である。
「ところで若葉。知っているかな。これってダイブハンガーなんだよ」
 急にハイテンションなって振り返る。
「大部ハンガー?(大きなハンガーがあるのかな?)」
 例によってかみ合ってない二人である。上条はジーンズにTシャツの上からジャケット。ただしそのTシャツにはアニメキャラがプリントされている。
 綾那はいつものようにフリルをふんだんに使ったすその広がるワンピースである。ピンクがベースなのは言うまでもないだろう。
 どうもトレス会場の場所のせいか変なテンションになっている。
「行きましょう。あやめさん」
「あの…待ち合わせじゃ…」
「さぁ? あんな男は友人でも何でもありませんが?」
 冷酷に切り捨てる榊原であった(笑)そして
「何やってんだよ。行っちゃっただろ」
 瑞樹たちに怒鳴られていた。あわてておいかける二人であった。

 午後二時。残暑も和らぎまた海辺ということもあり、強烈な日差しの割には涼しい道を榊原とあやめはいく。
 二人の手は固くつながれていた。
(柔らかいな…いや。村上だって女だから柔らかい手のはずだがこの手には締め付けられたり殴られてばかりだしな)
 苦笑する。そしてこの手の柔らかさが真理も「女」と認識させちょっとドキッとした。
 殴ったりは真理本来のがさつな性格のなせる技だが今の雰囲気の柔らかさは借りているあやめのものだろう。
「嬉しい…」
「え?」
 唐突に立ち止まり目じりの涙をぬぐう真理(あやめ)にさらに意識した。
「こうして…死んでしまったのに、もう一度日差しと風。そして榊原さんの手のぬくもりを感じることが出来るなんて…」
 榊原は何も言わずに微笑む。
「真理さんには感謝しきれません」
「…かも…」
 そして女らしい姿を見せられたせいかこのあやめの願いを聞き入れた真理の「優しさ」も認識した榊原だった。

第21話「夏の終わりに」Part4へ

制作秘話へ

「PanicPanic専用掲示板」へ

「Press Start Button」へ

トップページへ