第22話「ニセモノ・パニック」Part3   Part2へ戻る

 砂場では子供たちが遊んでいた。なかなか立派な「山」と「トンネル」が出来上がっていた。ソフトクリームをなめながらそれを見ている子供もいる。
 「みずき」はおもむろにその場に近寄る。いきなり大きなお姉ちゃんの登場に子供たちは萎縮する。
 もともと小さな子供たちがさらに砂遊びのために屈んでいるのだ。その体勢で見上げたらいくらみずきが小柄でもはるかに大きな「お姉ちゃん」に見えるであろう。
 その「みずき」はソフトをなめている子供の前にかがんで目の高さをあわせる。
「アイス。美味しい?」
 にっこりと優しく女らしい笑み…に見えたであろう。実際に網場はみずきを女として認識していたのだし。
「うん」
 子供はその笑顔にリラックスして素直に答える。途端にみずきがアイスクリームを取り上げた。そして猛烈な勢いで食べてしまう。
「あー。返してよぉ」
「ふん」
 さらに「みずき」は出来上がっていた砂の山とトンネルを踏みつけて崩した。泣き喚く子供たち。
「ちょっとあなた。なんてことをするの!?」
 当然ながら母親たちが口々に文句を言う。それを聞いて内心にやりと笑いながらみずき(網場)は母親たちに正面を見せる。そして見得を切るように足を踏み出し
「どうだ。恐れ入ったか。あたしは無限塾1年2組の赤星みずき。文句があるならいいにいらっしゃい」と言ってのけた。
 きわめてチープな作戦だった。だが
「まぁ。なんてことでしょう」
「最近の女子高生ときたら」
 効果はあったようだ。通り魔的に遊び場を荒らされた子供たちを宥めているうちに、みずきの姿は消えていた。
「何のつもりか知らないけど名乗っていたわよね。文句を言いに行きましょう」
 何しろ変人ぞろいの無限塾だ。その程度のことをする奴はいるかもしれない。そういう先入観があった。
 それ以上に大事な子供たちの遊びを台無しにされたことが腹立たしくて論理的な思考ができていなかった。
「ええ。行きましょういきましょう」
 心のままに抗議へと出向く。

 放課後。部活に無所属のみずきは七瀬、そして上条と綾那。真理とともに帰るために校門を出た。
 榊原は科学部。姫子は茶道部があり十郎太は引き続き警護中。上条も漫画研究会だったがこの日は活動なし。だからともに下校していた。
 そこに騒動が目に入る。他校の不良生徒が押し寄せてくるのは珍しくもないがこの日やってきたのは主婦と思しき3人。
 不良相手なら無敵の藤宮博もさすがに主婦相手では腕づくとは行かない上に口では勝ち目がない。
「なんだぁ?」
 何も知らず。また何も考えずみずきはその場に近寄る。「当事者」の登場に主婦たちはエキサイトする。
「あーっっっっ。あなた」
「この娘ですよ。この娘」
「どういうつもりなのよ」
「え? え? え?」
 まさか自分が集中砲火を浴びるとは思わずしどろもどろになるみずき。七瀬が助け舟を出す。
「あの…この娘が何かしたんですか?」
「何かじゃないわよ。お昼過ぎに公園に来たなと思ったら」
「いきなり子供のソフトクリームは取り上げるは砂山を崩して泣かせるわ」
「どういうつもりでやっているの? さらには大胆不敵に名乗りまで」
「ちょ…ちょっと。そんなのオレは知らないよ」
 知るはずはない。やってないのだし。
「なるほど」
 頷く藤宮。今まで主婦たちは感情的になりすぎて理解できる説明が出来ていなかった。これで事情がわかった。
「そういうことですか。だったらアリバイがあります。四時間目には体育をしていました。私が担当です。間違いなくこの赤星みずきは出ていました。走り幅跳びで顔面から突っ込む女子などそうそういません」
 藤宮は大真面目に低音で説明する。
「変な証明の仕方をしないでくださいっ」
 ドジに恥じ入り赤くなりつつ抗議する。
「それにしても子供のソフトクリームを取り上げ砂山を崩すなんて、まるで偽スカイライダーだな」
「ニセモノ? それだ。野郎。とうとう学校の外でまで」
「何を言っているのよ。とにかく子供たちに謝ってもらうわよ」
「だ、だからオレはそんなことをしてないって。やったのは別のニセモノだよっ」

 もちろんその言葉が耳に届くはずもなくもめにもめるのであった。

 そして物陰から見つめる何の変哲もない男子生徒。彼は邪悪な笑みを浮かべるとその場を離れて人気のない場所へ。
 モーフィングのように姿が変る。網場だ。成果を確認していた。
「くくく。Simple is Bestとはよく言ったものだ。意外にこの手は使えるぞ。よし。もっとやってやる」
 彼は満足そうに笑うともう一度何の変哲もない男子生徒に変身して下校する。
 もみくちゃにされるみずきを横目で見てたので笑いをこらえるのに苦労した。

 その夜。新宿。榊原和彦に化けた網場がいた。
(くくく。いくらウチの学校が常識はずれといえど、繁華街を学生服でうろついていたりしたら問題にせざるをえまい。まぁウチだから退学や停学はなさそうだが、それなら女のトラブルを起こして押しかけさせてやる)
 品定めするがごとくうろつく。すると薄着の上から毛皮というむしろ映画に出てきそうな『その筋の女』がよってきた。
 美人ではあるが何しろ露出が高く化粧も濃い。一目でわかる商売女だ。
(ちょうどよい。まずはこの女だ)などと思っていたら女のほうから寄ってきた。
「あーら。キーさん。お見限りね」
 下品…に入る甘えた口調で言う。香水の匂いがきつい。
「は? 『キーさん』?」
「とぼけちゃって。なぁに。それ? 学生服なんて着ちゃって。コスプレ? いいわよ。あたしもセーラー服用意するから。こう見えてもちょっと前まで着てたんだから」
 二十代ではあろうがぎりぎりに見える。
「な…なんだ?」
 確かに女にちょっかいかけるつもりでいたが、まさか女のほうから寄ってくるとは。しかもどうやら知り合いのようだ。
「あーっっっ。サーさんひさしぶりぃぃ、なぁに。コスプレ? 嬉しい。あたしとお揃いね」
 毛皮の女よりははるかに若いがそれでも二十歳は超えていそうな女がセーラー服姿で抱きついてきた。
(なんだぁ。あの男。影で何してやがる。いや。あの老け面だ。どこかのオヤジと間違われているのか)
 そう解釈するのももっともだ。躊躇しているとショーガール風の女が
「あら。お久しぶり。スーさん」
 実はキーさんは榊原の「き」ではない。学生の身の上で来れる場所ではないのであるが榊原は常連だった。
 当然ながら本名を名乗るはずもなく「木村」と名乗っていた。だから「サーさん」も「佐藤」である。「スーさん」は鈴木。
「おや。田中さん。お久しぶりですね」
 和装の熟女まで。さらによってくる。どうも上客らしく争奪戦になってきたのだ。
(こ…こんな勘違いをされているのでは意味がないし、こっちがたまったもんじゃない)
 ドサクサ紛れに商売女に化けてその場を逃げ出した。

「それにしてもひどい目に遭ったよな。赤星」
 喫茶レッズ。夜ではあるがみんな集まっていた。自身も被害にあっている上条がしみじみという。
「くっそー。オレは何もしてないのに…」
 どうあってもニセモノがいた証明のしようがなく、事態収拾のために無実の罪で頭を下げる羽目になったので憤慨している瑞樹である。
「こうなったら本体を探さないといけないわね。でも」
「ああ。今まで化けたのが及川。風間。上条。俺。そして赤星。グループという以外に共通項はないし」
「はーい。みんなマリオネットマスターだからぁ」
「それだと私と榊原君だけよ。綾那ちゃん」
「しかしそれでいくと見破られるなり対策を立てられるなりするから同じ奴に化けないとしても、あとはアタイに姫。綾那か」
「彼奴の目的は『拙者たちの風評を貶める』ようでござるな」
「むしろ手段と思うぜ。貶めて…嫌がらせかな?」
「それにいたしましてもどなたがなさっているのかわからないと。気配すら同化するのでわたくしの姫神にお願いしてもたどり着くのは姿を借りられた人のところですし」
 袋小路に入った。全員。冷めたお茶をすする。おもむろに上条が立ち上がり店の外にでる。
「?」
 怪訝な表情をしている一同を尻目に、彼はガラスのドアの前で一呼吸を置き入りながら
「いや。そうとばかりは言えんぞ」
渋い声を作って入ってくる。しかし若い彼らには元ネタがわからなかった。と思いきや
「山さんかよ」と突っ込んだのはさすがの榊原だった。
「ははは。ご名答」
 ノーテンキに笑ってもとの椅子に着席する。
「考えてみれば『敵』は致命的なミスをしているよ。ウチの学校の生徒という前提でだけど」

 翌朝。上条は職員室の藤宮を訪ねた。そしてマリオネットのことを伏せて事情を説明して協力を求めた。
「むぅ。確かに赤星はそんなことをする生徒ではない。まぁ転んだ拍子に砂山を崩し、子供のアイスクリームを叩き落とすなら納得だが」
「そういうわけで先生。ちょっと昨日の…」
「いいだろう。こっちに来たまえ」
 彼は自分の机に上条を招きパソコンの前に自分は座る。そして端末を操作して…

 一時限目。網場はまたもや授業を抜け出し嫌がらせに勤しむ。こういう性格だから「天才」の座から滑り落ちたのだが…
(さて。榊原や赤星ばかりでは万が一にもオレに疑惑が来ないとも限らない。グループ全員をやらないとな)
 今度は綾那に化けた。別に女装癖があるわけではなく男女比が3:5ので自動的に多くなるのだ。
 さて。化けたはいいが綾那の何を貶めるか。もともとおつむが弱いしスタイルも貧弱だ。それなら…
 綾那(網場)は校庭に目を向けた。体育の授業で陸上競技が行われていた。

「アレ? 綾那ちゃん。どうしたんだろ」
 ひと悶着あってからすっかり仲良くなった佐倉みなみが最初に気がついた。
 走り高跳びの順番待ち。現在は麻神久子が見事にバーを飛び越えたものの、顔面からマットに着地していた。いや。落下か。
 綾那はそれにかまわず無表情で近寄ってくる。さすがに変に思った一同が注目する。
「若葉さん。授業中ではありませんか? 授業をサボるとは悪。悪はこの麻神久子が成敗せねばなりません」
 落下の衝撃がまるでないように身構える。それを笑ったように見えた綾那の表情。
「何がおかしいんですかッ!?」
 答えは返ってこない。代わりにセーラー服のトップを脱ぎ始めた。
「おおおっ」
 突然の「ショー」に男子生徒はどよめくというか喜ぶ。素直な連中だった。
 続いてスカートのホックを外して脱ぐ。下着姿になった。そのままマットに腰掛て大きく脚を開いて見せたりする。
「こらあっ。何をしている」
 ことここにいたってやっと体育教師が戻ってきた。藤宮ではない。新任の彼は久子が顔面から落下したのであわてて救急車を呼ぶために電話をしにいっていたのだ。
(携帯電話は体育で邪魔だから持ってこなかった)
 つかまっては元も子もない。下着姿で脱いだものを抱えて綾那(網場)は逃げ去る。

「ぼ…ボクが校庭で裸になったって言うのォ?」
 体育のときの騒動をみなみから聞かされた綾那の衝撃は鳩が豆鉄砲どころではない。
「とうとう若葉まで。しかしこうなるとなおさら誰が標的かわからないな。あのあとオレや赤星の成績を妬む奴なんてのも犯人像の候補にあったが」
 実はかすっていたが陽動の綾那狙いが功を奏した形だ。
「綾那じゃなぁ。とりえは運動神経と顔だけだし」
「ちょっと? いくらボクがおばかさんでもその言い方はひどいよ」
 ニセモノといえど公衆の面前に裸をさらされた綾那が怒るのは当然である。しかし自分で自分を「おバカさん」はないと思うが…榊原と真理に食って掛かる。
「悪かった。アタイが悪かった」
 さすがに苦笑しつつ宥める真理。

 三時間目。姫子に扮した網場は今度は彼女の「虚像」をはがしに掛かることにした。
(誰にも優しいという北条姫子。それが傲慢な態度を取れば…くくく)
 姫子(網場)は二年生のクラスに出向きずかずかと入り込む。戸惑う生徒たち。特に動揺のひどい男子がいた。顔を赤らめ慌てふためく。
「ほっ、北条さん!?」
「野村さん…ですわね。噂に聞いてますわ。あなたのお気持ち」
 さらに野村は赤くなる。彼は密かに姫子に恋していた。もっとも彼だけではない。
 逆玉はともかく穏やかな博愛主義の美少女に心癒される男は少なくない。ただ野村の場合は二年の間では公然の秘密というほどだったのだ。
「ありがとうございます」
 その言葉に野村の顔が明るく輝く。だが『姫子』は冷たく続ける。
「…と、いうべきなのでしょうが『迷惑』です」
 天国から地獄へ。まさに奈落の底に叩き落された。
「あなたのような下賤の者がわたくしにつりあうとお思いですか? 身の程をわきまえなさい。おーっほっほっほ」
 甲高く高笑いをする。右手を口元に当てての典型的なポーズだ。誰かを連想させるがその『誰か』が背後から声をかける。
「なかなかいいわね。姫子」
 後ろには腕組みをした橘千鶴。実は彼女のクラスだったのだ。
「ようやく本性を現したわね。私は前からあなたのほえほえしたところが嫌いだったのよ。それでいいわ。だけどまだ高笑いがなってないわね。見本を見せるわ。おーっほっほっほっほっほっ
 超高周波の高笑いが炸裂する。塾長の「アレ」より強烈かもしれない。たまらず網場は逃げ出した。

「あんまりだ。北条さん」
 可愛さ余って憎さ百倍。水面下の告白で玉砕したならまだしも、クラス中の笑いものにされた野村は落ち込むよりも怒りに震え1年2組に出向いた。
「コンプリートしやがったよ」
 上条らしい表現で『全員やられた』という。
「もうしわけありません」
 何もしていない姫子だが深々と頭を下げる。面食らったのが野村だ。
「わたくしが恨まれているようなのですがあなたまで巻き込んでしまうなんて。それはニセモノさんの仕業ですが原因を作ったわたくしにも罪はあります。わたくしはあなたを嫌ったりはしていません。どうかお許しください」
 誠意を示すために野村の右手を両手で包む。柔らかく暖かい感触に舞い上がる野村。
「い…いや。誤解だったようですね」
(姫ちゃんも罪作りだなぁ。付き合う気ないなら、この場合はむしろ放っておいたほうが良かったが…だからといって野放しにも出来ないか)
 前よりも強烈に恋してしまった野村を尻目にみずきは思う。

 放課後。部活後に榊原は屋上にたたずんでいた。夕日を背に手すりに体を預けボーっと校庭を眺めていた。
「何してんだよ? カズ」
 長身の金髪少女が屋上の入り口に。
「ああ。村上か。ちょっとこの前のことをな」
 これが真理ならあやめとの別れを想像するが実は網場だ。だから当たり障りなく「ふーん」とだけいっていた。

 「真理」はずんずんと近寄る。ついに最終標的である榊原に攻撃を開始した。

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