第22話「ニセモノ・パニック」Part4   Part3へ戻る

 「真理」はどんどんと接近する。
(ふっ。この女とはいつも一緒にいるからな。憎からず思っているに違いない。手ひどい仕打ちでダメージを与えてやる)
 安心しきったのか無防備に背中を向け、元のように校庭に視線を落とす榊原。
 それこそ安心しきって接近する真理(網場)
(一つ首でも絞めてやるか。殺されかかったショックで勉強など身に入らぬようにな)
 それを実行すべく極端に接近したときいきなり榊原が振り向いた。
(うおっ?)
 にっこり笑うと次の瞬間には憤怒の表情で「真理」の頬を張りつつ反対側の脚を強烈に蹴り飛ばす。
「ぎゃあっ」
 空中で一回転して屋上の地面に叩きつけられる。正体はばらしてしまうともう攻撃できないので必死に守り悟られずにはすんだが網場の自信は砕け散った。
「(な…なんだ? どうしていきなり攻撃をっ!? ばれたのかっ? とにかく正体だけは)な…何をする。カズ?」
「見ての通りお前に『ブツダンガエシ』を仕掛けたのさ。ニセモノさん」
「何を言ってやがる。アタイのどこがニセモノだ。お前の目は節穴か?」
 はったりという可能性もある。だからとりあえずは簡単には正体を明かさずとぼけることにしている。
「俺の目は騙せても夕日は騙せなかったようだな」
「夕日…!?」
 真理(網場)は飛び起きると榊原同様に手すりによって校庭を見た。
 夕日が作る影は長く落ち校庭にまでくっきりと。そしてそのシルエットが別人であることを証明していた。
 「ストレンジャー」は人間の神経に訴えかけるマリオネット。五感すべてを騙すし複数相手にも幻覚を見せるが機械は騙せない。
 写真に取られたら真の姿が写るのだ。それ同様に近距離ならともかく校庭に落ちる影まではごまかせなかった。
「幻覚・・・この場合は『変身』かな。とにかくそういうマリオネットなら近距離パワー型。さらにいうなら本体が装着するタイプと見て正解だったな。」
「…貴様もマリオネットマスターか?」
 声だけは真理だが口調はすっかり地がでている。
「そういうこと。ま…あんたが本物としても怪我なら治せる人間がいるしな。遠慮なくぶちかまさせてもらった」
 さらにいえば立て続けに綾那。姫子の姿を悪用している。普通ならそこらで一度は止めておくだろうと読む裏をかいてむしろ勢いに乗ってくると榊原は読んだ。
 さすがのばくち打ちの勘だが。
「さぁいくぞ。どうせ素直に正体を見せるつもりもあるまいし、正直ちと頭にも来ている。
思う存分にぶちのめして気絶させれば、マリオネットも解除され正体がわかるだろう」
 話しながらもじりじりと網場は距離を取っていた。だが無駄だった。
「これは赤星と及川の崇高な愛を汚した罪だぁーっ」
 軽く走り出した榊原はそのままドロップキックのように身を捻り真理(網場)の腹部に両足をねじ込む。
「タートルヘッド」
「ぎゃぴりーん」
 一応は甲高いハスキーボイスと真理の声そのままだが男のように声を上げる。吹っ飛ばされる。
 容赦なく次がくる。ダッシュして脚を刈り倒して攻撃。
「これは北条の人柄を貶めた罰だぁーっ。カイテンベッド」
「うわらば」
 攻撃の反動でいったんは離れる。だが怒りはやまない。抜き身の剣のようにビッグ・ショットの姿を見せる。
「最後にこれは……村上の姿を使った報いだ」
(ま…まずい。このままくらい続けると気絶して正体がばれる。抵抗しなくては…攻撃しないと。それも村上のように)
 網場は見よう見まねで右手を開いてダッシュする。そして榊原の顔面をつかむ。
「ブラッディマリー」
 がっちりと食い込んだと見えたが簡単に榊原はその手をはがす。
「貴様がニセモノなのは間違いないな。村上の半分以下の握力だ。そして貴様は俺の怒りに火をつけた。その姿…」
「ふふふっ。これは攻撃の下準備だ」
「ほう。このざまでどんな技を出す?」
 真理の右手の手首をつかんでいる形である。その姿が変わる。
「馬鹿か。目の前で変身したらニセモノ確定だ。誰の姿でも偽者相手に手加減すると思うのか」
「するさ。接触した分だけ心の奥底にしまわれた恐怖の対象を読み取れた。貴様はこの手を掴んでなどいられまい」
 真理ほどではないが多少は心を読めたのは、ウエキがグラビアアイドル好きとか上条相手にゲームマスターに化けたのが証明している。
 真理の姿をしていた存在は二回り程度縮む。ウェーブの掛かった髪。丸いめがね。着ているのは中学生の女子制服か。
「………!?」
 網場の予告どおり榊原はつかんでいた手を離してしまった。荒い呼吸をして明らかに恐怖の表情である。
「ね…姉ちゃん!?」
 網場が化けた存在。それは榊原涼子。15歳当時。もっともいいようにいたぶられた時期。七歳のころの榊原にはもっとも怖い姉だった。

 職員室。再び端末を見せてもらっている上条。
「確定だな…」
 彼は榊原のいる屋上へと走る。

 榊原涼子の八歳のときに弟が生まれた。
 それまで両親の愛を独り占めしてきた彼女にとっては疎ましい存在だった。だから何かといじめ倒していた。
 また彼女自身後に判明するがサディストの気があるとも。

 榊原和彦にしてみれば恐怖が刷り込まれるのは無理もない話しである。何しろあやすときに空中に放り投げたりしている。
 これが成長して回転する技を多用しても平気なバランス感覚に繋がるから運命とは不思議だが。

 反抗期になったらなおさら熾烈になった。もともと頭がいい彼女の上に女の口の立つところが手伝い榊原は論破を出来なかった。
 じゃ力ずくと言いたいがそれも女子は成長が早い。ただでさえ八歳の差があるのだ。
 彼が七歳の時にはだいぶ大人の体になっていた姉は体格で有利な上に、その頭のよさで力学を応用していた。
 あるときなど口答えをしてつり天井固めにかけられたことがある。
 反抗期も過ぎ表向きは榊原も素直になった。これが現在の二面性に繋がる。

 また女性に対するコンプレックスの裏返しで自在に扱おうとしはじめる。これが皮肉にも女好きに繋がる。
 散々に仕掛けられた技のおかげで数々の投げ技も出来た。
 もっとも彼は目が悪く戦闘時にメガネを外すと遠くの相手が見えない。
 だから近い相手。投げられる相手を力任せに分投げるのだ。

 時が流れ涼子もさすがに丸くなった。それでも榊原和彦にとって姉は今でも頭の上がらない存在であった。

「う…ううっ」
 すっかり忘れ去っていた恐怖。拭い去ったはずの怖気が蘇る。
「ば…ばかかっ。目の前で姉ちゃんに化けたって」
 必死で強がる榊原。それを冷淡な目で見据える『涼子』。静かな口調から一転して恫喝する。
「和彦。あんた…姉ちゃんの言うことが聞けないのっ!?」
「はっ。はいっ」
 声が裏返る。思わず『気をつけ』までしてしまう。理屈では真っ赤な偽者とわかっていてもどうしても逆らえない。

「姉ちゃんの言うことが聞けないのっ!?」でもニセ物(笑)

このイラストを作成してくださったクリエイターの参太郎さんに感謝!


「いい子ね」
 妖艶というより蛇か何かのようなねっとりとした視線。実のところ涼子を苦手にしているのは榊原だけではないのだ。
 この先天的に偉そうな態度になぜだか逆らえない。
 涼子(網場)はゆっくりと歩み寄る。
「でも姉ちゃんに逆らったお仕置きは必要ね」
 直立不動の榊原の背中に右足を当て両腕を取り、そのまま榊原を引き込むように地面に寝転がる。
スカートというのにお構いなしだ(もっとも本当に女というわけではないからこだわるわけもないが)
 相手の向きが正反対だが巴投げをイメージしてもらえばわかりやすいだろうか。そして両足も絡めて四肢すべて反対方向に締め上げる。
『ボウアンドアロー(つり天井固め)』
「ぐぐうっ」
 苦悶の表情とうめきを挙げる榊原。目に見える表情はまじめな涼子だが、心の中では邪悪な嘲笑を浮かべる網場。
(なんと言う惰弱さ。こんなシスコンとは恐れ入ったぜ。手も足も出やしない。くくくっ。あー。気が晴れるぜ。俺に屈辱を与えたものには罰をくれてやらねばなぁ)
「ほうらどうした? 動いてみろぉ」
 この作戦が完全に成功したと確信して悦に入る網場。それを打ち破るがごとく立て付けの悪い屋上のドアが蹴破られる。
「何?」
 そこに立つのは上条。
「榊原。お前を締め付けているのはお前の姉さんではない」
 余裕のあるときの特徴で何かをまねしているのは間違いない。口調が違う。
「その男の名は網場。二年四組。去年は三回連続でトップを取った男だ」
「何を言っているの? あたしはこの子の姉よ。姉弟の間に口出ししないで」
 名前まで言い当てられてぎくりとなったが、そこは例によってとぼけとおすつもりだった。
「ネタは上がってるんですよ。赤星に化けたとき。若葉に化けたとき。いずれも授業中。その両方に出てないのは貴方だけですよ
「!?」
 なんと言うことか。妄執のあまりそんなことに気がつかなかったとは…天才が聞いてあきれる。
「くっくっく。まさかそんなことでばれるとはなぁ…」
 さすがに居直らざるをえない。
「お前の言うとおり俺は網場よぉ」
 ついに自分で認めた。それも優位と思っての話だが。だから「だがもう遅い。榊原はこのざまだ。次は貴様だ」と続ける。
 『ふっ』と鼻で笑い(芝居しているのは間違いないが)上条は逆転の一言を告げる。
「わかってませんね。今、貴方が押さえてられるのは榊原の姉さんの恐怖がそうさせているということ。だがその正体を僕が完全に看破した。戦いにおいてメンタルな部分は無視できませんよ」
 まさにそのとき。完全に決めたつもりの手足が次第に広がっていく。
「ば…馬鹿な。動けないはず」
 しかし無情にもついには振り解かれた。榊原はしっかりと二本の脚で立つ。
「もし…本当の姉ちゃんが俺を抑えていたら脱出は叶わなかっただろう」
「ベネ(よし)。いいせりふだよ。と、くりゃ次は…」
 何か妙な期待をしている上条。
「そんなはずはない。俺は天才だ」
 涼子の姿のまま思い切り距離をとり走る。途中で出入り口の壁に向かってジャンプ。キックを加速する。
「ピンボールトライアングル」
 いわゆる三角蹴りだ。榊原目掛けて蹴りこむが
「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴルァァァァァァァ」
 「ビッグ・ショット」の無数の拳が『涼子』を粉砕する。直接マリオネットが叩いたためについにはその化けの皮がはがれる。
「ほう。だいぶもとの顔に戻ってきたな」
 シチュエーションに酔っているのか、台詞を言ってから一人で親指を突き立てて喜んでいる上条である。
「おーい。もういいだろ。芝居も終わったんなら」
 返事も待たずに真理。姫子。綾那。みずき。七瀬が出てきた。
「お…お前ら…」
 榊原と網場が驚く。上条が駆けつけるのを真理が見ていた。そして様子を見てみんなも来たのだ。
「さあて。もう逃げられないぜ。手は打った。それに」
 極めて異例だがみずき以外の四人がすべてマリオネットを見せた。これには網場も観念…絶望せざるを得ない。
「そ…そんな…天才のこの俺がなぜ…」
 よろよろと校門の側の金網に寄りかかる。なんとそれが外れた。
「うわっ。うわぁぁぁぁ」
「まずい」
 落下してゆく網場。マリオネットは変身にしか役立たない。このままでは地面激突必至だった。
「言ったろ。逃げられないように手は打ったって」
 真理がガンズン・ローゼスの先端にハンカチをくくりつけてロープのように伸ばすが落下のほうが早い。しかし
「えいやぁ」
 跳んで逃げる相手に備えて十郎太が控えていたのだ。その驚異的な跳躍力で空中の網場を捕らえた。
 ぎりぎりのタイミングでハンカチを目印にガンズン・ローゼスの先端を掴み(むしろ掴み取られ)そのまま振り子のように振られる。そしてその反動を利用して二階の窓を蹴破って飛び込んだ。ごろごろと転がり衝撃を逃がす。放り投げる形で放す。十郎太は立ち上がり
「これぞ、風間流」と名乗りをあげる。網場が無事なのは見るまでもないから「儀式」を優先した。
「は…ははは…俺は『天災』だぁぁ…」
 怪我はないものの転落の恐怖で戦意喪失だった。

網場安信 戦闘不能

「さぁて。まずはもう二度とこんなまねをしないと誓っていただきましょうか。網場先輩」
 完全に正体をさらけ出した網場に詰め寄る上条。とにかく攻撃さえやめばいいのである。だから約束を取り付ければよい。
「もしまたこんなことをしたら・・・」
 真理がすごんで見せる。
「ひぃぃぃぃぃ。もうしませんもうしません。刑務所にでも行きます。むしろそっちのほうが安全そうだぁぁぁ」
 子供が頭をぶたれまいと抱えるように両腕で頭を抱え込んでしまう。やはり屋上から落下の恐怖が精神に与えた影響は少なくない。
「この様子じゃ大丈夫そうだね」
 みずきが判断する。網場には敗北感が植えつけられた上に、報復するにはあまりにも怖い体験をしてしまった。
 今度この手の攻撃があっても正体を知った今ではすぐにわかる。もはや仕掛けられないと見てよかろう。
 そう安堵したからかみずきが意地悪な表情になる。なぜかそういう時は表情までも女のそれに近くなる。女の持つ残虐さを発揮させるのか。
「しかし・・・榊原があそこまで姉ちゃんに弱かったとは・・・にひ」
「な!?」
 このクールで冷静な男が顔を引きつらせる。
「うむ。こういうのを『死す魂』というそうでござるな」
「シスコンでしょ。ちょっと違うけど」
「うちの弟もボクにべったりで困っちゃう。いつまでも子供で」
 一番子供のような少女に言われては立つ瀬がない。
「ち…違う。断じて違う。俺はシスコンなんかじゃない」
「あら。よいではありませんか。お姉さまを慕うのは決して悪いことではありませんわ」
「違う!! 俺は姉ちゃんなんて恐れてないぃぃぃぃ」
 普段は突っ込みどころがないのでここぞとばかしに突っ込まれている榊原であった。

次回予告

 若葉綾那が無限塾に転校したのは上条明を慕ってのこと。しかし上条の態度は相変わらずそっけない。それに業を煮やした男がいた。
 さらには別の勢力が無限塾に戦いを仕掛けてきた。上条に挑む男の正体は?
 次回PanicPanic第23話「ぬけがけ!! 無限塾」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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