第23話「ぬけがけ!! 無限塾」

 九月も下旬となるとだいぶ心地よい風が吹き時には寒いくらいだ。それなのに校門前で上条と二人の男子。そして綾那は話し込んでしまっていた。
 彼は今日も漫画とアニメの話で放課後を潰していた。同好の士は結構いるものだ。そこにはまるで妻のように付き添う綾那がいた。
会話の内容はほとんど理解できてないがひたすらニコニコ笑っていた。

 (ん?)

 ただならぬ気配を感じ取り上条は思わず振り返る。人影はない。もっとも隠れられるくらいのものはあるが
「どうしたの? 上条くん」
「イヤ…気のせいだったらしい」
 だが彼は感じていた。強烈な『気』を。しかし攻撃の意思が感じられなかったのでとりあえずは放っておいた。

「アレが上条明。そして若葉綾那ですか」
 神経質そうな男が隠れてみていた。メガネ。変な髪形。服のところどころに赤がポイントで入っている。
「ふふっ。どうやら遊べそうね」
 美人の範疇に入るが言うなれば『悪の華』と形容できる女が相槌を打つ。彼女の指輪もピアスも銀色だった。
 上条が振り返ったのとは別方向の物陰から立ち去った。だが違う。上条が感じ取ったのはこれではない。

 世田谷区。二階建ての一軒家。それが綾那の家だった。両親と弟という家族構成だった。
「ただいまぁ」
 ピンクのスニーカーを脱ぎながら帰宅の挨拶をする。
「あらあら。お帰りなさい。今日は遅かったのね」
 ピンクのエプロン。右手にお玉と上条だったら泣いて喜びそうな典型的な「夕食の準備中の主婦」の図だった。
 彼女の名は若葉沙羅。綾那の母親である。顔立ちから何から(特に小柄なところが)そっくりだった。
 未来の綾那…だろうか。
「うん。上条くんとおしゃべりしてたのー」
 心底嬉しそうに言う綾那。
「そうー。よかったわねぇ。それで。どこまで進んでいるの? 手ぐらい握った? それともキス?
まさかそれ以上…ううん。いいのよ。ママは綾那が幸せならそれでいいのよ。二人が愛し合ってならそれも自然な成り行きですもの」
 勝手に話しを展開して熱くなる頬を押さえる母。本当に母と娘と感じさせる。
「もぅー。ママったらぁ。そんなんじゃないよーだ」
とか言いつつも悪い気はしてない綾那。
 実際その気はある。ただ体の関係とかはまるで考えていない。この娘の思考では仲良くなって。デートを重ね(もちろん泊まりはなし)
 期がくれば純白のウェディングドレスでバージンロードを歩く自分のイメージしかないのである。
 まるっきり小学生の発想である。まぁ上条も小学生みたいな男だけにつりあっているが。
「でも早いものねぇ。ちょっと前までランドセルしょってた女の子が、今じゃ男の子追いかけて転校するほどになっちゃうなんて…血は争えないわね」
 実は綾那の母。沙羅は押しかけ女房である。好きになった男性…つまり綾那たちの父親でもある若葉正也に猛アプローチ。結果として現在がある。
 当時の正也には恋人はいなかった。どちらかというとぶっきらぼうで人を寄せ付けなかったタイプが彼女には幸いした。
 そして今。タイプこそぶっきらぼうではないものの、なびかない上条に恋する娘を見るたびに昔の自分を思い出して必要以上に肩入れしてしまうのだった。
 だから無限塾転入も彼女が支援した。
「それにしても一度お会いしたいわねぇ。どんな男の子なのかしら。綾那のことだから王子様タイプかしら?」
「けっ。どーせろくな奴じゃねーよ」
 少年の声が会話に割り込む。驚く様子もなく振り返る二人。
 Tシャツにジーンズ。短い髪にニキビ面。身長は170と綾那よりあるが醸し出す雰囲気がある意味で綾名よりも子供。一発で弟と看破される。
 そう。弟。彼の名は若葉朝弥。凄まじいまでの「シスコン」だった。
「あら。恋敵ね」
「な? 何を?」
 頬を染める朝弥。母はのんきに続ける。
「だって朝弥。あなた綾那と結婚するつもりなんでしょう?
「いくつのときのたわ言だよ」
 耳まで赤くして怒鳴る朝弥。
「とにかく」
 ペースを強引に掴みに行く朝弥。綾那の前に行くと真正面から彼女を見据え
「姉ちゃん。いい加減にこっち(世田谷)の学校に戻ってこいよ。俺…姉ちゃん見ててつらいよ」
「戻ってきたら女子高だからどっちにしても一緒の学校にはなれないわよ。朝弥が無限塾に行きなさい」
 「母ちゃんは黙っててくれ。なぁ。姉ちゃん。もう四ヶ月だろ。それで脈がないなら諦めろよ。大体そいつ。
姉ちゃんの気持ちを知ってて放っているんだろ。ひどい奴じゃないか」
「ちょっと…見てもいないのに酷く言わないでよ」
「見なくたってわかるよ。姉ちゃんをこんなに待たせるなんてろくな奴じゃない」
「朝弥に上条くんのよさはわからないもん。ばか」
 すっかりらぶらぶな綾那。弟の気持ちにまるで気がついていないがある意味ノーマルといえる。
「な…なんだよ…人がせっかく心配しているのに…姉ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁっっ」
 決定的な一言を言われた朝弥は自分の部屋へと駆け込んでしまう。
「青春ねぇ」
 無責任な沙羅の一言である。

 朝。登校するなり上条は射るような『視線』を感じた。校門前で立ち止まり辺りを見回す。
 (何だ…この殺気。むしろ憎悪と呼ぶほうが近いか。確かに不良たちとの抗争も多い学校だがここまでのものは感じたことはなかった)
 だが周辺にそれらしい不良は見当たらない。
「おっはよー。上条くん……? どーかした?」
「感じる…四魂のかけらが近くに…」
 案外と余裕のようである。
「えっ? 誰かに狙われているの?」
 このやり取りで正確に把握できるのは愛のなせる技か。一緒になって探す。だが彼女は意外な人物と鉢合わせする。
「朝弥!?!」
 先に出て中学に登校した筈の若葉朝弥が、無限塾正門前で電信柱の影で上条をにらみつけていた。
「君か。僕に何か恨みでもあるのかい」
 くいくい。袖を引っ張られて上條は綾那のほうを向く。綾那は両手を拝むようにあわせていた。
「ごめんっ。上条くん」
「どうして…若葉が謝るんだい?」
 関連性を理解できなかった。閥が悪そうに言う綾那。心なし『お姉ちゃんの表情』だ。
「あれ…ボクの弟なの」
「えっ?!」
 いわれてみれば確かに似ているかもしれない。しかし…
「いやあの…『弟』なの?」
「パパ似で背が高いの。ボクのほうがちっちゃいもんだからいつも妹に間違われて」
「ああ。なるほど」
「おい。オタク野郎」
 本人的には挑発のつもりであえてこう呼んだ朝弥である。ところが

「いかにも僕はオタクだが」

 まるで「君は無限塾の生徒か」と尋ねられた質問に対する解答のように、あっけらかんと自分をオタクと言い放つ上条。
 これには朝弥も毒気を抜かれる。
「い…居直りやがって。お…お前がたとえオタクじゃないからって、姉ちゃんと付き合うのは認めないぞ」
「待て 何の話だ? 風間健太」
「風間君の弟?」
 綾那はプレイをしなかったようだ。
「俺は若葉朝弥だ。変な呼び方をするな。オタク野郎」
「僕にも上条明という名前がある」
 一方的に朝弥が敵視しているかと思ったがどうも上条の方も『合わない』ようだ。
「とにかくっ。姉ちゃんに付きまとうのはやめろっ」
 それを言うなら『付きまとっている』のは綾那のほうである。
「朝弥っ」
 さすがにここまで言わせておくのはまずい。綾那が嗜める。しかし火に油だったようだ。
「姉ちゃんは黙っててくれ。あんた(上条)に付き合う気がないならはっきりと言ってくれよ。そうすれば姉ちゃんも諦めて戻ってくるし」
「朝弥っ。いい加減にしないとボク怒るよっ」
「うっ…」
 珍しく綾那が怒鳴った。それも若干キレ気味に。気圧される朝弥。肝心の綾那にこれを言われては仕方ない。
「とにかく急いで学校に行きなさい」
 人前で怒鳴り声を上げて発散したか穏やかに諭すように言う。
「わ…わかったよ。姉ちゃん」
 すごすごと退散する朝弥。確かに『お姉ちゃん』だったらしい。
「ごめんね。うちの弟が…」
 そこまで言いかけて予鈴がなる。まもなく一時間目が始まる。
「話は後だ。急ごう。若葉」
「うん」
 二人。そして見物していた面々は急いで校門をくぐり教室へと急ぐ。その途中
(でも…本当に上条くんにとって、ボクってなんだろう…)
文字通り小さな胸が張り裂けそうになる不安が沸き起こる綾那である。

 河原。四人の男女が集合していた。
「どうだった? 四季隊を退けた連中というのは?」
 全身黒尽くめ。まだ暑いのに革のジャケットに身を包んだ男。黒木龍三郎が尋ねる。
「見た感じ普通の、何の変哲もない連中でしたよ」
 変な髪形。派手な服のインテリ。蚣赤真(むかで せきま)が答える。
「でも遊べそうだったわよ」
 長い髪をバックでまとめた紅一点。海老沢銀子が妖艶に続ける。
「あ、あそびたいんだな」
 夏木に勝るとも劣らぬ巨漢。鰐淵青三が自分の意思をはっきりとさせる。
「とにかくだ。そいつらに勝てば自動的に俺たちが四季隊以上ということになるな」
 彼らのもともとのターゲットは悪漢高校四季隊だった。
 ところが無限塾の一年生達に苦汁を舐めさせられたと聞く。
 一敗地にまみれた者たちをなぶっても仕方ない。標的を四季隊を撃破したみずきたちにしたのだ。
 黒木はブーツからナイフを抜き出して柄にある穴に指をかける。そして三回回して刃先を下に向け顔の前に持ってくる。
「最強は俺たち『破壊魔四人衆』だ!!」

 新たな刺客の存在と裏腹に、無限塾はのんきに体育祭の練習だった。もはや間近に迫っていた。
 この日は男子は騎馬戦。女子はダンスを練習だった。
「いいなぁ…あっちは…」
 生まれは男でありながら(現在も水さえかぶらなければ男だが)アクシデントなどで水をかぶる危険性とお湯をかぶる危険性を天秤にかけて後者を取ったため、女子のグループに入らざるを得ないみずきが心底うらやましそうに言う。
「あー。そうだな。アタイもあっちのほうがいいなぁ」
 ハーフのせいか他の女子より大柄な真理が同じようにつぶやく。
「えー。やっぱり女の子のやることじゃないわ」
 どちらかというととろい部類に入る七瀬が言う。
「そうですわね。騎馬という位ですからやはり騎手は鎧兜を身につけなくてはなりませんからね。でもあれはとても重いんですのよ」
 ぼけているように見える発言だが、姫子の家を考えると本気で鎧武者が警護くらいしているかもしれない」
「ボクはやってみたい。上に人乗っけてかけていくんでしょ」
 どう見ても上に回りそうな軽量の綾那である。

 だが彼女たちがうらやむほどスムーズではない。
「断る。拙者は忍。馬ではござらん」
 理解できなくもない発言である。ずっとこれでまるで進展していない。
「俺もごめんだな。何で男同士で密着せねばならん」
 もちろん上条たちにだけ聞こえるようにしている。
「うーん。やはり『キバ』というくらいだから疾走体もあるよね」
 もちろんこの三人をばらばらにすればいいのだが、そうするとそれぞれが並外れた体力なのでバランスが悪い。
 まだまとめたほうか対処がしやすかった。
 先の思いやられる体育祭である。

「ただいまぁ」
 セーラー服姿の少女が文京区のマンションに帰りつく。身長はやや高め。黒いショートカット。いたって普通の女子中学生だった。
「お帰り。輝」
 マンションでは彼女の母。上条あかりがばたばたと着替えていた。
「なぁに、お母さん。また仕事にいくの?」
「ごめんね。急な検死が入っちゃって」
 父・上条繁は警視庁新宿署の刑事。そして母・あかりは元・検死医だった。これも「職場結婚」といえるのかどうか。
 現在では引退した身だったが、子供たちに手が掛からなくなるとたまに助っ人を頼まれることも多くなりこの状況も増えてきた。
「夕飯までには戻るわ。それから輝。あんまり若いうちからお化粧はしないほうがいいわよ」
「わかってますよーだ」
「じゃ。行ってくるから」
 あかりはあたふたと出て行った。
「さてと。鬼のいぬ間に」
 輝は制服を脱いで派手な服に着替える。それから丹念にメイク開始。それも派手な感じに。最後には簡易毛染めでオレンジに髪を染めた。
 指輪やイヤリングで身を飾る。完成すると
「はぁー。やっと家に帰って気がするなぁ。いい娘でいるのも疲れるし。こっちのほうが落ち着くなぁ」
 面白い娘で帰宅すると化粧し始めるのだ。それでいて中学ではそつなくこなしていた。

 そして一時間が経ち、今度は兄である上条明の帰宅である。
「ただいま」
「おかえりー」
 寝そべって少女漫画を読み、振り返りもせずに輝は言う。
「あれ? 母さんは? 仕事?」
「うん」
「そっか」
 彼はそれだけ聞くとかばんを置き制服を脱ぎ始めた。
「ちょ…ちょっと。おにいちゃん」
 人前では照れから「あにき」だが、家族だけだと子供のころからの呼び方である「お兄ちゃん」に戻る。
「ん?」
 彼は下着姿だった。
「お願いだからあたしの目に付かないところで着替えてくれない?」
 メイク越しでも赤いのがわかる。突っ張っていてもやはり少女だ。
「なんだよ。兄妹で何を恥ずかしがる」
 上条はしれっとして言う。これにはさすがに輝もカチンと来た。
(むーーーーーあたしのこと女扱いしてないな。血が繋がってるからって安心しすぎだぞ。よーし。それじゃ)
「いいの? おにいちゃん」
 妙に神妙な口調の輝。
「何がだよ」

「あたしたち…実は血が繋がってないんだよ」

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