第23話「ぬけがけ! 無限塾」Part2   Part1に戻る

 上条は何も言わなかった。平たく言えば無視だった。
(このぉ…本当に女心はわかってないなぁ。綾那ちゃんにも嫌われるぞぉ)
 輝は多少むきになってきた。
「冗談だと思っているの?」
「ああ」
 確かにもっともな反応だ。だがくじけず輝はさらに続ける。
「そう思うのも無理はないよね。お父さんにも口止めされていたし。でもね…本当はあたし…お父さんが追跡中に死なせてしまった殺人犯の娘なの」
 視線を落としなおかつ斜め横を向く。昏い表情がリアリティを醸し出している。それに上条は引っかかった。
「ま…まさか…」
 これは実はある有名な漫画の設定だが、それだけに上条としては信じやすかった。
 心中でほくそえむ輝。実際の表情は暗いが心の中は爆笑寸前。
(ぶっくく。信じてる信じてる。それじゃもう一押し)
「お兄ちゃん…好きっ!!
 輝は抱きついてきた。遠慮なく胸のふくらみを押し付ける。もっともそこはまだ中学生。ささやかなふくらみだが。
「ひ…輝?」
「血が繋がってないってことは…結婚できるってことだよ」
 上気した頬。きらめく瞳で兄の顔を見上げる妹。なかなかの演技派である。どぎまぎしてしまう上条の反応を見て
(これでちったぁあたしを女扱いするだろ)
 内心はそんなことを考えていた。
 だがこれがとんでもない方向に飛び火するとは、軽いジョークでやった輝としては考えの及ぶところではなかった。

 翌朝。いつものように登校する上条だが極端におとなしい。不思議に思う一同。たまらず真理が休み時間に尋ねる。
「どうした? 上条。風邪でも引いたか。静かじゃないか?」
「村上…」
 話そうか話すまいか迷っていたが、心を読める相手と思い出した。ポツリポツリとしゃべりだす。
「輝の奴…僕と血が繋がってないんだそうだ…そんなことをいきなり告白されても心の準備が」
「そ…そりゃ大変だな?」
 苦笑いの真理。
「まぁ。そうだったんですの」と姫子。
「でもよー。血が繋がってないなら結婚できるって事だよな」
 またいつもの与太話か…と思いつつも、なんだかリアリティがあり乗ってみたみずきである。
 そう。みんな大して驚かないのは、これが本当の話と思ってないからである。だが
 ドサドサドサドサッ。数冊の本が落ちる音。驚いてみんながそちらを見ると青い顔をした綾那がかばんの中身を床にぶちまけていた。
「そ…それ…本当なの? 上条君」
 とうとうかばんそのものを落として駆け寄る。
 動揺するのも無理はない。女子に嫌われてはいないものの、積極的に交際を申し込む相手もなく無風状態。
 ライバルなき状態で無人の野を行くような話しだったはずだ。
 それがいきなり一つ屋根の下に結婚対象が現れた。以前に出会った限りじゃ「兄」に対して悪い感情は持っていない。
 血が繋がっていないとしたら…
「ねぇ。本当なの? 上条くん」
「わからない…父さんも母さんも仕事で帰ってこなかった。いたとしてもこんなこと聞けやしない…」
 いつになく深刻な様子に一同は「ネタ」ではないと感じる。
(「ネタ」じゃないかもしれないが騙されてるんじゃないのか?)
 さすがに考えが及ぶ榊原だが『上条の妹』がそれをするメリットが思いつかない。面白半分でいえることではないと判断した。

 実はその『面白半分』が正解であるのだが。

 昼休み。食堂で昼食をとるみずきのもとに一人の女子生徒が近寄ってきた。
 身長は高め。モデルのようにスレンダー。まぶしいほどの白い肌。特徴的なのは五センチにも満たない短い『三つ編み』が二つ。
「あなたが…赤星みずきさん?」
 その少女が声をかけてきた。
「ふぁい?」
 口いっぱいに頬ぼったまま返事をするみずき。女の子としてははしたないほうに入るが、少女は気にした様子もない。
「あなたは…根古田先輩」
 たまたま居合わせた正義クラブ3人娘。谷和原友恵が驚きと憧れの混じった声を上げる。
「どなたさん?」
 やっと口の中のものを胃に送り込んだみずきが友恵に尋ねる。
「ご存じないのですか? 二年の根古田千代子先輩。演劇部部長。女の子でありながら男の子を演じきるその姿にあこがれる女子生徒は多いのですのよ」
いずれは国際派女優。チヨコ・ネコダと呼ばれる方なんですよね」
 みなみまで憧れの目で持ち上げる。もちろん勝手な思い込みである。
「で、そのチョコネコダさんがオレに何の用?」
 千代子はにっこりと笑うと
「赤星さん。あなたロミオとジュリエットを演じてみない?」と訊ねた。
「は?」
 ハトが豆鉄砲を食らった表情。その見本のようなみずきの表情だった。
「今度の文化祭。私たち演劇部は『ロミオとジュリエット』を演じるわ。
 ところがロミオ役に決まっていた、ただでさえ少ない男子部員が骨折してしまって、とてもじゃないけどお芝居に出られる状況じゃなくなったの。
 本来なら男の子を捜すべきだけど、あなたなら声の通りも運動神経もいいわ」
(この話からいくとロミオ役かな…うーん。芝居の経験なんてないけど面白いかな。それに男をやれってことだからいわば『男と見込んで』ということかな)
「なるほど。お困りですか。芝居の経験はありませんがオレでお役に立てるなら」
「本当?」
 窮地を救われて嬉しそうな笑顔。ますます悪い気はしないみずき。
「ええ。一度言ったことを曲げたりはしませんよ
「きゃーっ、ありがとう。じゃお願いね。ジュリエット役
「………え?………」
「ジュリエット役よ。ジュリエット役。だって私の方が身長あるもの。そこの子かいっていた通り私、男の子役は得意だし。
本当は私がジュリエットに決まっていたけどなるべく(配役を)動かしたくないから私がロミオになるから。そうすれば入れ替えるだけですむし。他のメンバーはそのままでいいし」
「ちょ…ちょっと。オレ女役なんて」
「なに言ってるの。可愛い顔だし声も可愛い。小柄だし胸も大きい。どうみてもヒーローよりヒロインよ」
 みずきは呆然とした。全校生徒の前で男宣言のつもりが、逆に可憐なヒロインのレッテルを貼られかねない。
「取り消し。約束は…」
「あら? 一度約束なさったことを反故になさるおつもりですか?」
 声は千代子ではなく友恵。確かに一度言ったことを曲げないとみずきは口走っている。逃げ場がなくなった。
「わかりました…」
 しぶしぶと了承する。泣きそうな気分だった。
「ありがとー。助かるわぁ。じゃあ体育祭か終わった辺りから稽古よ」
 とんでもない約束をしたとみずきは後悔していた。

 河原。集合していた破壊魔四人衆。
「さて。そろそろ出向くか」
 ボスである黒木の言葉でぞろぞろと移動を開始した。

 今日も引き続いて体育祭の練習である。今回は100メートル走などの練習で「待ち時間」があった。
 そして女子の待機組からわきあがる爆笑。
「ぶはははははは。赤星。それで『ヒロイン』に決まったって?」
 窒息するまで笑いそうな真理である。
「笑い事じゃねーよ…」
 すっかりふてくされたみずきである。
「だからあんたは早とちりが過ぎるって言うのよ」
「あら? でもこれは名誉なことですわ。文字通りの桧舞台じゃありませんか」
「そうねぇ。衣装は私が作ってあげようか。フリルをたくさん使って大きく広がるスカートのドレスで」
「じゃアタイがメイクしてやるよ。舞台だからケバイくらい派手にだろ
 二人ともからかっているのは言うまでもない。
「ひとごとだと思いやがって。若葉もなんか言ってやってくれよ」
「上条くんと輝ちゃんは血が繋がってない…」
「な…なんだよ。まだ引っ張っているのかよ」

 引っ張っているのは当事者がもっと深刻だった。
 男子の控え組みでは上条がまったく精彩を欠いていた。それだけまともに受け止めてしまっていたのだ。

 放課後。前日にジョークで血が繋がってないと言った輝は、そのあとで何もフォローしていない。
 そして上条が真に受けている気がして無限塾まで出向いてきた。
(何か変なこと口走られてたらやばいよねぇ)
 急ぐ割にはしっかりとオレンジの髪と派手なメイクである。

 輝が出向くと校門でもめていた。アニキとその彼女。そして見知らぬ少年だ。
「朝弥。いいかげんにしなさいっ」
「いいや。姉ちゃん。言わせてもらうぜ。この野郎はだめだっ。キング・オブ・ダメ人間だっ。
 こんなのとくっついたら姉ちゃんが不幸になるのは確実。俺はなんとしてもそれを阻止してやる」
 思春期の兄妹なるとそんなにべったりした感じではない。むしろ距離を置く。それにしても身内をこうまで罵られて面白いはずもない。
 また初対面でもこの少年の『シスコン』は充分に感じ取れた。それに対する嫌悪もあった。
「ちょっとちょっとちょっとぉ。黙って聞いていれば人のアニキのことを言いたい放題」
 反射的な行動だった。上条の前に立ち朝弥と対峙する。
「輝!?」
 さすがに面食らう上条。周囲はパンクな女子中学生の登場。そしてそれが上条の妹ということに驚愕する。
「なんだよお前? 関係ない奴は引っ込んでろよ」
 頭に血が上っている朝也は初対面の輝に対し暴言である。
「関係なくないよ。あたしはこの人の妹だもん。そりゃおにいちゃんはオタクだしマニアだしわけのわからない言動が多いけど」
 庇いに来たのか罵りに来たのか…
「でもとっても優しいお兄ちゃんだもん」
 頭に血が上ったのは輝も同様だった。感情の赴くままに間に言葉が出てくる。
「なんだそりゃ? 気持ち悪い。おまえ実の兄妹でよくそこまでべたべたできるな」
 この世で一番その台詞を言う資格のない人物だと思うのだが…
「あら? あたしたち血が繋がってないもの。ねぇ。おにいちゃん」
 これ見よがしに抱きついてみせる。
「!?」
 ぶちぶちぶちぶちぶちっ。血管が音を立てて切れそうな綾那である。
「や…やっぱり…本当だったんだね。ふたりが結婚できる関係というのは…」
 ここにも一人。感情の暴走した若者が。
「へ…変態野郎。いくら血が繋がってなくてもそんなまねを。俺だって…俺だって血が繋がってさえなければ抱きしめたいくらい姉ちゃんがかわいいと思っているのにっ」
「どっちが変態よっ!?」
 叫ぶ輝。綾那もしかめっ面をしていた。
 事態の収拾がつかない上に人目につきすぎる。あまりに混乱して逆に冷静なジャッジをしてしまう上条。
「ここじゃまずい。みんな。どこかへ場所を変えよう」

 この修羅場を近くに行って見てみたいがそこまで踏み込んでいいものか…そんな逡巡をしていた彼らの前に四人の男女が現れた。
 襲撃に慣れている面々はそれを理解した。散開する。
「おい。雑魚にゃ用はねえ。四季隊を潰した奴ってのを呼んでこい」
 黒いライダーズジャケットの男。黒木龍三郎が冷たい声で言う。だがそれで素直に従う無限塾の生徒ではない。
「なんだと?」
「俺達をパシリ扱いかよ」
「ふざけんな」
 血気にはやる。ため息をつく黒木。
「物分りが悪いな。青三。赤真。そいつらが呼び鈴だ。派手に呼んでやれ」

「ぎゃあーっっっ」
「なんだ?」
「校門のほうね」
「行って見ましょう」
 僅か三分。男子生徒の悲鳴がこだまして、それがみずきたちを呼び寄せた。
「こ…これは…?」
 校門に着いた彼等が見たのは、倒れ伏す無限塾の生徒。そして見知らぬ四人の男女。
「うぬらは…」
 代表する形で十郎太が訊ねる。
「俺たちは破壊魔四人衆。テメーらが四季隊を潰した奴らか? 相手しな。断ってもいいが関係ない奴らの悲鳴が鳴り響いて近所迷惑になるがな」
 上条たちがちょうどいないが臆する面々ではない。相手をするのが一番の良策と判断した。

 近くの公園。そこに上条兄妹。若葉姉弟がいた。
「俺の言いたいことは変らない。とにかく姉ちゃんはお前なんかにゃもったいない。つきまとうな」
「あら。これって当人同士の問題でしょ。ねぇ。おにいちゃん」
 どうしてそれで上条の腕に自分の腕を絡めるという行為になるのか…しかし確実に挑発になっていた。もっとも狙った朝弥ではなく綾那のほうだが。
「輝ちゃんこそ離れなさいっ。たとえ血が繋がってなくてもそんなの…」
 綾那も人間である。人を好きになった女の子である。嫉妬というどす黒い感情も内に秘めている。
(いくらなんでもそこまで言われる筋合いは…よーし)
 綾那の嫉妬というマイナスの思念が今度は輝をあおった。
「だから当人同士の問題でしょ。あたしとおにいちゃんの」
 なんと真正面から上条に抱きつく輝。これには頭をぶん殴られたようなショックの綾那。ここぞとばかしに朝弥が続ける。
「わかっただろ。姉ちゃん。こいつには一つ屋根の下で暮らす女がいるんだ。諦めてこっちに戻ってこいよ」
「それでも…上条くんが好きなんだもん」
 涙声の綾那。閥が悪くなる朝弥。無言の上条だったが
「輝…本当に僕とお前は血が繋がってないのか?」
 最大の疑問をストレートにぶつけた。
(やっぱり真に受けてたのね)
 そのフォローできた輝だったはずだが、この状況で引っ込みがつかなくなってきた。
「しかし…もし血が繋がっていたらむしろこの状況は…」
 実の兄妹の抱擁。それも男女を思わせるのは確かに変態と罵られても仕方ないかも。

 無限塾校庭。六対四の対決。
「聞いた話じゃあとふたり。上条とか言うのと若葉とか言うのがいるそうじゃないか。どうした?」
「あいにく席をはずしていてな。だがそれでもこちらが二人多いくらいだ」
「冗談じゃねぇ。四季隊を潰した奴ら全員を潰さねぇと、まとめて上回ったことにゃならねぇ。呼んでこい」
 そうは言われてもどういう話をしているかわかったもんじゃない。呼んでいいものかどうか…
「お待ちなさい。理不尽な者たちよ」
 校庭に植えられている樹。その影から二人の少女。谷和原友恵と佐倉みなみ。そして木の上には麻神久子が。
「自ら破壊魔を名乗るくらいならあなたたちは正義ではありませんね。正義ならざるもの。それをこの麻神久子。そして正義クラブが成敗してくれましょう」
 びしっと指差して口上を述べる。枝から軽く飛び降りる。
「確かに…貴様が正義なら俺は悪だ
 あざ笑うようにいう黒木。この男は悪であることに負い目を感じていない。

 正義クラブ3人娘の粛清のための参戦。これだとむしろ一人多いくらいだったが
「待ちな。ここにも一人いるのを忘れてもらっちゃあ困るぜ」
「入来先輩!!」
 お調子者の入来が例によって力瘤を作ったポーズで参戦の意思を示していた。
「正義クラブ三人では一人多いと思っていたが」
「あの人が来るなら一人分くらいはマイナスになるから八人分。よーし。はじめようか」
 みずきがほえる。その眼前に巨体。鰐淵青三が出る。
「こっちの先鋒はこいつだ。さぁ。そちらは誰が来る?」
 どうやら乱戦ではなく個対個の対決を望んでいるようだ。

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