第23話『ぬけがけ! 無限塾』Part3   Part2へ戻る

 恐るべき襲撃者の先鋒は、身長2メートルを超える巨漢だった。
 だが四季隊・夏木とは違い肥満体ではない。反対に筋肉の鎧で包まれている。
 顔立ちもごつく、露出している部分はあちらこちらがごつごつしていた。
 思い込みからタイプを決め付けるのは危険な行為だが、どうしてもパワーファイターの印象をぬぐえない。
「あやつ。ただのでくの坊ではござらんと思われます」
「お強いのでしょうか?」
などと主従が会話している。
「大男。総身に知恵が…とはよく言うけどね」
「けっ。ぐだぐた考えていたら何も出来やしないよ」
「よっしゃあっ、ここは一つ俺が出向いてやるぜ。この埼京流の俺様がよぉぉぉぉ」
 無駄にハイテンションでいきまく入来。断っておくが彼のはあくまで我流である。確かにチンピラ相手なら問題はないがランクが上がると論外だった。
 そしてこの相手は間違いなく『上の上』だった。
「お待ちなさい。侵略者に対しての迎撃は私たち正義クラブの仕事。引っ込んでいてください」
 暴走する正義感。麻神久子が入来を制して前に出ようとする。
「何を言う。ここはこの埼京流の出番だ」
「いいえ。正義クラブを代表して私が」
 二人が先鋒を競っていると一陣の風が。驚いた二人がそちらを向くと十郎太が腕組みをした状態で立っていた。
「ここは拙者に任せていただこう」
「か…風間ぁーーーーっっっ」
「ぬけがけとはずるいですぅ」
 だが忍の非情さ。二人の訴えを聞き流し
「いざ。尋常に勝負」
 十郎太はかけていく。納まらない二人はちょうど近くにいた榊原に噛み付く。
「ちょっと待てや。お前ら。先輩を立てるのが筋というものだろう」
「ひどいです。榊原君。同じ一年のよしみで譲ってくれたって」
 二人の抗議を柳に風と涼しい顔で受け流す榊原。笑いながら説得する。
「ふふっ。入来先輩。まずはあの頼もしい男に任せてみようじゃありませんか。
 そう。風間十郎太。敵に回すとこれほど恐ろしく。そして味方にするとこれほど頼もしい男はいない」
 忍者と巨漢の対決が始まろうとしていた。

 公園。こちらの対決はもっと大変だ。
 問い詰められた輝は答えに迷う。
 もともとここまで来たのもその『誤解』を防ぐためだったはずだが、思わぬ若葉朝弥の存在がそのウソをつき通させた。
「そうよ。あたしとおにいちゃんは血が繋がってないの。でもつなげることは出来るよね。
 兄妹じゃなくて『夫婦』になればいいんだし」
「ダメーっっっっっ。上条くんはボクのーっっっっっ」
 甲高い声で周囲の目も気にせず綾那は絶叫する。
「…姉ちゃん…そこまでこいつのことを…姉ちゃんはだまされているっ
 こうなると朝弥も張り合う。いつの間にか上条vs朝弥から輝vs朝弥にシフトしていた。

 鰐淵は無造作に懐から『鞭』を取り出した。名前にあわせたのか青く塗られている。
「けっ。体格が四季体のあのデブ(夏木)に似ていると思ったらやることまで一緒かよ」
 口を閉じたままの十郎太の代わりに『応援団』の入来ががなりたてる。当事者は静かに観察を続ける。
(解せぬ。確かに鞭は遠間では強力な武具であるが、懐に飛び込まれたら打つ手がないであろうに…)
 逡巡している間に鰐淵は鞭を振るう。唸りを上げて迫る鞭を十郎太はあえてよけずに前進する。
(この一撃を捌けば鞭の威力は殺せる。きゃつが鞭を捨てて戦い方を変える前に鳩尾に拳を)
 考えつつも…ある意味では考えなしに鞭を払いに掛かる。そのときだ。
「うおっ!?」
 一瞬痙攣したかのように硬直して十郎太は動けなくなる。
「風間!?」
「十郎太様」
「なんです? 何が起こったんです」
 姫子より麻神久子の方が慌てふためいている。
「う…その鞭…いかずちを出せるのか…」
 よろよろと立ち上がる十郎太。
「ぐふふふ。ス…スタンウィップって言うんだな」
 威嚇かデモンストレーションか一振りするとぱりぱりと放電が。
「な…なんじゃあ。ありゃあ? 鞭全体が放電してやがるーっっっっ」
「それじゃあブロッキングしたら感電してしまいます」
 どうでもいいがすっかり実況と解説になっている入来と久子である。
「なるほど。触るのは得策ではないと言うことでござるな」
 カンフースターのように軽くステップを踏むが突如として駆け出す。
「ならば触らずに近寄るまで」
 まさに雷雨のカミナリのように繰り出される鞭。それをことごとく触らないようにしつつ前進。そしてくないを投げつける。それが鞭に当たり戻すリズムを狂わせた。
「勝機」
 懐に飛び込んだ十郎太はすばやい連激を繰り出す。ところがびくともしない。硬い。
「む…お主。鎧を着込んでいるのか?」
 思わずそう訊ねるほどだ。
「き…着ているんだな。筋肉の鎧を」
 夏木は脂肪が衝撃を吸収するが、鰐淵はその正反対で強固な筋肉ゆえに攻撃をはじいていた。
「今度はこっちがいくんだな」
 なんと2メーターで150キロが跳んだ。しかもボディプレスの類ではなく軸足のない蹴り。浴びせ蹴りだった。
「クロコダイルラップ」
 まさにワニの顎のように強烈な蹴りが十郎太に「噛み付く」。この痛みを顔に出さない男が珍しく顔をしかめ地面に沈む。

 公園にて。不毛な対決は続く。
「あによぉ。騙されているって…人のアニキ捉まえてひどいんじゃない。このシスコン」
 やはり女の方が口は立つ。
「な…なんだと。お前こそ自分のアニキにめろめろのブラコンじゃないか」
 だからか容赦なく『弱点』を突くシスコン弟。
「そ…そんなんじゃないもん」
 頬を染める輝。むしろこちらの方が怪しげである。
 それにしてもこの対立。五十歩百歩とはまさにこのこと。

兄と妹。姉と弟で大混乱。

このイラストはOMCによって作成されました。クリエイターの酔生夢子さんに感謝。

 とどめとばかし倒れている十郎太にのしかかろうとする鰐淵。だが間一髪でこれを逃れる十郎太。ならばと鞭の攻撃が見舞われるが射程の外へといち早く逃げた。
「お前の負けなんだな。はなれれば鞭。近寄れば潰す。叩いても俺にはきかねぇ」
「驕りがあるようでござるな。もっとも拙者もそうであったが。侘びると同時に礼を言うでござるよ。目を覚まさせてくれてありがとうでござる」
「な…なんだ? お前。馬鹿じゃないのか。痛い目にあって感謝するのか?」
 ふっと軽く笑う十郎太。この鉄仮面には珍しい。だがそれが鰐淵にはカチンと来たようだ。
「電撃で焦げてしまえ」
 放電しつつ迫る鞭。だが十郎太は後ろによけつつ上着を脱ぎ捨てた。
「せめてもの礼に全力でおぬしを倒そう。歪んだ心を正してしんぜよう」
 いうなり鎖帷子をはずし上半身裸になる。帷子は手にしたままで構える。
「いざ。参る」
 十郎太の疾走。それを目掛けてうなる鞭。だが帷子を投げつけた。予想外の錘をつけられ鞭のコントロールに苦労する。
 そして十郎太は軽くなった分だけ速くなる。風魔の名のごとく風になる。あっという間に目の前に。
「筋肉の鎧。なかなかのものだ。だがそれゆえに守られていない部位は非常にもろい」
「股座か? だが防具をつけているぞ。そしてこうすれば」
 鰐淵は目を閉じて顎を引き締めた。目潰しものど元への攻撃も封じられたがお構いなしに十郎太が跳ぶ。
「燕返し」
 皮肉にも顎を引く。つまり額を前かがみにさせてしまったためバック転の要領で蹴り上げるこの技がかけやすくなった。これまた急所である眉間につま先がヒットする。そしてその反動でのけぞりのど元ががら空きに。十郎太はそのまま高速で回転して連続の回し蹴りを叩き込む。
「風間流奥義 迦楼羅旋」
 悲鳴を上げようにも発声器官そのものを攻撃されている。うめき声一つ上げずに気絶した。十郎太の勝利だ。

「輝ちゃん。まさか本当に上条くんのことを…」
 本当に青い顔の綾那。
「んなわけないじゃない。あたしたち血が繋がってんだよ」
 パタパタと手を振り軽い乗りで否定する輝。たまらず詰め寄る上条。
「お前、昨日は?」
「信じてたのお兄ちゃん? バッカじゃない?」
 しれっと言い放つ輝。さすがに唖然とする上条兄。
「『バッカじゃない』ってお前…主人公にやたらきつくあたる年下の幼馴染じゃあるまいし」
 どうやら余裕は取り戻したようだ。いつもの乗りだ。

 無限塾校庭。動かそうにもあまりの巨体で運べず放置されたまま気絶する鰐淵。
「さぁでくの坊は倒したぜ。次はどいつがこの俺様の拳を味わいたい?」
 何もしてないのに威勢のいい入来。鼻で笑う黒木。
「ふっ。奴は俺たちの中で一番の小物。それを倒したからといきがるな」
「その通り。私を倒したらその台詞をはいていただきましょう」
 変な髪形。奇抜なファッションの蚣が前に出る。その名にちなんだかムカデの足を思わせる突起が随所にある。
「ふっ。あなた不良ですね。言葉は丁寧でもその服装の乱れ。私にはわかります。悪は私が成敗します。この麻神久子が」
「なに言ってやがる。先輩に譲れ。こら」
 また争いを始めた久子と入来。そしてまた
「ここはオレに任せてもらうぜ」
「あ…赤星―っっっっ」
 そう。みずきが出た。
(ここんところ女の体では戦ってなかったからな。たまにはこっちでも戦わないと勘が鈍る。ただでさえ男バージョンより弱いし)
 それが理由だった。
「女性…ですか。言って置きますが私は手加減しませんよ。あなたを女性とは思わず全力で倒しに掛かりますよ」
「上等」
 女子として甘やかされるのもちょっといいかなーっと思い始めていたので、敢えて修羅場に身を晒したのもある。
「では」
 蚣はいきなり背中から『ボウガン』を取り出した。さすがに慌てるみずき。
「ちょっと待て!? 飛び道具かよ」
「言ったはずです。全力と」
 かまわず蚣は射出する。しかもそのアローは先端が矢ではない。どうやって調達したのか爆弾だ。それがみずきのすぐ脇に落下。爆発する。
「くっ」
 爆風がみずきのスカートをふわりと舞い上がらせ中身のブルマをさらけ出す。その途端に澄ました表情が憤怒のそれに一変する蚣。
「貴様ぁぁぁぁぁっ。何と言うつまらないことをしているっ。スカートを穿くならブルマを脱ぐ。ブルマを穿くならスカートを脱ぐ。
それが道理と言うものであろうっ。ましてや私は認めない。パンツルックの上からスカートをつける『スカパン』なんて。下の下と言うもの」
 なにがそこまで悲しいのか涙まで流している。
「…へ…変態…」
 多大な隙が生じているのに思わず引いてしまい接近するのが躊躇われたのは、だいぶ女性よりの思考に近寄ったからか。
「私が修正してやるっ」
 再び蚣は爆弾の矢を射る。はじめからそれでやるつもりはないらしく、威嚇で脇に落とす。爆風でスカートが舞い上がり足をむき出しにする。
 そこに今度は本当の矢を撃つ。驚愕の一同。
「あ…あ奴…あの腕前。そるべきてだれでござる」
「ああ…そして行動原理も読めないことはない」
「……あの行動をか…」
 榊原の言葉にあきれ気味になりつつみずきを指差す真理。赤面しているみずきだが流血している様子はない。
 そう。決して蚣はみずきの足を狙ったのではない。彼はブルマのゴムの部分を掠めて落としたのだ。
「そう。やはりスカートの下はパンティだけ。これでなくては美しくない」
 満足そうにいう。みずきは羞恥に恥じ入り赤くなりつつこの時点では完全に女の気持ちで再度つぶやく。
「…スケベ…」

 公園。口を押さえている輝。
「本当…本当なの輝ちゃん。血が繋がってない。結婚できるってのがウソだったのは」
 綾那の表情に輝きが戻りつつある。
(まぁいいか。もともとこの間違いを直しに来たしこんな表情見せられちゃ…ね)
 こくりと頷く輝。

 VSみずきは蚣の構想とは大きく違っていた。ブルマを落としたと言うのにこの少女は蹴り技中心で来るのである。みずきの持ち技が蹴り技中心なのもあるが。
(何と言う恥知らずな女だ…目論見としてはスカートを気にして動けなくなるところを、弄り辱めてやるつもりだったのに…まるで男だ)
 「まるで」ではなく「実は」男とは夢にも思わない。
 そして蹴ると言っても服はとげだらけだ。どうしても首から上狙い。つまりハイキックが多くなる。
 蚣は先刻の鰐淵と比較しなくても背がないほうなのだが、それでも大きく足を上げ結果として下着が丸見えになる。
 実はそのせいでキックを食らいまくっていた。
(もっと見せろ)
 みずきが真摯な表情で蹴りを見舞うごとにその足元に見入っている。そもそもここまでの接近戦に持ち込まれたのも遠くからの、上条ならライダーキックと表現するジャンピングキックを脚線美。そして下腹部を包む布キレに見とれていたことに端を発する。
 何しろみずきはもともと男である。長いこと女子として学園生活を送りスカートでの行動ゆえに女子のときはだいぶ女のしぐさが身に着いたといえど、こうして戦いとなり、まして『切れれば』太ももをさらけ出すのに恥じ入るはずもない。
 そして整った顔立ちの美少女だ。それがきりりと甘さを捨てるとなんともいえない中性的な魅力。否。魔力を発してしまう。
 みずきは「かっこいい女の子」なのだ。その魔力にとらわれた蚣はサンドバッグと化していた。
「ダメだな…ありゃ…」
 早くも四人衆の長が見限った。そうとはしらず蚣はどんどんとにやけた表情になる。いままで女と戦ったことはあってもこんな美少女はいなかったのだ。
(ああ…美しい…もっと…もっと蹴って来い。どんどん見せろ。その秘所を)
「うぐっ」
 さすがにぶちきれモードのみずきも悪寒が走る。間合いを取る。
「どうしました。来ないならきさせてあげましょう」
 蚣は彼女の背後を狙い射撃する。つまりかなりの確率で前に…自分のほうに来る。
 だがみずきの行動は違っていた。爆風のあおりを利用して上に跳んだのだ。そしてそのまま落ちるに任せ再び足一本だけを突き出す。ただし真下に向けてだ。
「食らえっ。変態っ。クレーターメーカー」
「お…おおおおおっ」
 真上から落下してくる蹴り技。つまり少女の股間を下から眺め放題。この変質者が無粋によけたりするわけがない。
「さぁ。僕の胸に飛び込んでおいで。マイハニー」
 結果。遥か高みから落下する48キロの少女の全体重を顔面で受け止めたことになる。
 敗者は至福の表情で倒れ伏した。みずきはスカートを直しつつ
「思い知ったか。女の敵」
と、丸っきり女の立場でつぶやいていた。

「それじゃ…輝ちゃんが上条くんのことが好きと言うのは」
 目に見えて表情が明るくなる綾那。
「それはいうなればあれね。肉親に対する愛情。安心していいですよ。もっともそっちの彼は逆に不安になったみたいだけど」
 暗にシスコンボーイをからかう輝。それが余計だった。
「けっ。やっと振り出しに戻っただけだ。俺が認めた奴以外にゃ姉ちゃんは渡さねえ」
 堂々巡りであるが前進はしている。

 無限塾。笑いながら気絶している蚣の前に立つ女。
「礼を言うわ。こいつったらあたしに付きまとってうるさかったのよ。スカートを穿けとも。これで少しは懲りたでしょ」
 悪の華。それも毒華である海老沢銀子が仲間であるはずの蚣を、得物である一メートル二十くらいの銀色のロッドで小突く。
「それじゃこちらは私が…ぐぎぎっ」
 榊原が紳士のように振る舞いさりげなく出た。なにしろ入来や久子がクレームをつける暇もない。
 それをしっかりみていてしかもガンズン・ローゼスで首を絞めて止めるくらいだから真理もよく見ている。
「あんたもそのトゲ野郎と大差ないだろう。女の相手は女さ」
「いいわね…」
 真理vs銀子。言葉どおり女の対決が始まろうとしていた。

第23話「ぬけがけ! 無限塾」Part4へ

「PanicPanic専用掲示板」へ

「Press Start Button」へ

トップページへ