第24話『熱血!! 体育祭』Part2   Part1へ戻る

 「はじめまして。皆さん。姫子の父です。娘がいつもお世話になってます」
 低い落ち着いた声で喋る。決して威張ってはいない。だが威厳のある人物だ。
 北条家では慣わしなのか、ほとんどが和服を着ていた。愛子とその護衛の弥生。葉月は彼女たちの通う学校の制服であったが。
 (さっきも見たが…よかった…忍装束とかじゃなくて)
 人事ながら心配していたみずきである。さすがにそこまではずれてないらしい。
 (すると風間が並外れてずれているのか?)
 言うなれば隠密での護衛である。普通の格好でないと浮いてしまう。十郎太の場合も同様だが。
 「父上。母上。あなた方だけでござるか? 兄者たちはいかがなされた?」
 「案ずるな。刺客に備えて潜みつつも見守っている。わしらがうぬの『体育祭』だけのためにこちらにまいると思うたか」
 「いや。そんなわけはありませんが」
 あくまで最優先事項は護衛である。

 「姉ちゃん。余裕だろ」
 背の低い綾那を目ざとく見つけたのは、朝弥の「愛」のなせる技か。その後ろを両親がついてくる形だ。
 「あっ。お兄ちゃーん」
 その甲高い声に振り向くと上条あかり。上条輝の親子である。親の前だからと言うだけでなく輝の髪は黒い。
上条に言われたことを忠実に守り黒髪で通しているのだ。
 「きやがったな。ブラコン女」
 「あらいたの? シスコン男」
 すでに来ていた若葉一家だったが、朝弥と輝が臨戦態勢に入る。どうも水と油と言うか犬猿の仲だった。

 なんとなくそんな様子をまぶしそうに見ている真理である。彼女は母一人子一人の環境で育った。そしてその母もすでに無い。
 「村上…」
 「はは…悪くないよな。家族って。正直羨ましい…」
 寂しそうな言葉の真理。
 「………これを見てもそれがいえるか…」
 姉。涼子に関節を極められながら、うめくように言う榊原。ちなみに別に不始末があったわけではない。
 大学が忙しく、すれ違いで久しぶりに弟の顔を見たので、スキンシップを取っていたと言うのが涼子の弁である。
 メガネ美人だった。ブラウスとタイトミニと言う女教師のような格好だが事実、教育実習中である。
 胸元は真理にも引けをとらない。化粧は武装をするが如くびちっと決まり「大人」を印象付けるが、この態度を見る限りもう少し精神年齢は低そうだ。
 他にも家族は来ていたが次の競技が来たので観覧席へと戻る。
 そしてみずき。姫子。綾那と他の女子はクラスへと戻る。みずきはこれからすることを思うと渋い表情だった。

 次の競技。それは『棒倒し』だった。参加選手は全男子生徒。各組の全学年男子だった。
 ここで『棒倒し』についても説明しなくてはなるまいっ!!
 四メートルはあるかと言う丸太をそれぞれの陣地で立てている。それを守るもの。敵陣地に攻め込み倒すものと分かれる。
 倒されたら負けで、この場合は生き残った順に高得点になる。
 それぞれ四隅に陣取り『丸太』を立てる。守りは描かれたサークルに入れるだけ。およそ三十人がいいところだった。
 二組の戦法としては守りを二十名。残りを三分割して攻める。守りがやや手薄だが、攻める分だけ相手も守勢に回らずを得ないから同じとの判断である。
 「こっちにゃ風間。上条。そして埼京流の俺様がいるんだ。攻めて行こうぜ」
 相変わらず根拠のない自信の入来だが、異論を唱えるものはいない。確かに攻める方が向いているチームだ。
 「頼むぞ入来。守りは僕たちに任せろ」
 坂本が防衛隊のキャプテンだ。
 「それではっ。棒倒し。Ready Go!!」
 進行役の妙に熱血した号令で一斉に飛び出した。

 同じ戦法を取っているのが一組だ。攻撃チーム同士が鉢合わせした。大乱戦。だがそれを潜り抜けるものがいた。十郎太だ。
 「攻め手はあくまでも攻め手。守りはもろい。潜り抜ければ敵陣は目の前」
 とはいえど一人で1組防衛隊二十人相手は辛い。
 「なんの! 天守は目の前」
 怯まずに驚異的な跳躍力を見せる。『おおっ』となったのは観戦していた父兄や女子生徒だけではない。
 「御免」
 頭の上を飛び越えれば確かに無礼か。十郎太はその勢いのまま先端に蹴りを見舞う。

 三十人が守り。残りが一塊で攻めに回ったのが三組だ。それはいま四組と対峙していた。
 四組は三十人がサークル内だが、攻撃チームがとどまっていると言う名目でサークルの外側にも三十人がいた。つまり実際は六十人で守っている。
 これが鉢合わせなものだから凄まじい大乱戦だ。双方ともに他所を攻めに回ろうと思っても転進した途端に背後から潰されかねない。
 呆然と見ていた榊原達だが
 「この際…潰しあってもらいましょう」
と言う榊原の提案をみんな了承して手薄な三組の攻撃に回った。

 その三組を攻撃に回っていたチームに上条はいた。当然だが防衛隊がいる。何人かが迎撃に来た。
 「来たな。バーミア兵」
 わざわざ自分から乱闘に突入する上条である。
 「そいつを抑えろ。そうすれば棒は守りきれる」
 何しろ四季隊たち襲撃者と戦っているところをかなり見られているのだ。マークも当然。取り押さえにかかるが
 「必殺龍尾脚―――――っっっっ」
 「うぎゃぴぃぃぃぃぃっ」
 蹴散らされる。そして前衛に向けて
 「行くぜ! 飛龍乱舞――――――――っっっっ」
 弱い飛龍撃から始まり三連発。もちろん乱闘慣れしている無限塾生徒がまともには食らわないが血路が開いた。
 「よっしゃあっ。突入だぜえっ」
 入来の号令でもろい部分をつく。さらにその上、四組に向かっていた面々がこちらになだれ込んできた。
 ただでさえ守りは最低限。戻ってくるはずの攻撃チームは四組との攻防戦に勝ち棒を攻めていた。
 四組を落としたのはいいが自軍の砦も落とされた。最下位の4組。零点。三位3組。20点。
 そして一組対二組の対決。守りが四十人。残りが攻めと言う布陣も一緒だった。
だが榊原を参謀として十郎太。上条を擁する二組攻撃チームが勝り先に棒を倒した。
 この競技で一位になり五十点を獲得した。

 男子全員参加の棒倒しであったが何人か続けて出ることになる。
 今度の競技は「ウェディングラン」。これはウィニングランのもじりだ。
 各学年で選抜された男子生徒が四百メートルトラックを走る。
 そして残り30メートルのところで女子生徒を抱えてゴールインしなくてはならない。
 タイトルにちなんで女子はウェディングドレスを着せられていた。
 ちなみにこれは和紙で作られた使い捨てだ。無限塾の家庭科部が採寸して製作した。
 そして男子も体操着姿の上から、紙で出来た黒いタキシードだった。
 この姿で『ゴールイン』とはまた洒落が効いているものだが。

 また御丁寧に女子は花嫁風に化粧まで施されていた。ただ姫子だけは持ち込んだ「白無垢」であるが。
 そう。運ばれる女子だが、姫子と綾那が体重の軽さで選ばれていた。そしてもう一人。
 二年で橘千鶴のはずだったが、リハーサルでランナーの坂本にしがみつく際に、おかしな足運びをして捻挫。競技リタイアとなった。
 作り直しの時間もなく肩幅は同じで、胸元の修正だけで済むことから一年ではあったが、みずきに白羽の矢が立った。
 当然、千鶴としては収まらないがまともに歩けないので仕方ない。
 二年の体育の授業の際だったので、捻ってからしばらくしていたこともあり、七瀬が治療してしまうと不自然で、治すわけには行かなかったのも彼女の不幸。
 「それではっ。ウェディングラン。レディーッゴーッッッッ」
 一年生のランナーから走り出す。一番手は上条だ。
 脚力だけなら上条より速い選手はいたが、女の子を抱え上げて三十メーター行かなければならない。
 腕力も要求された。もちろん綾那が「ボクをだっこするのは上条くんだけ」と言い張ったのも多大に影響している。
 ちなみに十郎太も暗黙のうちに決定していた。
 最初にたどり着いたのは四組のランナーだった。いうまでもないが自分のクラスの女子だけが対象である。
『略奪結婚』は認められなかった。抱えあげようとする。
 「うっ」
 軽くても40キロはある。快足を誇ったものの、腕力は乏しかったらしくよたよたとしていた。ついには女子を落としてしまう。
 後ろへはいくら走ってもいいが、落とした状態で女子は前に走るのは反則を取られる。抱えあげなおす。その間に上条が間に合った。
 「上条くん。だっこ」
 ぴょんと胸に飛び込む。しっかりとお姫様抱っこをする綾那。
 「ああ…」
 とろけそうな表情の綾那だ。幸せな『花嫁』を他所に
 「こらーっっっ。そこのオタク。姉ちゃんにあんまりひっつくなぁぁぁぁぁぁっ」
 「ちょっとぉ。綾那ちゃん!! あんまりお兄ちゃんにくっつかないでよぉぉぉ」
 応援席ではシスコンとブラコンがぎゃあぎゃあ騒いでいた。
 「あらあら。申し訳ないですわ〜〜〜うちの朝弥が失礼なことを」
 「いえいえ。事実ですし。こちらこそ恥ずかしい娘で」
 親同士まで巻き込まれていた。レースそのものは綾那の軽さがものをいい一着でゴールイン。
他は男が非力。あるいは女子が重かった。綾那が唯一40キロを割っていたのも大きな勝因と思われるが。
 「ついた。さぁ。若葉。降りて」
 「えー…もう着いちゃったの…」
 心底残念そうな綾那だったが、記録委員の向けたデジカメのおかげで、もうちょっと「至福の時間」が続けられた。
 後にプリントアウトを要求したのはいうまでもない。

 第二走者。十郎太は脚力がまるで他と比べ物にならない。だがランデブーポイントが問題だった。
 白無垢姿の姫子が三つ指ついていたのである。こうなると礼を守らねばならない。十郎太も正座する。
 「十郎太様。不束者ですが末永くお願いいたします」
 「はっ。命に代えても」

 互いに深々と礼をする。まさしく美しい日本の礼儀作法だが、この場合はひたすら厄介なだけ。
 とはいえど姫子の女心を思うと無碍にも出来ず。
やっと作法が終わったときには全員に抜かれていたが、そこは脚力でカバー。それでもさすがに二位が精一杯。

 そして二年生。坂本の走りでみずきがランデブーポイントに。それを見て応援席の瑞枝は目頭を押さえる。
 「まさかこんな形で…あの娘の花嫁姿がみられるなんて…」
 「くやしー。あの胸はまねできないわ」
 薫が悔しがる胸元はみずきの胸の大きさを視野に入れて露出部分が大きかった。
 きちっと決められたメイク。ちりちりと耳障りなイヤリング。
 (先輩…早く俺をさらし者から解放してくれよ…)
 衆人環視の前で女の記号たるウェディングドレス姿では耐えられないのも無理はない。
 だからか坂本が到着したときは自分からその胸に飛び込んだ。
 ぶちっ。いくら相手が男でも…いや。相手が男だから余計に切れてしまった七瀬である。不機嫌そのものの表情になる。
 「もう。知らないっ」
 ぷいと横を向くと尋常ならざる気配。怒りも忘れて見ると嫉妬で完全に臨界点を突破した橘千鶴がいた。そしてその頭上に出現するマリオネット。
 「ケアレスウィスパー。あの小娘をやっておしまい」

 みずきは不思議な感触を味わっていた。相手に完全に身をゆだねるこの感触。
 そして揺れないために密着をするがくっつくほどに安心できる。
 (女がやたらべたべたするのはこういうのを知っているからかなぁ? なんだか悪くない気分だなぁ)
 見ようによっては恍惚として見えたかもしれない。また坂本とみずきは噂になったこともあり余計そう見えた。
 しかし切れた千鶴がそれを黙ってみているはずもない。
 「フリーズアロー」
 ひゅんと音がした。風きり音だ。つららがみずきの「ウェディングドレス」を掠める。
 以前にやりあったこともあり瞬間的に誰の仕業かみずきは察した。
 (文句くらい言うかと思ったが…まさかここでミサイル発射とは…)
 「ちちぃっ。悪運の強い女。だけど私の坂本君に近寄る女はみんな地獄行きよ」
 立て続けに氷のミサイルが放たれる。みずきそれをよけるために坂本にきつく抱きつく形になる。
 ぶちぶちぶちぶちっ。もはや制御不能。千鶴はミサイル乱射を始めた。慌てて止める真理。
 「わーっっっ。なに考えてんだ? あんたは。七瀬。あんたも手伝ってくれ」
 「いいじゃない。ふふ。人前で男とべたべたするようならちょっとくらいお仕置きされても。ねぇ」
 背筋が凍りつくかと思った真理である。
 (アタイも女なワケだけど…怖いな。「女の嫉妬」って)
 もちろんこの状態ではゴールインなど不可能。0点である。
 自軍の得点を阻んだ千鶴だが、坂本とみずきの「ゴールイン」を阻んだ方が満足だったようだ。

 「しかしこんな秋晴れで雹がふるなんてねぇ」
 ケアレスウィスパーのフリーズアローはそう解釈されていた。
 現在はインターバルで父兄参加のスプーンレースが行われていた。もちろん「花嫁」のメイク落としが目的での時間稼ぎだ。
 予想通りに足の遅い瑞枝だったが、意外にも器用にスプーンでピンポン玉を運び、足の遅さをカバーする丁寧さでゴールイン。
 得点に関係ないために年齢で分けられており、そのため上条輝。若葉朝弥。風間弥生。赤星薫と言うラインナップが実現してしまった。
 火花を散らすシスコンとブラコン。
 のんきなくの一は「兄上―っっ。見ててくださいねーっ」とスプーンを振っている。
 そして薫は男子相手に愛想を振りまいていた。
 スタートを切る。風が走る。のほほんとして見えた弥生だが実力は折り紙つき。ただ…ピンポン玉を運んでいれば一位だったのだが。
 あの対決以来やたらにいがみあう二人は、デッドヒートを繰り広げていた。
 朝弥は綾那と血がつながっているからか足は速い。だがスプーンのピンポン玉を落とさないようにしていて全速は出せなかった。
 そして意外に起用にピンポン玉を運ぶ輝が追いついた。
 「へっへーん。追いついたわよ。まぁ情けないシスコンボーイじゃピンポン球一つ運べないようだけど」
 「言わせておけば。だったらさっさといけよ。いとしの『お兄様』が待ってるぞ」
 皮肉のつもりだったが輝はポッと頬を赤らめる。
 「そうだわ。早く終わらせてお兄ちゃんのところへ」
 「くそっ。俺も早く姉ちゃんのところへ」
 しかし綾那はメイク落としでこの場にいなかった。思い出してがっかりする朝弥。
 そして後ろで転ぶ音。振り返ると薫がスカートに足を絡ませて盛大にこけていた。
 (姉妹揃ってドジ娘…)
 別に薫はドジッ娘ではなかったが(その前に娘でもないが)みずきの『妹』と言うことで塾生たちに先入観をもたれていた。
 「いったぁーい」
 すりむいた膝をさすりながら立ち上がる。その際にチラッとスカートの中身が見えた気がしなくはないが、実はアンダースコートをつけていたりする。
それでも充分に『萌え魂』に火をつけたらしく
 「うおおおおおっ。ぜひ無限塾に進学してくれっ」
 「ドジッ娘姉妹。くぅーっっっ萌え萌えーっっっ」
 「可愛いーっっっ」
 男女問わず受けていたりするからわからない。

 競技は午前中最後の二年の徒競走になる。一年の出番は昼休みの応援合戦までない。

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