第26話「花嫁は姫子!?」


 日曜日の夜。北条一家は来日中の富豪。キング氏に招かれてパーティーに出席した。会場は彼が滞在している日本の山荘である。
 山荘といってもまるで城。財界人が多数出席するパーティーのためか、物々しい警備の数である。
 警備と言うなら、北条家も独自に風魔衆を潜ませていた。
 本来SPと言うものはあえて目立つようにして、テロ行為を思いとどまらせるものだがこの場はパーティー。
 さすがに威圧的には出来ず影からのサポートであった。
 そして十郎太も内部でのガード。さらにはエスコート役で同行していた。藍色の渋い和服姿である。

 林の中を突っ切る形で車は進む。ところどころに警備と思しき人間がいる。観察していた十郎太だが
(妙でござるな…警備の者がいるのは当然だが、このものたち。筋肉のつき具合が兵士と言うより格闘家のようでござるな。素手の警備に自信があり…か。拙者たちも同じゆえわからんこともないが)
不審に思っていた。

 思考は一家が門についたところで中断された。車から順次降りてくる。
 運転手が降りて車のドアを開く。十郎太が狙撃などに備えて盾となるべく先に下りる。次は姉妹。
 最初は妹の愛子。パーティードレスに身を包み、軽く化粧をしてイヤリングや指輪などで身を飾っていた。
「ねえさま。お手をどうぞ」
 車中の姫子に手を差し出す。
「ありがとう。愛子さん」
 次に出てきたのは振袖姿の姫子。
 長い髪は艶やかに輝き、愛子同様に薄化粧を施した顔であるものの、にっこり笑うこの表情はいつものお姫様振りをいかんなく発揮していた。
 そして母親。最後に父親と一家がすべて降り立った。
「さぁ。こちらへ」
 案内役の女性が招くままに邸内に。しんがりの十郎太も入ろうとするが
「君はデータによれば家族ではなく護衛らしいな。警備の方はわれわれに任せていただこう」
 黒いスーツの190センチはあるオールバックの壮年の大男にさえぎられた。端整な顔立ちだがアイパッチが目を引く。
「十郎太様…」
 無条件で同行できると思っていた姫子は憂い顔。普段は無表情の十郎太は無理やりに笑顔を作り
「宴を存分に楽しまれるがよいでござるよ。拙者は表で曲者に眼を光らせるでござる」
自分から背を向けた。僅かに悲しそうな表情を見せた姫子だが、十郎太の立場を思いやり、あえてパーティーへと出た。

 もちろん十郎太も言葉どおりに表で待っているつもりはない。だが警戒が厳重で十郎太自身が忍び込めない。
 強行突破をできなくはないが、騒ぎを起こして困るのは主君たち。仕方なく待機を実行することにした。
(これだけ厳重ならば蟻一匹は入れまい。姫が無事ならそれでよい。しかし…いささか厳重すぎるな。まるで要塞でござる)

 山の中とは思えないパーティー会場。豪奢なつくりのパーティーホール。若干、成金趣味だが金のかかった調度品。
 中世の王族のようにオーケストラの演奏に耳を傾け、美味に舌鼓を打っていた。
「こんなところで逢うとはね。北条姉妹」
 まるでウエディングドレスのような、深紅のパーティードレスの橘千鶴がここでも食って掛かる。
 明るい色合いの髪の上に、縦ロールなものだから恐ろしくしっくり来る。
 千鶴だけではない。若い女性がやたらに多かった。いずれ劣らぬ名家ぞろい。令嬢だらけである。
「あら。こんばんは。千鶴さん」
「ちーちゃん。おひさ」
 北条姫子より妹の愛子は若干…ではすまないほど奔走であった。二つ年上の千鶴にも「ちゃん付け」である。もちろん千鶴は面白くない。
「子供のころの呼び方はおやめになってくださらない? 愛子さん」
 渋面で抗議する。まったく気にしない妹。
「えー。いいじゃない。ちーちゃん進学してからぜんぜん逢えなくなって寂しかったし」
「私は別に」
「あの…千鶴さん。何か不愉快なことでもありました?」
「あんたの妹」
 千鶴は元々がきつい性格だが、この場はなおさらカリカリしていた。
「それからこの場所。成金趣味もいいとこ。見ているといらいらしてくるのよ。
 そしてなんと言っても私には、坂本君と言う心に決めた人がいるのに、こんなところで愛想を振りまかないといけないのが一番癪に障るのよ」
 一気に喋り肩で息をする。
「それはお気の毒ですわねぇ」
 頬に手を当てて憂い顔の姫子。本心から同情しているのは間違いない。傍らでは愛子がプッツンした千鶴と、マイペースの姉に苦笑していた。
「楽しんでますかな? お嬢様方」
 人が二つに分かれていき、道が作られる。歩いてきたのはこのパーティーの主賓であるキングであった。
 年齢は五十。白髪が半分の髪をオールバックにしている。身長は170センチとそれほど高くないが、がっしりと横幅が広い。
 角ばった顔と、白目の多い目が特徴的だ。
「これはこれはキングさん。本日はお招きにあずかり光栄ですわ」
 さすがに上流を自認するだけに礼儀作法はきちんとしている千鶴。
 先ほどまでのカリカリしていたのはどこへやら。愛想笑いまで浮かべて見せる。
「喜んでいただけたならよかったです。さて。紹介しましょう。私の息子でプリンスです」
 もちろん俗称とか通称。愛称だろう。いくらなんでも「プリンス・キング」ではしゃれにならない。
「プリンスです。はじめまして」
 端整な美男子ではある。金髪はよどみなく、青い瞳は海のようだった。
 母親が長身なのか息子のほうは170中盤よりありそうだ。スマートでもある。ただし…体形の話。おつむがスマートかどうかは計り知れない。
「はじめまして。橘千鶴ですわ」
 スカートをつまんで広げて、優雅に挨拶する千鶴。女優になれそうなほど見事な演技だ。
「ようこそ」
 握手をするプリンス。そして次に姫子に目を移して…固まった。
「はじめまして。北条姫子でございます。どうぞよろしく」
 晴れた空の色をした日本の民族衣装に身を包んだ華奢な美少女。
 まるで人形のような整った顔と、切りそろえられた髪。鈴を転がすような声。
 極め付けがその物腰の柔らかさだった。
「……いい……」
「はい?」
 思わず聞き返す姫子。その手を握るプリンス。
いい……なんて美しいんだ! これぞヤマトナデシコと言う奴か?」
「は…はい…ありがとうございます」
 さすがの姫子も若干「引いた」感じになる。それほどプリンスの行動は常軌を逸していた。
「決めた。君に決めたぞ。ヒメコといったね? 僕の妻になるがいい」
「は?」
 興奮するプリンス。あっけに取られる姫子。いくら世間知らずでもこれがまともじゃないことはわかる。

姫子にアプローチするプリンスとやきもちを焼く愛子(笑)

このイラストはOMCによって製作されました。クリエイターの参太郎さんに感謝します。


「おう。見つかったか。それはよかった。さっそく北条家には連絡を」
 キングまで相好を崩す。
「ヒメコとはプリンセスと言う意味だろう。『プリンス』たる僕にふさわしい。来週の日曜には本土に戻るが、そこで式を挙げよう」
 どうやら本当に嫁探しをしていたようだ。
「もしもーし」
 無視された形の愛子が割って入る。
「なんだ。君は?」
 結婚する気なら義妹となる相手に怒鳴りつける。
「生憎ですが、姉さまには心に決めた方がいらっしゃいます。あなたの入る余地はございません」
 それにも多少むっとして強く言う。
「な…なんだと。そんなの金と力で解決してやる」
「ふん。どんな男でもはした金で心変わりする。心配は要らんぞ。息子よ」
「パパ。頼むよ」
 そういう主義なのかもしれないが…
「プリンスさん」
 珍しく姫子の表情が険しくなる。
「いくらお金をつまれても、動かない心があります。愛はお金では買えません。力に屈しません。だから尊いのですよ」
「な?」
「残念ながら考え方が違うようです。他の女性をお探しになってください」
 それだけ言うとお辞儀をしてその場から去る。愛子も黙ってそれについてゆく。かなりの悪印象を抱いたらしい。
「ごめんあそばせ。私も心に決めた殿方がいますので。悪く思わないでください」
 千鶴は一応、愛想笑いするものの、やはり足早に立ち去る。
 どう見ても姫子が正論である。だから客は誰も姫子を咎めなかったが、このバカ親子を怒らせると厄介なので咎めもしなかった。
 しかし恥をかかされた形の「王子」と「王」は「可愛さあまって憎さ百倍」を地で行く心理だった。

 パーティーが終わり帰途に着く一家。呼ばれて車に同乗する十郎太。
「いかがでござった? 宴は」
 助手席から後ろを向き訊ねる。
「疲れたわ〜。あのバカプリンスのせいで。姉さまに魅力があるのは確かだけど、あそこまで短絡的にでるかしら?
 あたしが言うのもなんだけど、苦労知らずのお坊ちゃんで、欲しいものは何でも手に入れてきたタイプね。ちゃっちゃと帰って欲しいわ」
 姉ほど世間知らずではない妹がまくし立てる。
「むう。そのようなことが」
「キング氏といえばあまりいい噂は聞かない。とんでもないものではテロリストを雇っているとも。
 それはさすがに眉唾だろうがね。そんな御仁が息子に恥をかかされた形では何か言ってくるかもだが…」
 案じている北条家当主。
「え…まずかったかしら?」
 うろたえる愛子。苦笑しつつも安心させるために言葉をつむぐ父親。
「なに。先方が何を言おうがお前たちは勝手に嫁になどやらん。安心しろ愛子も。そして姫子もな。なぁ。十郎太」
「はっ。命に代えても姫たちは護るでござる」
 すでに安心しきってすやすやと眠っている姫子である。それは家族。そして十郎太の存在ゆえか。
 無防備なその寝顔はまるで赤ん坊のようであった。

 修羅がいた。
 男は血に飢えていた。強敵を欲していた。
「うおおおおおおおおっっっっ」
 木刀を一閃する。切り裂かれた風が鳴く。はぁはぁと荒い息をする。
「寝ても覚めてもオレはっ」
 月に向かってほえる。
「風間十郎太。貴様と真剣勝負がしたくてたまらないっ。
 くそっ。何か本気の奴と戦う方法はないか? あのお姫さんをどうにかすりゃ奴も切れるだろうが、それはオレの望みではない。ただ純粋に野郎と戦いたいっ」
 秋本虎次郎は満たされぬ思いに、眠れぬ夜を過ごしていた。

 月曜日。登校する。まったく普通の平凡な一日。そして今は昼休み。弁当を食べながらの他愛もないおしゃべり。
「そういえば姫ちゃん。昨日はパーティーだったんでしょ。聞かせて聞かせて」
 綾那が子供のように詰め寄る。七瀬や真理。みずきまでも興味があるようだ。
「パーティーと言うよりも、お嫁さんを探していたようにも見えましたわ。若いお嬢さんばかりいらっしゃいましたし」
「嫁探し!?」
 きゃあと嬌声が上がる。ちなみに真理はまだしもみずきまで。学校では少女を演じているうちに「地」になってきたらしい。
「それでそれで? 姫ちゃんはプロポーズされたの」
「んなわきゃないだろ」
 真理がパンを食べながら綾那に突っ込むが
「されましたわ」
 姫子のその言葉に一同「ええーッ!?」となる。
「でもお断りしました」
 パーティーでの一件を話す。
「うーん。そりゃ確かに…なぁ」
 正真正銘の女ではないみずきだが、それでもさすがに女の味方・見方になる。
「それに…今はまだお嫁に行くときではありませんですもの。こうして皆さんと一緒にお勉強したり、おしゃべりするのが大事ですし、楽しいですわ」
「そりゃそうね。16歳になったばかりじゃ幼な妻もいいところだわ」
「あら。七瀬さん。わたくしのお誕生日は11月の25日ですわ」
「そうだったわ。ごめん。まだ15歳ね」
 笑いに包まれる休み時間。極めて普通の、平穏な一日だった。

 木曜日。プリンスは七人の男女を集めていた。
 手足となって働く存在だ。表向きは親衛隊だが、実際は攻撃的な仕事も請け負っていた。
「準備は済んでいるな? M」
 自分よりはるかに年上の部隊長に高飛車に言う。
 Mと呼ばれた男。パーティーで十郎太の前に立ちふさがった壮年の男は臣下の礼をとり
「はい。屋敷の警備状況。そしてプリンセスの寝所までも頭に入っております」
「ならば行け。そしてこの場に連れて来い。日曜に会って三日以上。頭から心から離れない。この思いは本物だ。ならば多少は強引でもいい。むしろその強さに女は惚れる。私は正しい」
 すでに狂気の粋に達してきた。
「さあ。早く彼女を私の前につれて来い。ラッキーセブン」
「はっ」
 親衛隊にして攻撃部隊。プリンス懐刀の七人の男女は音もなく風のように消え去る。

 満月の夜だった。

 月は狂気を支配するといわれていた。
 ついにたまらず、己の心のままに十郎太に果し合いを挑むべく北条屋敷へと出向いて来た秋本。
 滅亡したはずが再興したと言う由緒正しい家柄だからか、純和風の屋敷だった。
「ん?」
 彼の動きが止まった。深夜だというのに車が二台。乗り付けてきた。隠れて様子を伺うことにした。
 最初に降りてきたのは金髪の小柄な少女。純白の衣装がまるで天使のようだが、背中に背負った物の無骨さがアンバランスであった。
 ついで降りてきた大きな影に秋本は驚愕した。
(なんだぁ? ありゃあ…)
 その『影』は聞き取りにくい声で少女に「やれ。A」といった。
 いわれた「A」はスイッチを入れた。背中の「ジェット」で空中高く舞い上がる。そして空から爆弾付きのボウガンで電源を狙い打つ。
 激しい爆発音。大きな影は金属の棒を門扉に投げつけてみるがぶつかって落ちるだけ。
「よし。警備システムは死んだ。やれ。R」
「ま゛」
 「R」と呼ばれた2メートルはある青銅色の甲冑姿の存在が、一撃で門扉を破壊する。
 突破された正門から次々と侵入する。だが爆発音と見張りの報告で、警備の風魔衆も残らず迎え撃ちに出た。
「ふっふっふっ」
 軍服を着た男。「C」が手榴弾を空中へと投げる。激しい爆音とともに爆発した破片が散乱して降り注ぐ。一瞬だが恐怖を呼び起こし、隙を生む。
「ほああっ」
 その隙を突き、カンフースタイルのチャイナ系。「D」の鉄拳が風魔を的確に打ち倒して行く。
 刀を持っていたにもかかわらず、風魔は急所を突かれて倒れ伏して行く。
「おのれっ。曲者ども」
 斬りつけてくるのは風間九郎。もちろん一族を逃がすための時間稼ぎ。忍者でありながら太刀で切りつけてくる。
 それを防いだのは口ひげの小柄な人物。二本の刀を交叉させ太刀を受け止める。
「あなたのお相手は私『G』がさせていただく。任務の邪魔はさせない」
 見た目は外国人だが二本の刀を巧みに操り、太刀を捌いていた。
「いくぞ」
 大柄な男が指示をするが
「待って。靴を履いていない音。そして足音の軽さから女性。どうやらこれがプリンセス」
 耳を澄ます少女が状況を伝える。髪は長く、どこか東洋系なのか黒髪が巫女をイメージさせた。
「プリンセスは寝所にいません。脱出のために移動している様子。あっ。見えました。あちらの方角です」
 かなりの遠距離だが彼女には見えたし、聞こえた。コードネームはS。サーチのS
「D。C。お前たちは回り込め。われわれはこのまま追い立てる。念のためにAは窓から逃げないか見ていろ。R。お前は隠し通路を潰せ」
 九郎とつばぜり合いのG。宙を舞うA。そして先回りした2人を除いた巨漢が巫女と悠然と歩みを進める。

 屋敷内も騒然としていた。深夜とは言え堂々と押し入り、風魔集を蹴散らすとは。
 だが例え全員が死のうとも一族を守れればよし。それが総意だった。
 しかし賊は当主には目もくれず、一直線に姫子たちの部屋へと。
 姫子たちは最初、脱出用の隠し通路で逃げるはずだったが、甲冑の男がハンマーで地面を叩き、陥没させて通路を止めたそのために隠し通路は諦めた。
「十郎太様…」
 さすがの姫子も不安げな表情だ。ネグリジェ姿の愛子も同様。
 いかに武家の末裔といえど、この平和な世と国で、深夜の急襲など考えられなかったのだ。
「御安心めされい。姫。拙者が命に代えても姫と愛子様を逃がすでござる」
 二つの軽い足音が戻ってきた。弥生。葉月の双子が戻ってきて報告する。
「兄上。非常口は敵が2人攻めてまいります」
「くっ。ならばこちらしか手はないか」
 正門へといたる道が逆に敵は少なかった。十郎太が血路を開くつもりだった。その前に現れたのが…
「な? 狼男…」
 狼の頭部を持つ巨漢が指示を出していたのだ。全身は獣毛で覆われ、尻尾すらある。
 両手両足には鋭い爪。口には牙が。
「ニンジャよ。プリンセスは貰い受ける。痛い目に遭いたくなくばそこをどけ」
(この声…ごく最近に聞いた声…どこでだ?)
 だが今はそれを考えている場合ではない。
「弥生。葉月。お二人を守れ」
「はい」「兄上」
「拙者が…道を作る」
 忍は現実家だ。己の力を過大評価しない。当然ながら敵の戦力も。しかしこの場合は参考になるものが少なすぎた。だから揺さぶりをかけてみた。
「お主…その狼の被り物。マリオネットーだな」
「ほう…知っていたか。そうだ。オレがイメージした狼の敏捷さと獰猛さ。そこに人の知恵と技だ。貴様に勝てるか?」
 マリオネットが見えるのは基本的にマリオネットマスターだけ。しかしこのタイプは本体と一体化しているためかビジュアルが普通の人たちにも見えていた。
 恐らくは威嚇と正体隠しもあるだろう。
「勝てぬまでも…姫さえ逃げられればよい」
「俺はそのプリンセスさえ連れて帰ればよい。後は無駄な労力だ」
「相容れぬな。ならば…」
「戦って勝ったものが望みをかなえる。シンプルな話だ」
 じりっ。じりっと回りつつ対峙する。
 十郎太にすれば援軍は期待できない。ほとんどは倒されたか「お館様」の警護に回った。妹たちは姫君たちの守り。頼みの兄・九郎は足止めを。
(拙者がやらねば…どうする?)
 反対に狼男も援軍がなかった。退路を塞いでいるので充分に援護にはなっている。しかし戦いにおいてはあくまで一対一だ。
「お前はボディガード。ゆえに攻めてはこないか。ならばこちらから行こう」
 言うなり狼男は床を蹴る。そして壁を蹴る。そこからの反射を予測した十郎太だが、狼男はさらに天井に飛んだ。
「何!?」
 狼狽する十郎太に向かって鋭い爪を振りかざして狼男は「跳んだ」
「ムーンライトリフレクション」
「ぐあっ」
 かろうじて鎖帷子のおかげで傷は負わなかったものの、衝撃が凄まじく膝をつく。
「ぐううっ」
「他愛もない。ジャパニーズ・ニンジャとはもっと神秘的なものと思っていたが…買いかぶりか」
 狼男は無造作に姫子に近寄る。しかし近寄れなかった。
 姫子が薙刀を。それもいつもの刃のない稽古用ではなく、実戦用の鋭い刃のついたものを手にしていた。
「プリンセス。わがままはそのくらいにして、われわれにご同行願いたい」
「まいりません。愛子さんには指一本触れさせません」
 いつもの柔らかい雰囲気はない。武人の娘。それがいた。
「われわれの用事はそちらのお嬢さんにはない。プリンセス。あなたをお連れすること。それだけが我々の使命」
「そうはゆかぬ」
 十郎太が後ろからくないを投げて戦意を示した。くないは弾かれて力なく床に落ちる。しかし隙さえ作ればそれでよい。牽制だったのだ。
「いざ参る」
 鋭く踏み込む。腹部を狙った拳撃。続け様に叩き込む。
「疾風拳」
 ところが狼男はまるで意に介してない。
「そんなものか。東洋の神秘。鍍金がはがれたな」
「何?」
「面倒だ。貴様を倒し、プリンセスも連れて行こう。喰らえ。わが技を」
 狼男は気を高めると壁にジャンプする。天井に飛ぶかと思いきやそのまま十郎太に攻撃を。反対側で壁を蹴り再び十郎太に。
 床をけり天井にジャンプしつつ攻撃。天井で反射して十郎太に攻撃。どこから来るかわからない。
「ムーンライトカレイドスコープ」
「ぐああっ」
 つごう七発を喰らい、さすがの十郎太も倒れ伏す。
「十郎太様ッ!?」
 悲痛な姫子の叫び。その背後から忍び寄っていた「C」がハンカチを姫子の口に押し当てる。
 甘い香りを感じたときは、深い眠りに陥っていた。
「撤収だ」
 麻袋でも担ぐように姫子を担ぎ上げた狼男がそう命じて、のしのしと去って行く。
「ひ…姫…姫ぇーーーーーーーーーっっっっっ」」
 鎖骨。肋骨。左腕を折られ、右足のアキレス腱を断裂された十郎太がうめく。

 表にて。無言で姫子を車に運び込む一団。何がおきたかは見当のついた秋本。
「こいつはいい。奴らと組めば…」
 走る車のボンネットに飛び乗った。そのまま姫子を拉致した車は立ち去って行く。


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