第26話「花嫁は姫子!?」Part3   Part2に戻る

 不気味なほど順調にトラックはキングの山荘にたどり着いた。降りて行く忍者と戦士たち。
「…おかしい…何ゆえ…襲撃がない?」
 十郎太の不安は理解できた。むしろ襲撃があった方が姫子拉致に確信が持てる。
「落ち着け。野戦より城攻めの方が難しい。奴らは本拠に腰を据えていると思え」
 兄・九郎の叱咤に迷いを振り切ろうとする十郎太。
 一団は静かに「城」を目指す。

 まさにその通りだった。
 多寡をくくって放って置いた秋本が、この期に及んでここを知らせたことを注げた。
 この時点では帰国に備えていたため、大慌てで迎撃準備だった。もう少し早ければ帰国を早めて『逃げる』手もあった。
 とは言え姫子との『ゲーム』もある。迎え撃つしかない。
(逆にチャンスだ。これで助けを潰して見せれば、この世に頼れるのが僕だけとヒメコも思うだろう)
 だからあえて近くまで引き寄せた。
 現在は司令室。プリンス。オペレーターたち。そしてラッキーセブン。『S』は椅子に腰掛けて、ヘッドホンをしている。外部の音を正確に拾うためだ。

『準備ができました』
 スピーカーから女性の声が響き『牢』の窓が開く。
「おおっ」
 プリンスどころかラッキーセブンまでも心を奪われそうだった。
 純白のウェディングドレス。胸元は大きく開き、それほど豊かではない姫子の胸を押し上げ谷間を見せていた。真珠のネックレスが色を添える。
 顔には化粧が施され、耳にはダイヤのイヤリング。
 美しい花嫁だった。ただし…輝く笑顔でなく無表情であったが。
「よく似合う…よく着てくれたね。朝になったら帰国して、そのまま教会に行くからね」
 プリンス自身もタキシードだ。
「この衣装は…」
 姫子が口を開く。マイクが拾い司令室に流す。
「死に装束です。戦場で男たちを送り出した戦国の世の女が纏う白い死に装束。わたくしの覚悟の現れです。
 もしも夜明けまでに脱出できねば。お約束どおりあなたのものになりましょう。けれど心は繋がりません。屍を抱きしめる。それでも…よいのですか?」
 学校での人当たりのよい姫子しか知らない者が見たら驚くほど引き締まった表情。
 まさに戦国の姫君。その迫力に気おされる。
 こうまでの覚悟を余儀なくされたのはこの「牢」にもよる。
 なにしろESPを想定して作られたらしく『姫神』が出られないのだ。
 即ち薙刀も弓も手に出来ず。自身のテレポートなど論外。手紙一枚すら運べなかった。
 マリオネットを封じられては、ただのか弱き女。
 それが逆に彼女自身の『覚悟』を促した。
「ふ…ふん。ならば僕も言おう。もし奴らが君を救い出せたら二度と日本には来ない。だがこの約束は意味がない。なぜなら奴らはたどり着けない。ラッキーセブン。そして200名の精鋭。突破できるものか」
 自信満々のプリンス。数の理論で行けばそうだろう。姫子もまじめに反論する。
「あまり彼らを侮るべきではありませんわ。風魔衆。そしてみずきさんたちを」
「ふん。時代遅れで死に掛けのニンジャと素人に何が出来る」
 虚栄でなく本心から鼻で笑う。そこに意外な姫子の支援者。
「俺も…言っといてやる。その『素人』…強ぇぞ」
 心底楽しそうに秋本が言う。
「なんだと?」
「まぁせいぜい足元をすくわれないようにな。それから。俺の戦いの邪魔はするなよ。それだけが楽しみだったんだからな」
「それは奴らがたどり着ければの話だろう」
「来るさ。確実にな」
「どうしてそこまで言い切れる?」
 多少むきになっていたプリンス。あくまで飄々とした秋本は姫子を見ながら
「他の奴らは義理だろうが…あのニンジャ野郎にゃ命をかけるだけの理由がある。そんな奴にとっちゃこの程度の防衛ライン。ないも同然だ」
 そう言い放つと秋本は壁に寄りかかった。
「…面白い…それなら突破して見せろ。この防衛ライン」
 言いたい放題に言われたプリンスが切れ気味に叫ぶ。
「攻撃開始。生かして返すな」

 それまで不安に襲われそうなほどなかった気配が、突如として殺気にあふれる。
 おかしなもので十郎太は殺気を向けられてむしろ安心した。
(ここに姫が…)
 そうでもなければ軽く脅して追い返すだけだろう。こうまで殺す気なら…姫の奪還を阻止と言うことか。
「むしろ嬉しいくらいでござる」
 ここさえ突破すれば姫を取り戻せる。そう思うと自然に勇ましくなる。だが
 草を踏む音は無数。十郎太達の五倍は数がいた。
「見抜かれていたのか…」
 榊原の言葉だが彼もむしろ「そうでなくてはおかしい」と言いたげであった。
「さァて。風間。ファイナルファイトだな」
 最後と言うよりは「極大」と言うニュアンスで言った上条。
「かかってきやがれ!!」
 真理の甲高いハスキーボイスがこだますると、隠れていたもの達が一斉に飛び掛ってきた。
「はっ」「てぃやっ」
 とりあえずカウンターで返すなり、かわすなりしてまともには食らってない。
「なんだ? この感触…」
 戸惑う瑞樹の声。
「私も。こんにゃくを叩いたみたい」
 気持ち悪そうに七瀬が手を振って見せる。
「バーミア兵? ショッカー戦闘員?」
 上条がそういうのも無理はない。全員が揃って全身タイツに覆面だった。

 司令室。哂うプリンス。
「くくく。最下級とは言えど訓練をつんだもの達。ニンジャはともかく、素人にはどうしようもあるまい。
 そして彼らが着ているタイツは特製で衝撃を吸収してしまう。また、筋肉や筋。目線を隠すことになり動きが読みにくいぞ」
 すでに勝利を確信しているプリンス。だが、秋本は退屈そうにあくびをして、姫子は微笑んでいる。

 衝撃を吸収することは戦っていた彼らはすぐに理解した。
「はん。そんなら『締め』はどうだい?」
 真理の右手から茨が伸びる。
「ガンズン・ローゼス」
「ぐあっ……」
 本来は心を読むための「アンテナ」だが、応用して自在に動くロープのようにも使える。戦闘員の一人に巻きつけ首を絞めて気絶させる。
「ランスラッシュ」
 綾那のスラッシュモードが立て続けに雑魚の首元に手刀を見舞う。瞬間的に呼吸困難に陥り動きが止まったところに綾那が跳ぶ。
「エアスラッシュ」
 頭上からの急降下。これはさすがに吸収しきれず倒れ伏す。
「スタッカート」
 七瀬の往復ビンタは衝撃こそ吸収されるが、頭を激しく揺さぶられ脳が攪拌される。そこにアレグロと呼ばれる急上昇するキックが見舞われ吹っ飛ぶ。
「ブツダンガエシ」
 榊原の右手のビンタと左足の横払い気味の蹴りを同時に食らい、相手は錐揉み状に吹っ飛ぶ。さすがに投げ飛ばされる衝撃は吸収しきれず気絶する。
「飛龍撃」
 これも同様だ。下からのアッパー自体は衝撃を吸収しても、吹っ飛ばされて叩きつけられるのまでは吸収しきれない。
「スタークラッシュ」
 瑞樹の見舞う無数のけり。数が多くてさすがにダメージが蓄積する。
「えいやぁっ」
 戦闘のプロである忍者たち。そして十郎太もまるで問題なく急所を攻めて打ち倒して行く。あっという間に全滅。
 そのうちの一人はあえて手加減して気絶させなかった。胸倉を掴み詰め寄る。
「申せ。姫はどこにおられる?」
「し…知らない」
「隠すな」
 鉄仮面に怒りの表情が浮かぶ。首を詰めるように襟をつかむ。
「今の拙者は鬼神も同然。喜んで人を殺すやも知れんのだぞ」
「し…知らないんだ。本当に」
 脅えきった戦闘員。だが十郎太は容赦ない。
「おのれ。しらばっくれるか」
「やめな。十。こいつァ本当に雑魚だ。だから本当に知らないらしい」
 心を読んだ真理が言うと、忌々しげに十郎太はその手を離した。もちろん気絶をさせておくのは忘れてない。
「風間。こういうときこそ落ち着け。憎悪に駆られてもうまくは行かん」
 榊原に諭されはっとなる十郎太。自分の取り乱し方を思い知る。
「すまぬ…」
「…いいさ」
 それで充分だった。
「しかし解せぬ。どこにキャメラがあるのだ?」
 的確に出てきた兵隊たち。自分たちは通信機を使っているわけではないからその電波と言うわけでもない。しかし監視カメラは見当たらない。
「アタイが探ってみるよ。電線の類を探せるかどうかわからないけどね」
 真理がガンズン・ローゼスを広げて辺りを探る。程なくして
「あの木の上だ」
 カメラを見つけて破壊した。
「やってみるもんだなぁ…よし。カメラの死角を捜しながら行くか」

 実はカメラもマイクも補助でしかなかった。
 凄まじい視力と聴力を誇る「S」がカメラ越し。マイク越しに探していたので的確に探せた。
 もちろん一塊になっているのも大きかった。
「ふん。無駄よ。カメラの死角は当然出来る。だが逆に言えばそこにいる」
 当然のように次の刺客が行く。

 刺客を倒しながら進む一団だが、こうなるともはやカメラにかまってられない。
 ならばと突っ切ることにした。そこにわらわらと沸いて出てくる戦闘員たち。
「くそっ。切りがない」
「多勢に無勢。唯一の救いは同士討ちを誘えることくらいか」
 ところが敵は弾丸を放ってきた。

 弾丸といっても本物ではない。上条やみずきの様に「気」の砲弾だ。
 水牛を模したヘルメット。御丁寧に二本の角まで。
 もじゃもじゃのひげ面で野人のような大男は両肩に「大砲」を乗せていた。それに意識を集中することで「気」を練り射出できた。
「やれ。マグナム・ギガ」
 指示をするのは「C」。それに対してマグナム・ギガ…またの名を二の腕の水牛の彫り物から呼ばれる「大砲バッファロー」が反論する。
「しかし、今ここで撃つと兵たちに当たります」
「かまわん。侵入者を排除すればいいのだ」
 武人・大砲バッファローは上官命令には逆らえない。気を練り撃ち放つ。

 立て続けの砲撃。これには敵も味方も大混乱だった。
「くそっ。味方ごと撃つとは?」
「固まっているとまずい。こうなれば散るぞ。十郎太。うぬは我とともにこの東を攻める。
 そこの三人と上条殿。綾那殿は西を。そっちの三人は榊原殿。真理殿について北を攻めよ。残りと赤星殿。七瀬殿は南を」
 九郎の指示にこくりと頷く一同。九郎はさらに続ける。
「この鬼門。潜り抜けねば我らに勝利はない。誰か一人でも姫を救い出せばよい」
「じゃあみんな」「Astara vista Baby(地獄で会おうぜ。ベイビー)」
 一番遠い西へとかける上条と綾那。敵も引き離して行く。
「南ですね。わかったわ」「こっちはひきつける」
 言うなり手当たり次第に雑兵を蹴り倒して行く幼なじみ。
「よっしゃ。派手に暴れてやるぜ」「遠慮は無用」
 馬力ではどのコンビより上回る二人が北を目指す。
 四つに分かれた。身軽になった分だけ突っ切るのも楽になった。また砲撃手も的が分散して混乱した。

 しかしこのやり取りは「S」に聞かれていた。すべての会話を正確に伝える。
「聞こえますか。東西南北。それぞれに敵が向かいます。各自警戒を…」
 それに割り込むプリンス。
「北東だ。北東にガードを固めろ。それ以外は最低限でいい」
 自信たっぷり言う。
「プリンス? どうして…」
 怪訝な表情の巫女。
「くくく。奴等め。それで暗号のつもりか」
「暗号?」
「会話の中に『鬼門を突破する』とあっただろう」
 日本人ではないラッキーセブンはぴんとこなかったが、姫子や秋本はひらめくものがあった。
「どこで感づいたか知らぬがS。お前の探査能力に気がついたらしい。そこで奴等め。ウソの情報を流してきた」
 自分の『博識』をひけらかして自慢げなプリンス。
「『鬼門』とは丑寅の方角をさす。そしてそれは北東なのだ。つまり奴等は北にも南にも西にも向かってない。手薄な北東を攻めてくる。だから『鬼門を潜り抜ける』だ。だがそんな猿知恵が通じるものか。返り討ちにしてくれる」
 そのとき、緊迫した通信が入る。
『こちら東方迎撃隊。ニンジャ二人に防衛ラインを突破されました』
 唖然とするプリンス。
「……ふ…ふん。当然だ。やつらは陽動。本命は北東に」
『こちら南の迎撃隊。戦闘員がみな蹴り倒されて…ぶぎゃああああああっ』
 どうやら瑞樹と七瀬に蹴り倒されたようだ。
 じっと主を見つめるS。美少女だけにむしろ冷たい印象が。
『こちら北方ガード。応援求む。対抗しようにも凄まじいパワーで全員…へ・へ・へれっつ』
 どうやら通信係も榊原につぼを突かれて倒されたようだ。さらに
『西ゲート。気弾を受けて壊滅寸前。SOS…』
 こちらも手薄になったところを上条と綾那に突破されたらしい。
 気まずい雰囲気の司令室。
「ふ…ふはははは。小ざかしい。この僕を欺くとはなかなかやるな」
 自分の失策を棚に上げる虚栄の王子。
「どうやら、猿知恵だったのはアンタのほうらしいな」
 秋本の痛烈な一言。失策した直後に言われて逆上したプリンスが目を向ける。
「貴様は一体どちらの味方だ? やつらと戦いたいんだろう」
「そうさ。俺の望みはただそれだけ。そしてそれもそろそろだな。さて。奴が来る東はどっちになるかな」
 勝手に出て行く秋本。いや。Sまでも日本刀を手に外へ出ようとする。
「どこへ行く。S」
「……四方に散らばった以上モニターしきれません。責任をとる意味でも前線に出向きたく存じます」
 直訴だった。その能力ゆえ常に後方から探査しての指示のみだった。血が騒いだのは秋本だけではなかった。
「いいだろう。どのみちここまで突破されたのだ。確実にしとめてこい。お前たちもだ」
 ラッキーセブンに命ずるプリンス。意外にも誰も不満は言わない。
 主に逆らわないのもあろうが、彼ら自身が手ごたえのある戦いを欲していた。
 まさに彼らもゲームのプレイヤーとして戦場に赴いた。ただ一人。Mを除いて。
「ゲリラは…思いもよらぬ方法で侵入するもの。プリンスの護衛として私は残ります」
「いいだろう。頼りにしているぞ」
 Mの言葉が臆病風に吹かれてでないのはプリンスも知っていた。むしろ最後の用心棒として近くに置きたかったのだ。

 東の防衛ライン。血の滾りを抑え切れない秋本が薄笑いを浮かべて今や遅しと待ち構えていた。
(さぁこい。お前の大事なお姫さんはここだ。逢いたくば俺を倒せ。殺す気でこい。その戦いが俺の最大の悦びだ)
 ある意味では深い付き合いの秋本と十郎太だった。


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