第27話「姫子救出作戦」

 司令室。まだ真理に破壊されていないカメラを通じて、モニターに七つの戦いが映し出される。
 配下の実力に絶対の自信を持つプリンスは、勝利を微塵も疑っていなかった。
 「見ろ。ヒメコ。頼みの忍者たちは戦闘員たちと共倒れ。残ったのは素人学生たちだけだ。
それもラッキーセブンの手にかかればあっという間に片がつく。まさに座興に過ぎん」
 勝ち誇る…と、いうよりも説得と言う感じのプリンスの言葉。だからか姫子も静かに応じる。
 「彼らは…きっと来てくれます。今までも強い相手と戦い、打ち破ってきた彼らなら」
 姫子にしてみれば実績を述べただけだが、プリンスにはそれが癇に障った。つい声を荒げてしまう。
 「現実を見ろ。どうすればこいつらが勝てると言うのだ? みろ。この男などすでに爆殺寸前だ」
 映し出されたモニターには、爆破から逃げている上条の姿があった。

 「くっ」
 右の爆発をよけて左に飛べば、そこをリモコンでCが爆破していた。
 「くっくっく」
 薄笑いを浮かべる「C」。ねずみを弄ぶ猫のように、上条を弄っていた。だが、上条はCの予想をはるかに上回っていた。
 「ふん」
 すでに爆破したところに戻ると七三に足を開いて立ち止まり、体の前で伸ばした腕を交差。それを思い切り広げてゆっくりと反時計回りに60度回す。
 右斜め下に来た腕を勢いよく左上にして、同時に左腕を折りたたみ

「変身」

と叫んでポーズを決めた。
 「……」
 あっけに取られる兵士たち。上条はポーズを微塵もゆるがせない。
 「…何の…真似だ?」
 さすがのコマンドー。Cも爆破スイッチを押し忘れるほどあっけにとられる。
 「いや。やっぱりこのシチュエーションじゃあ、変身ポーズくらい取るのが礼儀かなと思って」
 学校と同様にへらへらと笑い解説する上条。
 「ふざけおって」
 激怒するCだが、上条をよく知る人なら「奴は本気だ」と証言するだろう。
 その証拠と言うわけでもないが、上条は両手をひきつけ腰だめに構える。二つの手のひらの中に火花が散る。
 それをC目掛けて思い切り押し出す。
 「龍気炎」
 「うおっ?」
 これもまたポーズと思ったCは、飛んできた火の玉に驚いて飛び上がる。そして上条の頭上に来たとき
 「飛龍撃」
飛び上がった上条のジャンピングアッパーに叩き落された。無様に背中から落下する。
 「飛ばして落とす。古典的な戦法だが、それだけ確立されている。そしてあんたが飛ぶのは安全地帯。安心して接近できるぜ。
さらに言うなら、近寄ったら爆弾は使えないだろうし」
 「ふん。馬鹿め。リモートコントロールと言うのがまだわからんか」
 「だが、そこのエリアの爆弾はすでに爆発している」
 青ざめるC。確かにすでに爆発させてしまった。
 さらに言うなら誘爆。誤爆を避けるためにそれなりの間隔はあけてある。確かに爆弾はない。
 「ふん。白兵戦とて素人学生に遅れを取る我輩ではない」
 ロッドを突き出す。だがそれを上条は下に叩き落とす。つられてつんのめるかと思いきやあっさりと手放すC。逆に追撃を狙った上条目掛けてナイフを振る。
 「はっ」
 上条はなんと落ちたロッドを足で蹴り上げてナイフを防いだ。そのままロッドを手にして、中国拳法のように振り回す。
 「『水の心の戦士。長きものを手にして敵をなぎ払え』…これかっ」
 あくまでも本気である。成りきることでスペック以上のものを引き出している。
 勝手の違う相手にCは戸惑っていた。

 七瀬とS…サラ。対峙は続く。抜刀体勢のサラの前で立ち尽くす七瀬。試しに横に動いてみた。当然だが通せんぼのようにサラも動く。
 (それならフェイントで)
 反対側に動きかけて、ぴょんと元の方向に飛ぶが
 「無駄です」
しっかりとサラは道を塞ぐ。
 「ど…どうして先を?」
 動揺した七瀬は単純に尋ねてしまった。
 「あなたの筋肉の動きから次の行動は間違いなく読めます。相手を変えてもかまいませんが、他のメンバーもたやすくはありません。
どうします? 逃げ帰るなら深追いはしませんが?」
 淡々と事務的に宣告するサラ。
 「…ここで逃げるくらいなら…はじめから来ないわ」
 七瀬の答えは決まっていた。
 「例えどれだけ痛い思いをしても…どれだけ血を流しても姫ちゃんは連れて帰るわ」
 決意の光が瞳を照らす。その思いはサラには容易に汲み取れた。
 「発汗状態。心音。呼吸。若干の高揚は見られるものの、その『決意』は本当ですね…」
 サラは刀を僅かに鞘から出す。
 「仕方ありません。私も命令である以上、あなたたち奪還者を排除しなくてはいけません。来るならば…斬ります!!」
 「命がけ…なのね。あなたも、私も」
 改めて認識した七瀬である。

 林の中。次々と樹が倒れて行く。逃げて行く真理。
 「なんて無茶苦茶な野郎だっ。自然破壊もいいところだ」
 悪態をつきながらも逃げるしか出来ない。だがいつの間にか「R」が先回りしていた。
 「一体…そういえば後ろの樹が…」
 真理は舌打ちする。無我夢中で逃げていたが、破壊音が消えていた。
 「ま゛」
 立ちふさがる鎧の巨体。真理は覚悟を決めた。
 「こうなったらやってやるさ。でかい相手なら戦ったことがあるしな」
 言うなり真理は右手の見えない茨を『R』の顔面に巻きつける。そしてそれを手繰り寄せつつR目掛けて跳んで行く。
 (ついでにびびっているか探ってやる…)
 戦いを有利に運ぶため心を読もうとしたが・・・
 (心が読めない? この鎧。対ESP装備か?)
 接触しつつ『ガンズン・ローゼス』で心を読めない相手に動揺する。
 「ええい。とにかく倒せばいいんだろう」
 相手の鈍重な二本の腕をかいくぐり、Rの顔面で溜めた『気』を炸裂させる。
 「XYZ」
 至近距離。しかも顔面で『気』が弾けてのたうつ『R』。それをそのまま顔面鷲づかみにして、地面に押し倒そうとする真理だが…
 「なんだとっ!? びくともしないっ」
 まさに地面に根を下ろした大木のように、しっかりと踏みとどまっている。
 (そんな馬鹿な? こいつはのけぞっていた…つまり後ろに重心が傾いていた。それをさらに押し込んだのに踏ん張れるのか?)
 真理の方が混乱していた。

 榊原の頭上から『D』が落ちてくる。綾那の『エアスラッシュ』を模倣していたのだ。
 それをよける榊原。彼には上条の『飛龍撃』や、みずきの『コロナフレア』のような「無敵対空技」がなかった。
 そのかわりに着地した瞬間を狙って、足を払いにかかる。
 本家である綾那なら、狙われるのも心得ているのでブロッキングをしているが、Dはそこまでは真似られず転ばされた。
 その立ち上がる隙を狙って榊原が跳ぶ。やや遠い間合いから捻りを加えてドロップキック。
 「タートルヘッド」
 本来はもっと近い位置から飛んで、相手の胴を両足ではさみ、捻った勢いでなぎ倒す技である。名称も「ブツダンガエシ」となる。
 だが遠距離ではそれが足元しか当たらないので、そのままコークスクリューのように腹部へとダメージを与える技に変化する。
 「ぐっ」
 鍛えた腹筋といえどさすがに効いた。あとずさる。榊原も追撃するには間合いが離れすぎた。
 「ふふふっ。やはり人まねでは防御も甘い。まともに食らうか。だがその技はもう覚えた。通じないぞ」
 「はったりこそオレには通用しない」
 榊原はもう一度タートルヘッドを見舞う。実際、遠い間合いなので攻撃手段が限られたのもあるが、この不気味さゆえにあまり他の技を見せたくなかった。
 「ふんっ」
 腹部に命中かと思いきや、それを受け流される榊原。
 「なにっ?」
 「空を飛ぶのが好きならそうら。お前の仲間の技でもっと高く舞い上がれ」
 そして無防備に宙に浮く状態の彼に、沈み込んだ体勢から強烈に天に向かって拳を向けたDの「飛龍撃」が榊原の体を吹っ飛ばす。

 勝負と言うより弄っていたのがAである。
 「くらいなぁ。キューピッドアロー」
 爆弾つきの矢を次々と見舞う。さすがの綾那も逃げるのに手一杯だ。
 なんとか攻撃をよけて立ち止まる。
 「ねえ。一つ聞いていい?」
 「『助けてくれる?』と言う質問なら無駄よ。アンタはあたしの一番触れられたくないことに触れたんだからね」
 女のプライドはずたずただった。
 「えーっとね。違うの。違うの。
前に姫ちゃんが言ってたけど、弓って撃つと反動で胸に当たるんだって。
姫ちゃんは上手にしているから当たってないけど・・・あなたは大丈夫なの?」
 まったく脈絡はない。単なる好奇心での質問だったが・・・追い討ちだった。
 女性が弓道で胸元を保護するのはまさにそれが理由。姫子が防具を用いてないのは、上手なのもあるがそれほど胸があるからではないゆえ。
 そしてアリスも上手であり『当たる心配のまったくない胸』だった。
 もちろん「上手と褒められた」とは考えず「胸がない」と馬鹿にされたと感じた。
 「・・・・・・殺す」
 涙目のアリスは急降下して、綾那のボディ目掛けてツバサを叩きつける。
 「エンジェルウィング」
 「きゃあっ」
 巨大な刀で襲われたようなものだ。よけきれない。

 まるで道場での試合のような雰囲気だったのが瑞樹と「G」の対決だった。静かに向かい合っている。
 「私に敗れ、敗北を認めたなら大人しく退散していただこう。命までは奪いたくない」
 「ああ。だが簡単には認めないけどな。姫ちゃんを連れて帰りたいし、何より元々オレは『負けず嫌い』だ」
 不意に笑みがこぼれる。彼自身が意外に感じた爽やかな笑み。
 「個人的には嫌いではない。だが私も任務。許せ」
 「仕事だろ。気にすんなよ」
 「では…行くぞ」
 宣告するなりGは鋭い踏み込み。右腕のトンファーを瑞樹目掛けてぶつけようとする。
 それを紙一重でかわした瑞樹。だがそのまま回転したGの左腕のトンファーが痛撃を見舞う。
 「つうっ」
 思わず怯んだところに容赦なくもう一度右のトンファーが。だがこれは瑞樹が捌いた。受け流されて体勢の崩れるG。
 その至近距離で瑞樹が逆立ちして、捻った勢いで体を回転させながら天に向かって蹴り上げる。
 「コロナフレア」
 「きゃっ」
 「え?」
 インパクトして「G」の上げた悲鳴が女のそれに聞こえたが・・・
 (まさかな)
 それを空耳と決め付け、無事に着地した瑞樹はダウンしたGに対して追撃をかけるべく走る。
 幸いトンファーはGの手から離れ、遠くに飛んでいる。近くには用意した武器もない。
 「悪いが速攻で気絶してもらうぜ。ここでちんたらやっているわけにゃ行かない」
 「だが、短慮は愚策だ」
 倒れていたGが飛び上がった。そのまま瑞樹の背後を取る。
 「しまっ…」
 後悔の言葉を発する暇もない。そのまま羽交い絞めにして後ろに投げ飛ばされる。
 地面に叩きつけられたら致命傷だったが、どうやら本当に非力らしく力が続かない。
 それを逆手にとって途中で離して放り投げた。
 「グレートスルー」
 瑞樹にとって幸運だったのは、何もないところに放り出されたこと。投げられたエネルギーは転がることで解消した。
 「つつ…武器がないなら安心と言うのは確かに安直だった。しかし…服の下にとんでもないプロテクター入れてるなぁ。胸元が硬い硬い」
 「ふ・・・ふん。当然だろう。防具は」
 妙に動揺するG。
 「それにしてもつかまったとき…なんか妙な印象が・・・」
 「さぁ。行くぞ。勝負はまだだ」
 まるでその考えをさえぎるように、Gは新しくヌンチャクを手にして戦いを挑む。

 そして・・・あたかも巌流島の決闘のような緊迫感の十郎太と秋本。
 「おぬしはもう少し見所があるかと思っていたが…見損なったぞ」
 静かに構えながら間合いを計る十郎太。
 「仕方ないのさ。性分でな。やめさせたかったら俺を殺すしかないな」
 邪剣使いの秋本だが、中段の構えを取る。
 「後の先は取らせぬ」
 走り出す十郎太。先制を仕掛ける。腹部をめがけた拳の攻撃。
 「疾風拳」
 しかしそれは読まれてガードされた。いや。むしろ「溜め」がそのまま防御に移行した。そして溜めた気を爆発させる。
 お返しとばかりにダッシュする秋本。十郎太の胴を木刀で『切りつけ』て行く。
 「大牙」
 着込みがありダメージは防げたが、それでも衝撃は凄まじかった。
 (なんという攻撃。思いが…伝わっている。口よりも雄弁に語っておる)
 そんな動きの止まった十郎太目掛けて、宙を舞った秋本が頭上より急襲する。
 「雷牙」
 しかし黙って食らう十郎太ではない。木刀を受け止めると、防御硬直解除攻撃(ガードキャンセル)に出た。
 「えいやぁ」
 空中で体を回して蹴りを見舞う。ただその高さが首の辺りまで行く。首刈り鎌と呼ばれる蹴りが秋本を蹴り飛ばす。
 「うおっ」
 吹っ飛ばされる秋本。さすがの十郎太も追撃をするためには着地がいり、そのために、秋本が体勢を立て直すのが間に合ってしまった。
 仕切りなおしだ。両者ともに呼吸を整えにかかる。だが、不意に秋本が笑う。
 「ふふふ…ふははははは」
 「何がおかしい?」
 首を捻る十郎太。
 「ふふふ…いいぞ。お前は強い。嬉しいぞ。そんな奴と戦えてよ」
 この狂戦士は命のやり取りを喜んでいたのだ。
 「秋本。何ゆえおぬしはそこまで『強さ』に拘る?」
 男の性分…で片付けるには確かに常軌を逸していた。
 「忍って奴は任務のためには命を捨てるらしいな。そんなお前にゃわからなくて当然かもな」
 「?」
 戸惑う鉄仮面。とうとうと語りだす邪剣士。
 「それはよ…生きている実感って奴さ。つまらねえ世の中だが、こうして命のやり取りをしているとき。
俺は生きている実感を得る。
 ふふふ。おかしなもんだぜ。生きている実感を得るために殺し合いをするんだからよ。
 そして相手は強ければ強いほどいい。
 そんな奴と戦い、生き延びるとき。俺は血の流れすらわかるほどに命を感じるのさ」
 「いくさでなければ…だめなのか?」
 「なんだって?」
 今度は秋本が首を捻った。
 「春の風。夏の日差し。秋の月。冬の雪。それだけで充分に生きている実感は得られぬのか?」
 「風流だな…だがな…俺にはこれが一番なのさ」
 いとしそうに木刀をなでる。
 「そして…ある意味じゃ俺はお前に恋しているのかもな」
 照れ隠しのように構えなおす。
 「何しろ命のやり取りだ。こんな深い付き合いはないぜ」
 どこまで行っても平行線。戦うしか道はない。

 修羅の道は覚悟の上だったが、ほんの少し、気が滅入ってきた十郎太だった。

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