第27話「姫子救出作戦」Part2   Part1へ戻る

 林の中の戦い。十郎太と秋本の戦いが続く。
 「しゃあああっ」
 肺の中の全ての空気を吐き出すような、そんな気合とともに秋本が詰め寄る。
 「えいやっ」
 それを紙一重でかわす十郎太。
 (気合が入っておる。余裕はない。紙一重が精一杯だ。こやつ…本心からこの戦いを愉しんでいる)
 迷う間もなく次の一撃が来る。
 「ふはははははは。楽しい。楽しいぞ」
 笑いながら木刀で切りつけるさまは、いささか不気味であった。
 見守るのは満月だけ。そんな二人の死闘は続く。

 地雷原の戦い。Cが納得したように手を打つ。
 「そうか。理解したぞ。やはり我輩は聡明だ」
 自画自賛もここまで来るとたいしたものだ。
 「確かにふざけているわけではないなっ。それが貴様の精神安定法か」
 Cは上条を指差す。敵同士といえど失礼な行為には違いなく、さすがの上条も多少むっとした。
 「たとえ戦場でも無駄口。軽口の類は出るものだ。人は極度の緊張には耐えられないから、その緩和であるなっ。
 貴様の場合、それに暗示もかけてある。その人格になりきることで恐怖心を殺し、同時に冷静さを取り戻す」
 「だったら…どうなんだ?」
 上条にしてはトゲのある言い回し。図星を突かれたか?
 「知れたこと。飄々として冷静さを保つなら、怒らせればいいこと」
 Cはぱちんと指を鳴らす。三人の兵士が跳んで上条に襲い掛かる。
 「くっ」
 かろうじてそれはかわすが囲まれた。三人ともナイフを持っている。
 「出たな。戦闘員」
 上条は七三に脚を開き、誰に対しても相手をできるように構えを取る。もちろんポーズもある。
 「それだ。貴様は今、恐怖している。図星だろう。だから軽口で平常心を取り戻す。違うか?」
 そこに付け込むようにCの言葉が飛ぶ。上条は言葉を無視した。眼前の敵に集中するのもあるが、確かにCの言葉は正鵠を射ていた。
 三人の兵士が上条を取り囲みながら走り出す。
 「ふっ。何をするかと思えば古典的な。それなら疲れるのを待っていればいい」
 上条はポーズを取って呆れて見せる。それを逆にせせら笑うC。
 「生憎だがその程度で疲れるほどやわな訓練はしていない。そもそも小僧一人始末するのに、疲れるほど走る必要もないっ」
 「誰が小僧だっ」
 知らないうちに上条はCの言葉に乗せられていた。奪ったロッドを地面に叩きつける。
 いつもなら負けても自分がやられるだけの戦いだが、この場合では自分の戦いによっては姫子が連れ去られる。
 その焦りが彼をいらだたせる。
 「そしてさらにっ」
 Cがもう一度指を鳴らすとさらに三人の兵士が。逆方向に走り出す。
 それが正確に、内外で連携を取り攻撃を仕掛ける。内側が視覚を混乱させ外が仕掛ける。
 無論「ちょっかいを出す」程度の攻撃であるが「いらいらさせる」くらいは出来る。
 「ええーい面倒。それならまとめて」
 上条はロッドを捨てて軽く跳ぶ。そして猛烈な回転を始めようとした。だが
 「ひっさ…ああっ」
 仕掛けようとした「必殺龍尾脚」はまたも外からの攻撃で叩き落される。
 「ふははははは。無駄だ。攻撃を仕掛けるときが一番無防備。貴様が攻撃をしようとした途端に攻め込むぞ」
 Cの哄笑で奥歯を砕きそうなほど歯をかみ締める上条。
 (早くしないと…姫ちゃんが…)
 姫子救出に焦る神気と、攻撃に対する怒りの破気が同時に立ち上りだす。

 林の中。Rの顔面を締め付ける真理。だがやはり心が読めない。
 (心が読めない? いや。気配は別のところだ。こいつは…まさか)
 真理はすぅーっと深呼吸をする。そして大声で
 「このパワー。そしてこの無理な体勢。リアリティがないが…出される結論はこれが一番ありえる。この野郎は『ロボット』か。操縦している奴はそこか
 真理は気配のした方向に怒鳴る。
 『へぇー。よくわかったねぇ』
 突然「R」の口から甲高い少年の声が。スピーカーと言うわけだ。
 『自己紹介させてもらうよ。お姉ちゃん。 僕はリッキー・ランドルフ。Rを作ったのは僕だよ』
 「…どう聞いてもガキだな。ウソついてんじゃないぞっ」
 『ウソじゃないさ。僕は11歳。でもRを作ったのも確かさ。『リモート』『ロボット』の『R』さ』
 「ふざけんなよ。お前みたいなガキにこんなものが作れるか」
 『理解力のないおつむだなぁ。金色で綺麗な髪だけどね。あれ?よく見るとつむじが左巻き? あははははぱ』
 そのセリフが終わるか、終わらないうちに真理は後方へと飛び跳ねる。
 甲冑を模したロボットはそれを追おうと体勢を治す。しかし真理の足の方が早かった。
 「鬼ごっこ? いいよ。R。ロケットモードにトランスフォームだ」
 実際には言葉でなく入力されているのだろう。突然「気をつけ」の体勢になるとそのまま後方へと倒れこむ。
 頭だけが飛行機の尾翼のように持ち上がる。飛行機で言うならつま先が先端。胴体からツバサが出る。肩からジェット噴射。飛んだ。
 (余談だがこれなら『ジェット』なり『グライド』と呼びそうだが、『R』と言うことで『ロケット』にしたようだ)
 だが真理は追いつかれたときの状況と、Rがロボットだったことから変形を予知していた。だから垂直方向に逃げた。
 (ああやってジェットを出していると言うことは、熱で相手を調べるような芸当は出来ない。
つま先にセンサーがあったとしても、飛んでいれば空気で冷やされる。役に立たない。当然だが轟音だから音で探る手もだめだ。
 と、なりゃ奴のカメラを通じての目視か。あるいはリモコン野郎自身の目が頼り)
 『無駄だよ。お姉ちゃん』
 ロケットモードのRは凄まじい勢いで真理のいる樹に突っ込んできた。寸前で逃げた真理。あえてRが飛んできた方向だ。
 (狙いが正確。あのアングルじゃ木の上のアタイはカメラじゃ見えない。つーこたぁこっちに操縦している奴がいる)
 『アハハ。どこに逃げてんのさ。無駄だって』
 だが真理はその言葉から焦りを感じ取った。
 (間違いない。こっちのほうだ。アタイのつむじを見ることの出来る位置。この距離まで近寄れば)
 ターザンのロープのように張ったガンズンローゼスで探る。見つけた。近寄られておびえる心を。

 錐もみ状態で落下する榊原。かろうじて「ビッグ・ショット」がクッションとなり、大怪我は避けた。
 今は七瀬がそばにいない。怪我したらそのまま戦い続ける羽目になる。
 (くっ。地面激突は避けたが目が回った…こんなに強力な技だったのか? 上条のアレは)
 「ふふふ。どうだ?味方の技を食らった感想は?」
 Dがゆっくりと歩み寄る。
 「もし奴(上条)と戦ったらどちらが痛かったか比べてみるといい」
 歩みから走りへ。
 「生きて帰れたらの話だがな!!」
 榊原に強烈な手刀を見舞う。
 「ぐあっ」
 後方へのけぞる榊原。そのままDは背中側から同じ攻撃を仕掛けて倒れさせない。そしてまた正面から。
 「デンジャラスエクスプレス」
 まさに電車のように前後から迫って来た。模倣だけではない。Dオリジナルの必殺技だ。
 「ぐううっ」
 走り抜けた後でようやく倒れた榊原。
 「他愛もない。所詮、力押しの素人か」
 「…素人なのは認めるがな…力押しだけと言うのは聞き捨てならないね」
 「頑丈だな…なるほど。それも認めてやろう」
 実際はかろうじてビッグ・ショットがカバーしていた。
 「それに貴様も全てを見切ったわけでもないぞ。まだまだ隠した技はある」
 「ふん。確かに他の奴らの技はな。だがそれもここにはいない。貴様自身が隠した技を持っていても、その有様じゃ繰り出すことも出来まい」
 (言えてる…きついな…出すなら一発で反撃不能に追い込まないと…だがこいつは『隠した技』に対して待ち構えている。何とかして油断を…)
 見せるたびに技が通じなくなっていく相手。これは確かに気が重くなる。

 七瀬とSのにらみ合い。
 (こうなったら…かなりずるいけど…口汚く罵られてもいいわ。でも…姫ちゃんを連れ戻すためよ)
 七瀬は彼女のマリオネットを密かに呼び出した。氷の彫刻のように無表情なサラ。
 (見えていないみたいね。それなら予知のしようがないわ)
 「行くわよ」
 七瀬は走る。まっすぐに走る。
 サラは柄に手をかけた状態だ。「間合い」に来たら斬るだろう。
 (でも、今度は私の筋肉の動きは関係ないわ)
 ダンシングクィーンが右手に持っていた石つぶてをはじく。もちろん死角になる背中に持っていた。
 ところがサラは石をはじく前に回避行動をしていた。まるで見えていたかのように。
 (ええええっ?)
 これには七瀬も驚いた。
 このときばかしは七瀬の足の遅さが幸いして、サラの間合いには入ってなかったために斬られずにすんだ。
 距離を置く両者。
 「そんな…まさか…」
 「発汗量増加。心拍数上昇。焦っている。驚いてますね」
 分析するサラは至って平然としている。
 「不思議に思いませんでしたか? この異常な五感を?」
 「じゃあ…あなたも…」
 考えられるのは一つ。
 「私のほうも、あなたが同類とは思わなかったので、正直驚いています」
 「…やっぱり…マリオネットマスター?」
 普通の人間には視認できないのが基本的なマリオネット(幻覚効果のマリオネットは例外)
 「そう。普通じゃ探知できないものを探知するので私はこれを『アンテナ』と名づけています」
 出現する別の目。別の耳。
 「……それが…あなたのマリオネット?」
 七瀬が呆然として尋ねる。
 目のほうは肉体の目を補強するイメージなのか、ビジョンは『メガネ』だった。
 耳はもっと凄まじく、髪の上に鎮座する『ネコ耳』が聴力を補強していたようだ。
 (……………………上条くんが喜びそうだわ……………)

 綾那とAの戦い。障害物だらけの林の中だけに、飛行タイプのアリスが不利に思えたが、いざ始めてみると器用に潜り抜けている。
 もちろん何もないところよりは速度を落としていようが、それでも充分に人より速い。
 綾那も並みじゃない速さだが、さすがに空を行く相手には分が悪い。
 「いったぁーい。もう。ひどいよ」
 したたかに痛めつけられれば、如何に愛想のいい綾那でも怒る。
 「うふふふっ。本当なら一番大きな的である腹を狙って、そのままのけぞった胸元をそいで行くが『つるつるのぺたぺた』だったから引っかかり損ねたか」
 木の枝に腰掛けながら挑発するアリス。
 当たり前だが燃料には限りがある。無駄に空中浮遊などには使えないから、こうして木の枝に腰掛けているのだろう。
 いちいち地上から上昇するより、最初から高所で噴射した方が燃料を使わないのかも。それだけ長期戦にも耐えられる。
 それゆえのバトルフィールドが林の中か。
 「ボクつるぺたじゃないもん。ちゃんとブラしてるし」
 論点がずれたが争いが続く。
 「もう怒ったよ。決着をつけようよ」
 憤慨する綾那は仁王立ち。
 「言われなくても…とどめだ」
 天使がツバメのように空を滑る。綾那と言う獲物を求めて。
 「はぁぁぁぁ」
 綾那はそれに対して走り出した。正面からの激突だ。

 トンファーからヌンチャクに持ち替えたG。まるでカンフースターのように器用に振り回す。
 「デモンストレーションてわけか。そして威圧の効果もある…そんなところか」
 あえて手を出さない瑞樹。ここまでクリーンな相手と戦っていたので、彼も待つことにした。
 「御名答。少しでも君に怯えが生じればこの戦い圧倒的に有利だ。
まぁ、ここまでを見る限り期待は出来ないが。どちらかと言うと私がヌンチャクになじむためにしているようなところだ」
 「ウォーミングアップは済んだか? それなら行かせてもらうぜ」
 「いつでも、こい」
 瑞樹はダッシュする。そこにGの右腕が。それをよけたが遅れて振り回されていたヌンチャクが。
 「おっと」
 それは腕でブロックしたが多大な隙が出来た。Gに掴まれて一本背負いで投げ飛ばされた。
 すかさずGがヌンチャクのロッドを握り振り下ろす。だが瑞樹はすばやく転がり回避した。
 「タフだな。君は? アレだけしたたかに硬い地面に叩きつけられたら、痛みでしばらくは動けんぞ」
 「残念だがこけるのは日常茶飯事でな。あの程度じゃすぐに動けて当然」
 自慢にならないが…
 「ならばこの痛みはどうだ?」
 Gがすばやくヌンチャクを繰り出した。瑞樹は繰り出した腕をブロッキング。そして遅れてきたヌンチャクも捌いた。
 攻撃する刹那こそもっとも隙がある。そしてその僅かな隙に瑞樹の蹴りがGの胸元にヒット。
 「コスモスエンド」
 無数の蹴りを繰り出す瑞樹の超必殺技だ。
 戦闘と言うことなら、むしろガードの薄い腹部を狙うべきだが、この相手にはむしろ防具を破壊して「敗北」を認めさせ、
無傷で退散して欲しかったから胸のプロテクターに集中する。
 「う…きゃあああああああっっっっ」
 材質がなんだったのか、プロテクターが粉みじんに砕けた。勢い余ったキックがその下の柔らかい胸元。そして顔を掠める。
 「え? この感触…そしてその顔…」
 思わず攻撃を止めるほど瑞樹は驚いた。
 間合いを取ったGは、砕けたプロテクターを外すために上の迷彩服を脱ぐ。砕けたプロテクターを捨てると、戦闘員同様の衝撃緩衝スーツ。
 ただその胸元が豊かに膨らんでいた。その下のウエストはくびれていた。
 流れ弾のように顔を掠めたキックが、付け髭とベレー帽をふっ飛ばし、長い髪と綺麗な素顔を晒していた。
 シャツがなくなって、露出されたのど元にはのど仏が存在しない。
 瑞樹は思わず叫ぶ。
 「お…お前…女だったのかーっっっ
 Gはただにらむだけ。それが何よりも肯定していた。

 次から次へと切りつける秋本。まるで衰える様子がない。
 (こやつ…よくそれだけ体力が)
 さすがにそれでも一呼吸置いた。十郎太も体勢を整えなおす。
 「どうしてそんなにタフなんだ?…ってツラだな。よく言うだろうさ。時を忘れるって奴よ。あるいは『夢中』といってもいい。
いまなら…テメーに殺されても悔いはねぇ。ここまで戦った今ならな」
 「…惜しい」
 「あん?」
 「それほどの熱意。光に生きればさぞかし名のある剣豪になれただろうに」
 「だったらテメーはなんなんだ? 闇に生き、闇に死す。ニンジャってのはそういうものだろう」
 「確かに…おぬしの言うとおり」
 「だが…それでもテメーはそこにいる。やりたいからだろ。俺も同じさ」
 気づいていなかったが…二人は互いに相手を理解していたことになる。
 だが…友情に気づかせてもらえるほど状況は優しくなかった。
 「いざ。参る」
 「こい」

 司令室。モニターの前でほくそえむプリンス。傍らで控えるM。そして戦況を固唾を呑んで見守っているウェディングドレス姿の姫子。
 綺麗に化粧された彼女の頬を熱い涙が伝う。
 「ああ…十郎太様。そして皆さん。わたくしなどのためにそうまでして…」
 涙の姫子を慰めるつもりか、プリンスが芝居がかって喋りだす。
 「それだけ君は取り戻す価値がある。そういうことだな。
 しかしそれとは無関係に僕は君が欲しいのだ。君をどうしても連れて帰りたい。
 いまごろ船の準備が出来た頃だろう。そしてヒメコ。朝にはそのコンテナ状の部屋ごと君を船に連れて行く。
 つまり君をドアから出す隙をつくことも奴らには出来ない。
 夜明けと同時に輸送ヘリが来る手はずだ。奴らがそれまでにこの防衛ラインを突破できるものか
 たとえ突破出来ても、その部屋から君を出せない。奴らの目の前でヘリが連れて行くからな」
 芝居じみた様子で言うプリンス。
 姫子は泣くのをやめた。今の彼女に出来るのはただ祈ること。だから祈った。

 十郎太と、大切な友人たちの無事を。

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