第27話「姫子救出作戦」Part3   Part2へ戻る

 対峙する七瀬とサラ。やや気まずい雰囲気は七瀬のほう。いや。サラもだ。
 「…そうです…これが『アンテナ』です」
 視線を外して、そっけなく言い放つ。虚勢なのは言うまでもない。
 「うーん。普通の人に見えないタイプのマリオネットでよかったわねぇ」
 上条と言う見本がいるので『こういうのを好む人種』について、まったく知らないわけではない七瀬がため息混じりに言う。
 「言わないでください!! 私も少々ばかし恥ずかしい…だから普段は隠しているのだし」
 冷徹な表情しか見せなかったサラが、この戦いの場で「照れ」を見せた。白い頬が朱に染まる。
 「そりゃ別の意味で隠すわよねぇ…!?」
 この姿とサラの照れに、緊張が解かれた七瀬がリラックスした口調で言う。だが
 「ちょっと待って!? と、言うことはあなたの他にもマリオネットを見られる人。つまりマリオネットマスターが?」
 その可能性に思い当たった。
 (もしも、それが風間君や上条くん。そして瑞樹と言うマリオネットの見えない人たちに当たったら大変だわ)
 その不安を増大させるが如くサラは七瀬の疑念を肯定する。
 「ええ。います。そしてとても強い。断っておきますが例えマリオネット使いのあなたでも、勝てる相手ではありません。
それ以前に私を倒す。あるいは出し抜くことも不可能。あなたに出来ることは逃げることだけ。
私はこのポイントを守るだけ。追わなくても他のポイントは仲間が守る。持ち場を死守するだけです。
 さぁどうします? 戦いますか? 引きますか?」
 苦渋の二択。だが姫子。瑞樹。そして友達を見捨てて逃げることは七瀬には出来ない。
 だが全ての攻撃を見切るこの相手に勝つとなると…そしてあの刀を止めるとなると…
 (勝つ方法はひとつだけ…あるわ。でも…それには覚悟がいるけど…決めたわ。姫ちゃんだけじゃない。
そんなマリオネットマスターと、瑞樹が戦わないように私が先に行かないと)
 七瀬が静かに固めた覚悟は、闘志となって瞳を光らせた。
 「……覚悟は…よろしいようですね」
 サラが抜刀体勢になった。

 上条から立ち上った白銀の神気と漆黒の破気。それが彼の背中で人の形を取り始めている。それはCたちにはみえない。
 漆黒のボディの胸元。二の腕。膝から下を白銀のプロテクターが覆う。そして二つの深紅の複眼が輝きだす。
 その瞬間。時が止まった。
 正確に言おう。上条の時間と、現実の時間がずれる。現実の時間が上条の時間の千分の一のスピードで流れる。
 空中から襲い掛かろうとしていた兵は、凍てついたようにとどまっている。地上の連中はなおさらだ。
 「な…なんだ? だが奴らの動きが止まったのなら」
 戸惑う上条だったが状況分析より現状打破を選択した。
 上条は回転している輪の中に入ると、走った状態のまま固まっている兵隊に『爆熱龍気炎』を見舞った。
 しかしこれも空中で停止する。
 それにはかまわず空中の相手を『飛龍乱舞』で叩き落す。
 哄笑しているCのそばに、けん制のつもりで、遠くから『伏龍』と呼ばれる気の塊を二つ置いておく。
 それから空中の仲間に続いて飛び上がろうとしていた兵士に『真・飛龍撃』。そして
 「お前は許せない」
 激しい怒りを感じた上条は激情のままに、動けなくしていてたCに『逆鱗』を仕掛けようとした。
 その刹那『時間が切れた』。上条の時間と現実の時間が一致する。世界が動き出す。
 「うわあっ?」
 走っていた男達は爆熱龍気炎でなぎ倒され、まとめてKO。空中の二人も叩き落されて続く。
 「うわぁぁぁぁぁっ?」
 攻撃態勢のはずが『真・飛龍撃』を食らっていた男は、わけもわからぬまま吹っ飛ばされ、攻撃そのものと落下のダメージで戦闘不能に。
 「アウチッ!?」
 Cも突如出現した気の塊にふれて痛みを感じ、思わず声を上げる。
 「う……」
 そして上条は逆鱗を仕掛けたものの、時間停止の代償で体力を使い果たし倒れ伏した。
 同時にCの配下も全て気絶した。
 「な…なんだ? まるで止まった時間の中で攻撃されたかのように一瞬で部下どもがっ?」
 以前に赤ん坊騒動のときに目覚めかけた上条のマリオネット。それがこの激しい怒りが産む破気と、姫子を救いたい神気が融合して完全に目覚めた。
 その能力は時間停止。停止時間は上条の体力に準拠する。止めていればいるだけ体力を失う。
 そしてこの状態のときは神気。破気ともに使える状態ゆえに通常。暴走。どちらの状態の技も使えるのだ。
 しかし長く止めれば自分自身が体力をなくしてしまう。
 「……何かはわからんが厄介な相手だ。侮らずにとどめを刺した方が無難。ふとしたきっかけで復活しかねんからな」
 Cはナイフを抜いて上条の元に近寄る。うつぶせの彼を脚で仰向けにする。
 「死ねいっ。化け物めっ」
 Cは上条の心臓目掛けて、ナイフを振り下ろそうとした。

 長い黒髪をベレーで隠し、プロテクターに守られていた女のシンボルである豊かな胸元は、Gの性別を雄弁に語っていた。
 「そういえば声も高かったし…非力と言うのもつじつまが合う。なるほど」
 納得した瑞樹がぽんと手を打つ。Gは屈辱に耐えている表情だ。
 「しかし…どうして男の振りして?」
 思わず素朴な疑問をぶつけてしまった。
 「ふりなどではない! 私は男だ。こんな体。神が間違えたに過ぎん」
 感情が昂ぶったゆえか、男のふりをするのも忘れ、地声と思われる高い済んだ声で絶叫する。
 (……薫の逆バージョンか……)
 体は男でありながら心は少女の弟を思い出す。
 「私は男だ。戦士としても戦える。策や罠を使わずとも、正々堂々と戦い勝てる男だ。さぁ。それを証明させてくれ。アカボシミズキ」
 だが瑞樹は腕を下げたままだ。
 「どうした? 何故戦わない? プリンセス(姫子)を連れ帰りたいのだろう」
 「だからって…戦えるかよ。俺は男だ。女を殴れるわけないだろう」
 「何度言わせる。私は男だ」
 「じゃあその胸は?」
 静寂が支配する。
 「白い肌は? くびれたウエストは? 柔らかい肌は? その声は? それに男であることに拘っているなら、どうして髪を長く伸ばしている? 女のように」
 「!?」
 「心のどこかで女の自分を認めているんじゃないのか?」
 「い…言うな」
 それまでの冷静さを失い、激情に任せた荒っぽい攻撃。
 (なるほど。確かに怒りは力を引き出すな)
 辛うじて凌ぎながら冷静に感想が出たのは、先に激情に走られて乗り損ねたらしい。
 「私は呪った。こんな体にしてこの世に送り出した母を。神を。そして心のどこかで女であることを認めている自分を。
だから戦場に来た。がむしゃらに戦う。ここには男も女もない。いや。男しかいない」
 「だからって女である事実は変らないだろ」
 「うるさい」
 力任せの攻撃。当たるを幸いのでたらめぶりだ。
 (まいったな。やり返さなきゃやられるが、女と知った以上は攻撃が…仕方ない)
 「ちょ…ちょっと待った」
 ヌンチャクを受け止めて瑞樹が言う。
 「わかったよ。やってやる。だが準備が要るんだ」
 この一言で逆に冷静さを取り戻したG。低く押し殺した『男の声』で
 「……いいだろう。どれでも好きな武器を取れ」と、言う。
 だが瑞樹は武器には目もくれず、Gが用意していたミネラルウォーターを取る。
 のどの渇きを癒すと解釈したGは静観していたが、ジャケットを脱いでそれを頭からかぶったのには少々驚いた。
 それまでなら熱くなりすぎた体を冷やすと解釈できたが、瑞樹が女に変身したのには度肝を抜かれた。
 「ありゃ? 前には膨らむけど、横幅が狭くなるからさらしがだぶつくか。突然の雨の場合を想定して巻いてきたけど巻きなおしか」
 呆気に取られるG。さっきまで戦っていた少年は、確かに少女としての立派な胸元を見せていた。
 「これでよし…と」
 「な…なんだ? お前も…私と同じで女の体でありながら、男として生きていたのか?」
 「違うよ。事故でね。こんな体質になったんだよ。さぁ。『女同士』なら遠慮なくいけるぜ。姫ちゃんを助けるんだからな。倒されてもらうぜ」
 だがGは動かない。うつむいている。肩を小刻みに震わせている。
 「ふざけるな!」
 「わッ!?」
 突然『切れた』Gが襲い掛かる。不意をつかれた形で押し倒される。少女に馬乗りになる男装の美女。
 「貴様はなんだ? 男でも女でも好きな方になれると言うのか? 何故だ。どうして神は私には望まぬ女の体を与え、こいつには二つの姿を与えたのだ」
 怒りに我を忘れたGは、マウントポジションからみずきの顔を殴りつける。

 木の上で「R」を操っていた少年は確かに幼かった。
 金髪。そばかすだらけの顔にメガネ。サスペンダーのズボンと白いシャツがまた『典型的』だった。
 その趣味のお姉さま方なら『可愛い』と言うかもしれないが、真理は『ガキ』には興味がなかった。
 「木登り。鬼ごっこ。かくれんぼか。もう充分に遊んだだろ。さーて。ここからお仕置きの時間だよ」
 いうなり真理はコントローラーを奪い取った。
 「ま゛!?」
 途端に迷走を始めるR。
 「返して。返してよ」
 むろんひ弱なリッキーが叶うはずもない。
 「ばっきゃろー。こんな危ないおもちゃを返せるか」
 バキ。
 「え゛?」
 真理は恐る恐る右手を見る。激昂したあまりに握りつぶしてしまったコントローラーがそこに。
 「ありゃあ…止めようがなくなったか。まぁいいか。あのままうろちょろさせておけば、そのうちバッテリー切れを起こすだろ」
 「ところがそうは行かないんだ。Rにはもしも僕からコントローラーが奪われたら、手当たり次第の敵を倒すようにプログラムしてあるんだ」
 「なんだってぇ?」
 言ったそばから猛烈な衝撃。真理たちのいる樹に、Rが攻撃を始めたのだ。
 「うわあっ…」
 叩き落される真理。そしてリッキー。かろうじてガンズンローゼスをロープにして地面に激突するのは避けた。それに迫るR。
 「くっそぉ。やっぱ力ずくで止めるっきゃねーか。しかしさすがのアタイもマシン相手じゃ分が悪いが」
 「そうだろう。見たかい? 僕の力を」
 得意げに言うリッキー。
 「おい…」
 「う…」
 それをひと睨みで黙らせる真理。さらに続く。
 「おい。ボーヤ。それじゃ銃でレスラーを撃ち殺したら、そいつはレスラーより強いのか?
 バイクでサラブレッドを抜いたら、そいつは馬より早いのか?
 マシンの力を自分の力と間違えるなよ」
 「う…」
 痛いところを突かれた。リッキーは黙り込む。
 「大方、あの鎧ヤロウの実験で親衛隊に加わったんだろうけどな。さぁて坊や。どうすりゃあいつは止まる? 非常停止ボタンでもないのか?」
 「あるわけないじゃないか。戦闘用なんだよ…」
 リッキーが息を呑む。真理が不思議に思い視線の先…自分の後ろを見たらRがバッファローのように迫ってきていた。

 榊原とDの戦いはこう着状態に入った。
 榊原としてはうかつに技を繰り出せば、すぐに解析され弱点が知れる。それどころか相手に新しい技を覚えさせることになる。
 DはDでそれを待ちつつも、まだ見ぬ技を食らわないように警戒していた。いくらすぐさま分析出来ても、一撃で倒されれば意味がない。
 (ならば…村上。お前の技を借りるぞ)
 榊原は右手を開いて、それをDの顔面目掛けて思い切り突き出す。
 「ブラッディーマリー」
 「うお?」
 これは虚をつかれた。データ解析の際にどれが誰の持ち技かも把握していた。この技は真理のもの。
 「まさか貴様もあの女(真理)と同じ技を使うとはな。だが下策。モニターで見る限り、あの女の方がはるかに強力。苦し紛れのごまかし」
 余裕で喋るD。榊原の表情に苦悶の色が。
 「ハンギングするほどのパワーがあればいざ知らず、この程度ならこうすれば」
 Dは逆に掴まれた顔面を押し付けてきた。逃さないようにしていた技だが、逆方向には意外にもろかった。
 本家である真理なら、この程度では揺るがなかったろうが、榊原のは急場しのぎ。無様に押し倒される。
 「さぁ次はなんだ? あのへらへらした男の(上条)のジャンピングアッパー(飛龍撃)か? それとも栗色の髪の女(七瀬)の蹴り(アレグロ)か?」
 打つ手なしと判断したDは、見下して接近してくる。
 「くっ」
 間近で榊原は跳ぶ。両足をD目掛けて。
 (馬鹿め。急場しのぎでもとうに破られた技とは。まずはブロッキングして…)
 ところが榊原の両足はDの腹部に当たらず、開いてDの胴体を挟み込む。
 (な…なにぃ? あのキックじゃないのか?)
 タートルヘッドと決め付けていたため、そして苦し紛れにみえたため安直にブロッキングをしようとして、あっさりと投げ間合いに入ってしまった。
 「マツバクズシ」
 榊原は挟んだらそのまま思い切り体をねじる。そのまま挟まれたDも回転せざるを得ない。地面にしたたかに叩きつけられた。

 海鳥が魚を狙うかのごとく急降下をするアリス。
 豹が獲物を狙うかのごとくしなやかに走る綾那。
 激突!!…と思いきや綾那がジャンプしてアリスをかわした。そのまま飛び去るアリス。
 「こんのー」
 再度狙うべく上昇にかかる。背中が見えた。すでに反転していた綾那が充分に溜めた気を放つ。
 「フラッシュキャノン」
 上条の「爆熱龍気炎」同様に気が五発分固まっている。
 最初の分は背中のロケットに命中。
 アリスが背中に衝撃を感じた直後に、脚に焼け付く痛みを。残りの分が脚に命中したのだ。
 (しまった。あのつるぺた。はじめからこれを狙っていた。あたしが一直線に上昇するこの場面なら狙いやすい。
ましてやあのバルカン砲の様なエネルギーボールじゃ、多少は狙いが粗くてもどこかには当たる。
 まずい。ロケットの出力が目にみえて落ちている。しかし捨てて走ろうにもこの脚じゃ…飛ぶしかない。
 このまま上昇して矢で狙っても、この出力じゃのろのろ上昇しているうちに狙われる。なら…奴の目から消えてこちらが狙い撃ちだ)
 アリスは上昇を諦め、低い位置を飛んで行くことにした。
 「あー。逃げるなんてずるいー」
 綾那がそれを追いかける。

 そして・・・十郎太と秋本の死闘。
 「えいやぁ」
 遠い間合いから飛び込む十郎太。肩を掴んでから落下のパワーを利用しての投げ。「肩投げ」に移行しようとしたが
 「甘い」
 下から切りつける木刀。虎爪(とらつめ)と呼ばれる対空技が十郎太を叩き落す。
 「くぅっ」
 切りつけられたダメージ。落下のダメージ。それが合わさりさすがにうめき声が出る。
 バウンドして遠く離れる十郎太に追撃すべく秋本は走る。
 「大牙」
 だがこれはタイミングを計り取れた。振り下ろす木刀を右手で受け流し、力の方向を変える。
 それにより秋本の体勢が崩れた。すかさず十郎太が舞う。
 「そいや」
 空中でコマのように回る。首刈り鎌と呼ばれる回し蹴りだ。
 それがしたたかに秋本の頬を叩く。
 もんどりうって倒れ伏す秋本。並みの相手ならこれでKO。さっさと姫子救出のために駆け出すが、この男の執念は半端じゃない。
 背中を向けた途端に斬りつけてきかねない。様子を見ていたが
 「まだまだぁ」
 鼻血を出しながらも秋本は攻撃をしようとする。だがこれはあらかじめ身構えていたために簡単に防げた。
 (待ち構えているのに何の策も講じずに太刀を振るうとは…純粋に力の勝負を望むのか。それとも闘争本能だけで戦っているのか。
出来ることなら心行くまで拳をあわせてみたい。だが…これ以上の時間は…)
 十郎太は後方へと跳んだ。
 「逃げる気か?」
 不機嫌そうに、そして失望したように言う秋本。
 「逃げてもおぬしは追ってくるであろう。ならば…決着を早々につけるまで」
 十郎太は両の拳を突き出し、ボクサーのファイティングポーズのように構える。
 「もうちょい楽しみたかったがな…だが、テメーにも都合があるんだったな。いいさ。これで締めくくるとするか」
 秋本も木刀を中段に構える。
 「殺す気で来な。俺はそのつもりだ。俺を倒さなきゃお姫さんは救えないぜ」
 「死ぬわけには行かぬ。姫を連れ戻すまでは」

 二人の男の信条を賭けた戦いに今、幕が下りようとしていた。

月下の対決。十郎太VS秋本。宿敵同士の死闘

このイラストはOMCによって作成されました。クリエイターの参太郎さんに感謝

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