第28話「Final Fight」Part2   Part1へ戻る

 修羅場となった司令室。
 狼男を初めて見た一同は軽くパニックになっていた…が。
 「タッ君が、タッ君がオルフェノクにぃぃ」
 「この局面でぼけるな」
 上条と真理のド突き漫才で平常心を取り戻した。
 「頼む。拙者がこやつをひきつけている間に、姫を早く救い出して欲しいでござる。」
 狼男の前に立ちはだかりながら十郎太が叫ぶ。
 「ようし。風間。邪悪(ジャーク)将軍…いや。怪人体だから『邪悪ミドラー』は任せた」
 いつもの軽口の上条。しかしその前に狼男が。
 「何?(い…一体いつのまに?)」
 「お前が『C』を倒した少年か?」
 一気に跳躍して、眼前に現れた狼男はそう言うなり、上条の腹部に強烈なブローを見舞う。
 「ぐっ」
 不意打ちとは言えど上条ほどの男があっさりと体をくの字にする。
 「Cはやや相手をなめる傾向がある。だがこの敗北で世界の広さを知るだろう。礼を言うぞ
そして少年。君は危険だ。命まではとらないが、あの得体の知れない力を発揮される前にねむってもらおう。
ほんの少しだ。我々がプリンセスとともに去るまでの僅かな時間」
 「得体の知れない力」…この場合はバーサーカーモードでの逆鱗などのことを言っている。
 「う…あ…」
 上条は崩れ落ちた。

 「上条くん。上条くん」
 半狂乱で叫ぶ綾那。その背後から手刀を見舞う狼男。
 「君はAと戦った娘だね。礼を言おう。平常心をなくすと、いかにもろいか。彼女も身をもって知っただろう。教えてくれて感謝している。
せめてもの例だ。静かに眠るがいい」
 「ふにゃ〜ん」
 綾那も気を失う。
 「綾那ちゃ…」
 七瀬が叫ぶ。だがその先は続かない。狼男の拳が急所にめり込んだ。
 「君にはSに代わって礼を言おう。目に見えるだけがすべてでないと知っただろう。彼女もこれで一回り大きくなるはずだ。
 そして君の治癒能力。この場では厄介だ。体力を補給するらしい彼女(綾那)ともども眠っていただこう。
 部下を成長させてくれた礼だ。友達であるプリンセスとつらい別れをしないですむよう気絶させてあげよう」
 「うう…」
 七瀬も膝を折り、床に伏す。

 振るったのは暴力そのもの。だがあくまで紳士的に狼男は振舞う。
 「許せ。本来は女性に手を上げるなど許されぬが君達の能力は脅威。さて。続いてだが」
 「狼男」は辺りを見回す。身構えるみずき。
 「テメー…何の皮肉だよ? 礼だなんて」
 自らの戦った「G」は自分の信条。そして怒りの封印のために礼儀正しく振舞った。だが、それとも違う。
 「得てして勝利よりも敗北の方が教訓を多く得る。その礼だ」
 律儀に答える狼男。全身の緊張は解いていない。質問の隙にうかつに襲い掛かればあっという間にやられるであろう。
 狼男はみずきを見る。モニターしていたのは確かに少年だったが?
 「君は確かGに勝った少年…少女か? まぁいい。礼を言うぞ。
Gはずっと悩んでいた。だがこれがきっかけで吹っ切れるだろう。もしかしたら我々と袂を分かつかもしれないが、それもまた彼の…彼女の人生の選択だ。
 それを与えてくれた君には、大怪我をしないですむようにこの場で気絶をさせ…」
 言いかけた狼男だが飛び上がった。冬野がプリンス目掛けて投げたナイフをはじくためだ。
 「くっ」
 かろうじて間に合い投げナイフははじいた。狼男の堅固な爪は傷一つつかない。
 「何のまねだ? 卑怯者め。その髪型(モヒカン)。イングランドのバンクスか?」
 「かーっかっかっか。何のまね? 決まってるじゃねーか。オメーのご主人様を攻撃してるのよ。わからないとは頭悪いぜ。
 テメーら(春日。夏木。秋本)もおめーら(みずき達)も相変わらず頭悪いぜ。
あのヤロウが好きに飛びまわれないようにしたけりゃ、奴のマスターを攻撃すりゃいいのさ。
 そうすりゃガードに忙しくてこっちを攻めるどころじゃない」
 「ちっ」
 泣き所だった。
 「た…確かに…さすが卑怯の第一人者」
 榊原の言葉は褒め言葉かどうかは微妙なところ。
 「…ってもさ、回復担当二人が気絶しちゃったよ」
 真理が綾那の頬をひっぱたきながら言う。
 「介抱を頼む。例え一人になっても指一本でも動く限りは拙者は戦い続ける。おぬしらは姫を」
 七瀬や綾那の点穴をつく榊原。回復を図るが簡単には目が覚めない。
 真理は姫子を閉じ込めている部屋の扉の開錠を試みる…が。
 「ダメだ。暗証だけじゃなく普通の鍵もいる。最新鋭なんだかレトロなんだか」
 「はははははっ。そして鍵はMに持たせてあるぞ。ヘリの到着前にヒメコを出したければMを倒して奪うしかない」
 得意げに宣言するプリンス。
 「だったらテメーを人質にして交換すりゃいいわけだな。おい。デブ」
 冬野の指摘に青くなるプリンス。そしてチェーンを用意する夏木。
 「総番以外に命令されるのは気に食わんが…女を閉じ込めるようなバカはもっと気に入らん。お前も閉じ込められるがよい」
 夏木のチェーンがプリンスを絡めとろうとする。だがそれは狼男がはじいた。

 状況を整理しよう。
 十郎太達は姫子を奪い返したい。
 部屋から出すにはMの持つ鍵が必要。
 しかしそのM自身が最強の護衛。

 Mにしてみると攻め入りたいが、隙を見せるとプリンスに攻撃される。
 プリンスに避難してもらいたいものの、外には風魔。中の出入り口にはみずき達がいるのでこの場所が一番安全。

 ヘリの到着まで僅かな時間。
 それを持ちこたえればヘリで部屋ごと姫子を船に運び本国へ。
 紛れもない拉致だが、キングの財力とコネでもみ消すつもりだ。

 サッカーに例えるならプリンスがゴール。
 狼男・Mがゴールキーパーで十郎太達が攻め込むプレイヤーと言うところか。
 Mの行動範囲はどうしても狭くなる。
 だが狼男にしてみれば別に彼らを倒さなくてもよいのだ。
 ヘリの到着までプリンスと姫子を渡さなければそれでよい。持久戦はむしろ願ったりである。
 「ふふふ。多少は援軍があり、また腕利きぞろいのようだがここは我々の本拠地。
君達の城でさえ勝てなかった私たちに勝てるかな?」
 心理戦か。不適な含み笑いのある声で言うM。
 「それはどうかな。あの時はうぬらが攻め手で、拙者たちが守り手。だがこの場では逆。
そしておぬしら。守る戦いは不得手ではないのか?」
 結果としてラッキーセブンは『素人学生』に苦汁を舐めさせられている。

 「認めよう。確かに守りの戦いは苦手だ。だが、日本にはこういう言葉があるらしいな。
『攻撃は最大の防御』と」
 いうなり狼男は飛び上がる。
 「ムーンライトリフレクション」
 天井を蹴って夏木に向けてその爪を振り下ろそうとしていた。だが
 「えいやぁ」
 その反転のための止まった瞬間を見逃す十郎太ではない。狼男を空中で捕らえる。
 「なにっ?!」
 「風間流奥義・天王覇」
 抱えられて地面に叩きつけられる狼男。
 「おぬしの相手は拙者だと申したはず」
 狼男を「見下ろす」十郎太。
 「……のぼせ上がるな。小僧」
 ゆらりと立ち上がるその姿が掻き消えた。否。ダッシュしていたが動体視力が追いつけなかった。
 一瞬で十郎太に迫ると同時にその獣の爪を下から繰り出す。
 「ウルフズクロー」
 「がはあっ」
 まともに下から切りつけられる十郎太。
 「十郎太様!?」
 牢の中でウェディングドレス姿の姫子の悲鳴が木霊する。

 そのころ。九郎たち風魔は屋敷の三階の外でプリンスの防衛部隊と競り合っていた。
 「ぬう。こやつら…最後の砦だけに数も半端ではない。だがそれだけにここを突破すれば…」
 自分と、そして配下に檄を飛ばす。
 「堪えろ。ここを突破すれば姫を取り戻せる」

 下から狼の爪をくらい宙に舞う十郎太。
 「?」
 不審に思うM。
 おかしい。手ごたえが軽い。
 「ツバメ返し」
 食らったと見せかけて後方に舞っていたのだ。そしてその宙返りの蹴りが狼の顎に炸裂する。
 「ぬあっ」
 もんどりうって倒れる狼男。ゆらりと立ち上がるが仮面越しにも憎悪が見て取れる。
 「貴様…初めから…」
 「おぬしがそのすばやさと身軽さで攻めるのは北条屋敷での戦で良くわかった。姿を消したら次は拙者の眼前とも。
ゆえにあらかじめ技を目論んでおったのだ」
 「く…二度までも転がされるとは…」
 歯噛みするM。隻眼が赤く燃える。それとは逆の目の方から聞こえる言葉。
 「こっちがお留守だぜ」
 「なにぃ?!」
 十郎太との会話に没入しているうちに、秋本がMの右側に回りこんでいた。
 「くっ。こいつ。(目がつぶれて視力のない)死角から!」
 「遅ぇ」
 慌てて向きなおすが逆に腹部を晒すことに。秋本は力いっぱい斬り付ける。
 「大牙」
 「がああっ」
 さすがの狼男も不意を突かれてたまらず攻撃を食らう。またもや倒れることに。

 十郎太達の目的は姫子の奪還である。
 兵たちの殲滅ではない。
 邪魔者は排除するがそれだけだ。
 だから兵によっては攻撃が浅く、意外に早く立ち直るものもいる。
 彼らはプリンスを守るべく司令室へと向かう。
 だが扉は冬野とみずきがガードしていた。
 みずきにしてみれば外からの乱入阻止。冬野にしてみれば逃げ道確保。奇妙に一致した。入り口を塞いでいた。
 強力な技をくらい倒れて行く兵たちだが数が多い。
 とてもじゃないが姫子奪還に向かえない。
 兵たちも狭い通路に扉ゆえにまとまって突入も出来ず、一人ずつ倒されていた。

 司令室。挑発するように木刀を担いで見下ろす秋本。
 「へっ。これで三度目ってわけだ」
 敗北をしり、己を知ったからか無用心に追撃はしない。その代わりに精神を揺さぶりにかかる。
 仮にもプロ集団。ラッキーセブンを束ねる最強の男が地面を舐めさせられたのだ。
 平静を装っても腸が煮えくり返っているだろう。
 「貴様…一対一が身上じゃなかったのか」
 狼の仮面越しに憎悪が見て取れる。
 「面白いのはそっちだがな。しかしここは目的がある。
俺としちゃアンタとも遊びたいが、この場は風間のお姫さんを助ける側につくぜ。
 なんせあのお姫さんがいねぇとこのヤロウは俺と遊んでくれそうにないんでな。
 ついで言えばあんたらはチームで強いみたいだから、シングルマッチはそれほど面白くもなさそうだしな」
 怒り心頭と言う状態にさせるため、飄々と小ばかにしたように言う秋本だった。

 一足先に船へと移動していたキング。彼専用の部屋で目を覚ましいていた。
 プリンスは「ヒメコとの賭けがある」と残ったが彼にはそんなものはない。だからさっさと移動していた。
 大掛かりな移動のため一日必要だったのでこの処置だった。
 「おはようございます。キング様」
 女性秘書が恭しく礼をする。
 「うむ」
 「プリンスはまだ屋敷に?」
 秘書が尋ねる。
 「ああ。まだ遊んでいるようだな。まぁよかろう。奴の嫁としたプリンセスにしてみれば故郷との永遠の別れ。
名残惜しくもあろうさ。
 なに。ラッキーセブンや兵たちもいる。心配など無用だ」
 完璧に楽観視していた。

 連絡は行ってなかった。
 これはもちろん自分たちが負けることは考えてないプリンスが、応援要請をしなかったからだ。
 だから姫子を収容したコンテナルーム輸送も、予定時刻どおりにおこなわれていた。
 「ありゃ? 出力が上がらんな。ちょっと見てくれ」
 もちろんこれで慌てたりなどもしない。何が起きているのか知らないのだから。
 未だヘリは甲板の上であった。

 司令室。追い詰められたプリンスは歯噛みする。 
(くそう…こいつら…ここまでとは予想外…まさかM以外のラッキーセブンが全員倒されるとは…しかし応援を要請しようにもこの状況じゃ…)
 ことここに至ってようやく彼はピンチを自覚する。
 自信過剰と呼ぶのは酷であろう。
 何しろ非合法活動のエージェントたち。それがまさかいくら一対一といえど素人の学生に。
 しかも三人…四人は女子。負けると考えるはずもない。
 逆に不安を感じていても恥ずかしくて応援を呼べるはずもなかった。
 だがそれを後悔していた。
 いくらMでも自分を守り切れるか?
 隙を突かれて自分に被害が及ばないか。あるいは姫子を奪い返されないか。不安で仕方なかった。
 (しかし…M。お前を信じよう。子供のころから僕を守って来たお前を…隻眼の狼を)

 「秋本」
 若干非難をこめた口調の十郎太。面白いもので「忍者」が正々堂々を身上として、「剣士」が闇討ちを平然としている。
 「汚いとか言ってる場合じゃないぞ。早くしねえとあのお姫さんが連れて行かれるだろ」
 さすがにそれを言われると返す言葉がない。
 「むう。それに扉もそうは持たぬ。急がねば」

 扉から突入しようとする防衛チームを食い止めているのがみずきと冬野。
 気絶中なのが七瀬。綾那。上条。
 扉を開こうとしているのが榊原と真理。
 プリンスへ断続的に攻撃を仕掛けているのが春日と夏木。
 そしてMに対している十郎太と秋本だった。

 「小ざかしい。ならば一人ずつしとめてくれる。まずは裏切り者。貴様からだ」
 ターゲットは秋本。それ目掛けて走る狼男。
 「その技ならさっき見たぜ」
 ジャンプして一気に背後へ回り込み斬るつもりだった。しかし
 「ウルフズファング」
 今度は真上から、水泳のクロールのように振り下ろしてきた。ジャンプしていたためにもろにその標的となる秋本。叩きつけられる。
 「がはあっ」
 先刻、七瀬に治療されていたのだが、この一撃で一気に戦闘不能に陥るほどであった。
 「ぐおっ…おおおおお…」
 この邪剣士が痛がっている。
 「アバラが折れたか。だが運のいい奴。折れただけで臓器には刺さらなかったようだな」
 「秋本…」
 「…何してやがる。さっさとそいつを倒せ。そうすりゃあの不思議な力で治療できるだろうが。早くしないと連れて行かれるぞ」
 血を吐きそうな声で秋本が叫ぶ。自分の怪我に言及したのは十郎太のためらいを消すため。
 そうだ。怯んではいられない。

 (また一人…わたくしなどのために血を流して…)
 姫子は憂いていた。自分のために何人が傷ついたのか。
 それに報いるには無事に救出されるしかない。
 だが敵は強い。そして自分は何も出来ない。
 その思いが歯がゆかった。

 「風間。窓によるんだ」
 榊原が叫ぶ。
 「窓?」
 外へ通じる窓? 違う。姫子の部屋の窓だ。
 (そうか!)
 十郎太は理解して窓ガラスに背中を向ける。
 「くっ。なるほど。この俺の攻撃を利用して防弾ガラスを割らせる手か。
あるいは、逆に壊れぬガラスを叩かせてこの爪を砕く策か」
 あっさりと看破された。
 「くだらん。言ったはずだ。ここは我らの本拠地。その程度の手では策とは呼べん」
 狼男はダッシュの体勢になる。その作戦ゆえ動かない十郎太。
 「ガラスに傷一つつけずに貴様の体だけ貫いてくれよう」
 ウルフズクローは右下から振り上げる技。逃げるならMから見て左か上。
 ところがウルフズファングは逆で左上から振り下ろす。逃げるなら下か右なのだ。
 そして寸前まで繰り出す腕がわからない。読み違えたら格好の的。
(例えこの身が砕けようと、姫を救い出せればそれでよい)
 十郎太は覚悟を決めた。
 狼男が走る。だが寸前で止まった。
 「何故…砕かぬ?」
 素直に尋ねた十郎太。
 「ぬぅぅぅ。さすがはプリンスの見初めたお方。さすがは戦国の末裔。もしも防弾ガラスが砕けたらとは思わぬのか」
 舌を巻く狼男。
 「?」
 横目で背後を見る。
 「姫!」

 そこにはガラス越しに十郎太の背中に寄り添う姫子がいた。
 「死ぬときは、二人いっしょです」と態度で示していた。

 一枚のガラスが果てしなく厚く、二人の距離は今、もっとも短かった。



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