第28話「Final Fight」Part3   Part2へ戻る

 ガラス越しに寄り添う姫子。その姿に二人の絆の強さを感じた一同。
 しかしプリンス。そしてMはそうじゃない。否。強引に否定している。
 認めてしまうとこれまでのことが何も意味を成さないから。
 「M。その時代錯誤のニンジャに、それが何の意味もなさないことを教えてやれッ!!」
 激昂して怒鳴るプリンス。貴公子のごとき端整な顔も悪鬼のように歪む。
 「わかりました」
 言葉だけで受命を示すM。ぐっと腰を落とす。破気が高まる。
 「自ら壁を背にして、逃げ場をなくしたことを後悔するがよい」
 言うなり猛烈にダッシュする。右下から爪を繰り出した後で、左上から左腕を振り下ろし、右から薙ぎ、左からも薙ぎ、右上から振り下ろし、とどめが左下からの振り上げだった。
 「ビーストクライシス」
 「ぬおっ」
 忍装束が切り裂かれ、鎖帷子が引き裂かれた。上に吹っ飛ばされた本人はガラスに叩きつけられる。
 「十郎太様あっ!?」
 姫子の悲鳴を他所にそのまま下へと落ちる。
 「終わったな。アレを食らって立てるはずもない。そして見ろ。ガラスも砕けてなければ、オレの爪も無事だ」
 言葉どおり。ガラスに軽い擦り傷はあるものの無事。そして狼男の武器も健在だった。
 「礼を言おう。久々に本気になれた。そして熱くな。さて」
 狼男はプリンスへけん制を続ける春日と夏木に向き直る。
 「これも任務だ。引き下がれば出国時間も近いから見逃してやる」

 「待て…おぬしの相手は拙者のはず…」
 その声に狼男はさすがに驚いた。振り返る。
 「……まだ動けるのか…そして、まだ戦おうというのか?」
 見下ろす十郎太はずたずたで、忍装束は原形をとどめず、鎖帷子も大破していた。
 (この無様な姿はどうだ? なのに…どうして得体の知れない恐ろしさを感じるのだ?)
 Mはそこはかとなく恐怖を抱いていた。
 その帷子を引き剥がしながら立ち上がる十郎太。
 「着込みのおかげで命拾いをしたか…」
 「…なるほど。だがそれももうない。次に食らえば確実に死ぬ。それを知ってて立ち上がるのか?」
 「拙者の命は姫に捧げた。狼男よ。おぬしとてあの若殿(プリンス)のために戦うのであろう」
 そのセリフで瞬時に理解した。
 「…ともに主のためにか。惜しいな…敵でなければグラスを傾けたい相手だ」
 「…月見酒と言うのも風流であろうな」
 戦う男同士。奇妙な理解が出来た。今度は立場がそれを許さない。

 「行くぞ。せめて正々堂々の果てに死せよ」

 再び「溜め」にはいる狼男。
 「ウルフズファング」
 ダッシュしての爪の攻撃。今度は簡単にかわせた十郎太。帷子の重さがなくなった分だけ身軽になった。
 ただ防御力はがた落ち。食らったら危ない。七瀬は未だ気絶から目覚めない。修復は期待できない。
 ガイン。金属音すら上げて防弾ガラスが狼男の爪をはじく。僅かには爪の先端で傷はつくが破壊には至らない。
 「なにっ?」
 そう。ガラスに当たったのだ。十郎太は姿を消していた。
 「M!! 上だっ」
 プリンスが悲痛に叫ぶ。上を見たときは既に十郎太の膝が迫っていた。
 「膝落とし」
 狼男の顔面に十郎太の左ひざがめり込む。
 「があっ」
 たまらず体勢の崩れる狼男。よろけて後退する。それをすかさず投げ飛ばす。しかも防弾ガラスのほうへ。
 ガラスが壊れれば姫子を救出できる。壊れないほどの強度なら狼男にしたたかなダメージ。
 しかしどちらでもない。ガラスに両足をつけ激突阻止。そのまますとんと下に落ちる。
 だが十郎太も二の手三の手は打ってある。
 「はっ」
 予測された地点に苦無(くない)を投げ込む。
 「フン」
 狼男は巨大な獣の手でそれをなぎ払う。ただそれだけなのに苦無がひしゃげてしまっていた。
 「な…なんてパワーだ」
 夏木が驚くようでは凄まじいかもしれない。
 「くくく…!?」
 余裕だった狼男が息を呑んだ。
 「う…うぅーん」
 「……あぁん……」
 七瀬。そして綾那が目を覚ましつつあったのだ。

 キングの船。ようやく巨大ヘリがエンジンをかけた。
 姫子がとらわれている部屋は、コンテナ状になっている。
 元々は賊等を捕らえるための『牢』だった。
 だから脱出ができないように頑丈な扉で仕切られている。
 そして出入りの際が危険ゆえ、部屋ごと運べるようになっている。
 今回は姫子の逃走を嫌い、そのままこの船に運び込む算段である。
 空に浮かんでは手出しできない。
 このローターの音は十郎太達には絶望の音だった。
 それが今、うなり始めた。

 司令室。二人の少女の目覚めは戦局を変化させた。
 (まずい…あの二人が目覚めると言うことは圧倒的に彼らにとって有利。そうでなくとも二人にかまっていたDに勝った青年と、Rを撃破したレディが戦列に戻る。
 彼女たち自身も加わるだろうし、未だ目覚めぬもう一人の少年も復活する。
 そうなるとさすがにプリンスを守りきれない。 結論は一つ)
 「もう一度、眠っていただく」
 狼男は一跳びに飛び掛る。が…
 「龍気炎」
 「ぐあっ?」
 気の塊をくらい吹っ飛ぶ。
 (しまった…最初に気絶させた少年だ。単純に一番早く戻っても不思議はない!!)
 そう。狼男を吹っ飛ばしたのは上条だった。
 「割と美味しかったかな?」
 不器用に片目をつむりながら起き上がる。
 「上条。無事だったか」
 「無事なもんかよ。効いたぜ。その分は倍返しだけどね。ようしみんな。スーパーダイノボンバーだ」
 戦隊の合体技だ。全員のエネルギーを合わせてのとどめの一撃の一つ。
 「いやまて。それならむしろ…若葉」
 榊原が耳打ちすると綾那が納得したようだ。
 頷いた面々のエネルギーを少しずつ貰い、それを十郎太へと転送した。
 「巨大なエネルギーにして打ち出してもあの狼男のスピードじゃかわされておしまい」
 「しかし姫ちゃん救出にガラスや扉の破壊に当てるにしても、この頑丈な扉じゃ跳ね返ってきそうだし、ガラスを破壊しないですり抜けた場合、中で乱反射を起こして姫ちゃんに被害が及びかねない」
 「それなら風間に僕達のコスモを与えようと言うんだな。ようし。僅かに残った僕のコスモを」
 「この局面でぼけるな…って、乗りがいつものになってきたな。よーし。十。受け取りな。アタイの『度胸』を」
 「オレのも持って行け」
 「私のも分けてあげる。だから」
 「破気だがどうせ変換されるんだろう。受け取れ。そしてヤロウをブッ倒せ」
 秋本までもがエナジーを分け与える。
 「むぅ、感じる。命の高まり。気の高まり。そして、勝利の予感が」
 それぞれの『思い』を受け止めた十郎太。その神気は最大にまで高まり、究極奥義。不動明王陣を放てるほどにまでなった。
 だが彼を高めた決定打は姫子の祈りだった。

 外。迎撃部隊との戦いは、相手の陣地と言うこともありおされ気味であった。
 しかし実戦の多さが物を言い、次第に風魔が形勢を押し返してきた。
 ついには迎撃部隊を退けた。そして屋根に。
 「これか。これが姫様を捕らえている檻の屋根か。ここに鎖をくくりつけて船に運ぶと言うのだな」
 調べて分かった。
 「よし。天井から中に入れるかどうか調べるぞ」
 だがそれは徒労に終わった。それもそうだ。部屋ごと護送するのだ。出入り口など上に作るはずもない。
 敵のいない安全地帯でちゃんと扉から出せばいい。
 ちゃんとした扉以外に出入り口もない。
 「こうなると中の十郎太達が頼りか」
 「九郎様。あれを」
 登る朝日の中に浮かび上がるヘリのシルエット。
 「まずい。アレで運ばれたら手も足もでん。よし。ここで待て」
 九郎は物凄い勢いで屋敷から伝って地面へと。
 そして戦いのあった場所へと走る。

 司令室。いよいよ戦いは最後の局面に。
 「はぁぁぁぁっ。爆熱 らぶらぶ 龍気炎
 「うぎゃぴぃぃぃぃぃぃぃっっっっ」
 蹴散らされる雑兵たち。
 上条と綾那はみずき達に加勢して廊下の部隊を一掃にかかる。
 七瀬は真理たちに協力して鍵を開けるように思考をめぐらす。
 誰も十郎太と狼男の戦いに手を出せなかった。それほど緊張感が漂っていた。

 「さてはサムライボーイ(秋本)を倒した技を狙っているな。その技はモニターさせてもらった。
残念だがこのオレはそれほどのろまじゃないぞ」
 はったりでない自信が狼男の言葉にはある。
 「一瞬…刹那の隙さえあればよい。これだけ受け取れば…」
 十郎太も決して虚言を紡いでない。
 それがわかるゆえに、狼男もにやりと口をゆがめる。
 「ふふ。楽しかった。この戦いは本当に楽しかった。礼を言うぞ。
だが、私には任務がある。残念だが君には消えてもらう…せめて大技で屠ろう」
 ぐっと沈み込む。
 「あの技は…」
 自分が連れ去られた夜の記憶が蘇える姫子。そして十郎太。
 (策は…ある。きゃつが拙者に向かうための切り返し。その刹那に奴は止まる。それが唯一の勝機)
 そしてそれは自分にまっすぐに真正面から向かってくる瞬間。その一瞬にかけた。
 「行くぞ。忍よ。私はプリンスを守り抜く」
 「こい。狼男。拙者は姫を連れ帰る」
 狼男が消えた。目で追う。自分の後方の天井に跳んでいた。
 「ムーンライトカレイドスコープ」
 そのまま反対側。姫子の牢のガラス窓の上部へ跳び、そこから十郎太目掛けて跳ぶ。
 「むんっ」
 これはブロッキングに成功。続いた背中からの攻撃はかわすのが出来た。狼男はそのままガラス窓に跳ぶ。
 「ちょこまかと」
 当てられない苛立ちが力みを産んだ。
 破壊の難しい防弾ガラスゆえに普通の壁を蹴るように蹴った。そう。水泳のターンのように。
 だが焦りが精密機械を狂わせた。
 足の獣の爪が割れないはずのガラスに食い込んだのだ。
 いかに防弾ガラスといえど銃弾のような軽いものではなく、成人男性がその重量で、そして高速で跳躍して鋭い爪の先端を立てたのだ。
 衝撃加重と相俟って爪がガラスを突き破った。
 「なんだと?」
 そしてそのターンの瞬間を狙っていた十郎太は既に間合いに捕らえていた。
 「貰った!! 風間流究極奥義・不動明王陣
 極限まで高まった神気により超人的な動きをできるようになった十郎太が、あらゆる死角から急所を突く。
 「グオオオオオオオオオーーーーーーーーーッッッッ」
 狼の雄たけびだった。これが死闘の終わりを告げた。

 ヘリはぐんぐん近づいてくる。九郎も戻ってきた。
 「九郎様。それは?」
 「うむ。我ら兄弟に砲撃を仕掛けて来た者(大砲バッファロー)の大筒だ。恐らくは『気』をためる効果がある。
よいか。我らの気をこの筒に集めて<あの蚊トンボを撃ち落せぬまでも近づけるな」
 「はっ」
 大砲のサイズもあり五人程度で持ち上げる。忍達の気が凝縮される。
 「風魔迅雷砲」
 気合とともに気の砲弾が打ち出された。そして目に見えてヘリは接近を躊躇い始めた。
 (急げ十郎太。早くお救いするのだ)

 「勝ったのか?」
 廊下の相手を一掃してみずき達が戻ってきたら決着がついていた。
 倒れ伏す狼男。その姿がMに戻る。歩み寄る十郎太。
 「おぬしの負けだ。鍵を渡していただこう」
 「確かに…オレの負けだ。それは認めよう。だが…」
 懐から出した鍵。それを手にしたまま狼男に再度変身。そして
 「ぬぅぅぅぅんっっっ」
 「なんと?」
 狼男は鍵を真っ二つに叩き割り投げた。窓を突き破って別々の方向に。
 「このミドラー。あくまでもプリンスの味方。プリンセスは渡さん。上で足止めをしているようだが、それとていつまでも持たん。
金髪の少女。君の茨は心は読めるみたいだが物の行方はわかるかな?
治癒の少女。鍵を直すにはどちらかでも見つければすむだろう。だが、輸送ヘリが姫をプリンセスを連れて行くまでに探し出せるか?
 結局は…我々の勝利…よ」
 それだけ言うと今度は本当に気絶した。
 「そ…そんな…それじゃ今まで何のために」
 真理が力なく膝を折る。ほとんどの者が放心した。
 「ふはははは。よくやったぞ。M。さぁヒメコ。これで満足しただろう。こいつらはよくやったよ。
だが、所詮は僕とラッキーセブンの敵ではなかったのさ。それが分かったなら僕の愛を受け入れるがいい」
 「愛? 姫の意思を無視して、このような檻に閉じ込めるおぬしがそれを語るか。片腹痛い」
 十郎太だけは闘志を失っていない。ガラスの前に立つ。
 「ふ…何をする気だ? 武器も道具もなしに割れるものではないぞ」
 「割れているであろう。こうしていくつも」
 そこには狼男のつけた爪あとが穴を開けていた。
 「そうか! そこはもろくなっているはず」
 みずきが希望に明るい声を出す。
 「だからなんだというのだ。その程度の傷跡。道具も武器もなくそのガラスを砕けるものか。しかもヘリは近くまで着ているぞ」
 「道具は…これでござる」
 十郎太は右の拳を見せる。
 「そして、武器はここにあるでござる」
 その拳を開き、自分の胸元を、心を示す。

 狼男の爪あと。その前に立ち、目を閉じ心を落ち着ける十郎太。
 上半身は忍装束も鎖帷子もなくなった。裸の肉体のみ。
 そして武器も肉体のみ。
 カッと目を見開く。
 「えいやぁ」
 気合とともにガラスに一撃。だが皹一つ入らない。
 「えいやぁ」
 続け様に左の拳を叩きつける。
 右。左。右。左。無数の拳を叩きつける。鬼気迫る光景に声もない一堂。
 「あ…ああ…」
 そして姫子はなんともいえないこみ上げる思いに突き動かされていた。
 「えいやぁっ」
 ついに拳から血が吹き出た。しかし十郎太は拳を止めない。
 「やめて。やめてください十郎太様。このままでは拳が、あなたの腕が…」
 泣きながらガラスにすがりつく姫子。嗚咽を漏らし、言葉にならない。

「やめて! やめてください十郎太様」「姫を救うためなら拳一つなど安いもの」

このイラストはOMCによって作成されました。クリエイターの参太郎さんに感謝


 「……姫を失う痛みに比べたらこんなもの。拳と引き換えに姫が戻ってくるなら安いもの」
 不器用な鉄仮面が笑顔を作る。
 「十郎太様…」
 「ささ。姫、もうすぐ出して差し上げますので少々お離れください」
 それを制止した腕。みずきだ。
 「赤星…」
 「かっこつけやがって。だけどさ。オレ達にとっても姫ちゃんは友達だ。手伝わせてもらうぞ。七瀬。風間の手を」
 「うん。さぁ。治して上げるから」
 七瀬に導かれるままに手を差し出す。
 この辺りが忍の現実主義。だれが助け出してもいいのだ。そして姫子も十郎太が無茶をやめて治療に回ってくれてほっとしていた。
 「さぁて行くぜ。砕けろ。コスモスエンドーっっっっっっ
 みずきの蹴りを無数に放つ技が炸裂。そして
 「ぶっ壊れろ。タートルヘッド
 榊原の全身を捻ってのドロップキックが。さらに
 「次はアタイだ。XYZ
 右掌から気の塊を出す技だ。
 「乱反射が起きるかどうか。まずは試すぞ。爆熱龍気炎
 懸念されたような事態にはならない。
 「それならボクも。フラッシュキャノン
 「治療はすんだわ。私も行くわよ。ビブラート
 キックが。気の塊が次々とぶつけられて行く。
 「うぉおおおおおー。感動した。わしも参加させてくれぇぇぇ」
 なんと夏木までもが救出に参加した。その巨体で体当たりを敢行する。
 「どけ。デブ。一箇所に集中させるぞ」
 秋本が抜刀術の体勢になる。破気…否。神気が高まる。
 「咆哮」
 まさに猛虎のほえる様。皹がどんどんと大きくなる。
 「行け。風間」
 治療を終え、体力も補給された十郎太が再び。
 「えいやぁぁぁぁっ」
 ガッシャアアアアン。拳の一閃で防弾ガラスが粉々に砕け散った。人一人通れるほどの大穴が開く。
 「ば…馬鹿な…ありえない…そんな馬鹿な…」
 プリンスの心も壊れたかのようだ。
 あえてそれにはかまわない十郎太。これもまた、情けの一つ。

 穴をくぐる。力が抜けて座り込んでしまった姫子のそばによる。優しく助け起こす。
 「……十郎太…様」
 涙の後の残る顔で見上げる姫子。
 「姫。迎えにまいったでござるよ」
 にこっと笑って言う十郎太。
 「十郎太様!!」
 普段の大和撫子振りとは程遠い、情熱的な再会の抱擁だった。


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