第28話『Final Fight』Part4   Part3へ戻る

 日数にしたら僅か。だが、まるで永遠にも似た長さに感じた二人のあえない時間。それからの再会。
 さすがの二人も人目をはばからず抱きしめあう。
「信じてました。きっと…きっと助けに来てくださると」
 ここまでは憂いた涙を流していたが、この場は喜びの涙の姫子。
「二度と…二度と奪わせませぬ。姫を離しません」
 それに答えるべく十郎太もきつく、固く抱きしめる。感動の場面だったが
「お熱いねぇ。お二人さん。だがとにかく出てからにしようぜ」
 真理に言われて慌てて離れる二人。笑いが起きる。
 それまでの緊迫感はどこへやら。照れて赤くなる十郎太と姫子。とにかく出ようと穴をくぐる。
 ところが出たのはいいが
「きゃっ」
「姫!?」
 姫子が崩れてしまった。
 狭い部屋に監禁されろくに歩けなかったため、足の筋肉が萎えてしまったのだ。
「え…っと。怪我とは違うし…」
「エネルギーあげてもだめなの?」
 七瀬と綾那も手が出せない。
 こればかりは歩いて筋力を取り戻すしかない。当面はどうするか?
「姫。失礼するでござるよ」
 十郎太は姫子を軽々と両手で抱き上げる。
 姫子がウェディングドレス姿のため、まるでアメリカで結婚した二人が、新居に入るときの儀式のようだった。
「おおーっ」
 緊張感がうせた一同は思わず声を出す。
「あ…あのっ…あのっ…十郎太様。わたくし…とても恥ずかしいです…」
 頬を染め消え入りそうな声で訴える姫子。もちろん嫌がっていない。とてもいい表情だ。

(ああ…ヒメコ。君はそんな表情を僕には一度もしてくれなかったね…)
 プリンスの敗北を認めさせたのはまさにこれだった。
 だから
「逃がさんっ」
 残っていた兵たちが入ってきたときに
「やめろっ。ヒメコたちに手を出すな」と怒鳴った。
「プリンスさん…」
「負けだよ…ヒメコ。そんな表情をされたら、僕の入り込む余地がないって嫌ってほど思い知らされるよ。君を得るためにはなりふりかまわなかったが、最後くらいは格好つけさせてくれ」
 プリンスは言うと司令室にあるマイクをとり
「全員に告ぐ。ヒメコは帰す。だからもう手を出さなくていい…僕の負けだ…」

 屋根の上。輸送ヘリを近寄せまいと戦っていた一同だが、その輸送ヘリが大きくコースを変えたので戸惑う。
「諦めたのか?」
 監視を続ける忍者たち。一人が内部を見た。
「九郎様!! あれをご覧ください」
 言われて中を見ると無事に救出された姫子の姿が。
「そうか。お救いしたか。でかした。十郎太」
 風魔たちは次々と中へと降りて行く。

「兄者」
「九郎さん」
 外でヘリを追い払っていた忍者たちが次々と降りてくる。最後が九郎だ。
「姫。御無事で」
 臣下の礼を取る九郎。姫子が立てない状態なので抱きかかえられたままだ。
「御心配…おかけしました」
 その言葉に不覚にも涙のでかかる九郎。
「姫が御無事なら何よりです」
 そして照れ隠しかいつも以上に厳しく
「よいか。十郎太。車まで姫を離さず抱いてこい。これは命令だ」
「はっ。例え死んでも姫は離しません」
 みずき達に冷やかされる十郎太達。まるで新婚カップルのようだった。

 司令室を出ようとしたときだ。
「待て…」
 プリンスが力なく言う。立ち止まる一同。緊張が走る。
「まだ何か用か?」
 引き締まった表情で十郎太。戦闘が無くなり四季隊は既に退散。風魔も警戒しているもののその場にはいない。
「最後に…これだけは言わせてくれ」
「言い訳かよ。見苦しいぜ」
 がなりたてる真理を制する十郎太。
「口上。承ろう」
 いくら敗北宣言があったといえど、油断を誘う罠とも取れる。一同の緊張は解けない。
 そんな中で淡々と語りだすプリンス。
「ヒメコ。僕のやり方は強引で間違っていたのかもしれない。だからラッキーセブンすら敗北したのかもしれない。だが、これだけは信じてくれ。
 僕は本当に君に恋していた。例え悪魔に魂を売ってでも、君が欲しかった。
 その気持ちだけは、紛れもいない真実だ」
「プリンスさん…」
 ひどい目にあったにもかかわらず優しい口調で言う姫子。
「ああ。すっとしたよ。言いたかったことが言えて。どうしてこれを最初にしなかったのだろうな?」
 まさしくつき物が落ちたようにいい表情をしていたプリンス。
「プリンスー…」
「言いたいことは言った。だからさっさと消えてくれよ。これ以上ヒメコを見ていたら…断ち切れる未練も断ち切れない…」
 だが間に合わなかった。大粒の涙が零れ落ちる。嗚咽を漏らし、涙が溢れる。膝をつき、床を叩いて泣き出した。
「わぁぁぁぁぁぁ。僕は本当にヒメコが好きになったんだ。女に惚れて何が悪い。惚れた女ならどんなことをしても手に入れようとして当然じゃないかァァァ

 恥も外聞も無かった。駄々っ子のように泣いた。それだけにウソ偽りはない真実の涙。
 十郎太達にはかける言葉が無かった。
 黙って立ち去る。それが一番の優しい行為。

 屋敷を出る。そこにはグレッグ…いや。グロリアがいた。
 それが肩を貸しているのがサラ。
「サラさん」
 七瀬が駆け寄る。サラは連れ出された姫子を見て
「どうやら勝ったようですね。私が言うのもなんですが、おめでとうございます」
 サラにしてみれば命令だから従ったが、やはり同じ年頃の女が無理やり求婚され、閉じ込められているのは心地よいものではなかった。
(私は密かに、心のどこかで敗北を望んでいたのかもしれません)
「待ってて。約束どおりに治してあげるから」
 瞬時にして修復される足と腕。
「七瀬。そっちの人も頼む」
「…わかったわ」
 それが誰かはわからなかったので怪訝な表情になる七瀬。だが自分を参考にすれば、みずきの戦った相手だろうと察してグロリアも治療する。
「傷が…サラ。君と同じような力の持ち主か?」
 S…サラはコクリと首を縦に振る。
あああああっ。なんだとぉぉぉぉっ。こんな美女と美少女が相手にいたのかっ?
 大声でわめく榊原。戦闘も勝利で終わり余裕が戻ってきた。
「うーんとね。榊原君。ボクの相手も胸なかったけど可愛い女の子だったよ」
 きっちりアリスのつるぺたを強調する綾那。
「すると7人中3人が女…いや。最後の大将(M)はバカボンボン(プリンス)にくっついていたから実質6人中半分が女と言う高確率なのに、俺の対戦相手は男だったのかっ」
ばかかぁーっっっ
 問答無用で彼の顔面を鷲づかみにする真理。そのまま地面になぎ倒される。
「ほげろっ」
 仁王立ちで見下ろす真理。
「そんなことを言うならアタイなんざロボット相手に戦ったんだぞ。人間ですらない」
「す…すみません」
 その姿に笑いが起きる。姫子まで口に手をあて笑っている。
「あ…あら。ごめんなさい。榊原さん。笑ったりして」
「いや。それでいい。その笑顔が何よりの報酬。だよな? 風間」
 半身を起こしつつ同意を求める。
「左様」
 今度は微笑みの一同。それを見て納得したグロリア。
「これでいい。これでいいのだ。あるべき場所に。あるべき姿に戻った。そして私も女になる…いや。戻るときがきた」
「グレッグ…」
 同じように性別に疑問のある相手だけに心配をしてしまうみずき。それに対して柔らかい笑みを返すグロリア。
「グロリア、よ。ミズキ。そして男でも女でも自分は自分。そうでしょ」
「ああ…」
「お礼を言わせて。もしもここで敗れなかったら…ううん。あなたと会わなかったらずっと迷っていたかもしれない。
 でも男として振舞っていた日々が無駄だとは思わないわ。とことんやってみて、やはり私は女だと良くわかったの。戻るきっかけをくれてありがとう」
「その礼なら狼男に言われたよ」
「マスター…」
 二人の女は憂い顔になる。

「彼は…どうするのだろう?」
 自分たちのリーダーを心配する。
「変わらぬでござろうな。あの忠臣ぶり。そして信条に従う心の強さ。あの者は変わらぬでござるよ。きっと」
 Mの戦いぶりを見ていた一同は同意する。
「敗れたのは拙者の姫を取り戻したい執念が上回っただけのこと」
「つまり…それだけ姫ちゃんを愛していたんだねっ」
 何も考えない綾那の発言。だが反響は大きかった。
「おおーっっっ」
「なるほど。愛のなせる技か」
「ステキだわ」
 冷やかしまくられる。耳まで赤くなる姫子。だが十郎太は表情が変わらない。
「そうかも知れぬな。この忠義もまた、ひとつの愛かも知れぬ。さもなくば、あれほどの強敵たちや困難な状況を乗り越えられなかったでござる」
 本人としては冷静な自己分析だが、周囲からは「愛の告白」にしか見えてない。
「恥ずかしいです……」
 消え入りそうな声の姫子だが、決して嫌がってはいない。なにしろ顔を十郎太の胸板で隠したくらいだし。

「さようなら。ナナセ。もしも縁があったらまた会いましょう」
「私もだ。ミズキ。そのときはワンピースを着てくるよ」
「さよなら」
「じゃあな」
 戦いが済めば憎しみも何もない。別れの挨拶をかわす。屋敷のほうへと行く二人。
「どうなるのかしら?」
「無事ですむかな。非合法な連中だったし。これだけ派手にやっちゃ怪しいぞ」
 榊原の予想は既に当たっていた。

 出港準備を進めていたキングの船。
「遅い。いつまで遊んでいるのだ? とっくに国に帰る時間だというのに」
 イライラをぶつけるキング。
「残念だがあなたは帰る事はできない。裁かれなくてはならない」
 聞いたことのない男の声が響き渡る。
「だ…だれだっ?」
 その問いかけに呼応するようにシャンデリアの上から影が舞い降りる。
「なっ?」
 仰天する一同。その怪人物はストライプの野球のユニフォームにマント。
 野球帽を目深にかぶり口元はマフラーで。目はマスクで隠していた。
「だ…だれだっ。貴様はっ」
「私は…地獄から来た愛の使者。野球忍者。ビッグ・ワン
「に…ニンジャだと。いくら我々が日本人じゃなくとも、それが間違っているとはわかるぞ」
「ふっ。過ちと言うならあなたのしてきたこと」
「な…なんだと」
 後ろめたさゆえか動揺する。
「Mr.キング。あなたは格闘家たちをテロリストとして養成して、非合法活動をおこなっていたようだな。
 たしかに素手で前科もなければ出入国は楽だ。だから格闘家に目をつけた。
 そして今は北条家長女。姫子さんの拉致疑惑。あなたをこのまま帰すわけには行かない」
「くっ。こいつをつまみ出せ」
 いっせいに飛び掛る兵隊たち。だが
「大回転打法ーっっっっ」
「うぎゃああああああっ」
 二本のバットを持ち、こまのように高速回転するビッグワンに雑兵たちは蹴散らされる。
あっという間にボディガードたちは戦闘不能に。
「は…はわわわわ」
 圧倒されよろけたキングにゆっくりと歩み寄る野球忍者。
「これまでだな。観念していただこう。まぁ姫子君も今頃は救出されているから、ひょっとしたら北条家の訴えは取り下げてもらえるかも知れない。だが、余罪はしっかりと調べさせていただく」
「あ…ああ」
 跪くキング。まさに革命がおきたかのようだ。
 合図を受けて踏み込んできた警官隊が一網打尽にした。

「風間」
 車へと移動する一同。先に行ったはずの四季隊がそこにいた。
「秋本」
 姫子を抱きかかえたまま対峙する十郎太。
「此度は世話になった。礼を言おう」
 まずは最後の救出作戦の協力に対して礼を言う。
「その前にゃ邪魔したからチャラだがな…」
 木刀を肩にして歩み寄る。だが一切の闘争心を感じない。
「オメーがそのお姫さんを守り続けるように、オレもオメーみたいな強敵と戦わずにはいられねぇ。お互いそれしか生き方を知らないよだな」
「…かも知れぬ」
「だからよ。オレはまだまだテメーに戦いを挑むぜ。だが純粋にお前を上回るためだ。お前も強くいてくれ。そうでないとオレは…張り合いがない」
「ふっ…まこと我らは不器用でござるな」
「違いねぇ」
 ふっと微笑をもらす。そして背中を見せる。
「今日は帰るさ。とりあえずくたびれた。またいつか…な…」
「ああ。いつでも来るがよい」
 そして四季隊も引き上げていった。
「変わらないみたいだな。秋本さんも」
 マリオネットを覚醒させたという大きな変化をした上条が言う。
「いや。変わったでござるよ。互いに高めあう戦いは以前は望んでいなかった。ただ力を振るおうとしていただけ」
「やっぱり…救うための戦いの中だから影響されたかな」
 Gの人生を変えてしまったみずきが続く。
「かもね」
 相槌は七瀬だ。
「わぁー。朝焼けだ」
 綾那の言葉で思わずそちらを向く一同。この時間に間に合わなかったら姫子は…
 だが今は十郎太の腕の中。
 しっかりと抱えていた。そして姫子も身を任せていた。十郎太の裸の胸板に寄り添うウェディングドレスの美少女。
 一同の顔を朝焼けの赤が染めて行く。

朝焼けの中の二人

このイラストは参太郎さんによって作成されました。
感謝します。













 後日談…京都。
 とある神社。炎を見つめる青い瞳の巫女。
 きちんと正座して微塵も揺るがない。
 まるで人形のように動かない。
「何を見ているのです?」
 優しく尋ねる宮司。
「炎の…炎の心を見ていました」
 答えたのはサラ・シルバーマンだった。
「ほほう。炎の。まるで禅問答ですな」
「万物全てに心が宿ると思います。風には風の。水には水の。鳥には鳥の。魚には魚の。そして人には人の」
 サラは悔いが残っていた。敗北にではない。七瀬の覚悟を見抜けなかった点がである。
「炎の心すら見ることが出来たら、人の覚悟など手に取るようにわかるでしょう」
「厳しい修行ですね。ですがそれはまさに神との対話。お続けなさい」
「はい」
 再び炎を見つめるサラ。
(私はまだまだ修行が足りないようです。充分に修行を積んだらそのときは、戦いではなく、茶の湯でお会いしたいものです。ナナセさん)

 中国。
「でゃああああああ」
 四方八方からの拳士たちの攻撃を受け止めようとする男。ドモン・ダルトン。
「ぬっくっ…うわぁぁぁぁぁッ」
 だが捌ききれず倒されてしまう。
「そこまで」
 老人の一声で攻撃がやむ。助け起こされるドモン。
「無茶をする。戻ってきたと思えば再修業の申し入れ。そして来る日も来る日も百人組み手。随分荒っぽくなったものじゃな」
「老師…」
 二人は腰掛ける。
「オレはある戦いで策に溺れて敗れました。そして悟りました。
 まずはこの慢心をいさめようと。心の目が曇ってたゆえに相手の真意も見抜けずに、一敗地にまみえたのですから当然です」
「ほほう」
「世界は広い。あのような男もいたとは。だが、私が乗り越えられぬ道理はない。
 思えば物まねばかりでは乗り越えるなど無理な相談。そこから進んでこそ進歩。
 それにはまず基礎からやり直したく思います。
 そして策に溺れぬよう、考えるのではなく、感じ取りたいと思います」
「ふっ。ドモン。いい敗北をしてきたようじゃな。よし。一息入れたら続けるぞ」
「はい」

 カリフォルニア。海岸沿いの一軒家。年老いた女が一人住んでいた。
「ママ」
 よく知る声。しかしこの人物はこんな軽やかな喋り方はしないはず。振り返るとスーツケースを両手で抱えたワンピースの女性が。
 長い髪にウェーブがかかり、帽子を。恥ずかしそうにうつむいているその唇は赤く彩られていた。
「グレッグ…グレッグなのかい?」
 彼女はゆっくりと首を横に振る。
「違うわ。グロリアよ。グロリア・ゴードン。あなたの娘」
「ああ。グロリア」
 母親はグロリアと固く抱擁する。それを受け止めるグロリア。胸元は豊かに膨らみ、女性らしい曲線を描いていた。
「お帰り。グロリア」
「ただいま。ママ」
 母娘は家に入る。
「それにしてもどうしたんだい。その格好。あれほどスカートを嫌がっていたアンタが」
「似合わない?」
「そんなことないよ。とっても可愛いよ」
「ありがとう。ママ…可愛い、か。『男』だったときはそんなこと言われたら、見下されたようで不愉快だったけど『女』になったら素直に嬉しいわ。
 あたし、相当無理してたんだな。神様がくれたこの体。これで生きるしかないのにね」
「何かあったのかい? グロリア」
 コーヒーを入れながら母親が尋ねる。
「うん。戦いで負けちゃったの。それでね。なんか突っ張って生きるのも疲れちゃって…肩の力を抜いたらこんなに楽になれたわ。
 でも、今までしてなかったから、お化粧はかなり変だと思うけど。恥ずかしくてずっと下向いてきたのよ」
 くすっと柔らかく女性的な笑み。口ひげをつけてオールバックにしたG…グレッグ・ゴードンはもういない。
 ここにいるのは一人の女。グロリア・ゴードン。やっと人生をやり直し始めていた。
「あたしが教えてあげるよ。ゆっくりと女になればいいのよ」
「ありがとう。ママ。あたしも、いつかママみたいになれるかな?」
「なれるさ。あたしの娘だもの」
 失った時間を取り戻すべく、ゆったりとした語らいが続く。

 ドイツ。とある研究施設。白衣の少年を大人たちが押さえこんでいる。
「博士。何をするんです?」
「こんなんじゃだめだ。こんなんじゃGR2は…」
 びりびりと設計図を破り捨てる。
「ああ…なんてことを。あれほどの完成を見ていて何が不満だと」
「あれを完璧と言うのかい? 僅かな回路不良で動けなくされたGR1を上回るには、もっとスピードとパワーをあげなきゃだめだ。あんな小細工ができないように。そもそも中身を露出させなきゃああはならなかった」
 博士…若干11歳の天才少年。R…リッキー・ランドルフは、自慢のロボットがただ一人の女、しかも素手の相手にあっけなく倒されてショックを受けていた。
 ここに来るなりグラップルロボ2号…GR2製作に着手した。
(見ててよ。お姉ちゃん。今度は負けないロボを作るぞ)
 この意地の張り方。それだけは年頃の男の子らしいといえなくもなかった。

 とある場所。サーカスのテント。
「バカヤロウ。アリス。何だあれは? いくらスピード感を出すといっても、あそこまで速かったら客がわからないだろうが」
 サーカス団の団長に怒られていたのは誰あろうアリス・エンジェル。
 彼女の空中でのバランス感覚はサーカスで鍛えられた賜物であった。
「だって悔しかったんだもん…あんな走っているだけの女に負けちゃったなんて…おかげでつるぺた世界一の称号まで貰っちゃったし」
 するとあれは世界つるぺた決定戦でもあったのか?
「元はといえばまっすぐ上昇したりしたから撃たれたのよね。だからジグザグに上がればよかったけど、それにはバランス感覚も鍛えないと」
 いうとのどの渇きを癒すために冷蔵庫の飲み物を。
「そ…それからな。アリス。いくら14歳といってもそのミルクは多すぎないか?」
「こっちの方がもっと負けたくないもん」
 飲み終わると胸元を鍛えるべく腕立て伏せをはじめるアリスであった。

 アリゾナ。とある軍事施設。
「よいか。戦いにおいては心理戦も非常に有効な手段である。
 敵の心を読み、揺さぶりをかける。プライドを踏みにじる。コンプレックスを刺激する。あるいはそのものの崇拝するものを汚すのも有効であろうっ」
「イェッサー」
 若い兵士たちが敬礼をする。
 熱弁を振るうのはあのC…チャールズ・キャメロンだった。
 古巣である軍に戻り、指導教官としての日々を送っていた。
「だが…その作戦は時と場合を選ぶ必要がある。相手によっては異常な闘争心を発揮したあげく、一時的にこちらを上回る力を発揮しかねない」
 そこで鬼神と化した上条の顔を思い出す。
 ぶるるっと身震いする。
(何を恐れている。あんな奴がそうそういてたまるか。落ち着け。イレギュラーに過ぎん)
 しかしその恐ろしい顔が網膜から離れない。恐れるあまりついこんな風に言ってしまう。
「とかく『OTAKU』と戦うときは要注意だ。もしも敵が絵に描かれた美少女を身につけていても、それだけは触れないほうが無難だっ。これはよく頭に叩き込め。わかったかっ。我輩の貴重な経験からの話だ」
「イェッサー」

 そして…ある都市。
 警官たちが銃を手に取り巻いているのはある安ホテル。
 中にはショットガンを手にしたものもいる。

 追われていたのはプリンス。そしてMだった。
 キングの犯罪が発覚。そしてそれに伴い息子であるプリンスにも容疑がかかった。
 だが彼らは日本から屋敷には戻らなかった。
 その居場所がやっと判明したのだ。

「あああ。あんなに警官が…どうする? M。逃げ切れるのか?」
 窓の外を見たプリンスが絶望の表情となる。
「むぅ…」
 ミドラーも険しい表情になる。だがそれを緩めて笑顔を造って見せる。
「御安心ください。プリンス。私は常にあなたの味方です。どこまでも、そして命のある限りお守りいたします」
「そ…そうか。頼りにしているぞ」
 安心して笑顔を見せるプリンス。子供のように。
「はっ」
(そう。私はプリンスを守る。あの日本の若き忍者のようにな。それしか生き方を知らない)
 激しくドアがノックされる。
「あけろ。警察だ」

 ミドラーは狼男へと変貌した。
 死ぬまでプリンスを守るつもりである。

 それは十郎太の評した「忠臣」以外の何者でもなかった。




次回予告

 秋。無限塾にも文化祭の季節。模擬店。軽音部のライブ。写真展。そして軽はずみな約束から舞台にあがり
「女優デビュー」する羽目になったみずき。気になる動きもちらほらと…
 次回PanicPanic第29話。
 「変人集団の文化祭」
 クールでなくちゃやって行けない。ホットでなくちゃやってられない。

第29話「変人集団の文化祭」へ

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第28話「Final Fight」パロディ原典集へ

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