第30話「本当の私」

 秋も深まってきた。さすがに朝晩は寒くなり、瑞樹も寝るときは厚手のパジャマに布団と言う形になってきた。
 パジャマはもちろん男物で、装飾のないシンプルなデザイン。
 そして七時。彼は目覚めた。いくら涼しくても布団から出られない気温でもない。寝ぼけつつも這い出してくる。
 立ち上がりながら頭をぼりぼりと掻いている。それがうなじに移る。しきりに髪の毛を気にしている。
 軽く舌打ちするとタンスを開いて女物の下着を出し、登校のために女になるべく風呂場へと出向いた。

 シャワーを浴びる少年・瑞樹。平たい引き締まった胸を水滴が流れ落ちる。
 筋肉質と言うよりも痩せすぎだった。体脂肪率11%。
 男子の理想が18%といわれているので、いささかこれは痩せすぎである。
 しかしこれが女子に変身すると縮んだ背丈や肩幅。筋肉が脂肪に変換され女子としては理想の23%になるのである。

 火照った体に心地よい水シャワーに徐々に変わる。ぬるいから冷たいに変わった今はその理想的なボディ。
 白い肌の柔肌の少女。それがみずきだった。
 激しい自己主張をする胸部は、膨らみと言うレベルじゃ収まらないほどの大きさだった。
 ウエストはやや太め。それでもしっかりとくびれていた。
 ヒップは安産体形そのもの。どこから見ても女そのもの。
 もう慣れたはずなのに姿身を見てため息をつくみずき。
 文化祭の代休のときには一度も女にならなかったため、一時忘れていたのが余計に悪かった。
 この日は文化祭から四日目の木曜日。それなのにまだため息が出る。

生まれたままの姿…とは言えないか(笑)

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの猫宮にゃおんさんに感謝!

 やはりあの『女でのキス』が響いているのかもしれない。いくら相手が七瀬といえど、意識は女だったのだ。
 しかもその後。思わず流されてしてしまった少女のような振る舞い。
 それが自己嫌悪となり、ため息をつかせる。

 バスタオルを肩に引っ掛けた状態で脱衣所へ。
 蟹股で乱暴に髪の毛をバスタオルでごしごしと拭く丸顔の美少女。
 それから下へと拭く範囲が移って行く。
 元が男の上に一人きりの脱衣所では乱雑なのも仕方ないか。

 わざわざ女になったくらいだから下着も替える。
 ショーツを腰まで引き上げてブラジャーを手にして何度目かのため息を。
 みずきは実はブラジャーが一番嫌いだった。
 ショーツは男性用下着にも似たようなものがないこともない。
 スカートは女を象徴する衣類だが、男が着用できないわけではない。
 しかしブラジャー。これはダメだった。
 女装趣味の男でも胸には何かつめることになる。
 ところが「女の体」のみずきの胸はしっかりとフィットしてしまう。そのたびに自分が女の肉体と痛烈に思い知らされる。
 肩に食い込むストラップと、胸を押さえつける部分も自分の性別を強調する。

 しかし…慣れとは恐ろしいものでつけ方をマスターしただけでなく、今ではちゃんと背中の部分をぐんと下に引き下げるようになっていた。
 胸を持ち上げ、美しく見せるため。そういう理由は知らないまでも女の習慣が身についていた。
 長いこと女の中で暮らしたせいなのは明白だった。

 ブラウスにジャンバースカート。そこまでつけて脱衣所を出たらネグリジェ姿の薫が待っていた。
「おっそーい。お姉ちゃん」
 言葉だと単純だが、トゲを感じ取ったみずきは勢い皮肉な口調になる。
「悪かったな…何かと着替えに時間がかかるのよ。女はね」
 わざと女言葉を使うみずき。
 それが薫にはカチンと来た。心は女でも、肉体は男。それをあてつけた言葉に。
 もっとも薫がみずきを「お姉ちゃん」と呼ぶのは、自分が渇望する女の体を得ておきながら不満を並べる彼女への当てこすりだった。
 こちらは一時的でも体が女で心は男なのだ。
「何よ。お姉ちゃんにはあたしの苦労なんてわからないんだ」
「わかりたくもないね。何でわざわざ女の体になろうとするんだ? できることなら替わってやりたいよ」
「ふーんだ。それよりも心を女にした方が手っ取り早いわよ」
「なんだと?」
 恒例の兄弟げんか。いや。姉妹げんか。
 最近ではみずきも女子高生たちと喋るだけに、口がだいぶ達者になってきた。
 精神的には女の薫と互角に張り合う。済んだ甲高い女声と、男の喉だがハスキーな女声に聞こえる声。
 もう少しエキサイトしたら取っ組み合いになりかねなかったが
「いい加減にしないか。馬鹿共」
 怒声とともにみずきは秀樹の拳骨を食らった。
「なにしやがる。このくそ親父」
「やかましい。バカ息子。男を自認するならもう少し大人になったらどうだ?」
 姉妹げんかから親子喧嘩へ。しかし秀樹は少女の姿のときでもみずきを男扱いしていることになる。

「あなたぁ。みずきちゃん。薫ちゃん。忍君。朝ごはんが出来ましたよー」

 脱力感を伴う瑞枝の声でやる気をなくした一同は食卓へと。
 もしかしたら瑞枝はある意味、空気を読みきっているのかもしれない

 朝食が終わりいよいよ登校準備。襟足の髪の毛をまとめにかかる。これは瑞枝が手伝う…と、言うよりも進んでやっていた。
 娘が欲しくて仕方なかった瑞枝。
 薫の髪は女性用シャンプーを使い続けたこともあってかしなやかだったものの、やはり本物の女の髪にはかなわない。
 嬉しそうにみずきの髪をブラッシングしていた。後頭部から「背中」にかけて。
「なぁ…お袋。そろそろ髪の毛を切ってくれよ」
 巧みにごまかしていたが実は秋になってから髪にはさみは入ってない。
「もう暑くないからいいでしょ」と言う理由だった。
 半分は女子として過ごしているせいか、髪の毛の伸びが早い。今は背中まで届いていた。
「どうして?」
 さも不思議そうに瑞枝は尋ねる。
「なんだかさ…ますます女っぽいじゃん。髪が長いと」
「うん。可愛いわよ」
 満足そうににっこりと微笑む。
「あの…オレ、男」
 もう怒鳴るのも飽きてきた。
「物は考えようよ。みずきちゃん。人生五十年…今は八十年かしら。あなたはまだ16歳。ここで女の子になっちゃっても残りの人生の方が長いわよ。男の子だったことも思い出になるわ。
どうかしら? このまま本当に女の子にならない?」
「ならない」
 にべもなく即答。しかしめげるような瑞枝ではない。
「でもねぇ…私、時々思うの。みずきちゃんは間違って男の子に生まれてきたんじゃないかって
「はぁ?」
 母の突拍子もない発言には生まれたときからの付き合いのみずきだが、これには思わず声が出た。
「なんだってそんなこと思うわけ?」
「だってね。みずきちゃんって顔小さいし、まつげ長いし。体小さいし。髪の毛さらさらだし、こんなに可愛いんですもの」
 今の少女の髪で言っているのではなく、瑞樹は髪が細いのか男でもさらさらとした髪だった。
「きっとおっちょこちょいだから間違って男の子になって生まれてきたのよ。
それを神様がやり直しさせてくれようとしていると思うの。後はもうちょっと女の子らしくすれば。
この髪の毛はそういう願いもあるのよ」
「もういい。遅刻しちまう」
 「相手になってられるか」とばかしにぶっきらぼうに言うと、みずきはかばんを持って玄関へと出向いた。
 おかげでこの日は髪を短く短く見せそこなった。
 クラスメートはいきなり、背中までの長さになったみずきの髪を見る事になる。

「あはは。叔母様らしいわ」
 笑っているのはもちろん七瀬。登校のため駅に向かっている。傍目には仲のいい女の子の友達同士。
「笑い事じゃないぜ。ただでさえ女の生活してるのに。その気になったらどうすんだよ」
「なるの?」
「んなわけねーだろ」
「そうよね…ん?」
 笑っていた七瀬の目が光る。
「ちょっとみずき!? あんた本当にネクタイ結ぶの下手ね。こっち向きなさい。直してあげるから」
 またもや曲がっていたのだ。やったのはみずき本人。
「あ…ああ」
 向き直らせると手際よくネクタイを結びなおす。
「これでよし…と」
「あ…ありがと」
 照れはあるが例はきちんと言うみずき。
「もう。女の私がどうしてこんなにネクタイを結ぶのに慣れるのよ」
「オレのせいじゃねーや。大体、いきなりこんなものをつけるように校則が改まる方がおかしいぜ。めんどくさい」
「だったらこれにしたら?」
 七瀬は自分がつけている学生リボンを示す。
 女子はネクタイ。紐リボン。学生リボンのいずれかの着用を決められたが、どれかをつけていればいい。
 その日の気分で変えても別にいいのだ。姫子は紐リボンがたいそう気に入ったが、七瀬は気分で付け替えていた。
「これいいわよ。ワンタッチだし。可愛いし」
「『可愛い』のがいやなんだ。つけなきゃいけないなら一番女らしくないこれだ」
「ガンコね」
 こんな主張をしていたみずきがまさか…

 文化祭で七瀬への想いが再燃した坂本は、告白のチャンスを探していた。
 だがいつも一緒の二人。これが邪魔だった。
 入来はまだしも千鶴が厄介だった。
 ところがこの日。千鶴は風邪で。入来は前日にあった襲撃の際に一撃でやられて、両者ともに休みだった。
(チャンスだ。今日こそこの思いを)
 邪魔者がいないこの日、千載一遇の好機とばかしに静かに闘志を燃やしていた。

 曇り空だった。ショートホームルーム前の教室の窓から、空を見上げて表情も曇らせたみずき。
「ひと雨…来そうだな」
「そうですわね。傘を持ってまいりましたわ」
「拙者も雨具を」
 姫子のは蛇の目傘。和服の方がよかったかもしれない。
 十郎太は藁で出来た合羽と編み笠。
「ボクもー。みてみて。可愛いでしょ」
 真っ赤なのはともかく『フリル』が。綾那らしい。
「僕も用意してある」
 折り畳み傘の柄の部分を両側に引っ張り斜め下に振り下ろす上条。まるで剣を抜くようにだ。
「普通にやれ。普通に」
 榊原にいたってはしっかりした傘である。
「あ…カズがそんな傘を持ってきたと言うことは…」
「校門が土砂降りの映像が見えた」
 やっぱり降るのか。彼の能力を知る面々は雨を確信した。
「みずきは?」
「オレもあるよ。折りたたみ。お前こそどうなんだ」
「私もあるわ。でも今日は家庭科部があるから、終わるころにやんでたりしてね」
 担任である中尾が入ってきてこの会話はここで終わる。

 二年二組。坂本のいる教室。彼は何気なしに一人の女生徒の持ち物を見てしまっていた。
 彼女の名は幸坂真由。家庭科部の部長だ。それを知っていた。
 真由はエプロンを取り出して友人の女子に見せていた。
(今日は僕らに技術科がない…だから女子も家庭科はない…すると家庭科部があるのか…と、言うことは及川君は遅くまで…)
 邪魔な千鶴や入来はいない。
 残るは七瀬サイドの友人たちだったが、この様子なら彼らも先に帰るであろう。
 特に部活無所属の赤星みずきは。いつもべったりな二人。千鶴以上に引き離しが困難な相手。
 だがそれもこの状況では先に帰りそうだ。ましてやこの天候。振り出す前にと引き上げる可能性は強かった。
(やはり…今日しかない…)
 追い風を感じた坂本は決意を燃え上がらせていた。

 そして放課後。降り出した雨も手伝いみんな早々に引き上げていた。
 当たり前だが野球部やサッカー部も練習中止。体育館は室内競技の面々が使っているため使えないので、こちらも引き上げを選んだ。
 みずきも七瀬と別れると帰宅しようとした。だが
「あ。ちょうどよかった。赤星さん」
「根古田先輩」
 演劇部部長。根古田千代子だ。
 あのキス騒動で七瀬は治療を忘れていたが、代休があけてから治療した。
 いきなり治って不思議がったが、元々、診察も軽度の捻挫だったので納得していた。
「あの時の舞台のビデオが出来たのよ。これから視聴覚室で見るのよ。あなたもどう?」
「い?」
 みずきは一気に顔が赤くなった。それってキスの現場じゃないか!? それも女としての。
「い…いいです。帰ります」
 そんな恥ずかしいものが見られるか。そういう思いだった。
「そんなこといわないで。立役者のヒロインがいないでどうするの? それにほら。雨。土砂降りよ」
「う…」
 確かに凄まじい雨だった。いくら傘があっても濡れずに駅までたどり着けるとは思えなかった。
 既に氷雨と呼べる。風邪を引きかねない。
(仕方ない…やまないまでも雨足が弱くなるかもだし、それに時間が合えば七瀬と一緒に帰るのもいいな)
「判りました。先輩。ご一緒します」
 舞台のビデオを鑑賞すべく部長に同行した。

 そして二時間が経つ。家庭科部では新しいメニューに取り掛かっていた。
「うん。さすがは及川さんね。美味しく出来ているわ」
 ロングヘアの家庭科部部長。幸坂真由はおっとりとした口調で言う。
「えー。そんなことないです」
 照れる七瀬。その割には笑顔が溢れんばかり。褒められると弱いと言う可愛い一面がある。
「今日の調理は大成功ね。じゃ、後片付けして帰りましょうか」
「はーい」

 そのころ。図書室で時間を潰していた坂本は、時間を確認してから家庭科室へと向かった。

 視聴覚室。みずきは顔から火が出る思いだった。
 キスの場面ばかり頭にあったが、自分の演技。それも「女装」してのそれ。
(なんだよ…これ…下手は仕方ないが…変だなぁ)
「うん。赤星さん。女っぽい」
「え!?」
 一番いわれたくない「褒め言葉」。
「指先の演技がちゃんと出来てるわ。視線も。やっぱり化粧で女は変わるのね」
「は…はは」
 乾いた笑いしか出てこない。そこに別の部員が
「それとも相手役が部長から『愛しい及川さん』になったから?」
「なーッ!?」
 部員が揶揄するからたまらない。ますます赤くなる。
「はいはい。からかうのはよしましょう。じゃみんなこれから反省会」
「あの…あたしもですか?」
 既に七ヶ月も女子高生しているだけに、仲間内以外相手には「あたし」と言う自己代名詞がすんなり出てくるようになったみずきである。
「あっ。そうね。赤星さんは演劇部員じゃないからいいわ。改めてお礼を言うわ」
「いえいえ」
 任務の内容は不本意でも、ピンチに頼られて大任を果たした。男としては気分が悪くなかった。
「またお願いね」
「いやいや」
 たまらなくなりみずきは、そそくさと視聴覚室を後にする。

「及川君」
 後片付けを済ませて、施錠してかぎを職員室に返しに行こうとした七瀬を呼び止める声。
「坂本先輩?」
 いつもの柔らかい雰囲気ではない。それを不思議に思う七瀬だが、いつも以上に真摯な表情の坂本に気圧される。
「…話が…あるんだ。二人だけになりたい」
(話って…「男は狼」と言うけど坂本先輩に限って…もし変な雰囲気になったらほっぺた叩いて蹴っ飛ばせばいいかな。ダンシングクィーンもいるし)
 言い方は可愛らしいが「スタッカート」や「アレグロ」を食らったらたまったものではない。
「(学校だし)はい。じゃあ…」
 二人きりになれる場所に思い当たらず、とりあえず鍵を閉めたばかりの家庭科室を再びあけて入った。

「さーてと。七瀬も今頃かな。雨も弱くなったし。誘って帰ろうかな」
 みずきはのんきな口調で言うと、家庭科室へ向かって歩き始めた。

 そして家庭科室。帰ろうとした七瀬を呼び止めた坂本。二人だけでここにいる。
「お話ってなんですか? 坂本先輩」
 だが坂本は黙っている。
 学園の貴公子が…顔を赤らめている。手が震えて止まらない。足もだ。
(しっかりしろ。坂本俊彦。お前はこの子が好きなんだろう。ちゃんと気持ちを伝えたらどうだ?)
 自分で自分を叱り飛ばす羽目になるとは…それが彼に自嘲気味の笑みを浮かべさせて、気持ちの余裕を取り戻させた。
「及川君…これから言うことをよく聴いてほしい」
「は…はい」
 あまりの真剣さに思わず七瀬も緊張する。震える声で坂本は思いを告げる。

「僕は…君のことが好きなんだ」

「えっ?」
 聞こえなかったわけではない。一瞬、理解できなかったのだ。

「視聴覚室からだと遠いなぁ。家庭科室は。ついたけど。さて、いるかな? 七瀬」
 何も考えずにドアに近寄る。そのとき、中から声が。
「うそでしょう…先輩はみずきのことが」
「違うんだ。彼女には申し訳ないことをした。全ては君に近づくため」
(何いっ?)
 自分に好意を持っていて、いつかはこの変身体質を治してくれるかもしれない坂本。
 そして生まれたときからそばにいて、まるで肉親のような七瀬。
 その二人が…何を喋っている?

 家庭科室。みずきを利用していたと言う言葉に怒りのわく七瀬。
「先輩。ひどいんじゃないんですか?」
 女の子…と、言うとみずきは嫌がるだろうけど、それでも坂本はみずきを利用していたのには違いない。だが
(あれ? そういえばみずきも、自分の体質を治してもらうためにお近づきになったって言ってたっけ? そうなるとどっちもどっち…私が怒る道理じゃないかしら?)
 途端に怒りも霧散する。
 微妙に顔つきが優しくなったのか。ここぞとばかしに坂本が言葉をつむぐ。
「すまない。友達の赤星君を利用したことは誠心誠意謝る。だが、例えどれほど汚れても君が欲しかった。君が好きなんだ
(そ…そんなこといわれても…)
 貴公子と呼ばれるほど上品なたたずまいの彼が、こうまで情熱的に迫る。
 好意が本物とは理解できても、だからといって「はい。そうですか」と受け入れるわけには行かない。
 思わず視線を下にそらす。それがみずきには七瀬が告白を受け入れる頷きにも見えた。

 いま目前で坂本が七瀬に愛の告白。みずきは全身の力が抜けて行くのを感じた。思わずカバンをその場に落とす。
 よろける彼女は反射的にドアにつかまる。そして家庭科室のドアが大きく開かれた。
「みずきっ!?」
「あ…赤星君?」
 突然の乱入者に驚く二人。それを見上げるみずき。
「は…はははは…」
 力なく笑うみずき。その目に涙が浮かぶ。
「みずき…違うの! これはちがうの」
 思わず弁解する七瀬。
「赤星君。話を聞いてくれ」
 坂本が哀願する。だが溢れる涙が止まらない。
「くっ」
 涙を腕で押さえながら彼女は脱兎の如く走り去る。
「待って! みずき」
 呼び止める声がただ遠く、追いかけるが七瀬の足で追いつけるはずもなく、みずきは雨の中を走って逃げ出した。

 熱い涙を冷たい雨が流して行く。

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