第33話「無敵のオタク魂〜リングにかけろ〜」Part3   Part2へ戻る

 そして現在。リングの上の上条。赤コーナーにいる。傍らには綾那。
 対する御崎は青コーナー。傍らには帝王学園ボクシング部員たち。
 いくら敵に対してと言えど鋭すぎる目つきで無限塾陣営を見ていた。
(女の子がセコンドだとぉ?)
(リングでいちゃいちゃしやがって…)
(御崎。かまわないから叩きのめしてやれ!)
 彼らは憎悪に近いものを上条に対して感じていた。
 ジェラスファイヤーが燃え上がっていた。

 上条の態度が「いちゃいちゃ」でないにせよ、以前よりは格段に綾那に対して接し方が優しくなった。
 せっかく入学した女子校から僅か一ヶ月で上条を追って無限塾へ。
(制服はもったいないのとお気に入りで未だに前のセーラー服だが)
 その後もそっけない態度の上条に対してアプローチを続け、ついには不意打ちとはいえどキスまで。
 上条が彼女を憎からず思っていても不思議はない。
 だからそれが相手側には「いちゃいちゃ」に見えたようだ。
「ふっ。先輩方。言われなくても叩きのめしてやりますよ。それも二分三ラウンドなどといわずにね」
 芝居がかって御崎は言う。

 そして試合前に御崎はマイクを要求して、それが与えられた。場内に爆弾を落とす。
「この試合に限り世界タイトルマッチ同様。3分15ラウンドで行う!!」
 おおおーっと沸きあがる体育館。そして拍手で受け入れられる。
 無限塾の体育館だが半分は相手側応援団。それがまったく両者ともに異論がない。
「お前にも異論はないな? 上条。判定などでなくKOで決着をつけてやる」
 注目が上条に集まる。インタビューのようにレフェリーからマイクを差し向けられると、上条も芝居がかって言う。
「こうして発表した以上、もはや逃げ場はないな。受けて立とう
 盛り上がる観客席。否。
「何を考えている? お前たち」
 中尾勝がクールに水をさす。
「ただでさえ危険なボクシングの試合。それを世界タイトルマッチ並みの15ラウンドで戦うだと? 万が一のことがあったらどうするんだ?
(万が一ここで『試合中の事故死』なんていうわかりやすい死に方をしたら、落胆は僅かで上条繁が気持ちを切り替えてしまう。
 そのくせ校内をかぎまわるだろうから、私にとってやりにくいことこの上ない。死ぬなら別のところで死ね)」
 今度はブーイングだ。
 無限塾では嫌われ者だが、帝王サイドからもブーイングだから一目ぼれの逆のようだ。
 (ちなみに本来の中尾勝は、明るい性格の上に生徒思いで慕われていた。つまり斑が一人でそこまで堕としたのだ)
「責任はわしが取る。好きにさせろ」
 塾長の言葉に湧き上がる場内。
「くっ」
 あっさり斑も引き下がった。どうせ
「わしが無限塾塾長。大河原源太郎である」
と、一喝されるのが落ちなので抵抗は無駄と思ったのだ。
 しかし
「わかりました。ですが危険性を見つけたら生徒の安全の手前、試合を中断させていただきます」
 そういうと彼は科学部にスーパーブローを持つ者同士の試合が、いかに危険かを計算するように命じた。
 榊原がいると小細工しそうだったので彼を外した上で。

「無茶だよ。お兄ちゃん」
 陽一少年も止めに掛かる。
 上条はリングの上で不器用にウィンクをして見せた。

 帝王学園サイドとしては既に連敗。
 この中堅戦を落とせば敗北確定。御崎の責任。そしてプレッシャーは大きかった。

 だからと言って上条が気楽だったワケではない。
 試合そのものは負けても副将。大将が控えている。
 だがここで負けることは陽一少年にリハビリをさせられないことを意味する。
 上条は彼とみずきをダブらせていた。
 失恋を恐れて同性になることを選んでしまったみずきを。
 何とかして元に戻してやりたいと思う。
 そのきっかけもある。
 もしかしたら上条の方がプレッシャーを感じていたかもしれない。

 高い金属音でゴングが打ち鳴らされ、第一ラウンド開始を告げる。
 きゅっきゅっとリングシューズが滑る音が場内に響く。
 まずはオーソドックスに円を描くように回りながら拳を向けている。
 先手は御崎。左ジャブ二発で牽制。右フックが上条の頬を捕らえた。
 ヘッドギアをしているので直接のダメージは少ない。
 しかしぐらっと来て視線をずらされた。つまり隙が出来た。
 いきなり怒とうのボディブロー連打。動きが止まる。狙いやすくなったところに
「ジェットストレート」
 恐らくはジェットストリームをもじったであろう高速ストレートが上条の顔面を捉える。
「があっ」
 膝を折り崩れ落ちる上条。
「ふっ」
 勝利は確定したといわんばかりの御崎が、レフェリーの言葉を受けてニュートラルコーナーへ。
 それを確認してからカウントが始まる。
(くっ…見えなかった。想像以上にアイツのコンビネーションが上手いのもあるが…)
「ファイブッ。シックスッ」
 立ってはいるがファイティングポーズがまだだ。上条が天井を見上げてつぶやく。

「空が…青いぜ」

「セブンッ。エーイト」
 無情に続くカウント。
「え…ええっ?『炎の転校生』じゃこのセリフでカウントが止まったのに、何でそんなにクールなんだ?」
 緊迫感がいきなりなくなる上条のセリフに、観客席からため息が。空気が重い。
 上条はさすがに慌てて両方の拳でファイティングポーズを取り試合続行の意思を見せる。
「ファイトッ」
 レフェリーの声と同時に再び激突する両者。
「いい根性だと褒めてはやる。だが貴様はサンドバッグ。ただ打たれる為にだけ立ち上がったのだ」
 いうなりフックが上条の頬を捉える。
(また反応が…やはり…)
 大きな隙が出来た瞬間に再び御崎の猛攻。
「スピードラッシュ」
 無数のジャブを叩き込む技だ。なす術もなく打たれている上条。

 無限塾サイドの応援席。選手の仲間内と言うことでリングサイドにいるみずきたち。
 陽一もそこにいる。車椅子と言う関係でスペースが必要なのもあったのではある。
「見てられないわ。喧嘩ならともかく、正式なルールのある格闘技でやってきた人相手には無理だったのよ」
 長い髪をかきあげてめがねを直しながらみずきが言う。冷め切った言い草だった。
「そうね…どうしようもなかったのかも」
 いきなり敗色濃厚で沈んだ口調の七瀬。
 もしかするとみずきの過剰な女っぽさに、諦めの境地に達したのかもしれない。
「やっぱり…苦しい思いをしたってダメなものはダメなんだね」
 どこかで期待していたのか。それが打ち砕かれて陽一も暗い言い方で。
 言葉もない一同。今はただリングに賭けた上条を信じるしかない。

 ここでゴング。それぞれのコーナーに下がる。激しい打ち合いで息が荒い上条。
 ボディにしたたかに打ち込まれたのも効いている。
「大丈夫? 上条君」
 心配そうに覗き込む綾那。部員たちが上条にうがいをさせる。それが済んだら彼は綾那に頼みごとを。
「若葉。ヘッドギアを外してくれ」
「?…うん。わかった」
 防具を外すことに疑問は感じるが、言われるままにヘッドギアを外す。
「お、おい。上条」
 無限塾のボクシング部部長が慌てる。だがそれは無視して素顔でファイトに。

「君。ヘッドギアをつけたまえ」
 レフェリーも注意せざるをえない。
 そもそもこんな高校生の試合で15ラウンドと言うのがむちゃくちゃである。
 さらにプロにあやかったのかヘッドギアまで外すとは…
 ラウンドのほうは早めに決着がつけば同じので認めたが、ヘッドギアは安全上の問題でそうは行かない。
「この方がいいんです。お願いします」
 どうやら作戦上と理解したが困惑する。しかし責任者である塾長が頷いて半ばやけくそで認めた。
 しかし収まらないのが御崎である。
 ちょうど第二ラウンドのゴングが鳴る。
ふざけるな。そんなに食らいたければお望みどおりたっぷり顔面に食らわせてやる
 一瞬だが気の高まりを見せた。
(来る!)
 ざうっ。鋭い踏み込み。スピードラッシュではないとわかる。
「ナックルハリケーン」
 どうやらスピードラッシュの強化版らしい。同じようにフックが上条の頬をめがけるが、これをブロッキング成功。隙を作り損ねたことで大技不発。
「なにぃ? そんなバカな?」
「ひゅーっ、これこれ。この『皮膚感覚』。なまじ防具をしていたから勘が鈍ったんだな。まともに食らわなければ何とかなる」
 普段の闘いではこんな防具はつけない。それで調子が狂ったのだ。
「お返しだ」
 言うなり今度は上条の拳が連打される。
「オーラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーっっっっ」
 正式には「百龍拳」と呼ぶ上条の連打技だ。
「ぐあっ。げほっ。かぎゃっ」
 初めて劣勢に立ち打ちのめされる御崎。
「おらあっ」
 仕上げとばかりにストレート。激しく後退を余儀なくされる御崎。
「まだまだ」
 調子付いて突っ込んで行く上条。しかし繰り出したパンチがすりむけた。
「なにぃ? これはまさか、あの伝説の…」
 激しく狼狽する上条。その後ろから御崎の声が。
「神技的(しんぎてき)ディフェンスだ」
 それだけ言うと彼は両腕をだらりと下げた。ガードをやめた。何のために?
「さぁ。もうおしまいか?」
 明らかな挑発だったが「逃げない」ことをテーマに挑んだ試合ゆえ
「罠があるなら打ち破るまで」と突っ込んで行く。
 勢いのついたストレートが炸裂。しかしもっとも無防備な瞬間に御崎のパンチが上条の顔面を捉えた。
「クロスカウンター!?」
「まさに捨て身の作戦でござる」
 そういっている間にもんどりうって倒れる上条。
「ふっ」
 鼻で笑って御崎も倒れた。精一杯のトラップだったが、ここで気力が尽きた。
 しかし両者ともにカウント前に入ったゴングに救われた。

「おにいちゃん。もうやめようよ。そんなに苦しいのに勝ちたいの?」
 変声期前ゆえにまるで少女のような甲高い声で、リングの上条に向けて陽一が叫ぶ。
 どうやら見ている方が辛くなって来たらしい。
「ああ。勝ちたいね。苦しさの向こうにこそ勝利はある。そう思うとこの苦痛も案外悪くない。勝利に近づいている証拠だよ」
 コーナーに置いた椅子に椅子に座っていたが、立ち上がって陽一に向かって大声で答える上条。
「どうして? どうしてそんなにまであの人を倒したいの? 憎いの?」
 泣き声に近い叫び声。彼の中で何かが動いている。
「勝ちたいのはあいつじゃない。まして憎くなんかない。
 勝ちたい相手はいつも鏡の向こうにいるのさ。
 やめてしまえば楽になれる。そんな弱きに勝てた奴が、相手も倒せるのさ」

 強烈な説得だった。
 何しろ無数の拳を浴びながらの言葉だ。説得力がある。
「陽一君。物事には逃げていい場面と、いけない場面がある。それを間違いなく選べるのが、いくさ人ってものさ」
 最後はちょっとオタクな部分が顔を見せたがこの説得。陽一の心を動かした。
「わかんないよ…なんでだよ…」
 半分泣きかけている。
「まったくだわ。馬鹿げているわよ…」
 上条の言葉。本気の言葉はみずきにも届いた。弱々しく否定する。
 彼女もまた、逃げてはいけない場面で逃げてしまったのだから…

 第3ラウンドは御崎もヘッドギアをはずしてきた。
「これは真剣勝負の証だ。ボクシングの素人の貴様がしてないヘッドギアを私が出来るものか」
「そういうの好きだな。だが、勝負は別」
 上条は猛然と突っ込む。当然だが迎撃のパンチがあるが、なんとそれをジャンプでかわして一気に御崎の懐に飛び込む。
「飛龍撃」
 だが体を僅かにそらす…スゥエーでかわされた。無防備で宙へ。
「アッパーカットはこう打つんだ」
 落下して来る上条目掛けて拳が。しかもコークスクリュー…捻りがはいってよりいっそうボディに食い込む。
 落下中では受け流しようがない。
「トルネードアッパー」
 文字通り竜巻のように吹っ飛ぶ上条。高々と舞い上がる。背中を向けてコーナーへ下がる御崎。
 芝居じみてセリフを「歌う」ように。
「終わったな。その高さから落ちてみろ。いかに貴様とてそのショックで立てまい」
 だがそれは並の相手。驚いたことに上条はリングに向けて
「うおおおおおっ。龍気炎」
 そう。気の塊を放ったのだ。
 その「爆風」で落下速度を緩め無事着地。
 確かに相手に向ければ反則でも、既に御崎が下がっていたためそうはいえない。
 結局は着地の手段とみなされ反則は取られない。
「ちぃぃぃっ。味なまねをっ」
 歯噛みする御崎。だが上条のボディにはしっかりとダメージはある。
「ファイトッ」
 レフェリーが試合再開を促す。

 科学部。部活用のコンピューターで計算をしている。
 とは言えど上条はまだしも御崎については謎でしかない。
 物理教師に言われたから仕方なくやっているがほとほと困っていた。
 とりあえずシミュレートしたのは二人の実力が同程度としてだ。そして三度目の計算結果が出た。
「やはり…」
 何度やり直しても同じ結果。
「まずい。試合を止めるぞ」
 白衣の生徒達は慌てて体育館へと走る。

 結局3ラウンド目も決着つかず。しかし相変わらず戦況不利なままである。
 インターバルに科学部が飛び込んできた。
「すぐに試合を中断しろ。今すぐに」

「なんだと。男の勝負に水をさす気か?」
 リング上から食って掛かる御崎。
「僕も引き下がるわけには行かない」
 上条もやめるつもりはない。だが科学部も引かない。
「やめるんだ。シミュレーションの結果。御崎君にも上条君と同様の超必殺技があるとしたら」
「真・飛龍撃と?」
「その説明は間違いだな。同程度ではない。きっと上回っている。ストリートファイトでなくボクシングならなおさらだ」
 つまり持っていることを示している。
「それを打ち合うとしたら…4ラウンド2分51秒。君たちは消滅する」

「4ラウンド…」
「2分51秒…」
 水を打ったように静まり返る場内。
「ようし…やるぞ。上条」
 なんとやる気マンマンの御崎。
「おう。行くぞ。御崎」
 こっちものりのりの上条。
「なんでそんなに乗り乗りなのよっ?」
 みずきが突っ込むほど戦闘意欲の高い二人。
「無駄だ。何か知らないがあの様子じゃオタクとしてのスイッチが入ったように見える。
 恐らく何かの漫画かアニメと同じシチュエーションなのだろう」
 冷静な榊原の分析。

 そして鳴らされてしまったゴング。いくらなんでも「消滅」なんて言葉は信じられなかったのだ。

(ふっ。まぁいい。これだけの証人がいるのだ。代わりに殺し合いをしてくれるなら好都合と考えよう。
 『現場検証』にきたら息子を失いしょげ返っている奴の表情を見て溜飲を下げるとするか)
 無表情で黒いことを考えている中尾。
 リング上では闘志溢れるファイトが続いていた。

 そして問題の2分51秒が近づいてきた。上条も御崎も神気が高まっていた。
星よ。砕け散れ! ギャラクシーデストラクション
舞え。龍よーっ! 真・飛龍撃
 御崎の究極技はストレートパンチ。ただし腕全体を気の流れがドリルのようにまとわりついている。
 いわば気を使ったコークスクリュー。
 一方上条の真・飛龍撃は本当の威力を解放した飛龍撃。
 こちらも気によって上昇。そして破壊する。

 互いに「気」を使った技。
 直接接触せずとも纏った気が相手を圧倒する。
 砲弾のように打ち出された気が上条のボディを貫く。
 噴火のように吹き上がる気が御崎の胸板を吹っ飛ばす。
「うわあああああっ」
 閃光が走り、両者ともに吹っ飛んで行く。
 嵐が収まり観戦者がリング上を見るとレフェリーだけが残っている。
 上条も御崎もいない。
「上条君…上条君。どこーっっっ?」
 綾那の悲痛な声が木霊する。
「お兄ちゃん…」
 陽一も安否を気遣い言葉を発する。

 本当に二人は消滅してしまったのか?

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