第34話「Merry Xmas」Part3   Part2へ戻る

 イベントの順番として「鹿鳴館」を気取ったかのようなダンスタイムが予定されていた。
 フルオーケストラの奏でるワルツに乗ってダンスを踊るのである。
 みずきは坂本にエスコートを頼むつもりでいた。しかしその矢先。
「赤星みずき様ですね? お電話が入っております」
 正装の係員がみずきに近寄り用件を伝える。
「電話? ウチからかしら?」
「いえ。国際電話です」
「国際電話?」
 心当たりがなかったが、いわれるままに電話のあるところまで案内される。
 携帯電話はその場では他者の迷惑。そしてプライベートの会話の露呈がありえたので固定電話である。

 見送る一同。怪訝な表情の七瀬に対し、何か含むもののある榊原達の表情である。

「入来先輩。ボクシングのときはお疲れ様でした」
 上条と綾那が入来を探し当てて出向いてきた。彼のそばには千鶴と坂本。千鶴は何か期待している。
「おう。らぶらぶカップルの登場だな」
 リング上でキスまでしてのけたのでは揶揄したくもなる。頬を染める綾那。上条はマイペースで話を続ける。
「はは。ぜひ先輩のあの時の話を伺いたいのですが。僕も精神戦の重要性を認識しましたから」
 いわれてお調子者の入来は相好を崩す。
「おう。そうか。あの時はよー」
 得意になって話しはじめたが、千鶴から妙なオーラを感じ取ったので
「あー。そうだな……場所を変えるか! パーティーでボクシングの話も野暮ってもんだが、オレの武勇伝を聞きたいと言う可愛い後輩の願いをムゲに断るのも何だしよ」三人は場所を変える。
 その後ろで千鶴は右手の親指をつき立てていた。サムズアップと言う奴だ。

(よし)
 双子のように坂本そっくりに変装した九郎。
 作戦通りに入来が離れた。それを確認して入来の声色で叫ぶ。
「おい。坂本」

 行ったばかりの親友の呼びかけを聞いた坂本。
「あれ? なんだろ。入来の奴。忘れ物かな? 橘くん。すぐ戻るからちょっと待ってて」
「ア、ちょっと。坂本君」
 だが行ってしまう坂本。一人取り残される千鶴。
「もう…なんなのよ。せっかくあの子達が邪魔な馬鹿を連れてって、二人きりにさせてくれたのに」」
 だが待つこと五分。『坂本』が戻ってきた。
「なんだったの?」
「大したことじゃなかったよ。さぁ。橘くん。ダンスタイムだ。踊ろうか」
「えっ? そ…そうね。それじゃ…お相手をお願いするわね」
 恥じらい頬を染めていながら手を差し出す。
 そして二人は隅のほうへと。偲ぶように移動する。

「おかしいな。確かに入来に呼ばれたのに…」
 気がする? なんてものじゃなくはっきりと声がしていた。
 だが実際いないので仕方なく戻ってきた。ところが今度は千鶴がいない。
「まったく…二人して」
 仕方なくうろついていたら、これまた一人になっていた七瀬と遭遇。
(チャンスだ!)
 この瞬間に入来や千鶴のことは坂本の頭から消えていた。

「もう。みんなどこに行っちゃったのよ?
 みずきは電話だし、上条君と綾那ちゃんは(入来)先輩のところだけど、ちょっと目を放した隙に姫ちゃんたちまでいなくなっちゃうなんて」
 ほんのちょっとみんなと離れて戻ってきたら誰もいない。途方にくれていた七瀬。そこに
「及川君」
「あっ。坂本先輩」
 坂本としては天の恵みとばかしにこの機を逃さずにいた。なんとなく気まずい七瀬。
「君も一人? なら一緒に踊らないか? そのうちにはぐれたみんなと合えるだろう」
 すっとはっきりしない態度で迷惑をかけてきた…そう思っている相手からのダンスの誘い。これまで断るのはどうかな…そう思っていた。
 一人でいても仕方ない。はぐれたのなら向こうが見つけてくれるかもしれない。七瀬はそう思った。
「そうですね。私でよければ」
 もしかすると男に戻らぬみずきの相手で、疲れ果てたのかもしれない。
 自分でも意外なほどあっさりと誘いに乗ってしまった。

「上手く行きましたわね」
 その場から僅かに外れたところに四人はいた。
「ここまでは計画通り。後は…赤星次第」
 榊原が真顔でつぶやく。三人が頷く。そこに
「うまく行った?」
 上条たちが戻ってきた。
「早いな?」
 手はずとしては入来を引き離し、その入来の声色で坂本と千鶴を離して、坂本と七瀬に躍らせる。
 そのために入来を引き付けている筈で、もっと長くないといけないのだが…
「いや。先輩のパフォーマンスが外人客に受けちゃって…」
「ワンマンショーになってるの。それで戻ってきちゃった」
 言葉に詰まる一同。あのお調子者の先輩だ。ありえる…
「ま…まぁ、目的は引き離すことだからいいけどな」

 そしてみずき。パーティー会場の大広間をでる。
「こちらです」
 案内されて電話の場所へ。保留してある受話器をとる。
「もしもし?」
『Hallo』
 女の声。ちょっと心当たりがない。だが思い返してみたら見つかった。
「もしかして…グレッグ? グレッグ・ゴードンなの?」
『ハズレ。グロリア・ゴードンよ』
 笑みを含んだ柔らかい声。だが確かに憶えがある。

 それはかつて姫子が連れ去られたとき。
 主犯であるプリンスの配下としてみずきの行く手を阻んだラッキーセブンの一人。G。
 グレッグ・ゴードンことグロリア・ゴードンの声だったのだ。
 彼女もまた、自分が女であることに違和感を感じる存在だった。
 だがみずきとの戦闘に敗れ、女として生きる道を選んだ。今はカリフォルニアで母親と二人で暮らしているはずである。
「キャーッ。久しぶり。どうしたの? そっちは今何時なのよ?」
 旧友と再会した女友達。そんな感じだ。
『んーと。三時くらいかな? 朝のね。でも久しぶりにあなたとお話できるなら平気よ』
「グレ…グロリア。ありがとう」
『うふふ。どういたしまして』
 戦士・Gしか知らないとこの柔らかい口調・声はかなり戸惑う。
 「女にした」立場のみずきも面食らっていた。
「なんだか…随分と女らしくなったわね」
『あなたもね。みずき。ミス・ヒメコから聞いたとおりだわ』

(姫ちゃんの差し金か…)
 これで現地時間で深夜の三時に、わざわざ電話してきたわけがわかった。
『ミズキ。私は女に戻ったけど、あなたは無理に女になってどうするの?』
「…あなたと同じ。男でいることに疲れたの…」
『私は「本来の姿」に戻ったけど、あなたは違うはずよ。私と同じ過ちを犯すのはやめて』
 本来の自分を押し殺し、反対の性別で生き続ける。それがどれだけ苦難の道だったか、このかつての女戦士は痛いほど理解していた。
「残念だわ。久しぶりでこんなお話なんて」
 みずきは静かに受話器を置いた。

 フルオーストラの奏でるワルツに酔いしれる千鶴。いや。坂本とダンスをしているこの状況に酔いしれているのか。
「幸せだわ。こうしてあなたと一緒にいられるなんて…」
(む…いささか罪の意識を感じるな。なまじ戦でないだけに非情に徹しきれぬ)
 「坂本」は九郎の変装である。目的は千鶴を坂本から引き離すこと。

 その坂本は大本命の七瀬とダンスを踊れて、別な意味で舞っていた。
 一方の七瀬は沈んだ表情。露骨ではないが笑顔のぎこちなさが仮面の笑顔と物語る。
「こうして君と踊ることが出来るなんて…夢のようだよ」
「そんな…私なんて…」
 謙遜ではなく七瀬はいつも人より一段低く立つ。
 年頃の娘だけに悩みも多く、自分に自身をもてない点も多かった。
 何より今はみずきを「完全な女」にしてしまったことで気が晴れなかった。

 このダンスが一時の逃避としても、誰が彼女を責められようか?

 電話を終えたみずきは一同を…七瀬を探していた。そして見つけた。
「ああ。いたいた。探したわよ」
 今ではよどみなく使えるようになった女言葉。表情の作り方も女らしく。
 けれどそれは偽りの女。自分自身も騙している虚構の存在。
「あれ…七瀬は?」
 そこにいるのは上条。綾那。榊原。真理。十郎太。そして姫子。七瀬がいない。
「及川ならあそこだ」
 榊原の視線を追うと…そこには手を取り、二人でワルツを踊る七瀬と坂本がいた。

 その二人。坂本と七瀬。たどたどしい七瀬だが、坂本のリードでステップを踏む。
「謙遜することはない。君は最高の女性だよ。少なくとも、僕にとっては」
 彼にとって『七瀬が好き』と言うのは『自分が男』と言うくらい当たり前のことだった。
 だから過去のセリフにも迷いや照れはない。

 本気の思いは伝わる。だから振ることが出来なかった。
(こんな台詞、言ってくれる人なんていなかったなぁ…みずきなんて憎まれ口だけだし…)
 しかしああまで『女の子』になってしまったみずきを思うと、憎まれ口すら懐かしく思えてくる。

「どういうことよ? どうして七瀬が坂本先輩とダンスを踊っているのよ?」
 憤慨するみずき。どちらにやきもちを焼いているのか? 坂本? 七瀬?
「恋愛は個人の自由だと思うがな。及川と女同士の友情と言うなら祝すべきだろう」
 クールに榊原が言う。言葉に詰まるみずき。
「でも…どうして…あの二人が…」
「アンタには七瀬を責めることは出来ないだろ。女同士じゃ結ばれないんだし。
 それとも先輩にやきもち焼くほど女になっちゃったのかな?」
 まるで揶揄するような真理の口調。ガンズン・ローゼスは使ってないが心を見透かしたように言う。

「ありがとうございます。あの…ダンス上手なんですね」
 褒められたことは素直に礼を言うがなんとも照れくさい。話題を変えることした。
「うん。中学のときに運動会でやった程度だよ。でも、君とはリズムが合う。だからうまく行くんだ」
 どうしても七瀬がほしい。真剣な坂本の思い。それが言葉ににじみ出る。
「あの…私…」
 それに答えることは出来ない七瀬。みずきへの思いが断ち切れない。

(でも…みずきは今では女の子。もう私とみずきは…)

「お…女同士で恋人になっちゃいけないって言うの?」
 逆上気味のみずき。ペースを乱されたことに気がついてない。それを誘発する真理の口調だったが。
「お主が生まれたときからおなごならそれもよかろう。だがそれとて日陰の道。決して表に出られぬ。忍びの様にな。男と女であればそんな気苦労も要らぬが」
 影に生き、影に死す。影働きを生業とする忍びの言葉の迫力。
「みずきさんが女として生きて行く覚悟があるのは、ここまででよくわかりましたわ。
 でも。それに七瀬さんをお付き合いさせますのは感心いたしませんわ」
 いずれはこの北条グループのトップに立つ身。自分の決断が多くの人間の運命を変えかねない。
 そんな姫子の言葉には重みがあった。
「……」
 そして言葉を失うみずき。

 ワルツのリズムで華麗なステップをふむ二人。いや、坂本が七瀬を躍らせている形か。
「どうだろう。君のこれからの時間を僕にくれないか? こうして僕がリードしてあげるから」
「先輩…私…」
 俯き視線を落とす七瀬。正視出来ない。
「誰か…好きな人がいるの?」
 いる! 失ってわかった。瑞樹が好き。大好き。でも…
(瑞樹は…男の子の瑞樹は…もう…)
 そうだ。どこにもいない。名前は同じだが心身ともに女。男の瑞樹は死んだも同然だ。
「います…いえ。いました。でも…もう…」
 終わったとはいいたくなかった。まるで瑞樹を本当に死なせてしまうみたいで。
「『いた』のか。過去形だね。それでもいい。それも含めて僕は君が好きなんだ」
 ストレートな…そして間違えようのない求愛だった。

 そのころ。ニセの坂本と影で踊っていた千鶴。
 完璧な変装ゆえに騙されていた。だが、騙されすぎた。
 パーティーの雰囲気に流されたのもあるが、千鶴は本物と思い込み抱きつきに掛かる。
 とはいえどあからさまでは恥ずかしい。だからステップをわざと間違える。足がもつれて
「きゃあっ」
「おっと」
 坂本(九郎)がそれを慌てて抱きかかえて救う。
「ありがとう。坂本君」
「怪我はないですか。千鶴殿
「殿?」
 いっぺんで『酔いが醒めた』。腕の中からするりと抜け出し、間を取る。
「あなた誰? さては…姫子の手下の忍者ね!!」
「な…何のことだい。橘くん」
「ふざけないで!! 人を馬鹿にして。どこ? 本物の坂本君はどこ?」
「待たれよ。これには事情があって」
 その足元に「ツララ」が何本か矢のように刺さる。
 千鶴のマリオネット。「ケアレス・ウィスパー」の仕業なのは間違いない。
「ぬっ」
 バック転してかわすが、その間に千鶴は招待客の中に。
「やれやれ。しくじったか」
 変装をはがす。
「だが四半時(30分)は稼いだはず。後は十郎太たちの出来次第か」
 つぶやくと彼は会場から消え去る。

「先輩…」
 ストレートな求愛に頬を赤らめる七瀬。
「どうだろう? ずっと君にアプローチしてきた。そろそろはっきりした返事がほしい」
 坂本は基本的に善人である。それもあり、傷つけないように断るつもりで上手い返事が見つからない七瀬だった。
 もっとも最初の告白のときにみずきがトラブルを起こし今に至り、そして延び延びになっていた。
(疲れちゃったな…みずきが戻らないかと期待してたけど…もう体は完全に女の子だし…心も…もう私とは友達にはなれても…)
 改めて見上げると坂本の優しげな笑顔。
(優しそう…甘えちゃったら…ダメかしら? 私のことを好きでいてくれるみたいだし…)
 疲れ果てた七瀬は、寄りかかる相手を見つけたことになる。
 大海原を行く渡り鳥が、船のマストで翼を休めるように。
 七瀬も笑顔を返す。しかしそれはまるで涙のこぼれそうな仮面の笑顔だった。

「みーちゃん…もしも上条君が女の子になっちゃったら…ボクはとても悲しい。
 そりゃお友達になって、女の子じゃなきゃわからないことをわかってもらえたらいいけど…その代わり絶対に結ばれないもの」
 さり気なく大胆発言な綾那だが、その場の誰もそれどころじゃなかった。
「結ばれる…結ばれない…」
(あたしは女? 本当に女? 違うのかな? 体はそうかもしれないけど…心は七瀬を…)
「赤星。君が自分の『男』を封印すると言うことはだ、及川の『笑顔』も封印されることを意味するっ!!」
 上条がやや芝居がかった言い回しで、ダンスしている二人を指差す。
 七瀬の笑顔は泣いているかのようだった。

 そう。七瀬はみずきが変身体質になった責任を感じている。
 だから志望校を変えて無限塾に来たほどだ。
 そしてみずきが女のままだと、その思いはますます積み重なる。それこそ死ぬまで。
「女のままだと…七瀬が笑顔をなくしたまま…嫌だ…そんなの…そんなの嫌だ!
 それまでどこかぼやけていたみずきの瞳が、はっきりとした意志の強さを取り戻す。
オレ。ちょっといってくる」
 スカートだというのに大きなストライドで駆け出すみずき。「女らしさ」が消えうせた。
 その姿を見て安堵する一同。
「オレ? と、言うことは…」
 嬉しそうな真理の口調。
「ああ。結果はここで確かめさせてもらうがな」
 もうわかりきっている…そういいたげな榊原である。

 ステップは続けながらも、見つめあう坂本と七瀬。
「先輩。あの…私なんかで…」
 まさに気の迷いから出た言葉だ。だがそこに横槍が。そう。「待望の」横槍が入る。
「ちょっと待て!!」
「みずき!?」
 ここしばらく聴かなかった強い口調で待ったをかけると、いきなり飛び込んできたみずき。
 二人の手を振り解かせて、七瀬を自分の背中に隠すようにして坂本と対峙する。
「みずき? あなた…」
 今の強い口調に戸惑いから期待の表情になる七瀬。憮然とした表情は坂本。
「赤星君。じゃまをするとはどういうつもりだ?」
 坂本がいくら温厚でも怒って当然の場面。だが強い瞳のみずきは微塵もたじろがない。
 坂本の視線を真正面から受け止め。そして強い意思を感じさせる言葉を。

「先輩…すいませんけど…オレ、七瀬を先輩に渡すわけには行きません!!」

 「オレ」と言う自己代名詞。懐かしさすら憶える男の口調。
「みずき…もしかして元に…元に戻ったの?」
 戸惑いから期待。そして歓喜へと七瀬の表情が変わる。だがみずきはそれまでの凛々しさがどこかへ。きょとんとした表情で後ろの七瀬に向けて振り返る。
「へ? 元に…って…あれ? 七瀬? オレ……今まで……何してたんだ?」
 記憶の混乱が生じている。だがこの表情。この口調。
 化粧をして、ふわっとしたスカートのドレスを着た長い髪の美少女。しかし表情も口調も男のそれ。
「みずき!!」
「わっ。七瀬?」
 七瀬が嬉し涙を浮かべながら笑顔で抱きついた。
「良かった……」

 それを見守っていた友人たち。
「封印解除。魔法が発動したな」
 いつもの調子の上条。にこやかに笑っている。
「良かった。良かったね。七瀬ちゃん」
 泣き出してしまった綾那。
「そうですわ。あれが七瀬さんの本当の笑顔」
 そういう姫子も目じりを拭う。
「いや…姫に御意見とは恐れ多いでござるが…あそこまでの笑顔は見たことがござらん」
 十郎太はさすがにクールだ。
「そりゃそうさ。赤星が元に戻りゃ嬉しいに決まってる」
 笑いながら涙している真理。そして榊原がクールにつぶやく。
「愛ゆえに女になりきって、愛ゆえに男に戻る…か。作戦は成功したな」
 そう。毒をもって毒を制すというか、ショック療法と言うか。
 七瀬が坂本に告白される現場を見て男を捨てたのなら、もう一度、同じ現場を見せてみようと言う賭けだった。
 女同士では結ばれないことを強調して。
 そしてそれは見事に成功した。

「お…及川君」
 どうみても女の子のじゃれ合いをこえた抱きつきぶり。しかもその表情。恋する乙女そのもの。
(まさか…噂と思っていたが…及川君と赤星君は本当にそういう…)
 何しろ本来は男と女である。それとなく態度にでて「怪しい」とはいわれていた。
 もちろんみずきの正体を知らないのだから「そっちの趣味の人」と言う結論に。
「先輩。ごめんなさいっ」
 七瀬はみずきから離れて坂本に向かい合う。
 坂本が気の毒になるくらいの晴れ晴れとした七瀬の笑顔。ずっと雨が続いた後の快晴のようだった。
 死んでなんかいなかった。みずきはこうして『生きていた』。
 そしてしばらく離れていたことではっきりと自分の心がわかった。今の復活でなおさら思い知った。
「そういうことですので私、先輩とはお付き合いできません」
 ぺこりと一礼する。申し訳なくは思ったが、やはり好きでもないのに付き合うのは坂本に対しても失礼と思った。真面目な彼女らしい。
「そ…そうかい。うん。仕方ないね」
 相手が特殊なシュミでは…男が恋愛対象でないと言うのでは入り込みようがない。
 諦めるしかない。あっけないほど簡単に事実を受け入れた坂本である。
「おい。七瀬。今まで何があったんだよ?」
 ぶっきらぼうな口調で尋ねるみずき。
「憶えてないの?」
「言われるとかすかに…えーっと。凄い風邪を引いてふらふらして…あれ? 今もなんだかふらふらする」
 女になりきったときのように三日かけていたわけではない。
 いきなり戻ったのだ。そのため記憶の整理がつかず混乱してきたのだ。
「はれれれ?」
 そして目を回して再び倒れるみずき。
「みずきっ?」
「赤星君?」
「担架だ。担架」
 気を失ったみずきは別室に運ばれる。七瀬も付き添って行く。

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