第35話「もういくつ寝ると」

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「お袋。頼むからこの髪、切ってくれよっ」
 赤星家では前の日にやっと男の体と心に戻った瑞樹が、瑞枝に散髪を頼み込んでいた。
 実はこの一家、床屋に出向いたことがない。
 さすがに本人だけは出来ないので美容院に行くが、他の家族は比較的扱いやすい髪質のため瑞枝が切っていたのだ。
 もちろんみずきの髪を女の子らしく整える目的もある。
 美容院ではお湯を使うのだから変身が解けてしまう。
 だからといって初めから男で床屋に出向いても、女の子になったときにどことなく変になる。
 それゆえ瑞枝が処理していた。

 そして今の瑞樹は長いこと女の子の心になっていたため、髪の毛も切らずに長さが腰にまで達していた。
 女心のときは動きが細やかなせいかドジも顔を出さなかったが、元に戻ってこの長い髪。
 自分の髪で足をとられて転ぶなどと言う、前代未聞の恥ずかしいことになりそうでいやだった。
 そういう事情で散発を頼み込んでいたのだが…

「えー。せっかくきれいに伸びたのに。
 心が女の子から男の子になっちゃってがっかりした私に、さらにそのロングを切れって言うの? あんまりだわ」
 駄々っ子そのものである。
 瑞枝が切らないなら自分で床屋に出向けばいいが、前述の通り床屋に縁がない。
 つまり知らなかった。
 読者諸兄は憶えはないだろうか。
 何らかの事情で新しい床屋や美容院。医者などに世話になるときは多大な不安が。
 それは瑞樹も同様だった。それに床屋代は高校生の小遣いでは厳しい。だから瑞枝に頼んでいたがまったく切ってくれる様子がない。

「それに瑞樹ちゃん。やっぱり女の子の方がよくないかしら?」
 ニコニコ微笑んでさらりと言う瑞枝。
「やっと戻ったのになんだよっ?」
 突っかかる瑞樹に母は手鏡を差し出す。そこに映るのは恐ろしく頬のこけた貧相な少年。
 以前は男の子でちょっと痩せ気味。女の子だとふっくらだったのが、長いこと女の子でいたため体が女らしくなって理想のプロポーションに近づけてしまった。
 体重は48キロから44キロへ。トップバストも減ったが、アンダーはもっと落ちて華奢な美少女に。
 頬はすっきり。目の周りの脂肪も落ちたせいかくっきりとした目元。肌も輝く白に。
 ところがこれで男に戻ると、いくらなんでも肉がなさ過ぎである。
 女の子でい続けたため筋肉も落ちていたが、脂肪が男になるとなくなるためとにかく貧相なことこの上ない。それを言っているのだ。
「ねっ。女の子だと可愛いんだから。戻らない?
 既に瑞枝は女の子を基準にしているから「戻らない?」だが、あくまで男を基準とする瑞樹は反発して
ならない」と返す。するとさらに瑞枝が
「じゃあ切ってあげない」の堂々巡り。
「おふくろ〜〜〜」
 ほとほと困り果てた瑞樹に秀樹が助け舟を出す。
「瑞枝。この髪じゃシャンプーも大変だ。どうだ? 三学期になる前に切ってやらないか?」
「…………どうしても切らないとダメ?」
 上目遣いで可愛らしい40歳。
「切ってやれ。冬休みいっぱいはこのままでいいから。お前もそれでいいだろ。瑞樹?
 冬休みだけガマンしろ。なに。マフラー代わりと思えば」
「人事だと思って…まぁいいや。妥協案ね」
「いや……それが実は……それだけじゃなくてな…」
「なに? なんかまだあんの?」
 珍しく言いよどむスパルタ親父。それに突っ込む瑞樹。そんなときにチャイムが鳴る。
「はぁーい」
 妙にうきうきとして薫が出向く。そして弾む会話。
(あれ? 姫ちゃんの声?)
 やがて薫が戻ってきた。
「ママ。お姉ちゃん。お迎えがきたわよ」
「迎え?」
「あら? もうそんな時間?」
 怪訝に思いつつも玄関に出向くと、和服姿の姫子がニコニコと待っていた。

「どういうことだよ? これは?」
 仏頂面のみずき。女の子になっている。セーターとロングスカートである。
 家を出る前に女の子になったのだが、それだと脚は短くなり、お尻は大きくなって合うズボンがなかったのである。
 だからスカートである。そもそも女の子できた理由だが…
 
 ここはある写真スタジオ。そこにいつもの面々が顔を揃えていた。
 そして異様にニコニコしている瑞枝と薫も。秀樹は店番。忍は遊びに出かけた。
「うん。赤星。これからお前さんをモデルにした撮影会と思ってね。もちろん女の子でのな」
「コスプレだって」
 上条の説明に綾那が続く。
「はぁ? 何でそんなことをしないといけないんだ?」
 当然のみずきの疑問。それに対して「罰ゲーム」と真理が答えた。
「なんで?」
 当然のみずきの疑問。それを『待ってました』とばかりに用意した答えをぶつける真理。
「いいか赤星。お前がどれだけ七瀬を泣かせたか。考えてみろ?」
「うっ…それは…」
 半分は意識がなかったようなものだが、それを言われると弱い。
「そして俺たちも色々苦労したんだぜ」
 榊原の追い討ち。
「いや。その点に関してはオレも悪かったと思うけど…でもそれでなんだってコスプレ撮影会なんだ?」
「それは瑞枝さんの希望ですわ」
「お袋!!」
 ろくでもないことを言わないでくれ! そんな感じの怒鳴り声。女バージョンだから耳につく高さだ。
「だってみずきちゃん。せっかく綺麗なロングになって、こんなに可愛くなったのにもったいないじゃない。せめて思い出に残したいわ。だから記念写真をいっぱい撮るの」
「その願いもあって、そして写真に残せば戒めとなろう。二度とおなごでいたいなどとほざくまい」
「……ほざかないから他の罰ゲームにしない?」
 罰ゲーム自体は不可避と判断したが、さすがにこれは嫌だった。
「困りますわ。せっかく無理言ってスタジオとカメラマンさんをお借りしたのに」
「いや。姫ちゃん。困るのはオレのほうでね…」
 段々弱腰になるみずき。
「じゃ代わりに一週間赤星の嫌いなメニューで通してもらうとか?」
 真理が言うと瑞枝が
「そうねぇ。さしあたって今夜は麻婆豆腐かしら?」と応じる。
「う…」
 みずきは麻婆豆腐の辛味もダメである。渋い表情に。
 冷静に考えれば写真はずっと残るが、嫌いなメニューは一週間で済む。しかし負い目もあり冷静な判断が出来なかった。
 加えて女性服に抵抗がなくなっていたりもするのもあり、結局は押し切られた。
「わかったよ。やればいいんだろ。チキショウ」
 悔しがるみずき。まぁこのくらいでなくては罰ゲームの意味がない。
「あはは。がんばってね。これで許してもらえるワケだし」
 苦笑する七瀬がフォローを入れる。その七瀬を睨み付けるみずき。
「七瀬。お前はまさか加担してないよな?」
 言外に「信じているぞ」と。
「わ…私も今聞いたのよ。どうも私たちがいない間に真理ちゃんたちで決めたみたい」
「勝手に決めやがって…」
 気が重かったが免罪符としてやることになり、しぶしぶ着替えに。

「最初はあたしと」「オレのリクエストだな」
 薫。榊原と声が続く。
 その前に現れたみずきは薫の通う中学の制服であるセーラー服を着ていた。
 髪は流れるままに。スタイリストが整えたのか美しく流れていた。
「これでいいのかよ」
 仏頂面に拍車が掛かる。その癖かばんは両手で可愛らしく持っていた。
「うわぁー。セーラー姿はじめて見たけどストレートロングがよく似合うわね。うん。可愛いじゃない。みずき」
 七瀬は揶揄ではなく本心から言っている。
「そうねぇ。いつもボレロだから新鮮だわ。よく似合うわよ。お姉ちゃん」
 いつもの皮肉での「お姉ちゃん」ではなく、女の子が女の子のファッションを評する感じの薫の口ぶり。
「(似合ってても)嬉しくねぇ…」
 しかし罰ゲームは罰ゲーム。テストのポラロイドが撮られてから本格撮影。
「ねぇ。あたしも入っていい?」
 薫が同じセーラー服で写真の中に。
 ニコニコしながらピースサインの薫と、腹でも痛いんじゃないかと言うみずきの表情が見事に好対照だった。

 薫がいずこかに消えてみずきが残された。
「なぁ。やっぱり続けるの」
 頬を赤く染めてうつむき加減に榊原に尋ねる。
(か…可愛い)
 不覚にも全員。そう。男だけでなく少女たちまで思ってしまう。
「だーめ」
 榊原は無情だった。
「ちぇ」
 しぶしぶセーラー服のジッパーをあけるみずき。がばっと脱ぐと下には真っ赤なビキニのトップが。
 スカートの下も同様だった。
「な…なんかドキドキするわね」
「うん。脱ぎ方が色っぽい」
 頬を赤らめながら評している七瀬と真理。七瀬はこの企画に参加してなかったが少しずつ乗ってきた。
 その評価に満足したか得意げに榊原がいつものように解説する。
「お前、水着はワンピースしか着てないからな。ま、ここなら身内しかいないしいいだろ」
「……恥ずかしいよ」
 消え入りそうな声。白い頬が朱に染まる。
 しかし迷惑かけた罪滅ぼしとしてでは拒否権もない。
 まさにグラビアアイドルのように様々なポーズをとり撮影をしていく。
 まだ仏頂面だったがカメラマンはそういう撮影もする人物らしく盛んに「可愛いよ」「綺麗だね」と連発。
 最初は女としての褒め言葉で乗れなかったが、流されて行くうちに悪くない気分になりだんだん自然な笑顔が。いい状態だったが
「この状態でこれをつければ前から見れば裸エプ…」
 エプロンを手にしていた榊原だが、真理に吊り上げられて最後までいえなかった。
「さ。アタイのリクエストが次じゃないかな?」
 振り子のように榊原が揺れているのに笑顔で促す真理。

「あっ。待ってぇ。お姉ちゃん。もう一度セーラー着てよ」
 声は薫。そしてなんと無限塾女子制服を着ていた。
「お前…それ?」
「ごめんね。お姉ちゃんの借りちゃった」
「いや…それはいいけど、もう制服を買ったのかと思った」
「もう?」
 赤星家以外は怪訝な表情。それに対して明るく宣する薫。
「はーい。先輩方。あたし無限塾を受験しまーす」
「私もよ。同級生ね」
 別方向から現れたのは愛子。
 愛子も無限塾の制服を纏っていた。恐らくは姫子のものだろう。
 そっくりなだけに髪を切った姫子と言う感じに見える。
「姉さまから聞いてました。こんな楽しい話。参加しない手はありませんわ。私も混ぜてください」
 もちろん拒否などするわけない一同。

 三人揃っての写真撮影が続く中で仲間たちは喋っていた。
「なぁ。上条の妹、うちの学校に来るんじゃ?」
「願書は出してたからそのつもりみたいだね」
「ひょっとして綾那の弟もか?」
「うん。ボクを守りたいんだって」
 愛子。薫も無限塾に来る。愛子が行けば護衛の弥生と葉月も自動的に。
「いや。それだけならともかく、俺の姉貴も実は来年からウチの教師になるとか…」
 陰鬱とした榊原。
「あのお姉さんが?」
「カオスに替わって担任にならないかな?」
「……まだカオスの方がましだ……」
 本気で頭を抱える榊原。

 真理のリクエストは強烈だった。
 三毛猫風のスーツ。当然のように尻尾がついている。
 猫の四肢を模したブーツとグローブ。頭の上には猫の耳を模したカチューシャが。
「ま、罰ゲームならこのくらい恥ずかしくないとな」
 「きしし」と言う感じで笑う真理。
「恥ずかしい過ぎる…」
 どんどんと頬が熱くなる。グローブのまま顔を覆う仕草が可愛らしいみずき。
「うーん。ネコミミモード」
 意味不明の上条のコメント。
「しかし上条の着ていたTシャツのデザインの服が本当にあるとは思わなかったな。ジョークで言ってみたら通っちゃって」
「ギャグでこんなカッコさせないでくれ」とみずきが怒鳴る中、榊原の指示でみずきが四つんばいでの撮影が。
「いいなぁ。みーちゃんネコさんみたいで可愛い。ボクもこんなことなら付き合えばよかったな…」
「替わって欲しい…」
 綾那じゃ胸が足りない…ほとんどの共通する想いだった。

 心なしかほっとした表情のみずき。
 大胆に太ももは晒しているのだが、ネコミミモードよりはマシらしくリラックスしていた。
 上条のリクエストでチャイナドレス。下着はつけているがそれ以外の下半身は靴だけ。
 髪は三つ編みでたらしていた。
『γ1/2」と言う作品の主人公の文字通りコスプレだが、何しろ直前が恥ずかしすぎた。
 例えチャイナ風のメイクをさせられても、ヌンチャクを持っていることもあり凛々しく出来るので楽だった。
「よく似合うな」
「本当ね」
 付き合っていると言うスタンスのはずの七瀬がだいぶ興味を示し始めた。
「ねぇ。姫ちゃん」
「はい?」
 なにやら不穏な会話。

 コスプレさせた上条は満足げに頷いている。
「三つ編みもばっちり決まっているな。ある意味シャレにならないけど」
「だからか?」
 コスプレと言うなら下もチャイナ風ズボンである。だが今はいわゆる生脚だ。
「しかし赤星。ほんとに男の脚とは思えないほど綺麗だな。しかも細い」
「あ…あんまりじろじろ見ないで」
 照れるみずきと強引に迫る真理。どちらが本来は男なのかわかったもんじゃない。
「しまったなぁ。こんなに似合うならここでやらないでトレスで売り子を務めてもらえばよかった」
「はーい。ボクやりまーす」
 ここぞとばかしに手を上げる綾那。結局そのまま売り子が確定してしまった。

 ここで昼食。せっかくなのでその衣装に合わせての天津だった。

 再開して…いきなりきついところでアイドル風衣装。いたるところにフリルが。綾那のシュミなのがもろにわかる。
 ピンクを基調としている。胸元を特に強調したデザインだ。
 太ももまでのソックスで肌の露出は抑えているが、むしろ女っぽいような。
 髪の毛は二つに分けられツインテールに。根本にピンクのリボン。首にはチョーカー。メイクはナチュラルメイクに。
「やーん。かわいいーっ。ボクが着たいーっ」」
 そんな綾那に苦笑しか出来ないみずきであった。
「ほらほら。笑って笑って」
「はーい」
 衣装の魔力か。それとももう慣れたのかカメラマンに指示をされると、自然と笑顔が出るようになってしまったみずきである。
「じゃちょっと動いてみようか。マイクもって歌うように」
 小道具のマイクを手渡される。
「えーと。歌うんですか?」
「それだけはやめて!!」
 七人が声をハモらせる。
「オレだってやだよ」
 みずきの音痴は知れ渡っている。代わりに適当にアイドル曲をかけて躍らせて撮影。

「お前だけは…お前だけは違うと思ったのに…信じてたのに…」
 肩を震わすみずき。
「あははは。ごめんね。やらないつもりだったけど最初のセーラー服を見たらあんまり可愛くてつい」
 照れ笑いの七瀬。結局、彼女もリクエスト。もっともあの騒動で一番泣かされたのも七瀬なのだが。
 急なリクエストなのに、無限塾とは違うタイプのブレザー式制服も用意してあった。
 濃紺のブレザー。マル襟のスクールブラウスの上からアイボリーのベスト。下半身にはチェックのプリーツスカート。足元は紺色のハイソックスと茶色のローファー。
 ロングヘアは束ねてポニーテールに。
 そのまま街に出ても違和感のない『女子高生』だった。
 急だからか。それとも前日まで女になりきっていたのを考えてか、この中ではおとなしいデザインだった。
「こういう制服もお似合いですね」
 姫子の『褒め言葉』があまり嬉しくないみずきであった。。

 続いたのが和風の2連発。
 最初は十郎太で巫女装束。
「うむ。これなら己の持つ魔性にも負けまい」
 よくわからない理屈だった。
「なんでだろう…露出なんてほとんどないのに、かなり女の印象が強くなるような…」
 不安そうな表情のみずき。
「そりゃ清らかな乙女が着る物だしな。まさか坂本先輩と『やってたり』しないよな?」
「するかっ」
 榊原を怒鳴りつけるみずき。その傍らでは上条がうんうんと頷きながら「風間。見直したよ。君がこんなに『わかっている』なんて」十郎太を称えていた。
「上条。おぬしは拙者のリークエストにどんな感銘を受けたと申すのだ?」

 そして姫子のリクエストは自分同様の振袖姿。髪型は日本髪に。
「よくお似合いでよかったですわ」
 喜んでいる姫子。彼女もまた可愛いものに目がない。
「確かに似合っている。そしてこの髪。赤星。いざと言うときは姫の影を努めてはくれぬか?」
「ボディガードはいいけど女の役は嫌だ!」
 もちろん十郎太は本気であるから、本気で断るみずき。
「それはさておき、新年会にはその衣装を用意しておきますね」
 もちろん彼女に悪気はない。
「私も着物で御邪魔するわね。姫ちゃん」
「ボク浴衣しかなぁい」
「アタイなんざ洋服以外ないぞ」
 たしかに真理の風貌に着物はちょっとしっくり来ない。胸も大きすぎる。

 長かった撮影会も最後の一着。スタジオが暗くなる。これは気分を作るための演出だ。
 お馴染みのテーマに乗ってスモークがたかれバージンロードが。
 そしてスポットライトを浴びて、胸から上を大胆に露出した純白のウェディングドレス姿のみずきが。
「おおーっ」
 声が上がる。美しく可愛らしい花嫁だった。手に持ったブーケが清純さを演出する。
 メイクは完璧。大人っぽく処理していた。耳にはイヤリング。髪はアップ。
「はは…もう好きにして…」
 撮影の疲れとやけくそで満面の笑みを浮かべていた。
「ステキ。ステキよ。みずきちやん」
 感涙している瑞枝。もちろん彼女のリクエストだ。さすがに『本当に』着る事はないと理解しているので、ここで思いを遂げることに。
 罰ゲームとしても、瑞枝の願望としても『みんなの企み』は無事に終わった形だ。

 瑞樹の男としてのアイデンテティが心配だったが。

みずき九変化。そのうち四つ!プラス薫

このイラストは参太郎さんによって作成されました。いつもありがとうございます!!

「まったく。人をおもちゃにしやがって」
 聞きようによってはかなり危ない瑞樹の独白である。今は入浴中。男に戻っている。
「それにしてもこの髪。鬱陶しいなぁ。よく女はここまで伸ばせるよな…」
 シャンプーの仕方ももみ洗いにならざるをえない。洗髪が終わると流して、湯船に浸かる。
 髪の毛はそのまま。湯船にどっぷりとつけている。女なら長い髪はまとめてから湯船に浸かるが『男』の瑞樹はお構いなし。
「ふう」
 充分に暖まって上がりかける。姿身を見ると確かにやせこけて貧相な少年の姿が。
「うーん。これはさすがにちょっと肉をつけた方がいいよなぁ…アバラが浮いてんじゃん。でも…」
 聞く話によれば女だと絶妙のバランスとか。
(ホントかなぁ?)
 好奇心がわいてきた。体も火照っていた。シャワーを水にあわせてかぶってみる。
「冷てっ。さて。どんな具合に」
 姿身を見て言葉を失った。
 肉の落ちた華奢なボディ。折れそうなウェスト。それでいて存在感を示すバスト。
 輝く白い肌が上気して色っぽいピンクに。
 頬はちょうどよい丸みを帯び愛らしい表情を作り出していた。
 そして腰に達するロングヘアが美少女を演出していた。
「これが…オレ?」
 風呂場でエコーが掛かるといえど、天使の声を聞いたらこんな感じかと思わせる可愛らしい声。

 風呂場の脱衣所。ピンク色の可愛いトレーナー姿の薫が、風呂から女のままでてきたみずきに素っ頓狂な絵を上げる。
「あれぇ? お姉ちゃん。なんで女の子で上がるのよ? まさかまた心が?」
「ああ違う。違うから。オレはオレだから。安心していいぞ」
 何とかごまかしつつ自分の部屋に。戻ると男物パジャマを脱いで下着も女物に替える。
 そして色々と女性服を試着してみる。その結果
(く…悔しいが…可愛いかもしれない…ナルシスだったのかな? オレって…
いいか…お袋も望んでいるし。冬休みくらいはこのヘアスタイルでも…)
 自分の中の「女」を改めて認めてしまったみずきである。

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