第36話「やまとなでしこ大暴走」Part2   Part1へ戻る

 おせち料理に舌鼓を打ちながら、いつしか話題は「どんな初夢を見たか」になっていった。
「オレのは聞いただろ。まったく…。何であんな夢を」
 思い出して照れるみずき。胸を触られた七瀬も赤い顔だ。
「それじゃ七瀬さんは?」
 司会と言うわけでもないが姫子が促す。
「え…私。あはははは。いいじゃない。ねぇ」
 といいつつちらりとみずきを見る。
 ほんの僅かな動きだったが、夢の中に瑞樹が登場したのは確実そうだ。それじゃ照れる筈だ。
 聞いても喋りそうにない。他に話題を求める。
「それじゃ僕のはね」
 上条が語りだしたのは…

 荒廃した街。そこで戦っている上条。トンファーを得物にしている。
「けーっけけけけ。上条ぉーっ。脳が、脳が痛ぇえええええ」
 対戦相手は四季隊。叫んでいるのは冬野。どういうわけか体の半分以上が機械になっていた。
 四季隊が着ているのもいつもの学生服ではない。毛皮をまとっている。
「こうなったら」
 四季隊はいつの間にか出現した「ロボット」に乗り込んだ。
 上条も指をぱちんと鳴らし「出ろぉぉぉぉぉぉっ」と叫ぶ。
 彼も乗り込んだ。
「上条。ぶっ殺してやる」
 何故か一人だけ乗り込まずに下でがなっている冬野。
「AYANA アクセルユニットだ」
「Ready」
 人工音声が応答する。上条の乗り込んだロボットのスピードが加速する。
 圧倒的パワーを誇る夏木の機体を葬り去る。
「やろう」
 秋本の機体が迫る。もつれ合う。
「けけけけけ。上条ぉぉぉぉ」
 わざわざ接近して見ていた冬野。だが秋本の機体に
「ぷちっ」と踏み潰された。
 そして秋本の機体もスピードに対処出来ずに爆発四散。
「オレは違うぞ」
 春日の機体も超加速になる。
「みろ。総番が俺の機体にだけは加速ユニットを…せ。制御できない」
 暴走してそして
「謀ったなぁぁぁぁ。総番んんんんんんっ」
 空中で爆発した。

「うわ…新年早々なに殺伐とした夢見てるんだよ…」
 真理がげんなりとして言う。
「いや。『しきたい』繋がりと言うことで」
 当然のように言う上条。
「ちなみに綾那さんはどのような初夢をご覧になりましたの?」
 これは理解に苦しむと判断したか、矛先を変える。
「ボク? えへへへ」
 子供のように照れる綾那が初夢を語る。

 中世の城のような場所。
 そこの天高く作られた牢獄に囚われたプリンセスの綾那。牢獄の窓から空を見上げる。
「ああ。悪い魔法使いに囚われたボクを、早く助けに来てください。王子様」
 すると天空から馬が。翼の生えた天馬(ペガサス)に乗った王子だった。
「天馬流星拳」
 「王子」が繰り出す無数の拳で牢獄の壁が壊されて、天馬が牢獄に着地する。
「プリンセス・アヤナ。御無事ですか?」
「アキラ王子。助けに来てくださったのですね」
「待っててください。今すぐに脱出を」
「そうはゆかん」
 陰鬱な声が響くと床から醜悪な化け物たちが現れる。
「プリンセスをつれて行かれてなるものか。行け。化け物たちよ」
 襲い掛かる化け物たちを切り捨てて行くアキラ王子。
「おのれ。こうなったら私が相手だ」
 ローブをまとった魔法使いは中尾だ。綾那は物理が苦手で、それ以上に中尾勝の人となりが嫌でこの形で夢に現れたのだろう。
「ならばこちらも。魔法変身
 真っ赤なスーツに包まれる。そしてベルトのバックルに取り付けられたカードホルダーから抜いたカードを左腕のガントレットに挿入する。
「Final Vent」
「はぁぁぁぁぁー…はっ!」
 疾走する天馬の背中から飛び出して加速をつけたアキラ王子のキックが魔法使いを粉砕する。
「うわぁぁぁぁぁぁっ」
 灰となって崩れ去る「魔法使い」。そして微笑み王子は
「さぁプリンセス。このまま結婚式を挙げに参りましょう」と。
「はい!」

「なんて夢だったの。きゃ」
 頬を押さえている。既に真っ赤だ。
「さすがは若葉。完璧に上条を理解しているな」
「いや。『魔法変身』と『Final Vent』は元が違ってて」
 そっちかよ! と、言いたくなる上条のこだわり。
「そもそも『灰なる弁当』とは?」
「それを言うならね…」

 その後もそれぞれの初夢の話しが続く。
 最後になったのは榊原のそれ。
 内容としては晴れ着姿の真理。七瀬。姫子。綾那と榊原。みずき。十郎太。上条がそれぞれ戦っていると言うものだった。
「なにそれ?」
「あんたが言うとシャレにならんぞ」
 榊原には予知能力がある。
 意図して予知するには恐ろしい精神集中が必要だが、反対に何も考えていないリラックスした状態の方が予知が閃くことが圧倒的に多い。
 特に夢と言う形が多く、それだけに笑い飛ばせない。
 何しろ舞台も役者も。そして衣装まで現在の状態そのまま。
 つまり正夢の可能性があった…が
「しかし…今回はただの夢だろう。こんなのほほんとした状況で乱闘になんかなるはずが。あるとしたら」
「あるとしたら?」
 理論的に否定する榊原の言葉にずいと身を乗り出す真理。その尻を真面目な表情で撫で回す榊原。
「なにしやがる。このすけべ!」
 当然のごとく畳に顔がめり込まされる榊原。
「こ…こういうケースだけだと思うぞ」
「何も身をもって教えてくれなくても…」

 御節も片付き食休み。
 そして正月らしくかるた取りとなった。
 本当は百人一首とも考えたがその辺りの知識は榊原と姫子。そして十郎太にしかない。
 そこでもう少し馴染みのあるいろはがるたである。十郎太が読み手をつとめて七人で取る。

 やはり円形に並ぶ。姫子を基準にして時計回りにみずき。七瀬。上条。綾那。榊原。真理である。
「では参る。犬も歩けば…」「はいっ」
 あっという間に姫子が札を取っていた。唖然とする一同。「当然」といわんばかりの十郎太。
「は…迅いっ!?」
「まさに疾風迅雷!! 真空コマンドKがはいっている」
 上条はゲームも好きだ。

 普段からおっとりしている姫子。もっと遠慮なく言えば「トロイ」彼女である。
 彼女の普段着とも言うべき和服。逆に他の女子は着慣れていないので多少なりとも差が縮まるかとは考えたが、これではむしろ逆転といわざるをえない。
 またみんな振袖で腕周りが動きにくいのもある。
 しかし姫子は何の苦もなく。もしかするとスクールブラウスとジャンパースカートの無限塾制服よりも素早いかもしれない。
 さらにはかるたである。
 この純和風な一族。かるた取りの機会は正月だけではないのかもしれない。
「犬も歩けば? なんなのかな。上条くん」
 綾那が尋ねる。会話のきっかけにしていると見るべきだろうか? しかし彼女ならかなり知られたこのことわざを知らないと言うのもありそうである。
「犬も歩けば棒をくわえ…」
「このセクハラ大将! 正月早々死んでこいっ」
「ぐおえっ」
 あっという間に吊るされる榊原。
「は…迅いっ」
「さっきの姫ちゃん以上だっ」
「もはや神速」
 榊原がシモねたを完全に出す前に真理が彼を吊り上げていた。
「ねぇねぇ。犬も歩けばなんなのぉ?」
 真理が榊原を成敗するのはもはや日常茶飯事で、綾那もあっさりするーしていた。
「んーっっっと…犬も歩けば…ボーっとしてる」
「まぁ。それはわたくしのことですか? 上条さん」
 しかし誰も上条の非難には回らなかった。
(上手いことを言う…)と思っていたのである。

 結局ほとんど姫子の独壇場だった。

 肌寒いが雲ひとつない快晴。冬型の典型的な晴天だった。
 これまた「正月らしく」で羽根つきとなった。
「では皆さん。羽根を打ち損じたら顔にこの墨で」
 墨汁を手ににこやかな微笑の姫子。
「えーっ?」「やだぁ」「そんなことするのか?」
 だがみんなは違う。もっぱら女性陣から不満が上がる。
「大丈夫ですよ。羽根突き用に作った墨ですから、水で洗えば簡単に落ちますから」
 姫子がそういっても首を縦に振らない。
「代わりにさ…ミスした奴の顔をこっちで好きに出来るってのはどうだ?」
 どこに持っていたのか真理がメイクパレットを持ち出して「ニカッ」と笑う。
「できるか!」「女の子はいいけど」「我らは宦官ではござらん」
 当然ながら今度は男性側からブーイング。だが
「オレは…どうせこの姿だしもう化粧も慣れちゃったし。あれもやって見ると中々面白いぞ」
 説得のつもりではなくただ本音を語っただけのみずき。
 逆にみんな引いてしまった。

 そこに姫子の父がやってきた。
 親戚でもなんでもないただ友達だが、さすがに大富豪。少しだがお友達にもお年玉を渡そうとやってきた。
 そこにこの話である。
 みずき達にして見ても高校生である。親や親戚からなら貰ってしまえても、さすがに友達の親からはもらいにくい。
 しかしきっぱり断るにも最初の一人はやりにくい。いいだせない。
「ふむ。ならばお年玉ではなくて賞金ではどうかな? お年玉争奪羽根突きで」
 賞金なら抵抗もない。そして余興としては充分に面白い。
「それなら」
 その形で落ち着いた。

 最初はトーナメントにでもと思ったが相性の問題もある。
 そこでバトルロワイヤルと言うかイルミネーションマッチ。
 八人一斉に参加。ミスした人間から失格である。

 バスケで言うならセンタージャンプ。さすがに自分の子供に有利にするような贔屓も出来ず。
 父親は姫子の後方から緩やかに羽根を打ち上げた。真理の真正面。
「悪いな。消えてもらうぞ。姫」
 猛烈な(と言うか大人気ない)真理の打ち返し。それを
「はい」
 軽く打ち返す姫子。大振りの直後で迎える体勢が出来てない真理は為す術もなかった。
 真理失格。

 和服で姫子と勝負するのは無謀と悟った一同。
(じゃ羽根が来たら榊原を狙ってやるぜ)
 そう考えるみずきの前に姫子が緩く打ち出している。
「ようしっ」
 意気込むが…見事に空振り。みずき。自爆で失格。

 今度は打ち合いになる。榊原と十郎太の形。榊原が高々と羽根を上げる。テニスで言うならロブである。
(上から打ち返すことになる。それを跳ね返せばさっきの真理みたいに返せないッ)
 だが十郎太は羽根を追って飛び上がる。まるでタイミングを待っていたかのように上条が口を開く。
「太陽は地球の生き物の父とも言うべき存在。その太陽の力を利用しろっ。アクエ○オン」

「陽 光 援 護 撃」

「ま…眩しいっ」
 そう。逆光で十郎太の打った羽根が確認できなくなっていたのだ。もちろん榊原の失格。

 綾那。振袖が絡まり打ち損じ。失格。
 七瀬。打った羽根が遥か彼方に。これも失格。上条は
「飛天御剣流奥義。天翔龍閃」
と、やっていたがうまく行くはずもなく空振り。
 勝負は十郎太と姫子にしぼられた。
 これも十郎太がさり気なく手を抜いていたのは見えていた。
 勝ち残ったのは姫子だが、手加減されて少々機嫌を損ねたようだ。

 室内へと戻る。
「あっ。姉さま。十郎太様。そして皆様。ちょうどよかった。お雑煮が出来上がりました。いかがですか?」
 迎えたのは愛子。確かに使用人たちがばたばたと御運びをしている。
「そうですわね。皆さん。よろしければお召し上がりになってはいかがでしょう」
「うーん」
「小腹も空いたし」
「いい匂いだね」
 動き回って少しおなかが空いたところにこのいい匂いはたまらなかった。
 御好意に甘えて御馳走になることにした。

 再び和室に運ばれるお膳。今度はお屠蘇つきだ。
「いや…俺たち未成年だし」
 これは酒の飲めない榊原の台詞。しかし多数決で押し切られた。

(上手くいったわね。今度が本命よ。お雑煮じゃばれそうだけどお酒なら)
 愛子の策略はこちらが本命だった。

「いただきまぁす」
「よし行け。大人の味だぜ」
 適当な理屈をつけて綾那に酒を飲ませる真理。もちろん自分もちゃんと飲んでいる。
「七瀬さんもどうぞ」
 隣の七瀬に勧める姫子。返杯する七瀬。格別に口当たりのよい酒で進んでしまう。
「十郎太様は飲まないのですの?」
「頂きましょう」
 これはうそである。忍びが任務中に飲むはずもない。飲んだように見せかけて懐の中に流し込んでいた。

「だから…オレは下戸だって」
 榊原は飲めない。タバコもギャンブルも、そして風俗にまで手を染めるのに体質で飲めないのだ。
 母に似たらしい。母も女性と言うことを差し引いてもまるでダメだった。
 ちなみに姉・涼子は父似で酒豪だった。
 ザルでも底は濡れる。涼子は濡れもしない「ワク」と表現されていた。つまり底なし。

「熱ちゃーっっっっ」
 みずきは手酌でやろうとして熱さで手を離して徳利を割ってしまう。
 ドジっ娘の王道を突き進んでいた。

 上条は池に出向くと、いきなり徳利の中身を少したらす。
 ちょっとの間をおいて暴れだす池の鯉。
「うーん。何か毒でも」
 もちろん遊びだったが、結果的に見抜いたことに。
「あ・き・らくーん」
 いきなり中庭に飛び出してきた綾那である。しがみつくと言うか抱きつく。
「こ…コラ。何を…」
 ぎょっとなる。綾那の目に涙がたまっている。
「お…おい。若葉」
「明くんの…ばかーっ
 突然にフラッシュアッパーが見舞われる。
「ぼげろっ」
 不意打ち。しかも綾那で無警戒。まともにもらう。
「こんなに…こんなに大好きなのに。どうしてわかってくれないの」

「あーあ。しょうがないわね。みずきってば」
 文句を言いながらみずきの壊した徳利を「ダンシングクィーン」で修復する七瀬。
「わ…わりぃ」
「ホントだわ。いつもいつも迷惑ばかり。あなたが自分のことを女の子と思い込んじゃったときは私がどれだけ心配したかわかる?」
「な…七瀬?」
 確かに七瀬は真面目で苦情もよく出てくる。
 しかしこんな風に古い話を蒸し返すタイプではない。

「なんか…おかしいぞ」
 様子が変だと気がついたのは榊原。七瀬と綾那を交互に見ている。そこに
「くぉら」
 いきなり真理に平手打ちをされる榊原。すんでの所でビッグショットが止める。
「てめぇ。アタイに愛の告白しといて他の女に目をやるたぁいい度胸じゃん」
「はぁ? いつ愛の告白したよ。一発やらせろならいつもだが」
「すきでもない相手と出来るか。つまりアタイに愛の告白をしたんだろ。それなのに浮気か…」
 目が据わっている。酒豪の真理が酔う量ではない筈。
(雑煮はこっちも食べている。おかしいのとそうでないのの違いは…)

(酒かっ?)
 十郎太は残っていた酒を口に含んで味を見る。そして飲み込まずに吐き出す。
「無味無臭。だが冷めたので少しわかるぞ。これは自白を強要する薬。こんなものが酒に混じっていたら」
「十郎太様…」
 ほんのりと桜色の色っぽい頬。しかしいつになく姫子が攻撃的なのがわかる。
「姫…」
「わたくし、いつまで待てばよろしいんですの? プリンスさんのところから命がけで救ってくださったあの必死さ。アレはただの任務でしたの?」
 完全にからみ酒だ。
「おい。風間。こいつは」
「うむ。間違いない。自白剤が酒に混じっておかしな作用を起こしている。本音の吐露だけではなくやたらに攻撃的な」
「って…本当に何か混じってたのか?」
 ジョークでやった毒見が実はあっていたと知り愕然とする上条。
「飲まなかったおれらはまともだけど…どうするよ? 解毒の出来る姫ちゃんがやられてるんじゃ」
 七瀬を抑えながらみずきが言う。
「十郎太様。本当は殿方のみずきさんがよろしいんですの? わたくし、ニセの女の子に負けるほど魅力がありませんか?」
「姫! 誤解でござる」
 酔っ払いに正論は通じない。酔っているのにマリオネットは正確に作用する。姫子の手に薙刀が。
「こうなったら十郎太様と拳で語り合いたいと思います」
「いいね。じゃアタイはカズと」
「そーだねー。ボクもちょっといらいら」
「私もあのときのことが」

 あろうことかみずきvs七瀬。上条vs綾那。榊原vs真理。そして十郎太vs姫子と言う正月スペシャルマッチが実現してしまった。

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