第36話「やまとなでしこ大暴走」Part3   Part2へ戻る

「そっ…そんなっ!? 姉様と十郎太様が戦うなんて」
 もはや隠れて窺ってなどいられない。思わず飛び出た愛子である。
「愛子様!?」
 驚いたのは十郎太。さすがの彼も気を緩めていて愛子の存在に…正確に言おう。
 愛子が隠れて窺っていたことを気づいてなかった。
 だがそこからはさすがに違う。すぐに薬の出所に察しがついた。
「あの味…そして愛子様…葉月。弥生!!
 これまた珍しく怒気を孕めて怒鳴る。

「あっちゃあー。ばれてるよ。はぁちゃん」
 暗闇で隣にいる双子の姉に意見を求める弥生。
「だからやめとけって…」
「そんなことより…どうする?」
「……」
 黙っていても答えは出ない。そして
「いるのであろう! 出て参れ」
 ますます怒りをあらわにする兄の声。
 逃げると余計に自体が悪化すると判断したふたりは、観念して愛子のいた部屋の天井裏から降りてきて姿を見せた。

 その愛子は固まっている四人の前に立ちはだかる。
「姉様。皆様。どうか落ち着いてください」
 とにかく時代を収拾しようと四人娘をおとなしくさせようと駆け寄る愛子。手始めに姉を
「愛子さん…もしやあなたが十郎太様の思い人?」
「違います!」
 なにを言い出すんだ。この姉は…そういう心境だった。
 もっともとろんとした目を見れば正気でないのはわかる。
 そしてそれを引き起こしたのが自分と言うのも痛いほど理解していた。
「それじゃ上条君が好きなのはあなた?」
 後悔する暇すら与えず綾那までおかしなことを。
「だからどうしてそうなるんですかっ?」
 愛子がなんとか「酔っ払い」達を押さえ込んでいたが決壊は時間の問題。

「あ…あの、兄上…」
「えへへへー。お兄ちゃん。あけましておめでとー」
 おずおずとでてきた葉月と弥生。
「たわけ!!」
 凄まじい剣幕の十郎太に一喝される。思わず首をすくめる双子姉妹。
「ごめんなさいっ」
 愛子の名前も出せず、ただ頭を下げる葉月である。
 犯人探しより対策と考えた十郎太はそれ以上は問わず。代わりに別の質問をした。
「……それでっ……あれは里のものであろう。解毒剤はないのか?」
「ありませーん」
 恐ろしく場の空気に逢わない朗らかな声。
「ば…馬鹿。弥生」
 十郎太の目がますます鋭くなる。反比例してうろたえまくる葉月。
「あわわわ。兄上。あの自白剤は効果が一時間程度のものでございます」
「ちょっと寝たら効果がなくなっちゃうんですってー。だから解毒剤なんてわざわざ作ってないの」
「寝かせろったって…この酔っ払いたち。とんでもない雌トラだぜ」
 話を聞いていたみずきがげんなりとした表情に。上条が続く。
「ついでに言うなら『毒素』を取り除ける姫ちゃんや、無傷で『体力』を奪えもする若葉があっちじゃ…」
「上条君のばかーっっっっっっ。フラッシュショット
「ぐわっ」
 罵声を浴びせつつ綾那の飛び道具。虚を衝かれた上条はもろに食らってしまった。
「姫ちゃんはニックネームなのにボクの事は名前で呼んでくれないの?」
 いいがかりにしか聞こえない。愛子が平謝り。
「ご…ごめんなさい。上条先輩。ちょっと目を離したら」
 その隙に綾那が攻撃を仕掛けたのだ。

(こ…これは…本格的にまずいわ。なんとかしないと)
 とにかくおとなしくさせようと四苦八苦の愛子。
「さぁ皆さん。ちょっとお休みに」
「寝てられるか。カズ。今日こそアンタの浮気癖治してやる」
「え? 何で今そんなことを」
「うるさい」
 真理が咆えると、地を這う茨が榊原の首を絡めとり吊り上げる。いや。「釣り」あげだ。
 そのまま一本釣りのように後方へと投げ捨てる。

「こりゃあ…マジだな!」
 地面に墜落する榊原を見て冷や汗たらりのみずき。
「どんな勇気を見せたら魔法が答えてくれるんだ? それはさておき…妹さん! 風間の妹さん」
「はっ…はいっ」
 上条の問いかけに慌てて応答する葉月。
「一時間凌ぐか眠らせりゃいいんだね?」
「はい。それで効果はなくなります」
「……しょうがないなぁ……」
 上条はずいと前に出る。そして両手を広げる。
「さぁ若葉。撃ってこいっ」
 それを全てブロッキングして疲弊させ、一時間経たずに眠らせる作戦だったが
「ランスラッシュ」
 高速でダッシュ。スレ違いざまに手刀を見舞う技だ。
「ぐっ」
 息が詰まった。わき腹にもろに決まり蹲る上条。
「いっけねぇ…若葉と戦うなんて考えてないから技の分析なんかもしてなかったぜ…」
 それでモードチェンジ可能な特性を失念していたのである。
 対峙した状態で場所が少しずつ動いて行く両者。

「あああっ。上条までっ」
 榊原に続いて上条まで戦闘になってしまった。七瀬と口げんかならともかく殴りあいはしたいはずもないみずき。
「くそっ。七瀬っ。目を醒ませっ。正気に戻れよっ。あんまり心配かけさせんじゃねーよっ」
「『心配かけさせるな』ですって?」
 ギクッとなるみずき。
「アンタこそどれだけ私たちに心配かけたかわかってんの?」
 ストレスの多そうな七瀬である。切れると怖い。実際に目が据わっている。
「だ…だからこの前のことは悪かったって。謝ってるだろ。何度も」
 完全女性化以来立場の悪いみずきである。強く出れる要素がない。
「あんたっていっつもそう。居直る悪い癖。昔っから」
 「昔」嫌なキーワードが出てきたなとみずきは思った。
 七瀬を知る人に彼女の印象を尋ねると「女っぽい」と返されるであろう。良くも悪くも。
 普段はさらっと流している七瀬だが、意外と粘着質なところもある。
「五歳のときよね。おばさまがちょっと目を離した隙にいなくなって。あの時は私もお母さんと一緒に探し回ったんだから」
「そ…そこまで昔のことを引っ張り出すか?」
「今日はちょっとお説教したい気分。みずき。そこに座りなさい」
 上気した頬で妖しげなろれつで言われてもしたがう気になれない。
(こうなったら)
 みずきは逃げ出した。
「こらーっ。まちなさぁい」
 追いかけだす七瀬。どうやら薬が切れるまで鬼ごっこをするのがみずきの作戦のようだ。

 そしてその場には姫子と十郎太。普段の主従ではない緊迫した空気が漂う。
「姫…どうかお平らに」
 平常心を。そう言っている。
「うふふふふっ。十郎太様。今日こそはお聞かせいただきますよ。胸のうち」
 話を聞いていないのは姫子のほうだった。
「姫。拙者はそれを語るわけには参りません」
 心を捨てる。まさにそれでこそ忍びは忍びでいられる。
 だが恋慕の情を。それも主君相手に抱いていては…とても平常心でいられない。
 語ると言うことは、認めると言うこと。
 だから出来ない相談だった。
「相変わらずお堅いですわァ。うふふふふっ」
 笑みを…ただし不気味と言う形容詞もつく笑みを浮かべている姫子。
 いや。無邪気と言うほうが近いか。
 幼い子供がいたずらを試みるようなそんな笑顔。
 いつもの全てを平等に愛する聖母の笑顔ではない。
 16歳の少女の、歳相応のそれかもしれない。
「それじゃあ…殿方の仰る『拳語り』をしましょうか」
 言うなり姫子は矢を番える。
(早弓! ダメだ。飛び矢返しは間に合わぬ。ならば)
 飛んでくる矢を払いのけて方向をそらす。ブロッキングだ。
 姫子は続けて矢を放つが、今度は十郎太も体勢が出来ていた。防御でなく受け流したことで硬直せず次の技へと移行できたのだ。
 右手の人差し指と中指で矢をはさみ取ると、そのまま姫子に投げ返した。
 狙いは弓そのもの。
 そしてそれは見事に当たり、彼女の左腕から弓を落とさせた。
「御免!」
 十郎太は高々と舞う。
 なるべくダメージを与えないようにするためには、膝から落ちて相手の上半身にダメージを与える「膝落とし」はダメだ。
 落下の際に相手の両肩をつかみ、勢いを利用してそのまま投げ飛ばす「肩投げ」が狙いだった。
(背中…いや。尻から落とせばそんなに痛めずにすむ。それでも怯むはずだからその際におとなしくなっていただく)
 だが失念していた。姫子の武具は弓だけではなかったのだ。
 その右腕には愛用の薙刀が。
(しまった!)
 ときすでに遅し。空中でガードは出来るはずもなし。攻撃態勢だった故にブロッキングも出来ず、そのまま薙刀に迎え撃たれていた。

 実のところ榊原和彦は投げられることには慣れていた。
 何しろ姉にはしょっちゅう投げ飛ばされていたのだ。
 姉が怪力なわけではない。ただ相手の力の利用が上手いだけである。
 あるときは姉の言葉に突っかかり。またあるときはただ単に姉の八つ当たりでいいように投げられまくっていた。
 それで回転とかには強くなるからおかしなものだ。もちろん受身も達者になる。
 つまり真理に叩きつけられたと思ったが、意外にもダメージは少なかった。
「ってて。せっかちな奴だな。押し倒すならこんな地面じゃなくて、やわらかいベッドの上にしてくれ。だいたい外でするにゃ寒すぎる」
 本気なのか。冗談なのか。半身を起こしながら言う。
「くぉら」
 まだ半身起こしていただけの榊原の胸倉をつかみ、一気に持ち上げる真理。
「アンタはなんだってそうなんだ? このすけべ」
「しょうがないだろう。オレはこういう人間なんだから。承知で惚れたんだじゃないのか?」
「惚れた? だだだだだだ…誰が誰に?」
 赤くなってどもる。
「お前がオレに」
 さらっと言う榊原。照れと言う感情がないのかとすら。
 とぼけているわけではなさそうな真理に、ふざけているわけでもなさそうな榊原。
「ふざけんじゃないよ。アタイが待っているのはあんたみたいなすけべじゃないっ」
「じゃどんなんだよ?」
 いわれた途端に真理は手を離してしまう。たいした高さでもないので難なく着地の榊原。
「そりゃ…決まってるじゃん。『白馬に乗った王子様』だよ」
「…………はい?」
 しかし夢見る様子の真理を見ているとウソや冗談とも思えない。
 そう。彼女は男に対しては絶望していた。それゆえに逆に理想が高くなった。
 まして男に免疫のない真理。言い換えれば「オトコを知らない」。だから出た幻想。
 いつもは完璧にバリケードを築いて本心を見せない。
 しかしこの薬のせいで吐露してしまった。
 表現が違うか。自分で知らなかったものを自覚したと言うべきか。
「だからカズ。アンタを『王子様』にするための再教育だ」
「……これだから酔っ払いって奴ァ……」
 脈絡のない理屈にはいつも閉口していた。
 しかしぼやいていたのがまずかった。真理の右腕が迫っていた。そして対処が遅くなった。
「スレッジハンマー」
 うなる右腕が榊原ののど元に叩きつけられた。真後ろに倒れ込む。
 鍛えようのない箇所に食らい、激しく呼吸困難に陥る。

 苦戦していたのが上条だ。
 今の綾那は高速戦闘のスラッシュモードだった。
 もともと身軽で足の速い綾那である。
 最初こそ振袖が邪魔であったが慣れてしまった。
 本調子となると高速ゆえに捉え切れなかった。
 まして薬で自制心がなくなっている。リミッターを解除していた。
 むしろいつもより速い。
「加速装置ってか?」
 こんなときでもいつものボケは忘れない。むしろ平常心の証か。
 そんな上条に綾那が真正面から突っ込んで行く。
(龍気炎で行くか? いや。あのスピードじゃ今から間に合わない。ならばブロッキングして飛龍撃)
 瞬時に纏め上げる。ランスラッシュを見越してブロッキングを「置いておく」
 ところがこれはただのラッシュ。寸前で止まる。ブロッキングは不発に終わる。
 そしてその読み違えで出来た時間に力技のクラッシュモードへモードチェンジ。
 綾那は上条の胸板に蹴りを見舞った。
 小柄軽量といえど全体重を乗せたけりだ。一瞬肺がつぶされたような気分の上条。
 物理的に行けば上条は上体を後方にのけぞらせる格好になる。
 だがその前に上条の胸板を踏み切りにして、のけぞって行く顎を蹴り上げるのだからたいした身軽さだ。
 ブレストクラッシュと呼んでいた技だ。
 たまらず倒れ込む上条。綾那のほうも技の後で後方へ飛ぶので二人の距離が開く。
「どう? 明くん。ボクだって子供じゃないんだよ。怒らせると怖いよ」
「いや…怒られてもなぁ…」
 さすがに乱闘なれしている上条。後頭部を地面に打ち付けるようなへまはしない。
「若葉。今君は自白剤を飲んでいる形で本音で喋っている。だから僕も本音で答えるが…正直どうやって君と接すればいいのかわからないんだ? どうしてそんなに僕のことが」
「どうして明君が好きかって…」
 きっかけは助けられたことである。でもどうして好きになったのか。そこまでは自分でもわからなかった。
「いやぁん。恥ずかしいぃぃ」
 照れて出したのが踏み込んでのアッパー。フラッシュアッパーである。
 話をする体勢だったので上条はガードもブロッキングも出来ないままにもろに食らった。

 逃げまくっていたみずきだが何しろ振袖。
「きゃん」
 見事にすっ転んだ。足の遅い七瀬でも追いつく。
「追いついたわよ。みずき」
「しつこいなぁ…」
 こうなると元々気の短いほうのみずきである。ましてや七瀬はけんか友達とも言えた。
「迷惑かけたからと人が下手に出てりゃあ…いい加減にしろよ!」
 可愛い声で男言葉。しかも振袖だから余計にアンバランス。
「なによっ。どこが下手なのよっ」
 なんだかこの段階では薬の影響なんだか地なんだか…
「もう充分に謝っただろうが。コスプレまでさせられて」
「どうだか。喜んでたんじゃないの?」
 カチン。確かに可愛く飾られることが嫌ではなかった。それを指摘されてカチンと来た。
 だからイジワルな言葉が口をつく。
「はん。お前じゃあの衣装着れないしな。正月で食べまくったら自分の服もきつくなるんじゃないか」
 悪い意味での女っぽさが出た。七瀬は俯く。肩を震わせている。
「お…おい? 七瀬」
 七瀬が上げた顔を見てぎょっとなる。目に涙をためていたのだ。
(し…しまった!? 売り言葉に買い言葉といえど肉体的なものは…)
 反省しても遅かった。
「み・ず・き・のぉ」
 思い切り踏み込んで体重の乗った右の平手がみずきの左頬を打ち、逆の手が反対側の頬を叩き元に戻す。
 最後には両方からサンドイッチだ。スタッカートの三連発。そしてアレグロと呼ばれるけりで
「ばかーっっっっっっ」
 そのまま高々と蹴り上げる。

「お兄ちゃんも姫子様も両方がんばれー」
「このバカモノっ」
 能天気にあおる妹を殴りつけて黙らせる双子の姉。そして不安いっぱいな瞳を主君に向ける。
「ど…どうしましょう? 愛子様」
「うーん。解毒剤がないんじゃこのまま一時間待つしかないけど…持つのかしら?」
 持つのが体力なのか屋敷なのか…不安で聞けない葉月であった。

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