第37話「雪山パニック」Part3   Part2へ戻る

 ゲレンデへと出る上条たち。この日はやや曇り気味。
「みーちゃん風邪を引いて、今日はお休みなんだって」
 騒動のときは脱衣所でのん気に喋りながら服を脱いでいた綾那が男子たちに言う。
 救出した真理だが『そこまでは面倒見れるか』と言うように肩をすくめて見せる。
 疲労から来る体調不良なら綾那が体力補給と言う手段があるし、ウィルス性なら姫子の「姫神」が除去できたかもしれない。
 ただ部屋がばらばらで外で集合してからそれを知らされてどうしようもなかった。
 幸い寝てれば治るレベルの軽いものらしい。だから安堵していた。だが別の心配が。
「おいおい。また自分が『本当は女の子』なんて言い出さないだろうな?」
 上条が思わずそういう心配をするほどあの事件は強烈だった。
「うーん。軽い風邪でそんな意識朦朧とするほどじゃないから大丈夫だと思うけど」
 自分の不安を振り払うかのように七瀬が。
「今は思い切り女らしい髪形してるしな。勘違いしやすそうだ」
 これは真理の言葉。
「そうかしら? 前のスーパーロングの方が女の子っぽかったんじゃ」
「いやいや。何しろ及川とお揃いの髪。アイツにとっての『女』の髪だし」
 榊原の言葉で七瀬の白い肌に朱が散る。
「や…やだ」
 照れてはいるが強い否定ではない。ほとんどノロケ状態でみんな馬鹿馬鹿しくなってしまった。

「それじゃあ今日はまずは初級コース。自信のあるものはその後で中級コースに挑戦してもよい。最後はフリーで滑らせてやるぞ」
 藤宮の言葉の最後の部分で湧き上がる。

「あ゛ーっっっっっっ」
 1年1組から順にこなしていく。今の悲鳴は麻神久子のものだ。
 どこをどうやったのかスキーだけが揃った状態で元の位置にあり、本人が背中でそりのように滑っていく。
 待機している面々は笑うと呆れるを通り越して呆然としている。
「大変。助けに行かなくちゃ」
 さすがに親友の谷和原友恵はすぐさま救援に駆けつけようとする。
「が…がんばってね」
 薄情なわけではない。佐倉みなみは滑れない。足手まといにしかならないのだ。だから待機。

 その様子は後方で待機する2組の面々にもよく見えていた。
「なにやってんだ? あいつ」
 こちらは呆れている真理。一度やりあった仲ではあるが、誤解も解けてそれなりの関係に。だからこんな言葉も出る。
「うーん。みずきもアレやりそうよね」
 七瀬の言葉にみんな頷く。考え込みもしない。みんな確信していたのだ。
「十郎太様。スキーにはああいう滑り方もあるんですの?」
「むぅ。拙者にもとんと。だが学びの場でやるからにはあるのではないかと」
「おいおい。そりならともかく体で滑る訳ないだろ」
 仲間内なので優等生の仮面を外して、ざっくばらんに榊原が言う。

「へーっくしょい」
 宿舎に残されたみずき。盛大にくしゃみをする。
「あらあら。可愛い顔しているのに、まるで男の子みたいなくしゃみをするのね」
 保健医は見たまんまを述べたに過ぎないが、それが最大の秘密であるみずきにしてみれば単なる言葉のあやと知りつつもギクッとなる。
「そ…そうなんですよぉ。あたし意外に男っぽいところもあるから」
 今でこそすんなり『あたし』と言えるようになってしまったが、当初は地のままに『オレ』と口走っていたみずきである。
 それを考えりゃくしゃみが『ボーイッシュ』でも不思議はない。
 そう思ったのか保健医は深く追求しない。
「みんな心配して噂話かしら?」
「きっと七瀬たちですね」
 さすがに付き合いが長い。いきなり看破した。
「はいはい。もうちょっと寝てなさい。明日には東京に帰るんだから、それまでに少しでも良くしておかないと」
 決して事務的ではなく、優しく保健医は寝かしつける。
「はぁーい」
 実際にちょっと会話と女の子のフリに疲れて、素直に目を閉じる。
 あっという間に可愛い寝息を立てる。
 少し前までのスーパーロングより、美容師によって整えられたセミロングがみずきをより女の子らしく見せていた。

 初級コースをクリアして中級コースでの滑降。それも時間が迫ってきた。
「よし。それじゃ今から五時まではフリーで良いぞ」
 わぁーっと湧き上がる歓声。
「言うまでもないがこれも授業の一環だ。周囲に迷惑など論外。もちろん他所の学校相手のトラブルもな」
「せんせーい。こんなとこまで来てけんかなんてしたくないです」
 このまぜっかえしにどっとわく一同。
「それもそうか。それでは…開始」
 藤宮が宣すると我先にリフトへと並びだした。

 ペアリフト。上条のとなりにちょこんと座る綾那。
 微笑ましいのだがすぐ後ろのリフトに乗った嘉部は憎悪の炎を燃やす。
 乗り合わせた女子が怯えるほどの業火。
(ここであいつを叩き落してやるか? いくら下が雪でも怪我くらいは…ダメだな。「射程距離」から離れている)

 ここで言う「射程距離」はマリオネットの攻撃。あるいはマリオネット自体の出現可能な距離である。
 マリオネットのパワーと反比例して「射程距離」は短くなる傾向がある。
 本体がエネルギーを供給しているのだ。遠くなるほど弱くもなる。
 逆にマリオネットが小型でパワーの弱いタイプだと、遠距離でも使うことが出来る。
 人型をしているものはたいていが近距離タイプ。
 七瀬のダンシングクィーン。綾那のマドンナ。榊原のビッグショット。そして斑のゴーストフェイスキラーも。
 例外が姫子の姫神。人の形だが遠距離操作可能。ただし瞬間移動限定だが。
 真理のガンズンローゼスは茨のツタだからかかなりの遠距離まで伸ばせた。
 ちなみにゴーストフェイスキラーの頭部だけ独立したリトルデビルは遠距離タイプ。
 切り替えられると言う珍しいタイプだ。
 もっとも斑の魂が肉体に結ばれているときは燃やす能力。
 霊魂だけのときは他者の肉体から本来の魂を切り離して、斑の魂をくくりつけてしまうと切り替わりもしていたのでもともと変り種だ。
 余談だがこの魂を入れ替える能力は自動で発動する。
 だから複数いても相手は選べない。
 正確に言うと一番入り込みやすい肉体を自動選択する。
 斑は過去の経験から女性の肉体に入るのは嫌がるが、例えば一メートル先に女性。五メートル先に男性なら本人の好みと関係なしで近い女性とくくりつけようとする。
 あるいは魂の結びつきが希薄なほう。つまり切り離しやすいほうを選ぶ。
 もし魂が初めから抜けている肉体があれば無条件でそれを選ぶだろう。
 だから斑は入れ替わるときは狙った相手に密着する。
 閑話休題。

(まぁいい。いくらでもポイントはある)
 とりあえずそう思うことにして、どす黒い胸のうちを隠す。

 中級コースで並ぶ上条と綾那。
「ようし若葉。下まで競争だ」
「いいよー。負けないから」
 最初のころと比べて随分と打ち解けた上条の態度である。
 教室でも遊びでも一緒。ともに戦ったり、果てはキスまで。
 しかも二度目は無限塾と帝王学園のボクシング対校試合のリング上で、衆人環視の状態で。
 それでは距離が縮まらないほうが変と言うもの。
 もちろん逃げると言う危険性もあるが、今の上条は二人でいることに抵抗がない。
 元々そんなものはないと言うべきか。どう接して良いか戸惑っていた。それが正解であろう。

 しかし二人の距離を一段と詰めた二度目のキスは、殺意の刃を向けさせてもしまった。
 懐にしまった『それ』をひた隠し、嘉部敬夫はひたすらチャンスを待つ。

 高速で滑っていく上条と綾那。そしてついていく嘉部。
 スキーの技術は子供のころからやっていたので自信があった。
 スキーリフトの支柱のあたりで簡単に上条を追い抜く。そして隠していたものをその進路上に。

 真正面に迫ったリフトの支柱である鉄塔。当然それを避けるべく動く。
 スラロームの関係で右へよけようとする。ところがその進路上に透明な板が。
(なんだって? どうしてこんなところにガラス板が?)
 唐突に現れたその一メートル四方の正方形が上条を左側へと押し返す。
 さらにその先に同じものが今度は敷かれている。
 上を向いてジャンプ台のように。加速をつけてそれに乗り合わせてしまった上条は鉄塔に向かって飛んで行く。
「上条君?」
 驚く綾那だが突然のことの上に距離が離れすぎて何も出来ない。
(上手く行ったっ。そのまま鉄塔に頭を打ちつけてくたばりやがれっ。いや。鉄塔の隙間に首をはめ込んで絞首刑の方が良いかな?)
 無表情で黒いことを考えている嘉部。しかし
「Daa!」
 なんと「第三の腕」が現れて鉄塔を殴った。それで激突は避けられた。
(な…なんだと? マリオネット?)
 狼狽する嘉部。無理もない。まったくそのデータはなかったのだから。
 いや。上条本人も自覚はない。
 このマリオネット。上条は「もし僕にマリオネットがあるなら、アクセルなんて名前で行きたいね」と言っていたのでアクセルと呼ぶことにする。
 榊原のビッグ・ショットは恐ろしく集中するか、無我の境地…むしろボーっとしている。寝ているときはなおさらよい。
 そんな状態でないと予知が発動しないと言う扱いにくさだが、このアクセルに至っては神気と破気を同時に発生させないと出現しない。
「生かす」神気と「倒す」破気。まるで正反対のものだが、上条はその二面性があった。
 この場合は『自分を生かす』のと『状況に対する怒り(こんなところで死んでたまるか)』が発動させた。
「DADADADADADAAAAAAAAAAA!!!!」
 猛烈なナックルのラッシュを奇声とともに繰り出す上条のマリオネット。
 今度はその衝動で鉄塔から弾け飛ぶように離れる。その衝撃でスキー板が外れた。
「上条君っ!」
 落下予想地点に綾那が駆け込む。そして
「マドンナ」
 彼女の持つエナジーを吸収・蓄積・補給できるマリオネットが翼を広げて宙を舞う。
 上条のキャッチを試みるが落下の衝撃で受けきれない。
 しかし落下のエネルギーは著しく減少した。
 およそ2メートルの高さからの落下だが、下が雪のため衝撃は吸収された。
「大丈夫? 上条君」
 綾那が慌てて滑って寄る。
「ああ。おかげで助かったよ。しかしどうしたあんな不自然な動きを? 何かガラス板のようなものが」
「とにかく立とう」
 綾那に促されて立ち上がろうとするが、さすがにふらつく。
「うわっ」「きゃあっ」
 そのままなだれ込むように綾那を押し倒してしまった。
 ぶちっ。監視していた嘉部の中で「何かが」切れた。
 見ているとは知らず見詰め合う上条と綾那。押し倒された形の綾那が

「あの…優しくしてね」

 どこで憶えたのか目をつむってそんな台詞を言う。
 嘉部紀夫のガマンが限界に達した。
「わ…若葉…冷てっ」
 場違いなムードに酔いかけたが、頭に雪玉を食らって中断させられる。
 投げた人間を探すと怒りで真っ赤になっている嘉部が。
「雪合戦でもないのにこんなものをぶつけるなんて。さては君は雪玉の中に石を入れるタイプだな」
「石そのものをドタマに食らわせてやりたかったがな」
 言いながら嘉部はマリオネットを出現させる。
「見えるだろ?」
「お…お前も…」
 狼狽する上条。とりあえず笑みの出る嘉部だが
「プロデューサーだったのかっ?」
「………はぁ………?」
「あれ? 知らない? アイドルを育成するアーケードゲーム」
「知るか!」
「それじゃ…僕に変なジャンプをさせた人間のことも知らないかな?」
 こんなトラブルの後で挑発してくるマリオネットマスター。むしろ短絡的に直結させたほうか。
「ふっ。だったらどうする?」
 やっと挑発に乗ってきたのだ。思わずにやりとする嘉部だが
「うん。君の顔は覚えた。次に近寄ってきたら悲鳴上げて逃げ出すことにする」
かわされてしまい呆然とする。
 それにはかまわず上条は自分のスキーを履くと綾那のそばに。
「さぁ。行こうか。若葉」
 いつもはつっけんどんなのにこんなときに限って、綾那が立ち上がるための手を貸したりしている。
「ふざけるな」
 怒声とともに上からまるでギロチンの刃のようにガラスの正方形が降りてきた。
「わっ?」
 思わず手を放した上にスキーが滑り出して下へと。しかも次々に現れる「壁」が上条の滑る方向を誘導していく。
「ちょ…ちょっとぉ」
 倒れた姿勢ゆえに彼女には嘉部の声だけが。やっと立ち上がったときは二人とも消えていた。

 スキー場の外れ。危険なためエリアからは外れている。海で言うなら遊泳禁止区域。なにしろ断崖絶壁になっている。
 だから人がいなかった。上条明と嘉部敬夫以外は。
「しつこいなぁ。なんでそんなに僕に突っかかるわけ?」
 上条にしてみれば別のクラスでほとんど見たことのない相手。恨まれる理由が思いつかないが、この鋼の無神経が逆なでしている。
「貴様…オレの綾那の唇を無理やり奪っておいて」
 「オレの」でもなければ、キスしたのも綾那のほうから。都合よく解釈しすぎである。
「別に。若葉が僕についてくるだけで…」
 ふと考え込む。確かにはじめのころは疎ましかったが最近はそうでもない。
 むしろ声を聞かないと落ち着かない(好意を抱いたのには彼女が声優じみた声なのも理由の一つにあるが)

「とにかく…テメーを殺せば若葉はオレになびく」

 何の根拠もない思い込みである。だが得てして思考のおかしな人間はこの手の勘違いをする。
「やるしかないのか?」
 あんまり気が乗らない上条。
「ふふ。だがテメーにオレは倒せねぇ。オレのマリオネット。『ザ・スクエア』は鉄壁の防御壁。テメーの攻撃は届かない」
 得意げな嘉部。
「なるほど。じゃ攻撃能力はないんだな。それなら…逃げるんだよぉぉぉぉ」
 スキーでさっさと逃げようとする上条の前に正方形が立ちはだかる。方向を変えたらそちらにも出現。
「言い忘れていたがオレの『ザ・スクエア』複数枚を出せるぞ。どの方向にも逃げられない」
「……つまり、このヌリカベを消すには君を倒すしかないわけか…仕方ない」
 上条はスキー板を脱いだ。嘉部も続く。
「やっとその気になったか」
 言葉こそ好戦的だが嘉部は立ったままで構えもしない。
 一方の上条は両足を開いて気を高める。
「ちょっと痛いけど、負傷を治せるスタンド使いがいるから安心しろ。龍気炎
 両手のひらから火の玉が出る。しかしそれはザ・スクエアに阻まれる。
「だから言っただろう。攻撃は届かないと」
「くっ。手ごわいな。クリスタルウォールはっ。それなら」
 上条は足場の悪い雪の上を走り出す。嘉部は動かない。
飛龍撃
 気を使い飛び上がるアッパーカットなので足場は多少悪くても跳べる。
 至近距離からの一撃だがザ・スクエアはびくともしない。
「この手もダメか」
「ふっ。わかったようだな。そしてこの防御壁。攻撃手段もあるんだぜ」
 言われて上条の脳裏に先刻のシーンが蘇る。上を見るとまさに壁がシャッターのように下りてきた。
「フォール・ウォール」
「おっとぉ」
 マリオネットは操れないもの視認は出来るので何とかよけた。
「ふふ。見えていることが逆に恐怖だろう。さぁ。どんどん行くぞ」
 もう一枚が出現する。それが降って来る。何とかよけるがもう一枚が。
 まるで上条を巨人が二本の足で交互に踏み潰そうとしているようだ。
(くそっ。これじゃなぶり殺し。交互に繰るんじゃ…なんで同時にしないんだ? もしかして自分のガードと合わせて三枚が出現。増えるほどコントロールが厄介に? 
それなら真正面のガードしている板が、上のガードに切り替わるまでタイムラグがあるはず。なら)
 板が落ちた瞬間、次が動く前に上条は飛んだ。
「龍尾脚」
 狙いは嘉部のてっぺんだ。しかし前方の盾はそのままでもう一枚の屋根が。
「なにぃ?」
「だから言っただろう。複数出せると。そして」
 その「屋根」に別の正方形が出現して繋がる。さらに上条を攻撃していた二枚と、本体の盾になっていた一枚も加わり五枚の「ザ・スクエア」が滑り台のようになる。
 その滑り台が上条を滑らせる。雪の上に投げ出されるが勢いで止まらない。
(こ…この先はっ?)
「断崖絶壁。オレは(自分の肉体の)手は出してないからな。鑑識しても貴様が足を滑らせた結果で落ちたように見えるだろうさ」
 口をあけた悪魔に飲み込まれまいとパニックになっている上条は、慣れてないこともありマリオネットも今度は出せない。
 まるでアリジゴクに落ちたありのように滑り落ちていく。
「消えうせろっ。奈落の底にっ」
 勝ち誇った嘉部の声と同時に上条の体が宙に舞い、谷底へと落ちていく。

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