第38話「夜と昼」
上条&綾那編

 目覚ましがなっているみたい…眠ぅい。でも起きなきゃ。
 ボクは何とかベッドから這い出した。朝の五時。
「ううっ。さむぅい」
 でも晴れているから走ってこなきゃ。雨が降ってなきゃずっとやってることだしね。
 ピンクの可愛いパジャマのボタンを外して…
「見ちゃダメ」
 写真たてには笑顔の上条君。これから着替えるのに恥ずかしいからあっち向いててね。

 ジャージ姿のボクはお家の前で柔軟体操。よーし。行くか。
 毎日のジョギング。中学の陸上部からの習慣。今では走らないと調子が悪くて。
「うーん。今日もいい天気。気持ちよく走れそう」
 ボクはゆっくりと走り始めた。

 時間が来て、目覚まし代わりのCDプレイヤーが作動する。
 今日の…と言うかいつもの目覚めの一曲は『バトルエンジェルサウンドトラック』
 その第二期バージョン。春から三期と言う話だけど深夜ならまだしも、U局だとウチは入らないから血の涙を流すことになるな。
 それはさておき寒くて布団から出られない。それなら
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
 寒い朝。僕は布団の中で「気」を高めてみた。しかし
「ううっ。やっぱ寒いな。うーん。気合入れれば寒さも平気かと思ったけどなぁ」
 そうでもないらしい。観念して僕はおきることにした。
「くそっ。ポール星人でも攻めてきたのか?」
 起きぬけで今のねたがでてくるとは、よし。寒いからか頭がすっきりしている。
 絶好長。誰も僕を止めることは出来ない…なんてな。
 よっし。とにかく起きよう。

「ちょっとお兄ちゃん。朝から何大声を…」
 あ。ちょっと声が大きすぎたか。輝が怒鳴り込んできた。
「悪い。うるさかったか?」
 ところが輝はなんだか顔を赤くしている。
「おい。どうした? 顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
 額に触ろうとしたら飛びのいて逃げた。なんだよ。その反応。
「もうっ。お兄ちゃん。なんてかっこうしているのよっ」
「とりあえず寒い格好だな」
 着替え中で上半身は裸だった。ちなみにパジャマのズボンはまだ脱いでない。
「ばかっ。知らないっ」
 ぷいっと振り返ると出て行ってしまった。なんなんだ? 一体…

 走り終えたボクはいつものようにシャワー。そしてドライヤー中。あーん。髪の毛乾かないよ。
 長いとこれだもん。でも短くはしたくないし。
「姉ちゃん。急がないと遅刻するぞ」
 えっ。やだ。もうそんな時間。きゃーっっっっ。急がないと。
「ママ。ごめん。髪の毛お願いっ」
「もう。綾那ったらのんびりやさんなんだから」
 あーん。ママの方がよっぽどのんびりだわ。
 えーい。まとめちゃえばわからないやっ。急いでお下げにしなくちゃ。

「いっへひまーふ」
 ボクはトーストをくわえたまま家から走り出す。
「一度でいいからトーストくわえた女の子と、廊下か曲がり角でぶつかってみたいものだ」なんて明君が言ってたけど、今ぶつかったら喜んでくれるかな?

 この時期は好きだ。堂々とマフラーが巻ける。まして風の強い日だとなおさら。
 今の僕の首には赤いマフラー。00ナンバーサイボーグみたいに黄色と言うのも考えたけど、やはり真紅のマフラーが男にはいい。
 いっそ自転車通学にすれば風になびくマフラーと言うのが出来るけど、なんだかカッパ娘やハイパードジ娘が自転車特攻かけてきそうなイメージがあるのでやる気になれなかった。
 だからいつも電車通学。
 そして今日は月曜。かなりの人数が少年ジャンプを読んでいた。
 ふっ。僕は土曜にはフライングゲットしてたけどね。
 もっともどこかでは金曜発売している店があるという伝説が…

 ふぇーん。電車二本くらい乗り損ねちゃったよぅ。これじゃ駅から学校までまた走らなきゃ。
 今日は部活ない日なのに朝から走りっぱなし。これじやまた痩せちゃうよぉ。
 七瀬ちゃんなんてボクのこと羨ましいなんていうけど、ボクは七瀬ちゃんみたいにふっくらと女らしくなりたいのに。
 痩せたい女の子はいっぱい仲間がいるけど、太りたいなんていうと変な目で見られたり、ひどいと怒られたり。

 今日は無事に登校が出来るかな。たまにいきなり襲撃あるからな。ウチの学校。
 だけどそんな願いも虚しく駅を出たところで恐喝だ。
 三人いるけどみんな私服だからサボりの他校生かな? ウチの学校を知っていたら間違っても近くでこんなまねは出来ないし。
 脅されている方もあどけない顔をしている。中学生くらいか。仕方ない。助けよう。だけど…あっちが東か。
 通りが東西に伸びているから朝日を遮るものが何もない。僕は騒動の東側に回りこんでから
「待て!」と言った。
「なんだぁ…まぶしいな」
 いぶしかげなワルの一言。別に僕は奴らの視界を遮るために朝日を背にしたわけじゃない。
 ヒーローは逆光の中から現れるものだから。
「その手を、すぐに離すんだ」
「へへへっ。正義の味方気取りかよっ」
「気取りじゃない…僕がジャスティス…フリーダムの方がいいかな?」
 ハイブローすぎて連中には理解できなかったらしい。
「てめぇも遊ぶ金をくれるってか?」
 三人いるものだから余裕だな。ま、どうみてもあの「C」たちよりは格が落ちるだろうけど。
「仕方ない」
 僕は足を七分に開いて腕を両脇いっぱいまで引き上げる。それを思い切り突き出して体の前でクロス。それを水平に開く。ここまでを流れる動作で。
 若干タメ気味に右手を下へ。左手を上に反時計回りに回す。
 右腕が八時。左腕が二時の角度で止めて
「変身!」
思いっきり右腕を突き上げる。もちろん左腕は折りたたんで引き締めてある。
「…………」
 おっ。びびってるびびってる。恐れをなしたか。
「……いこーぜ」「ああ。なんか虚しくなってきた」「あーあ」
 退散するか。それが賢明だ。
 なんだか「可哀相な人を見る目」の気がするが、とにかく彼を救うことが出来ただけでよい。
「危ないところだった…ね?」
 誰もいなかった。おいおい。人が戦っているうちに逃げたわけ?
 まぁいいか。さ、急ごう。

 人助けをしたのでいい気分。そのまま僕は教室へ。お。みんなはもう来ているな。
 それじゃ朝の挨拶を一発。まずは一番手近な赤星相手に。
「おはよー。赤星」
 きょとんとしているな。こんな表情していると完全な女の子のように思えてくるあどけなさ。
 その話はおいといて、さて。次のこいつの反応は
「今日はやたらに元気だな。何かいいこと有ったのか」
 くっ。なんて期待通りの反応。思わず嬉しくなってくる。赤星の方はふしぎそうに見ているが。
「グッドコミュニケーション」
 思わずサムズアップまででちゃった。

 ああもう。お気に入りのセーラー服だから、せめて今年くらいはもったいないからきさせて欲しいとお願いしたら通っちゃったけど…二年生になったらちゃんとみんなと同じ制服にしないと。
 だってみんなジャンスカとボレロなのにボクだけセーラー服だから目立つんだもん。
「若葉さん! 遅刻すれすれですよ。時間を守れないルーズさが悪への道を開いてしまいます。気をつけなさい」
「まだ遅刻じゃないよー」
 まじんちゃんが週番でもないのに取り締まってる。えーい。逃げちゃえ。
 キーンコーンカーンコーン。きゃーっ。予鈴だーっ。ほんとに急がないと。今度は先生に怒られちゃう。

 ぎりぎりで教室に飛び込んだボク。やったぁ。ぎりぎりセーフ。
「おはよ。綾那ちゃん」
 七瀬ちゃんはさすがにもう学校に来てた。真面目だなぁ。偉いなぁ。
「おっはよー。七瀬ちゃん」
 あれ? 七瀬ちゃんが不思議そうにボクを見てる。もしかしてやっぱりおかしいのかな?
「ねー。三つ編みおかしくなぁい? それを手こずってて遅くなっちゃった」
 七瀬ちゃんと姫ちゃんがチェックしてくれる。
「ちょっと乱れているわね。ショートホームルームが終わったら梳かしてあげる」
「ありがとー。七瀬ちゃん」
 うー。優しいよね。七瀬ちゃん。やっぱりいいお嫁さんになれそう。
 あれ? みーちゃん何か御用みたい。髪の毛切ってもらいたいみたい。
 いいなぁ。そんなことを頼める仲なんて…

 授業が進み今はお昼休み。僕と榊原。そして村上は今日は学食。
 後の面々は教室で弁当。
 食券を買って並ぶけどかなりの列。それでもここはまだましで、パン売り場はハードな展開をしている。
「焼きそばパン。最後だよ」
 売店のおばちゃんが声を張り上げるといっせいに生徒たちからリアクションが。
「おばちゃん。それ頂戴」
「こっちが先だぞ」
「僕は150円出すから」
 定価は130円。その値段だけど人気メニュー。今も見ての通り争奪戦。
「こっちは160円」
「170円」
 なんだかオークションが始まってしまった。僕は今日は定食だけどね。

 お昼ごはん。お弁当はちゃんとかばんに入ってる。ちょっとでも食べないとまた痩せちゃうもんね。
 それにしてもみんなのお弁当も美味しそうだなぁ。七瀬ちゃんなんて自分で作るから偉いよねぇ。ン? あれ?
「七瀬ちゃん? 今日のお弁当は甘いもの多くない」
「そうですわね。いつもはもっとお野菜が多かったかと」
 姫ちゃんもチェックしてたの?
「えへへへ。実はちょっと体重減ってて。それならちょっとくらい甘いものもいいかなぁって」
「へー」
 そんなに太ってないのに。いいなぁ。七瀬ちゃんはふくよかで。女らしいもん。
「ボク、体重減らさなくていいからもうちょっとおっぱい大きくしたい…」
 ガリガリはいや。

 Aランチゲット。榊原と村上も今日は学食なので三人でお昼。
 なんだかこの二人も随分と仲がよくなった。
 特に村上なんて1クール目…じゃなくて、であった頃のつんつんしたトゲがなくなってきたかな?
 これが「ツンデレ」と言うものか? やっぱり『真理』と名がつくと最初はとんがってないといけないのかも。
「なぁ上条」
 これはその村上の台詞。女の子なのにこっちを苗字で呼び捨て。本人に言わせると『明』は発音しにくいらしい。
 ちなみに食べているのも渋くかけうどん。金がないと言うのもあるらしいけど、呑み過ぎで胃が荒れてるとか…
「なにかな?」
 トリの唐揚げを飲み込んで返答。うん。唐揚げはポニーテールの女の子に取られるかも知れないからさっさと食べた方がいい。
「あんたいったい、綾那のことをどう思ってんだ?」
 興味本位と言う感じじゃない。かなり本気の目。
「ん〜何のことかな? ふふふ」
「きさまっ。それは俺のセリフだぞっ」
 あ。いたんですか。網場先輩。
 夏と言うか秋と言うかわかんない時期に変身能力で随分と手こずらせてくれた人。
 最後は屋上から落ちたところを風間に助けられて、それでびびったのか二度とちょっかいはかけてこなくなったけど。
 そう言えばこの人といい、いつだかの須戸さんといいこの前の嘉部も。
 みんな僕に手を出してくるけど、僕が何か恨まれる様な事しました?
「あんたは黙ってろっ」
 村上に怒鳴られて引き下がる先輩。
 一年女子にそんな風にやられたら笑いものだろうけど、村上に関しては例外。
 あまりの男前(?)ぶりに学年超えて支持されている。特に女子に。
「まぁ待て。真理」
 榊原が彼女を名前で呼ぶのも今ではもう当たり前になった。ほんのちょっと羨ましい気も。
「どうって言われてもね…若葉については仲のよい友達と言う感じだよ」
 あれ? なんだろ。軽い違和感。自分のセリフなのに?
 どこが心に引っかかったんだろう?
「あんたなぁ。この前のスキー合宿でアレだけ必死になってあんたを助けたあいつに何も感じないのか?」
 ああ。そういえば他にも色々と。
「正直さ…よくわからないんだよ。どうしてあんなに僕に対して一生懸命なんだろうと」
 う…村上がまた怒ってる。
「このバカ! マンガばっかり読んでるから現実の女との付き合い方がわからなくなるんだっ」
 怒鳴ったらそのままうどんにかかりきりになってしまった。
 カレーのスプーンを手にした榊原が肩をすくめる。
 それにしてもなんで僕が村上に怒られなくちゃならないわけ?

 今日も寒いしご飯食べたらそのまま教室。そろそろ来るかな?
 なんていってたらみなみちゃんが遊びに来た。
「みなみちゃーん。待ってたよ」
 最近は寒いからか毎日教室。それでみなみちゃんの占い。よく当たるの。不思議。
 もしかしたらみなみちゃんもマリオネットマスターかと思ったけど、別にそんな様子もないし、マリオネットの映像も見えない。
 今日は明くんとボクの相性を占ってもらう約束なんだ。
 ううん。相性と言うより「明君がボクのことをどう思っているか」だね。
 いつまで経っても「若葉」なんて呼びかただし。
 そりゃみーちゃんと七瀬ちゃんみたいに長い時間のお付き合いじゃないけど。
 もしかすると迷惑してるのかなぁ。いきなり押しかけて。
 でもそんなこと本人に聞けない。だからいないときに占ってもらうの。

 タロットカードを裏返して混ぜ混ぜ。いつもは気の弱いみなみちゃんが、このときだけはなんだか神秘的。それだけ占いには自信あるのね。
 カードを並べてめくった時にその表情が曇る。うっ。もしかして
「綾那ちゃん。いい難いんだけど」
「なに? 上条君に好きな女の子がいるの?」
「それが」
 やっぱりよくない結果?
「ちょっとまって。佐倉さん」
 なんとみーちゃんが声をかけた。あんまり付き合いがないせいか、逆に女の子に見えるように言葉に気をつけているみたい。
「なぁに? 赤星さん」
「うん。佐倉さん。それ…恋占いじゃないよ」
「えっ!?」
 言われたみなみちゃんはカードの並びを見直す。見る見るうちに顔が赤くなる。
「ホントだぁ。ごめんなさい。綾那ちゃん。別の占いをしてたみたい」
「なぁんだ」
 よかったぁ。明君がボクの事を嫌っているなんて暗示だったらどうしようかと思った。
「でもよくない暗示ね。この場合だと『事故』とかに注意して」
「解釈によっては『怪我』かもね」
 みーちゃん…ホントは男の子なのにどうしてそんなに占いに詳しいの?
「凄いですね。赤星さん。カードの意味まで」
「よくしってたねー」
 みなみちゃんも不思議そう。照れまくるみーちゃん。
 それはそうと怪我かぁ。朝のジョギングの時に転んだり、捻挫したりするのかな?
 気をつけとこっと。

 放課後。今日は部活のある日だ。
 逆に若葉は陸上部のない日で僕にくっついてくる。
 別に漫研は部外者の立ち入りを禁止してないし、なにより若葉はみんなに人気。
 それにくっついてきたのも一度や二度じゃないし。

「やぁ」
…と、間抜けなアンドロイド風に挨拶。
「こんにちはーっ」
と、普通に元気なご挨拶の若葉。
「うぃーっす」
と、返事が。もう五人くらいで色々やってたみたい。
「早速だが上条。夕べの『ブラ・プリ』見たか?」
「いや。今朝はそこまで手が回んなかったし」
 「ブラ・プリ」と言うのは正式には「ブラッディプリンセス」と言う美少女ものアニメ。
 普段は冴えないメガネの女の子が、自分や他人の恨みのパワーで闇の姫君に変身していじめた奴をいたぶり最後には屈服させて奴隷にすると言うアニメ。
 日曜の26:40と言う「誰が見てるんだ?」と言う時間だけど、深夜にあった内容のせいか七月スタートでもう冬トレには本が出てた。
 もっとも普段は男を屈服させる「プリンセス」が逆襲され陵辱されるものばっかだったけど。
「俺は見てたから時間の変更に対応できたよ」
「げっ!? マジ? 時間変わったの?」
 みんな頷く。
「かーっ。これだから深夜枠は」
 どうやら録画予約をきっちりとってしていたらしい。
 僕はHDDレコーダー使ってるから三十分ずつ余計に録画している。
 けどもう一台ないとそろそろ厳しい。

 明くんと友達が楽しそうに喋ってる。うーん。ボクわかんない。
 でもいいんだ。明くんが笑っているのを見ていると、それだけでボクも嬉しくなるから。
「若葉は深夜枠見てない?」
「ボク…アイドルの番組しか見ないから」
 そういうとみんなため息。あれっ。がっかりさせちゃった?
「なんで…なんでなんだ?」
「こんな可愛い子が…非オタクなのに」
「俺らから見ても濃すぎるオタのこいつにぞっこんなんだ?」
「しかもアイドルファン…それなら男に対してもっと要求が高くなりそうなものを…」
 みんな勝手なことを言ってる。
「ちょっと。あ…上条君のこと悪く言わないで。ボクがオタクならいいんでしょ?」
 こうなったらなって見せるから。ボクは明君の顔をまっすぐに見据える。
「待っててね。上条君。今はまだよくわからないけど、ボクきっとオタクになって見せる」
 そういったら一瞬静かに。そして拍手が。え? なんで?
「すばらしい。ここでその台詞が出るとは」
「確かに素質はあるかもしれない」
「上条。お前が責任持って教えてやれよ」
 あれ? なんだか変なほうに。

 部活が終わるともうすっかり暗く。
 みんなも帰っちゃったみたい。
「若葉。ちょっと時間あるか?」
 え? 明君…それって。
「アニメショップに付き合わないか?」
 う……どうしよ。ボクあんまり知らない。でも誘ってもらえた…初めて…
「やっぱり嫌かな」
 「だめかぁ」と言う感じで頭をかく明君。ああっ。そんな表情しないで。ボクまで切なくなる。
「行く。アニメのお店でもゲームのお店でもどこにでも」
「よかった。女の子が多い店だから男一人は辛くってさ」
 明君と一緒ならどこにだって行きます。ましてやボクを頼りにしてくれたんなら。

 電車にほんのちょっと乗って、ちょっと歩いてお店に到着。
 わっ? 凄い。学校帰りみたいで制服の女の子や男の子がいっぱい。
 この人たちみんな「オタク」なのかな?
 そっかぁ。明君と同じ趣味の人がこんなにいるんだね。ボクもがんばってオタクになる。

 明君のお目当ては七階らしい。ところがエレベーター前がレジにもなってて大混雑。
 やだ。はぐれちゃいそう。そんな風に思っていたら突然ボクの左手が握られた。
「大丈夫か? 離れ離れになっちゃうとこだった」
 明君が手を握ってくれた! 例えそれが迷子にならないようにしただけでもいいの。
「う…うん。離れ離れは嫌だよね」
 ボクもありったけの力で明君の右手をぎゅっと握り締めた。


例え迷子になるのを防ぐためでもいい…この手を離したくない

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの酔生夢子さんに感謝!

 そしてそのままエレベーターに。ラッシュの電車みたいに人がいっぱい。ぎゅうぎゅう詰め。
 ボクと明君はぴったりくっつけられてる。それもたまたまだけど前向き同士で。
 ああっ。ボクの胸が明君の胸元にくっついてる。恥ずかしいけど…夢のよう。

 エレベーターから降りても夢心地のボク。ほっぺもあっつい。
「ふらふらしてない?」
「ううん。平気。平気だから」
「そうか。でも危なっかしいから」
 そういって明君はまたボクの手を。
 彼にしてみたら小さな子供を連れている気分かもしれないけどそれでもいい。

 そうして二十分くらい手をつないでお店の中を歩いていた。
 アニメショップが大好きになっちゃった。毎日でも一緒に来たい。

 若葉と別れて僕は家に帰る。あれ? 靴がある…上がると父さんがいた。
「父さん。今日はもういいの?」
「いや。着替えに帰っただけなんだよ」
 刑事の宿命かぁ…正義を守ると言うのは憧れるけど、こんなに大変だとちょっとなぁ。
「明。学校はどうだ?」
 たまに帰ったからか僕のことを聞いてきた。
「楽しいよ。色々あって。友達もいるし」
 まさかあんなに退屈しない学校だとは思わなかったけどね。
「担任の先生はどうだ?」
 何でそんなこと聞くんだろう? まぁどんな人間が担任かは気になるかな。
「うーん。正直あんまり好きになれない。入来先輩なんかは『去年まではひょうきんな明るい先生だった』というけど、とても信じられないや。
 例えるなら悪の組織で下克上を企んでいる副官と言うイメージで…」
「裏の顔…と言うことか?」
「あくまで僕の主観だけど」
「……そうか」
 一週間ぶりくらいの親子の会話はそれだけだった。本当に着替えだけ済ませると父さんはまた出て行った。

 ご飯の時間。今日一日のことをママと朝弥におしゃべりしながらのお夕飯。
「それでねそれでね。上条君がボクの事抱きしめてくれたの〜〜〜」
「まぁ〜〜〜それでキスくらいしたの?」
「もう。ママったら。さすがにそこまでは出来ないよ〜〜〜」
 ママは話がわかるので助かる。
 昔はママもお父さんのことを追っかけて結婚までしたと言うから、ボクにもできる。きっとできる。
「なんだよ。姉ちゃん。さっきからあいつの話ばかり」
 朝弥がまた何か怒っている。面白くなさそう。でもボクも横槍でむっとした。だからイジワルしちゃう。
「何よ。いいじゃない。ラブラブと言う話なんだから。それともボクと明君に妬いてるの?」
 こう言ったら朝弥は泣きそうな表情に。
「姉ちゃんなんか…姉ちゃんなんか…・・・あのオタク野郎のところに嫁に行っちゃえばいいんだぁっ」
「ありがとうーーーーーっ。朝弥。応援してくれるんだね」
「え?」
 なんか失言したみたいになってる朝弥。
「うん。言われなくてもそのつもりだよ」
 あら? 朝弥ったら走ってでて行っちゃった。
「こらっ。食べ終わったらごちそうさまを言ってお茶碗片付けなさいっ」
 ボクの声も聞こえてないみたい。ほんとにもう。しょうがない弟だわ。
「青春ねぇ」
 やたらのんびりとママが言う。

 夜のランニングをしてそれからお風呂。後はもう寝るだけ。
 ふと明君の写真が眼に入る。
「夢の中でも抱きしめてくれるかな?」
 今日はいい一日だったなぁ。おやすみなさい。

 おおっと。いつの間にか日付変わっちゃってたか。
 ふう。チェックが多くて大変だ。HDDもだいぶぎちぎちになってきたし。
 そろそろ焼くか始末しないと。

 布団を敷いてパジャマに着替えて。ごろんと横に。そして横には何冊かの同人誌。
「冬トレで買った分もやっとコンプリートかな?」
 よし。夢の世界へ突入だ。

第38話 みずき&七瀬編へ 榊原&真理編へ 十郎太&姫子編へ

次回予告

 学校じゃ女の子同士の七瀬とみずき。逃げている上条を追いかけている綾那。自分が照れて榊原に素直になれない真理。洋風の風習に抵抗する十郎太相手で苦労する姫子。
 そんな彼女たちのセント・バレンタインデー。
 次回PanicPanic第39話「Love・バレンタイン」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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