第38話「夜と昼」
榊原&真理編

 朝。アタイは慌てて飛び起きるとトイレに駆け込んだ。そして胃の中の物を全部…
「うう。気持ち悪い」
 部屋のほうに戻ると空のボトルが床に転がっているのを見つけた。
「ありゃ? 1本あけてたのか。そりゃ二日酔いにもなるわな…」
 なんとなく眠れなくて。寝酒をやり始めた。
 いくら高校生といってもアタイは呑めるんだから。やりたきゃやるさ。ただ…やりすぎただけ。
「うわ。だーりぃ」
 まだちっと頭が痛い。時間もある。
「……もうちょっと寝ようっと」
 アタイはそのままベッドにもぐりこむ。じゃ。お休み。

 タキシード姿のオレは女ばかりのパーティーに招待されていた。
「榊原さまぁ」
「こっちにきてぇ」
 女たちが甘えた声で俺を呼ぶ。はっはっは。可愛い奴らだ。
「早くきてぇ」
「よしよし。今行くぞ」
 見渡す限り女。それも美女か美少女ばかり。
 その中にダイブする。うー。男冥利に尽きるなぁ。
「和彦ぉ。こっちにきてぇ」
「こっちですわぁ。榊原様ぁ」
 待ちきれない女たちにオレはもみくちゃにされる。おいおい。過激だな。
 さらに激しく女たちはトップレスに。
「うっひょーっ」
 あ…素で喜んじゃった。
「カモン。マイスィート」
 手招くと女たちは俺に向かって殺到してきた。嬉しいけど…苦しい…胸を押し付けられて窒息する。
 しかし女の胸に溺れて死ぬならまさに本望。どんとこーいっ。


 そんなところで目が醒めた。ただし本当に俺の口をおっぱいが塞いでいた。俺はそれを突き飛ばして呼吸を確保する。
「はぁはぁはぁはぁ」
「おはよう。和彦。目が醒めたか?」
 もう少しで窒息死したかもしれないのにクールだな。この女は。
「姉ちゃん…起こすならもうちょっと」
「お前は女の胸が嫌いか?」
「大好きに決まってるだろう。でかけりゃでかいほどいい」
 我ながら即答だった。
「なら文句はないだろう。大サービスだ。弟じゃなけりゃ金取ってるぞ」
「へん。姉ちゃんのはおっぱいと言うより『脂肪の塊』だ」
 厳密には違いがないと思うが、雰囲気の問題。
 とにかく思惑通りと言うのは癪だった。だがやっぱりと言うか余計な一言だった。
 姉ちゃんは一息の間に俺の背後を取る。そして俺を宙に舞い上がらせると逆になったところで俺の首に自分の首を重ねる。
 両手はそれぞれ片足を持った状態でそのまま姉ちゃんが尻餅をつく。
 瞬間。首と背中と股に衝撃が。
「遅れるんじゃないよ」
 いい捨てて姉ちゃんは出て行く……「遅れるな」だ?
 だったら「キン○バスター」なんて仕掛けるな…

 「遅れずに」駅のホーム。
 ガキのころからやられてきたからすっかり耐性が出来てしまった。
 だからか。真理にド突かれても平気なのは。今更ながら気がついた。
 その真理だが…一向に電車から降りてくる気配がないな。
 また寝過ごしたな。まぁいい。いつものことだし。放って置くか。

「寝過ごしたぁーっっっっ」
 
やべ。二度寝なんてするんじゃなかった。メシ食ってる暇ないじゃん。
 アタイは慌てて服を着る。あー。こういうときはこの短い髪はセット要らずで助かるなぁ。
 ケンカ人生の名残だったけど。
 なんてのん気に振り返ってられない。急がないとまたカオスに嫌味言われる

 仲間内で今日最初に出会ったのは「赤星夫婦」だった。
 もちろん揶揄だがこいつらホントいつもべったりだしな。
 その「奥さん」の方が挨拶をくれた。
「おはよう。榊原君」
「よう」
 しかし外見の愛らしさと内面の男っぽさがアンバランスだな、赤星は。
 もっともこの前まで外見にふさわしい性格していたが、あれはあれで落ち着かなかった。
「よう。相変わらず仲がいいな。お二人さん」
「もう。からかわないでよ」
「いやいや。羨ましいくらいだよ。一緒に登校なんて。真理の奴。今日も寝坊したらしい。おいてきた」
 あははと及川は笑っていた。ま、真理の遅刻は今更言っても仕方ない。

 おっと。今日は朝一で職員室に用があったっけ。
 だから職員室に出向く。中にはもう人もまばら。その中で目を引いたのが高橋先生。
 セーラー服を着せたらそのまま高校生で通用しそうな可愛い顔だが、ちゃっかり新婚さん。
 なんだかだるそうだ。ん? あの感じ…伊達に実家は医者じゃない。
 ははぁん。口に出すとセクハラだから言わないが…二ヶ月は「来てない」な。
 こりゃ来月あたり浮かれた報告を聞きそうだ。

 ギ…ぎりぎりセーフ。
「村上さん。何度言えばわかるのです? 時間にルーズだと」
 ああ。まったくこの石頭は。何度も同じことを。しかしちょうどよくチャイムが。
「あ゛!?」
「ほらほら。『正義の味方』が遅刻しちゃまずいんだろ」
「う…いいでしょう。この場はひとまず」
 なんていってる間にアタイはとっくに校舎の中に。

 授業が進み今は昼休み。俺と真理。そして上条は今日は学食。
 他の連中は教室で弁当。
 うんざりする長い列でカレーの窓口に並ぶ。上条はAランチで真理はそばかうどんのようだ。
「焼きそばパン。最後だよ」
「おばちゃん。それ頂戴」
「こっちが先だぞ」
「僕は150円出すから」
「こっちは160円」
「170円」
 もう慣れたつもりだったがこの学校のこういう乗りは時たま疲れる。

 朝飯抜きなのにやっと腹が減ってきた…と言うかまだちょっと胃がむかつく。
 うどんの汁の匂いが少しは食欲を刺激することに期待して頼んだけどなんかまだダメかも。
 そんな状態でほえほえした平和な表情でテーブルに着いた上条を見ていたら、こいつにもむかついてきた。
「なぁ上条」
「なにかな?」
「あんたいったい、綾那のことをどう思ってんだ?」
 あれだけ健気に恋心をアピールしているのにそっけない態度。なんか…『アイツ』を思い出させてむかつく。報われない綾那が母さんとダブって見えてなおさら。
「ん〜何のことかな? ふふふ」
「きさまっ。それは俺のセリフだぞっ」
 関係ないところから横槍。
「あんたは黙ってろっ」
 とてもじゃないけど『優しく注意』なんて精神状態じゃないので『先輩』相手だが怒鳴りつけちまった。
「まぁ待て。真理」
 カズも横から。うん。ちょっと今のはまずかったかも。
 せっかく反省しかけたのにこのオタ野郎はのほほんと
「どうって言われてもね…若葉については仲のよい友達と言う感じだよ」
……なんていい切りやがった。
「あんたなぁ。この前のスキー合宿でアレだけ必死になってあんたを助けたあいつに何も感じないのか?」
 お節介なのは百も承知。だけどこいつの態度は女としてはいただけない。
「正直さ…よくわからないんだよ。どうしてあんなに僕に対して一生懸命なんだろうと」
 こ…コイツ…本気でバカ? アタイはとうとうガマンできなくなって怒鳴る。
「このバカ! マンガばっかり読んでるから現実の女との付き合い方がわからなくなるんだっ」

 もう無駄だと思ったアタイはそのままうどんを食べ始めた。
 なんでアタイが綾那のために『やけ食い』しなくちゃなんないんだ?

 放課後。今日は部活のある日だ。
「顧問は?」
 俺が尋ねると同じ一年に尋ねると二年の新部長が
「用事があるってさ。やる気ないよな。君らの担任」
 そうなのだ。科学部の顧問はウチの担任。
「あの人もあの事故までは明るくて気さくな人だったのになぁ」
「俺も去年までなら好きだったよ。今のカオスは嫌いだけどな」
 本気で中身が違ってんのかなと言うくらい「事故」の前後で人格が違うらしい。
 でもそれがマリオネット能力としても「斑」じゃないはず。
 基本的にマリオネットは専門バカ。一つのことだけに特化している。
 俺のビッグ・ショットなら予知能力。
 一応手足があるので殴ったり蹴ったりもできるが、もしそっちに特化したマリオネット相手だとまったく歯が立たないだろう。
 まして「斑信二郎」は「燃やす能力」
 殴る蹴るはできるだろうけど、魂の交換なんて出来るとは思えない。
 つまりカオスが魂を交換した存在なら、その時点で小山の仇でないと言うことになるな。

 アタイは『ゆかりの死んだ場所』に来ていた。あれから半年以上。
 既にあのビルは取り壊されて基礎工事も終わって、もう新しいビルの鉄骨が組みあがっている。
 これがあんたの墓なんだね…ゆかり。
 おしゃべりで、お節介で、でもいい奴で。アタイの初めての友達。
 せめて敵だけでも探してやりたい。けど…もう時間が経ちすぎてしまった。
 ここに来るときはいつも手にしている『形見』のペンダント。それをぎゅっと握り締める。
「またくるよ」
 アタイは『墓』に背を向けた。

 部活も終わって帰る段階。何も考えないで支度をしていたら…閃いた。
 俺は慌てて家へと帰る。

 帰りの電車でさっき浮かんだヴィジョンを整理する。あの看板は…

 帰り着くなり制服を脱ぐ。別に焦らなくても結果はわかってるんだが、はやる気持ちが抑えられない。
 ガクランをハンガーにかけ、ワイシャツはランドリーバケットに。
 ズボンもハンガーにかけたらグレーのスラックスとピンクのシャツ。その上からアイボリーのベストでさらに革ジャン。

 着替えが済んだら出かけることを伝えて目的地へ。
 くわえタバコを忘れずに。これで俺が未成年にはまず見えない。出来ればハンチング帽も欲しかったが、あれは競馬の時と決めている。

 目的地はパチンコ屋。ひらめきにあった看板はここ。
 自動ドアが開いて中に入り、店内をぐるっと見回して見る。あった。この台だ。ナンバーが「予知夢」のそれ。
 ついでに言うなら服装もこれだった。
 いらだったように消したタバコの吸殻がまた残っているから、先客が散々突っ込んで帰ったばかりか。
 じゃ、遠慮なくいただきます。
 そこに座って玉を投入。はじいた一発目でポケットに。よし。今日も打ち止め確実。

 夜。晩飯を食いに外へ。近所で済ませればいいんだけど、夕方あそこによったからか「ゆうかり」へと出向いてみた。
 店はちゃんとやっていた。ゆかりの両親も働いているようだ。
 意外にタフだな…そんな事を考えていたら向こうに見つかった。
「ああ。真理さん。いらっしゃい」
 店の外から中を見ていただけなのに、フロアを切り盛りしていたゆかりのお母さんに見つかった。
「あ…こんばんは」
 我ながら間抜けな挨拶だが、他に言葉なんて出てこない。
「ご飯食べた? まだならうちでどうぞ」
「いや…あの…」
 けど断れない。この人もアタイと同じで「遺された者」
 大切な人はもう帰ってこない。同じ境遇と思うとなんだか振り切れない。

 店内はちょうどピークが過ぎたのか誰もいない。アタイは客席につかされた。
「じゃあ…ハンバーグセットで」
 どうせ飯を食うつもりだったし、まぁいいか。

 食べ終えてからも話があった。
「ゆかりは学校にきました?」
 そんなはずはない。例え生きていたとしても、学校より先にここに来るだろう。
 アタイと同じと思ったけど違う。
 アタイは母さんの死を看取って、悲しいけれど決着はついた。気持ちの整理は出来た。
 だけどこの人たちは死体すら見ていない。この人たちにとってはゆかりは「どこかへ行っただけ」なんだ。
「ゆかりがいつ帰ってきてもいいように、お店は開けておかないとね」
 笑顔がひどく悲しい。
 二度と帰ることのない娘を、ただこの人たちは待ち続けている。
 いっそ本当のことを…けれどそれだって状況から判断しただけだし。
 出来ない。それを言うことはアタイには。

 現実を突きつけて気持ちの整理をつけさせるのと、叶う事のない希望を抱かせたままなのとどちらが残酷なんだろう。
 ひどくやるせない気持ちで店を出た。

 快調快調。箱がどんどんつみあがる。ついにはストップが掛かった。ふっ。勝利。
 金を手にすると言うのは二次的で、この爽快感が病みつきなんだ。まぁ金はいくらあっても邪魔にゃならんけどね。
 さぁて。軍資金も入ったし。ほんじゃちょっくら…。

 自室へと帰る。留守伝言が入っていたらしく電話のランプが点滅していた。
 暗い部屋だけにやたら目立つ。明かりをつけて内容を確認するために近寄った時にベルがなった。
「はい。もしもし」
『夜分畏れ入ります。村上真理さんのお宅でしょうか?』
「ああ。めぐみか」
 カオスの娘の中尾恵。この子もオヤジの異変を気にしている。
 アタイは今年はじめてカオスにあったから、ああいう奴だと解釈してたけど、娘の目だととんでもない変貌を遂げたように見えるらしい。
『真理さん。すいません。何度も』
「いいよ。公衆(電話)なんだろ」
 この時間だ。家に当人がいても不思議はない。外に出てかけることにもなるだろうさ。
 せっかく外に出たんだからせめて話くらいして帰らないと意味ないし。
『それで…父の様子は?』
「うーん。いつもどおり陰気だったけどな」
 実の娘相手に凄い事を言ってるけど事実。
『そうですか。でも本当の父は明るくて、まるで知らない人が家にいるかのような感じなんです』
「知らない人のようねぇ」
 でもなぁそんな能力…いや。そう言えば夏に赤星と七瀬が魂を入れ替えられたことがあったっけ。 それなら同じ能力を持つマリオネットマスターがいるのかもしれない。
 七瀬たちを入れ替えた教会の神父も行方不明らしいけど。
 それに入れ替わったとしたら本来の「明るいカオス」はどこに行ったんだ?
 入れ替わった相手の体?
『あの…もしもし?』
 あ、いけね。すっかり考えちゃってた。
「ごめんごめん。考えにハマっちゃった。とりあえずこっちは『いつもどおり』だったよ」
『わかりました。それでは失礼します』
 電話が切れた。電話ボックスとしても長居するにはきつい気温だしな。そりゃ早めに切り上げたくもなるか。

 ほっほー。色々いい気分。気前よく勝った金は使っちまったけど、代わりにいい気分に。
 しかし浮かれてばかりもいられない。静かに自室に戻らないと。何しろ隣の部屋には「猛獣」が。
 抜き足、差し足、忍足。自宅なのに泥棒になった気分だ。
「お帰り。和彦」
 声は後ろからした。心臓が止まりそうになるからやめて欲しい。
「ね…姉ちゃん」
「いい匂いね。石鹸の。今日はもうお風呂はいいでしょうね」
 切れ長の目で見据えてくる。難だって女はこうも匂いに敏感なんだ?
「あー…風呂屋。たまには銭湯もいいなと思って入ってきたんだ。それだよ」
「ふぅん」
 ぜんぜん信じちゃいない目だ。たまらず俺は自室へと逃げるように移動するが、姉貴もついてくる。
「最近のお風呂屋さんっていくらするのかしらね?」
「ああ。二万でおつりが…あっ」
 ま…まさかこんな誘導にすらなってない喋りで自爆とは。
「随分と…高いお風呂屋さんね」
 素手なのに鞭でも唸らせそうな雰囲気。あとずさるがベッドに追い詰められる。
 そして姉貴が飛んできた。俺の首に自分の腕を叩きつけてそのままベッドに倒れこむ羽目に。
 喉を強打されたのと、強烈に頭を振ったのと二重のダメージ。一日の疲れもあってそのまま眠く…
「アンタはまだガキなんだからそういう遊びはまだ早いわ。子供はもう寝なさい。お休み」

 風呂上り。ガウンのままベッドに。冷蔵庫からビールを出して。
 ああ。あれほどきつい酔い方をしたのに、冷めた途端にまた呑むなんて馬鹿だね。アタイも。
 これはしょうがないよね。

 今日も平凡なりに色々あったなぁ。ほんと。あの学校は退屈しないよ。

 ビールからウィスキーに。はっはっは。ほんとの馬鹿だ。
 でもだいぶ眠くなってきた。このまま寝ちゃいそう…だ…な…お休み

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次回予告

 学校じゃ女の子同士の七瀬とみずき。逃げている上条を追いかけている綾那。自分が照れて榊原に素直になれない真理。洋風の風習に抵抗する十郎太相手で苦労する姫子。
 そんな彼女たちのセント・バレンタインデー。
 次回PanicPanic第39話「Love・バレンタイン」
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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