第42話『恋慕』

 降り注ぐ太陽。この時期としては異様な暑さになる。
 だがその場の誰もが汗をかいているのはそのせいではない。
 緊迫した雰囲気。そしてここに飛び込んできたクラスメートに対する期待と不安。

 斑はその飛び込んできた女子を一瞥すると小ばかにするように笑う。
「ほう。クラスメイトの危機に飛び込むとは勇ましいな。だが『女』なんかには用はない」
 挑発だけではない。彼は替えの肉体も必要だった。だから男の方が望ましかった。
 ちょうどこの場には上条明がいるのだが気絶中。
 その間に警察に囚われてもかなわない。
 看守なり誰かと入れ替わる手もあるが、それが必ず好みに会う肉体とは限らない。
 もちろん上条明自身は殺人などはしていない。まぁ器物損壊は問われるだろうが。
 それとて素手で校舎の天井をぶち抜いたなんて立証できるはずもないから逮捕に至るとは思えない。
 しかし入れ替わる能力を自分で白状してしまった。
 ドサクサ紛れならいざ知らず、この場で入れ替わるのはまずかった。
 少なくとも今度は上条明の姿を目印に追われることになる。
 つまり意味がないのでやらなかった。

 ついでに言うなら中尾の肉体から自身の魂を分離しないといけない。
 それなら自殺をすればよいが、自殺に使うような凶器がない。
 ゴーストフェイスキラーを自殺に用いかけたことがあるにはあるが、そのときは自分の胸を貫けという命令を無視された。
 考えてみればもっともである。戦場で致命傷を負ったもともとの肉体を捨て、無事な上官の肉体にくくりつけたようなマリオネットだ。
 自殺幇助は考えにくい。

 用はないと言われたみずきだが引き返すはずはない。
「女に用はない? ほう。そうかい。だがオレの方にゃあるぜ」
 みずきは真理や十郎太のような鋭く射抜く視線のままに屋上に踏み込む。
 必死だった。七瀬たちを助け出すそのために。それが彼女をこういう目つきにさせた。
 しかしその懸命さも斑には嘲笑の対象。
「バカな娘だ。わざわざ殺されに来るとはな」
 斑はここで『遊び心』が出る。みずきの方を向き直ったのだ。
「最後の授業だ。こい。気迫だけではどうにもならない実力差と言うものを教えてあげよう」
「けっ。一度やりあってんだ。手の内知ってて近づくバカもねーぜ」
「やりあった? 君と私がかね?」
 みずきは間違っていない。しかし斑が怪訝な表情になるのも当然である。

 そう。あの夏の日。斑は変装して。瑞樹は男の姿で薄暗い廃工場で戦った。
 そして今みずきはあの時に戦った男が担任だと知った。同時に追い続けた仇とも。
 だか斑にしてみれば男の瑞樹とやりあったのなら覚えはあるが、少女のみずきとはその憶えはない。
 だから不思議そうな表情も当然である。

 一方のみずきも夏の日に思いをはせる。
(あの時はオレは男だったがそれでもやばかった。ましてや今は女。筋力。瞬発力。リーチ。いずれも下回っている。さらに言えばこんな重石まで)
 ちらりと自身の豊かな胸元へ視線を。
(確かに当たりやすそうだな)
 相手の拳がである。
(本音はやりたくないとこだが、だからって逃げるわけにはいかねえぜ。せめて七瀬たちを逃がさしてからならともかくな)
「どうした? 援軍が来るまで待つつもりかね」
 挑発の常套文句。
「けっ。待たせたな。今ぶちのめしてやるぜ」
 肉体は少女だが精神的には完全に男モードになって、言葉遣いも荒くなる。
 頭上に高々と両手を掲げると、その掌と掌の間に光球が。ばちばちとスパークしている。
 そして彼女は両腕を勢いよく振り下ろす。
「食らいやがれ! シューティングスター」
 みずきは屋上への出入り口から間合いを無視した「気」の弾丸を射出した。バレーボール大のそれは斑信二郎目掛けて一直線。
「むッ? デストラップウォールα」
 瞬間的に生成されたエネルギーの盾がそれを防ぎ、役目を終えて散滅する。
(おや? このやり取り…)
 斑もまた夏の日に思いを寄せる。同意を求めるようにみずきに語りかける。
「赤星みずき。確かにこういうやり取りがあったのを思い出した。しかしあの時に戦った相手は男だった」
 淡々と語る斑と青くなるみずき。興奮状態で口を滑らしていたことに初めて気がついた。
(やっべぇ〜〜〜っ)
 自分の正体に及んでしまう。それを危惧した。
 それを知ってか知らずか。ニヤニヤしながらとんでもないことを言う斑。
「それとも…君は実は男なのかな?
 みずきは心臓が飛び出すかと思ったが、逆に推理を働かせることで落ち着きをとりもどした。
(ばれた!? い…いや。はったりだ。男扱いされて喜ぶ女はいない。挑発にすぎない)
 この期に及んで…と言うのは酷か。この局面でも彼女は「実は男」と言うことを隠していた。
 ばれたら例え斑を倒してもこの学校にはいられない。
 「騙して」女子として振舞っていたのだ。体育の着替えなども一緒だったし、「女同士」のきわどい話なども覚えがある。
 これが「実は男でした」などとなれば、追求されるのは間違いない。
 そして無限塾に居場所はなくなるだろう。
 せっかくできた友人たち。そして七瀬と別の学校に行くことになる。それはあまりに残念だった。
 だから隠し通したい心理が働いた。
「やっかましぃ」
 いかにも挑発に乗せられたようにして気の砲弾を射出する。
 デストラップウォールの作成に破気が使われているのに気がついた。
 だからすぐにストック切れをおこすと踏んでの発射だった。だが斑はそれを捌く。
 方向を変えられたその「砲弾」は、斑の後方。一年一組と二組の女子たち目掛けて飛んで行く。
「危ない」
 思わず叫ぶみずき。けれどその砲弾は真理が斑同様にブロッキングした。
「こっちは全部アタイたちがフォローする。構わずぶっ放せ」
 怒鳴る真理だが
「それよりさっさと逃げてくれ」
それに言い返すみずき。
「ダメ。まだ綾那ちゃんは動かせる状態じゃないの。傷は完全に治したんだけど」
 七瀬が事情を話す。
「傷?」
 動かない状態になるほどの「傷」だと?
「治した?」
 病院に運んで出術をしたならいざ知らず、それもなしにあれだけの傷を塞ぐことが出来るとしたら
「及川七瀬。君はマリオネットマスターなのか?」
 素直に驚嘆しているらしい。
「なるほど。だから若葉は死ななかったのか。だがね。及川。その力でもこれはどうかな」
 ゆっくりと彼は自分があけた穴に接近して、手ごろな大きさのコンクリート槐を拾い上げる。
 そして七瀬や真理に見えない角度で「導火線」をくくりつける。
「それっ」
 彼はそれを転がした。そしてそれがまるで紙の様に燃え尽きてしまった。
 ありえない出来事に恐怖する少女たち。そしてこれが殺人鬼と言う存在の信憑性を高めてしまった。
「君たちの元・クラスメート。小山ゆかりの死体はこういう具合に始末した。私のマリオネットは指先を触れるだけで相手を燃やすことができる。さて。この緊迫感に耐えかねて死にたくなった子もいるんじゃないか? お望みなら私が生きながらに火葬してあげよう」
 淡々と、しかし楽しそうに喋る斑。もちろん「指先を触れるだけ」というのはウソ。
 本当はもう少し手間が掛かる。しかし触っただけで燃やされるといわれれば誰もが恐怖するだろう。
 それを楽しもうとしていた。
「て…てめぇぇぇ」
「ゆかりをそんな風に」
 みずきと真理は闘志が燃え上がる。だが他の少女たちはその「具体的な例」を示されて完全に恐怖に支配される。
 いくら学園抗争のあるこの学校でも命まで奪う相手はいなかった。
 それが今ここに。そしてそれは彼女たちの精神を崩壊させるのに充分だった。
「いやぁぁぁっ」
「死にたくないっ」
「助けてぇぇっ」
「落ち着け。落ち着くんだ」
 真理が怒鳴るが収拾がつかない。その様子をおかしそうに眺めている斑。歯噛みするみずき。
「さて。あの様子じゃ落ち着いて避難なんて無理な相談だな。方法としては君が血路を開くしかないが」
「貴様……」
 完全に遊ばれている。それも悔しかった。
 真理は少女たちを抑えるために手が一杯。綾那はいまだ復活せず。姫子は臆してはいないものの斑のけん制で動けない。
 そして七瀬も正義クラブの三人も恐怖で足がすくむのが本当のところだ。

 こうなれば仕方ない。遠間からなんて悠長なことを言ってられない。
(とは言えどジャンプして一足飛びに接近しようとしても、奴にはあの宙返りしてのキックがある。それで撃ち落されるのが落ちだ。いや…案外単純に…)
 思案していたみずきだがまるで何も考えてないかのように無造作に走り接近を試みる。
「それはいくらなんでも無謀だな」
 担任に成りすました殺人鬼は衝撃波のブーメランを繰り出す。
(今だ)
 その刹那にみずきは跳んだ。斑はスパークカッターの硬直が解けてない。
 自由落下に任せた蹴り。右足一本を斑の胸板目掛けて突きたてに行く。
「クレーターメーカー」
「くっ」
 ブロッキングや対空技は間に合わなかったが、辛うじてガードだけはした。
 打撃の衝撃は凌いだが固まった体制ゆえに投げに対しては無防備。
 みずきはそのまま柔道の巴投げをする。体の小さいみずきだけに、まさに柔よく剛を制すと言うところ。
 みずきは手加減せずに投げ捨てたがそれが仇となった。
 斑はごろごろと転がって衝撃を殺した。約5メートルの間合いが発生する。
 投げられたほうも投げたほうも体勢を立て直す。斑の方が早かった。
「デストラップウォールβ」
(何? 何であの『盾』をこの場で?)
 みずきは鏡の様な板を探したが斑の前にはない。
「うしろっ。みずき」
 七瀬の指摘で振り向くと自身の背後に光の板が。
(なんでこんなところに?)
 戦闘中に考え込むのは命取り。すぐに前を見たが既に斑がタックルを仕掛けてきていた。
 なす術もなく『光の板』に叩きつけられる。
 ばちばちとスパークする。
「うわぁぁぁっ」
 衝撃がみずきの柔肌を遠慮なく襲う。綾那が心配した胸元から倒れ伏す。
「デストラップウォールβはこういう使い方も可能なのだ。勉強になっただろう」
「確かに…な」
 余裕で「講義」する斑。その前で顔をしかめながら立ち上がるみずき。
 しかしまるでタバコの吸殻を消すように頭から踏みつける斑。
「ぐあっ」
 真上から体重をかけてくるのだ。抵抗も出来ずに踏み潰される。
「おやおや。可愛い顔が傷だらけかな? 女の身で私に挑むのか間違いなんだよ」
 ぐりぐりと後頭部を踏みにじる。
「人の頭を…いつまで踏んでやがるっ」
 文字通り足元をすくう。のけぞりひっくり返るかと思った斑だが、宙返りでそれを避ける。
 その間にみずきは体勢の立て直しに成功する。
 そのまま逆立ち。そして腕の力で「ジャンプ」して斑のあご目掛けてのキック。
「コロナフレア」
 しかし「溜め」に時間がかかった。そのためあらかじめ読んでいた斑に簡単にブロッキングされる。
 跳んでいたため追撃までは受けずにすんだが、斑はまったくの無傷だ。
(くそっ。それなら)
 着地してから再び同じモーション。今度は低空飛行のドロップキック。体を回転させているのでコークスクリューのような効果が期待できる。
「メテオストライク」
 だがこれまた斑に捌かれた。さらに止まったところにジャックナイフと呼ばれる宙返りしてのけりを見舞われる。
「うわっ」
 豊かな胸の下側にそれは当たり攻撃は中途半端になる。
 しかし女の胸は敏感で急所。みずきは一瞬、呼吸困難になる。
「げほっ。げほっ」
 咳は止まらない。敵前だが動きが止まってしまう。その眼前に斑が。
 みずきには見えないマリオネットの右手が、鞘の中の刀のように不気味に存在していた。折りたたまれて飛び出す寸前。
 唯一その危険性を認識している真理は背筋に寒いものを感じた。
「危ないっ!!」
 とっさにみずきをガンズンローゼスで後方へと引っ張る。いや。のけぞらせる。
 ゴーストフェイスキラーの右手がみずきの左胸に照準を合わせていたのが、その体勢から予想できた。
 本当は横にずらしたかったが、茨状のガンズン・ローゼスではそれは難しく。代りにのけぞらすことで攻撃回避。
 繰り出されたマリオネットの右手は槍のようにみずきのジャージ。体操服。そして胸を押さえていた下着まで切り裂いた。
 谷間の部分を通過したため下着はやられたが本人は無傷ですんだ。
 真理はそのままみずきを手前に引っ張る。体勢の立て直しが目的。
「ちぃぃっ。味なマネを。心臓を串刺しにして血で水芸をさせるつもりだったがな。いや。血しぶきを浴びていたら逃走しても注目されてかなわんか。もっともあの連中(悪漢高校)がいたんじゃ簡単には逃げられそうにないが」
 あくまでも淡々と分析する斑。
(まぁいいか。さて。どんな絶望感の現し方をするかな。男のように気丈な娘が、売春婦のように媚を売るか? それとも泣いて命乞いをするか?)
 彼は趣味に徹して傍観を決め込む。もちろん若干上がり気味の呼吸を整える目的もある。

 みずきまでも少女たちの輪の中に。
「大丈夫か? 赤星?」
「あ…ああ。助かったぜ。村上」
 感謝の言葉は心から。しかしすぐに現実に向かい合う。
(くそっ。やはり女では勝てない。だけど…)
 未だに踏ん切りがついてない。
 迷う心で思わず七瀬を見る。その表情は心細く不安そうだ。
(七瀬…怯えているのか?)
 しっかり者。そして気丈な印象のある七瀬。だが特殊な能力を除けば普通の少女。
 この局面で足がすくむのも無理はない。
 それを理解したみずきは優しい笑みを浮かべる。女の顔なのだが男の表情で微笑む。
 そして七瀬に完全に向き合うと、その頬を軽くなでる。
「えっ?」
 唐突に優しくされて我に返る七瀬。
「ばーか」
 見直したら「いつもの」憎まれ口。しかしこれで逆に平素に戻れた。
「な…何よ」
「そんなに恐がるなよ。大丈夫だ。オレがついてる。お前にゃ指一本触れさせねえぜ」」
「……みずき……」
 親とはぐれた幼子のように不安げな表情の七瀬。それを見ていてみずきの覚悟が決まった。
 彼女は立ち上がると殺人鬼に向かって立った。

 切り裂かれたジャージ。そして体操着を脱ぎ捨てる。そしてスポーツブラも外して、その豊かな胸元を太陽に晒す。
「ふふふ。中々結構なものを拝ませてもらった。若い娘はいいね。だが私に『色仕掛け』は効かないがな」
 ヒヒジジイと言う感じのコメントを発する斑。本来の肉体ならとっくに老人であるわけだが。
 みずきはその斑から庇うように七瀬の前に立つ。
 可愛らしい丸顔。狭い肩幅。華奢な腕。白い肌。豊かな二つの膨らみ。くびれたウエスト。
 どれをとっても女の記号で一杯なのに、何故かその場の誰も、みずきが男のような印象を抱いた。
「七瀬。(殺されて)これで…最後になるかもしれないから言っておく」
 背中を向けたままみずきは語る。恥ずかしくてまともに七瀬に向き合っては言えない言葉だった。

「七瀬、オレ……お前が好きだ」

 唐突な愛の告白。それも少女から少女へのそれ。
 だが最後になるかもしれないと言うのは一同にも理解できた。
「おやおや。レズと言う噂は聞いていたが…本物だったか」
 揶揄する斑だがみずきは意に介さない。
 背中越しに伝えておきたい言葉を残す。

「七瀬…オレ…お前が好きだ!」

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの猫宮にゃおんさんに感謝!

「みずき……」
 極限状態だがそれを忘れてしまった七瀬。頬が染まる。
「きっと…ずっと前から好きだったんだな。当たり前のようにそばにいて気がつかなかった」

 みずきは耳たぶまで赤い。それでも告白を続ける。
「けど…この外道に殺されるかもしれないと思ったら、自分の気持ちに気がついた」
 きりりと表情が引き締まる。「覚悟を決めた者」の表情に。

「オレはお前を死なせたくない。お前を守るためなら…オレは何を失ってもいい」
 それで七瀬ははっとなった。みずきが何をするつもりなのか理解した。
「みずき…まさか?」
 答えの代りにみずきはにっこり微笑んだ。そして走る。
「やめてっ。そんなことしたらもうこの学校にはっ」
 恐怖も忘れて叫ぶ七瀬。だが走り出した彼女は止まらない。
 しかしそれは斑を目掛けてではない。ちょろちょろと出続けていた除雪用のお湯。
(あんなもので何のつもりだ?)
 さすがに斑にはわからなかった。
 そしてみずきはそこから低空飛行のドロップキック。メテオストライクを仕掛ける。
 この技の始の部分は逆立ち。頭がもろにお湯で濡れる。
 それも構わずに転倒の勢いを利用して回転しながら突っ込んでくる。
 斑はその勢いとみずきの体格から到着のタイミングを計算する。
(ふん。身長150代半ばの赤星ならこのタイミング…は…早いぞ?)
 計算と裏腹。予測より早く回転するキックが命中した。おかげで吹っ飛ばされる斑。
「く…くう。む? き…貴様!? 誰だ?」
 そう。そこには今まで戦っていた少女ではなく、見知らぬ少年が身構えていた。
 精悍な顔立ち。逞しい肩幅。引き締まった胸板。浅黒い肌。
 どう見ても男。だがその面影は今の今まで戦っていた、そしてどこかに消えた少女に良く似ていた。

「なに言ってやがる。今の今まで戦っていた相手を見忘れたか?」
 それはさすがに無理と言うもの。わかってて挑発する瑞樹。
「まさか…お前は赤星みずきと言うのかっ? 赤星は女…」
 自身も不可解な能力を行使する。そのせいかいち早く理解できた斑。
「へっ。ちょっとした特異体質でね」
 声も少年のものだが、良く似たイントネーションの喋り方だった。

 目を疑ったのは斑だけではない。
「う…ウソ…?」
「み…みずきが」
「男になった?」
 一度は「愛の告白」で落ち着きかけたが、再びパニック寸前の女生徒たち。
 自分たちの担任が殺人者でクラスメイトを殺していた。
 そして戦っていた別のクラスメイトの女の子が実は男?
 頭が混乱してどうにかなりそうだった。

「き…貴様はっ、思い出した。あの時の小僧か」
 斑のほうも記憶の糸を手繰ってたどり着いた。
「やっと思い出したかよ」
「ふっ。なるほど。私が肉体から肉体を渡り歩けるくらいだ。男と女の二つの姿を持つ存在がいても不思議はないと言うわけか…さっきのは身長が伸びた分こちらの計算違いか」
「へっ。そういうこと。お互いに正体を明かしたってわけだ」
「くくくく。確かに自分を隠しているのはストレスがたまる。よく辛抱できたな。褒めてやろう」
 この「褒める」は皮肉ではなく、やはり他人に成りすましていた斑ならではの共感から出る言葉だった。
「男に戻ったんだ。こっからはさっきまでみたいにゃいかねーぜっ。遠慮なしに行くぜ」
 もちろん瑞樹にそれで仲間意識など芽生えるはずもない。

 ぽかぽかした春の日差しを思わせる太陽の下で、およそ似つかわしくない死闘が繰り広げられている。
 そしてそれはまだまだ続く。

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