第42話『恋慕』Part4   Part3へ戻る

 何とか肉体を乗っ取ろうとしたビッグワンこと秀樹は戦闘から離れてしまった。
 最初にそれのターゲットにした悪漢高校の面々も、いつまでたってもあの場から動かない。
 それどころかその場で応援団のような行動を開始した。こうなるともはや校舎内への乱入は期待できまい。
(どこで…どこで歯車が狂ったのだ…)
 奪い取るつもりだった肉体が離れていく。
 この屋上から身を投げれば自殺はできる。だが別の肉体に乗り移る前に、自分を付けねらう霊たちにより『あの世』へと連れて行かれそうだ。
 チラッとゴーストフェイスキラーの目を通じて上を見る。
「いつものように」無念の霊たちが着いてきている。背後霊や守護霊の逆バージョンと言うところか。
 そして悪漢高校が攻めてきた関係で、校舎の壁付近には僅かな人間しか見当たらない。
 ここで飛び降りても誰かの肉体を奪う前にこの霊たちに「あの世」まで連行されかねない。

 だから近くまで代わりの肉体が来るのを待っていたのだが、それが狂ってしまった。
 目の前の少年…瑞樹の肉体と言う手もあるが、半分女なのが気に入らないし小柄すぎる。
 一時しのぎにしかならないので奪う対象からは外れていた。

 総てが上手く行かない。身勝手極まりないが「理不尽な怒り」を感じていた。
 そしてその怒りの矛先は蘇えったばかりの少年に向けられた。

 その頃、あえてこのバトルからは外れていた二人の男。
「あの太陽の感じは夢で見たのにだいぶ近い。作られる影もな」
 語る榊原にも緊張の色が。
「待つのは苦ではない。しかし姫がご無事か気に掛かる。お主を信じぬようで悪いが」
 十郎太の無表情はいつもだが、言葉と裏腹に疲労も見て取れる。
「構わんさ。それで当然だ。オレもちょっと真理が気になるし…まぁアイツがウェディングドレス着るのは『お告げ』があったからそれまでは絶対生きているはずだがな」
 声は上げないが明るい感じで笑顔を見せる榊原。
 十郎太は「ふっ」と息だけで笑うと再び屋上を見上げる。
(姫。どうかご無事で)

「さぁて。『先生』。おっぱじめますか」
 覚悟を決めている瑞樹は軽口さえ叩く。
「ふん。いわば補習だな」
 こちらは苦虫を噛み潰した表情の斑。もっとも授業中はほとんどこの顔だったから、ある意味でいつもどおりだった。
「瑞樹……」
 心配そうにつぶやく七瀬。その不安を消すためにわざとらしいほどの笑顔で
「心配いらねーって。今度はくらわねーよ。それにな、いくら強力なマリオネットでも本体を叩きゃすむこと」
瑞樹は答えた。しかし彼にはマリオネットが見えない。それでどうやって?
 そしてこの言葉は斑に対しての有効な挑発となった。露骨に不快感を示す。
「ふっ。面白い。ならば叩いてみろ。この私を」
 逆上気味の斑は走って突っかかってくる。その際に右腕を折りたたんでいる。本体も傀儡も。
 無意識に同じ行動をしていた。
 瑞樹はそれを見抜いていた。だから一気に間合いを詰める。
 見抜いたと言うより七瀬。真理。姫子。綾那。そして榊原と身近にマリオネットマスターがいるので、その法則が知らず知らず頭に入っていた。
 先刻のように七瀬のピンチで我を忘れたと言うと危険だが、クールにしていれば見抜ける。
 そうは思っていない斑はゴーストフェイスキラーの新しい技。
 胴体を穿つと言うことから「ボディピアス」と名づけた必殺の貫手を放つ。
 だがマリオネットを見えないはずの瑞樹にそれをかわされた。
(な……何? マリオネットを使っていた上条ならともかく、何でコイツにかわされるッ!? 見えてないはずだぞッ)
 これは想像以上のショックを斑に与えた。もちろん瑞樹がその隙に何もしないはずはない。
「スタークラッシュ」
 左足を軸にして右足一本で無数の蹴りを放つ。無防備だった斑はそれをまともに食らう。
「うわああああああっ」
 ゆかりの恨み。綾那の痛み。上条の無念。そして自身の怒りを込めたかのように怒とうの連続キックが炸裂する。
 ボクシングのパンチで言うならジャブ程度。そうは言っても足は手よりも強力。
 それを手を使うようなスピードで立て続けに見舞うのである。
 食らい続ければダメージもバカに出来ない。
「調子に…」
 上半身はキックを食らい続けるが下半身はノーマーク。
 普通ならこれだけ食らえば下半身にも余裕はない。だが斑にはゴーストフェイスキラーが有するもう一組の脚がある。
「乗るんじゃない!」
 ゆったりした動きだが攻撃に集中していた瑞樹は気がつかず、予備動作を許してまんまと腹への一撃を食らう。
「ぐはっ」
 マシンガンを撃っていたらロケットランチャーで反撃されたようなものだ。
 したたかに腹をけられた瑞樹はごろごろと屋上を転がっていく。
 上半身は裸なため見る見るうちに背中が擦り傷だらけ。
 それでも瑞樹は闘志を失わない。
 転がったことでダメージを殺しダウン回避。そしてそのまま
「シューティングスター」
 立ち上がると気の砲弾を見舞う。
「ふんっ」
 斑はそれを自身の右手で捌く。
「やはりな」
 瑞樹は確信した。そして心理戦を仕掛ける。
「前にも戦った。そしてそのときに言ったのを思い出したが……アンタのマリオネット。タメを作れば素早いがそれはあくまで直線的な動き。複雑…あるいは精密で素早い動きは恐らく出来ないッ。できるなら今のブロッキングだってわざわざ自分の手を塞ぐようなまねはしない」
 斑は表情を変えないが冷や汗が瑞樹の言葉を肯定していた。
 ゴーストフェイスキラーはパワーは凄まじいが対象物を燃やす能力や、斑を他人の肉体にくくりつける能力に特化しているためか俊敏性には難があった。
 だから本体が自分で戦う必要があり、これだけの技を会得したのである。
「図星のようだな。それなら手は考えるまでもねぇっ。スピードで押す!」
 瑞樹は走って接近をする。斑はその場にしゃがんでしまう。いわゆるしゃがみガードだ。
 こうなると瑞樹としてもしゃがみ崩しの技で行くしかない。
 直前で側転のように軽やかに逆立ち。ここまでは「コロナフレア」や「メテオストライク」と同じモーション。だがそのどちらでもない。
 そのまましゃがんでいる斑の頭部目掛けてかかとから落とす。
「メテオフォール」
 この技。立っていればスピードが乗る前なのでガードも出来るが、しゃがんでいると落下のスピードが加わりガードがしにくい。
 いや。ガードしていても充分にスピードの乗ったかかとに崩され、事実上しゃがみガード不能だった。しかし
「ふんっ」
 しゃがんだ状態から斑は宙返りを打つ。そしてそのキックが振り下ろされた瑞樹の脚を蹴り上げる。
「ジャックナイフ」と斑が呼称する対空キックだった。
 技と技の激突は落下スピードがありながら軽量の瑞樹が負けた。吹っ飛ばされる。

 校庭では悪漢高校によるエールが絶え間なく行われていた。
 既に瑞樹は命の危機を脱して、それどころか戦っている。
 それでも男たちは応援をやめない。
 麻神久子は不覚にも感動を覚えてしまった。

 だが中尾恵にしてみればそれどころではなかった。
 父親の名前と肉体。そして社会的信用を奪った『バケモノ』は、親身にしてくれた真理にひどいことをしていた。
 自分のせいで真理が死んだら……そう思うと気が気ではなかった。
 ただたまに真理の甲高い声が屋上から聞こえてきたので、放送室からの脱出はしたらしいと安堵した。
 もっとも闘いの場所が変わっただけだが。

 空中で叩き落された瑞樹。
 それも上に弾かれてだから上下でカウンターと言う形だ。
 くるくると回転して屋上に叩きつけられる。
 それを見て多少は溜飲を下げたか斑は平静な口調に戻る。
 そしていつものように「解説」を。
「私のマリオネットが素早い動きに対応できない? その通りだ。良くぞ見抜いた。
 だがそれがどうかしたかね? そんな弱点はとっくにお見通し。私自身が戦えばすむこと。
 そしてそれは嫌いではない。特になぶり殺しは男相手の場合は女相手の絞殺と同じくらい気に入っている」
 趣味の殺人。それゆえに出るこの発言。斑は自分のペースをとりもどした。

 反対に瑞樹は窮地に追い込まれた。しかも悪いことに振り下ろしていた脚の足首に斑の足がヒットしていた。
(……やべえ。ジンジンと痛み出してきた)
 黙っていても脂汗を浮かべたその表情でばればれだった。
「痛むかね? 赤星。『女の子』なんだからおとなしくしてないとダメだろう。くくく」
 心配しているはずはない。正体を知りつつコンプレックスを刺激すべく、わざわざ『女の子』扱いしている。
 そしてゆっくりと歩み寄る斑。サディスティックな笑みを浮かべていた。
「随分と、えらそうに喋っていたっけな。それじゃこんな眠っちまうような鈍い動きはいくらでもかわせるはずだよな」
 言うなり痛めた足首を足蹴にする。
「ぐあっ」
 この痛み方。捻挫くらいならまだ幸運と言う痛み方。ヘタしたら皹くらいは入っている。
「俊敏性が売りだったようだが、その足でどこまで逃げ回れるかな?」
 散々蹴られたお返しとばかりに斑は蹴りを見舞う。
 スピードは瑞樹のそれに遠く及ばないが体重が違う。それを充分に上から浴びせるから効果はある。
 瑞樹は斑の指摘通りに動けなかった。だからその重い一撃を避けられない。
 両腕でガードしていたがそれも崩され、弄られる。
(さぁこい。ビッグワン。息子をここまでやられりゃ黙って見てはいられまい。さっきは上手く奪えなかったが今度こそ)
 例えビッグワンが正体を明かしてしまって、成りすましが難しくなってもこの運動性能の高い肉体は魅力的であった。
 もしそのままでも充分馴染んだ上に相性のいい中尾の肉体。損はなかった。
 ビッグワンを挑発すべく、そしてこの闘いの屈辱を晴らすべく瑞樹を蹴り続けていた。

「びとい」「見てられないわ」
 脱出し損ねた少女たちは惨劇から目をそむける。
 誰もがみな見ていられなくて目をそむける私刑。
 だが七瀬は目をそむけなかった。
 正確にはそれが出来なかったのだ。
(恐い。とても恐い)
 それが七瀬の偽らざる心情。脚が震えて止まらない。
(でも…恐いのは自分が死ぬことじゃない)
 脳裏にフラッシュバックする貫かれた瑞樹。青白い顔で横たわる死体のような瑞樹。
(瑞樹が死ぬのが自分の死よりも恐い)
 そして決意を固めた彼女はダンシングクイーンを繰り出した。
 辺りを見回すと上条と斑が屋上に飛び出してきた際に出来た破片が見つかった。
 それを拾うと石つぶてを作り出す。さらにそれを細かく砕く。

 殺人鬼の習性と言うべきか。弄っているうちに斑はそちらの方が楽しくなってしまった。
「ふはははは。どうした男女。さっきまでの元気は……」
 言葉を失ったのは斑のほうだ。七瀬に近いほうの脚に激痛が。
「な…なんだ…まるで銃撃…」
 激痛の走る太ももを手で触ると、ぬるりとした嫌な感触が。

 それはダンシングクイーンによる「狙撃」だった。
 細かく砕いた石つぶての一番大きなものを親指で弾いて斑の脚に撃ち込んだ。
 さらにダンシングクイーンの手から他のカケラが飛んでいく。
 本来の能力である修復能力で、先に打ち込まれたカケラに「治るため」に集まっていく。
 それはあたかも散弾銃の弾丸のように斑の太ももにダメージを与えた。
「うぎゃああああっ」
 不意打ちにもんどりうつ殺人鬼。転げまわって瑞樹との間が離れる。
 この隙に七瀬は駆け寄って瑞樹をさらに引き離したので10メートルは間が開いた。
 とりあえず安心して瑞樹の体を治した。

「くるわね」
 氷室響子はそのときが来たことを直感で悟る。
 いや。空気が変わったのを察知した。
 斑に殺された浮かばれぬ霊たちは、肉体を持つ斑に手出しできぬまま遠巻きに見ている状態。
 だが響子が察したのはそれではない。 

 瑞樹はとりあえずピンチを脱した。素直に礼を言う。
「さ…サンキュ。七瀬。よし。このままあの野郎を」
 斑に向かう瑞樹を止めたのは誰あろう七瀬。
「なんだよ七瀬。あの野郎にとどめを刺すんだから離せ」
「お願い。瑞樹。私も戦わせて」
「は?」
 殺人鬼はまだ痛みに蹲っているからこうやって喋っていられるが…だが散弾銃と言うほどの痛みではない。
 追撃分は砂粒程度。そして核となった石も取り出されつつある。
 いつ復活してもおかしくない。

 しかし七瀬にしてみればこの告白が一大事だった。
 同じくらいの背の高さだがなんだかひどく小柄に、華奢に見えた七瀬。
 下向きの顔だが上目遣いで瑞樹を見る。頬が赤い。
「わかったの。なにが恐いか。それは私が死ぬことじゃなくて、あなたがいなくなることと」
 七瀬はやや上気した風に喋る。
「……七瀬」
 その思いは理解できた。まさに自分が七瀬に抱いていた思いだから。

 七瀬はいよいよ核心を告げる。

「だからお願い。私に瑞樹を守らせて。だって……私も瑞樹の事が好きだから

「え?」
 あまりに場違いな「愛の告白」に思わず戦闘中と言うことを忘れてしまう瑞樹。
 間の抜けた聞き返しをすると恥ずかしそうな七瀬が「切れ気味」に怒鳴る。

「好きよ。大好きっ。愛してるッ! 聞こえなかったって言うんなら、一生ずっと耳元でささやいてあげるわよ」

 それはもうプロポーズ同然の言葉であった。瑞樹も頬を染めてしまう。
 しかし冷静になり、局面を考えるとかなえるわけに行かない願い。
「ダメだ! お前は俺が守ってやるから安全なところに逃げろ」
「それじゃダメなの。不安で心配でたまらなくて、胸が押しつぶされてしまいそうになるの」
 縋るような七瀬の表情。やたらに可愛く思えた。

 「散弾」を食らった斑は何とか立ち上がろうとしていた。
 傷自体は浅いし、後遺症の残るような位置でもない。
 だがなにしろ脚である。踏ん張ると痛い。
(く…くそっ。立ち上がらねば。このままでは捕縛される。そうすれば肉体を選ぶどころではない。
いや。万が一この能力を理解していたら、例えばマリオネットマスターをつれてくるなど対抗策を練った上で死刑もありえる。
 それは考えすぎでもこの屈辱。立ち上がらねばはらせない。
 くそっ。立て。立ち上がれ。斑信二郎。第二次世界大戦で受けた銃弾の痛みはこんなもんじゃないだろう)
 斑はゆっくりと立ち上がる。そして打ち込まれた石つぶてを抉り出した。

 七瀬の言葉は心からの言葉。だから瑞樹もぐらついていた。
 だがやはり危険。説得を続ける。
「しかし七瀬。お前にもしものことがあったら……」
 しかし火のついた七瀬の心は止まらない。
「お願い。一人で戦うなんていわないで。私があなたを守るから、あなたも私を守って」
 泣きそうな七瀬の目。そうなると断れない。七瀬の心を汲んだ。
「ようし。わかったよ。死ぬ時は一緒だぜっ。七瀬」
「違うわ。二人で一緒に未来をつかむのよ。瑞樹」

 そして同時に「敵」を見る。担任と偽りクラスメイトを手にかけた仇を。
 既に斑は立ち上がっていた。不意打ちゆえに倒れるほどに痛みを感じたが、傷自体はさほどのものでもない。不思議はなかった。
「青臭い…及川。よくもやってくれたな。そして赤星。お前はもう目障りだ。二人まとめて殺しのときだ」
 愉しむと言う感じではなく、憎悪に打ち震えていた。
 瑞樹の表情も変わった。怒りの表情に。七瀬も引き締まった表情に。
 そして瑞樹は斑を指差す。
「殺しの時…か。だったらこっちも言ってやる!」
 軽くステップを踏む。七瀬もだ。
「今、裁きの時だ」
 二人は同時に殺人鬼に向かって行った。

 当然ながら脚力には差がある。瑞樹が先に斑に着くがぐるりと斑の背中のほうへと。
 向かい合っていた斑はそうなると七瀬に背中を向けることになる。
 だからゴーストフェイスキラーで瑞樹を見る。ちょうど本体の斑と背中合わせのようになっている。右腕は折りたたまれ「ボディピアス」の準備は出来ている。
 ところが遅れていた七瀬がダンシングクイーンを出現させた。そしてそれを遠距離から飛ばす。
 本体の斑はダンシングクイーンを肉眼で見ることは出来るが、対処するにはマリオネットでないといけない。
「ぬぅ」
 なまじ両方見えたのが混乱の元だった。
 迷ったのはほんの一瞬だったが瑞樹にはそれで充分だった。
 ダンシングクイーンを迎撃すべくゴーストフェイスキラーを七瀬のほうに向けたが、その隙に瑞樹は3メートル離れた位置で逆立ち。そして回転しての低空飛行ドロップキック。
「メテオストライク」
「ぐあっ」
 視線を外したためもろに食らった。軽傷といえど傷を負った脚に食らってはたまらない。ある意味ではこれも瑞樹と七瀬のツープラトンといえた。
 そして大きな隙を見せる内に七瀬が間合いに入った。
 スタッカートと名づけた連続の平手打ちが小気味よく斑のほほをリズミカルに叩く。
 平手打ちそのものより脳が攪拌されたのが大きかった。大きく揺らめく。
「瑞樹!」
 七瀬の声も知らず知らず甲高くなる。
「おうよ。行くぜ。七瀬」
 瑞樹は飛び上がった。そして
「クレーターメーカー」
ある一点を目指してジャンプ頂点から足一本の蹴りを見舞う。
 そのタイミングを見て七瀬は斑の右腕を「アレグロ」と呼ばれるキックで高々と蹴り上げる。
 体育に備えてスカートではなく体操着なので何も問題なく足を上げられた。
 そして奇跡のタイミング。
 七瀬が蹴り上げたのと瑞樹の脚が斑の右腕にヒットしたのはほぼ同時。
 下から蹴り上げられて上からは46キロにまで戻った瑞樹の落下。
 しかも手首に作用したためぐしゃりと嫌な音を立てて右手首は粉砕された。
 マリオネットと本体は密接な関係で、互いのダメージが反映する。
 本体の斑の右腕が砕けたことであの胴体を穿つ技は封印された。
 同時に人体を燃やすための導火線取り付けも困難になった。

「ぐがぁぁぁぁぁあっ」
 右手を押さえて悶絶する斑は殺人鬼といえど哀れに見えた。
(な…なんだコイツ等のコンビネーションは。まるで右手と左手のように完璧に連動している。それだけ心が繋がっていると言うのか? 恋する心…恋慕はここまでのパワーを産むと言うのかっ?)
 それまでの価値観が右手と一緒に砕かれた。

 少女たちを守りながら見守る真理は思わず顔をしかめる。
「うわ。えげつね。アタイだって手首をやっちまわないように遠慮してるのに。まぁ遠慮できる相手じゃないのも確かだけど」
 誰ともなしに言う。
「だが躊躇すればまた誰かが殺されるかもしれない。瑞樹かもしれないし、七瀬君かもしれない。互いにそれを一番恐れている。多少残酷になるのはそのせいかも知れんな」
 修羅場をくぐったこともある秀樹はそう答えた。
「それにしても息ぴったりだね。あの二人」
 綾那はそこに驚いていた。
「そうですわね。瑞樹さんは半分は女の子。半分は七瀬さんと同性と言えますから、純粋な殿方ではわからないことまで理解できるのかもしれませんね。そこまでお互いを気遣える。なんて素晴らしい二人なんでしょう」
 姫子が弓を番えながらも夢見るように言う。
「まさに人を思う力は何よりも強いと言うことか」
 秀樹の結びの言葉がこの意外なほどの圧倒的な勝負を物語っていた。

 辛うじて斑はぎらついた目を向けていた。殺意だけで立っていた。
「認めん。認めんぞ。赤星瑞樹。及川七瀬。恋の力が私を蹴散らすなど。今まで私がやってきたことを否定されてたまるかぁ」
 三十代前半の中尾の肉体なのだが、老人のような声で斑は叫ぶ。
 一方心は熱く燃えているが、頭脳は冷静な瑞樹が優位もありクールに言う。
「捨てろよ。そんなの。そして罪の償いをしてくれ」
「ならば私を殺して屈服させてみろ」
 もはや何も考えられないまま斑は突っ込んでくる。自暴自棄にもなっていた。救いようがない。
 瑞樹と七瀬は目で会話した。そして絶妙のタイミングで七瀬は脚を。瑞樹は顔面を目掛けてキックを見舞う。
 傷を負った足を蹴られて、鼻骨を折られた斑は思わず立ち止まる。
 そこで二人は技の起点として名乗りをあげる。
「コズミックシンフォニー」
 次の瞬間、瑞樹の無数の蹴りが斑の上半身に炸裂して、七瀬の連続キックが斑の下半身を砕きに掛かった。

「この技…見覚えがあるようなないような」
 綾那がつぶやく。
「名前ははっきり覚えているんだけどなぁ」
 真理も引っかかっている。
「ほら。あの時。妖刀騒ぎの時に取り付いていた悪霊に見舞った技ですよ」
 姫子の指摘で二人はぽんと手を打つ。
「ああ。あの時の」
「あんときは相手がお化けで決められなかったんだよね」
「だが今度は実体を持つ相手だ。決められるだろう。ふっ。もっとも今度の相手も人とは言えないか」
 秀樹がつぶやく時には二人の蹴りはますます熾烈になって行っていた。

(ば…バカな。この私が二人がかりといえどこんな小僧と小娘に負けると言うのか?)
 何とかして脱出しようとするものの絶妙なリズムで二人は蹴り続けていた。
 瑞樹の隙を突こうにも七瀬の蹴りがそれを許さず。
 七瀬の隙を突こうにも瑞樹の蹴りがそれを許さない。
 そうしているうちにダメージばかりがたまっていく。
 既に意識が朦朧としてきていた。攻撃がやんでもふらふら立つだけで反撃も出来ない。

 そして攻撃が止まったのは最後のとどめのためだった。
 七瀬の脚が地面から一気に天高く蹴り上げられる。
 瑞樹は逆立ちをしてそのまま斑のあごを目掛けて蹴り上げる。
 フィニッシュでコロナフレアとアレグロが同時に炸裂して、斑は高々と吹っ飛ばされた。
 あわや屋上から転落と言うところだったが、辛うじて金網の手前に落ちてきた。
 しかし金網を破壊してがっちりと脚をくわえ込ませてしまった。
 タロットカードの「吊られた男」のように逆さまにはりつけられた。
 そしてびくりとも動けない。

 瑞樹と七瀬の勝利だ。
 二人は互いに顔を見合わせて、どちらからともなく微笑んだ。

次回予告

 斑。最後の悪あがき。その結末。殺人鬼の末路は?
 そして男と言うことがばれた瑞樹は、無限塾での学園生活を続けることができるのか?
 次回PanicPanic第43話『Long Good−By』
 クールでないとやっていけない。ホットでないとやってられない。

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