エピローグ「Wonderful Life」

二年生編

 みずきたちが進級して薫たちが新入生として入学してきた。
 くしくも赤星薫。北条愛子。若葉朝弥。上条輝。そして風間葉月・弥生とあのグループの弟や妹たちが一緒。しかも1−2だった。
 輝と朝弥は同じクラスと言うことに難色を示したが、さすがにそれはまかり通らず。

 そして薫は初日に『カミングアウト』した。
 美少女のような容姿だが、あえて本来の性別を告げた。
 隠していても水泳の授業ではバレるからはじめの内でと言うことだ。

 覚悟の告白だった。だが反応は拍子抜けするほどあっさりしていた。
「オトコだって言われても」
「女の子にしか見えないよねぇ」
 要するに信じてもらえなかった。
 女装のネックは声だが、それもややハスキーな女声に聞こえたのもある。
「いやあの…生物学的には男なんだけど(もちろん心はばっちり女の子よ)」
 まさかの反応に戸惑うのは薫の方。
 別に罵倒されたかったわけではないが、気持ち悪がられると思っていたらこの反応でどうしていいかわからなくなる。
 動きが色々出てくるがそれがいちいち可愛らしい。
 ここまで15年間。ひたすら「女の子」でいようとしていたのだ。
 何もしないでも女の子でいられる本物の女の子より可愛らしくなっても不思議はない。
 こんなに可愛いなら男でもOKじゃない? 恋人は困るけど。それが男子の思い。
 一方の女子は自分たちが肌を見られるわけにもかかわらず、この可愛らしい「男の子」を「女の子」として受け入れてもいい気がしていた。
 と言うかそれこそハダカを見ない限り男なんて信じられない。

 そんな中で一人。学生服の「男子」が立ち上がる。
 身長は男子としては高くもなく低くもなく。恐らくは170前後だろう。
 長い髪。男だから「ロン毛」と言うところか。それを無造作に束ねている。
 処理は男っぽいのだが、髪そのものはつやつやと「キューティクル」があった。
 そして「少年」は椅子を倒してもそのままにしておくほど動揺している。
「同じだ…」
 発した声は押し殺してあるが明らかに少女のもの。
「えっ? まさか貴方も?」
 確かに薫はその出会いを期待していた。しかしまさかいきなり見つかるとは。
「僕と同じだ」
 「彼」は薫の元へと歩み寄り、その手を取る。
「この感触って…」
 そう。柔らかい感触。よく見ると色も白いし小さい。
「本当は胸を触らせりゃわかりやすいんだけど、特殊な物をつけていてわかりにくいんだ」
「それじゃ…あなたはあたしと同じで…」
「逆とも言えるね。性別が反対で」
 本当に運命の出会いが待っていた。
 体は男で心は女の赤星薫と、体は女で心は男の渡辺千明はその境遇のせいか一瞬で恋に堕ちた。
 もちろん、この奇跡のカップルに文句をつけるような人間など、この無限塾には入ってこない。

 その頃、「姉」の方はどうだったのか?

 春休みが過ぎてみずきの変貌に男子生徒たちはため息をつく。
 僅か半月で腰に達したロングヘアが艶やかに宝石のように輝いている。
 一気に伸びたためか傷む暇がなかったらしい。
 肌も白くなり、その分だけ唇と頬の赤みが目立つ。
 大きな瞳は高いところから見た夜景のように光を湛えていた。
 身体的には心なし胸も大きくなったようだ。
 変化は体だけでない。
 スカート着用ゆえに歩幅に制限があり小さめのストライド。
 非力ゆえに逆に細かさで補うためか繊細な印象を与える仕草。
 そして何より格段に柔らかくなった言葉遣い。
 思い起こせば一年の時のみずきが女言葉を使うときは、秋から冬にかけて心まで女性化したときを除けば芝居くさかった。
 それが今ではまったく自然に女言葉を使いこなしている。優雅さすら感じて男子生徒はくらくらしている。
(落ち着け! コイツは本当は男。いくら可愛くても…)
 そういう思いがあった。

 それを見ていた榊原はあることを思いついた。
「赤星。ちょっと」
 手招きする。
「なんだよ。榊原」
 親しい男に呼ばれてつい元に戻る。途端にあちこちから視線が刺さる。
 遊び半分の女子のそれと、夢を壊すなと言う男子のそれが。
 仕方なく言葉遣いを改める。
「なぁに? 榊原君」
 猫なで声で返事をする。もっとも以前なら自分で気持ち悪くなっていたが、女としての自分も受け入れた今では然程ではない。
「ああ。今日の放課後。お前の店に行っていいか? いや。店と言うよりおまえんち」
 つまりここでは出来ない話をしようと言うことらしい。店なら客としてくればいいのだから断りなどいらない。
「なになに。赤星。勉強教えてもらうのか? それならアタイも混ぜてくれ」
 真理が珍しく「勉強会」に乗り気だ。
「俺がこいつに何を教えると言うんだよ」
 忘れがちだが榊原とみずきは学年の1.2フィニッシュの常連である。
 ただの「スケベ」と「男女」ではないのだ。
「勉強会ですか? わたくしもお邪魔してよろしいですか?」
「いや。だから違うって」
「榊原くぅん。ボクにも教えてぇ」
 進級を機に制服を以前のセーラー服から、無限塾のジャンパースカートとボレロに改めた綾那が擦り寄ってくる。
 リボンは紐ではなくてワンタッチタイプの物。
「私も行くわ。今のみずきと榊原君を二人だけで一緒の部屋にはできないわ」
 七瀬も参加を意思表示。
「おいおい。俺がコイツを孕ませるってか? まぁ孕んだらコイツも女としての覚悟は決まるだろうけど。そうしたら自分が女と痛感するだろうな。俺は俺で孕ませたら自分が男と痛感するだろうな」
「なにバカ言ってやがる」
 いつものように榊原を吊り上げる。一年のときから変化がない。
 もう榊原のスケベも真理のガンズンローゼスもみずき同様にカミングアウトしたのでおおっぴらにやっている。
 みずきと七瀬ではないが、これももう「夫婦喧嘩」と言われている。
 一瞬だけ吊り上げると解放する。首と尻をさすりながら榊原は立ち上がる。
「あたた。しゃーねーな。何とかなる?」
 もはや否定するのも面倒になってきた。申し訳なさそうにみずきを見る榊原。
「いいよ。ちょっと狭いけど八人入れるだろ」
 いつの間にか意思表示してない十郎太や上条までカウントされていた。
「打ち合わせは終わったかしら?」
 いつの間にかベルが鳴っていたらしい。
 話に夢中で氷室響子が来たのに気がつかなかった。慌てて自分の椅子に戻る面々。

 中尾勝の心中失敗の自殺。それで空席になった2−2担任は副担任だった氷室響子がそのまま昇格した。
 そして空いた副担任だが…なんと新米教師である榊原涼子が抜擢されていた。
 榊原和彦が頭を抱えていたのは言うまでもない。

 そして「勉強会」で榊原の提案。だがそれは意外な形で通らなかった。
「ああ。その手なら既にやっているよ」
「なに? しかしまさかお前が?」
「仕方ないじゃん。せっかくばれたんだし、それなら男扱いに戻りたいし」
 正確には「ばらした」のである。七瀬を守るために斑と戦うには女の姿では力不足だった。それゆえに。
「なるほど。だがこの集まりは無意味でもないな。知らなきゃみんなして妨害していたところだし」
 確かに完全女性化の騒動を経験している面々だ。榊原の懸念も当然。
「どっち道そろいも揃って人に女らしさ強制してくれてるんだ。逆手にとってやる」

 次の日。みずきの変化に気がついたのは女子が先だった。
「あれ? みずき。シャンプー変えた?」
 髪からほのかに漂う甘い香り。それが変わっている。
「あら。気がついた? そうなの。ママが使っているものだけどこっちの方がいい匂いでしょ」
「そうね」
 流暢に女言葉を使うみずきはもう慣れたが、細かいところが女の子になってきてるなとその女子は感じた。

 男子が気がついたのはみずきとすれ違った時。
 いつも以上にいい匂いがする。とても甘い、まさに「女の子のにおい」を感じていた。

 昆虫が発することで有名な「フェロモン」だが、人間の男はそれほど嗅覚に頼っていない。
 それでもこの甘い香りは自分の中の「男」を呼び覚まし、そしてみずきに「女」を感じずにいられない。
 しかしそのたびに正体を思い出し制動をかける。
(ちきしょう。何でコイツこんなに可愛いのに男なんだよ。本気で惚れて、オレがホモになったらどうする?)
とか考えてもいたりした。

 一年生たち。
 あっさりと受け入れられた薫であるが男子生徒からブーイングが起こった。
 中心となったのは金髪の軽薄男。江川裕一。
「どうせつくりものならもっと大きな胸にしろ」
 意外かも知れないが薫は胸に詰め物をしていない。
 可能な限り自分の肉体を使って「女の子」になろうとしていた。
 特に筋肉がつかないように、それでいて太らないように警戒していた。
 太い手足はまだしも、筋骨粒々では女の子でいられない。
 ただし程よい脂肪なら大歓迎だった。特に胸元。
 しかしスレンダーな体形ゆえ本来の性別を考えると当然だが、胸元の脂肪分は皆無だった。
 負けを認めるようでパッドは使いたがらなかったが、あまりにうるさいので安物のCカップブラを買ってきてパンストを詰め込んで見た。
 そしてその上から女物の服を着る。
 作り物とわかっていてもその胸の膨らみ。それがもともとの顔などと相俟って一気に女性的になる。
「あれ? 悪くないかも」
 あらゆる春物であわして見る。悪くない。偽物とわかっていても、豊かな胸元は女性性をアップさせる。
 変な話、薫の場合は全てがフェイク。ニセの女である。
(だったら胸もニセ物でいいかな? どうせなら大き目の方が)
 そう思ったら現金なもので本格的なパッドを探し始める。

 翌朝、スクールブラウスの胸元を盛り上げた薫が恥ずかしげに登校していた。

 上条輝は「大好きなおにいちゃん」の相手に綾那を認めた。
 若葉朝弥は「愛しい姉貴」の相手に上条を認めた。
 しかしやはり面白くない。
 利害が一致すると言うことで輝と朝弥はタッグを組んだ。
 もしかしたら阻止できるかと。
 しかしさすがに死線を乗り越えた明と綾那。絆は固かった。
 そして共同戦線を張っているうちに、朝弥と輝の間にも今まで感じなかった感覚が。
「べ…別にあんたなんかなんとも思ってないんだからねっ。お兄ちゃんに比べたら」
「けっ。俺だってお前なんか姉ちゃんに比べたら…」
 しかしそれでいていつも一緒になっている二人であった。
 死線をともに掻い潜ったわけではない。しかし似たもの同士の近親憎悪からやがて…
 兄や姉たちとは正反対の展開だった。

 その兄と姉。
 もともとオタク趣味すら隠してなかった上条である。
 好きなものを好きといって問題ないだろう。そういう考え方であった。
 そして綾那が好きと自覚した現在。これもまったく隠そうとしなかった。

 お昼時の学食は戦場である。この日は上条。そして綾那も学食だった。
「あーやなっ。一緒に食べよう」
 定食のトレイを持って綾那が出てくるのを待っていた。
「うん。明くん」
 ニコニコと笑顔で寄り添う。
 バカップル全開だった。

 ところが意外な展開で。あれほど執拗に付きまとっていた綾那が上条と距離を置き始めた。
 補足するなら自分が所属する陸上部をサボっても上条の部活に乱入していたのにそれをしなくなった。
 現在も陸上部で、走る順番を待っている。隣の女子部員が話し掛けてくる。
「あんたも現金ね。上条君が自分になびいたら途端に離れるなんて」
「だって…こうして離れている時間も彼のことを考えて楽しくない?」
 いくら相思相愛でもいつも一緒では息がつまる。
 互いの一人の時間も大切にしよう。
 それも理解したのだが、それが上条の方が積極的になってからと言うのも変わっている。
(明君。今何してるかな?)
 この思いあるとき、彼女は一番恋をしている実感がある。

 そろそろ梅雨に入り蒸してきたころ。毎日の入浴は必須であった。
 この頃の瑞樹は一年のとき同様に帰宅して一息ついたら、家事手伝い兼小遣い獲得のウェイトレス。
 それがすむと入浴して後は翌朝まで男のままである。
 さすがに女で固定していると髪の毛の伸び方が異常になるため、ブレーキとして瑞枝もそれは認めていた。
 その腰に達するロングヘア。洗うにも男のように掻き毟るようには出来ない。
 お湯を被っているため男ではある。だから頭部は掻き毟るようにしていたが、延びた部分は手で揉むようにして洗わないといけない。
 一心不乱に洗っていたが、ふと鏡の自分が目に入る。
 浅黒い肌。平坦な胸元。筋張った体。どう見ても男のそれ。
 しかしそれでいてこの「ロン毛」は手もみ洗いを余儀なくされ、必然的に女のように振舞うことに。
 瑞樹は見ないようにして髪を洗い続けた。

 上がってからもまた面倒。
 バスタオルを押し付けるようにして水気を取る。
 ある程度取ったら髪をまとめてタオルで巻く。
 ここでまた我に帰る。
 男なのにこの格好…ドライヤーをかけてブラッシングしている時にも同じことを考えた。

 翌朝、水をかぶって女の子に。
 目は覚めたが長い髪の処理でいらいらしてきた。

 ある夜。瑞樹は最後に水をかぶって上がった。
 その状態で髪の処理。わざわざピンクの可愛らしいパジャマである。
(うん。この姿ならこういう仕草もむしろいいわね)
 女の子モードになると言葉遣いが自動的に女言葉になるようにまでなってきた。

 翌朝。おきて歯を磨き顔を洗う。
 朝の水浴びを省いた分だけ時間に余裕がある。
 パジャマ姿で朝ごはん。盛大に食べ散らかしてしまうから制服では避けている。
 それから制服に着替えてブラッシング。
 シャワーの二十分がなくなったため十分余計に寝ても、さらに十分の余裕が。
 これで味をしめたみずきは、それ以降は入浴中だけ男に戻るようになっていた。
 これも抵抗がなくなったゆえだった。

 これについては秀樹は渋い表情だったが「覚悟を決めた現われ」と思い、特別に何も言わなかった。
 瑞枝が文句をつけるはずはむろんなく、むしろ髪の手入れやスキンケアをレクチャーするほど。

 六月。久しぶりに悪漢高校の襲撃があった。
 しかし現れたのはたった二人。それも男女。
 秋本虎次郎。そして傍らに寄り添うのは悪漢高校の制服であるセーラー服(無改造)に身を包んだ竹之内真弓であった。
「久しぶりでござるな。秋本。して、その娘御は?」
「……聞かないでくれ……」
 深いため息をつく秋本。戦闘意欲マンマンの真弓と対照的だった。
 幾度と闘い、例え敗れてもこんな表情は見せたことのない秋本なのに。
「ならば質問を変えよう。今までどうして誰も来なかったのだ? お主は事情があったとしても」
「だぁぁぁっ。しょーがねーだろっ」
 まさに切れた。あろうことか十郎太が若干たじろいだ。それほどの「心の叫び」だった。
「全部このバカ女が悪いんだ。転校してくるなり周りの連中を挑発しまくりやがって…おかげで俺は身内相手に大立ち回りの毎日だ。サルやデブ。イカサマまでやっちまった…」
「それで今まで襲ってこなかったのだな」
 しかしそれで行くと秋本はたった一人で、悪漢の面々を敵に回して真弓を守ったことになる。
「ああ。なんだってこんなことに…俺が女のために戦うなんて」
 心底落胆しているのがわかる。しかし悪びれる様子のない真弓。
「だってぇ、あの人たちみんなコジロウくんバカにすんだもん。腑抜けになったとか」
「バカヤロウ。俺は一匹狼だったんだ。それが女つれて歩いて見ろ。腑抜けとバカにされて当然だ」
「えー。一目ぼれしちゃったんだもん。仕方ないわよ」
 態度の変わらない真弓と、ますます落胆する秋本。
「しかし秋本。お主なら捨て置くかと思ったが?」
「ああ。俺自身意外なのはそこだ。なんか見捨てて置けなくてな。つい守っちまった。まぁとにかく落とし前つけるために今日は俺が来た」
「よかろう」
 だが十郎太の表情は引き締まらず意外なほうに変化した。なんと笑顔だ。
「待て待て待て。待ちやがれ。いつものように辛気臭い表情で説教くさいことを言え。頼むからそんな生暖かい目で俺を見るな」
「いや。この勝負、拙者が負けるかもしれぬ。おぬしにも守るべきものが出来たのではな。めでたい故につい笑みが出た。失礼した」
とか言いつつまだ笑う。
「やめろぉぉぉぉぉ。そんな目で俺を見ないでくれぇぇぇぇ」
「宿敵」にこの目で見られてはそれはきつかろう。
「くっ。悪いが今日のところは引き下がらせてもらう。この有様じゃよ…」
 戦ってもいないのに疲労困憊の秋本。
「十郎太様。闘いは…これからですの?」
 弓を片手に姫子がやって来ていた。敵も男女二人ならこちらも加勢と言うつもりだったらしい。
「いや…戦いにならぬうちに終わってしまったでござる」
「なによ。コジロウ君は今日はちょっと調子が悪かっただけなのよ。あんたなんかに負けないんだから」
 事情を理解していない真弓が食って掛かる。
「まぁ」
 さすがに姫子は恋する乙女。一瞬で真弓が秋本にとってなんなのかを理解した。
 その秋本は木刀を杖にしてよろよろと立ちさろうとしていた。そこに手を貸そうとする真弓。
 それが仲睦まじく見えた姫子は思わず「まぁ。お二人ともお幸せに」と声を。
「ありがとー」
 真弓は素直に礼を言うが、秋本には姫子がとどめを刺した格好だ。力なくこけた。
(あ奴も随分と丸くなったものだな)
 正直な感想の出る十郎太。

 梅雨が終わりそろそろ夏本番のころ。
 体育の授業も水泳に移行するのだが、その目前のある日。
「坂本。急ごうぜ」
「焦らなくてもまだ余裕だよ。入来」
 体操着姿のふたりが体育館に向かう休み時間。階段を下りるが二年のいる二階に来たときだ。
「七瀬ー。トイレ行こっ」
「わかったわよ。恥ずかしいから大声出さないの」
 連れだってトイレに出向くみずきと七瀬。ふたりとも長い髪が美しい。
 それを惚けたように見ている坂本。
「しかし信じられねぇな。あのちっこい方。本当は男だって? 声といいスタイルといいバリバリ女じゃねぇか」
「ああ。でも彼女…彼と言うべきかな。その変身は僕も見ている」
「へへ。で、噂の女が実は男で、惚れてた女のレズはウソとわかったら未練が出たかい?」
 揶揄してにたにた笑う入来。坂本が七瀬に思いを寄せていた件も知られている。
「いや…もうない…正確には今消えたかな? 夫婦だって別々の場所に一緒に行くような仲じゃ、割って入れる隙間なんてない」
 どんな夫婦でもトイレや浴場などは別々である。
 しかしみずきと七瀬は「男の子と女の子」でありながら、女子用の施設に同行できる仲なのだ。
「それに今は千鶴がいるし…」
「かぁーっっっ。ノロケかよ。まぁお前とくっついたおかげで、お嬢もおとなしくなったんでいいがな」
 今度は揶揄と言うよりやっかみ。坂本は赤くなる。
「さぁ。本当に急ぐか」
 ふたりは移動を再会した。

 夏休みに入る。
 この年は一年の時の九州に続いて、モニターと言う名目の北海道旅行が予定されていたが、その前に海水浴となった。
 そこで水着を新調するため「女の子だけで買い物に行こう」と綾那が提案した。
 集合場所は「ゆうかり」。駅前とかで待ち合わせだと真夏の日差しと気温で日射病や熱射病が恐かったから室内だ。
 ここだと多少なら長居しても勘弁してもらえそうと言う理由である。
 集合時間は11時。そのままお昼にしてから買い物のつもりである。

 みずきは母親のドレッサーの前に腰掛けて丹念に髪をとかしていた。
 真夏の日中。キャミソールとミニスカートで肌を露出させている。
 一年前だったら「そんな女の格好なんて出来るか」と間違ってもしなかったであろうスタイルだ。
 しかし今は女としての自分を受け入れた。そのため女としての行動にも抵抗がない。
 それどころか自分が可愛い顔をしていることを認識してしまったので、飾り立てることにはまり込んでしまった。
 今もロングヘアを丁寧に分けて、根本からくくりさらに派手なリボンで飾っていた。
 髪の毛が邪魔にならなくなったら今度はメイク開始。
 アルバイトと家の手伝いで毎日ウエイトレスとして店に出ているのだ。
 既にメイクは手馴れたものである。
 さすがにネイルアートはしてないが両手両足全ての爪が彩られている。
 本来男であるせいか加減ができてないところがある。

 メイクを終えたら両耳にクリップタイプのイヤリングを。男もピアスはするようになったが、みずきの耳には穴は開いてない。
 そして指輪などのアクセサリーを。最後にメガネをかける。
 視力は良いのであくまでファッションであり、可愛らしさを全面的に押し出したものだ。
「あら? ちょっと失敗」
 ルージュのむらを見つけた。彼女はメガネをかけたまま鏡に向かってそれを直した。

いくらなんでもなりきりすぎ

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの猫宮にゃおんさんに感謝!

 ゆうかり。
 今は真理。姫子。綾那が冷たい飲み物を飲みながら後二人を待っていた。

「ごめーん。遅れちゃったぁ」
 カウベルに続いてみずきの声が響く。が、先に待っていた三人とみずきたちふたりで硬直する。
「綾那…真理…その髪…」
 綾那の後頭部に「お下げ」がない。まとめてもいない。
 ばっさりと切ってしまっていた。ショートカットである。
「うん。暑かったし、明君、最近はショートカットのキャラが好きみたいだし」
 若干だが声のトーンが落ちいてる。どうやら少し後悔しているらしい。
 服だけは変わらずいつもどおりのフリル満開。
「いいんじゃね? たまにゃ」
 真理の髪型は変わってない。ただ前髪の一部に真っ赤なメッシュが。
 そのせいかなおのこと攻撃的に見える。
 もっともこの時点ではだいぶ丸くなっていた。やはり穏やかな日々が彼女の心を沈めたのだろう。
 真理はそっけない無地のTシャツ。ただスタイルのよさがもろに浮き出て、攻撃的ですらある。
「姫ちゃんも思い切ったわねぇ」
 七瀬は言うが正確には「姫子にしては」である。
 髪の毛は切ったり染めたりしていない。
 ただポニーテールにしているだけだが、水着や浴衣。和服の時以外ではうなじを、それも町中で見せている点が珍しい。
 髪をまとめるリボンも黄色くて70年代のようだ。
 それ以上に特筆なのはその服装。ノースリーブのブラウスに膝丈のスカートなのだ。
 実はこの一同。制服以外のスカート姿なら、姫子よりみずきの物の方が多く目撃している。
 それほどまでに和服が多い。
 洋服もゼロではないが、こんな肩や太ももの一部を町中で見せるのは姫子にしては思い切っている。

「三人とも夏休みでイメチェンてわけね」
「あんたらの方がよっぽど劇的変化だぜ。みずき。七瀬」
「ああら。そう? あたしたちはちょっと手を加えただけよ。それ見たら榊原君ビックリするんじゃない? 真理」
 学校では一年のとき以上に女としての行動を強いられるようになったみずき。
 いつしか互いの呼び方も「いずれは苗字の変わる女同士」で、下の名前を呼び合うようになっていた。
 そしてその勢いで「男子生徒」に君付けを。もっともこれは「作戦」の一環だが。
 さらに言うなら「女の子だけの買い物」に混じれるあたりみずきも相当に女扱いが進んでいる。

「どう…似合うかな?」
 不安そうにおずおずと切り出したのは七瀬。
「素敵ですわ。七瀬さん」
「いいなぁ。ボクも染めてみようかな」
 七瀬の「変身」。それは真理同様に髪を染めたこと。
 元々黒髪の女性が脱色して茶色にする逆で、彼女はその栗色の長い髪を漆黒に染め上げたのだ。
 長い上に黒いから見た目は重いと言えば重いのだが、それを上回る「美しさ」をえていた。
 服装のほうだが多少はスタイルに自信が出てきたのか、それとも単に暑いからかサマードレスであった。
「ねーっ。せっかく伸ばしたんだから黒くして正解でしょ。七瀬」
 立ったままの二人が椅子に近寄る。
 椅子を引いてデニム地のミニスカートを撫で付けながら座るみずき。
 きちんと膝を閉じ「スカートの中身」が見えないようにしている。もっとも向かいは「同性」であるが。
 レモンイエローのキャミソールから豊かな胸元が垣間見える。
「みーちゃんが一番変わったかも」
 みずきの「変身」。いや。彼女の場合は「二段変身」とでも呼ぶか。
 まずはその露出度の高い服装。
 一年のときはそんな女を強調する服装なんて自分から積極的にはしなかった。
 だが「女の自分」も受け入れ、女としても人生を楽しもうと考えを改めてからはファッションに対する考え方も変わった。
 砕けて言えばハマっていたのだ。そのため若干やりすぎな印象もある。
 サンダルは暑いからいいとして、その両足すべての爪が赤く彩られている。
 両手の爪はウェイトレスの時にあまり派手ではまずいからかおとなしめだがそれでもピンク。
 太ももを惜しげもなくさらしたミニスカート。
 胸元もちらちら見えるキャミソール。ご丁寧に腋の無駄毛も完璧に処理されている。
 化粧しているがヘタ。つまり瑞枝や薫ではなく本人の手によるものと推測される。
 やむなく化粧したケースはどちらかの手を借りていたのだが、自分の手でやるほどに。
 そして一番目立つのはその髪形。
 「暑いから」と言う理由だが、ロングヘアを根本から二つに分けて左右にたらしていた。ツインテール。
 とどめが裸眼で1.2のみずきがめがねである。伊達めがね…ファッショングラスであるのは間違いない。
「あんた…やりすぎだろ」
「こういうのが男の子にはよく効くのよ」
 さらっと言うみずき。女言葉にも芝居がかったところがなくなってきた。自然である。
「七瀬。あんたこんなので大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫。いつか完全に女の子になったときも、あの屋上での戦いでも男のみずきは来てくれたから…信じている。信じてるからね。みずき……」
 笑顔…が、引きつっている。手も震えている。信じたいけど信じ切れないようだ。
「さぁ。おなかぺこぺこ。お昼食べましょ」
 それを知ってか知らずか明るい口調のみずきの言葉で待ち合わせがそのまま昼食に。

 なお、新調したみずきの水着が派手なビキニだったことをここに記す。

 この「変身」は二学期に入って驚きをもたらした。
 もっとも姫子はいつものストレートロングに戻した。
 真理もさすがにメッシュはいくら無限塾でも無理があるので落としておいた。
 しかしばっさり切った綾那はまだまだ短いまま。
 ところが髪が短くなったせいか余計に幼い印象に。
 そして上条相手に見せる無防備な…無邪気な笑顔に惹きつけられる男子たち。
 横恋慕しようにもいまやそれは上条の暴走を呼ぶと判明しているので、指をくわえてみているだけだ。

 反対に七瀬は黒髪にしたらかなり大人っぽくなった。一言で言うなら色気が出た。
 160中盤の身長でもやや大きめの胸元。いつの間にかスリムになっていたボディ。
 一年のときの水泳ではまだぽっちゃりした印象もあったが、これは今から楽しみだと一部男子は思っていた。

 そして…みずきはまた雰囲気が変わった。
 抽象的な表現をするなら小悪魔。
 愛らしい…童顔と言うほうが正解の顔でツインテール。
 メガネがアクセントになっていた。そして本心を隠していた。仮面の役割を果たしていた。
 夏休み明けだというのに異様なほどに白い肌。
 これは以前に痛い目を見て日焼け止めをきちんと塗るようになったこと。
 入浴時以外は女で、寝る前のスキンケアをしていたこと。
 そして女でいる時間が格段に長いため、女の肉体にしようと体が働きかけていたのが要因だった。
 小麦色の肌が多い中でこれは妖艶ですらあった。
 そのためくらくらする男子生徒が続出。

 みずきの「猛攻」が続く。
 元々背が低いので必然的に見上げる形。上目遣い。
 そして純粋な女子ではしないであろう言い回しやポーズ。言ってしまえば「萌えツボ」を突いていた。
 どれだけ女性化してもみずきは男の子。
 どんなポーズや台詞が効果的か、自分で理解していた。

 正体を知らない一年のときなら男子に媚びを売る嫌な女で片付いていた。
 しかし、見た目こそ女でも男同士。
 限りなく男女の仲に近い同性愛。それで女子も口を挟まない。
 一部などはこれを楽しみに学校にきている位だ。

 一方男子としてはたまらない。
 高校二年生。「真っ盛り」である。そこにフィジカルなアプローチをかけられ続けるのだ。
 自制心を保っていられるのは「みずきは男」と言う事実。
 だが体は正直。
 天使のような声で悪魔のようなささやきは耳を貫く。
 甘い香りは鼻に押し入り、握った手のひらの柔らかな感触。時には服越しに押し付けられた豊かな胸の弾力は触覚を狂わせる。
 童顔。巨乳。低身長。ツインテール。めがねと「萌え要素」は目に焼きつく。

 これでみずきが正真正銘の女の子なら明日を考えずに突っ走ったかもしれない。
 しょせん男は孕まされて傷つく危険性はない。だから欲望のままに突っ走れる。
 だがさすがに「本当は男」と言う事実はブレーキをかけさせる。

 それでも暴走してアプローチを試みるものもいる。
「なぁに、こんなところに呼び出して。お話って」
 校舎裏に呼び出されたみずき。言葉や仕草。表情は女の子そのものだが、思考は男のそれをなくしてはいない。
 呼び出した意図はみえみえである。それであえてきたのは?
「赤星。俺と付き合ってくれ」
 その男子は完全にみずきが男と言うことを忘れている。それはわかる。
「ありがとう」
 意外にもみずきはにっこりと微笑んで礼の言葉を言う。
「それじゃ」
 受け入れられたと思うのも無理はない。
「覚悟があるならいいわよ。パパ」
「パ…パパ?」
 夫婦に子供がいた場合、妻が夫をこのように呼ぶことは多い。
 つまりそこまで飛躍したのかと考えた。
「だってぇ…あたし男だしぃ
 わざと頭悪そうに喋るみずき。一方の男子はそれを思い出した。
「男同士じゃ結婚できないもんね。だから養子にして。それでお嫁さんね」
 つまり「自身が男なのに男と結婚」と言うことになる。
「あ…あうあう…」
 言葉にならない男子生徒。ここに来てやんわりと断られていることを悟った。
 しかしひとつ除いて刺激され続けた五感。それが更なる暴走を促した。
 もうワケがわからなくなり、本能のまま残るひとつ。味覚。唇の味を求めて迫る。
「うぉーっっっ」
 だが格闘の達人であることも忘れていた。みずきのスタークラッシュ。無数の蹴りを食らい倒れ伏す。
 密会現場が校舎裏ゆえに靴の裏には泥が。それが男子の学生服にいくつも。
「ごめんなさいねぇ」
 これは本当に謝っていた。そしてみずきはその場を立ち去る。

 後にその男子は藤宮に発見される。
 学生服についた無数の靴跡が何があったか物語っていた。
 哀れこの男子は「男に迫ったあげく袖にされた」と言うレッテルを。
 怖れた男子はみずきに迫らなくなった。
 だが無視するにはあまりに刺激が強すぎた。
 アイツが女の姿でなければ

 十一月のある日。ホームルーム。
 男子の大半が白旗を掲げていた。本当に旗を振っていた。
「それじゃ、赤星さんを男子扱いにして欲しいのね?」
 念を押すように氷室響子が尋ねる。めがねの奥の目が笑っているように見える。
「はい…『女らしくしろ』は撤回します。あんなに迫られちゃ身が持ちません…いっそ男の姿なら」
 これがみずきの作戦だった。
 男子に迫り続ける。しかし『男相手』に本気になれない男子たちが音を上げるのを待っていた。
 自分から約束は反故にしてはいない。それどころか要望どおり「女らしくしていた」のである。責められる謂れはない。
「それじゃあたしは明日から男に戻っていいのね?」
 念を押していた。男子の大半が項垂れるように首を縦に振る。
「わかったわ。それじゃ赤星さん。二年の内は出席番号とかは女子のままだけど、授業とかは男子用に移っていいわよ」
 担任が太鼓判を押す。みずきの表情が歓喜に変わる。
「みずき。勝利宣言してやったらどうだ」
 真理が言う。一同は早いうちにこの作戦を知っていた。だから何もしなかった。
「そうね。それじゃ…あたしの勝ちね
…………
「あれ?」
「みずき。せっかく男に戻れるのに何で女言葉なのよ?」
 七瀬も知っていたから慌てていない。しかし作戦終了したのだから元に戻ったらと言う思いもあった。
「うん。『オレノカチダナ』」
 静まり返る教室。あまりに不自然な男言葉。狼狽した表情でみずきが七瀬のほうを見る。
「どうしよう。七瀬…あたし……男言葉が出てこなくなっちゃった…
「ええーッッッ?」

 一概に言われる女性の言語に対する強さ。
 これは実際に脳の構造が理由なのである。
 男性は理数系に強い脳で、女性は感性。言語が発達している。
 語学の教師や通訳に女性が多いのもそれだし、訛りを消すのが上手いのも女性のほう。

 そしてみずきも変身した以上は「女脳」である。
 つまり学校。そして自宅で女言葉を使い続けたあまり、そちらに慣れてしまい女言葉が基本になってしまったのだ。

 男の姿で女言葉を使ってしまったらかなり恥ずかしい。
 しかし女の姿なら問題があるはずもない。
 結果的にさらに女姿を維持しつつ、言葉遣いを元に戻すことにした。

 結局、元の言葉遣いに戻れたのは冬休みの集中特訓。
 秀樹の千本ノック時の罵倒に応じているうちに男の言葉遣いが戻ってきた。

 その反動で女のときに女言葉が出にくくなったが、もう懲りたのであまり拘らず男女どちらでも男言葉で行くことにした。

 三学期。もう作戦は終了したし男子扱いに戻れる事になったみずきだが、未だに女子の制服で通学していた。
 理由は学生服。
「オフクロ。ガクラン買ってくれよ」
「でもねぇ。みずきちゃん。後一年でしょ? 本来なら三年使うものをもったいないわ」
「男扱いになれるのにどうしてスカートで通わなきゃいけねえんだよ?」
「学生服も高いのよねぇ。だからお下がりをもらうことにしたわ。大変だったのよ。みずきちゃん小さいから中々サイズがなくて」
 それを言われると辛い。それに三年になるのに真新しい学生服と言うのも確かに変だ。
「わかったよ。春休みまでは女子用でガマンする」
 膨れるが仕方ないと理解した。
 言うまでもなく瑞枝は学生服が高いから買わないのではなく、少しでも長くみずきに女の子でいてほしいからの口実である。
 それは理解していたみずきだが、買ってくれないのは事実。
 溜めた小遣いでも無理。
 もともと三年間を女子として通すはずだったし、もうちょっとガマンすればいいかと納得した。

 二月。産休・育児休暇中の高橋圭子がピンクの産着の赤ん坊を連れて職場に遊びに来た。
 可愛い赤ちゃんに群がる女子生徒たち。
 どの女子に抱かれてもおとなしいのに、真理。綾那だとぐずつく。
「えーッ? なんでー」
 不満そうな綾那。真理は元々そういうものと思っていたが。
 姫子が抱くととうとう泣き出した。
「そんな…赤ちゃんに泣かれるなんて」
 将来は母親になるつもりの彼女にはショックだった。
 これがみずきと七瀬になると完全にダメ。火がついたように泣き出し、まだロクに動かない体で「逃げよう」とする。
「うそ…」
 七瀬も子供ずきだからこれはショックだった。こんな怯えたような反応を示されるなんて。

 「怯える」のも無理はない。
 この赤ん坊の魂はあの斑のものなのだ。つまり因縁の相手たちには拒絶をしていた。
 特にみずきと七瀬は敗北したこともあり、完全に「トラウマ」になっていた。だからの反応である。
「はいはい。愛ちゃん。恐くないのよ。お姉ちゃんたちは全然恐くないのよ」
 母親に抱かれ優しく叩かれると途端に泣き止む。安堵したのか眠りにつく。
 おそらく本能的なものと、修羅の道を歩いてきた斑の安らぎゆえにこの反応だろう。
 そしてこの安らかな時間は如実にどす黒い魂を浄化して「一人の少女」へと生まれ変わらせようとしていた。
「へぇーっ。愛ちゃんって言うんですか?」
「ええ。女の子ですもの。やっぱり愛情のある子になって欲しいわ」
 殺人鬼の新しい…いや。「最後の名前」としては皮肉であり、新しい人生に対しての祝福でもある名前だった。

 卒業式。
 なじみのところでは坂本。入来。そして千鶴たちの旅立ちの日であった。
「入来先輩・・・僕は、僕は…」
 どこでそこまで心酔したのか上条は泣いて別れを惜しんでいた。
「おっと。上条。旅立ちに涙は禁物だぜ。さぁ。埼京流五つの誓い。言ってみろ」
「はい! ひとつ。いつでも不適に笑っていろ。ひとつ。戦うからには挑発だ。ひとつ…」

「千鶴さん。一足先に行かれるのですね」
 姫子も涙ぐんでいる。傍らには愛子もいる。
「ホント。せいせいするわ。あんたと同じ学校じゃなくなるなんて。まぁでも…ちょっと寂しいかしらね」
 最後の最後に本音が出た。

「先輩。色々とご迷惑をおかけしました」
「赤星君…僕の方こそ」
 坂本にはみずきと七瀬が。坂本はみずきの手を取る。
「赤星君。及川君と仲良くな」
 せめてそれなら失恋も報われる。そんな思いの握手だった。

 三年生たちが去り、春休みが終わればいよいよみずきたちが最上級生だった。

エピローグ「Wonderful Life」卒業編へ

エピローグ「Wonderful Life」二年生編製作秘話へ

エピローグ「Wonderful Life」パロディ原典集

「PanicPanic専用掲示板」へ

「Press Start Button」へ

トップページへ