エピローグ「Wonderful Life」

卒業編

 春。四月。桜が舞散る無限塾校舎を背中に学生服姿の小柄な少年が、長い黒髪の長身の少女と立っていた。
 小柄な体躯。女顔。そして短い髪。
 二年生までは傍らの少女。七瀬と同じジャンバースカートの制服をまとって通学していた少年。
「真・赤星瑞樹。参上」
 上条の影響なのか。芝居がかった物言いである。
 変身体質になってそれをひた隠しの中学時代。その卒業式以来の学生服であった。
 もっとも残り一年と言うことで「お下がり」だったが、それは些細なことであった。
 ずっと女の子として通うはずだったこの学校。そこに男の姿で通える日が来るとは。感銘していた。

3年2組出席番号1番。赤星瑞樹!

このイラストは参太郎さんによって作成されました。
いつもありがとうございます。

「長かった…こうしてまたガクランが着られるなんて思わなかった…」
 大げさだが涙が滲んでいる。気持ちは理解できなくないが苦笑してしまう七瀬。
 別の話題で空気を変えようと試みる。
「それにしても思い切ったわね。髪の毛」
 すっかり黒髪ロングが定着した七瀬。こちらも三年生になってぐっと綺麗になっていた。
 肌が弱いためスキンケアは欠かせなかったが、逆にそのおかげでにきびに悩まされることもなく。
 白い綺麗な肌になっていた。
「あんな長い髪でこの格好は出来ないだろ」
 「ロン毛」でも問題ない瑞樹の顔ではあるが、やはり手入れが面倒なこともあり、そして「男らしく」短くした。
 一年の時のトレードマークだった襟足の『しっぽ』もない。
「さて。クラスの連中にも男らしいオレの姿を見せつけてやるか」
 歩き出す瑞樹。慌てて着いていく七瀬だがあっさり追いつける。
 七瀬を気遣う場面ではないのでゆっくり歩いたわけではない。
 二年間ですっかりスカートでの歩き方が身について、歩幅が小さくなっているのである。

 クラスの反応は様々だった。
 わかってはいたものの男としての姿に落胆するもの。
 男姿はともかく、学生服姿は新鮮で質問攻めしてくるもの。
 女子には「可愛い」と言うものもいた。
「まぁまぁ。座らせろよ」
 男扱いにご満悦の瑞樹。進級でまだ新しい席が確定してないため、とりあえず教室後方の空いている席に座ろうとする。
 椅子を引き、お尻の部分を撫で付けて皺にならないようにして座る。
(そりゃスカートでの座り方だ!!)
 心中で突っ込む女子。歩き方がスカートの時のものなら、座り方まで染み付いている。
 ご丁寧に内股であるが本人はまるで気がついてない。
 仕方ないと言うのと、面白いと言うのであえて誰も突っ込まない。

 その極みがトイレである。七瀬とともに談笑しながらトイレへと。
 そのまま女子トイレに入ってしまったのである。
 たまらないのが先に入っていた女子たち。
「ちょっとみずき!? あんた今日からあっちでしょ?」
 金切り声を上げる。それでやっと七瀬と二人して気がつくくらいだから僅か二年で「みずきは女」と言う意識が深く染み付いていたようだ。

 これは今までの習慣ゆえと大目に見られた。
 しかし今度は瑞樹が男子トイレで固まってしまった。
 ジッパーを降ろして便器の前に立つのだがなんとなく落ち着かなくて、出てこない。
 思い余って個室のほうに入ってズボンと下着をおろす。
 やっとそれで目的を達成できた。
 何も考えないでペーパーを手にして、自分の足の付け根にもって行ったところで気がついた。
(うわ…男言葉には戻れたけど、トイレの仕方は座った方が落ち着くようにになっちまってる…)

「随分と染まったもんだな」
 相変わらず口の悪い真理がずけっと言う。誰も部活がない日で駅へみんなで移動中。
「しょうがないじゃない。真理。二年も女で通してたんだもん」
 頬を膨らませて言い返す学生服姿の瑞樹。
「瑞樹。言葉遣い」
「あっ。いけね」
 七瀬に指摘されて女言葉が出ていたと気がつく。やはり二年生の時の大半を女言葉で通していた影響は残っていた。
「今までは女の子の姿で男言葉出してNGだったのに、今はその逆か」
 改めてしみじみと言う榊原。
「お前だってもし二年も女で通学して、女らしくしろと強制されたら絶対なるぜ」
 今度は男っぽく文句を言う瑞樹。

 帰宅して…一息入れて風呂場へ。
 女になるとウェイトレスの衣装に着替えていく。恐ろしく慣れた手つきでてきぱきと。
 一年の時からしていた家事手伝い兼小遣い稼ぎで、てきぱきできるのは理解できる。
 さらに一年のときはなかった習慣として、軽いメイクがある。
 二年のときに男の目で見たときに、女としての自分の可愛さを認識してしまった。
 以来可愛く飾り立てるのにはまってしまった。メイクができるようになったのもそのため。
 ちなみに女言葉に馴染んだのは強制もあるが、自分の女声がかなり可愛いと認識して、可愛い声にふさわしく可愛い女言葉を使おうと思ったからである。

「いらっしゃいませー」
 もはや演技とは思えない女の子としてのスマイル。愛想を振りまき客を案内する。オーダーをカウンターに伝えて一旦家に上がる。
 トイレなのだがやはり客の前で行くわけには行かない。
 その際にスレ違いざまに薫が一言。
「お姉ちゃん。なんだか生き生きしてない?」
 ギクッ。見抜かれた。
 そうなのだ。完全な男のときから女性的な趣味。服の趣味もである。
 そして女としての自分を受け入れたら可愛い女性服に抵抗がなくなったどころか、むしろ着るのが楽しみにすらなっていた。
(きっとオレって…完全な男でも女の要素が他の男より強かったんだろうなぁ。だからあんなにあっさり女に馴染んで…もしかしたら女装趣味になってたんじゃ?)
 トイレでリラックスしてそんなことを考える。
 すっかりスカートでのトイレの方がスタンダードになっていた。

 学校にて。
 出席日数も成績も問題なかったため瑞樹たちは三年に。薫たちは二年に進級していた。
 そう。一年間をともに過ごしていたのである。
 無限塾は基本的にクラス替えはない。そのまま持ち上がる。
 薫は完全に女の子として扱われていた。
 体質なのかまったくひげは生えない。
 体毛もきちんと処理しているためヘタすると生粋の女の子より綺麗かもしれない。
 とにかく女でいようと意識しているために仕草などがますます女性的になる。
 かなりの『美少女』になっていた。

 男子の中には『薫がホントに女だったらなぁ』と思うものも多い。
 一部女子には『ちゃんと男の子だったら』と思うものも。
 これはその美形ゆえ。しかし時間とともにそっちの思いは消えてきた。
 それほど自然に女の子としての笑顔を見せるようになっていたのである。

 その一番の理由が渡辺千明。
 一年で背が伸びて174にまで。
 男性としては普通だが実は少女の肉体。それでだと異例の長身。
 だが本人は薫の逆で心は男で体は女。
 まさに薫とは運命の出会いであったのだ。
 互いに相手を思いやれる。だからどんどん千明は『男』に。薫は『女』になっていった。
 まさかそれが肉体にまで作用したわけでもないだろうが千明は長身に。
 そして薫は寄せて集めてなおかつ普通のパッドを使うとAカップのブラジャーがフィットする胸に。
 ニセモノのCカップ用のパッドはやめて、自分の胸用にAカップのブラを誇らしげに使うようになった薫である。

 余談だがこの時点での綾那もAカップまで成長していた。

 一年をまったく穏やかに過ごすものたちだけではない。
 若葉朝弥と上条輝はけんかばかりしていた。
 理由は互いに重度のシスコンとブラコンだから。似たもの同士で近親憎悪と言うわけだ。
 しかしぶつかり合う…本音を晒しあうせいか次第に心の壁が取り払われていく。
 いつの間にか『ケンカ友達』に。
 たまにどちらかが休むと落ち着かないほどに。

 そんな友人たちを愛子は相変わらず楽しそうに見ている。
 ただ姫子のように包容力があるだけでなく、変なところ積極的なので時たま困った事態を。
 そう。何かと後押しをするのである。
 姉・姫子と十郎太の関係が良好な今、特にプッシュする相手がいない。
 ならばとクラスメイトにまでお節介を焼いていた。

 十郎太と姫子は相変わらずであった。ただ以前より会話が少なくなった。
 正確に言おう。口での会話は少なくなった。
 互いに目を見ればわかる。そんな関係になっていた。
 もともと十郎太は忍びだけにそういう能力に長けていた。
 そして姫子は人を思いやれる少女。
 さらに二人は相思相愛。
 自然と『言わなくてもわかる』関係になっていた。

 相変わらずと言うなら上条の言動もだった。
 受験生と言うわけだがまったく変わらない。
 それどころか『U局アニメにいいのが多くて…しかし視聴環境にないから見られなくて残念だ』とこぼしているほど。
 だがそれでもかばんの中から六法全書とかが出てくると、彼が警察官志望とさすがに思い知らされる。

 一年のときはどれほど邪険にされても付きまとっていた綾那だが、既に3年の付き合い。そしてやはり相思相愛となると付きまとうまでは行かなくなった。
 替わりに『影ながら支える』状態である。いつでも見守っている。そんなスタンスである。

 しかし上条も一年のときとは違う。綾那が好きと言う自覚がある。
「お。綾那。今度はボブカットか」
「うん。似合うかな?」
 二年の夏にショートにして後悔し、二年の三学期にはまたお下げに戻っていたのだが、入梅直前で蒸すのもあろうがまた切った。
 今度はストレートパーマでクセッ毛をまっすぐに。その上で肩口の長さのボブカットに。前髪も揃えていた。
「うん。可愛いと言うより綺麗だな」
 上条は自分がオタクであることを公言する男。マイナスイメージで見られているオタクと。
 言っても差し支えないことならずばっと言ってしまう。人によっては女の子の機嫌を取っているように見えるが違う。
 ちなみにブラコンの妹・輝はその言葉をまともに受けすぎて舞い上がったことがある。
 もっともこの辺りではそのブラコンも落ち着いてきたようだが。
「ありがとう…ボクも…あたしも気分変えようと思って」
 小学生の頃から使い続けてきた「ボク」と言う自己代名詞だが、この三年になってからは「女らしく」しようと言う気持ちの表れか「あたし」と言い換える場面も目立つ。
 そんな綾那の綺麗なボブカットに手を乗せる上条。
「無理すんなって。綾那は綾那のままでいいんだ」
「うん」
 ストレートな二人は気持ちに気がついてからは素直に恋をしていた。
 堂々といちゃついていた。何しろ一年のときにリング上でキスしたのだ。恐いものなんてない。

 無限塾は3年の五月に修学旅行がある。場所はオーソドックスだが京都。
 その際に班分けが問題となった。
 瑞樹を男子と女子のどちらに入れるかである。
 二年までは女子として授業を受けていた。特に一年のときは本当に女の子と思っていたくらいである。
 その辺の時代のことを男子にしゃべられてはたまらないと言う言い分。
 だが本音は逆。
 女子グループに引きずり込んで男子の情報を得ようと言う目的だった。
 もちろん「恋」が理由。
 一緒の部屋で寝起きすることにはなるが、二年までは水泳の授業ですら一緒だったのだ。
 ちなみに一年のときに散々互いの裸を見ているので、今更男といわれても羞恥心がわかなかったと言うのが実情。
 三年ではなおさら。

 ところが男子側も引きずり込みを狙っていた。
 こちらも本当の女には聞けない「女の子の秘密」を聞きたい一心だった。

 結論としては男子側に。やはり入浴時の問題があり女子側には入れられないと。
 そこだけ男子の方にとも言う手もあるにはあるが、女子扱いでの行動となると部屋で先にお湯を被り男に戻ってから入浴。
 部屋に戻ってから再び水をかぶって女性服に着替えるのではたまらないと本人が主張。
 たとえ水をかけられても風呂場ならすぐ元に戻れる。
 そして何より「オレは男だ」と言うことで瑞樹本人の意思もあり男子側に。

 だがこうなると自動的に一年時から知っていたと言う十郎太。上条。榊原にがメンバーに入るのは必須。
 しかしそれでも残りの面子に入ろうと激しい…と言うよりバカな戦いをしていた男子たちである。

 そして当日。一年のときは九州へ。二年のときは北海道へ出向いた面々。
 三年となると受験組もいるため夏休みは無理。だからなおさらこの旅行を楽しみにしている面々だった。
 現在は東京駅で新幹線乗車待ち。
「やっぱりさ…京都に着いたら十本刀の誰かに襲われたりするのかな? それとも関西呪術教会の裏切り者が」
 何を期待しているのかうきうきしている上条である。
 それを見て微笑んでいる綾那。
(これだよ。優しい明君もいいけど、こうやってはしゃいでいるのが本当の明君だよ〜〜)
 見かけは未だに子供っぽいが達観しすぎの綾那である。
「むぅ。やはり京は幕末の頃より物騒でござるか?」
 見事に真に受けていた。
「まぁ。恐いですわ」
 もう一人いた。
「姫。ご安心を。何があろうと拙者がお守りいたす」
「十郎太様…頼もしいですわ」
 どうもピントのズレまくる二人である。
「いや…それも心配だが…実は僕、京都は初めてなんだ」
 とりあえず上条の話を聞いている一同。
「京都と言うところは寺や神社ばかりあって、時代劇の撮影隊がそこらにいるイメージがある」
「オレ、舞妓さんの色香に迷わないか心配だな」
 元ネタは知らなかったのだが見事に的確なノリを披露した榊原。
「寝ぼけたこといってんじゃないよ」
 三年になってますます『姐さん』ぶりに磨きの掛かった真理が後ろから小突く。
「オレは重要文化財とか壊さないか心配だよ…」
 瑞樹のドジはそのレベルなのである。
「そのときは私が直すわ。だから心配しないで」
 本気で案じている七瀬であった。

 期待(?)したようなトラブルはなく一日目は無事終了。懸念された入浴時間だ。
「オレはいいよ。汗かいてないし」
 殊勝にも遠慮する瑞樹。いや。その気持ちもわかる。
 三年二組A班が八名。
 上条。十郎太。榊原が味方といえど後の四人の男子は虎視眈々と狙っているのは確かだった。
 やっと男に戻れたのに何で今更…それも裸を晒さなきゃ。そういう思いだった。
「ふっふーん。いいのかな。そんなことで」
 その四人が揃って水の入ったコップを持っていた。
 この部屋どころか宿泊している生徒の部屋には浴室はない。
 つまり女にされたら最後、浴場へ行くしかないのである。
 いくらばれていても女姿で…それもホテルの中を歩きたくはなかった。
 まだ浴室の方がマシだったので行くことにした。

 浴場。予想はしていたが洗い場についた途端に水を汲み始める男子たち。
 だがその予備動作の分だけ遅れる。榊原たちがサッカーのゴール前をカバーするように立ちはだかってガードした。
「お前ら…」
 守ってくれた三人に胸が熱くなる瑞樹。
「お前らっ。そんなにまでして赤星のヌードを独占したいのかっ?」
「…男バージョンのときに言われるとちょっと嫌なんだが」
「オレだって嫌だっ」
 話の腰を折られたが説明を続ける。
「もしここで俺たちが守らなかったら、赤星は奥さんに言うだろうな」
「そして奥方を通じて姫たちの耳にも」
「そのためにもコイツが嫁さんにチクらないですむようにしないとな」
「どうでもいいけどなんかでオレ旦那扱い?」
「じゃ嫁がいいのか?」
「……旦那でいいです」
「だからどうしたんだよっ」
 話の理解できない男子たち。
「「「わからんのか? そうなったらこいつを守れなかったと言うことで姫(or綾那or真理)が怒るからだっ」」」
 こっちこそ旦那たちである。それも恐妻家。
「くそおっ。なんかとしてでも…」
 大乱闘に発展したあげく藤宮に怒られ廊下で正座させられたA班である。
「オレは被害者だ…」
 瑞樹もつき合わされていた。

 そのころ女子の部屋では…こちらも湯上り。思い思いに髪や肌の手入れをしていた。
 簡単にブラッシングしてドライヤーかけておしまいの真理が、ブラッシング中の綾那に話しかける。
「いやぁ。しかし綾那も胸大きくなったなぁ」
「嫌味なの?」
 こう返すのも無理はない。
 確かに綾那の胸は膨らんでいた。Aカップ程度に。
 だが真理はF通り越してGに届きそうだ。そんな女に言われたらさすがの綾那もこれくらいは言う。
「本当だよ。一年のときはブラいらないんじゃって思ってたし」
「ひっどーい」
(ごめん。綾那ちゃん)
(わたくしもそう思ってましたわ)
 まさか七瀬や姫子にまで思われているとは考えていない綾那であった。

 清水の舞台から上条が本当に飛び降りたり、恋愛成就の神社で綾那のテンションが上がりまくったり、姫子は「京女よりおっとりしてる」といわれたり、映画村では役者以上にロケに十郎太が溶け込んでいたり、本当に舞妓についていく榊原を真理が公開処刑したり、二泊三日で様々なことをした修学旅行だった。

 六月。梅雨時になる。じめじめしていやな季節だが赤星瑞枝は上機嫌だった。
 今も夕食をとりながらのテレビ。天気予報。
「見てみて。みずきちゃん。明日の降水確率90%だって」
「うわ。絶対降るな」
 その体質ゆえに顔をしかめるみずき。現在はウェイトレスの仕事が終わり、風呂前に夕食をとっていた。
「でしょう。明日は久しぶりに制服ね」
「制服って…まさか女子の?」
 コクリと頷く瑞枝。
「水泳の時は仕方ないけど…」
 いくら男子扱いに戻ったといえど、水泳だけはどうしようもない。
 だからその日だけは初めから女子の姿で登校を余儀なくされる。
 しかし今はもう男子生徒。それ以外は着たくなかった。

 もっともこの2年でだいぶ女性服に対する抵抗はなくなっていたのだが。

 そんな時期のある朝。霧雨の降るじめじめした登校時。
 しきりにズボンを直している瑞樹。
「どうしたの? そんなに」
「いや…なんかまとわり着いて…それ以上に蒸れるんだよな」
 言いながらもいらいらして着ている。
「やっぱりあれ? ズボンって閉じているからむしむしするの?」
 未だにお尻の大きさを気にしてパンツルックはしない七瀬。
「そうなのかなぁ? おかしいなぁ。昔はもっと不快指数の高そうな日でもこんなには感じなかったのに」

 その答えは帰って着替えてから出た。そう。ウェイトレスをするためにスカート姿で。
(あ…やっぱりこっちの方が涼しいや。よく女装をさせられた男が「スースーして頼りない」とか言うけど、言い換えると涼しいと言えるか)

 そして翌朝。やはり蒸し暑い朝。不快指数が高い。いらいらしていると朝食の味噌汁を学生ズボンにかけてしまっていた。
 普通ならありえないドジをするのが瑞樹である。
「熱ーーーーーーーーッッ」
 慌ててズボンを脱いで冷やす。
「あーあ。出汁の香が香ばしい…」
 これは本格的に洗わないといけないが、さすがにこの慌しい時間で洗濯はまだしも乾燥までは間に合わない。
「こうなったら手は一つね」
 いつの間にか薫が瑞樹の着ていた女子制服をもって来ていた。
「プールでもないのに……」
 とはいえど背に腹は替えられない。学生服のスペアはない。似たような黒ズボンを瑞樹は持ってない。
 仕方ないので水をかぶり、久しぶりに女子制服に身を包んできたみずきである。

 そして登校。雨なのにみずきは晴れ晴れとした表情。
「あはっ。なるほど。確かにこっちの方がじめじめした時はいいかも」
 ズボンがまとわりつくのに対して「生足」である。
 スカートだってまとわり着くが、生足のそれには大した問題ではない。
「ねぇみずき。叔父様のズボンを借りられなかったのかしら。喫茶店のマスターなら黒いスラックスなんていくらでももってそうだけど?」
「あ!!!!」
 すっかり失念していた…と言うより女子制服でいいやと言う気にもなっていた。
「……男に戻ったつもりでも、どこかで女の部分が残っているなぁ。けど…うーん」
 どうやら雨の日のスカートがことのほか具合がよかったらしい。
 まして雨の日に途中で傘を手放してずぶ濡れなんてマネもしかねないみずき。
 雨の時や降りそうなときは初めからこの姿もいいかもしれないと思っていた。

 登校すると想像以上に歓迎されていた。
 別に「女装」ではなく、女の子がスカート穿いているだけである。
 それでも大うけである。
「久しぶり。みずき」
 これは女子の言葉。
「なんだよ。昨日だっていたぞ」
「だってあれ男の子じゃない。やっぱりみずきはそっちの方が落ち着くわ」
「おいおい」
 クラスの女子はみずきの性別を完全に女と見ている。苦笑するみずき。

 みずきは教師たちから冷やかされるのを覚悟していた。
 ところが担任どころか他の教科の教師も何も言わない。
 例えるなら「ああ。今日はスカートはいてきたのか」と言う表情くらい。
 拍子抜けするみずきだが
(それって…オレがいかにここでは女として馴染んでいたかの証拠か?)

「まぁしょうがないんじゃないか? 第一印象って奴は」
 帰り道。みんなで仲良く駅まで向かう。
「うん。ボク…あたしもみーちゃんが女の子の方が落ち着くし」
「そうですわね。正直わたくしもそちらの姿の方が和みますわ」
「姫ちゃん。綾那!」
「まぁ待て。赤星。3人とも出会ったときはその姿だったんだし。及川以外はみんなそうなんだから勘弁してやれ」
「ひどいわ。榊原君」
 「男同士」なのに君付けで呼び、ぷうっと頬を膨らませる。
 18歳になったがまだ幼さは残りつつも、成人に近づき美しさも出てきた時期ならではの可愛らしさが。
「やっぱり…性別間違えて生まれてきたかも?」
「上条君!!」
 既に癖になっているのだ。本人がこれでは周りにこの姿での男扱いを求めるのは無理と言うものであろう。

 わかってはいたが…欝な季節が来た。
 そう。水泳の授業が始まる。ちなみに未だに七瀬はカナヅチで、二人揃ってうなだれている。
 梅雨時は雨の降りそうなときは女子の姿で登校だったが、この時期は水泳のあるときは晴れても女子で。
 だから場合によっては登校する日すべて女子という週もあった。

 おずおずと女子更衣室に行く。しかし誰も何も言わない。一年、二年と体育は一緒だったのである。今更何もない。
(それもなんだかなぁ…)
 完全に女の方が馴染まれている。別に「キャーッ男」と騒がれたかったわけではないが…釈然としなかった。

 だが男子は違っていた。その完成に近づいたプロポーションに興奮を覚えずにいられない。
「おおおっ。しばらく男の姿で見ていたせいか、それとも18になったからなのか。恐ろしくプロポーションがよく見える」
「ああ。相変わらず背はない。だがそれがいい」
「うるせぇ」
 ちなみに18歳時点で女バージョン156センチ。男バージョンは166センチ。
 女のときは周りも似たようなものだからか背のなさは気にならないが、男に混じっていたときはほとんどが170センチ以上のため圧迫感を憶えていた。
 そのせいか女子に混じっているのにむしろ安らいだ表情である。

「ま…待て! 確かに赤星は可愛い」
 「男」相手に抵抗なくいえる台詞ではないが、女とみなしているのなら話は別。
「だが見ろ。嫁のほうを」
「だれがみずきのお嫁さんなのよっ」
 母性を感じさせる性格で隠れていたが、七瀬の強気が出た。
「違うのか?」
 まるで示し合わせたように男子の声がハモル。
「ち…違うわよっ」
 たしかに婚姻関係にはない。しかし否定するその顔の頬の赤みが言葉を打ち消していた。
「まぁいい。それよりプロポーションだ。一年のときはぽっちゃりしていたが二年のうちに引き締まって、出るとこでて引っ込むところは引いて。赤星の嫁なんでノーマークだったが、かなりのプロポーションといわざるをえないッ」
「もう」
 嫁扱いにのみ憤慨して「セクハラ」には頭が回らない。

「おおっと。Eカップ二人は確かにすごい。しかしF…いや。G(推定)の前ではかすむっ」
「当然だっ。俺が毎晩もんでいるからここまで育ったんだっ」
 男子の悪乗りに返した榊原の言葉が終わるかどうかの内に真理は彼をプールにけり落とした。
「それじゃあんたとアタイが夜いつも一緒みたいじゃないかっ。キスどまりだってのにっ」
 自爆! ただし逆の意味で質問される。
「なにぃ!? お前らがまさかその程度で留まっていたとはっ」
「絶対在学中に妊娠すると思っていたのにっ」
「するかっ」
「だってあの榊原君よっ」
 みずきの変身体質同様に榊原のスケベは完全に知れ渡っていた。
 男子は完全に受け入れた。女子は二年のときは敬遠していたが、三年になって大人になったのか多少のシモネタ程度なら笑えるほどにはなった。
 ちなみにシモネタになると七瀬と真理は逃げる。相変わらず姫子と綾那はわかってない。
 箱入り娘の姫子にそんな「教育」をするものはいない。
 上条もその辺りには淡白なため、綾那もあまりわかってない。
 女子たちも「箱入り」「お子様」の二人にはシモネタをしにくい。

 ちなみにみずきは女子の貴重な「男子の生態情報源」だった。

「いや…いくらカズがスケベでもアタイが許してないから」
 苦笑して否定する真理。
「意外だわ。ウチの学校で一番大人なカップルだけに」
 確かに榊原はよく言えば渋みを増した。
 真理は美しさに凄みすら。それでいて「家族」との日々が彼女から荒んだ部分を削っていく。

「ボクだってAカップになったのに…」
 まだ意識しないと「ボク」に戻る綾那。胸元を弄りながら嘆く。
「まぁまぁ。わたくしたちはこれから成長期ですから」
 宥める姫子だがちゃっかりCカップになっていた。そのため着物姿が以前ほどしっくり来なくてそれが悩みの種だった。

 受験生たちには水泳の授業もいい気分転換になっていた。
 ぎらつく太陽が容赦なく降り注ぐ。

 その夜…赤星家の風呂場。
「うー…去年はほとんど女で過ごしていたからこの水着跡も気にならなかったけれど…男と半々に戻ったらかなり恥ずかしい…」
 別にタンクトップとかにしなければ見られる心配はないのだが、見えないところに気を配る女の心が作用した。

 翌朝。
「あれ? 今日は水泳ないはずよ?」
 七瀬が言う晴天の朝。
「うん…ちょっとね」
 みずきは水泳もないし、雨も降ってないのに女子での登校だった。
 男子制服ならワイシャツだから見えるはずもないのだが、どうしても気になってしまい、この水着跡でも問題のない姿を選んでいた。
 また夜寝るときだけ男子と言う生活に戻る。

 受験生に夏休みはなかった。
 みずきも進学希望のため夏季ゼミナールへと応募していた。
 それはともかく登録が修正されてないため、女子として通う羽目に。
 水着跡が気になるのとこのゼミの関係でほとんどは女子のままで。

 ちなみに進学は他には七瀬。姫子。十郎太。医学部が榊原。警察学校への進学は上条。
 進学をしなかったのは真理と綾那。二人ともいわば家事手伝いである。
 十郎太の進学は意外に思われたが護衛のためといわれていく気になった。
 誰がどう見ても二人が相思相愛なのはみえみえ。
 それなら大学でも一緒でいいだろうと言うのと、文字通り「悪い虫」がつかないようにするのもある。

 九月。
 台風シーズンでこそあるが梅雨時のようにいつも雨と言う状況でもない。
 そして水泳の授業もなくなり瑞樹は久しぶりに男子の制服で登校した。

 ところがどうにも居心地が悪い。
 この場所に自分がいてはいけないような錯覚すら。
 もちろん誰も彼を排斥しようなどとしてない。
 瑞樹自身が収まりが着かない。

 しばらく不思議に思っていた。
 そしてある雨の日。女子の姿で登校して理由がわかった。
(そっか…ここじゃオレ、やっぱ女なんだ…)
 理屈じゃなかった。感覚と言うか「空気」だった。
 こっちの方がとにかく馴染むのである
(元々塾長とも約束してたし…)

 その日のホームルーム。今度はみずきが白旗を掲げた。
「せっかく勝ち取ったのに…」
 詰ると言うより苦笑している七瀬。
「うん。でもなんだか居心地悪くて…あの、オレこの後ずっと女子で通学していいですか?」
「あらあら」
 こちらもメガネの奥の目が苦笑いの担任。
「条件がある」
 一年の時と同様に男子が言い出した。
「俺たちに無闇に色っぽく迫るな! くそう。ちょっと男に戻っていたせいかやたら色気を増しやがって」
 半分はおちょくりだが、半分は本音。大人になってきて綺麗にもなっていたのだ。
「もうやらないよ。内心ドキドキだったし」
 腕っ節は例え女の身でも負ける気がしないが、自分が本当に女の心になったら恐いと言うことである。
「女子はどう?」
 響子が意見を求める。
「私たちは問題ないです。なんかみずきそっちの方がしっくり来るし」
「俺たちとしても…な」
 どうやら本人も周辺も異存はないらしい。
「わかったわ。それじゃ明日からも女子としての登校を認めます。でも願書の写真は男子として撮りなさいね」
 男子でありながら女子として通すなんてことが出来たのは無限塾ならではである。
 進学する大学がこれほど融通が利くとも思えない。
 だからきちんと男子として通さねばならない。
「それじゃハイ。あたしたちからプレゼント」
 女子の一人が自分の予備の髪留め用の輪ゴムを手渡した。
「へへ」
 みずきはそれで襟足を束ねた。
 二年の間に体は成長してしまったが、姿は一年の時のみずきに戻った。
「お帰り。赤星」
「みずき。お帰り」
 クラスメイトの男子も女子も口々に「女のみずき」を歓迎している。
「はは…どうせ約束もあったしね…」

 大学受験の日。
「受験票は?」
「大丈夫」
「お財布は?」
「OK」
「筆記用具は?」
「大丈夫だってば」
 赤星家ではみずきの出発に際して瑞枝が心配していた。
「準備OKなのね。いってらっしゃい」
「ああ。行って来る」
 彼女はスカートを翻して出口へと。
「バカもん。貴様その姿で行くつもりか?」
 秀樹に怒鳴られた。
「え?」
 改めて自分の姿を確認する。それは一分の隙もない無限塾女子制服だった。
 願書では男子で出してある。当然、女の子ではうけられない。
「あわわわ。違和感なさ過ぎて…」
「さっさと着替えてこい!」
 怒鳴られて慌てて家に戻るみずき。
「まったく。あのバカは…」
 ひとしきり怒ると表情を和らげて待っている少女に謝る。
「すまないね。七瀬くん。まだ余裕はあるはずだから」
「いえ…私も注意しなかったのが悪いんですし…でもなんか全然違和感なくて…」
 恥じ入っていた。

 それ以外は大学受験も順調に進み、みんな合格していた。

 そして…今、卒業の時を迎える。
 みずきと七瀬は屋上にいた。
「あれから二年か…」
 二年前。担任教師に成りすましていた殺人鬼・斑信二郎との激闘。
 この死地を乗り越えたことで二人の絆は強くなった。
 今のみずきはあの頃と同じヘアスタイルだった。
「そうね…」
 七瀬もセミロングに戻して色も本来の栗色の髪になっていた。
 二年の初めからストレートロングだったので印象がまた変わった。
 大学受験の追い込みで手入れの大変なロングから元に戻したと言うのが実情。
 同様の理由で染髪もやめている。
「いろんなことがあったよなぁ…」
 遠い目をしているみずき。

 放送室の前。
「ここで初めて名前で呼んでくれたんだっけ」
 こちらも一年のとき同様のお下げに戻っている綾那。
 あの頃との違いはセーラー服じゃなくなったことと、ほんのちょっとだけ胸が育ったこと。
 上条への愛は変わらない。
「おかしなもんだよね。あんな局面で『君が好きだ』って自覚するなんて」
 懐かしむように笑う上条。

 杉の木の下。
「あの時、あんたらはここで待ち構えていたのか」
 姫子を道連れに斑が飛び降りたヴィジョン。それを予知していたためここにいた。
「あの時は悪かったな。助けに行かなくて」
「いいよ。アタイが無事なのは見えていたんだろ。だったら命の危機の方に行かないと」
 榊原の行為に理解を示している真理。遠くを見る瞳に。
「仇は取ったけど…ゆかりは帰ってこないな…」

 姫子を助けた際に飛び込んだ教室。生徒は卒業生を迎えるために先行して講堂に出向いており無人である。
「ここで初めての口付けを…」
 甘い思い出と同時に死の直前まで行った記憶が蘇える。
 いつまでも胸もにしまっておきたい「思い出」と、早く忘れてしまいたい「記憶」が一緒の場所。
「姫。拙者命ある限りお守りいたす所存」
 凍てついた血をとかしてくれたのはこの男の暖かい唇。そして逞しい胸板。
「ありがとうございます」
 姫子はその素直さで礼の言葉を口にする。
「参りましょう。そろそろ式の時間でござる」

 それぞれが思い出の場所で記憶を辿っていた。しかし、この思い出深い場所からの旅立ちの日が来た。

 卒業証書の授与。そして塾長の話。在校生からの送辞。そして卒業生代表も新入生の時と同じくみずきだった。

「答辞。卒業生代表。赤星みずき」

 あの時と同様にまっすぐに塾長の目を見る。いかつく厳しいがどこか温かみのある目を見る。
 そして比較的オーソドックスな文面を読み上げる。最後のほうになった。
「最後に、個人的な話としてはこんな体質の私を暖かく受け入れ、わけ隔てなく接してくれた…生徒の…みなさん…そして先生方に…対するご恩は…と…とても…言葉に…」
 本当に言葉にならなかった。あまりにも色々ありすぎ、その思い出が蘇えってきたら涙が溢れてどうしようもなかった。
(みずき…)
 思わずもらい泣きしてしまう七瀬。姫子や綾那。真理も涙ぐんでいる。いや。女子のほとんどが泣いている。
 それだけみずきとの日々は強烈だったのだ。
「申し訳ありません…」
 どうしようもなく泣けてしまったのを何とか振り切った。
「ご恩に対する感謝の言葉も見つかりません。私は…この学校が大好きでした。胸を張っていえます。だからせめてものご恩返しに、立派に旅立ちたいと思います。卒業生代表。赤星みずき」
 もう一度名前を告げたところで全校生徒から拍手が送られた。当の卒業生たちからもだ。
 代表に対する拍手と言うことは自分たちに拍手しているようなものではあるが、ある意味ではそのままずばりなのかもしれない。
 この学校で三年間やり遂げた自分への賞賛で。

 桜の舞散る校門。みずきは真っ赤になっている。
「恥ずかしい……あんな人前で大泣きしちまうなんて…」
「あれは…仕方ないんじゃない」
 さすがに同情的な七瀬たち。同じ立場なら自分も泣いていた気がする…

「ねえちゃん」「お兄ちゃん」
 見送りにきたのは若葉朝弥と上条輝だ。その手が繋がれている。
「輝…いつのまにそんなに」「なかよくなったの? 朝弥」
 本当にビックリしている上条と綾那。
 二人して向き合って赤くなってしまう。
「いや…その…」
「ブラコンとシスコンで似たもの同士だったみたいで…」
 それゆえ反発していたが、明と綾那をどうにかしたいと思っているうちに仲間意識。そして恋人になっていた。
「いいじゃない。朝弥。輝ちゃん可愛いし」
「反発からの恋か。Pia2とかパターンはあるしね」
 最後まで上条らしい。
「まぁケンカしたっていいさ。それもありだ」
「うん。仲がいい証拠。安心した。でもあんまりケンカしちゃダメだよ」

「姉様」「兄上」「お兄ちゃん」
 十郎太の見送りは葉月と弥生。姫子には愛子が来ていた。
「愛子さん。一足先に失礼しますね」
「はい。姉様もお元気で…って一緒に住んでいるのにお別れ見たいです」
「葉月。弥生。愛子さまのことは頼んだぞ」
「はっ。兄上。全力でお守りいたします」
「お兄ちゃんこそ大学で姫様ちゃんと守らないと」
「こ…コイツ…」
 珍しく一本取られて表情を変える十郎太。笑いが起こる。

「お姉ちゃん」
 みずきたちの見送りは薫だ。
「薫。この先あくまで女で通す気なんだな?」
 薫は真摯な表情で頷く。
「そうか。覚悟を決めているんならいいさ。この学校ならやっていけると思うしな」
「それに…彼がいるから」
 薫の視線を追いかけると千明がいた。その存在に驚くが微笑むみずき。
「そうだな。誰かが支えてくれると、遥に心強い」
 微笑を七瀬に向ける。七瀬も自然に笑みを返した。

「おーい。卒業パーティー行くんだろ」
 真理に呼ばれて集まる面々。だが姫子は残っていた。
「どうした? 姫ちゃん」
 榊原の呼びかけにも答えない。じっと校舎を見つめていたが彼女は深々とお辞儀をした。
「ありがとうございました」と言う言葉とともに。
「…………」
 続いたのは十郎太。
「感謝するでござる」
 綾那は手を振りながら
「バイバーイ」と。そして上条は「Say! Good−By」と。
「アバヨ」と言うのは真理らしい。
「さようなら」と言いつつ礼をしたのが七瀬。
「じゃあな」
 一人だけ再会を予感するような言葉なのはみずきだ。怪訝な表情の一同にしどろもどろになりながら説明する。
「いや…よく言うだろ。別れじゃなくて旅立ちだと。だから再会の約束をこめて…ね」
「そうだな…そしてそれはアタイたちの関係も同じだ」
 真理は右手を差し出した。その意図を感じ取った面々は次々と手を重ねていく。

「みんなずっと友達だ」

 それは誓いの言葉にも似ていた。
 そして永遠の友情を祝福するように桜の花びらが空を彩っていた。

別れじゃない…旅立ちだ

このイラストは参太郎さんによって作成されました。
ありがとうございました。

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