オールスタークロスオーバー Part3

「よーう。みずき。僕の華麗な泳ぎは見てくれたかい」
 恭兵はみずきが本当は男とは知らない。
 もっとも水着姿でこれだけメリハリのあるボディを披露していれば、いくら性転換が珍しくない学校といえど「正体が男」なんて考えないのも当然だ。
 相手が「女」だから接触を試みるプレイボーイ。
 純然たる女子だと意外に肌に触れさせたりしていたが、みずきにしてみれば「同性」に触られる感じ。
 それだけならいざ知らず、そこには性的な思いがある。
 そんな接触はたまったものではない。
「あっちに行け」
 邪険に扱うことになる。
「冷たいなぁ。まりあにアプローチをかけているから焼きもちを焼いているのかい?」
(村上が榊原相手にしている苦労が変則で理解できた気がする…)
 自分の容姿に絶対の自信がある恭兵のナルシス振りにげんなりするみずき。
 そこにもう一人の「みずき」が現れた。
「恭兵君。そんな冷たい女はほうっておこうよ。ぼくがいくらでもお相手するからさぁ」
 水泳の授業だったのだ。男子である水木優介は上半身裸である。
 胸のふくらみがないのが違和感になるほど、女っぽい顔立ちをしている。
(こいつこそ女になればいいんじゃないか?)
 異様なほど性転換する人間の多い学園である。
 今更一人増えてもどうということもあるまい。
 もしかして自分のように隠している人間も他にいるかもしれないな。みずきはそんな風に思った。
「お前じゃない。こっちの『みずき』を相手したいんだ」
「オレはいやだ」
 もちろんみずきとしてはたまらない。
 単純に男の相手なんかしたくないし、女として「愛される」のも真っ平だ。
 だから男言葉を隠そうともせず拒絶した。
「またまた。可愛いぞみずき。そんなアニメみたいな声で男言葉なんて使って」
(くっそー……だからこの声嫌いだよ)
 男のときから高めだったが、女に変身したらなおさら高くなってしまった。
 どれだけドスを効かせて乱暴な言葉遣いをしても女の子にしか聞こえない。
 ましてや今は水着姿。
 大きな胸。くびれたウエスト。安産体形のヒップ。細くつるつるの手足。
 女の記号満載。それもレベルは高い。
 実は男だなどとだれも思わない。

 三時間目の前。
 2年1組3組合同の水泳授業。その男子更衣室。3組男子は困惑していた。
「何を今更」
「そうだよ。見ての通り俺ら男じゃん」
 原因は1組の「男子」達。
 肉体的には100%。精神的にもほぼ男だが、本来は女子である。それで困惑する3組男子だった。
「大体空がいるだろが」
「そりゃそうなんだが…」
 3組の松原弥太郎が口ごもる。チラッと「当事者」を見ると、静かにワイシャツを脱いでいたところである。
「きゃっ。松原君見ないでください。恥ずかしいです」
 頬を染め平たい胸をとっさに隠す「美少年」
 その艶かしさに「そっちの趣味」がないはずの少年たちもくらくらする。
「こんなのが追加でクラス半分来たらたまらないのもわかってほしい」
 弥太郎の気持ちを代弁した竹本。
「あ…ああ…確かに」
「俺らもともと女だから男相手はいいとしても、今は男同士だからなぁ」
「反応に困るよな」
 他のクラスすら魅惑する空であった。

 科学室のある塔へと移動するあたしたち。
 ううっ。ズボンからスカートに履き替えたせいか冷えるわ。
「つかっちゃん? どうしたの」
 怪訝な表情のさつきちゃん。急にもぞもぞしだしたら変に思うのも無理ないわ。
「ごめん。あたしちょっとお手洗い」
 さつきちゃんとまことにそういってトイレに。
 女子特有の固まっていく現象だけど、二人はあたしを男として見ているらしく一度として同行したことはない。
 ここでも二人は待つだけに。

 個室で用を足し出ると洸ちゃんが入ってきた。
「あら? 科学室だったの?」
「お姉ちゃんもこれから?」
 入れ替わりになるみたい。
「あ。そうだ。聞いて聞いて。お父さん帰ってくるの」
 お父さんというのは洸ちゃんの実父で、あたしのお母さんの弟にあたる孟おじさんだ。
 仕事で南米に出ていたはずだけど、一時帰国かしら。
「それでね。市紋次さんやお友達を連れて学校に来るって」
「ええ? なんだってまた」
「風水先生にもあうみたいよ」
 そう言えば風水先生は孟おじさん。その親友の市紋次さんの後輩だったっけ。
「あたしにあうのと一緒にするみたい」
 うーん。あたしあのおじさん苦手なのよね。
「あ。いけない」
 ここで洸ちゃんは本来の目的を思い出して個室へと。
 あたしもあまり二人を待たせるわけには行かないし、でなくちゃ。

 一年二組は物理の授業だった。
 そこで中尾に標的にされたのが薫だった。
 もちろんその「服装」についてだ。
「何を考えているんだ? 赤星」
 陰湿な口調で含むように言う。唇をかんで、爪が食い込むほど強く手を握り締めていた薫は涙目で訴える。
「どうして…どうしてあたしが女子制服を着ているとダメなんですか?」
「どうしてもこうしてもあるか。校則でも指定されているだろう」
 これをいわれると弱い。確かに男子用は詰襟である。
 しかし薫は肉体こそ男でも精神的には女である。
 むしろ肉体が男という「ハンディ」の分つねに女らしく振る舞い、仕草などはむしろ純粋の女性より女らしい。
 だからクラスメイトも薫を女として扱っていた。
 もっとも性転換する教師や生徒が多数いるというこの学校の特性も味方していたが。

 斑がこんなに嫌味を言うようになったのは、最大の趣味である「殺人」が出来なくなったことによる。
 何しろ普通じゃない人間が多い。注目度も違う。
 こんな中で「不審な行動」を取ればマークされかねない。
 この肉体になる前は浮浪者としてさまよっていた。
 だからしばらくは中尾勝の家という「安住の地」を手放したくない。
 故におとなしくしていたが、こうなると「ストレス」がたまる。
 それを生徒相手に皮肉でぶつけるからたちまち嫌われ者である。

 薫に目をつけたのはその「弱み」と、自分のクラスの赤星みずきとも衝突があり、その腹いせである。
 女子制服が公認なら薫には何の落ち度もない。
「…………」
 クラスメイトの中に無関心の人間はいても、中尾の味方はいない。
 視線による無言の抗議を浴びせるが、むしろそれを愉しんでいる節がある。
「そんなにセーラー服が着たいなら北原の薬で女になったらいいだろう」
 アマッドネスの被害者を元に戻すため女を男にする薬を優先している。
 そのためかなり材料のダブる男を女に変える薬が「品切れ」なのも承知しての発言だ。
「そうですね。中尾先生も一度女の人になってみたらいかがですか? 薫の気持ちがわかるかもしれませんよ」
 歯に衣着せぬ北原美里の発言。それに呼応するかのようにクラスから爆笑が起こる。
「なんだと?」
 無抵抗の相手を弄っていたはずが思わぬ抵抗。笑われた屈辱もあり、冷静さを保てない。
「なんなら特別に中尾先生のために調合しましょうか?」
 陰湿な性格の中尾は全生徒に嫌われているといっても過言ではない。
 しかし「問題」は起こさないから現場から外す口実もない。
 確執は増える一方だ。

 北原美里もこの物理教師を嫌っていた。
 そして同時に「男」でありながら、健気に「女」であり続けようとする薫に好感を持っていた。
 女が男に対してのそれではなく「同姓感覚」のそれである。
 そうなるとこの局面。こうなるのは自明の理。

 そしてさらにもう一人。
 本来なら銀次郎という名で、ヤクザの組長であるはずの久美も血管が切れる寸前だった。
(このクサレ教師がぁぁ。薫になんの恨みがあるんだ)
 こらちの場合は望まぬ少女の姿を余儀なくされていることが、望まぬ男の肉体でいる薫に対して共感を抱かせていた。
(もうガマンできねぇ)
 久美は通学かばんに仕込まれた護身用の担当…いわゆるドスを抜きかける。
 ちなみにかばん自体もアルミの板が仕込んであり、一撃程度なら刃物を凌げる。
 ヤクザならではのアイディアで改造されている。
 見た目は小さな人形やらでかなり愛らしく飾ってある。これは世話役の女性。寿音のアイディア。
 物騒な改造を悟られないためで久美も渋々了承したがそれは建前。
 愛らしい少女に似合いのかばんというのが大半の組員の願いたっただけである。
 しかしその愛らしい少女に似つかわしくない行為をしようとしていた。
 ちょうど久美に背中を向けた状態で中尾はくどくどと嫌味を並べている。
 薫は唇をかみ締めて耐えている。
(まっとれ薫。今コイツをやってやるからな)
(あんたっ。そんなことして薫ちゃんが喜ぶと思うのかいっ)
(ち…千代)
 千代というのは「銀次郎」の亡き妻。
 もともと銀次郎を狙ったはずの流れ弾が千代に当り落命。
 その弔い合戦に出ようとした銀次郎を止めるために、彼を少女の姿に変えたのが他ならぬ千代である。
(使うなら女の武器にしなッ)
 そして肉体どころか一時的に精神も女性化させることができる。
 久美は急に猛る気持ちが悲しい気持ちへと変わる。
 涙が溢れてくるのを両手で顔を覆って隠す。しかし声は止まらない。
 突如上がった泣き声にさすがに中尾も驚く。
「な…なんだ。一体何を泣いている?」
「先生。あんまりです…誰よりも女らしい薫をそんな風にいじめるなんて…先生がそんなだとあたし悲しいです」
 それだけ言うと再び泣き出した。
 女子生徒を『巻き添え』で泣かせてしまった。さすがにこれは閥が悪い。視線の抗議の威力も倍加している。
「授業を再開するぞ」
 何事もなかったかのように教壇に戻る。侘びなかったのは意地というか。
 生徒たちは勝利とばかしに微笑む。

 休み時間。赤くなっている久美。
「久美。ありがとう。あたしのために泣いてくれるなんて」
「い…いや。あの…」
「本当。感動したわ。二人の友情に」
 いつの間にか頭の中まで女性化したのかありすも涙ぐんでいる。
「女の友情よね」
 片方は精神は男。片方は肉体が男なのだが、美里がきっちり言い放つ。
(ああ。恥ずかしい。男の中の男を目指すはずが「泣き落とし」なんて女の武器を使うなんて…)
 それで久美は恥じ入っていた。
 大抵『泣き落とし』などすると他者の冷たい視線を受けるものだが、それはあくまで自分のわがままだった場合。
 この場合は薫を助けるための手段。しかも非暴力的ということで逆に好意的に受け止められていた。
 「女の子」のレッテルが強固になり、渋い表情になる久美である。

 昼休みで昼食をとった後の授業はとてつもなく眠いが、三時限目でもみずきたちは水泳をした後である。
 眠くてたまらなかった。
(ダメだ…先生の声が呪文に聞こえてきた…)
 そう思った途端に瞼が落ちる。いつもなら七瀬が小突いて止めたりするが、彼女も睡魔と格闘中。

「赤星さん。赤星さん」
 優しい声で呼びかけられる。それでもみずきはおきない。
「もう。仕方ないわね。体罰もやむなしかしら」
 出席簿でひっぱたくのかな…うとうとしながらみずきはそんなことを考えた。
 机に突っ伏したみずきの上半身が椅子の背もたれに寄りかかる形で起こされる。
 みずきは目を開けようとがんばるが睡魔の方が強い。
「えい。お・し・お・き」
 自分の豊かな胸に別の似たようなものを押し付けられて、みずきの意識は急激に覚醒する。
 あれほど仲の良かった瞼を引き離して現実を見ると、現国の教師。木上以久子に抱き締められていた。
「わあああっ。先生っ。何してるんですか?」
「お目覚め? 見ての通り体罰よ」
「これのどこが?」
 第三者から見ると女性同士の抱擁にしか見えない。
「だって、ぶつのは野蛮だし、あなたは女の子だから顔に傷でもつけたら大変だし。お尻を叩くよりはこの方がやりやすかったのよ。痛かった? ごめんなさいね。でも居眠りしているあなたが悪いのよ」
 どうやら木上は「さばおり」をしていたつもりらしい。
 しかし罰どころか柔らかい感触と甘い香りで目覚めたほどだ。
 このときばかりは自分が女の体でよかったと胸をなでおろすみずきであった。
 純然たる男子だったら暴走しない自信はない。それほどの大人の女性の可愛さに満ち溢れていた。
 事実男子たちの目は「体罰に対する非難」ではなく「いいなー。ちくしょー。俺も『体罰』受けてー」という目であった。
 自分が男の姿だったら男子生徒にとんでもない嫉妬されていたかもしれない。
『女同士』だからこれですんだと安堵した。
(しかし…無性にオフクロを思い出すのは…考えるまでもないか…)
 よく似た両者である。

 そのみずきの父親は清良に向き直る。
「少年。生きていれば辛いこともあるだろう。だが負けてはいかん。死ぬ気ならどんな困難とて乗り越えられるだろう」
「は?」
 間抜けなリアクションをしてから気がついた。
(この人…俺が飛び込み自殺したと勘違いしている…)
「いや…俺は…」
「不運なこともあるだろう。しかし最悪のジャストミートさえ避ければ何とかなるものだ」
(人の話し聞いてねーし…ジャストミート?)
 その単語がドラゴン攻略法に結びついた。そしてバットスイングも。
「不躾ですがお願いです」
 清良は頭を下げた。ごく自然に頭が下がった。この人物なら師と仰げると。
「何だいきなり?」
「あの…まずは説明しないといけませんね」
 清良はあえて変身して見せた。
 驚く秀樹。そして見ていたいずみ。あすか。ただしその驚きは「男が女に変わった」とはやや違うようだ。
「君もか…?」
「えっ?」
「いや。なんでもない。話を聞こうじゃないか」
 いわれてセーラは自分の正体。そしてドラゴンアマッドネスに敗れたことを話した。
「なるほど。さしづめ私はそのシッポを振り回す役目をすればいいのだな?」
「はい。お願いします」
「……君を倒すつもりでやるが、それでもいいなら」
「むしろそれでお願いします」

 セーラはレオタード姿のフェアリーフォームへと変化する。
 そして間をおいた秀樹に向かって飛んで突っ込んでいく。
 しかしそれはなんなく叩き落とされる。
 小さく丸いボールを、細いバットで弾き返せる人間がそんな大きな的を外す道理はない。
 倒すつもりと宣したものの力は込めていない。
 皮肉にもそれでスピードが増してセーラに鋭く食い込む。

 何度も何度も叩き落され、秀樹の叱咤が飛ぶ。
「どうした。それで誰かを守ろうなどとどの口が言う? 片腹痛い」
「はい。コーチ。もう一度お願いします」
 イメージとしては鬼コーチと付き従う女子選手という感じだ。

 何度も繰り返す。そしてとうとう目的の動きをマスターした。
「見事だ。当面の目的は果たせたな」
「はい。これもコーチのおかげです。ありがとうござ…」
 とうとう体力が尽きて気を失った。意識を失った証拠というわけではないが、元の少年の姿に戻る。
「よくがんばったな」
 しごいていたときとは別人のように優しい声色だ。
「女将さん。申し訳ないがもう少し休ませてやってもらえないか? 人命救助という範疇を越えているから、私が御代を払うから」
 低いがよく通る声で二階の窓から見ていたいずみに申し出る。
「それは構いませんが、随分とお構いになるのですね」
「ああ。実はウチの息子もこういう体質なんだ。そのせいかちょっと他人の気がしなくてね」
 それを聞いて驚くいずみ。だが微笑むと黙って窓から引っ込む。
 そしてしばらくして秀樹たちの前に現れた。
「御代は結構ですよ。私たち母娘にとっても他人のように思えませんし」
「なに? するとあなたたちも」
 頷いて肯定するいずみ。
「男が女として生きていく。それは並大抵の覚悟じゃつとまりませんから。ましてこの子は人助けのために体を張って」
 ふたりで肩を貸して清良を部屋まで運び込み寝かしつけた。

 授業が進み昼休みになる。教室で弁当を食べるのが二組ではみずき。七瀬。姫子。十郎太。
 そこに四組から美鈴。そしてまりあがやってきた。
「お邪魔するわよ。姫子」
「いらっしゃい。まりあさん」
 親友を微笑で迎える姫子。彼女の弁当箱は漆塗りの和風のものだ。
 一方のまりあは普通のもの。中身も綺麗である。
「おー。相変わらず見事だなぁ。メイドさんが」
「い…言わないでくださる?」
 みずきのちゃちゃに頬を染めるまりあ。
 家事は全てメイドがやってしまうために彼女は壊滅的な家事ベタである。
 特に料理はセンスもないらしく、自分で自分を見限る始末。
 ため息をつくまりあは七瀬と美鈴の弁当箱を見る。いずれも見事な中身だ。
「それ…二人とも自分で作ってんでしょ?」
「うん」「ええ」
 肯定されたのはいいがへこむまりあ。
「いいなぁ…女の子としての最強スキルを持ってないなんて致命的よね」
(その分は見た目で補っていると思うけどなぁ)
 太っていると思い込んでいる七瀬。幼児体形を悩む美鈴は同じことを思う。
 美少女にも悩みがあるんだなと実感。
「大丈夫ですよ。まりあさん。相手の殿方のことを思いながら作ればいつしか上手になりますから」
「左様。この握り飯も美味でござるぞ」
「と、いうことはそれ姫子の?」
 まりあに看破され失言を悟る十郎太。姫子ともども頬を染める。
「うわー。らぶらぶだー」
 美鈴の言葉でなおさら赤く。
「いいなぁ…美鈴なんて相手の方が上手だからなにしていいのか」
 ちなみに美鈴は料理上手である。ただ思い人の大樹がプロ級なのだ。
(な…なんか女の子の会話しているな。乗れないということはオレもまだ少しは女になりきってないということか?)
 黙っているがそんなことを考えるみずきである。

 その頃、四組ではなぎさが一人で実家から届けられた昼食のラーメンをすすっていた。
 これがあるため二組に合流できなかったのだ。
 さらに恭兵が女子たちの弁当攻めにあっていた。
 それを見てハードルの高さを思い知らされるなぎさであった。

 屋上。大地大樹。双葉兄妹二人が寄り添っている。
「お兄ちゃん。今日のは自信作だよ」
 弁当箱を差し出す一年生の少女。双葉。
 異常というレベルのブラコンである。
 このべたつき方は恋人以上だった。
 兄・大樹は無言で弁当箱を受け取る。そして黙々と食べていく。その様子をじっと見詰める双葉。
「腕を上げたな」
 無口な彼なりの賛辞だった。わかっているから素直に喜ぶ双葉。
「本当? うれしいっ」
 それからやっと自分の弁当を開ける。玉子焼きを食べた時だ。
(やだ…ちょっと甘すぎ…これをお兄ちゃんに食べさせちゃったの…それなのに嫌な表情一つしないで…)
 その目が物語っていたらしい。大樹はぼそぼそと語る。
「叱り付けて萎縮させることはない。多少の失敗など数をこなせばなくなる」
 彼にしては物凄く長く喋ったといえる。
 自分のことをそんなにも大事にしてくれている。
 そう思ったら双葉はもう止まらない。気がついたら兄に抱きついていた。
「お兄ちゃん。だーいすき」

 食堂。こちらでは榊原。真理。上条。綾那。裕生。詩穂理が訪れていた。
 麺類の列に並ぶ真理。前方の少女に気がつく。
「あれ? 二村先輩。今日は女なんだ?」
「うん。男で来たんだけど成り行きでこうなっちゃった…」
 二村つかさが並んでいた。
「センパイ。その流されやすさはどうにかした方がいいんじゃない? そのうち戻れなくなるよ」
「ううっ。恐い事いわないで…でも、それならそれでいっそ楽かなぁ…」
 遠い目をしている。
「ああもう。アタイたちと今日は食べよう」
 もちろんこれを断れる性格なら服に着られて性転換などしない。

「あれ? 二村先輩」
 裕生の姿を見るなり逃げ出しかけるつかさ。その後ろ手を捕らえる裕生。
 今の今までカレーを食べていたのに恐るべき素早さだ。
「センパイ。スーツアクトレスの件、考えてくれました?」
「か…風見君。何度も言っているけどあたしは男なのよ…たぶん」
「お面かぶるから問題ないっすよ。実際に男なのに女性キャラを演じているスーツアクターも珍しくないし。先輩のその『なりきり』と『運動神経』なら天職っすよ」
「ヒロ君。今はお昼だし」
 詩穂理の仲裁で落ち着いて昼食をとることが出来るつかさであった。

「それにしても…迫力よね」
 精神的にも女性になりきっているつかさだが、多少は男性視点で物を見る。
 そして女として「同性」という意識のせいか、肉体的なこともずけっと言えるように。
 つかさが迫力と称したのは真理。そして詩穂理の胸元である。
 真理が90E。詩穂理が92Gである。
 真理は大柄だから「スタイルが良い」で収まるが、詩穂理はやや小柄なのに胸だけやたら大きくて、そのアンバランスを本人は嫌がっていた。
 ちなみに今のつかさはBカップ。
「……男の子に負けるボクって…」
 つかさの正体を知るAAカップの綾那はかなり落ち込む。
「胸なんてただの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」
 的確な台詞をチョイスしたつもりの上条。

 授業が進み全日程を終える。放課後になり部活動の時間に。
 廊下ですれ違う上条と裕生。
「お。今日は映研か? 上条」
 上条明は漫画研究会と映画研究会を兼部している。
「ああ。そろそろクランクアップだしな」
「アクション物取るときは呼べよ」
「もちろん」

 陸上部。
 全員カケラも悪意はないが、女子更衣室でいやな思いをさせられる綾那。
 それはグラウンドで発散されていた。
「よーし。いいタイムだ。絶好調だな。若葉」
 百メートルを駆け抜けた綾那に計測担当の三年が声をかける。
「えへへへー」
 得意げになる綾那。褒められて悪い気はしない。だが
「おっ。さすがだな。綾瀬」
 負けじおとらじのタイムがなぎさだった。ほぼ同じ。
「こりゃプレーオフといくしかないね」
 勝手に盛り上がる部員たちによってスタートラインに立たされるなぎさと綾那。そしてスタート。
 ストライドを生かして走るなぎさに対して、文字通りの足の速さで負けていない綾那。
 互角に見えた勝負だがなぎさに謎の隙が生じた。
 その分だけ綾那が勝り勝負あった。

 グラウンドの中央では恭兵がサッカー部の練習で華麗にシュートを決めていた。
 言うまでもなく、それがなぎさに生じた隙の理由である。

 家庭科室。この日は調理実習。制服の上からエプロンを付けていく女子部員。
 その中にはみずきの姿もあった。
 一年のときに一時的に精神まで女性化。そのときに流れで七瀬と同じ家庭科部に入部して退部できないでいた。
「がんばろうね。七瀬ちゃん」
「ええ。美鈴ちゃん」
 互いに料理好きで仲良くなった七瀬と美鈴。
 女の子が料理を作るために色々としている。
(でも…こういうのも悪くないよな)
 こう思ってしまうみずきは多少は男の部分がある。それで退部できなかったのだ。

 図書室。詩穂理が他の部員ともども静かに読書していた。

 軽音楽部は音楽室で練習。その性質上野次馬を禁じていない。
 ギャラリーを嫌ってステージに立てるはずもないという考え方だ。
「あ」
 演奏をミスしたギターの優介。
「へたくそ」
 それに容赦ないツッコミを入れる真理。
 ロックが好きなのでたまに顔を出していた。
「何を。見てろよ」
 ホモ…というより女嫌いと思われる優介が、真理に対しては嫌悪感を見せない。
 巨乳の美人だがその性格が女と思えないからのようである。

 茶道部。静かな雰囲気の部活である。
 他の部員が制服姿なのに対して、姫子だけは和服である。
 彼女は洋服の着替えに時間が掛かるのであり、こと和服なら問題はない。
 相対的に見るなら普段は和服姿にならないであろうと思われる他の生徒より早いと思われる。

 2年1組はホームルーム延長戦であった。
 今のまま…性別反転状態でいいのかという議題。
 ところがほとんどの生徒に戻る意思がない。逆に「今の性別」の楽しさを見出してしまったらしい。
 これには担任の瀬奈も肩を落とす。
 だが落ち込んでもいられない。何とか翻意させようと説得を続けていた。

 それぞれが部活などに勤しんでいた。
 その中で現れたジャージ姿の少年がサッカー部の練習に歩み寄る。
 部員たちも気がついてその少年に近寄る。
 女子に囲まれていた恭兵以外は。
「おい野本。休みじゃなかったのか?」
 少年の名は野本竜。サッカー部のエースストライカーだが、それを鼻にかけた態度で嫌われていた。
 しかし戦力的には不可欠。だから表面上は友達づきあいをしていた。
「ああ。これから色々やるんでな」
 抑揚のない声で野本は返答する。そして空を見上げる。太陽の位置を確認して、ニヤリと笑う。
「頃合だな」
 言うなり彼は眼前のサッカー部員の胸板を抜き手で貫く。
「!?」
 何がおきたか理解できない。
「くくく。もらうぞ。生贄代わりの生き血をな」
 その声が甲高い女のものに。
 唖然とする部員たちを尻目に人間とは思えないスピードで駆け抜ける野本。
 裏山の「魔方陣」のところに行く。
 手にべったりとついた「生き血」を陣の中央のご神体に擦り付ける。
「時は来た。蘇えれ。アマッドネスたちよ」

「ううっ。こ…この感触はっ」
 たまたまグラウンドにいた安楽知由が胸を押さえる。
「どうしたの? 気分でも悪いの」
 そこにこれまた偶然つかさが居合わせた。
 どうやら女子バレーボールの助っ人らしく、体操着にサポーターという姿だった。
「ふ…二村先輩…逃げて…僕が…僕じゃなくな…があああっ」
 必死に訴えていた安楽の口が大きく裂けた。
「ひっ」
 つかさと共にいたさつき。まこと。両者共に同じ格好なのでやはり助っ人だったようだ。
 それが驚いてあとずさる。
 その間にも変貌が続く。
 顔には縞模様が浮かび腕がそれぞれ割れて四本の腕に。
 下腹部が蜘蛛を思わせるそれに。
 巨大蜘蛛へと変化する。

 これだけではない。コウモリの、ピラニアの、馬の、半人半獣が学校中に出現した。
 大パニックとなる。

「くくくく。反魂の術成功!」
 反魂の術。それは使者を蘇えらせる禁断の呪法。
 倒され、浄化されたはずのアマッドネスの魂を再び戻したのだ。
「戦乙女どもに破れた貴様ら負け犬を私が蘇えらせた。我の手足となって働け。まずは手当たり次第に奴隷を増やせ」
 それこそが狙いだったのだ。
 同時に使者を蘇えらせる実験。

(セーラ様。セーラ様)
 従者の呼びかけが彼を眠りから引き起こす。
 同時に「嫌な感触」がまとまって清良を刺激する。
「うわああっ」
 たまらず彼は跳ね起きる。
「な…なんだ? この数は。10体以上はいるぞ」
(私もそれをキャッチしました)
(キャロル。今どこだ?)
(やっと追いつきました。旅館の近くにいます)
 清良は立ち上がり窓から外を見る。黒猫が鎮座していた。
 彼は洗濯され乾燥機にかけられてたたまれていた男子制服を身にまとうと飛び出して行った。
 世話になった礼を言い忘れていたがそれどころではなかった。
 それに秀樹たちも静かに見送っていた。
(がんばれよ…少年)

「飛ばすぞ。キャロル。俺たちの学園を守るために」
「はい。セーラ様」
 バイクは一路、戦場と化した学園に急行する。

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