オールスタークロスオーバー Part4

「暴れろ。我が兵たちよ。全てを奴隷とせよ。そしてここを我が城とするのだ」
 学校の裏手の山で「野本竜」の姿をしたドラゴンアマッドネスが吠える。
 そこに到着した一台のバイク。
(こんな場所に?)
 怪訝な表情になる野本。魂が女であるアマッドネスと融合しているため、どことなく女性的な印象。
 その「ライダー」はフルフェイスヘルメットを外して素顔を見せる。
「貴様? 高岩!? どうしてここに……」
「はっ。サッカー部のエースストライカー様がアマッドネスだったか。さしあたって傲慢な性格に付け込まれたって所か」
 そのため清良も決して快くは思っていなかった。
 その野本は不敵な表情へと戻る。
「何のことだ? さっぱりわからんぞ」
「とぼけんな。強力すぎて隠しきれてねーぞ。すっ呆けて変身前の姿を伏せてるつもりだろうけどよ」
 つまり変身前のパワーが漏れている。それで正確に察知された。場所も、正体も。
「何の用だ? せこいケンカならごめんだが」
「せこくなけりゃいいんだろ」
 言葉を発すると同時にバイクが黒猫の姿に戻る。正確にはこれも仮の姿ゆえに別の変化をしたというべきところ。
「その猫……貴様が?」
「まだとぼけんのか? まあいい。そういうこと」
 地面に降り立つと清良は右手を天に。左手を地に向ける。紅と蒼のガントレットが出現する。
 腕を九十度回して水平に。
 一気に腋にひきつけ、それを思い切り突き出してガントレットを重ね合わせる。

「変身!」

 ガントレットがスパークして清良の肉体が変わる。
 巨体が縮む。同時にごつごつした肌がなだらかで白いものに。
 顔も優しげ。だが闘志に溢れている。
 学生服がセーラー服を基準とした「戦闘服」に変化。
 その服が違和感なく似合うほどの美少女と化す。

「戦乙女ぇ! セーラッ!」

「ふふふ。なるほど。ばれてたか。だが私などを相手にしていていいのかな?」
「なに? それはどういうことだ?」
 男言葉で尋ねるが、まったく似合わないほど可愛らしい声のセーラ。
「この陣はな、魂を呼び戻すためのものだ。過去に貴様に倒されたアマッドネスたちを蘇らせた」
「なんだと?」
(いくらなんでもありの連中とはいえど、死者を蘇えらせるなんて出来るのか?…そういやこいつら自体、死んで肉体を失った邪悪な魂という奴か)
「もっともかなり無理やりなんで術の制限がきつくてな。この日この時間でやっと条件がそろったのだ。その上に本来の強さなどには遠い。だがかなりの腕利きでもなければ普通の人間には倒せない。案ずることなくあの学校の生徒は全てこの私の奴隷だ」
「へっ。そう上手く行くかな?」
「はったりは見苦しいぞ?」
 そうは言うものの本音は、その言葉にはったりとは思えない力強さを感じている。
「俺も一目置く連中がいるからな。中には再生アマッドネスなら倒せる奴がいるかもしれない。そしてアマッドネスの『奴隷』は、親玉を倒せば正気に返る。たぶんお前を倒せば再生された連中もろとも一気に。ついでにその陣も壊しておく」
「ふん。倒せたらな」
 余裕の野本はここでやっと異形へと変化する。

 カメの能力のタートルアマッドネスが無差別に生徒たちを襲う。
 場所は一年生の教室の並ぶ廊下。
 逃げ惑う男子生徒は襲われ、女へと変化してゾンビのように付き従う。
「戦闘員」達には性転換させる能力はないが、動きの遅いタートルの補助で逃げ道を防ぐくらいはできる。
 道を阻まれた少女たちの中に金髪のツインテールの少女。アンナ・ホワイト。外国人留学生だ。
 その親友。風見千尋が道を切り開く。
「どきなさいよっ。それでも男だったの?」
 頻繁に男が女になる学園なので、今更男が女になるなんて事態に驚かない。
 気の強さ全開で平手を見舞う。
「きゃあっ」
 しかし気の強い少女ばかりでない。
 おとなしい性格の…ついでに言うと「トロイ」大地双葉がもみ合っているうちに転倒した。
「双葉!」
 気をとられたのが命取りだった。アンナも千尋も囚われた。
「あっこら。離せ。離しなさいよ」
「フタバ」
 それを横目にタートルが双葉に迫る。双葉は恐怖で金縛り。
「ふふふふ。安心しろ。お前ももっと強い女に作り変えてやる」
 タートルアマッドネスがのろのろ迫る。
 その醜悪な顔は邪悪に歪む。恐怖から彼女はその小さな体に不釣合いなほどの大声で叫ぶ。
「お兄ちゃん! 助けて!」
「ふふふ。無駄だ無駄だ。この有様では軍隊とて逃げて行く……?」
 嘯くタートルだかその言葉が途切れる。そしてあろうことかその巨体が浮遊する。否。持ち上げられている。
「お兄ちゃん!」
 安堵。そして歓喜する妹。
 彼女の兄。大地大樹がタートルアマッドネスを背後から持ち上げていた。
 それも後頭部を鷲づかみにして、右手一本で釣り上げるという荒業。
「ぎゃあああああっ。痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃっ」
 悲鳴を上げて泣き喚く。いくらもがいてもその「アイアンクロー」が外れない。
「……貴様か……俺の妹を泣かせたのは」
 基本的に無表情。さもなくばかすかに笑みを…それも妹相手のみに見せる彼だが、このときは鬼の表情をしていた。
 いや。不動明王の方が正しいか? まさに鬼も逃げ出す憤怒の表情。
「ば…馬鹿な? 戦乙女かと思えばただの人間だと? そんな奴になぜのあたしが持ち上げ…」
「詫びを入れてもらおうか」
 最後まで言わせず大樹はタートルの頭部を廊下の床に叩きつけた。
 双葉から見ると「土下座」をしている形。
 もちろん最愛の妹を手にかけようとした相手にその程度でおさまるはずがない。
「もっと謝れ」
 馬のような脚で何度も後頭部を上から踏みつける。
 最初は抵抗を試みていたが「ただの人間」にパワーで負けていた。
 なんとかカメのように頭を引っ込めて、キックから逃れる。
 そして大樹相手の反撃に転じる。
「よくもやってくれたな。貴様を奴隷にして、妹ともどもこき使ってくれる」
 逆鱗に触れた。

「ぬあああああああっ」

 大樹の上半身が膨れ上がり、筋肉でタンクトップ。そしてワイシャツを引きちぎる。
 上半身裸になった大樹は凄まじいスピードのパンチをタートルアマッドネスの腹部に叩き込む。
「妹に手を出させはせん。消えうせろ」
 パンチが効いて動きの止まったタートルに、今度は大きくバックスイングしてのアッパー。
 百キロは越えるであろう重量級のタートルが天井に叩きつけられる。
 落ちてきたところを窓に向けて蹴り飛ばす大樹。
 タートルは放り出された空中で爆発した。

「大丈夫か。双葉」
 妹をお姫様だっこで抱える兄。
「うん。お兄ちゃんがきっと助けてくれるって信じてた」
 見詰め合う兄と妹。まるでヒーローとヒロインのようだ。
(ちょ…双葉。それ兄貴を見る目じゃないよ)
 親友の千尋が案ずるように、恋する男性を見る目をしている双葉であった。

 2−1は大混乱だった。
 現れたホッパーアマッドネス姉妹によって出入り口がふさがれた。
 余裕ゆえかすぐには行動に移さない。あざ笑うかのようにクラスの面々を観察している。
「この子たちには手を出させないわ」
 残っていた男としての闘争本能…というより「女性としての母性本能」から「化け物たち」の前に立ちはだかる北原瀬奈。
 その背後でおびえる少女たち(本来男)
 乙女たちを守るべく敢然と立ち向かう少年たち(本来女)
「危ないわ。恭兵君。一緒に逃げましょ」
 立ち向かう恭兵を止める美姫。
「かっこつけさせてくれよ。女の子を守りたいという馬鹿な男の願いをさ」
 はにかんだ笑みを見せる恭兵。
「ううっ。あたしが男ならあなたと一緒に戦えるのに」
(いや…あなたたち元々逆でしょうに…)
 思わず突っ込みを入れる瀬奈だが、自分も母性本能が作用していることに気がつかない。
「行くぜ。みんな」
「ああ。女のために死ねるなら男の死に様としては悪くない」
「うおおーっっっ」
 まさに窮鼠猫をかむ。元は少女のはずの少年たちは猛然と立ち向かっていく。
 しかし俊敏性を誇る二体の前に次々と倒されていく。
 そして少年たちの肉体が女へと。

「ああっ。恭兵君」
「美…姫…これは…女の手…女になっちゃったのか? 僕は」
 繰り返すが本来は女である。元に戻っただけである。
 しかしはそれほどまでに「男」に馴染んでいた。

 一度に大量に変化させたためか、まだ意識のコントロールが浸透せず倒れた「少女たち」は正気を保っていた。
 その変化を待っているホッパー姉妹。しかし扉が開いた。
 外からの助けだ。

「龍気炎」

 手のひらから放たれた火の玉が姉のほう。ホッパー1を吹っ飛ばす。
「姉上」
 狼狽したホッパー2にはもう一人が鉄パイプで殴りかかる。
「俺の必殺技。Part1」
「ぐあっ」
 くぐもった声を上げてつんのめるホッパー2。
「俺、参上!」
 ポーズをつけるのは殴った少年。風見裕生だ、
「悪・即・漸」
 こちらは上条明の親友コンビだ。
「おのれ。ふざけおって」
 屈辱に打ち震えるホッパー姉妹は1組の面々を無視して乱入した二人に襲い掛かる。
 それを狙っての挑発としてのポーズだった。
 まんまと教室から廊下へと戦闘場所を移した。

 戦闘はやや少年たちが押されていた。
 再生怪人とは言えど体力が違う。
 そして双子の姉妹ゆえのコンビネーションも。
 さらにはバッタの能力ゆえに俊敏性も。
 ただしこれは狭い廊下。そして天井も低いため制限されていた。
 それでも頭上を取りつつ攻撃を繰り返すホッパー姉妹。
「くそっ。これじゃ」
「任せろ。加速装置!
 学校を守りたい思いが紡ぐ正の気。神気。そして敵に対する怒りの生む負の気。破気。
 それを同時に生成した上条はマリオネット。アクセルを発動させる。
 現実の時間と上条の時間がずれる。
 現実の一千倍のスピードで動く上条。
 その隔離された時空で動けないホッパーたちに猛攻を仕掛ける。
 しかしこれも無限ではない。停止時間は上条の体力に比例するのだ。
 死にはしないが気絶してしまう。だから寸前で解除した。
「ぐわあああっ」
 「時間が止まっている間」に受けた攻撃で吹っ飛ぶホッパーズ。
 一方の上条も体力を失っていた。
 ここで綾那の能力がものを言う。
 綾那のマリオネットの能力は生体エネルギーの備蓄。放出。
 そして他の生命体から搾取できる。
 そう。アマッドネスによって奴隷とされた『女』たちから生体エネルギーを奪い気絶させていた。
 万が一にも暴れられては敵わないから、気絶させておこうという狙いもある。
 溜めた生体エネルギーを上条に注入する。
 この間の裕生は上条たちのガードだ。その対象には詩穂理もいる。
 運動神経がとてつもなく鈍いが、裕生が心配でついてきたのだ。
「ふん。なるほど。エネルギーチャージが出来るのか。だが二対二の闘いでは我らに勝てる要素はないぞ」
「いいえ。3対2よ」
「なにっ?」
 凛とした声が響く。思わずそちらを向く異形の姉妹。そして当然その「三人目」が綾那と考える。
 ところが宣言したのは詩穂理だ。
「え…と…」
 取り付いた相手の記憶を共有しているアマッドネス。
 つまり詩穂理が学校全体に知れ渡る運動音痴とも知っている。
 しかもその立派過ぎる胸を誇らしげに張っている。「自信満々」に見える。
 だから「まさか」の思いが生じて、隙になった。
 この間に上条は体力回復。そして綾那との合体攻撃態勢になっていた。
 二人で同時に「気」を高めている。既に発射寸前。そこでやっとホッパー2が気がついた。
「しまった。奴は囮だ。姉上。逃げて」
「もう遅い。食らえ。爆熱」
「ラブラブ龍気炎」

 放たれた気の砲弾がダメージの大きさゆえに動きの鈍いホッパー1に炸裂。
 それがとどめとなり、吹っ飛んで爆裂した。
「姉上!」
 肉親の情が仇になった。もっと大きな隙を見せた。しかし上条たちに再び気を高める時間はない。
「上条。行くぞ」
「おう。風見」
 助走して踏み切る。高々と舞い上がる。
 そして高度差を破壊力に変えて飛び掛る。オタク二人のツープラトンキック。

「マニアァァァァァッダブルキィィィィック」

「お、おのれ」
 半ばやけくそで迎え撃つ体勢になるホッパー2だが、二人のキックが先に炸裂した。
 着地した二人の後ろでホッパー2が爆発した。
 その瞬間に倒れる上条。
「おい。上条!?」「上条君!?」「明君」
 血相を変えて駆け寄る三人。そして息を呑む。上条のわき腹に大きな裂傷が。
 スレ違い様に傷をつけられていたのだ。
「まずい。及川のところに連れて行こう」
 裕生が上条に肩を貸すようにして立たせる…が、当たる感触の違和感に立ち止まる。
「か…上条君」
 詩穂理が青ざめる。綾那に至っては茫然自失。
 気になって裕生が上条の顔を見ると、髪の毛が背中まで伸びていた。
 顔が優しげに。
 そして豊かに膨らんだ胸元。
「う…うーん…僕は…あれ? なんか声が変だぞ」
 綺麗なソプラノ。
「上条…お前…」
「え?」
 言われて自分の肉体の変化に気持ちが向く。
「ま…まさか…」
 そう。アマッドネスによって重傷を負わされたのだ。
 同時に注ぎ込まれたエキスのせいで肉体が変化。
 綾那が子供のように泣き始める。
「明くんが女の子になっちゃったぁ」

 セーラとドラゴンアマッドネスの闘いはにらみ合いが続いていた。
「どうした。私を倒すんじゃなかったのか」
 もちろん挑発だ。
「へん。そのつもりだぜ」
 セーラは走り出した。同時に「キャストオフ」とつぶやく。
 防御用のセーラー服が飛び散る。
「ふん。こんな目くらまし」
 だがそのまま突っ込んではこない。さらに

「超変身」

 スピードを誇るが非力で防御力も弱いフェアリーフォームに変化した。そして突っ込んでいく。
「蚊トンボが。蹴散らしてくれる」
 例によって尻尾での迎撃をする。
 ところがセーラは避けないでさらにスピードを上げた。
「気でも違ったか?」
「いいや。これでいい」
 まだスピードの乗り切ってない状態のシッポなら掻い潜れる。
 そのまま尻尾の付け根にまたがる。
「き…貴様」
「へん。ジャストミートできなかったようだな。最大限に威力を発揮するポイントをずらせばどうということはない」
 野球の打撃に例えるなら速球に差し込まれた形。
 そして尻尾の付け根ではシッポの先端や両手も届かない。
「く…くそっ…だが貴様とてそれでは攻撃できまい」
 スピードを生かしてのヒットアンドアウェイが身上のセーラ・フェアリーフォーム。
 それが密着しては…
「へん。当然対策済み」
 背後に仕込んでいた二本の伸縮警棒を両手に一本ずつ持つ。
 通常は新体操のクラブに変化するが、ここでは何故か太古の撥だった。
「ゼロ距離で叩きまくるならこれだろ。さぁて。夏祭りといこうか」
 ドラゴンアマッドネスの背中を太鼓に見立てての、無数の殴打が始まる。

 一年の教室ではマンティスアマッドネスの襲撃を受けていた。
 しかしこれは避難に成功。
 赤星薫。久美。ありすの三人がマンティスを挑発してひきつけたからだ。
「こ…このしょんべんくさい小娘どもめ」
 歯噛みするマンティス。
「まぁお下品。品性下劣をご自分からアピールするなんて、とても正直な方なのですね」
 ありすの毒舌が主な戦力となっていた。
 女性化して、女子として暮らしていくならと、父親に女性的な振る舞いを強いられた。
 友人たちが女ばかりというのも影響が大きかった。
 薫は肉体は男でも精神が女らしく、一番影響を受けていた。
 おかげで言葉遣いや仕草は完璧に女性的になったが、同時に女性的な語彙の多さも身についた。
 上品な口調で容赦なく相手の心を切り裂いていた。
「おい。あんまり調子に乗っているとやばいぞ」
 修羅場を潜り抜けてきたヤクザが前身の久美も、さすがにカマキリ女相手では臆していた。
 それでも逃げないのはヤクザのプライドというより、女の友情に近いものがあった。
「そうねぇ…でも背中を向けるのはちょっと恐いわ」
 ありすの本音。向けた瞬間にばっさりやられてしまうイメージがある。
 視線がそれたのがまずかった。
 威嚇するようにあげていた大釜を振り下ろすマンティス。
「危ない」
 薫が身を挺して二人の盾になり、背中を大きく切り裂かれた。
「薫!」
 あまりのことに思考回路が停止しかかる二人だが、大量出血と薫の微笑が意識をつなぎとめた。
「薫。薫。しっかりして」
 ありすが呼びかけるが瞼が開かない。
「くっ」
 拳を強く握り締める久美。そしてその目が据わっていく。
「ありす。薫を連れて逃げろ」
「でも」
「いいからいけ」
 肉体は女のまま。しかし数々の死線を潜り抜けたヤクザとしての迫力が戻っていた。
 その鋭い視線がマンティスを食い止める。
 視線で釘付けにして久美はカバンに仕込んでいた短刀を抜く。
「千代。まさかこんなときまで止めたりしないな」
 返事はない。無言の許可と久美は取った。
「う…うう…」
 金縛りにあっていたマンティスが、自分がただの人間ではない。「選ばれた存在」と思い出した。
 そうだ。こんな小娘に臆してどうする?
「しゃあああっ」
 大きく持ち上げたかまを振り下ろす。
 小柄なのが良かった。久美はその攻撃に当たることなくカマキリ女の懐にもぐりこんだ。
 手にした凶器を深々と腹部に突き刺す。
「往生せいやぁぁぁぁっ」
「ぐあああっ」
 苦悶の声を上げるマンティス。刃物を引き抜き、窓から逃走しようとするが身を乗り出したところで力尽きて爆発した。

「薫。薫。しっかりしろ」
 友達の重傷に混乱して血が止まっていることに気がつかない。
 しかしさすがにその胸が膨らんできたのには驚いた。
「こ…これは…」
 当事者がむくりと身を起こした。
「あれ? 夢だったのかな? カマキリの化け物に背中を切られて」
 夢と思うのも仕方ない。あまりに非現実的。まして死んでいて当然の傷である。
 そのせいかきょとんとした感じの表情だ。
「薫…あなた…」
「え?」
「その声だよ」
 ちょっと焦れたように久美が言う。
「え…あれ? そう言えばお姉ちゃんみたいな声…」
 女性的ではあるもののあくまでその肉体は男子である。喋り方は柔らかいがハスキー女声という印象だった。
 しかし今のその声はどう聞いても綺麗な少女のもの。
「もしかして」
 かおるはいきなり自分の胸元をまさぐる。
 それまで感じたことのない感触が触った手のひら。触られた胸元の両方からかえってきた。
 結論が出た。
「あたし…襲われて…本物の女の子になれたんだ…」
 「なっちゃった」ではなく「なれた」というのが長年苦悩してきた「彼女」らしい。
 薬による変身は抵抗があったが、もうなってしまったのなら…
 かおるは輝く涙をこぼす。
 他の「被害者」とは違い「なれた」ことによる喜びだ。
「ああ。良かったなぁ。かおる」
 自分も涙ぐみながら久美がわがことのように喜ぶ。
「それは避難してからにしましょ」
 もちろんありすも喜んでいるのだが、現実問題として危険地帯。
 何しろ学園の生徒が怪人。そしてそのしもべに変貌するのだ。
 三人は安全地帯への逃避を開始した。

 家庭科室へと急ぐみずき。その後を追う恭兵。さらにそれを追う優介。
 みずきの目的は七瀬の安否を確かめること。
 恭兵はそれを止めようとしているが聞かないのでついている。
 さらに優介はその恭兵を案じている。
 目的の家庭科室へと到着した。みずきはもどかしそうに扉を開いて「七瀬!」と叫んだ。
 いた。しかし無事ではあるが危機的状況。ガゼルアマッドネスに追い詰められていた。
 彼女も家庭科部員たちを逃がすためにアマッドネスをひきつけて、そして食い止めていた。
 ちなみに双葉は部活中だったが、それにより逃げることに成功したが、今度はそこをタートルと遭遇したというわけである。
「みずき!」
 ほっとした表情。しかしそれがすぐに厳しいものに変わる。
「来ないで。ここは危険よ」
「だからって帰れるかよ」
 まったく迷いなくみずきはガゼルに突っ込んでいく。
 七瀬の修復能力を信頼しているのもあろうが、七瀬を危機に追い詰められたことで「切れていた」。
「気をつけて。みずき。茹でるためにそこらじゅうでお湯があるわ」
「え゛?」
 むしろその忠告が硬直させた。
 みずきはお湯を被ると変身状態が解除される。男に戻る。
 セーラー服姿で男に戻るのはさすがに避けたかった。
 戦闘時には男の方がいいとは言えど、そして女になるための水に事欠かないとは言えど事情を知らない二人の前で男の姿を晒したくなかった。
 一方のカゼルはまったく遠慮無しに暴れてくる。
 元々女の七瀬より男の優介や恭兵を変化させるべく矛先を向けてきた。
 みずきは「鍋」に躊躇して動きが遅れた。
 カゼルはまっすぐ恭兵を目指す。
 その恭兵は意外な行動に出た。逃げずに蹴りを見舞ったのである。
 サッカー部員だ。格闘家ほどではなくとも威力はある。
 女の急所とも言うべき胸に命中してガゼルも動きを止める。
「罪な女性だ。僕に女性を足蹴にさせるなんて」
 ふざけているがこんな化け物に躊躇う必要はない。
 女相手に容赦のない優介はもっと酷い行動に出た。
 鍋の湯をガゼルに浴びせたのだ。これはたまらない。悶絶する。その隙を逃さない。

「よくも七瀬を。食らえ。ブラックホール

 怒りのみずきはスカート姿にもかかわらず全方位からの無数の蹴りを見舞う。
 立て続けの攻撃に耐え切れずガゼルは大ダメージを負う。元々が無理やりの復活なのだ。
 そしてとどめのハイキックで廊下にたたき出される。そこで爆裂。
「へん。ざまーみろ」
 気が済んだのか胸をそらすみずき。
「大丈夫か? 七瀬」
「うん。私は平気だけど足元…」
「え?…わあああっ」
 注意したのに優介がぶちまけたお湯に足を滑らせた。
 しかも「水溜り」のお湯がまだ冷めていない。
 事情を知らない二人の前で男に戻る。
「う…ウソだろ? みずき。君まで男だったのか?」
 性転換の事例に溢れた学校だ。理解が早い恭兵。
「わぁ。可愛い」
 正反対の反応が優介だ。何しろ彼好みの少年がスカート姿で、しかも恥じ入っている。
 条件反射どころか脊髄レベルの反射で瑞樹を抱き締める優介。
「そんなに可愛いなら女になんてなることないのに」
「す…好きでなっているわけじゃねぇ。離せ変態」
「ありがとう。最高の褒め言葉だよ」
 その様子を苦笑して眺めている七瀬であった。しかし放ってもおけず水をかぶせた。
 みずきは女の子の姿になるのだが、優介はべたべたくっついたままだ。
「こ…コラ…お前は男の方が好きなんだろ。だったら離れろ」
「正確には女に嫌なところが多すぎるんだ。でも君にはそれがない上に肉体的にも納まりがいい。何より可愛いし」
 色っぽい目つきでみずきの耳に息を吹きかける優介。
「ひゃああああっ」
 腰砕けになるみずき。
「ああ。そこが弱いんだ。まぁ女の方が弱点多いしね」
 舌なめずりをしかねない優介。
「ちょっと。みずきから離れなさい」
 七瀬もさすがに口調がきつくなる。
「やーだよ。お互い『みずき』でちょうどいいし」
「何をわけのわからないことを」
 避難も忘れて揉めている三人だった。

 一方の恭兵はわけがわからなくなっていた。
 男が女に。女が男になる学園。
 まりあ同様に好感を持っていた美少女のみずきが実は男だった。
 こうなるとまりあすら疑わしく思えてくる。
 まりあがやや過剰なまでに女性的なのは育ちのよさが原因なのだが、それが「本来は男ゆえ女らしく振舞おうとしている」という疑心暗鬼に取り付かれた。
 もうどの女も信用できなくなっていた。ただ一人を除いては…
「あっ。キョウくん。ここにいたんだ。校舎に飛び込むから心配したよ」
 なぎさがやはり恭兵を追ってきていた。
「なぎさ。お前は女だよな?」
 いきなりなぎさの肩をつかむ恭兵。
「え…当たり前じゃない」
「ああ。そうだよな。小さな頃は一緒に風呂入ったけど、確かに『なかった』し」
「ちょ…ちょっと…キョウくん…恥ずかしいよ…」
 確かに恥ずかしいことを言われているのだが、むしろ憧れの「王子様」にここまで親密にされて頬を染めるなぎさだった。

「いよおっ。はっ。やっ」
 セーラは立場逆転もあり、かなり「ふざけていた」。
 非力なら数で補えとばかしに小刻みなビートを刻む。
 それがちょうど太鼓のリズムだ。
 そして小刻みでも立て続けで攻撃を受け、少しずつだがダメージを蓄積させるドラゴンアマッドネス。
「はっ。強力なシッポで守られた背中が弱点というのは定番だったわね」
 既に戦闘時間が長くなり、精神の女性化も進行して言葉遣いに変化が現れる。
 軽口をたたきながらもビートは続く。そして段々とドラゴンのシッポの動きが鈍ってきた。効いているのだ。
 叩きながらポイントを尻尾の根本に移すセーラ。そして一度止めて「溜め」を作る。
「はぁぁっ」
 太鼓で言うなら撥を二本同時に叩きつける形。
 付け根を攻撃され「しびれて」動きが止まるドラゴン。
 その間に超変身してマーメイドフォームへとなるセーラ。
 得物も同時にやりに変わる。
 そしてその穂先でシッポを力任せに根本から叩き切った。
「ぎゃああああああっっ」
 竜の悲鳴が響く。
「これでよし。あたしの作戦としちゃちょっと残酷シュミだけど、厄介なシッポは封じたわ。あのままのん気に叩き続けていたらその間にみんな女にされちゃうものね。こっちの方が早くつくわ」
 これだけ喋れるのも与えたダメージの大きさに自信があったからだ。
 怪力を誇るものの陸上では鈍重なマーメイドフォームから万能のヴァルキリアフォームへとスイッチする。
「とどめよ」
 左腕を水平に凪ぐ。動きを止める。そしてその大きな的に右腕の炎のアッパーを見舞う。

 屋上ではやはり救出活動をした十郎太。そしてそれを依頼した姫子がつばめの意匠のアマッドネスと戦っていた。
 つばめの能力だけあって高速飛行が得意だ。
(捉えきれぬ…ならば肉を切らせて骨を絶つまで)
 十郎太が足をもつれさせた。それを見たスワローアマッドネスはターゲットを姫子から十郎太に切り替えた。
 高速で突っ込んでくる。そのまま腹部を狙う。狙い通りにくちばしが十郎太の腹にめり込む。
「十郎太様!」
 姫子の悲痛な叫び。しかし青ざめたのはスワローもだ。
 攻撃して逃げるはずが捉えられたのだ。
「ふふ。さすがに鎖帷子は貫ききれぬか」
 その分だけ動作が遅れ、捕らえられてしまったのだ。
「姫。お願いいたす」
 がっしりと捉えたまま叫ぶ。
「はい」
 姫子はそれを無駄にしないため次々と矢を放つ。

「百花繚乱」

「ぐあああっ」
 相手が化け物ということで先端もきちんとしている。それが次々と刺さり悲鳴を上げるスワロー。
 さらにツバサの付け根を狙ったため、飛べなくなった。
「お見事。とどめは拙者が」
 十郎太が分身した。いな。あまりの高速で残像が見える。
 それが次々と攻撃を繰り出す。

「風間流奥義。不動明王陣」

 つばめの怪物は爆裂し、素体となった小柄な少年…それが二度目の性転換をして気絶していた。
「十郎太様。早く七瀬さんの元に」
「はは。この程度…?」
 口を押さえる十郎太。出てきた声が女のそれだったのだ。
「ま…まさか?」
「十郎太様? もしや…」
 胸元の奇妙な感触。全体的な違和感。
 慌てて彼は全身を確かめる。
「姫…拙者どうやら…女子になってしまったようでござる…」
 さすがの鉄仮面も泣きそうな表情をしていた。
 姫子のために命を捨てる覚悟は出来ていても、「男」を捨てる覚悟は出来ていなかった。
「あら…でも、お命は無事。それに…可愛いですわ」
 慰めているつもりの姫子であった。

 屋上の別のエリアではバットアマッドネスがやはり退路を塞いでいた。
 それを救助に駆けつけていたのが教師である酒井だった。
 しかしいくら優秀な肉体を持っていても化け物相手では分が悪い。ましてや頭上を取られている。
 次第に追い詰められていく。
(この間では奴らに女にされて奴隷に…女に? もしこの状況で酔えば…)
 彼はポケットに突っ込まれていたミニボトルを手に取る。
「くははは。末期の酒か?」
 バットとしてはその絶望する様を楽しもうという悪趣味である。
 それに構わず一気に紹興酒を飲んだ彼は「ひっく」としゃっくりをしたら煙と共に女になった。
 長い髪はシニョンヘアにまとめられ、メイクも中華風。
 プロポーションを強調した真っ赤なチャイナドレスの美女になっていた。
「なんだなんだ。血を吸うまでもなく我らの仲間入りか?」
 もちろんそんなはずもない。
 闘いの場で中国産の酒で酔った彼女は「酔拳」の使い手に変貌していた。
 一応支配下に置くべく攻撃を仕掛けるバットだが、自分以上に予測不能な動きに困惑する。
 さらにちくちくと攻撃を当てられてバットの方が冷静さを失った。
 一直線に突っ込んできた。
 もちろんカウンターの格好の餌食。
 動きが止まったところに畳み掛けるように攻撃が。
 そしてさらに飲む真澄。
 今度は服が変わった。
 女のままではあるが革ジャンにズボンだ。
 どうやら酔拳…カンフー映画…ブルース・リー…そしてそれをモデルにした「ケン○ロウ」になってしまったらしい。女のままだが。

「あーたたたたたたたたたーっっっっ」

 無数の拳が炸裂する。
「あなたはもう、死んでいる」
「なに? そんな馬鹿な…馬鹿…ひでぶ
 本当に北斗○拳が使えたわけではない。
 ダメージがたまりアマッドネスとの融合が解けたために爆発が起きたのだ。

 3年の教室のある廊下。
 ホースアマッドネスとの闘いでは文字通りの馬力に榊原が苦戦していた。
「カズ。もうみんな逃げたからアタイたちも」
「そうしたいのは山々なんだが、なかなか隙が…」
 凄まじいラッシュをかけてくるホース。捌き切れなくなる。
「くっ」
 それが表情に出た。反対にホースは口をにやりとゆがめる。
 隙を見て威力のある攻撃に転じる。
「……かかったな」
 ラッシュをさばき損ねて隙を見せたというのであれば、信じてしまうのも無理からぬところ。
 その繰り出された一撃を捌き、遠距離からの回転つきドロップキック。タートルヘッドを見舞う。
 ところがそれを突然出現させた盾で防いだ。
(何!?)
 さらに出現させた剣で榊原の腹部を一突き。
「ぐはぁっ」
「カズ!」
 背中に突き抜けるほど深々と。しかしそれが武器を封じた。
 いかなパワーの持ち主といえど人一人片手で支えきれるものではない。「化け物」とて同様。
「よくもカズを」
 逆上した真理の金髪が炎のように見えた。たじろぐホースだが真理は馬どころかチーターのような高速で突っ込む。
 その右腕をのどもとに叩き込む。
 榊原を抱えていたため反撃が出来なかったホースはまともに暗い呼吸困難に陥る。
 真理はすぐさまホースの正面に割り込む。
 そしてその顔面と右手。腹部の胃の辺りに左手をかけて持ち上げる。
 反動で榊原ごと剣。そして盾を落としてしまう。

「アースクェイク」

 地震という意味のカクテルから名づけられた必殺技の発動だ。
 持ち上げて地面に叩きつける。そのまま反動で真理が逆立ちして着地。その勢いで持ち上げたたきつける。さらにまた繰り返すと言う荒業。
 そしてそのまま廊下の端へと投げ飛ばす。そこでホースは爆発した。
「カズ!カズ。 大丈夫か…」
「ああ。不思議だが…」
 最初に彼…いや。「彼女」が確認したのは股間だった。
「ない…」
「え? あんたまさか…」
 大胆にも学生服をはがす真理。真理にも負けてない立派なバストが榊原の胸にあった。
「ド…どうしよう…真理。これからどうやって女を喜ばせたらいいんだ?」
「どうせ薬で戻れるんだろ。しばらく女の立場になって、自分のセクハラを認識しろ」
 北原美里の作る性転換の薬の存在を知っていたため慌てなかった。
 生きてて良かった…だから出る軽口である。

 しかしアマッドネスは校内に残るだけではない。
 これ以外が校門を塞いでいたため、まりあたちも逃げ出せなかった。
 さらには奴隷と化した元・男子生徒たちも、アマッドネスの手先となって彼らの封じ込めに協力していた。
(血が騒ぐ…だがこんな真昼間に大勢の前でというのはまずいな…しばらくは様子見だ…面白いショーになりそうだし)
 殺人鬼の本性を押し殺し、避難誘導のふりをしていた中尾…斑は静観を決め込んでいた。
 その視線の先には磔にされた二村つかさと、柴田龍太郎(中身は優香里)がいた。

 あああっ。大ピンチ。
 柴田君と一緒に脱出口を開いていたけど柴田君はお姉さんを。
 あたしも洸ちゃんを人質に取られてこんなことに。
「ゆか…龍太郎」
 双子の妹さん…お姉さんだっけ? その彼女が悲痛な叫びを上げる。
「入れ替わろうなんか考えるなよ」
 なんだか会話がかみ合ってないけど、二人の間では成立しているらしい。

「二村先輩…あんたは男でも女でも人気者だ。妬ましいから、完全な女にしてあたしの手下にしてやるよ」
 蜘蛛そのものの下半身と、蜘蛛のようなデザインの人間の女の上半身を持つ蜘蛛女が言う。
 そんなのあたしの責任じゃないわっ。逆恨みにすらなってないわよっ。
 うう。授業で女の子になったからそのままだったけど、男ならもうちょっと戦えたのに。
 もう二度と男に戻れなくなっちゃうのかしら?
 あの人達みたいに自分の意思がなくなっちゃうのかしら? それって死んでいるみたい。
「ふふふ。ではまず二村先輩から行きますよ」
 くぐもった声で安楽くんだった蜘蛛女が言う。他の化け物たちも一緒になって笑う。
 これがみんなさっきまで授業を受けていた男子だなんて…もっとも一度はこの姿になったらしいけど。それがまたぶり返したわけ?
 そんなことを考えているうちに蜘蛛女が何かを体内で溜め込んでいる。
 たぶん大勢の男子を女の子に変えてしまった「糸の槍」だろう。
 あれであたしも女に…もう男に戻れない女に…ああ…誰か助けて。思わず神に祈った時、校門から爆音が響く。
 二台のバイクが校門を塞いでいた元・少年。現・少女たちを蹴散らしてあたしたちと蜘蛛女の間にわって入る。
 そして奴隷の少女たちを簡単に蹴散らす。あの動きは…。
 フルフェイスヘルメットの「ライダー」二人は、それを外す。
「久しぶりだな。洸。つかさ」
「お父さん!」「おじさん」
 そう。洸ちゃんのお父さんであたしの叔父。本剛孟。すると
「洸ちゃん。随分大きくなったな」
「市紋次さん」
 やっぱり。おじさんの親友という市紋次さんだ。
「いーっ…」
 あたしの後ろにいた「奴隷」がそんな声を上げて倒れたみたい。
 何とか動く首を回して後ろを見ると、一人の青年が「戦闘員」を全員気絶させていた。
「二村。大丈夫か」
「風水先生?」
 いろんな部活の顧問を務めている先生だ。それがあたしの戒めを解いていた。解放された。
「ありがとうございます」
「柴田のはお前が頼む。俺は先輩たちに加勢する」
 言うなり先生は二人に向かって大声で叫ぶ。
「本剛さん。市紋次さん。裏門の連中は倒してきました。後はこいつらだけです」
「風水。よし。いくか」
 三人の男たちが蜘蛛女たち「再生怪人」の前に立つ。
 あたしはとりあえず柴田君を解放する。
「あー、ひでー目にあった。きっちりお礼はしないとな」
 うわ。凶暴体だ。すごい目つきしてる。

「バカめ。三人増えた程度でこの数をどうにかできると思うのか」
 まだ絶対的優位の蜘蛛女が言う。それに対して…たぶん口調からするとにやっと笑ったんだと思うおじさんの声。
「はたして三人だけかな?」
「なに?」
 それと同時に校舎から一枚のトランプが投げられ、奴隷の一人がまともに眉間くらい気を失う。
 投げたのは…拳崎くん? 切れやすい好青年といわれる彼だ。今も切れかけている。
「これはどういうことなんです? もう平和になったんじゃなかったんですか? 運命の女神は…
オンドゥラギッタンディスカー? ウゾダドンドコドーン
 えーと…先の文章から察するに「裏切ったんてすか。ウソだそんなこと」というところかしら。
 それにしても興奮したといえど滑舌が悪いのにも程があるわ。
 助っ人は彼だけではない。校門からなだれ込んでくる。
「お父さんのお友達?」
 洸ちゃんの問いかけに無言で頷く孟おじさん。

 一人の青年がベルトを手に跪いている。
「オレはもう、迷わない。戦うことが罪だというなら、俺が全て背負ってやる」
 あ。いつかの遊園地で見た猫舌さん。

「よっ。少年。いや…乙女か」
 この飄々としたものの言い方は…日比生さん!
 人助けを生業としていた人だ。

「アマッドネスは全部俺が倒す」
 何故かクワガタムシを片手にしている加々美先生。
 他にもいつかどこかで見たような人たちがたくさん。
 あれ? かれは
「切殺くん。君も戦う仲間なの?」
「きりや? 誰だそれは? 俺は櫻井佑人だ」
 ええっ? でもそっくり?
 そんなあたしに構わず彼は異形に向かって宣言する。
「最初に言っておく。俺はカーなーり、強い」
 うわあ。自信満々。しかし同じ顔なのにあの切殺に感じた嫌悪感がないのは何故かしら?

「いくぞ。みんな」「おう」
 おじさんの怒声でみんなポーズを取る。
「ちょ…ちょっと…ずるいぞ。この人数で…」
 青ざめているかのような蜘蛛女たち。それを無視して声が響く。

「変身」

 数分後。幾つもの爆発音が校庭に響き渡り、あたしたちは解放された。
 どうやら校内の化け物はみんな浄化されて騒動は鎮静化したらしい。
 ただ…取り付かれていた男子や、被害者たちはみんな女になっちゃったけど…。

 そして元凶たるドラゴンアマッドネスとの闘い。
 とどめとしたはずのクロスファイヤーだがなんと気合でかき消した。
「キサマなんぞ尻尾がなくとも…負けるはずがない」
「うっわぁー。しぶといわねぇ。それなら」
 セーラはヴァルキリアフォームで素早く接近しつつ左のガントレットを叩く。
 ついた時には水の戦士。マーメイドフォームになって、怪力でドラゴンの巨体を持ち上げていた。
 抵抗の意思は見せたが、さすがにクロスファイヤーで全身を焼かれてはそれもままならないドラゴン。
 為すがままに高速回転をさせられる。それを思いきり遠くに投げ捨てるセーラ。地面に叩きつけられる。
 それでもさすがのタフネス。立ち上がる。
 この渦潮か竜巻のような回転。
 人間なら三半規管が麻痺して目を回すが、ベースが人間であるアマッドネスも例外でないらしくふらふらしていた。棒立ちになる。
 その隙にセーラはフェアリーフォームで高く飛び、高角度のキックを見舞う。
 インパクトの寸前にパワースピード。そのバランスとのとれたヴァルキリアフォームに。
 そして意識の高揚が叫ばせる。

「ヴァルキリィィィィィィ、キィィィィィッッッックゥゥゥゥッ」

 キックをまともに食らったドラゴンアマッドネス。立ち上がったのはプライドのなせる技。
「あたしは…最強…戦乙女ごときに…負けるは…ず…ない…」
 皮肉にも反魂の術の陣の中に倒れこむ。そしてそのまま爆発した。

「ふう。確かに強かったわ。でも…その驕りがあなたの身の破滅だったようね」
 決して慢心せず高みを目指したセーラだけに説得力のある台詞だった。

 こうして騒動は一段落ついた…しかし性転換薬が絶対的に足りない。

 後日。
 2−1のホームルーム。
「えー…当面の間、このクラスは『女子クラス』となることが決定しました」
 沈痛な面持ちで宣告する瀬奈。ブーイングは予想通り出たが、予想に反して女に戻った少女たちからだ。
「えー。そりゃないよ。先生」
「女の体じゃ海行ってもナンパできないじゃん」
「それじゃ大会はどうなるんです? やっとレギュラーを勝ち取ったのに、女子マネでの参戦ですか?」
「薬の数が足りないんです。自分から性転換していたウチのクラスは後回しで、他の生徒を優先です。大体あなたたちは元に戻れただけでしょう」
 ややヒステリックになる瀬奈。
 これだけの人数を男にもどすとなると、自分がいつ戻れるかわかったものではない。
 教師だけに一番最後となっていた。それは納得だが、元に戻れないのがきつい口調に繋がっていた。

 一方、元少年の少女たちは余裕。
 もともとセットで元に戻るために確保してあるからだ。
「恭兵君。あたしの男になる薬をあげる」
「美姫ちゃん…しかし…それじゃ君かもとの姿に」
「いいの。あなたがこのまま女でいると思ったら、たまらなく嫌だった。あたしはこのまま女でいたい。あなたが、男でいてくれるなら…」
 ほとんど愛の告白。頬も染まる。
「美姫…そんなにまで僕のことを」
 感動しているのが傍目にもわかる。
(あー。この子達そのまま結婚しかねないわね…)
 妙に達観する瀬奈であった。

 夏休みに突入。
 他の女が「実は男かもしれない」と全て信用できなくなった恭兵は、幼なじみで確実に女と知っているなぎさとだけ付き合っていた。
 そうと知らないなぎさは首をかしげながらも充実した毎日を過ごしていた。

 美里は、ひたすら薬の精製。
 合法ではない薬品ゆえ、製薬会社のラインに乗せることは出来ない。
 ちまちまと手作りになる。だから数が足りないのだ。

 遊園地のプール。女子十一名という壮観な一団である。
 そのうち生まれたときから女なのは七瀬。綾那。姫子。真理の四名である。
 残りは男として生まれたものの、様々な理由で現在は女の姿になっている。
 もっともかおるについてきた久美とありすが元男と知る者はこの場では当人だけなので、感覚的には半々であろう。
「見てー。久美。ありす。新しい水着なのー」
 今までは女子更衣室でもこそこそと着替えていたが、女の肉体を得たため堂々と着替えているかおるである。
 かなり露出度の高いビキニを着用している。
「そ…それが本物の胸だってのはわかったから」
 思わず久美が制止するほどはしゃいでいた。
 母。そして「姉」同様に大きな胸になっている。
 ごまかしの利かない…つまり正真正銘女であることを見せ付ける目的なのは言うまでもない。
(よかったなぁ。かおる。本当の女になれて…それに対して俺はいったいいつ元に戻れるんだ?)
 友を心から祝福しつつも、自分の身に思いを馳せる久美。
(しかし…今は女でもいいかもしれない…こうして他愛ない…しかし平穏な心安らぐ日々…それを知ったあたしが男のヤクザになんて戻れないかもしれないわね…)
 一方、ありすは
(やがては元に戻るけど…そうするとこの友達としての時間はどこに? 卒業までは女で通していいかもしれないわ)
 二人ともこの「友だちづきあい」が女としての自分の存在に意味を見出し、そして確実に精神の女性化を進めていた。言葉遣いに現れている。
 そしてそれを自覚しつつも「悪くない」と思う久美とありすである。

 一方、「姉」のみずきたち。
 みずき本人は体質で水に浸かると女になるから、もはや水泳での女子更衣室使用はなんとも思わなくなっていた。
 しかしそうは行かないのが…
「そんなに恥ずかしがらなくていいですよ。じゅ…睦月さん」
「し…しかし…こんなに裸の娘ばかりでは拙者…」
 スレンダーな肢体のポニーテールの娘…睦月とは女性化した十郎太だった。
 弥生や葉月同様に月の名前から取られた。一月生まれゆえに睦月と。
 女性化自体は戦闘の為の「名誉の負傷」とみなされお咎めなし。
 しかしどうせ女になったならと、男では入れない場所での護衛まで任された。
 その際に男の名前では不都合だから、元に戻るまでの仮の名として「睦月」と呼ばれることになった。
「今は女の子同士ですもの。恥ずかしくなんてないですわ。さぁ。一緒に」
 姫子の心が広いので受け入れられていた。

 不機嫌なのが綾那である。
 なにしろ女性化した上条あきらのほうが胸が立派だからだ。
 さらには「どうせ薬で戻れるなら」と、性転換物のマンガや小説のお約束を実行している毎日。
 すっかりスカートの足捌きも身につき、そのまま女の子になりかねない。
 だから綾那は不機嫌である。

 唯一「そのままでいろ」とまで言い切るのが真理。
 まぁ榊原のセクハラを考えるともっともである。
「はぁ」
 だからというわけではないが、ため息をつく榊原和彦改め榊原和美。
 ウェービーロング。なかなか美人だが17才にはとても見えない。
 どう見ても二十歳を越えている。グラマー美女。もっと言えばAV女優。
 余談だが「和美」を見た詩穂理が、思わずほっとしてため息をついた。
 それほどこちらの方が「エッチな顔」だった。

「うう…女の裸に慣れすぎてちっとも興奮できない…人生の楽しみの半分以上がなくなった…でも」
 ここで妙に色っぽい表情になる。
「あんなに女が気持ちいいとは想像できなかった…」
 ここでいきなり真理が殴り飛ばす。
「そ、その肉体で何を試したァァァァァっ?」
「やだ。女の口から言わせる気?」
「戻れ。今すぐ男に戻れ。この変態」

 こんなドタバタを薬が出来て元に戻るまで続けていた。

「セーラ様。これは!?」
「わかっているっ。ちきしょう。俺には夏休みがないのか? 変身っ!
 少女戦士になってアマッドネス出現地点に向かう清良。
 正義の味方に長期休暇はなかった。

 新学期。2年2組の教室。
「三人とも元に戻れたんだな」
 みずきが言う通り上条。榊原。十郎太の三人は、薬ができたらそれを服用して無事に男に戻れた。
「ああ。おかげさまでな。でも女の子としてしたコスプレは楽しかったな」
「俺もその立場にならないと理解できない『女体の神秘』が理解できたのは大きかった」
「冗談ではない。拙者は気が休まらなかったでござるよ」
 しばらくは他愛なく話が続く。そしてふと七瀬が気がつく。

「もしかしたらみずき…わざとやられて一度、完全な女の子になってたらよかったんじゃ?」

「なんでだよ」
「それで薬を飲んでしまえば…何の心配もなく完全な男に戻れたわよね?」
「!」
 指摘されて気がついた。
「い…言われてみれば…」
 元々古い薬と肺炎の影響で変身体質になったみずき。
 それだけに薬に頼りたくはなかった。
 重なったあげくどんな変化があるかわかったものではないからである。
 しかしアマッドネスは男の体を一度分解して作り変えてしまう。
 だとしたらこの変身体質もリセットされていたかもしれない…その上で薬で男に戻れば…
「なんてこった…オレはもったいないことをしたのかっ。チキショウ。もういっぺん襲ってこい」
「それじゃ遠慮なく」
 いつの間にか教室に入り込んでいた優介が、みずきを背後から抱きしめる。ドサクサ紛れに胸まで触る。
「こ…こらっ。やめろ。変態」
「どうしてさ。今まで同性愛でそう言われていたのに、ちゃんと『女』相手なのに言われるの?」
「そ…それはそうだが、あっ。そんなところに触るな」
 下腹部にも伸びている。
「うふふ。でもこうして改めて触って見ると、女の子の体というのも気持ちいいね。柔らかいし、いい匂いするし。人生観変わりそう」
「いいや。それで正常だ」
 しみじみと榊原が言う。だれもじゃれあいと思い助けない。優介を追いかけてここに来たまりあですらだ。
「あ。高嶺。コイツ何とかして」
 しかしまりあは動かない。そして信じられない言葉を紡ぐ
「ふ…ふん。これは見逃して差し上げますわ」
「ちょっと? どうして」
 みずきとしてはたまらない。
「今までは男が優介の恋愛対象だったけど、相手が女の子になったのなら、わたしも希望があるわけよね。だからこの心変わりを邪魔するつもりはないわ。けど」
 ここでみずきをびしっと指差す。

「みずきさん。あなたに優介は渡さないんだから」

 実は優介の性癖は変わってなく、社会的にはノーマルになるためターゲットにしているとは知る由もない。
 何しろみずきが本来は男であることも知らないのだ。だからライバル宣言までしてみせる。
(オレもこんな奴くれてやりたいよ)
 恭兵には付きまとわれなくなったが、かわりに優介に付きまとわれ、そしてまりあに敵視される羽目になったみずきであった。





Fin


後書き

 いかがだっでしょうか?
 城弾キャラクロスオーバーの一編。
「PanicPanic」「着せ替え少年」「PLS」「戦乙女セーラ」のキャラが一堂に会するお話は。

 もともとはパニパニとPLSだけのはずでした。
 そこに他二つのシリーズが加わって、どうせならとほとんどで。

 学生キャラが多いので集めやすかったのですが、世界の違う面々を一箇所に集めるには多少のすり合わせも必要で。
 オリジナルとは設定の違うものも存在します。
 一番それが顕著なのは「とらぶる☆スピリッツ」の酒井真澄。
 ただの会社員がここでは教師。

 セーラの世界が混じった時点で「再生アマッドネス」相手の大乱戦は確定でした。
 そこから今回のオリジナルの敵は「仮面ライダー」の最初の再生怪人編の新登場であるトカゲロンをベースにドラゴンアマッドネスに。
 取りつかれたのがエースストライカーの「野本」というのもそこから。

 それで「着せ替え」のライダーそっくりさん大集合で。
 これは元々ある人から提案されていたもので。
「着せ替え」でやるには無理なネタでしたが、これならいけると思い落ちで。

 50万ヒット記念。お楽しみいただけたなら何よりです。

 お読みいただきまして、ありがとうございます。

城弾

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