都内某所。そこには荒れ果てた校舎があった。
 窓ガラスは大半が割れ、グラウンドも荒れ放題。
 花壇の花は枯れ、まるで廃墟のような「学校」だった。

 周辺でも噂の不良がいると言う高校。
 彼女はその校門で感慨深げに校舎を見上げていた。
「この学校に先生として戻ってくるなんて、なんだか不思議ね」
 澄んだ綺麗な声で一人つぶやく。
 やがて表情を引き締めかかとの高い靴で優雅に足を運び、ゆっくりと中へ入っていく。

ゴッドファーザー乙女

Lesson1 GFO〜god father otome〜

 

 校長室。一人の初老の男と若い女性が対面している。
「あなたの噂は聞きました。ですが悪いことは言いません。やめた方がいい。普通のクラスを受け持っていただきたい」
 必死になって止めているのがこの部屋の主である校長だ。
 半分髪が抜けた痩身の初老の男性。
「校長先生」と言われてイメージする典型的な姿だ。
「この学校の大半は健全な生徒たちです。しかしあいつらだけでこんなに荒れ果てているのです。もし女性であるあなたに何かがあったら」
「大丈夫です。私、そう言う生徒たちがいるからこそここに来ました」
 自身満々な彼女。実績はある。だがそれだけが理由ではない。
「それにここは私の母校ですし。やっと恩返しが出来るんですね」
 止められていたのは校門で見上げていた彼女。
「ですが…」
「お任せください。かつて同じように道を踏み外した私なら、彼らの気持ちもわかりますし、きっと心を開いてくけれます」
 決意は固い。校長が折れた。
「そうですか。そこまでおっしゃるのであればお任せします」
 そこでふと笑みが漏れる。
「しかし変われば変わるものです。あの手のつけられなかったあなたが」
「やだ。先生。昔のことは言わないでください」
 頬を染め身をくねらせる女性。およそ緊迫感がない。校長はどっと疲れが出た。次に進めようと考えて発言する。

荒ぶる不良男子。やさしい女教師として舞い戻る

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの高天リオナさんに感謝!


「それでは教室まで案内を」
「あ。それも大丈夫ですわ。昔と位置が変わってないですよね?」
 女教師は笑顔で答えた。
 秋なのに春の花がさくような笑顔だった。

 誰も近寄ろうとしない教室があった。通称もストレートに「不良クラス」
 正式にはZ組。各学年にある不良専門のクラスだ。
「Z」はアルファベット最後の文字。これ以上行きつくところはないという意味でつけられている。
 各クラスから「はじかれた」者たちがここにまとめられている。
 それだけに手のつけられないワルばかりだ。
 殺人以外はぜんぶやった。
「…って、それじゃ『のぞき』だの『痴漢』までやったみたいじゃねーか」
 いまどきリーゼントの男がこちらに食ってかかる。
 天の声に食って掛かるほどだ。どれほどの不良か知れるというもの。
「あ。それなら俺がやったから」
 全体的にサルを思わせる小柄な男がへらへらという。髪も短い上に茶色だから余計にサルを彷彿と。
「やってたのかよ? 尾藤」
「電車が揺れた弾みと言うことにして触りまくり」
「けっ。チキンが」
 とんだ邪魔が入ったがとにかくこのクラスは悪の中の悪どもで構成されていた。
 ゆえに通常のクラスよりも少ない人数だ。全員男子。

 がらっと扉が開けられる。
 いつもなら別に誰も注目しない。
 だが入ってきたのが女性となると話は別だ。
 まずあり得ない事態である。狼の群れに羊を放つようなものだ。
「お…おおおおっ」
 好き勝手に行動していた面々が思わず注目した美女。校長室で会話していた女教師だ。
 彼女は不躾な視線が浴びせかけられる中を、まるでファッションショーのモデルのように教壇へとまっすぐ歩く。
 身長は普通かやや低め。
 顔立ちは美人と言うより『可愛い』と言うほうがしっくりくる。
 桜色の唇が化粧していることを示し、大人の女性であることを印象付ける。
 それがないと高校生くらいでなら通用しそうな幼顔だ。
 さらにかけられた大きな丸いメガネが愛らしい。
 栗色の髪の毛がくるくるとカールしてそれが肩を超える長さ。顔立ちとあいまって愛らしい印象。
 それに不釣合いなグラマラスボディ。
 明らかにDカップよりあるであろうバスト。
 折れそうに細いウエスト。蜂を連想させるほど立派なヒップ。
 それを濃紺のレディスーツに包みしなやかに歩く。
 黒いパンティストッキングの補正がなくとも、その細い足が美しいであろうことは想像に難くない。
 まるでこの世の物とは思えない。想像の世界の美女のようだった。

 彼女は教壇の前で止まると向き直りにっこりと微笑む。
 教師に見向きもしない不良たちが思わず見入る。
 注目を確認するとよどみなく自己紹介をする。
「はじめまして。今日からこのクラスの担任になる大原乙女(おおはら おとめ)です。教科は英語です」
 声すらも綺麗だった。
 一瞬おいて沸きあがる教室。
「ひょーっ」
「姉ちゃん可愛いじゃん」
「こっちきて酌してくれよ」
 ちなみに本当にビールを飲んでいたりする。
 下卑た「喝采」にも彼女は微笑みのままだ。
「けっ。とろくさそーな声した女だ。ロースペックが」
 リーゼントの少年が吐き捨てるようにいう。
「い、いや。何か知らないがあの声は怒らせるとスコップでぶん殴られて、きっちりしてないとまずい気がする」
「ああ。天元突破されないように気をつけないと」
「なんだそりゃ?」
 無視して会話している者もいる。だがそれを注目させるにふさわしい言葉が彼女の口から。
「赴任期間は今日十一月十五日から三学期の終了まで。それまでにみんなを真人間にしまーす」














 「間をおいて」文字通りの爆笑が起きる。
「おいおい。何のジョークだよ」
「おれたちゃ泣く子も笑う不良なんだぜ」
 笑われてんじゃ…
「そんな中でもこのラスにゃ危ないやつらが揃ってやがんだぜ」
「知ってるわ。懐かしいわ。この教室。あのころのままなのね」
 新任教師の乙女は遠い日々に思いを寄せるような瞳になる。
(あん? 前にもこの学校で先公だったのか)
 その程度にしか考えないリーゼントの少年。
「あのころの私、やんちゃだったからなぁ。先生ともよくケンカしてたな」
「へ?」
 笑いが止まる。聞き逃せない一言が出た。
「おいおい。先生。ここは男子校だぜ
「それでいいのよ」
 謎のリアクション。不良たちはますます「?」となる。
「あのころの私は男の子だったし




 今度は笑いが起きなかった。
 あるものは「じゃああんな顔と体と声でオカマ?」と恐怖した。
 あるものはジョークと取り本気にしなかった。
 そしてあるものは
「ざけんな。人をバカにするのも大概にしやがれ」
怒っていた。
 リーゼントの少年だった。
 立つとかなりの身長だ。180超えないまでも近いのは想像に難くない。
 よく見れば中々に好男子なのだが好戦的な態度ゆえ近寄りがたい。
「えーとあなた。阿久津…宏海君だったかしら?」
「秋津明義(あきつあきよし)だ。秋津明義。それじゃ商業作品のキャラだろうがよ」
「でも突っ込みポジションなのは同じね」
「うるせえよ」
「それだけツッコミがうまい所を見るともしかして実は心理士?」
「こんななりしたどっからみてもコーコーセーの俺が大学を出たお医者さんに見えるのかよ?」
 乙女はいわゆる「どや顔」で人差し指を天に向けつつ言う。
「おばあちゃんは言っていた。『人は見かけで判断してはいけない』」
「限度ってものがあるだろうよ」
 かみ合わなさに明義はめまいがしてきた。
「百歩譲ってあんたがここの『OB』としてもだ。その顔はなんだ? その声は? その胸は? 詰め物が入ってんじゃないのか?」
「なんだ。 見たいんだ。もう。それならそうと言ってくれたらいいのに。照・れ・屋・さん」
「はぁ?」
 この反応にもはやついていけない明義。
 対してあくまでマイペースの乙女。
「はーい。みんなー。ちゅーもーく。それじゃ私が女である証明をしちゃいます。上と下。どっちがいい?」
 爆弾発言だった。バカでも…むしろバカだからこそ言葉の意味を瞬時に理解した。歓声が起きる。
「下! 下!」とスカートの中身を見たがる者もいれば
「UEEEEEEEEEE」と奇妙なポーズをとりながら叫ぶものもいる。
「うーん。どっちにしようかな? 簡単だから下にする?」
 およそ女とは思えない発言だ。秋津が思わず突っ込む。
「上にしとけ。バカやろう」
「秋津ぅ。なに勝手なこと言ってんだよ。女体の神秘がぁ」
「うぜーから泣くな。尾藤。どうせスカートの下にゃ俺らと同じ物があるって落ちだろ。んなの見たくねえぞ」
 何故だか明義は「ここのOB」の方を信じる気になっていた。つまりこれは女装と。
 どうしてか乙女に自分と同じ物を感じる。
 ある意味では彼女の「元はここの生徒だった」と言う言葉を信じていることにもなる。
「そう。それじゃ上にしまぁす。みんなぁ。よく見ててね」
 クリアな明るい声であっけらかんとすごいことを言う。
 はったりと思っていた不良たちも実際に彼女がジャケットをキャストオフしたところで注目をせざるを得なくなった。
 さらにスカーフを外すと完全に乙女が視線を独占した。
 まるでじらすようにオフホワイトのブラウスのボタンを外して行く。
 エロ本で興奮する段階は過ぎ去ったはずの彼らも、現実にストリップをやられてはいやでも高まって行く。
(おい。まさか本気でトップレスになるつもりか?)
 秋津は不安になった。
 乙女は二番目のボタンを外しかけて止める。
 さすがに躊躇したかと奇妙にも秋津は安堵した。
「安心して。別に三番目のボタンを外しても水爆が爆発したりしないから」
 上目遣いで恥らいつついう。
「なんだよ。そりゃ?」
 世代的に知るはずがない。その反応に満足したのかまたボタンを外しかかる乙女。
 じらしていたがすべてのボタンを外すとブラウスも脱ぐ。
 キャミソールもブラジャーも大人の黒であった。
 騒ぎ出す「ガキども」。
 硬派を気取る秋津はまともに見ようとしないがそれでもその立派な胸は目に入る。
「どう? 先生が女だってわかってくれたかしら?」
「わかったから早く服を着ろ」
 横を向いたまま赤くなって言う秋津。
「あら? 照れているの?」
 実はそうだった。女は苦手だった。
(と言うことは元・男と言うのがでまかせか。そりゃそーだ。なんでそれを信じる気になったんだ? 見た目も性格も女そのものじゃねーか)
 逡巡する秋津。それをよそに他の男たちは「全部見せろ」のコール。
 特に尾藤は大騒ぎだ。既に興奮状態にある。
「うーん。さすがにこれ以上は先生ちょっと恥ずかしいな」
「だったら最初からそんなに肌を見せるんじゃねぇ」
 あくまで見ようとしない秋津。
「せんせー。もっとよく見せてくれよー」
 対照的にがぶりよりの尾藤蛮。
「そんなに先生の胸が気に入ってくれたの?」
 まるで誘惑するかのような声音。
 尾藤は何も考えずリビドーのままにうなずく。
「それじゃ大サービス。えい」
 その細腕で意外に強い力をもって尾藤の頭を抱き寄せ、自分の豊満な胸にうずめさせた。
「おおおおっ」
 他の男が大騒ぎだ。当の尾藤自身は興奮せず、逆に母親に抱かれる赤ん坊のように安らぎを感じていた。
「いいなぁ。このおっぱい」
 もはや何も考えられない。
「欲しい?」
 淫靡なようにも清らかにも聞こえる不思議な声音。
「欲しいっすよ。こんなおっぱい自分にあったら好きなだけ…えっ?」
 彼はいきなり乙女から離れた。そして自分の胸元を弄る。
「この感触…なんだ? そんな」
 詰襟と第一ボタンこそ外しているがそれ以外をきちんと留めていた尾藤は学生服のボタンをすべて取り外す。
「な…なんじゃこりゃあっ」
 まるで助けた相手から拳銃で撃たれたような悲鳴を上げた。
「おい。どうした?」
 巨漢の近田忠一が苦笑して尾藤に声をかける。
 その尾藤は泣きそうな表情で自分の胸元を他の不良たちに見せる。
「お、お前、その胸」
 どんどんと大きくなっていた。乙女と遜色ない大きさにまで育つ。
 よく見るとウエストがだぶついている。
 不良特有のだぶついたズボンでわかりにくいがヒップが張り出している。
「お、俺、女……!?」
 口をふさいだ。声まで甲高い女の物になっていた。
 サルをイメージさせる短い茶髪がぐんぐん伸びる。
 もとの髪からはかなり長いが女としては短めのショートカットに。
 右側が勝手にまとまってどこからともなくボンボンで止められる。
 ショートサイドポニーと言うところだ。
「この学校は男子校だから女子制服はないわよね。それじゃ折角の胸を強調出来るように」
 乙女が言うと学生服が明るい色に変わって行く。
 だぶだぶのズボンもトンネルが融合しつつ短くなり脚をむき出しにする。
 その脚も無駄毛一つない女の綺麗な足になっている。
 ズボンが赤いチェックのプリーツスカートに変化。
 ガクランの下に着ていたTシャツがブラウスに。
 どこからともなくベストが出現して覆う。
 学生服はアイボリーのブレザーに。
「蒼空学園の女子制服をモデルにして見ました」
 あっけらかんと乙女が言い放つ。
「せんせぇー。俺に何をしたんだよぉ」
 半泣きのはずが女の顔と声のせいかかなり不良たちの心に響く。
(マジかよ? 尾藤が女に?)
 秋津をはじめ全員が驚いていた。
(落ちつけ俺。あわてるな。こういう時は素数を数えるんた)
 どこかの神父のような対処で平穏を維持しようとする者もいる。

 そしてこの現象で乙女がここのOBで元は男だったという話が信憑性を増した。

最初の「被害者」

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの高天リオナさんに感謝!

「きっさまぁーっ。尾藤に何をしたぁーっ」
 オールバックの巨漢。近田が力任せに拳を振り回す。相手が「女」だろうと容赦なしだ。
「きゃっ」
 反射的に避ける乙女。かわした黒板に近田の拳がめり込む。
「すっごい力ねぇ。でも当たらなければどうと言うことはないわ」
 いつの間にかちゃっかりとブラウスを手にしている。しかも半分くらいボタンをはめ込んでいる。
 恐るべき早着替えであった。
「ぬかせぇーっ」
 逆上した近田は乙女の顔面めがけて全体重の乗ったストレートを繰り出す。
 乙女は屈んでかわすとその前のめりになった近田の腕を取りさらに前方に送り出す。
 体勢を崩したところにさらに巻き込むように腕を導く。
 そう。近田自身の力をそのまま流しているのだ。
 そして彼は女に投げ飛ばされて教室の床に仰向けに叩きつけられる。
「ぐえっ」
 カエルが潰されたような悲鳴を上げる。
「ごめんね。すごい力だったからちょっと手加減できなくて」
 あろうことか華奢な女に上から見下ろされている。近田はにわかには信じられなくて動けなかった。
「でもこれでわかったでしょ。無駄な力は要らないのよ。当たるときだけこめればいいの。そうすれば先生のこの腕であなたのような大きな男の子を投げ飛ばしたりも出来るのよ」
(確かに細い。こんな腕で俺の体を…こんな無様に倒されては認めざるを…)
 近田は腕に違和感を感じた。
 半身をおこして上着を脱ぐ。たくましい二の腕が風船がしぼむように細くなって行く。
「ち、近田っ」「お前もかっ」
「お、俺まで女に?」
 既に声が高くなっていた。
 オールバックの髪が爆発的に伸びて、腰に達したら勝手にポニーテールになった。
 険しい顔が優しげに。肩幅も狭く、全体的に華奢に。
 それでも胸のふくらみはわかる。ただ身長に対して少しさびしげな盛り上がり。
 服の方も変化していた。ズボンがプリーツスカートに。
 ただし尾藤のチェック柄ではなく青いスカートだ。
 トップスもブレザーではない。セーラー服だ。胸元の大きなリボンが特徴的だ。
「近田さんは福真高校女子のセーラー服にして見ました。どうせ女子制服はないしね。色々あったほうが楽しいわよ。きっと」
 明るい声で言い放つ乙女。生まれ変わってしまった二人の少女は呆然としていた。

「おい。これはどういうことだ? 二人をどうしやがった?」
 秋津が突っ込みを入れる。これはその場の全員が聞きたかったことだ。
「おばあちゃんが言っていた。『この世は自分が中心に回っていると思えば楽しい』と」
「……お前のばあさん。孫の教育方針間違っているぞ。ん? 自分が中心に? つまり」
「そう。あの娘たちが望んだ結果がああなの」
 いわれて見ると尾藤は乙女の胸を欲しいとつぶやいたら自分が巨乳になった。
 そして近田は信じていた力任せを細腕で破られた。すなわちその細腕に負けを認めた。
 どちらも乙女を認めた結果だ。
「……それでどうして性転換するんだよ。名刺も受け取ってないだろうが」
 いうまでもなくこの界隈で有名なセールスレディーのことだ。
「若いっていいわね。無限の可能性を秘めているわ。信じれば男が女になることも出来るのね」
 しれっと言い放つ。
「限度があるだろーよっ。それで男が女になるんならこの世にオカマは存在しねーだろーよ」
 秋津は頭痛がしてきた。

 騒然とする教室。あっという間に男二人が美少女に変えられたのだ。無理もない。
 もっともやがてもっと複雑な状況に陥ることには気がついていない。
 この元・男の美少女たちにときめいてしまうことに。
 何しろ男しかいないのだ。そんな中に元は男といえど美少女が二人。
 ときめきの一つや二つ抱いても不思議はない。

「落ちついた? 尾藤さん」
「……先生」
 泣き腫らした目で上目遣いで見上げるロリ巨乳。
 何人かは下半身に直撃した(笑)
「あらあら。折角可愛いのに泣き顔では台無しよ。そうね。私がゴッドファーザー(名付け親)になって新しい名前をつけてあげる。可愛い名前をあげるから泣きやんで」
「あんたは女だろうが。それでファーザーかよ」
 律儀に突っ込む秋津。
「元は男の子だからいいんです」
 毅然として言い放つ。都合よく性別をスイッチしている。
「尾藤さんはね…美しく優しくで美優(びゆう)ね」
「美優…それが俺の新しい名前? か、かわいいかも」
「おいおいっ」
 突っ込む秋津をよそに元・尾藤蛮。現・尾藤美優は自分の新しい名前をつぶやいていた。
 乙女は反対側の背の高い女子。元・近田忠一に向き治る。
「あなたは千鶴でどうかしら?」
「素敵な名前。ありがとうございます。先生」
 頭を下げる。秋津は頭を抱えた。
(こいつはパワーファイターの分だけ単純なところがあるからな。心酔するとああなるがまさか女にされたってのにああなるとは思わなかったぜ)
「自己紹介が長引いたけどそれじゃ授業を始めます」
 誰も逆らう気になれなかった。逆らって女にされたくなかった。




 翌日。
 美優と千鶴は駆け込むように教室に来た。
 男子校での女子はあまりに目立つ。逃げてきたのだ。
「まったく…いくらこの学校で女子高生は珍しいといえじろじろと」
「でもちょっと気持ちよかったかも。そう思わない。千鶴?」
「確かにね。美優。女は見られて磨かれるってこういうことなのだな」
 思考がだいぶ女性的になっている二人。
 よく見ると髪のブラッシングが行き届いている。
「おい。尾藤。近田。お前ら昨日は家族に騒がれたんじゃないのか?」
 不良の割にはきちんと登校してしかもホームルーム前に教室にいる秋津が尋ねる。
 彼の疑問は当然だ。登校した息子が女子高生になって帰ったら騒がれないはずがない。
「それが不思議なことにな、あるがまま受け入れられた。まるで元から女だったかのように」
 男口調ではあるが千鶴の口調はかなり女性的な柔らかいものになっていた。
「それどころかあたしのたんすの服がみんな女の子の物になっていたの」
「あ…あたし?」
 さらっと女としての自己代名詞を使った美優に面食らう秋津。
 よく観察すると昨日なったばかりなのに仕草が既に女性的だ。
「やはり美優もか。私もだ」
「お部屋は? あたしの部屋は女の子らしくなっていたけど。ぬいぐるみもいっぱい」
「ぬいぐるみはなかったが代わりと言うか化粧道具まであった。ちょっと興味があったので口紅だけ」
「あー。いいな。ねぇ千鶴。持ってきてない? あたしも口紅塗りたい」
 軽くではあるがガールズトークになって来ている。
(コイツら頭の中まで)
 本人は頭痛をおこしている秋津である。

 扉が開く。乙女が来た。
 とりあえず逆らわずに着席する不良たち。
 だが千鶴と美優は反対に乙女に駆け寄る。
「先生。私は女になって自分がいかにおろかな振る舞いをしていたか思い知りました。力があるゆえに逆に見えてなかったのですね」
「あたしもあたしも。女の子になって初めてあたしが女の子に嫌な思いをさせていたと気がついたの」
「二人ともえらいわ。よく一日でそれがわかったわね」
 まるで子供にするように二人の頭をなでる。
 美優は猫のように気持ちよさそうな表情を。千鶴ははにかんでいるが悪い気はしていないようだ。
 二人とも完全に乙女の軍門に下っていた。その証拠の台詞も出る。
「まだまだです。どうか先生。一日も早く先生のような立派な女性になれるように御指導ください」
「あたしもー。可愛い女の子になりたい」
「任せて。二人ともついてらっしゃい」
「「はい」」

 まだ男の少年たちは恐怖した。
 性別どころか精神的にも屈服してしまうことに。
 それがいやなら恥も外聞もなく逃げるか、ふりだけでも更生して女性化をさけるか。
 どちらにせよ屈辱的ではあったが女になった上に従属的になるよりはましだった。
 その思いを知ってか知らずか。乙女はにこやかに言う。
「みなさんもこの二人を見習ってくださいね。私がみんなを『可愛い乙女』に変えてあげます」
(ぜっっっっったいになるもんか)
 例え一人になっても男のままでいてやる。そう心中で固く誓う秋津であった。

 彼の孤独な戦いが始まった。

 果たして最後に果てしなく長い男坂を登り「未完」とこの物語がなってしまうのか?
 それとも彼もまた「少女」になってしまうのか。
 それはまた続くお話で。

あとがき

 まずはじめにこの作品は手塚治虫先生の『ブラックジャック』第200話。『話しあい』
 そして椎名孝志先生の四コマ『Dr椎名の教育的指導』の『桜井先生シリーズ』にインスパイアされたことを明言しておきます。

 今作は僕には珍しい不条理系で。
 なんで乙女に心酔すると女になってしまうのかは明らかにはなってません。
 そのあたりは次回で予定してます。
 またこちらは珍しくはないけど久しぶりにパロディを大量に投下しています。
 これは逢空万太先生「這いよれ! ニャル子さん」シリーズに触発されて。

 とりあえず何も考えない話です(笑)

 登場人物のネーミングはちょっと法則性が。
 秋津から見ていくとわかりやすいかと。

 登場人物。
 主人公の大原乙女。上はその法則性で。下の名はサブタイトルを考えていて上手く合わせやすくて『O』で始まる名前に。
 秋津は当初は『阿久津』でした。

 では次回。Lesson2『魔法先生オトめ』でお会いしましょう。

おまけ「パロティ原典集」

サブタイトル…人気コミック「GTO」から。こちらも教師もの。

天の声に食って掛かるほどだ。…「天の声」はアニメ版「ハヤテのごとく!」でのナレーターのこと。担当は若本紀夫氏。

「けっ。とろくさそーな声した女だ。ロースペックが」
 リーゼントの少年が吐き捨てるようにいう。
「い、いや。何か知らないがあの声は怒らせるとスコップでぶん殴られて、きっちりしてないとまずい気がする」
「ああ。天元突破されないように気をつけないと」

…「ロースペック」は特撮「天装戦隊ゴセイジャー」の敵側。マトリンティス帝国のメタルA(アリス)が仕える相手であるロボゴーグから罵られるときに使われる言葉。
「きっちり」と「スコップ」は「さよなら絶望先生」の木津千里。
「天元突破」はグレンラガン。
 いずれも声優の井上麻里奈さんが担当したキャラ(グレンラガンではヨーコ)

「えーとあなた。阿久津…宏海君だったかしら?」…大亜門先生の「大臓もて王サーガ」の登場人物。
 不良生徒だが突っ込み担当。

「それだけツッコミがうまい所を見るともしかして実は心理士?」
…「マンガでわかる心療内科」より。

「こんななりしたどっからみてもコーコーセーの俺が大学を出たお医者さんに見えるのかよ?」
…ジョジョの奇妙な冒険(第四部)でラスボスである吉良と初遭遇したときに主人公。東方仗助のトラップに引っかかった吉良に対して言い放った言葉。

おばあちゃんは言っていた。…「仮面ライダーカブト」の主人公。天道総司の決め台詞。

その顔はなんだ? その声は? その胸は?…「ウルトラマンレオ」でダンがゲンに対して言った台詞と聞くが実は未見。
 それをなぞった「ウルトラマンメビウス」の1エピソードで逆にゲンがミライに対して言った台詞から。
 原典は「その目はなんだ? その顔は何だ? その涙はなんた?」

「UEEEEEEEEEE」と奇妙なポーズをとりながら叫ぶものもいる。
…ジョジョの奇妙な冒険。一部や二部で敵が叫ぶ台詞から。

「安心して。別に三番目のボタンを外しても水爆が爆発したりしないから」
…「キカイダー01」の登場人物。ビジンダーの人間体は三番目のボタンを外すと体内の爆弾が爆発する設定。

「蒼空学園の女子制服…拙作「PLS」の架空の高校。

(落ちつけ俺。あわてるな。こういう時は素数を数えるんた)
…ジョジョの奇妙な冒険第六部「ストーンオーシャン」でのラスボス。プッチ神父の精神安定法。

近田さんは福真高校女子のセーラー服にして見ました。…拙作「戦乙女セーラ」の主人公の通う学校と女子制服。

「……それでどうして性転換するんだよ。名刺も受け取ってないだろうが」
 いうまでもなくこの界隈で有名なセールスレディーのことだ。

…真城悠さんの作ったキャラ「華代ちゃん」のこと。
 見た目は小学生女児だが彼女に悩みを打ち明けると性転換が待っている。
 なおこれはいくつもある話の中から性転換がらみのものだけ物語になっていると言うことで、実際にはもっと多くの事例があるとのこと。

果たして最後に果てしなく長い男坂を登り「未完」とこの物語がなってしまうのか?
…車田正美先生の「男坂」人気が伸び悩み打ち切りになったが、最終回で伝説を作った(笑)

Lesson2「魔法先生オトめ」へ

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

『少年少女文庫』へ

トップページへ