三月。

 まだまだ寒いもののつぼみがほころびはじめ、春の到来を告げるそんな頃。
 とある高校でも終業式が行われていた。
 そしてそれも終わっていよいよ春休み突入。無事に進級を決めた少女たちの一団が浮かれていた。
「春休みだね。空」
 とことん嬉しそうにポニーテールの少女が言う。
「そうね。さやか」
 こちらはおとなしそうなロングヘアの少女。小柄な体躯が余計におとなしそうに見せる。
「何して遊ぼうか。優子」
 ウェーブの掛かったロングヘアの少女・沙紀が言う。
「最初はやっぱ春物買いに行くところでしょ。可愛いスカートやブラウス。小物やメイクも決めたいね。ねっ。空」
「ごめんなさい。あたし二年になったら…」
 長い髪の少女・空は申し訳なさそうに告げた。
 身長は154センチとやや低め。しかし上から84−55−86のプロポーションは充分に女らしさを醸し出していた。
 白いものの不健康ではなく輝く肌も、子供から大人の女になっていることを教えていた。
 そして性格もとても女性的で優しい。だた若干気が弱いと言うか小さめなのが唯一の欠点らしい欠点だった。
 もっともそれがお嬢様っぽくて男子に人気でもあった。
「そっかぁ…そう言えば『しきたり』があるんだっけ」
 ツインテールの「優子」が言うと場が沈む。
 まるで転校が決まっているため来年の予定から外れてしまう…そんな感じの気まずさだ。
「よぉ。なに話してんだ?」
 男子生徒が三人。連なって接近してくる。
「げっ。松原。竹本。梅田の三バカ」
 馬鹿とは評しているが仲が悪いわけではない。
「聞いてるぜ。早乙女。四月からは俺らの仲間入りだって?」
「は…はい」
 鈴を転がすような声で答える早乙女空。
「信じられない話だが…まぁ本当にそうだってんなら俺らが色々と教えてやるからさ。男の事」
「はい。よろしくお願いします」
 深々と頭を下げる空。別に「三バカ」が留年生で実は年上と言うわけでもない。
 異様なほどの丁寧さは彼女の性格と躾によるものだった。
「でも本当に信じられないね。17歳の誕生日を迎えたら、異性として一年間過ごすだなんてしきたり」


GTB

Presented by 城弾

今日から私は男の子

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの白夜ゆうさんに感謝!

 4/4.朝。早乙女家。
 祈り場ではローブ状の衣服に身を包んだ空が、神官服の父・伊織と向き直っている。
 その傍らには棺を思わせる水槽が。
 不気味な色の液体が入ってい。横たわると顔とか女の胸とかだけ水面より上に出る程度の深さ。

「覚悟はよいか? 空」
 厳かな口調の父である
「は…はい。いつでもドンと来いです」
 かすかに震える声が虚勢であることを告げている。「ドンと来い」と言う言い回しがいっぱいいっぱいであることを証明している。
 ため息をつく父親。
「怯えるなと言うのも無理な話か。だが空。これは先祖代々続いてきたことだ。
 早乙女家に生まれしものは17歳の誕生日から一年。異性として過ごす。それによって見聞を更に広げるためだ。
 空。お前は今日から男として一年間過ごし、女の目では見えなかったものを見てくるのだ」
「はい。お父様」
 これは昔からのしきたりだった。
 余談だがこの家系の者たちはその風習があるため、男女どちらでもよい名前をつけるのが不問律と化していた。
 父の名前からして伊織。彼もまた17歳を女性として過ごした。

「そんなに身構えるなって。空。俺が女の子になった時はもてたぜぇ。お前も女の子を泣かせてこいや」
 突然現れた若い男が軽い口調で語りかける。
「あの…お兄様のを見ていたから不安なのですが…」
 およそ妹が兄に向けての口調ではない。
「なんだぁ。言うじゃないか」
「バカモノ。空の不安ももっともだ。翼。お前が女になった時に何をしでかしか忘れたか」
「いやぁ。あの時は興味が先走っちゃって。でも…おかげで女はどこが気持ちいいかよくわかったし」
「まったく。避妊すらしないものだから、堕胎する羽目になったと言うのに懲りてないのか」
「懲りたってばさぁ。女の立場でよくわかったよ。男が歯止めの効かない生き物だって」
 あくまで軽い調子で言う兄は、ここで真顔になって妹に向かう。
「空。お前も気をつけろ。快感は女の方が上だが、性欲は男が圧倒的に強い。小学校からの友達にお前の子供を孕ませたくはないだろう」
「あのお兄様。先ほどの言葉と矛盾してますが」
 恐る恐ると言う感じで空が兄に進言する。
「ああまったく。頭が固いな。確かに少しは男のいい加減なところを身につけた方がお前のためかもな」
 若干いらつき気味に翼が言うといきなり気落ちする空。
「もういいだろう。さて。そろそろ始めるぞ。空」
「はい。お父様」
 返事をしてローブを脱ぐと生まれたままの姿。
 若干は躊躇したが意を固めて静かに入り、そして横たわる。
 ふたをされるがまるで出棺のためのそれを思い出させていい気持ちはしない。

 空の横たわる傍では父親が一心不乱に経文を唱えていた。
 そしてそれに呼応するように空の浸かる液体がごぼごぼとあわ立つ。
(なに? 沸騰してるの? でもぜんぜん熱くない)
 その液体がやがて意思を持つかのように空の裸体に絡みつきだす。
 しばらくすると彼女は全身の骨がきしむ激痛に襲われる。
 身もだえするが狭い「棺」の中に閉じ込められているからままならない。
 声を出そうとするが「液体」が口から侵入してきてそれを許さない。
 激痛と息苦しさにやがて彼女は意識が遠くなる……

「空。空。目を覚ませ。空」
「あ……お兄様」
 意識が戻るとふたは開けられ翼に半身を抱きかかえられていた。裸の背中に回された腕
「きゃっ」
 反射的に胸元を隠すが、いつもならあるはずの弾力が無い。
「あ……あれ……?」
 歳の割には大きめだった胸が跡形もなく消え去っていた。
 代りに引き締まったまっ平らな胸板。
「うむ。成功だ」
 満足そうに父が言う。
「成功って……それじゃ私は今は男の子なんですか?」
 うっかり自分の下半身を見てしまった空は、それまでまったく自分の肉体に無かった器官を目の当たりに。
「ひっ」
 女の感覚ではグロテスクに見えるそれに思わず息を呑む。
「……ったく……これから一年間お付き合いするんだろ。『息子』と」
「で……でも、以前にお兄様がしきたりの時に裸になった時のを覚えてるんですが、あれより大きいような気がしますぅ」
「……ケンカ売ってんのか? おまえは」
「そ……そんな、滅相もない」
「妹じゃなけりゃぶん殴ってるぞ……いや。今日からは『妹』じゃなくて『弟』か」
「そのくらいにしておけ。空。裸では何だから服をきてきなさい」
「は……はい。お父様」
 儀式の前に着ていたガウンをまとって、その場を後にした。

 三十分後

「お待たせしました」
「!!!!!?????」
 空の服装に男二人は口をあんぐりとあける。
 フリルをふんだんに使ったピンク色の可愛らしいブラウス。
 赤いチェックのプリーツスカート。
 白いハイソックス。
 儀式の前ならよく似合ったであろうガーリッシュな服装だった。
 見えてはいないがこの様子では恐らく下着も女物であろう。
「お前……その服なぁ」
「似合います? この前みんなでお買い物した時に買ってきたんですよ。とってもお買い得でした」
 ニコニコと嬉しそうに話す空。今は少年なのに花が咲いたような笑顔。
「いや……あのなぁ、ついさっきから男だろうが。お前は」
「あっ」
「まぁそれ自体はなりたてでつい…と言うところで大目に見るが…」
 問題なのはそれだけ可愛らしい服装が「男」なのに似合っていると言う点である。
(ほんとに男か? こいつ。まぁ三時間くらい前なら、こういう服を着せたくなる女の子だったが……)
 元は女のせいかさらさらの髪の毛。不思議なことに液体に浸かっていたのにまったく濡れていない。
 輪郭は女の球形から男のそれに変わったのだが、男としてはかなり女顔で。
 肩幅もせまめ。男としては華奢な体形である。
 体毛もまだまったく無い。
 声も甲高い。変声期前のようである。
「空。もう一度着替えてきなさい。今度は男物を着るようにな」

 少年らしい服装に着替えて兄とともに外出の空。
 この服装はとりあえずで見当つけて買った物。
 翼が女の子になった時の経験からサイズの「落差」を計算していたが、外れた場合は無駄になる。
 幸い着ることの出来るサイズだったが、ためしのひとそろえだけなので数がない。
 その補充で買いに行くのだが……
「可愛くないですぅ……」
 空は仏頂面だった。
「男の子の服ってかわいくないです。特に下着が。フリルもレースもないし。つまんないです」
「あってたまるか」
 付き添いは兄である翼。
「お兄様は女の子になった時どう思いました? 反対にフリルやレースが嫌でした?」
「あ……う……その……」
 口ごもる翼。
 何しろその当時17歳の男子高校生。
 女性に興味はある。そして女性を連想させる下着も。
(まさか喜んだとは言えねえよなぁ)
 実際の話。変身より下着をつけたときに女になった実感があったくらいだ。
「まぁいいじゃないか。おっ。そろそろ店だぞ」

 空が買い揃えた下着だが、ブリーフはみんな窓のないタイプ。
 精神的に抵抗が少ないらしい。
 それはまだよいがちらちらと女性下着売り場に目を送るのが翼としては困る。
(まぁまだこの髪だし、女の子に見えなくはないか)

 タンクトップとシャツを四枚ずつ。それからズボンももう二本。それだけ買うと店を後にする。
「お兄様。これからどちらへ?」
「床屋だ。髪の毛も男としては長すぎる」
 何しろ背中に届いているのだ。

 美容院なら経験済みでも床屋となるとはじめての空。
 元々ブラコン気味なところもあり付き添いを要した。
「ちゃっす」
「おう。翼君か。なんだい。先月切ったばかりだったろう?」
 四十台半ばくらいの店主が客の髪を切りながら応じる。
 ここは翼の行きつけの床屋。子供のころからのなじみである。
「いや。今日はオレじゃなくてこいつの……ね」
 初めてくる床屋に店内をきょろきょろ見ていた空を突き出す。

 空を椅子に座らせて準備しながら
「で、どんな髪型にする?」店主は尋ねる。
「イチローみたいに短くしちゃってください」
 これは兄の言葉。
 何しろ空はロングヘアが好きで。一時は腰にまで達していたほどである。
 さすがに校則に引っかかり美容院で切ったが
「お嬢さん。普通はこれくらいの髪の長さの人が来るもんですよ」と、言われるほど長く切れたほどである。
 それでも背中に達する長さであった。
 なのにつやつやと輝いているのは手入れのよさがうかがい知れる。
 どれだけ大切にしていたかもわかる。
 そこへ大胆にハサミが入るとなる。
 まるで肉体そのものを切られるような反応の空。
 ハサミが遠慮なく髪の毛を切り落としていく。
 泣きそうな表情になる空。
 うなじが空気に触れるとこまで来た段階でとうとう涙をぽろぽろとこぼし始めた。
 閥の悪そうな店主。助けを求めるように翼を見る。
「あのー、そのくらいの長さでいいです」
 男としてはちょっと長めだが、いきなり大胆に詰めるのも確かにきついだろう。
 順を追えばいいかと考えた。

「お兄様お兄様。顔そりって気持ちいいんですね。あんな熱いタオルなのにそれが気持ちよくて」
 興奮気味の空。結局襟足に掛かる程度の長さでとどめた。
「そりゃよかったな。さて。帰るぞ」
 そのタイミングを見計らったように空の携帯がなる。メール着信だった。
「あら。お母様。ついでに鶏肉を……わかりましたわ。確か今日は『肉のいのうえ』の特売日。いきましょう。お兄様」
 買物で俄然張り切りだす元・妹。現・弟。

 春休みの残りの日々は男としての最低限の過ごし方のレクチャーだったが、子供の頃から女らしくおしとやかにと育てられたためになかなか慣れない。
 普通ならこの年頃の少女に多少は乱雑なところもあるもののだが、それがまったくない。
 もちろんきちんとした男でも悪くはないのだが、さすがに二日三日では女性としての習慣は抜けるはずもない。

 そうしたまま二年としての一学期を迎える。

 校門の前で仲良しの少女たちの登校を待っている空。かばんを両手で持っている。
 このポーズは女子制服姿の少女なら何の違和感もないのだが、いくら可愛い顔立ちでも「男の子」がするには若干問題のある姿だ。
 そしてお目当ての一団がやってきた。それを確認すると空は
「おっはよーっ。みんなーっ」
 大きく手を振りながらボーイソプラノで呼びかけた。
「空?」
 髪や服装だけではない。性別が変わってしまったのだ。むしろ同一人物と認識できたのが見事。
 さすがに親友の女子たちであると言うところか。
 軽い足音をさせて彼女たちは「変わり果てた姿」の親友の元に。
「うわァ……本当に男なんだね」
「うん」
 裸体も見ないで決め付けられたのは全体的な印象。さすがに男女の骨格の違いにまでは発想は及ばなかったが、肌の色だけでも充分に男の印象が強い。
 少年としてはかなり色白だが、本来の少女としての肌の色よりはかなり黒い。
 そしてなんと言ってもその胸元。高校生とは思えないほどの豊かな胸元がまっ平らになっていた。
 これが逆ならいくらでも説明はつくが、ちょっと前まで豊かな胸だったものがいきなりまっ平らでは男になったと言う説を信じるしかない。

 やがて男子たちもやってきて、空の変身に驚く。こちらは胸元だけでの判断だ。
「信じられないな。本当に男だよ。ほれ」
 見た目が男と言う気軽さからか平らな胸元を手で撫で回す。
 しかし空にしたらたまらない。本来は女であり、胸元をこうまで無遠慮に男に触られたことなどない。
 それがたまらなく恥ずかしく、胸元を触られているうちに赤くなってきた。
「止めとけ。竹本」
 何故かこちらも赤面している松原弥太郎。
「いーじゃん。『男同士』なんだし」
 お気軽な調子で「セクハラ」続行の竹本祐一。
「もしかして…竹本君って……ホモ?」
 何か期待しているような表情の沙紀。
「ば…バカ言うな。オレは女の方が好きだ!」
 登校中の生徒たちの前で思い切り「女好き」宣言してしまった竹本。
 見事なほどの自爆だった。

 空は転校の経験はない。
 だからこうして黒板の前で紹介されるという覚えはない。
(転校生ってこんな気持ちなのかなぁ)
 男の子になってもぽわーんとしたところは変わらない。
「みんなも知っての通り早乙女は家庭の事情で二年生は男子として通学することになった。体育の着替えとか一部の授業も男子扱いになる。いいかな。男子」
 担任の教師が念を押す。
「いいでーす」
 同性なら別に何も気にしない。そういうことだ。
「それじゃ早乙女。何か一言」
「え? え」
 ボーっとしていた。いわゆる天然ボケ。
「えと…あの…」
 男の子の声なのだが男としては高めなのと女顔。
 そして何より一年のときは少女だったことを知っているので気持ち悪いという反応はない。
「先生が仰ったようにこれから一年間は男の子です。不束者ですがどうかよろしくお願いします」
(そりゃ嫁入りダーッ)
 男子は心中で突っ込み、女子は苦笑していた。

 この日は始業式。ホームルームが終わればそれで解散だった。
 しかし空が質問攻めにあったのは言うまでもない。
「ブラつけてないの? どんな感じ?」
「なんだか落ち着かないです。胸元がスースーして頼りないです」
 少女のときはDカップ。巨乳といえる範疇だった。それが見事にまったいらに。
「ねぇ。それじゃ下は?」
 どことなく頬の赤い少女。耳年間だ。
「…………ついてます」
 きゃーっ。黄色い声が上がる。
「えー。どんなの?」
「見たーい」
 まったく何も考えていないのは言うまでもない。
 むしろ聞こえている男子の方が恥ずかしく。
「それじゃ体育の時にでも。あ…お手洗いで」
「おいおい。お前、今年は男子扱いだろ」
 たまらず松原が一言入れる。
「あっ。そうでした」
 失念していた。
「よかったねー。松原君」
 何人かの女子がにやけた表情を向ける。
「な…何がだよ?」
「向こう一年、空とは更衣室でもトイレでも一緒だよ」
「男の子だけどね」
「だ…だからなんだよ」
 赤くなる弥太郎。空も俯いてしまう。
「けどさぁ…それってホモってこと?」
 見比べる。まだ少女の主陰のある空。そして比較的端整な顔立ちの松原弥太郎。
 この二人の絡み合いを想像した。

「きゃーっっっっ」

 もっと甲高い声が上がる。
「うっわー。精神的には男の子と女の子だし」
「抵抗ない分凄いことになるんじゃ?」
「空。あんたもう一生男の子でいなさい」
「男」ではない。「男の子」である。
 彼女たちが欲しているのは体毛びっしりでやたらにごつい「男」ではなく、体毛も薄くまだ華奢な「男の子」である。
 今の空はまさにそうだった。
「ふざけんな。行くぞ。早乙女」
「う…うん」
 返事はするが元々トロイところがある空は中々出られない。
 それほど短気ではない物の思わず気が急いた。
「早くしろよ」
 つい相手が男の姿と言うこともあり「手を握って」引っ張ってしまった。

 もちろん、それが女子たちの妄想を爆発させたのは言うまでもない。

「まったく…あいつらは」
 帰り道。どういうわけは弥太郎の男友達も空の女友達も同行しない。
「気を利かせた」らしい。
「ごめんなさい。私のために」
 肉体は男だが数日前まで少女。どうしてもその仕草は女性的になる。
「いいよ。それよりお前。大丈夫なのか? 一年も男でやっていけるのか」
「あんまり自信ないけど…しきたりだからがんばります。だから松原君。男の子の事を色々教えてくださいね」
 もちろん他意はない。しかし聞きようによってはそれこそ危ない台詞である。
「俺でよければな」
「お願いします。『男の友情』ですよ」
「『男の』友情ねぇ…」
 何気なしに繰り返してしまった。

 入学式も終わり通常の授業が始まる。
 机に向かう授業はいいが問題はやはり体育。
 更衣室も男子のものに。
「うっ…」
 空は絶句した。あまりの汚さに。
「あの…誰かお掃除はしないんですか?」
「そう言えば誰がやってんだろ」
 教室なら自分たちだがここだと…
「ここで着替えるんですか?」
 珍しく不満げに訴える。
「嫌か? 外でというのもありだな。今なら男だし」
「…………」
 絶句した空だがさすがに男の肉体といえど外での脱衣は抵抗があった。
 渋々だがその場で着替え始める。
 学生服を脱いできちんとたたむ。ちなみに他の男子は放り込む感じである。
 ズボンも脱いだらきちんとたたんで重ねる。
 ワイシャツを脱ぐ段階になって辺りを見渡す。
 元々が女の子。気にしないなんて無理。
 恐ろしくゆっくりと。まるでショーのように肌を見せていく。
 男としての肉体はまだ出来ていない。華奢な肩はまだ女の子であるかのように見える。
 気がついたら大半の男子が目を奪われていた。
「もう。見ないでください」
 隠すべき胸はなくなってるのに長年の習慣でつい隠してしまう。
「ご…ごめん」
 男子たちも何か見てはいけないものを見た気分で、顔を赤らめて目をそらす。けど仕草などがどうしても女子のもの。
 それも生まれてから16年だから年季が違う。本人は意識しないが男子が見たら色気を感じる。

 戸惑いつつも体操着に着替え終わった。空は恥ずかしさから更衣室を飛び出してしまう。
「あいつ…さすがは元・女」
「色っぽいなー」
「くらくらきたぜ」
「ああ。やばかった」
「可愛かった…」
 危ない発言が飛び出す。もっとも一年の時の印象で空を女子としてみているからだ。
 そこに弥太郎が一言。

「でも男だけどな」

 静まる更衣室。
「そうなんだよなぁ」
「もったいない。なんで女じゃないんだ」
「この前まで女だったけどな」
「なんか付き合ってもいい気が」
「男だけど?」
「うーん。元々は女だし。いいんじゃね?」
「一寸待て? ということはだ…精神的に女であれば肉体がどちらでも構わないってことになるぞ?」
 とんでもない指摘である。自分たちが「同性愛」に走りかけていたことを指摘している。
「い…いや…可愛いというのが条件で」
「今の早乙女。可愛かったと思うが」
「うがぁーっ。とんでもない爆弾が」
 いっそ女子のままここで着替えていればストレートに燃え上がったのだが。
 馴染むまで困った方向のリビドーに悩まされる羽目に。

 さらには体育そのものである。
 さすがにブルマとかは使われていない。男女共にハーフパンツである。
 逆に言えば空の体操着姿は以前と変らないのである。
 事実、体格が大して変わらないこともあり一年のときのものをそのまま使用していた。
 それがまた倒錯性を持たせて…男子をもだえさせる。いや。一部の女子には女装した美少年に見えていた。
 明らかに体を動かしたことが原因でない荒い息が男子女子両方から。
「よーし。それじゃ今年初めてだしな。まずは準備体操代わりに柔軟」
 体育教師の言葉でそれぞれペアを組む。
「早乙女。俺と組むか?」
「はい。松原君」
 もともと男子も女子も奇数。一人ずつ余るためこの二人が良く組んでいた。
 いまでは男子同士だからなおさらと言うことである。
「じゃお前のほうから」
 弥太郎は背中を押す役目を請け負った。
「はい。あの…松原君。(男の肉体だから遠慮なしにといわないで)優しくしてくださいね」
 頬を赤らめて言う。

 何人かの男子と女子が鼻血を噴いた。

 もちろんこの日の体育はがたがたであった。

 天然ボケの上に過剰なほど女性的にしつけられていたその習性。
 男子になってもそれは抜けず男子。女子のどちらも困惑させていた。
 そして決定的な出来事が。

 ある日のことである。
 担任が出席を取っていたが空の返答がない。
「なんだ? 早乙女は珍しく遅刻か?」
 そのタイミングで駆け込んできた。
「遅れて申し訳ありません」
 担任も。そしてクラスメイトも口をあんぐりとあける。
 何しろ空はセーラー服姿だったのだ。
「オ…お前…それ…」
「は…ハイ。今朝はちょっと寝坊してしまいまして、寝ぼけたまま着替えたらこれを着てまして」
 間に合わないからそのまま出てきたのである。
 もちろんスカートには何の抵抗もない。未だに女子の習性のままだ。
「うー……」
 着替えに帰れとは言えない。
「まぁいい。去年まではその姿だったんだし。今日だけだぞ」
「はい」
 きらきらと輝く瞳。許されたことに対して言うより、久しぶりのスカートが嬉しいらしい。
 担任は目をそらす。
(まいった…可愛く見えたぞ。男なのに

 そしてこれはまたもや生徒たちをおかしな気分にさせるのであった。

 よりによって体育の時間。インターバルの十分しか着替える時間がない。
 つまり空の着替えの間は外すということも出来ない。
 ついでに言うなら空はやや着替えが遅い傾向がある。
 それが終わるのを待っていたら自分たちが遅くなる。
 仕方ないから同時に着替えることにした。
 なるべくセーラー服姿の空を見ないようにして。

 なれた服のせいかリラックスしている空。
 気のせいか男子の服より着替えがはやい。
 トップスを脱いでスカートのホックを外す。
 少年の肉体であるのだがスリップ姿。この倒錯性に男子は眩暈を。
(い…いや…元々あいつは女だし)
(今日は間違えただけ。アブノーマルでもなんでもないが)
(くそ。男なのになんだこの色気は?)
 スリップの下はご丁寧にブラジャーが平たい胸に。
 事情を知らなきゃ変態扱いされかねない。
 視線に気がつく。悲鳴を上げるかと思ったが、自分が今は同性と言うことをさすがに認識しているようだ。
「そうなんですよね。つい寝ぼけて。でもやっぱりないとなんか落ち着かなくて。皆さんもどうですか? もしかしたら意外に落ち着くかもしれませんよ」
 空としてはごまかしているだけだったが、そんなこと言われた男子としてはたまったもんじゃない。
 とうとう何人かはへたり込む。
「あれっ? 大丈夫ですか。みなさん」
 優しさがかえって痛い。
「早乙女。そっとしといてやれ。男には色々あってな」
 赤い顔の弥太郎が教える。
「そうなんですか…まだまだ私の知らないことばかりです。みなさん。色々と教えてくださいね」
 にっこりと微笑む。それが可愛いものだから余計に男子はクラクラと。

 一方、女子もたまらない。
 美少年がセーラー服姿で校内を闊歩しているのである。
 スカートから覗く「生足」が特に刺激的だった。
 いつスカートの中身が見えるかと思うと気になって仕方なかった。
(あー。男子がうちらのスカートの中を気にする気持ちがわかったかも)
 変なところで理解をしてしまった。

 女子の肉体で女性的なら何も問題はない。ましてや可愛い姿である。
 しかし男子の肉体で女性的。しかも可愛い。さらに仕草などは年季入り。
 男子の女子も担任も翻弄されていた。
(こんなのが後一年も続くのか…)
 それは絶望か。それとも歓喜か。心が悲鳴を上げていた。

 夜。父と向かい合う空。
「どうだ? 男の肉体での学校は」
「はい。毎日が驚きの連続です。女だったらわからないことだらけです」
「そうか」
「それに皆さん。とても親切です。丁寧に男の子の事を教えてくれます。ただ…私が特殊だからかみんな緊張なさるみたいで。もっと自然に男の子にならないといけませんね。もっとスキンシップを持ってみたらいいのでしょうか?」
 生徒たちには悪意のない台風が迫っている。

 少女の『男修行』はまだ始まったばかり。
 だが本人より周辺が先に音をあげそうだ。




後書き

 普段は男の子が女の子になる話を中心に書いてます。
 それでその逆も書いてみたいと思ったのがこの話です。

 普段の♂→♀のノウハウがそのまま使えると踏んでたんですが思ったように行かなくて…
 
 いつもだと『男でありながら可愛い女の子として過ごす羽目になり、そのギャップに戸惑う』展開です。
 だから悪い意味で男性的な性格のキャラクターが主役で。
 今回はその逆。普段の逆なので過剰なほど空は女性的な性格にしました。
 これが三月にはどう変化しているか。
 実はまったく考えていません。

 手こずったので反応次第ではこれっきりかもしれませんが…
 逆に言えば反響次第ではもう少し。

 手こずったのはやはり主人公が女の子だったからかと。
 肉体は少年でも女の子を描くのですし。男の僕にはそれが難しかったのかも。

 これは設定の関係で「少年少女文庫」さんには投稿できません。
 故に城弾シアターだけの公開に。

 最後に、長らくお待たせしたことをお詫び申し上げます。

 お読みいただきありがとうございます。

城弾

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

トップページへ