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 ある朝、オレは狂気の科学者、松戸毒太教授の配下の幸島小夜子の手によって高校生くらいの女の子にされてしまった。
 人体実験で体内の薬と外からの指令を出すリングがこの体を作り上げている。
 このリングには元に戻るためのデータもあり途中で外す事は元に戻れなくなることを意味する。
 やむを得ず時間まで女で過ごすことにしたオレだが、長身の男だったのでいきなり着るもので困っている。
 いくら外へ出ないつもりでもまさか裸ではいられないし男ものは論外。
 住み込みのメイド、真彩香の持つジーンズはサイズが合わなくスカートをはくしかない。
 それもミニスカートかメイド服しか選択できない。むむむ


Maid of Fire Vol2

作:城弾


 途方にくれていたオレだったがひとつ思い出した。
 「真彩香!! オレのジャージはどうした? 考えて見ればあれなら着られるぞ」
 「えー。スカートの方が可愛いのにィ」
 「……いいから出せ」
 「それにご主人様。あれはこの前のジョギングで破れて捨てたはずですよぉ」
 そうだったっけ…くそ。他に緩いものはないな…ミニスカとメイド服…スカートを身に着けるのは間違いないが…
 「こっちにしようか…」
 オレはメイド服を指差した。男の身としてはすねならまだしも太ももを晒すのはかなり抵抗がある。

 もっとも今のオレは健康的な美少女だったが…

 抵抗と言えば女性用の下着である。ショーツはまだ我慢できるがブラジャーをつけると変態になった気分になりそうだ。
 ところがちょっと外へ出てきたと思ったら真彩香の奴はブラジャーを買ってきやがった。
(こんな早くにやっているランジェリーショップがあるかどうかはおいといて)
 ワンサイズだけの違いとわかったから試着するまでもないからワゴンセールのものを買ってきたとか。
 千円と言っていたが2度と使わないものに千円とは言えど金を出すのはなんかばかばかしい気がする。
 だからと言ってそのままゴミ箱い行きもさすがにもったいない。サイズの関係で真彩香や沙紀に譲ることはできない。
 せっかくだしとりあえずつけては見た。
 ところが驚いた。凄く落ち着くのだ。
 たとえるなら男が丸裸だと股間がぶらついて落ち着かないがパンツでホールドするとしっくり来るあれか。あれに近い。
 とにかく割と大きな胸をきっちりホールドされて意外に快適になる。
 「わぁ。思ったとおりぴったりですぅ。スタイルいいですぅ」
 真彩香が打算抜き〔それだけに余計悪いが…〕で賞賛する。
 「そ…そうか?」
 女になったせいかスタイルを誉められて悪い気がしなくなっている。
 それにしてもリボンだのフリルだのなんとも可愛らしすぎるものを…真彩香の少女趣味はよく知っていたつもりだったが…でも確かに似合っているな。
 あ…この感触…癖になったらどうしよう…って今日だけなのだ。なるはずもない。

 スリップをつけさらにメイド服を着るのだが…こんなに裏地が気持ちのいい物だとは思わなかった。
 デリケートな女の柔肌に触れるのだからと言えばそれまでだか男物と比較にならない感触のよさ。
 さらには野暮ないい方をすれば作業着だが、機能性も見た目よりはいいし、柔らかく、しなやかなのだ。
 脹脛あたりまでは隠れているがなんか何もつけていないようで落ち着かない反面、いつもズボンで包まれている足が開放されたようで気持ちがいい。
 「足が寒いですか。それならひとつ差し上げます」
 それはストッキングだった。いわゆるパンティストッキングではなくてちゃんと二つに分かれている。ニーソックスではなく太ももまで引っ張りあげる。
 締め付けられるのだが…それがなんとも官能的と言うか…女って毎日こんな感覚と付き合っているのか。身が持たないな。
 もっともオレはついさっきまで男でこの感覚は全くの初体験。慣れてないのだから無理もないかな。
 ストッキングを着けるとなんだか引き締まった気持ちになる。

 うーん。女装趣味の男を変態と決めつけるのはちょっとためらいが出てきた。こりゃ気持ちがいいや。女にだけ着せておくのはもったいないよ…

 「はい。ご主人様は風邪で寝こんでおります。今日と明日はお休みさせていただきます」
 まさかこんな子供の女の声で会社に連絡はできない。真彩香に連絡させた。
 ちょっとオレの身の上についてかたらせていただこう。
 年齢は35歳。ある大企業のトップの一族の5人兄弟の末っ子で、学校は中学までしか出ていない。
 『帝王学』とやらの『英才教育』で学校には行けなくなったオレに一流の講師がマンツーマンで教えていた。
 だが重要なポストは兄貴たちが占めているので、オレはお飾りみたいなものだがむしろ感謝している。気ままな生活のほうがいい。
 それでも豪邸と呼べる家に住んでいて、いささか広すぎるので使用人が必要なので雇っている。
 一人はこの山中真彩香。
 ルックスはモロに好みだが思考回路がどこかでショートサーキットを起こしているのか突拍子もない考え方をしている。
 『天然ボケ』と言う奴だ。
 問題の家事の要領もよくない。けれど性格とスタイル。そして顔と声がいい。
 いわばメイドと称して恋人を雇っているようなものかもしれない。なにしろ住み込みだ。
もっとも間をはずす天才で未だかつて『行為』に及んだことはない。
 おぼつかない真彩香の家事。それをフォローする形なのが通いのメイド、繭村沙紀だ。
 真彩香の正反対で、ショートカットのがさつ娘だが家事の腕前は超一流。
 通いなのも二つの家を掛け持ちしているからで半日できちっとこなしてしまう。
 さすがに料理だけは時間があるのでいない時間はお任せだが。
 この沙紀はウチでは午後を担当している。今日も二時から来る筈だ。
 そしてもう一人。これは男。
 「先生。今日の予定は」
 どういうわけか『社長』ではなく先生と呼ぶこの青年は米良次郎で、外担当というところか。秘書兼ボディガードで、とにかく腕が立つ。
 「キャンセルに決まってるだろ、ジローちゃん。この姿で人に会えるかよ」
 経営にも携わっていたが外交が主な仕事なので当然の話だ。
 ちなみにジローちゃんも一部始終を見ていたが、さすがに想像の範疇を超えていたので止められなかったらしい。そりゃそうだな…
 デスクワークがない事もないがそれも会社に行かないと仕方がない。つまりオレはいきなり暇になってしまった。

 アウトドア派のオレはインドアの趣味を持たない。読書というのもまずしない。退屈だ退屈だ。
 ベッドに腰掛け足をぶらぶらさせていた。メイド服姿の少女がこれだとぐっと来る男もいるかもしれないが見られるその立場にはなりたくなかったものだ。
 「ああ忙しい忙しい」
 対照的に真彩香はどたばたしている。視界をふさぐほどの洗濯物を抱えてふらふらしていた。
 「オイ…どうしてそんなにあるんだよ」
 「だってご主人様。今は女の子じゃないですか。明日の朝までは男ものを着ないですよね。だったらこの際だから全部1度洗っちゃおうと思いまして」
 「なにもわざわざやらなくてもいいだろう」
 「えへへっ。後は干すだけですから。今日はいい天気だからよく乾きますよぉ」
 とはいえ、とんでもない数だ。
 そのときだ。『雇い主』としてはありえない言葉が口をつく。女になったせいなのか。
 「ほら、半分よこせ。手伝うから」
 「え? だめですぅ。ご主人様にそんなこと」
 「暇つぶしだよ。暇つぶし」
 本音だった。メイトが洗濯ものを干しているなら当たり前の光景だ。それなら表にも出られる。
 確かにものすごい晴天であった。部屋にこもっているのも気分がふさぎそうだし気分転換になるかも。

 洗濯ものをパンと一回振り皺を伸ばして物干しに止める。単純作業なのだがなんだか段々いい感じになってきた。干し方にも手が入り出す。
 「ふぅー。すっかり干せたね」
 「そうですねぇ。手伝っていただきましてありがとうございますぅ」
 オレは真彩香に向けて満面の笑顔を見せていた気がする。すっかり『主婦の喜び』に浸っていた。それに気がついたオレは…

 「ご主人様。ご主人様。どうして引きこもってしまっているんですか? 私が何かしたなら謝りますから」
 真彩香が扉をどんどんと叩く。すっかり女になりきっていて自己嫌悪に陥ったオレは引きこもっていた。

 メイド少女にされた者の鉄則で引きこもっていた(笑)オレだが体がそれを許さない。
 考えても見れば起きぬけにいきなり『女にされた』のである。まだトイレに行っていない。
 往生際が悪いが立小便が不可能なのが現実を認識させるようでイヤだったが限界がきた。
 ましてやよくいわれる女体の膀胱の小ささ。よく我慢した方だと思う。
 オレは扉を開くなりトイレへとダッシュした。唖然とする二人を尻目にかけこんだ。
 女は立って用を足すことはできないが男だって座って用を足す。
 とはいえど知識はあってもなにしろスカートで用を足したことはない。切羽詰っていたのもあったが大きくめくりショーツを下ろす。解放感。間に合った。
 ほっとしてから改めて脚の付け根を見る。
 (はぁ…正真正銘女の体だよ…なんかこのトイレの仕方で女の仲間入りしてしまった気がする…)
 それがイヤだった。だからトイレは我慢していた。

 開き直ったオレは引きこもってないで太陽の下にまた出た。庭弄りだ。ぽかぽかとしたいい陽気だ。水を撒いたり雑草をむしったり現実を忘れていた。だからつい笑みになっていたようだ。
 「ふぅ」
 流れる汗をぬぐい微笑んでいたようだ。そして通りかかった若い男二人。
 「お…おい。見ろよ。あのメイドさん」
 「あ…ああ。すっげぇ可愛いな…」
 かたっぽはいかにも渋谷をうろついていそうな金髪にひげ。片方はいかにも秋葉原に生息していそうなメガネ。
 なんでこんなのがコンビなのかわからないくらいアンバランスだが価値観が一致しているようには見えない二人がそろってオレを
「可愛い」だって…はっ!?
 今のオレ? 『可愛い』と言われて笑ってなかったか。さらにその笑みを二人組は勘違いしたらしい。赤くなって逃げ出したのだ。
 ちょっと待てよ? 35歳の渋い若社長がまるでアイドルみたいな扱いかよ…急に沈んで部屋へと引き下がる。
 姿見がオレの現実を見せる。
 小作りな可愛らしい顔。なにしろなったばかりでつややかな長い髪。華奢な体躯。
 これがオレ自身じゃなかったら見た目は守備範囲を下回るが将来のためにちょっかいを出したくはなるだろう。
 自己主張の激しい胸元と臀部。そしてそれをくるむこの服。華美な装飾はされているが決して攻撃的ではない。
 いかにも『あなたに従います』と言う感じの服装。
 なるほど…変な物だが女としてこれを纏って初めてこの服の魅力…いや。魔力に気がついた。

 気がついたからか、それとも薬の影響が精神に及んだのか、なんか細かい仕事をしないと気がすまない。
 それを察してかどうか真彩香が昼食作りに声をかけてきた。真彩香いわく
 「普段の男のご主人様だととても頼めないけど今は女の子だからなんか自然に頼めて」
 つまりこいつもオレを女子高生扱いし始めてきてるのか? 元に戻ったら男の威厳でこき使ってやる。

 などと考えていたのだがポテトサラダを作るための下ごしらえが無性に楽しくなってきた。
 ジャガイモの皮を剥き芽を取る。キャベツを千切りにする。
 スライサーもあるのだがなぜかそれを使うのが邪道に感じ始めた。ちゃんと包丁とまな板でやらないと。
 段々と楽しくなってきたのはいい。笑顔もいい。笑い声を上げるのまではいい。けどそれが
「うふふ」とか「えへへ」とか「あはは」だと…おいおい。オレなら『はっはっは』とか『くっくっく』だろう。
 本当にこの薬。明日の朝には効力が切れるんだろうな。
 それ以前にこの指輪。生活防水くらいはしているんだろうな。さっきトイレで手を洗ったときに思いきり濡れているが…

 「いたたぎまーす」
 朗らかな真彩香の声。主人と使用人が…なんて本家が見たらいいそうだが一人で食うのはもともとイヤだった。
 なにしろ集団で食事するのは中学までだった。だから一人はいやだった。
 「それでねそれでね。ご主人様ぁ」
 いつものように他愛ない真彩香の喋り。それをいつもは長須のだが女になったせいか相槌どころか「会話」していた。
 これも女性化の一環だろうか。

 午後1時半。楽しい食事を終えてくつろいでいた。真彩香は洗い物をしている。
 ピンポーン。チャイムが鳴る。そうだ!! もう一人のメイド。沙紀がきたのだった。
 「真彩香ぁ。いないのぉ? あれ? アンタ…誰?」
 「え!?」
 外へ逃げる前に沙紀に見つかった。不審な表情をしている。そりゃ当然だろう。とは言えど真相を話すのはためらわれた。
 この女は有能だがとにかくがさつだ。女の言葉で言うなら「デリカシーがない」
 事情を知られたら絶対窒息するまで笑う。どうするか逡巡したが助け舟。
 「沙紀さん」
 「あら? ジローちゃん。なんで『外』担当のアンタが旦那さまにくっついてないで屋敷にいるのよ?」
 鋭い!! もっとも職務に忠実にちゃんとくっついているけどな。
 「先生の指示です。この人は真彩香さんの後輩で今日1日メイドの現場で見学の人です。その様子を見ておけと。働き次第で雇うかどうか決めるそうです」
 ジローちゃん…それじゃ…
 「ふぅん。3人目ねぇ。確かに旦那さまの好みの顔だわ。アンタ。気をつけなさい。ここの旦那さまは手が早いから」
 悪かったな。否定できない自分が悲しい。もっとも二人に手を出せたことはない。
 「じゃ真彩香。さしずめアンタと私が指導教官ってとこ? そう言えばこの娘の名前は?」
 「そ…そうです。名前は…やま…山村ありさちゃん」
 どこから出てきたんだ。そんな名前。思わずオレは『違う!!』と叫んでしまった。
 「なにが『違う』の?」
 う…沙紀が鋭い視線を向けている。どうする?

笑われるのを覚悟で事情を話す…○ 帰るまで少女メイドに成りすます…●



予告

○の場合

 『何々。旦那さま。人体実験で女の子にされちゃったの…ぷっ…くくくく…きゃははははははは。おかしいーっっっっ。なんて間抜けなのーっっっっ。あはははは。苦しい。けほっけほっ』
 くそーっ。窒息するまで笑いやがって。俺は真っ赤になって怒りをこらえていた。
 『ご…ご主人様。怒った表情もとっても愛らしいです』
 フォローになってないぞ。真彩香。
 しかし、ばらしたおかげでいつもの自分として振舞える。余計な気苦労はいらないな。

●の場合

 『名…名前です。ありさじゃなくて…ありすです』
 モロに墓穴を掘ってしまった。
 『へぇーっ。可愛い顔にぴったりの可愛い名前じゃない。よし。ありす。あたし達がみっちり教えてあげるからね』
 『ハイ。先輩』
 笑われるのは回避したし、とっさについた嘘。ありすという名前がオレを完全な女と思わせた。
 …普通は中年男がいきなり女子高生になったなんて言われて信じるわけはないよな…
 しかしこれで沙紀が帰るまで女子高生メイドを演じる羽目に…


あとがき

 前回の投票結果をうけてメイド服での展開です。
 ちなみにミニスカートだったら沙紀が来たので素性を探られるのも面倒で外へ真彩香と逃げ出しショッピングしたりナンパされたり…という展開でした。もっともその後の選択肢は考えてなかったな(笑)

 今回登場の『ジローちゃん』。モチーフはわかる人には一目瞭然ですね。
 だからと言って『オレ』が某スーパー弁護士と言うわけではないのですが(笑)
 ましてや真彩香がそそっかしい元秘書と言うわけでも。

 ちなみに『オレ』ですが名前を出さないのはそれぞれ自分がその立場と思っていただきたいからです。
 できれば女としてのこの偽名も投票で決めたかったくらい。

 今回もお読みいただきありがとうございます。


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