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 ある朝、狂気の科学者松戸教授の人体実験で少女メイドにされてしまったオレ。
 体内の薬品に働きかけるリングのプログラムで、一時は精神が完全に女になってしまったりしたが、なんとか男の精神に戻ってきた。
 オレの正体を知らずに一日メイドのコーチしてくれた沙紀が風呂へと誘ってきたが、なんとなく女同士での風呂は色気が……
 でも……それも悪くないかも――


(くわしくは、Maid of Fire Maid of Fire Vol2 Maid of Fire Vol3 Maid of Fire F をご覧ください)




Maid of Fire F

(Another Ending)

作:城弾







「……沙紀先輩、それじゃご一緒させていただきますぅ」

 わずか一日ですっかり身についた、舌足らずな言葉遣いでオレは沙紀についていった。
 どうせ翌朝になれば元の男に戻るのだ。女に異性とみなされない状態で、一緒に風呂に入ってみるのも一興だろう。


 脱衣所でメイド服を脱ごうとするが苦戦する。考えてみれば、『着た』のも初めてなら『脱ぐ』のも初めてだ。
 なんだこりゃ? どうやって脱ぐんだ?
 朝の時点では真彩香に着せてもらったのだが、まさか脱がせてもらうわけにもいかない。
 悪戦苦闘しながらも、どうにか脱ぐことができた。
 ブラジャーを外すと、胸のふくらみが解放されて楽になる。どんな太った男でもこういう膨らみ方はしない。まぎれもなく女の胸。
 ショーツを下ろすときも、いやでも足の付け根が見える。何もない。なんとなく指を運ぶと……そこに自分が今は『女』だと思い知らせる部分が。
「…………」
 備え付けの姿見を改めて見る。今朝女になったばかりの『作られた体』は、崩れもなかった。
 無駄毛ひとつない体……と言いたいところだが、わきの下は処理されてないので当然そのままだ。
 女が手入れしているのは知識では知っていたが、実際に腋毛が生えているのを見るのは初めてだ。
 小作りな顔。大き過ぎず小さ過ぎずの胸……いや、体格とのバランスで言うなら、やや大き目かもしれない。
 華奢なウェスト。安産型のヒップ……もうちょっと小さければ、ジーンズを履いて一日過ごせたのだが。
 気のせいか、半日でしぐさが女のそれに近くなったような。もしそうだとしたら、それはきっとスカートのせいだろう。
 あどけなさの残る少女。それが今のオレの姿だ。……くうう〜っ、自分でなければ手を出したくなるのに皮肉な話だ。
 まぁ……ある意味では完全に “オレのもの” なのだが。

「ありすーっ、まだなのぉ?」

 いけない。沙紀がじれてきた。「……はぁーい、今行きまぁす」
 オレはこの後の展開も考えずに、風呂場へと入った。





「着替えじゃなくてただ脱ぐだけに、あんなに時間が掛かるなんて……あんた随分とろいんだね」
 湯船の中から沙紀がそう言ってきた。
 ……仕方ないだろ。女物を脱ぐのは初めてなんだし。
 当たり前だが、「女同士」で無防備な沙紀がいた。湯船のヘリに両手をのせ、その上にあごを置いている。
 予想はしていたが、恥じらいのかけらもない。……まぁリラックスする場所だし。だがオレが男のままだったらこうはいくまい。“いく” としたら、恥じらいがなくなるまで何度も何度も……
 おっと、今は「女同士」。変な目で見たら『レズ』だと思われる。
「沙紀先輩、お背中流しますぅ」
 オレはごまかすためにそう言ってみた。幸い、沙紀はオレ……ありすが男だとは思ってない。
 そりゃそうだ。今は何も着てないんだから。
「……ああ、お願い」
 沙紀はまったく隠そうともせずに湯船から裸体を見せる。豊満な胸。意外にくびれたウェスト。ダイナミックなヒップ。
 性格ががさつだから、肌も手入れされてないかと思ったが……そんなことはなくきめ細やかな綺麗な肌だ。
 そういえば、家事もまったくそつなくこなすから、がさつなのは言葉遣いだけか。
 とにかく見事な裸体だった。ちきしょう、何で今のオレは女なんだ。男だったら……
「何? じっとこっちを見たりして?」
 ありゃ? じろじろ見ていたか。
「ありす……あんたまさかその気があるの?」
 答えはイエスでありノーだ。首をあわてて横に振る。
 「男」としては若い女の全裸に惹かれないわけもないが、さすがに「女同士」はごめんだった。
「なんだったら相手してあげようか?」
 今まで「女」を感じさせたことがないわけでもない沙紀だったが……このときの彼女は、男のオレには見せたことのない、小悪魔的な笑みを浮かべていた。
「い……いえいえ、結構ですぅ」
 なんとなく、今の体が警報を鳴らしているようだ……





 どうもまだメイドの気分が抜けないのか、それとも女としては精神的に「年下」モードに入っているのか……オレは何の抵抗もおぼえずに沙紀の背中を流していた。
 もっとも男のときも女を洗ってやったことがあるから、そのつもりだったのかもしれない。
「もういいよ、お疲れさん。……それじゃ交代。今度はあたしが背中を流してあげる」
「お願いしますぅ」
 前述の通り、風呂で女と身体を流し合ったこともあるので、そのつもりで背中を任せた。
 ……それがまずかった。この日二度目の命取りだった。

「綺麗な背中だね。生まれたばかりの赤ちゃんみたい……」
「はい……ありがとうございますぅ」

 沙紀はスポンジにたっぷりとボディシャンプーをしみこませ、オレの……ありすの身体を洗う。おかげで泡だらけ。よく滑る……
「おおっと。手が滑った♪」
 どう滑ったらそうなるのか、沙紀の両手がオレの胸に及んでいた。「ちょ……ちょっと……」
「はいはい。ここも意外と忘れやすいから、丁寧に洗っておこうね♪」
「じ……自分でやりますから……」
 声にならない。
 オレは女の胸を揉んだことがないわけじゃないが、自分の胸を揉まれた事はない。第一揉むほど出ていない。
 だからこの感触は初体験だったが……なんだ、これ? 沙紀の指先の柔らかさと、オレの胸の柔らかさ……そしてシャンプーの滑りが、なんともいえない感触を……
「……んっ」
 必死に声を押し殺す。出したら最後。そのまま「女」になっちゃいそうだった。
「さぁて、女の子は清潔が一番♪」
 とか言いつつ、無抵抗状態のオレの足の付け根に泡だらけの沙紀の指先が…………

 ……………………………………………………………………………………

 …………………………………………

 ……………………

 …………

 ……





「ご主人様!!」

 …………真彩香に呼びかけられて、やっとオレは我に返った。
 気がつくと、オレは足と足の間に尻を落として座る女独特の座り方で、バスルームの床にへたり込んでいた。
 何かこう……内側から浮遊感覚があり、大爆発があって…………体がジンジンする。
 なのに、すっきりした気分。……こんなの初めて。
「大丈夫ですか? ご主人様」
 心配そうに真彩香が顔を覗き込んできた。
「はは……『手込め』に、され、ちゃった……」





 オレの中で何かが壊れた。そして何かが目覚めた。
 沙紀がそのまま朝まで泊まっていくというので、オレもそれに合わせることにした。

「沙紀先輩っ♪」
「ありす
……あら、ずいぶん可愛い格好じゃない」

 真彩香の薄手のネグリジェを借りた。ピンクでフリルがたくさんついている。
「沙紀先輩、あたしもパジャマパーティーに混ぜてください♪」
 真彩香と
……ううん、真彩香さんと沙紀先輩は、眠くなるまでおしゃべりというつもりだったらしい。女同士の仲に割り込む形。
 ある意味、あたしは自分を「女」と自覚したのかもしれない。彼女たちの仲間入りをしたんだと。
 体内を駆け巡る薬の効果とリングに仕込まれたプログラムは、すでに精神の女性化から解放してくれたはずだった。
 しかし、風呂場であたしは沙紀先輩に “女にされた” 。
 今は少しでもこの体でいたい。男になんて戻りたくない。知ってしまったら
……もう……
「いいよ。あんたもお菓子食べる?」
 まったくもって女同士。先輩が後輩を可愛がる、完全に見下される格好だったがあたしはそれを素直に喜んだ。
「はい。いただきます♪」
 それからあたしと沙紀先輩、真彩香さんは、アイドルの話やファッションの話、男の子の話など、他愛もないおしゃべりで盛り上がった。
 一日スカートで過ごし今もネグリジェ。しかも精神の性別もプログラムでなく自然に女になったせいか、あたしは言葉遣いからしぐさまで違和感なく「女」だったと、後に真彩香さんが言っていた。

 そうして、あたしたちは眠くなるまでおしゃべりを続けた。









 朝日がまぶしい。
 あたしは慣れない体のせいか、簡単に目覚めた。朝日
……じゃあ、この体になってからそろそろ24時間ということ?
 意識した途端にあたし
……
いや、オレの心が男に戻る。
 そして、「婚約指輪」が熱い。

「時間切れか……」

 オレはとりあえず沙紀たちを起こさないように、そっとシャワールームへと向かった。





「あら? 旦那様、いつの間に帰ってきてたんですか?」
 沙紀がガラス越しに声をかける。危ない危ない……起きる寸前だったのか。
「ついさっきだよ」
 オレは野太い声で返答した。
 間一髪、男に戻る現場を沙紀に見られずに済んだ。あんなことした女がオレだとわかったら気まずくなる……と言うか、半殺しにされそうだ。
「また女の子と遊んでたんですか? ほどほどにしないとそのうち痛い目に遭いますよ」
 揶揄というより、ちょっと軽蔑したような口調。自分はどうなんだ? しかしまぁ、「女遊び」と思われたんなら、オレは完全に男に戻ったようだな。
「ご主人様、バスローブをここに置いておきますね」
 これまたちゃんとメイド服の真彩香が、おっとり口調で言う。助かった……あわてていたのでそのまま飛び込んじまったからな。
「沙紀さん、朝ごはんはいかがです?」
「ごめん、パス。昨日と同じ服でもう一軒に出向けないから、一度うちに帰るわ。……じゃ旦那様、また午後に」
「ああ。遅れずに来いよ」
 ……ふう。行ったか。真彩香も見送りに立ち去ったし、出るか。
 オレは姿見を見た。平たい胸。浅黒い肌。どういう理屈なのか、すね毛も復活している。もちろん男のシンボルも。
 バスローブをまとう。真彩香の奴がちゃんと片付けておいてくれたので、さっきまで着ていたネグリジェやショーツを沙紀に見られなかったようだ。
 今回は随分助けられたな……


 スーツ姿になったオレは、仕事のために玄関を出た。するとそこには、俺を女にした張本人の小夜子が。
「どうやらちゃんと男に戻ったようね。教授もお喜びになるわ」
 成果の確認か。まったく人をモルモット扱いしやがって。「で……『被験者』にそれなりに報酬は出るんだろうな」
「……あら、大会社の社長さんがお金を欲しがるの?」
「ある意味じゃそうだな……」





 それから半年がたった。オレは相変わらずビジネスの最前線にいた。
 色々と対人関係にも気を使うので、ストレスもたまっていく。
 だが、それを一気に解消する方法を知ってからというもの、逆にストレスをためるのが楽しみにすらなっていた。





 土曜日。オレは七時に自宅に帰りついた。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
 真彩香が出迎えて、オレの上着を脱がせてくれる。
「ああ、旦那様、お帰りなさい。いいタイミング……晩御飯ならもう出来てますよ」
「おう、それじゃ戴こうか」
「ところでビールはいいんですか?」
「……ああ、いらない」
 半年前と変わらぬ展開。……変わったことといえば、土曜の晩に酒を飲まなくなったこと。なぜなら――





「……ねぇねぇ、旦那様ってば新しい女でも出来たのかな? 通うために車を使うからビールも飲まないと」

 本人は声をひそめて、なおかつ洗い物の音でごまかしているつもりだろうが……その会話はキッチンから筒抜けだった。
 しかしいい推理だよ。半分だけあってるけどな。
「おう、ちょっと出てくるから沙紀はもう帰っていいぞ。真彩香も寝てていいから」
「はい、ご主人様。……また明日」
「何ぼけてんのよ真彩香? 明日はお休みでしょう、みんな。……それに、明日はまたあの娘と会う約束でしょうに」
「ふふ、そうでした」
 そんな会話を背中で聞きながら、オレはガレージへと向かった。





 あの事件の後しばらくして、オレは屋敷とは別にワンルームマンションを入手した。
 地下駐車場に車を滑らせ、所定の位置で停める。オレは鍵を手にエレベーターで上の階に上がっていく。
 そしてある一室で立ち止まる。ネームプレートには「山村ありす」の名前が。
 オレは迷わず鍵を開ける。





 その部屋の中は眩暈を覚えるほどの、パステルピンクの洪水だった。
 実用性から言えば無駄な装飾に思えるレースのカーテン。不細工なぬいぐるみ。偽装で貼ったジャリタレのポスター。
 ここは「オレ」の部屋ではない。「ありす」の部屋だ。
 オレは「ありす」とひとつになるために、すべて脱ぎ捨てる。筋肉質の引き締まった体はスポーツジムで鍛えた賜物だ。
 部屋のクローゼットを開ける。ひらひらのワンピースやブラウスがいくつも吊るされている。
 オレは空のハンガーを取り、脱いだスーツとズボンをかけた。そしてそれをクローゼットの見えない位置にしまいこむ。パンツもだ。
 それから冷蔵庫の扉を開ける。……あったあった。不気味な色の液体が。
 そう……半年前にオレを女にしたあの薬だ。
 オレはそれを手に取ると、慣れた手つきで開封して一気に飲み干す。
 そしてクローゼットにしまってあるコントローラーを操作する。

 次の瞬間、体中が熱く……なる。

 筋肉質の体は脂肪に包まれ、柔らかく白い肌に変わる。
 頭一つか二つは背が縮み、肩幅も狭くなる。
 平たい胸板は柔らかな双丘になり、男のシンボルはカタツムリの頭が引っ込むように体内に収まっていく。
 髪はさらさらと長く伸び、ウェストはしまり、ヒップは丸みを帯びて豊かに張り出していく。
「あ……あ〜、あ……声がまだかな? ……
あ〜あ〜、…………うん、OKね♪」
 帰ってきた。あたしは一週間ぶりに “女に戻った” 。
 あたしがモルモットの報酬として望んだのは、被験者の続行だった。
 しかもスポンサーになってあげると。
……もちろん松戸教授は大喜びで了承したわ。
 あたしもあの感触が忘れられなくなっちゃって
……一生「女」じゃ切り替えるのも大変だけど、休日だけ年齢も性別も別人になる。
 これは何よりのストレス解消だった。

……くちゅっ」

 ふふっ。くしゃみまでかわいらしくなっちゃったけど、はやく何か着ないと風邪ひいちゃう。
 あたしはクローゼットの引き出しを開けた。色とりどりの可愛いショーツがある。ブラジャーも。
 ここにある男物は、さっきまであたしが着てきたスーツ一式だけ。
 
……そう、ここはあたしの部屋。女の子の部屋。
 大好きなピンクがいっぱい。綺麗なレースのカーテン、可愛いぬいぐるみ、かっこいい男の子のポスター。
 慣れてきたのか「ありす」に変身すると、速攻で「女の子モード」に入っちゃうようになった。
 あたしはピンクのショーツを腰まで引っ張り上げると、薄いピンクの、フリルいっぱいのパジャマを着た。そしてベッドに入り込む。
……あっ、いっけな〜い」
 あたしは鏡台の前を確認した。ファンデーションにアイシャドウ、チークにルージュにetc。
 うん、ちゃんとメーク用具も揃ってる。これで24時間は「男」を “お休み” 。
 一晩寝て起きたら、身も心も完全に女の子。そう
……明日になれば、違う自分で沙紀さんや真彩香さんに会える。
 あたしは女同士の一日を過ごすことに軽い興奮を覚えながら、まぶたを閉じた。



 ……おやすみなさい♪








 これがもうひとつのエンディングでした。ちょっと製作にインターバルがあったせいか、「ありす」の性格が変っちゃったかな?

 投票の結果のラストでは、体は女で固定されるも心は基本的に男。それに対してこちらは体か基本的には男だけど、自分の意思で心身ともに女に。
 なんか、どっちにしても救いようのない話だったかも(笑)

 お風呂の場面は文庫さんの規定にのっとり、さらっと。何があったかは脳内補完をお願いします(笑)。

 本当はこの後で、真彩香や沙紀と女同士で過ごす一日という後日談を入れるつもりでしたが、「蛇足」に過ぎると思いカットです。
 正当エンディングでは、女子高での一日という構想も。

 次にこういう読者参加型をやるときは分岐点を三つ、はじめから八本のストーリーを作ってからやろうと思いました。行き当たりばったりのほうが大変。

 今回もお読みいただきありがとうございました。


城 弾

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