七月の下旬。
 うだるような暑さの夜だが、オレたちは冷房の効いた品川のあるラブホにいた。
 もっとも汗まみれになっていたが。
 ベッドの中で生まれたままの姿のオレともう一人。
 ウェーブのかかった亜麻色の髪の女。「こころ」が甘い声でもだえていた。
 やがてこころは絶頂に達し、オレも後から達した。

 今は二人同じ枕に頭をのせ、お互いを見つめあっている。
「もう。広海ったら、どうしてそんなに女の弱いところ知ってんの?」
 こいつの言うとおりだ。オレは自分よりこいつの快感を優先して絶頂へと導いた。
 ベッドの相性も抜群だった。

「まさか、他の女の子とこんなことしてないでしょうね?」
 経験豊富と見做されたオレは「数をこなしている」と思われたようだ。
「お前以外の女とこんなことはしてねーよ」
 うん。嘘はついてない。

「ふぅん。それじゃもし女同士でやってたらこんな感じなのかな?」
 こころの何気ない、おそらくは何も考えていない言葉にオレはぎくりとなる。
「な、なんでそう思うんだ?」
「だって女なら女の弱いところ分かるじゃない」
 道理である。そして鋭い。
「ああ。オレは男だから女の感覚は分からないよ。けど、お前のことならだいぶわかってきた」
「えっ?」
 ちなみにオレ、千田広海(せんだ ひろみ)とこいつ、佐藤こころは大学で知り合った。
 どこか男が苦手そうなこいつだが、オレにだけはなびいてくれた。
 それもオレだけがわかる理由がある。
 ある意味じゃ男100%じゃないからかな?
「いつもお前のことを見ているからわかってきたのさ」
 いうとそのまままた始めた。

 翌日。大学にて。
「今日はバイト?」
 こころが尋ねてくる。
「ああ。飲み屋のバイトも楽じゃないけどな。給料悪かったらやめるんだけどなぁ」
「ふふ。暑いから無理しないでね」
 納得して、励ましてまでくれる。
 いつもながらここではちょっと罪悪感。

 オレはアパートに帰るとシャワーを浴びた。
 そしてそのまま念じた。
 そのイメージ通りにおれの体が変わる。
 短髪は茶髪ウェービーロングに。胸は大きくなり、尻は安産体型……いけねっ。「こっち」じゃねぇやっ。
 念じなおした。
 胸はBカップ。お尻も普通に。髪は黒髪のロング。
 肌は輝き、甘い香りを放つ出す。
「よっし。これでいいわっ」
「あたし」は水滴をぬぐうとブラとショーツをつけ、化粧を始めた。

肉食人生

 渋谷駅前。
 この酷暑を混雑がよけいにひどくしているわ。
 メイクが流れちゃうじゃない。

 待ち合わせの場所に行くと……いたわ!
「ケーン。こっちぃ」
 あたしは甘ったるい声で呼びかけた。
「お前なぁ、恥ずかしいだろ。こんな人前でよ」
 金髪のロン毛。
 顔はちょっとハーフっぽい。
 背も高い。
 女になったあたしは163センチだけど、それより頭一つ大きいから180はあるかしら?
 そういえばこころも女としては高いかも。あたしが男の時は173だけど、そんなに差がない……いけないいけない。
 うっかり男の時のことを連想しちゃったわ。
 こんな恰好で男に戻ったりしたら大変だわ。

「だって逢えて嬉しいんだもんっ」
 ちょっぴりおバカ風味で甘える。
 これも生粋の女子だと「ばかばかしい」とやれないような媚び方だけど、男には有効なのは身をもって知っている。
「先週もあってるだろうがよっ」
「ええ。週に一度よ。だから逆にいつでも新鮮でしょ」
「まぁ束縛されないのはいいけどよ」

 あたしたちは渋谷の街をデートして回った。ラストは

「ああん。けぇん。もっとぉ」
 今度は女としてベッドの中であたしは組み敷かれていた。
「いいぜ。いくらでもよ」
 いわゆる細マッチョなケンがあたしを攻めたてる。
 そのたびにあたしは『女』になる。

 この能力に気が付いたのは高校生の時。
 ネット上での「あなたがもし異性だったら?』なんてアプリがきっかけ。
 なんとなく自分の女子としての姿をイメージしたら、本当になっていた。
 そりゃもう驚いた。
 ただその途端に元に戻った。

 夢かと思った。だからまた試した。
 今度はわかっていたから戻らなかった。
 どうやら女としては二通りの姿になれるようだった。
 ちなみに「イケメンになれるか?」と思って男としての姿をイメージしたが、それはなぜかダメ。
 若いイメージの女と、落ち着いた感じの2パターンの女性にだけはなれるようだ。
 便宜上「ガール」と「レディ」で区別している。
 今のはガール。

 それからというもの、一人の休みとかだとユニセクシャルな服に身を包んで外出。
 表で女子になって遊んでいた。
 ドキドキした。
 まるで違う目で世界が見えた。

 大学に進学してからこころと知り合い、体の付き合いにもなった。
 それがあまりに気持ちよさそうで「女としての快感」にも興味を持った。

 あたしは一人暮らしである程度調達できたスカートやブラウスで街を歩き、ナンパされるのを待った。
 その時ナンパしてきたのが彼。剣こと加藤剣だった。

 その時の衝撃は忘れない。
 こころがあんな表情になるはずだと理解した。
 なんて気持ちの良さなの。

 それ以来『女としてのベッドイン』にもはまった。
 剣自身もフェミニストで優しく扱ってくれたのは幸いだった。

 こころはたまに『浮気』を疑うけど、さすがにこれには考えが及ばないみたい。

 あ。でもあたしの方が気を付けないといけない。
 この能力。イマジネーションがものを言う。
 だから女の時は徹底的に女っぽく振舞って自分に暗示をかける。
 逆に言うと男の時に「女性的」になってしまうと、変身のトリガーにつながる。
 逆もあるから女の時はいくら寒くてもスカート姿でメイクもする。

「はぁー。今日も最高」
 全くの本音であたしはとろけ切った表情を見せていた。
「光栄だね。ヒロミお姫様」
「うふふ。ナイト様」
「まったく。淫乱な姫君もいたもんだ」
「あー。ひっどぉい」
「しかしお前、スケベな割には嫌がる体位があるよな。騎乗位はオレも好きじゃないがバックもだめだし」
「ごめんね。好きじゃないの」
 とっちも女の時にするわけにはいかないのよ。



 土曜になる。
 男として講義を受けたオレはそそくさとアパートに戻る。
 ちなみにこころのバイトは土曜がシフトでこの日は自動的にフリー。
 オレもバイト。

 シャワーを浴びて今度は最初から「レディ」に。
 そう名付けたとおり比較的大人びた印象だ。
 ちなみに顔自体は「ガール」と変わらない。
 化粧で印象を変えている。
 ガールの時はナチュラルに。
 レディの時は少しきつめに。

 スーツ姿になって仕上げに伊達メガネ。
 女教師スタイルという感じだけど、まさにそのまんまのバイトだった。

 文京区。
 表札に「斉藤」とあるとある一軒家のインターホンを押す。
「ごめん下さい。千田です」
 本名だが性別が違うのだ。わかるわけがない。
「広海先生! お待ちしていました」
 高校生の女の子がでむかえてくれる。
 この家の一人娘。みつばちゃん。
 三つ編みが可愛らしい女の子だ。
「うふふ。今日もお勉強頑張りましょうね」
「私」のバイト。それは家庭教師だった。

 バイトを探していた際にこれが目についた。
 かなり条件がいいが女性限定。
 そりゃ娘を持つ親ならもっともだ。
 そして私はそれをクリアでき、今はここにいる。

 彼女の部屋に二人きり。
『女教師』ということで親は安心しきって買い物に出てしまった。
「はい。本日はここまで」
 本来の授業が終わる。
「やったぁ。それじゃせんせぇー。もう一つの授業を」
 とろんとした目で言ってくる。
「はいはい。わかってますよ。それじゃ最初は」
 私は彼女の唇に自分の赤い唇を重ねた。

 家庭教師二回目で判明したのが、彼女は同性愛者だったのだ。
 同時に男嫌いで、それゆえ家庭教師の条件も女性限定だったようだ。
 私の正体知ったら腰を抜かすわね。大嫌いな男なんですもの。
 もっとも彼女と触れ合う時は必ず女。
 下着姿で乳繰り合う。
 何だろ。逆に全裸より色気を感じる。
 私のことじゃなくみつばちゃんが。

「せんせぇー。だいすきですぅ」
 恍惚としたとろんとした目で訴えてる。
「私もよ。みつばちゃん」
 いうと私は彼女の脇腹を軽くなでる。
「ひゃんっ。そ、そこだめですぅ」
「うふふふっ。ここが弱いの? それじゃ克服しないとね」
「や、優しくおねがいしますぅ」

 十分ちょっとののち。
 彼女は完全に全身でとろけていた。
 指を突っ込むというのも手ではあるが、私は意図して触るだけで彼女を逝かせた。
「せんせぇー」
 17才とは思えない色気のある声を出すみつばちゃん。
「せんせぇ。大好き。こうして自分でも気が付かない自分を教えてくれた先生。愛してますぅ」
「うふふ。いけない子ね。こういうことは男の人とするものよ」
「もう。いじわる言わないでくださいよぉ。男なんて不潔な生き物嫌いですぅ」
 そうなのだ。だからこの子を愛するには女でないといけない。
 構わないわ。私はどちらにも対応できるもの。
 そう。たとえ男同士でも。



 眠らない街なんて言われる不夜城・新宿。
「ぼく」はある人物を待っていた。
 約束の時間を一時間は過ぎている。
(まだかな?)
 さすがに焦れてきた。
 もし喫煙癖があれば足元に吸殻が山となっていただろう。

 もう三十分ほどしてからやっと待ち人が現れた。
 下手したら190はある長身。
 射抜くような視線。
 端正な顔立ち。
 やや長めの髪だが、清潔感はある。
 この暑さでもスーツをきちんと着こなしている。

「遅いよ。金剛」
 凄い名前だが苗字は鈴木と平凡だ。
「いちいちぐだぐだいうな。プロジェクトも佳境でな」
「酷いよ。ぼくより仕事が大事なんだ」
「当たり前のことを言うな」
 くっそー。どこまでも上から目線。
 実際に四つ上だけど。
 せめてもの反撃で一言いう。
「もう別れよっかな」
 その途端に彼はぼくの顎を持ち上げる。
「お前、俺なしでいられるのか?」
 そのまま強引にキスをした。
 通行人が見ているがお構いなし。
 世界は自分を中心に回っている。
 鈴木金剛という人はそういう男。

 そういうところに惚れちゃったんだけど。

 二時間後。
 ホテルのベッドで二人は生まれたままの姿だった。
 金剛は呑気に煙草を燻らせている。
 ちきしょう。こっちは毎度毎度ケツが痛いのに。

 みつばちゃんと正反対。
 金剛は男しか愛せない。
 みつばちゃんが男を敬遠しているのとは違って、金剛は女を認めていない。
 だから彼に愛されたければ、ぼくもこの姿でいるしかない。
 こうすればいいんだ。

 つまりぼくは男として金剛とホモの関係。
 女としてみつばちゃんとレズ。
 もう一つ女として剣と愛し合い、本来の性別でこころとはノーマルな関係だった。
 せっかくこんな能力を持っているんだ。
 いろいろ楽しみたい。
 ホモとしての攻めと、レズとしてのネコはまだやってないが、体が持てばやってみたい。
 でもその場合みつばちゃんがタチに回るとも思えないし、金剛が絶対やらせてくないと思うから、新しい関係になる。
 六股はさすがにきついなぁ。

 そんな「肉食」の欲望に任せた生活をしていた。



 八月のある日。品川のこころの家に招かれた。
 大学は夏休み。そしてもともと逢う日だからわかるけど、実は意外に部屋にいきなりというのは珍しかったりする。
 たいていは外で遊んでからホテルに行ってる。

「上がって待ってて」
 久しぶりに来たが何か違和感。あ、きれいすぎるんだ。
「オレのために掃除までしてくれたのかい?」
 単純にそう思った。
「あなただけじゃないわ。他にもお客様が来るの」
「?」
 なんでほかに人が?
 どうして二人だけじゃないんだ?

 お茶を飲みつつ他愛もない話で時間をつぶしているとチャイムが鳴った。
「はぁーい」
 待ち人らしい。
 誰だ?
 オレにしか見せないと思っていた笑顔で出迎えに行く。
 ちょっぴりショック。
 あんな笑顔。恋人相手じゃなきゃ親友か肉親にでも見せないだろ。

 だがその来客でオレはそれどころじゃないほど驚いた。
「紹介するわね。こちらは千田広海君。あたしの恋人」
「ヒロミ?」
 その男性は怪訝な表情をした。
 一方のオレは驚きを隠すので必死だった。
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない。同じ名前の知り合いがいてな」
 その男性はそういう。
 そりゃ同一人物とは思わないわな。性別違うし。
 それで納得したのか、こころはほど気に留めず紹介を続ける。
「そう。そしてこちらは加藤剣さん。私のお兄ちゃん」
 お前ひとりっこのはずじゃなかったのかよ?
 剣だってそういって……今はそれどころじゃない。
 何だってここに剣が?
 どうしてこころと剣が知り合いだ?
 そして何より『ばれないか』心臓がバクバクだった。
 幸い今は男の姿。
「ガール」のヒロミには考えが及ばないようだが。
 うっかり女になったりさえしなけりゃ大丈夫。

 じろじろとオレの顔を見ている剣。
 実は性別切り替わっても顔立ちは似ているんだよね。
 そりゃ元が同じだし。
 しかもなんどか「すっぴん」見られてもいるからなぁ。
 まぁ性転換にまでは考えが及ぶまい。
 冷静に。冷静に。

 しかしそのクールさも保てなくなってきた。
 二度目のチャイム。オレから勘定して三人目の来客がやはり驚かせた。
「あれ? 剣兄ちゃんも来てたの?」
 三つ編みの女の子がワンピース姿でやってきた。
「いらっしゃい。みつばちゃん。それじゃ紹介するわね」
 いうとこころは斉藤みつばちゃんをオレに紹介した。
 うん。家庭教師しているんだ。よく知っているよ。

 まずい。非常にまずい。
 女のオレと関係のある二人がここに揃ってしまうなんて。
 大丈夫。今のオレは男。別人だ。
 どうして鉢合わせなのかわからんが、何とか乗り切る。
「これでお客さんはおしまいかな?」
 希望をこめて尋ねる。
「ううん。もう一人いるけど、割と時間に遅れる人だから先にご飯にしちゃいましょうか」
 時間に遅れる?
 まさか? まさか?

 昼食をとっているといきなりドアを開ける音。
 ここの主のこころは分かっているらしい。
 この自分勝手なふるまい。まさかまさかまさか!?

「何だ広海。どうしてお前がここにいるんだ?」
「あら? 知り合いなの。金剛兄さん?
 その「まさか」がキターッッッッッッ。
 よりによって金剛がここに。
 なんで肉体関係のある四人が鉢合わせなんだよぉおぉぉぉぉっ。
 しかもより二ってこの姿。男の姿を知っているもう一人が。

「おい? これはどういうことだ。広海? お前、関係のあるのは俺だけだと言ったはずだよな?」
 はい。確かに言いました。ホモとしての関係はあなたとだけです。
 だからもうそれ以上何も言わないでぇぇぇぇっ。
「やだ。まさか男同士で?」
「お前にだけは言われくないぞ。みつば」
 ああああ。ホモとレズの戦いになっている。
 金剛は女嫌い。みつばちゃんは逆に男嫌い。そりゃ水と油というものか。
「ふんだ。わたしと先生はそんなけがらわしい関係じゃないのよ。女の子同士の清らかなお付き合いなんだからっ」
 ああああ。地雷原が二倍に。

「俺にいわせりゃどっちもどっち。やっぱ男なら相手は美女かかわいこちゃんに限る」
 『かわいこちゃん』って、昭和の生まれかよっ。剣。
「それをひぃひぃ悦びで啼かせるのがいいんだ」
 ホントスケベだよね。剣は。もっとも四つ股のオレには言われたくないだろうけど。

「わたしの先生はそんなふしだらじゃないわ。先生はとってもきれいで、先生はとっても優しくて、先生は」
 なんでそこまで先生を連呼するのよぉぉぉぉぉ。あ。いかん。
 みつばちゃんに「先生」と連呼されて条件反射的に体が。
 当人は興奮してきたのか立ち上がって力説する。
 だが勢い余ってよろける。
「きゃあっ」
 みつばちゃんはそのまま「私」に倒れ掛かる。
 あ、だめ。肉体的接触なんてしたら。
 ましてやみつばちゃんとは突っ込んでも突っ込まれてもなくて、触れ合うだけの関係。
 言い換えればそれだけでもう私を女にしてしまう。

 みつばちゃんの甘い香りと、柔肌が私をみんなの前で女に変えていく。

 そりゃみんなおどろくよね。
 特に「見知らぬ男」が自分の肉体関係の相手と知った二人はなおさら。
「せ、先生!?」
「おま……ヒロミじゃねぇか?」
 タイプは違えど同じ顔の女。
 剣にもばれた。
「どういうことなの? 広海が女の子に?」
「先生。教えてください」
「おいおい。お前は男なのか? 女なのか? ベッドじゃ確かに女だったが」
「説明しろ」
「……はい」

 正座させられ『あたし』はすべて言わされた。
 変身体質のことから、それぞれとの関係まで。

「なるほどな。どうりでバックをしたがらないわけだ。ホモの時を連想して男に戻るからか」
「謎はすべて解けた」といわんばかしの剣のドヤ顔。
「しかし呆れたものだな。四股か」
「えへ。みんな違う関係性だし。性別も違うから何とかなると思ったんだけど……ねぇ。逆に聞いていい? みんな一人っ子のはずだし苗字も違うのにどんな関係なの?」
「俺の親父には三人の妹がいてな」
「それが剣兄さんやみつばちゃん。そして私の母親なの」
「なるほど。いとこ同士か。一人っ子でも兄弟姉妹みたいな関係ということか」
 それは考えなかった。

「最後の確認だ。お前はまだ四つ股で続けるのか? もうばれたんだがな」
 う。確かに。血縁じゃ情報も筒抜けだろうし。
「俺は別にかまわんぜ。みつばとは百合だし、後は男の姿。女として抱かれているのは俺だけなんだろ。ならいいさ。『浮気は男の甲斐性』だしな」
「下らん。男の良さは男にしかわからん。広海。お前の基本は男なんだろう? なら俺が抱いてやる
「いや。私は女になれるから抱いてもらうならそっちの方が。男でだとお尻痛くて」
 痔になりかけている気がする。
「だったら先生。今まで通り私の先生でいてください。私は痛くしませんから」
 確かに何も突っ込まれないけど。
「だから非生産的でしょ。同性愛は。俺となら」
「ちょっと? 妊娠なんてしたら私戻れなくなっちゃうかも」
「……私、してたみたい」
「「「「えっ!?」」」」
 全員を凍てつかせるこころの超爆弾発言。

 あまりの衝撃で男に戻ってしまったオレ。
 そのまま話を聞くとしばらく『こない』ので医者に診てもらったら、すでに二か月だったと。
「オレの子供……なのか?」
「ええ。私はあなただけですもの」
 皮肉の意図はないと思うが四股がけのオレには突き刺さる言葉だ。
「責任をとれ」
 金剛がそんなことを言い出した。
「貴様も誇りある男なら、やったことの始末はつけろ」
 あ。なるほど。あくまで男尊女卑。
 ゆえに男のいい加減さも許さないのか。
 背を向け別れの挨拶もないまま出ていく。

「まったく。避妊し損ねるなんてドジだな。さすがに自分が孕みたくないから俺との時はちゃんとしてたが、こころ相手の時はホントに男モードだったわけか」
「け、剣」
「ま、文字通り年貢の納め時というやつだな。じゃあな」
 ベッドインした女が実は男。それも自分の妹分を孕ませりゃしらけもするか。

「先生。半分は女の人なんだからこころお姉ちゃんの気持ちわかりますよね」
 それを言われると弱い。
「幸せにしてあげてくださいっ」
 みつばちゃんは泣きながら出て行った。

 残されたのはオレたち二人だけ。
「あー……」
 気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
「何か、大変になっちゃったね」
「こころ。怒ってないのか?」
「もし私とまで別れるというなら怒るけど」
 うう。みんなに捨てられて自分の最低さを思い知らされただけに、この言葉が救いに。
「もうオレにはこころしかいない」
 そう言ってオレはそっと抱きしめた。
 絶対ばれないと思っていたのにこんな形でばれた。
 もう怖くて二度とできる気がしない。

 しばらくして、こころのお腹が目立つ前にとオレたちは結婚式を挙げた。
 学生結婚というわけだ。
 二度と女にはならないし、こころ以外の女ともかかわらない。
 固く誓ったのだが



 しばらくして、やっと新生活にも慣れたころ。
「よう。どうだい。新婚さん。充実しているかい」
「剣……また来たのか?」
 そのまま心のアパートて暮らし始めたオレたち。
 そこに2〜3日おきに剣が来る。
「冷たいなぁ。もしかしたらお前をああいう姿にしていたかもしれない男なんだぜ。俺は」
 だぁぁぁぁっ。蒸し返さないで。それもこころの前で。

 こころが台所に向かったから小声で剣は囁いてきた。
「それでよ。最近はやれてんの?」
「い、いや。あのお腹じゃ怖くて」
 こころは妊娠八か月だった。
「それならさ。俺が欲求不満解消してやるからちょっとこいよ。まだ女性服始末してないんだろ」
 暗に女になって出てこいと言っている。そして女として抱かれろと言っている。
「女の気持ちがわかれば夫婦円満になると思うがな。よくわかったぜ。お前の基本が男だからものすごく俺をわかってくれて、それで快適なベッドだったってことがな。忘れられなくてな」
 それで頻繁に来るのか。

「ダメです。それじゃこころお姉ちゃんに対する裏切りよ」
 もう一人いた。みつばちゃん。
「先生。先生が家庭教師やめたら寂しくて。課外授業をお願いします。女同士ならノーカウントですよね?」
「あのね、みつばちゃん。いつからそこまで自分の欲望に素直になっちゃったの?」

「いや。それなら男同士だろう。お前も男としてこころを守っていくのだ。お前はあくまで男としていなければならん。満たされぬ思いは俺が埋め尽くしてやる」
「なんで金剛までいるの!?」
「決まっている。お前のことを忘れられなくてな。お前を通じて『女の良さ』を知っていたらしい。道理で他の男より惹かれるはずだ」
 あ。他の男性にも手を出しているんですね。

 三人はずいと近寄ってくる。
「さぁヒロミ。俺と」
「先生。私と」
「広海。俺と」
「「「ベッドに」」」
 見事にハモった。

 もしかしたら、捕食されていたのはオレの方だったのか?
 オレは四つ股のつけに頭を抱えていた。

The END

あとがき

 性転換の葛藤がなく、異性としての姿を楽しむというのもしばし見受けられます。
 この作品ではそれのちょっと羽目を外しすぎたパターンで。

 ある人に相談したら『ホモとレズはいらないんじゃ」と言われましたが、むしろ減らしたくらいで。
 劇中にもありますが、本当は6バターン考えてました。
 けどさすがにわけわからなくなるので(笑)この四つに。

 ネーミング。
 お相手の苗字は当然ばらばらにして関連が分からないよう。なるべくありふれた苗字で。
 下の名は逆に共通性ということでトランプのスートから。
こころ…ハート。
剣…スペード
みつば…クラブ。
金剛はダイヤモンドの和名で金剛石から。

 主人公はその真ん中ということでセンターから「千田」
 男女どちらでも使える名前で「広海(ひろみ)」と。

 お読みいただきまして、ありがとうございました。

城弾

『TS短編作品専用掲示板』へ

TS館へ

『少年少女文庫』へ

トップページへ