東京。六月にしてもうかなりの暑さになっていた。
「……今っからこんな暑さでたまったもんじゃねーぞ」
 そうでなくても気の重い月曜日の朝。登校する前からオレはさらに気が重くなっていた。
「ったく。もう汗ばんできた」
 自慢じゃないがオレは汗っかき。
 それで行くと太った男と思うだろうけどそれはない。
 むしろ華奢。何しろ15歳……今日から16歳というのにいつも女に間違われる。そんなに髪は伸びてないのに。
 ひどいと学生服を着てても間違われる。
 肌が白くてまつげが長いのが理由らしい。
 父さんや爺ちゃんもあまり黒くないから遺伝だな。
 姉ちゃんや妹の香織も白い。女はそれでいいけど男のオレとしてはもうちょっとたくましさがほしい。
 腕も細いし。体毛もない。
 顔がきれいとうらやましがられるけどオレはもう少し男らしくなりたい。

 部屋の扉が軽くノックされる。当たり前だがこんな時間だ。ノックするのは家族しかない。
「開いてるよ」
 入室をOKすると扉が開いて一人の女が入ってくる。
 優しくて可愛らしい笑みは弟のオレでさえ魅了される。けど
「伊織ちゃん。お誕生日おめでとう。はい。おめでとうのキス」
「やめろって」
 本当に魅了されてたら禁断の愛一直線。
 突然入ってきてオレにキスをしようとするこの女はオレの姉。片桐早織。
 ひとつ上のこの姉は昨年入学した学校でいち早くファンを獲得した存在である。
 弟のオレから見ても女らしいし魅力的と思う。
 黒いストレートロング。166センチの身長とEカップバストはなに着てもよく似あう。
 そして何より性格がおっとりと柔らかい。
 それだけに「だまされた」連中も多い。

「ちゃんと形のあるプレゼントもあるわよ。新しいスカートをつくってあげるから」
 もうひとつ女らしいところで洋裁が趣味。服作りである。
 ただことごとく「オレの体型に合わせた女性服」と言うのが…
「姉さん。オレは男なんだよ」
 何度言ったかわからないこのセリフ。半ば諦め気味で言う。
「着てくれないの……」
 出た。必殺のうるうる攻撃。オレは若干シスコンの気があるのかこの攻撃にめっぽう弱い。
 結局はこれで押し切られて女装する羽目に。せめてもの条件が家の中限定である事。
「頼むから誕生日くらいオレを男として扱ってください」
 世の中にこんな頼み事をする男がオレ以外にいるのだろうか?
 しかしこんな願いすら一言で否決する女の声。
「えー。そんなぁ。ひどいよぉ」
 オレにはもう一人「SISTER」がいる。こちらは妹だ。
 オレのひとつ下。誕生日がくれば15になる中三だ。
 それが見事に身長が伸び悩んでいる。150前後らしい。
 幼顔と華奢な体躯。とどめに左右にたらした髪のせいで小学生に間違われるのもしょっちゅうだが、こいつはこいつで逆にそれを利用して子供料金で色々やってたりする。
「せっかく似あうデザイン考えてたのに」
 作るのは姉だがデザインは妹・香織だった。
 中学の女子と言うせいかデザインがまたやたらファンシーで恥ずかしい。
 まぁ男のオレがスカートの時点でかなり恥ずかしいんだが。

「二人ともいい加減にしてくれよ。どうしてそんなに女装させたがるんだ?」
「だって伊織ちゃん可愛いんですもの。可愛いスカートの方が似あうし」
「似あうわよ。きっと」なんて言う推測でなくて「似あう」と実績ゆえの断定が物悲しい。
 姉さんに言わせると足の形は男の方がいいんだそうな。
 そして繰り返すがオレはどう言うわけかやたら体毛が薄い。
 毛むくじゃらになりたいわけじゃないが、腕や脛と言う高校生の男ならあるのが普通なのにそれがないといくらいらないものとは言えど不安になる。
 実は女なんじゃないだろうなとかバカなことも。

「いいじゃない。男の子がスカート穿いたって。お兄ちゃん脚綺麗だし」
 シモネタ好きの妹と言う感じの声でいってくる妹。
 またそれか。男としてはそんなに喜ぶポイントじゃないんだが。
「いっそのこと全部つける? お姉ちゃんのブラ。伊織ちゃんなら使っても良いわよ」
 こちらは綺麗な柔らかい声。バンドのリードギター兼ボーカルと言う感じの声の姉。
 最近はなんだか女科学者と言うか女医と言うイメージも。
「どこの世界に弟に自分の下着を着せたがる姉がいますか」
「えー。それならあたしはパンツ貸してあげる。みんなでおそろいの服で出掛けようよ」
 妹よ。そんなことしたらお前も白い目で見られるんだぞ。

 いつもならもう少ししつこいが今回はここで引き下がった。
「まぁいいわ。そのうちね。そのうち」
「そうそう。お父さんの言うとおりならね」
 二人で顔を見合わせて笑いあう。なんか知らないがオレだけのけ者らしい。
 肉親なのにオレにだけ隠し事?
 面白くはないが女ならではの話だから外されたと思っておこう。

 しかしほんの数時間後。
 オレはこの理由を痛烈に知ることになる。


おりおん

第一話「お誕生日おめでとう」

作:城弾

 一時間目。二時間目と授業が進み三時間目は体育。
 この時間ともなるとだいぶ気温が上がってくるがまだ「じっとして手も汗をかく」とまでは行かない。
 前までの授業は空調の利いた室内だから汗っかきのオレが汗ひとつかかなかった程。
 ここで盛大に汗を流しそうだ。

「今日はミニサッカーをやるぞ。最初は男子。今日は出席番号前半が赤組。後半が白組で」
 女子も同様に分ける。それぞれ二十分ずつ。
 オレのクラスは男子16名。女子14名の30人。
 単純に男子を8人ずつに分けてのゲームだ。

 戦略も何もない。キーパー以外はただひたすらボールを追い回す展開。
 本格的にやってる面々じゃないんだからこんなもんだろ。
 こういうのけっこう好きなんだ。何も考えずにただ体動かすのは。
 何しろあの姉と妹。色々とストレスもたまる。
 それを発散すべく体を動かしひたすら汗を流して。既にかなりの汗が出ていた。
 しかし動き過ぎたのかな? 少し苦しい。
 オレは脚を止めて少し休んで……なんだ? 体がきしむ。
「お、おい。伊織? お前」
 このクラスにはもう一人「片桐」がいるのでオレは区別のために下の名前で呼ばれていた。
 正直この女みたいな名前は好きじゃないんだが…そんなことを言っている場合じゃないか。
「な、なん……!? げぼげほっ。喉がおかしい?」
 声がひっくり返ったというかやたら甲高い。まるで女の声。
 いつの間にかクラスの全員。グラウンド(サッカー好きならピッチとでも言うのかもしれないが)の男子どころか待っていたはずの女子までオレのそばに。
 ゲームなんてとっくに中断。
「なんだよ。お前ら」
 オレは全員を見渡そうとして凄まじい違和感を覚えた。
 まずは上半身にまとわりつく長い髪の毛。
「な、なんだよ。これ?」
 そして体を動かしたときに強烈な存在を痛覚で示した胸の二つのふくらみ。
「これ…まるで女の胸? ま、まさか?」
 オレは女子も見ていた前だが構わず股間に手をやった。どこを探しても
「…………ない……?」
 ない。今日まで16年間。ずっと有ったはずの男のしるしが。

 オレは気を失ったらしい。

 気がつくと涼しい保健室だった。
「気がついた?」
「……姉さん」
 普段は天然ボケの印象がある姉さんだが、こうして倒れたときに優しく微笑まれると肉親でありながらドキッとするな。
「オレはいったい?」
 どうして気絶したんだ。そう尋ねたかったが姉さんは今度は何か含む笑いをした。
「うふふふ。伊織ちゃんも大人になったのよ」
「何だよそりゃ?」
 よくみれば保険の先生もちゃんといる。だけど彼女は何かおろおろしている。
 例えるなら「現実にありえない物をみた」と言う感じで。
 その視線が俺に向けられているのが気に……あーッッッ。
「姉さん。オレ、女に……あれ? 声が」
 ちゃんと男のものだ。それに胸も平ら。
 もしかしてあれか。まだそこまで気温は高くないがそれでも熱中症になって意識もうろうとしての幻覚?
「さぁ。伊織ちゃん。教室に戻りましょ」
 やたら冷静な姉は何か包みを手にして立ち上がった。
 何か知っているのは間違いないが、こうなると暖簾に腕押し。まずしゃべらない。
 仕方ないので黙ってついて行くことにした。けど
「姉さん。オレ体操着のままだから」
 着替えたいのだが「二度手間になるわよ」と謎の理由で男子更衣室に寄らせてもらえなかった。

 教室について驚いた。
 なんで六月に暖房入れているんだ? 蒸し風呂だぞ。
 それなのにオレと姉さんが教室に入ると途端にドアを閉められた。
 まるで熱気を逃すまいと言う感じ。
 みんな暑そうにしているが何か期待している笑顔。
「なに考えてんだよ。暑いよ」
 これだと確かに制服が汗まみれになるから着替えない方がいいが、そもそもこの教室サウナの意味がわからない。
 オレは額の汗をぬぐう……なんだこの匂い。妙に甘ったるいと言うか。
 また強烈な違和感。オレは確認すべく自分の胸を叩く。痛い。
 まさに『乳首』が痛みを感じている。そしてこの弾力。
 隣でニコニコ笑っている姉さんほどじゃないが、たわわなふくらみが。
「姉さん。オレまた」
 声まで変わっている。高めのハスキーボイス。いや。ロリータボイスとでも言う感じ?
「うふふふ。お父さんの言った通りね。そして私の想像どおり。とても可愛いわよ。伊織ちゃん」
 姉さんは唐突に手鏡を差し出した。そして俺の顔を映す。
 そこには姉さんがいた。いや。髪型は同じストレートロングだが鏡の中の女は栗色。
「不思議ね。いっぺんに伸びるから黒が薄くなってしまうのかしら?」
 姉さんはずれた感想を…いや。たぶんこの現象の予備知識が有った。だから落ち着いているんだ。
「伊織ちゃんのクラスの皆さん。お分かりいただけました?」
 クラスの連中は大半が首を縦に振る。当事者のオレはちんぷんかんぷんなのに。
 そして恐らくこの場でもっとも事情を把握している存在の姉さんがその綺麗な声で言う。
「皆さん。片桐伊織は本日6月16日の16歳の誕生日をもって、体が温まると女の子になる体質になりました」
 なんだよそれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? それにどうしてそんなことを姉さんが把握している?
「だから体育で汗をかいたり、暑い日に女の子になったりすると思いますが、びっくりしないでくださいね」
 右手の人差し指を立ててにっこり。あ。ダメだ。姉さん必殺のポーズ。
 この可愛さには同性でも逆らえない。
 クラスの連中は丸め込まれた。

おめでとう! 新しい片桐いおりの誕生だよ(笑)

このイラストはOMCによって作成されました。
クリエイターの琉菜さんに感謝!

 しかしオレは未だ混乱している。そんな中で冷静な姉は包みをオレに手渡した。
「はい。お誕生日プレゼント」

 開けてみるとそれは夏用女子制服一式だった。

 自分で言うのもなんだがオレは凄い剣幕で家に帰った。
 問い詰める気まんまんだったが
「あら。伊織。お帰りなさい。はい。お誕生日おめでとう」
 母さんの暢気な調子に毒気を抜かれた。
 42歳の母親だが30前後に見える。
 でも姉さんと香織は母さんとそんなに似てない。
「待っててね。夕食はお赤飯だから」
 確かに誕生日だからお祝いでと言う意味で赤飯は理解できるけど、この場合は何か別の意味がこもってそうで嫌だ。

 そして夜になる。
 オレの右に姉さん。左に香織。これはいつものポジション。
 姉さんは冷静だったが香織は何かわくわくしている印象。
「伊織。16才おめでとう」
 家長の一声で乾杯の音頭となる。両親はビール。子供はジュースで。
「それより父さん。聞きたいんだけど」
「おう。学校で女に変わったそうだな。どうだった? やっぱり驚いたろうなぁ」
 口ひげの空手師範はいかにも楽しそうに笑う。
「知ってたのかよ?」
 もしかしてオレだけ知らされてない?
「いやぁ。苦労したぞ。特に優(まさる)が去年から変身体質になったしな。ばれないようにするのが大変だったわ」
「まさる兄も女になったのかよ!?」
 片桐優。オレの父のアニキの息子でオレよりひとつ上。
 小さなころは夏休みになると毎年交互に良く遊んでいたが元々遠くにすんでいることもあり最近は縁がなかったがそんなことに?
「優だけじゃないぞ。オレやアニキも。片桐の男は16になると通った道だ。お前も片桐の男として大人になったと言うわけだ」
「男になった証で女になるのかよ!? それはさておき、わかってたんならどうして教えてくれなかったんだ?」
「決まっている。オレやお前の爺さんと同じ驚きをお前にも味合わせたかったからだ
 頭くらくらしてきた。ただそれだけのためにこんな覚悟のいることを隠蔽していたとは。まて?
「そういえば姉さんは知ってたみたいだな」
 軽くにらむ。それを柳に風で満面の微笑で受け流す。
「優君が女の子になったときにお洋服を選んであげたり色々とお手伝いしたの」
 去年の夏休みにオヤジと姉さんだけ優兄のいる宮崎に出向いたのはそのためか。
「そのときに伊織ちゃんも16になったらこの体質になると知って」
 それじゃけっこう前から知っていたのか。もしかしてそれが理由で『慣らし』としていつも女装させていた?
「ずっとこの日を楽しみに待っていたの」
「そうだよね。お兄ちゃん女の子に生まれてきたらよかったんだよ。可愛いのに」
 香織はまだオレの女姿を見てないはずだがそれなのに「可愛い」となんでいえるんだ?
「優兄ちゃん。女の子になったら可愛かったよね。最初は戸惑っていたけど馴染んでくると女の子のファッションを楽しむようになったし」
「お前も見た事あるのか? 香織」
「お正月に内緒で遊びに来た事あるよ。お兄ちゃんにばれないように完全に女の子になってメイクもファッションもばっちりで。ただ寒い冬休みだから着膨れになって汗をかき続けていたのはつらそうだったけど」
「なんでそのとき優兄も教えてくれなかったんだ?」
「そりゃ決まっている。優も『自分だけ驚いてたまるか』と秘密厳守を約束してくれたからな」
 一族揃って…

 あらかた食い終わりケーキの段階に。
「これもついでに聞きたいけどさ」
 日が落ちるとさすがにそんなには暑くなく、また軽く冷房入れていたので汗はかかずにすんでいる。
 だから男のままでいられている。
 それを興奮して大汗かいたらまずい。いくら羞恥の…じゃなくて周知の事実でもあまり見られたくない。
「どうして片桐の男は16になるとこんな体質になるんだ?」
 この質問は予測の範疇だったらしい。父さんは落ち着いて答えた。
「うむ。古い記録を照らし合わせての推測だが」
 父さんの話だとうちの先祖は名のある殿様だったらしい。
 だけどそれだけに暗殺の危険が付きまとい。
 跡継ぎだったその男は16歳からしばらく「姫」として身分を隠していたらしい。
 しかしいくらその当時の情報伝達が未熟。そして日本人の背が低かったといえど女装はばれるリスクを抱えている。
 「ここからは推測だが」父さんはそう断りを入れて続けた。
 ばれそうになるたび冷や汗かいて、以来汗をかく状況になると遺伝子に刻み込まれたその記憶が蘇りもっと完璧な女装…それ通り越して女体化になったと言うが
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 あまりにふざけた推測にオレは思わず家具調コタツをひっくり返した。
 もっとも予測されていたらしく両親と姉妹が天板部分を持ちあげていたので料理はぶちまけなかったが。
「いくらなんでもふざけすぎだ。そんな理由で汗をかくたびに性転換してたまるか」
「おい。興奮して汗をかくと女になるぞ」
 指摘されて青くなる。確かに胸が膨らみかけている。
 それを期待のまなざしで見ている妹。将来が不安だ。
 とにかく冷静に。冷静に。よし。胸も元に戻ってきた。
「ちぇーっ。見たかったのに」
 露骨に香織は舌打ちする。
「よしよし。よく抑えた。それじゃもう一つ。どうして俺は今では変身しないと思う?」
 言われてみれば!? そんなのみてたら絶対忘れるはずがない。
「16で変身体質になるがある程度でそれは治る。だから俺は男のままだ」
 なんだって? 希望があるのか? 時期がくれば治るのか? オレは自然と熱くなる。
「それはいつだ? 優兄が夏にその体質になり、冬まではそのままだったと言うから半年は覚悟できるが」
「うむ。俺は22のときに治ったな」
 22!?
「俺のオヤジ。お前にとっての爺さんは21だったとか。アニキは23でばらばらだ」
 天国から地獄。一生ではないからいいとは思えなかった。
「つまり…高校生活をこんなふざけた体質で過ごさないといけないのか」
 オレは目の前が真っ暗になった。あまりのことに怒りすら出来ない。
「もういい。寝る」
 立ち上がるとそこから立ち去る。

 寝る前に風呂にはいる。体育もあったしパス出来ない。だが失念していた。
「し、しまったあっ」
 湯気で満たされた浴室は暑く、オレはいきなり汗をかいてしまう。
 浴室にもある大鏡の前でオレの体が変わって行く。
 身長は変わらないが全体的に華奢になる。
 肌が白くなって行くのと並行して胸が膨らみ尻が大きくなる。
 それに伴い男のシンボルが引っ込んでしまう。
 一番ワケわからないのは髪の毛。黒髪が一気に伸びて栗色のロングヘアに。
 元々女顔だったが肌の色の関係か髪の形のせいか女の顔に見える。
 よくみると女性的な球形だ。
「本当に……オレ、女なんだ」
 つぶやく声すら「手乗りタイガー」って感じの甘いハスキー。
「あそこはどうなってんだ?」
 股間に男のシンボルはない。どうなっているのか触ってみると何か筋が。
 それにうっかり触ったら全身に電流が走ったような。
「ひゃうっ」
 女の声で奇声をあげてしまった。
「な、なに? 今の感触」
 変な、それでいて嫌じゃない。でもそれにおぼれたら後戻り出来ない気がする危険な甘さ。
 オレは別のことを考えようとしたが触覚から視覚の情報に切り替わっただけだった。
 鏡に映る少女の裸身。華奢な体躯にアンバランスな胸元。
「それにしても……でかい」
 姉さんもでかいがまさかオレまでこんな胸に。
 ふと好奇心から触ってしまう。指先を軽く押し込んで見る。ほとんど抵抗せず埋まって行く。
(うわーっ。なんだこれ? マシュマロに良く例えられるがそんなもんじゃないぞ。この柔らかさ。それに…あ、なんかまただんだん変な気持ちに)
 右手は胸に。左手は自然に足の付け根に。そのタイミングを狙ったかのように声が響く。
「やっほー。いおりお姉ちゃん」
「あら。お楽しみ中だったかしら? 邪魔してごめんなさい」
「ねねねねねね姉さん!? 香織っ!? どうしてここに?」
 オレは赤い顔で声を張り上げた。
「だって見たかったんだもーん。わぁ。ほんとに女の子になってる」
 しげしげと香織はオレの裸を見る。
 現時点では女同士だがさっきまで男だったんだ。恥ずかしい。
 それにいくら姉と妹でも若い女二人のすっぽんぽんが目の毒。
 しかし姉さんは至ってマイペース。オレを男とみなしていないようだ。
……まぁ確かに女だけどさ。鏡が雄弁に物語る。
「いおりちゃん。女の子の体の洗い方わからないでしょ」
「だからあたし達で教えてあげるの。なんなら洗ってあげてもいいよ。いおりおねえちゃん」
「いおりお姉ちゃん?」
「だってお姉ちゃんが二人になったんだもん。区別しないと」
「わたしにとっては可愛い妹がもう一人増えたわね」
 二人の乱入者は顔を見合わせて「ねーッ」と微笑みあう。
 仲のいい姉妹とは思っていたけどここまでシンクロしているとは。
「オレが男の可能性もあっただろ」
「それはないはずよ。汗をかくというより毛穴が開くと女の子になるみたいですもの。それならお風呂場じゃ絶対女の子でしょ」
 くっそー。推理的中だ。
「まぁあたしは『お兄ちゃん』でもよかったけど」
 さらっと危ない発言をする中学生女子。
「ダメだ。出てけ」
 肉親とはいえど女の裸。刺激が強すぎる。
 それを知ってか知らないでか姉さんはバスタオルを巻いているとはいえど裸身のまま擦り寄ってきた。
 今は女同士だからかアプローチが変わっている。
「そんなこといわないで。さっきやりかけていたことのアドバイスもしてあげる」
 天使の声で悪魔のささやき。ばれてる?
 オレは青ざめていたのか赤面していたのか?
「ああああ、うう」
 言葉が詰まる。姉さんはくすっと笑う。
「かわいい」
 出た。女特有のこの感覚。
「からかってごめんなさい。でも女の子だってエッチな気持ちになるのよ」
 そりゃあ…そうでないと妊娠している女性は全て合意の結果だろうし。
 合意と言うことは女の方だってエッチな気持ちになるわけで。
「そーそー。お兄ちゃんでお姉ちゃんなんだからなおさらでしょ」
 香織が言いたいのは男ならなおさら女の体に興味があるだろうと言うことか。
「そうだ。いつかいおりちゃんが女の子とエッチする時のために、わたしが練習相手になってあげましょうか? 男の子のいおりちゃん相手だとさすがに無理だけど女の子なら問題ないし」
 大問題です。だいたい肉親には違いないでしょう。
「それとも…お姉ちゃんとじゃイヤ? わたしってそんなに魅力ない?」
 オレは首を横に振った。
「そんなことない。姉さんは綺麗で可愛くてとても魅力的だ」
 女になったせいなのか。男じゃ言えないような言葉が口をついて出てくる。
「ありがとう。いおりちゃんも可愛いわよ」
「あー。あたしは。あたしは」
 香織がオレに抱きついて甘えてくる。
 いいのか? オレちょっと前まで男だったんだぞ。
 それにしても両方女だと肌のきめ細かさが互いに吸い付きあう感じで。
 なんだかおかしな気分に。
 まぁオレは本来男なんだから裸の女の子に密着されりゃ変な気にもなるが。
「香織もだよ」
 さすがに実の妹じゃ変な気も長続きしない。オレは優しく香織の頭をなでてやる。子供扱いと怒るかと思ったが意外にも笑顔だ。
「さぁ。それじゃ体洗っちゃいましょ」
 結局ムードに流された姉と妹と共に入浴と言うことに。
 こんなの小さなころ以来だ。
 違うのは二人の胸が立派に膨らんだこと。
 そしてオレのも見事に膨らんでること。とほほ。
 でもこれから風呂に入るときは必ず女。
 女の裸に慣れないと精神的に持たないな。

 女の長風呂につきあわされてのぼせる寸前。だいぶふらふらしつつ風呂を出る。
 だが着替えの下着を手にしていきなり覚醒した。
「って、これどっちの?」
 ショーツだった。サイズからみて姉さんか?
「あなたのよ。いおりちゃん」
 え? そう言えば新品。
「女の子になったんだもん。下着だって女物じゃないと」
 理屈はあっているがこれを簡単に穿くにはあまりにも女としての歴史がなさすぎる。
「男でしょ。ぐずぐずしない」
 妹にこういわれては黙ってられない。オレは男らしく女物に足を…あれ?
 どうしよう。つい乗せられて膝まで通しちまった。これをこのまま引き上げたら変態の仲間入り。
 皮肉なもので脂汗がだらだらと。脂汗でも女の子のままなんだ。冷や汗もか?
 迷いまくっているといきなり胸に変な感触が。
「ひゃっ」
 下もだったが上もなんだ? この感触。
 オレの胸を触っているのは背中越しの姉さんか?
「84くらいかしら。 アンダーから見てDかしらね」
 謎の言葉をつぶやいていた。
 それに意識が向いた瞬間に妹がパンツを上まで引き上げる。
「うわっ?」
「はい。しゅーりょー。一度はいたからもうそのパンツはいおりおねえちゃんのだよ」
 うう。何と言う連係プレーだ。
 それにしてもこの感触。ぴったり張り付いて隙間がまったくないのってなんか変な感触。
「はい。いおりちゃん。これも」
 ブラジャーかと身構えたが後は寝るだけ。それはなかった。
 代わりに差し出されたのは……

「……涼しい」
 まだ風呂上りで体が火照るがこの肩を大きく出したサマードレスがとても涼しくてちょうどいい。
 これ楽でいいなぁ。一生着ることないと思っていたけどな。
 縁側で涼んでいた。かなり長風呂だったからかまだ汗が引っ込まないや。
「いおりちゃん。よく似あうわよ」
 姉さんが横に座る。
「いえーい。美人三姉妹」
 自分で自分を美人なんていうなよ。香織。
 風呂上りだからかツインテールじゃなくて下ろしてある。
 そのせいか本当によく似た三人だった。しかも着ている物まで一緒。
「これもプレゼント。あたしがデザインして」「わたしが作ったの。これならたいていは着られるから。今度はちゃんとサイズはかってぴっちりしたものも作ってあげるわね」
「しなくていいです」
 なんかのぼせているらしくまともに頭が働かない。
 けだるくしゃべり続けていたら少しずつ頭がはっきりと。
 違う。冷えてきたんだ。と、いうことは…
 下を見る。ドレスからのぞいていた谷間が消えてまったいらな胸。
 頭を触るとロングヘアが元の長さに。
 そしてやたらきつきつな股間。いくら伸縮性があってもそれを収めるのは想定外だろうからなァ。前がきつくもなるか。
 要するにオレは汗が引いて男に戻っていた。つまり女装状態。
 まずい。そう思ったのは杞憂だった。
「思った通りだわ。このドレス。女の子のときより男の子の時の方が可愛いかも」
「ほんとう。ね。お兄ちゃん。しばらく女の子の服を普段着にしたら? いつ変身しても大丈夫なように」
「名案よ。香織ちゃん。お洋服なら姉さんがたくさん作ってあるから大丈夫だし。そうしたら?」
 左右からとんでもないことを言われてオレはさすがにきれた。
「だーっ。そんなこと出来るかよ」

 治りはするらしい。けど高校生活をこんな体質で過ごすのか?
 体育の時間。そして暑い日なんかはどうすんだよ?

 オレの高校生活。どうなっちまうんだ?



おりおん

〜いおりくんはあせをかくとおんなのこ〜

第一話「お誕生日おめでとう」
おしまい

第二話「がんばって負けないで」に続く


 不朽の名作「らんま1/2」
 その基本設定は「水を被ると女になり、お湯を被ると男に戻る」と言うものでした。
 そして本作はそれをひっくり返してみました。
 ただ日常でトラブルでお湯を被るケースはほとんどないので
お湯を被る→体が温まる→汗をかく→毛穴が開くと展開して現在の設定に。

 今回は伏線らしい伏線ははってません。
 まずは設定があるだけ。先の展開なんかも考えてません。
 とりあえず明言をさけたのは「必ず戻れる」とはかきませんでした。
 場合によっては死ぬまで女で固定されてしまった前例を出すかもしれないので。
 まぁたぶんそれだと一線を超えたとかだからほとんど精神的にも女性化しているかな?

 今回はとりあえず(笑)精神女性化はしてません。
 ただお風呂のたびに少女の裸体。
 体育もまず女子側で受けると思うし。
 女性のヌードには耐性がついてしまいそうですね。

 主人公。片桐伊織。例によって漢字表記は男でひらがなは女です。
 伊織と言う名前はこの体質が代々続いていたので女性のときに呼ぶのに困らないように最初からどちらでも使える名前にしたと言う設定で。
 そう言うのはけっこう僕のキャラにはいますが使ってない名前で。
(厳密には「GTB」という女の子が男の子になる作品の主人公の父の名で使ってます。これまた女性化経験がある設定ですが本作とは無関係)
「伊織」とした時点で「THE iDOLM@STER」の水瀬伊織を連想して。
 そのCVの釘宮理恵さんが他に演じたキャラ。「あかね色に染まる坂」の片桐優姫から苗字を拝借。
 それもありいおりの声は釘宮さんです。

 姉。早織と妹。香織は「○おり」で揃えたくて。
「しおり」だと「PLS」の詩穂理と近いのでさけた結果です。
 早織なのは少年少女文庫さんへの投稿を前提としているので「沙織」だと「ロボTRY」シリーズの主人公と被るので字面を変更。
 イメージCVは豊崎愛生さん。
 役回りとしては学校でのサポート役。女性服の提供者。
 妹。香織は似たところで。もしシリーズが続いて劇中で進級したら上下をはさまれてますます逃げようのなくなるいおりくんで(笑)
 イメージCVは下田麻美さん。一個下の妹でツインテールと言う時点でもう(笑)
 でもシモネタはいいません(笑)

 この設定の関係で幼馴染のガールフレンドとかいう鉄板設定は出ませんが。
 ライブ感覚で進めるのでいきなり出てくるかもしれません(笑)

 もともとこの先もかいて一話とするつもりでしたが情報量が多くなったのも有り、そして風呂場の場面が山場になったのでここで一度発表。
 後半部分としている学校の話は次で。

 今回のサブタイトルは声優。井上喜久子さんの楽曲から。

 お楽しみいただけると幸いです。

 お読みいただきありがとうございました。

城弾

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