PanicPanic
あどりぶ劇場

その1 「慣れてますから」

 これは瑞樹と七瀬が大学生のころ。
 さすがに二十歳を超えた七瀬は化粧をするようになるのだが、女性的な印象と裏腹にあまり化粧が好きではなく、そのため瑞樹とのデートのときはいつも手間取る。
「うーん。うまくきまらないなぁ」
 などと悩んでいたら虹子が瑞樹を家に上げてしまった。
「きゃっ。何で部屋にまで来るのよ」
「あんまり遅いから迎えに来たんだよ。メイクで苦労してんのか? それならなぁ」
 物凄く手際よく七瀬の顔にメイクを施す瑞樹。
 鏡で自分の顔を見て驚く七瀬。
「すっごぉーい。美人になってる。でもどうして男のあなたがこんなにメイクが上手なの?」
「はは。そりゃあバイト兼稼業の手伝いで毎日ウェイトレスをしてるんだぜ。メイクにも手馴れてしまうよな…」
 デート前とは思えないほど落ち込む瑞樹であった。

その2 『なりきりすぎ』

 2年の秋。みずきが生涯で一番「女の子」になっていた時期である。
 それも正気の状態でである。
 この日も秋物ファッション。シックなスカート姿で七瀬に付き合って買い物である。
「ごめんね。つき合わせちゃって」
「いいのよ。あたしも欲しいものがあったし」
 仲良くドラッグストアである。
「えーと…あったあった」
 お気に入りのシャンプーである。
「七瀬それ使ってんだぁ。それもいい香りよね。でもこれもいいのよ」
 別のシャンプーのボトルをかごに入れるみずき。
「それって…女性用よ?」
「そうだけど?」
「う…ううん。いいの(まぁ学校じゃ女子で通す約束だからシャンプーが女物でも仕方ないか)

「えーと…次は、あったあった。秋の新色」
「ちょ…ちょっとみずき。それ口紅よ」
「うん。そろそろ新しい色が出たかなと思って」
「…………(家でウエイトレスしているからお化粧もいるのね……)」
 さすがに付き合いが長い。理解も早い。
「それからこれも」
「待ちなさい! さすがにそれはいらないでしょ!」
 みずきの手から「生理用品」をむしりとって元に戻す七瀬であった。

その3 『改変期』

 上条は走る。沈む夕日に向かって走る。
 土手をひたすら走る。
 そして誰もいないところで太陽に向かって吠えた。
「うおおおおおーーーーーーっ。何だあの最終回はーっっっっっ」
 アニメで気に入らないラストがあったらしい。

その4 『封印』

 上条は綾那の猛アタックを受け入れて恋人となった。
 そしてちょっとオタクの心で尋ねてしまった。
「なぁ。綾那。色々な髪型にするけどツインテール……二つお下げにしないの? 顔がおさな……可愛いから似合いそうだけど」
「うーん。ボクも好きなんだけど、中学の時にそれにしたら何故かいろんな男の人に迫られて。大変だからお下げにしたんだ」
「……気持ちはわかるよ(迫った奴らの)」
 確かに小柄で幼い顔立ち。しかもつり目の綾那がツインテールにした上でロリータ服に身を包んでいたらオタク男性にはたまらないだろう。

 もしかしたらツインテールでアピールしていたら上条はもっと早く恋人になっていたかも?

その5 『お嬢さんを僕にください』

 これは榊原が真理の妊娠を知ったころの話。
 筋を通すべく父親である村上達也と対面した。
「…………」
 無言の達也。ひたすらにらみつけている。立場の弱い榊原は正視できない。
「パパ」
 真理の異母妹。絵梨香が助け舟を出す。仕方なく口を開く達也。
「榊原君…順番が違うんじゃないかね?」
「いや…あの…仰る通りで」
 平身低頭の榊原。そこに今度はもう一人の当事者。真理が口を挟む。
「なーに言ってんだか。オヤジだって母さんと結婚する前にアタイをさ」
 ぎくっ。形勢逆転。痛いところをつかれた。
 気まずい空気が流れる。
「こほん」
 わざとらしい咳払い。「空気を変えるぞ」と宣言している。
 達也はぎこちない笑顔を浮かべていう。
「榊原君…これは仕方のないことだよな。何しろ天からの授かりもの。むしろ喜ばしいことだろう」
「まぁ。パパッたら」
 朗らかに絵梨佳が言うと笑いに包まれる。

 歴史は繰り返す。
「似たもの同士」で意気投合した達也と榊原。
 苦笑ものではあったが和気藹々とした家庭を予感した真理であった。

その6「スクリュードライバー誕生秘話」

 地面に仕込んだ見えない茨のツタ。ターゲットが触れた瞬間に引き上げ、その首を釣り上げてしまう。
「スクリュードライバー!」
「ぐえっ」
 大ダメージを負わせたところで決着は付いた。
「カズ。そっちは?」
「片付いた」
 二人は襲撃されていたのだ。それを返り討ちにしてほっとした。
「そう言えば前から思っていたんだが、お前の今の技の名前。何でスクリュードライバーなんだ?」
「スクリュードライバーってカクテルを知っているか?」
「まぁ……そのくらいはな」
 下戸の榊原は博識な彼には珍しく酒に関する知識は乏しい。
「名前の由来はさ、シェイクするときにねじ回しを代用にしたからなんだって」
「……つまり……ロープ代わりにマリオネットを使ったから似たような由来のその名前か……」
 昔から豪快な奴だったんだな。榊原は認識を新たにした。

その7「義を見てせざるは勇なきなり」

 ある日のこと。ちょっとした理由で町を歩いていた十郎太。その後ろから
「誰か捕まえて」
 老婆がバッグをスクーターに乗った男二人にひったくられた。
 だが十郎太は走るスクーターに二本の足で追いついてバッグを奪い返した。
「あああ。ありがとうございます。ありがとうございます」
 拝むように礼を言う老婆。
「よからぬ輩もおりますゆえ、お気をつけるとよいでしょう」
 静かに言うと彼は雑踏の中に消える。

「テメエ。人にぶつかっといて挨拶なしか」
「そ…そんなこと言ってもそっちのほうから」
 三人の不良が小柄な男子学生に絡んでいた。
「ふう…」
 わざとらしく十郎太はため息をつく。
「何だてめぇ?」
 それに気が付いた不良たち。
「もうそのくらいでよかろう」
「うるせえ。てめえからくたばるか」
 三人は襲い掛かるが一分で返り討ち。
「あ…ありがとうございます。ありがとうございます」
「災難だったな」
 それだけ言うと再び雑踏の中に。

「う……」
 金髪碧眼の少女が地図を見ながら辺りを見回している。道がわからないらしい。
 チューブトップと短パン。かなりの露出の上に胸も大きい。
 彼女は十郎太に気がつくと安堵したように救いを求める。
「Excuse Me」
「あ…あいきゃんとすぴいくえんぐれっし」
 逃げ出す十郎太。さすがの彼も言葉の壁はだめであった。

その8「お着替えタイム」

 授業中。教師が時計を確認した。ついでに時間割を。
「もうこんな時間か。北条。次は体育だな。着替えに行きなさい」
「はい先生。それでは失礼いたします」

 もたもたもたもたもたもた

 体育の開始時間。
「遅れて申し訳ありません」
 女子が更衣室に来たときには着替え始めていた姫子。それがやっと体育に間に合った。
 一人の女子が毒づく。
「信じられない着替えのとろさよね」

 体育終了間際。
「よし。北条は先に着替えに行くように」
「はい先生。それでは失礼いたします」

 もたもたもたもたもたもた。

「遅くなりました」
 誰も怒らない。着替えが入った時点でこれは予測されていた。

 そんなわけで仲良しの少女たちが服を買いに行くときは、彼女はいつも見ているだけ。

その9 「わたくしよりも」

 二年になってから。ばらしたもののむしろ強制的に女子扱いになったみずき。
 すっかり女の子としての生活が身についていた。
 この日も学校帰りに姫子。綾那。真理を自室に招きいれた。
「来たわよ」
 隣の家に住む七瀬が着替えてやってきた。春先でジャンバースカートとセーターと言う姿である。
 みずきの方もブラウスとプリーツスカート。それを見て真理が言う。
「そういや姫のスカート姿って制服でしか見たことないな。男が私服にしているくらいなのにな」
 項垂れるみずき。春休み以降スカート姿がプライベートでも増えた。
「うん。いつも着物だもんね」
「そうね。手伝ってあげるからはいてみない? みずき。貸してくれる」
「いいわよ」
 姫子の返事も聞かずにテンポよく進める。そしてみずきはずらりと所有しているスカートを並べる。
「うわぁ。このスカート可愛い」
「しかしまぁ…ジャンスカに巻きスカート。デニムのミニに普通にロング。お前、そこらの女より衣装持ちじゃない?」
「そうですわね。(私服は和服の)わたくしよりスカートをお持ちですわ」
「……言わないで。時々自分が男でいること忘れそうなんだから…」
 落ち込むみずきと苦笑する七瀬であった。

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