第2話「Get Wild」Part2

 体育に備えてそれぞれの更衣室へ。
 ここ蒼空高校は理由は不明だが男女別には分けない。
 ただ男子には体力の低い女子へのいたわりの心を持って欲しいという願いもあるとか。

 その男子更衣室。さすがに男だけに大雑把に着替えていく。
「おおーっ」
 思わず感嘆の声が上がる大地大樹の肉体。
 一流の格闘家のように無駄な肉がなく、さらには筋肉で固められていた。
「すげぇな。お前。これだけあると相撲やプロレスからスカウトされるんじゃ」
「ああ」
 否定しない。どうやら本当にあるらしい。

 筋肉は大してないが引き締まった肉体が火野恭兵。壁に設置された大鏡に自分の裸身を映している。
「……美しい……これなら女子も充分に満足してくれるだろう」
 ツッコミどころ満載だったが、実際に肉体も顔も美しいため反論のできない男子たちだった。

「はぁ…はぁ…」
 頬を紅潮させて荒い息の水木優介。
 他の男子からしてみたら男子更衣室などむさくるしいだけで長居したくない空間だが
「ホモ」という彼にとっては楽園。桃源郷のようだ。
「やだもう。みんな裸でぼく恥ずかしいよ」
 赤い顔を両手で覆ってしまう。
 どうやら「目のやり場に困る」らしい。
 反対に青くなる男子たち。リアルな「ホモ」少年に怯えすら。

 そんな中でも平然としているのが風見裕生。
「やべっ。すっかり遅くなったぜ。先生に怒鳴られるぜっ」
 あわててブレザーを脱ぐが慌てたためか手を滑らせて落としてしまう。
 ゴトッ。
 そんな重そうな落下音が。
「なんだぁ? これ上着…うわっ? 重てぇっ」
 すぐそばにいたため拾おうとしたマン研所属の野口が驚く。
「ああ。両方の袖口に一キロの重りが入っているからな。ズボンの裾にもな」
「……なんでそんなもんを?」
 当然の疑問だ。
「言っただろ。オレはスーツアクター希望だって。実際のスーツはこの程度じゃすまないぞ」
 設定にもよるがヒーローのスーツ…着ぐるみとなるとぴたっとフィットしたものが多い。
「強化服を着ている」と言う設定ならいいが「本人が変身している」となると極力「変身前」との差を縮めたい。
 それだけ隙間が少なくなる。
 だから拘束されたような状態になるのだ。つまり動きづらい。
 裕生は実際にスーツを着て苦労しないように、普段から重石をつけて生活していた。
 「ホモ」の優介相手ほどではないが若干引き気味の男子たちだった。

 女子更衣室。男子とは比較にならないくらい「容姿」がものを言う女子では、ここで見せる裸体がかなりの重要度を持っていた。
「まりあちゃん。可愛いーっ」
 甲高い声で美鈴が叫ぶ。
「そう? ありがとう。これスポーツブラでそっけないんだけどね」
(それのどこが?)
 心中で突っ込む女子たち。
 確かに形状はスポーツブラのようだが、いたるところにレースやフリルが盛り込まれている。
 本来のスポーツブラはもう少し実用性重視なのを考えるとどうやらオーダーメイドらしい。
「美鈴さんも可愛いわよ」
「やだ。恥ずかしい」
 こちらは胸元が少々寂しい。体そのものが小さいし、顔立ちも高校二年生としてはかなり幼い。
 声も甲高い。まだ中学生で…ヘタしたら小学生でも通用する。
 ブラジャーもAカップ。成人女性でもいないことはないのではあるが、やはり年頃の少女としては悩みの種だ。
 あまり大きくないためか揺れを考えてないらしく、普通の装飾の華麗なブラジャーを着けている。
「でも体動かす時はスポーツブラの方がいいよ。あたしなんかそっちしかないし」
 ブラウスをたたみながらなぎさが言う。下着は上下共にそっけないデザインだ。
「綾瀬さん。あなたいつもそんな下着を?」
 思わずまりあが言ってしまう。彼女の趣味とは正反対なのもあるだろう。
「この方が楽だしね」
 当然のように言い放つなぎさ。
「そうかもしれませんが女の子なんだから」
「なんで? 男の子に見られるわけじゃないし」
「だったら男の子とデートする時は違うのにするんですか?」
 揚げ足取りになっていたまりあの言葉だが、意外な反応でなぎさは赤くなる。
「キョ……」
 おもわず思い人の名前が出掛かる。そして話の流れから下着姿で彼にしな垂れかかる、普段からは想像すら出来ないほど色っぽい表情の自分をイメージしてしまった。
「や…やだもう。そんな。恥ずかしいっ」
 笑顔…と言うかにやけた状態の赤面でぶんぶんと手を振り回す。照れているらしいが当たると危険。
 思わずあとずさるまりあは他の女子の背中に当たってしまう。
「きゃっ」
 可愛らしい声で悲鳴が上がる。ロングヘアの娘。
「あっ。ごめんなさい…委員長。まだ着替えてなかったの?」
 ぶつかった相手は詩穂理だった。
 のろのろしていたのは確かだがちゃんとみんなと同じくらいには更衣室に入っていた。
 それが未だにブラウスをつけたまま。
「早くしないと遅れるわよ」
「は…ハイ」
 せかされて慌ててブラウスを脱ぐ。全員の注目を浴びたのが胸元のサラシ。
「お祭りみたいね」
「これにはワケがあるんです」
 でも言いたくない詩穂理。
 だがそのサラシが緩んできた。どうやらぶつかった拍子で外れたらしい。
「わわっ」
 慌ててさらしを押さえようとする詩穂理だが、慌てた為かメガネまで落としてしまう。
 結局サラシは総て落ちてしまう。
「なにやってんの? ほら。メガネ……」
「あ、ありがとうございます。綾瀬さん」
 礼を言う詩穂理だがなぎさの反応がない。硬直している。
 なぎさだけではない。まりあも、美鈴も、他の女子も硬直している。
 ことここで詩穂理は気がついた。
 女子相手といえど自分が裸の胸と素顔をさらしていると。

「きゃーっっっっっ」
 優等生の悲鳴がこだまする。

 グラウンドに集合。体育教師の源田が既に待っていた。
「よーし。D組は今年(今年度)初めてだな。ん? どうした女子。なんかぎこちないが」
「い…いいえ。何でもありませんわ。をほほほほ」
 声が裏返っているまりあ。
「そうか? 何かあったんじゃないのか? 槙原」
 クラス委員である彼女に尋ねる体育教師。
「いえ。別に何も」
 閥の悪そうな、若干赤い頬で言う詩穂理。
「それより先生。早くしよう」
 体育が好きで急かしている…というより何か避けているような様子のなぎさ。
 心なしポニーテールの揺れ方まで違和感が。
「まぁいい。確かに時間がなくなる。今日はとりあえずレクリエーションとしてソフトボールをやる。休み休みと言う形だな。ただし全員一打席は立たせる。全員参加だ」
 そのため変則ルールで打者一巡したらたとえワンアウトもなくても攻守交替となっている。

 赤組白組に分かれる。男女混成のため男子と女子。それぞれでくじを引きチーム構成を決める。
 その結果……詩穂理。裕生。優介。まりあは赤組。なぎさ。恭兵。大樹。美鈴は白組であった。
 さらに赤組が後攻に。つまり一回の表は守りにつく。そうなると先発メンバーが問題になる。
 実はいじめにならないように先発出場もくじで同時に決められていた。
 2−D36名。単純に二つに分けたので両方18名ずつ。
「提案ですが私が一番と言うのはどうでしょう?」
 くじ引きで先発メンバーになってしまった詩穂理の提案に「はァ?」と言う表情の一同。
 体育は確かに初めてだが、登校風景を見ていると運動神経の鈍さは相当なものと。
「源田先生は最低一打席は打たせるといってますから。それなら最初に出てしまいすぐに交代してしまえば私の守備でリスクを冒さなくていいと思いますが」
「まぁ…本人がそういうなら」
 それにしても普通そんなことを他者にやられたらひどく落ち込みそうだが。
 自分から提案するほどスポーツには自信がないらしい。
 念を入れてポジションも打球の飛んでこないライトになった。

 守備に散る段階で困ってしまった。左利き用のグラブがない。
「シホ」
 ぽんと投げてよこす裕生。
「あ…ありがとう。風見君。でも風見君は大丈夫?」
 裕生は元からの左利きだ。
「平気平気。大リーグには隻腕の投手がいるんだぜ。それに比べたら」
 爽やかに外野へと走っていく。
「アイツいい奴だね。馬鹿だけど」
 なぎさの言葉は辛らつだが的確だった。

 プレイポールが掛かる。白組一番は美鈴。右打席。明らかに背の低さでの出塁狙いだ。既に代走要員が控えている。クジに外れたらしいなぎさが屈伸運動をしている。
 どうやらこちらも詩穂理と同じ扱いのようだ。
「手加減はしませんよ。美鈴さん」
 赤組のマウンドはまりあ。なぎさには負けるが体育も万能である。
「はわわわ。お手柔らかにね。まりあちゃん」
 グリップエンドを拳二つ分余らせるほどに短くバットを持った美鈴が言う。ヘルメットがぶかぶかだ。

 カウントノースリー。美鈴の背のなさにストライクが入らない。カウントを整えようとした球が甘く入った。
「えーいっ」
 渾身の力で打つが悲しいほど非力。ふらふらと打球はライトへ。
(ええーッ? みんな引っ張るからこっちには飛んでこないはずなのに)
 パニックを起こす詩穂理。右往左往。だが
「あーらよっと」
 センターから裕生が飛んできた。なんと余裕でランニングキャッチ。
 そのプレイに拍手が起きる。
「あ…ありがとう」
「ああ。安心してていいぜ。ライトの打球はみんなオレがさばいてやるから。何しろお前とことん鈍いからな」
「……」
 礼を言って損した気分の詩穂理であった。
「風見君。はやく戻ってきてよ。ぼくさみしい」
 レフトで怪しい寝言の優介。それを聞いて眉間に皺を寄せるまりあだった。

 後続はいずれも内野ゴロ。チェンジ。
 赤組の攻撃だ。既に詩穂理の代りに守備につくべく左右田亜美がキャッチボールをしていた。
 それなら代走の準備をするのが筋であろうが、出塁はないとみなされているらしい。

 白組のマウンドは火野恭兵。美鈴は既になぎさと交代している。そしてなぎさはショートの守備位置に。
 予定通り赤組トップは詩穂理。ヘルメットを目深に被り左打席に入る。
「委員長。バットの持ち方、それでいいのかな?」
 恭兵の指摘で慌ててグリップを見ると左打席なのに右の拳が上にきていた。つまりあべこべ。
「きゃっ。やだっ」
 笑い…が起きない。
 上半分はめがねと前髪でわかりにくいがそれでも下半分の表情がかわいらしかった。
 慌てた声もいつものとんがった調子とは違い、戸惑ったのだ。
「さぁ。早く三球投げなさい」
 言葉だけは攻撃的だが、三球で終わる。つまり三振を予告しているようなものである。
 運動に関しては何も反論できないほどダメだった。

 マウンド上の恭兵は女好きである。そして今は女子の注目を浴びていた。
(よし。三者連続三振でスポーツ面でもアピールだ)
 格好をつけにかかった。力が入りコントロールが乱れた。慣れない下手投げというのも災いしてコントロールがままならない。
 すっぽ抜け気味のボールはスピードこそないが顔の近くへと飛んでいく。
「きゃあっ」
 他のものなら大げさに身を引く程度だが、詩穂理はそのままバランスを崩して転倒してしまった。
「ごめん。委員長。大丈夫か」
 慌ててマウンドを駆け下りる恭兵。それよりも早く裕生が駆けつけた。そして
「どこに投げてんだこの野郎。シホは鈍いんだぞ。避け損なって顔にでも当てたらどうする気だ」
 恭兵の胸倉をつかむ。
「わ…悪かったが君に謝る理由はないぞ」
 さすがにこれは正論。いつのまにかクラスメイトが「二人の乱闘」のギャラリーに。
「だったらシホに謝れ」
「だから今そうするつもりだったって」
 ここでやっと一同は集まった意味を思い出す。そして昏倒している少女を見て
「誰? これ?」となった。
 転倒した際にヘルメットが吹っ飛んだようだ。そしてその弾みでメガネが外れて、前髪をカチューシャのように押し上げている。
 前年の1−D女子以外は初めてに近い詩穂理の素顔。
 それはとても色が白く、切れ長の目は長いまつげで飾られ、細い眉が優しそうな印象を与えていた。
 しかも二重瞼。瞼が薄いためまるでアイシャドウを施しているかのようだ。
 色白ゆえに頬と唇の赤みが目立ち、化粧しているようにすら思える。
 そして顔以上にインパクトのあったのは首から下。
 いつもは胸から下は膨らんで見えたが、今は足元ではなく背中のほうに衣類が「落ちている」。
 浮き上がるウエストは美鈴と比べてもいい勝負の細さ。
 そして胸は全員が同じ感想を持った。

「で…でけぇーッッッ」

「さすがFカップよねぇ」
 詩穂理とは一年のときに同じクラスだった永居百合香が言う。
「Fうぅ?」
 過敏に反応したのはさすがに男子。
「そうなのよ。このコってば一年のときもこうして隠そうとして。あれ。あの時は中三がEだったのにFになったって言ったっけ」
「言ってた言ってた。もしかして今はGだったりして」
「G!?」
 女子はブラジャーは必需品ゆえにGカップの想像はなんとなく出来なくはないが、男子としては想像すら出来ない。
 とにかくとてつもなくでかいという認識だけ。
「知らなかったぜ。委員長があんな堅い振りしてこんなエッチなボディだったなんて」
「美鈴たちもびっくりですぅ」
「ほんと。あんなにでかい乳はさすがに初めてだよ」
 ちなみになぎさはCカップ。貧乳とは間違っても言われないが、さすがにたじろいだらしい。
「あの…みなさん。それより介抱しなくてよろしいんですか?」
 意外にもお嬢様であるまりあから他者を気遣う発言だった。
「あー。よけたんなら平気と思うぜ。当たってねーし。ちょっと目を回しただけだろ」
 怒りの形相を見せていた裕生だがチェックの結果ケガがないとわかったので愛想良くなる。

「それにしても槙原。色っぽいな」
 委員長と役職で呼ばれていたのに素顔とプロポーションがばれた途端に名前で呼ぶ江藤新太郎。
「そうなんだよな。この色っぽさ。どこかで見たことが」
 浅倉光太郎も考え出す。そして
「あっ。わかった。どこかで見た顔だと思ったが…美愛(みめ)くるみだっ」
 反町の指摘に一部男子が納得したように手を打ち、うんうんと頷く。
「どういう方なんですの? 美愛さんって?」
「しらねーのか? 二年前にブレイクしたAV女優だよ。まだ大人気だがな。顔といい胸といいそっくりだな。髪が短けりゃ本人で通用するよ。まさか槙原が正体じゃないだろうな」
「ふーん。どうして高校生のあなたがいかがわしいビデオの女優さんに詳しいんですの?」
「るっせぇなぁ。見たからに決まって…高嶺ぇ!?」
 得意になって語っていたのが学園のアイドル。青くなる反町。
 さらに殆どの女子が白い目で彼を見ていた。
「とうとう…ばれちゃいましたね」
 皮肉にもそれを助けたのは当事者の詩穂理。さばさばした表情だ。隠し続けるのは無理と感じていたらしい。
「シホ。大丈夫か?」
「うん。平気。心配かけてごめんね。ヒロくん」
 にっこりと笑う。幼なじみ相手の無防備な笑顔。
 元々整っているのだ。そして普段のお堅い印象があり、この笑顔に撃墜された男子もいた。
「あの…反町君。私、やっぱり美愛さんに似てますか?」
「へ? かなり似てると思うけど…委員長。知ってるの?」
 その質問にコクリと頷くと、詩穂理は語りだした。

 それは詩穂理が中学3年のとき。高校進学を決め、一時の安らぎを得ていたころだ。
 そのころの詩穂理は髪は短く、メガネもかけていなかった。
「シホーッ」
 隣室から姉の声がする。勉強していたがやむなく応じることにした。
「なぁに。お姉ちゃん。今勉強してたんだよ。お姉ちゃんだってボーイフレンド来てるんでしょ」
「そのボーイフレンドが用があるんだって」
 隣にいた軽薄そうな少年が詩穂理にウインクする。
「なんですか? 山本さん」
 質問された山本は答えずに詩穂理の顔を見ている。
「うん。本当によく似てるよ」
「そうね。あたしもビックリしたわよ」
 二人だけで理解しあっている。
「だから何なのよ?」
「これみりゃわかるわよ」
 美穂はビデオの再生を開始した。
 生まれた姿のままの男と女が濃密に絡み合う。詩穂理は瞬間的に頬が熱くなる。
「やだーっ。エッチなビデオじゃなーい」
「問題なのはこの女優ね。ほら。シホ。よくみなさい」
「えっ?」
 そしてその裸の女優「美愛くるみ」は自分とよく似ていた。
「な…何。私そっくり」
「ほんと。声があんたほど可愛くないからすぐ別人ってわかったけど、写真だけ見たら間違えたわね。あ。胸もあんたの方がEカップででかいか」
 とは言えど裸がスタンダードな女優とそっくりというのはいい気分がしない。潔癖な詩穂理ではなおさらである。
「わ…私、髪の毛伸ばす。コンタクトやめてメガネにする。とにかくこの人と違わせないと。そうでなくても男の人にじろじろ胸見られていやだし」
「詩穂理ちゃん。メガネは赤はやめた方がいいよ。この女優の最大のヒット作の女教師もので使っているからねっ」
「だったら黒渕にしますっ」

「それからずっと髪を伸ばして、めがねをかけて。胸ももう充分だったのに今ではGだし」
 自白モードに入っていたので自分がカップサイズまで白状したのに気がついていない。
 そしてふと目を上げると男子の大半が背を向けていた。
「あの…どうしたんですか。みなさん」
「ふっ。それは君の美しさが罪なんだよ」
 背中越しに格好をつけている恭兵。
(うわぁ…AV女優そっくりのクラスメートだなんて…)
 男たちの思いは体に反応していた。
「ちきしょう。どうせぼくはペチャパイだよっ」
 悔しがる優介。
(いや。その顔で胸あったら絶対女子制服の方が似合うから)
 なぎさの妙に冷静な突っ込み。

 委員長。衝撃の素顔とプロポーションだった。

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