第2話「Get Wild」Part4

 自転車の訓練を一休みして旧友との語らいになる。
 土手に並んで腰掛ける裕生。上条。綾那。詩穂理である。
「それにしても驚いたな。お前に彼女ができるなんて」
「確かに。僕が一番ビックリしてる」
 胸を張って言い切る上条明。
(本当だわ。あまり他人に関心を持たなかった人なのに……この女の子。どうやって彼とここまで?)
 それを知りたいがゆえの綾那の隣だった。
 ただ知り合いでもない相手の側では怪訝な表情をされそうだが
「今何にはまっている?」
「僕は『鉄姫』かな」
 上条の言った作品は深夜に放映されているアニメ作品。「てっき」と読む。
 アンドロイドの少女が人間らしくなるまでを描いた作品だ。四月放映開始なのでまだ序盤である。
「なんだよ。彼女がいるのに『萌え』かよ」
「まーね。君の方は?」
「決まってんだろ。『特装ハイパーフェクター」だぜ」
 一月放映開始。主人公は特殊プロテクターに身を包んだ警察官。
 そこに宇宙から飛来した『死の商人』が関わってくる。
 そして東京を実験場として様々な『商品』を実戦テストをしていき、それを打ち倒していくストーリーである。
「やはり特撮派か。相変わらずだな」
見事にオタトークに入りだして辺りが見えなくなっている。
 それを綾那はニコニコ笑ってみている。どうやら上条の趣味は承知の様子だ。
 その綾那に詩穂理が話しかける。
「あの…ちょっといいですか?」
「……うん?」
 自分とは無関係の少女のそれにちょっと戸惑う。
 しかし元々人見知りしないほうなので話に応じることにした。
「初めまして。私、槙原詩穂理です」
 きちんと自己紹介から入る。
「あっ。ボク若葉綾那ー。よろしくね」
 微笑んで上条たちを見守るところは若干大人びて見えたが、喋ると声の高さもあり一気に子供っぽくなった。
 お互いに向き合う。そしてなんとなく互いの胸元に目が行き同時に同じことを考えた。

(羨ましい!)

 詩穂理は何しろGカップ。目立たなくしようとしているもののそれでも大きさは隠し切れない。
 大して綾那はAAカップ。少しは成長したがノーブラでも差しさわりがないほど薄い胸。
(いいないいな。こんなに大きかったら大人っぽい服なんか似合うよね。女らしい)
(ここまで薄かったらきっと楽だわ。それに男の人の目も気にしないでよさそう。あっ。可愛いロリータ服も着られるかも)
 それほど趣味ではないものの詩穂理も女の子である。ファッションには興味がないわけではない。
 しかしその極端な巨乳故にある程度の制限がある。どうしてもフリルを多用したものが似合わない。
 自然と大人びた服に。素顔も大人びているので服の印象とで、未成年に見られないこともしばしば。
 それも悩みの一つだった。

「それでお話なぁに?」
 綾那のほうから切り出した。
「あ…ハイ。あの…若葉さんは一年生なんですか?」
 顔が幼く胸も薄い。そのせいでの詩穂理のコメント。これには綾那もさすがにむくれた。
「二年生だもん……」
 しかし初対面なのと何度も言われていることなのでこらえた。
「あっ。ごめんなさい」
 口を押さえて平謝り。失言はわかっていたので綾那も追求はしない。
「でもそれじゃ転校したばかりで」
 これで綾那は完全に納得した。一年生と見られた理由も察した。
「ううん。転校してきたのは一年の五月くらい。でももったいないから一年のときだけ前の学校の制服だったの。一年着たから無限塾の制服にしたの」
「それで新しい制服なんですね。ごめんなさい」
「いいよー」
 一言で許す。そして
「ねぇ。詩穂理ちゃんって呼んでいい?」
「あっ。はい。どうぞ。若葉さん」
 堅苦しい返事にちょっと戸惑うが笑顔に戻る綾那。
「それで若葉さん。どうやって上条君とその…仲良くなったんですか?」
 上条と裕生は似たタイプであるものの違う。
 それでも参考にしたくてたまらない。
「うーん。どうやってと言われても…ずっとずっと『好き』って言ってただけだよ」
「えっ? それだけですか?」
 もっと秘策のようなものを期待していた。
「でもとっても大事なことだよ。気持ちを伝えるのって」
「それはそうなんですけど…その…私の好きな人って恋愛ごとにちょっと…」
 ちらっと裕生を見たのを綾那は見逃さない。
「ははーん……」
 この初対面の少女に見透かされたのを詩穂理は一瞬で悟る。頬が熱くなる。
「でもがんばって伝えるしかないもん。それで下の名前で呼び合うようになったなら進展している証拠」
(下の名前…それどころか照れくささもあって私はここ最近は『風見君』なんてよそよそしく呼んでいたわ。でもやっぱり高校生にもなって子供みたいに名前で呼び合うのって恥ずかしい…)
 堅物の詩穂理らしい思考だった。

「あー。久しぶりで楽しんだぜ。無限塾の文化祭には呼べよな」
「そっちに呼んでくれたらな」
 どうやらいつの間にか普通の会話になっていたらしい。そして切り上げとなった。
「綾那。もういい?」
「うん。明くん」
 綾那が会話していたのをちゃんと把握していた。そして切り上げてもいいかと尋ねた。
 それに対して短く返答。立ち上がると上条の腕に自分の腕を絡める。
「じゃあな。風見」
「おう」
「バイバイ。詩穂理ちゃん」
「さようなら。若葉さん」
 一時の再会と邂逅だった。

 下校中に自転車がパンクした風見千尋。
 その辺りで一番近い自転車屋に出向いて修理してもらった。
 その関係で普段は絶対といっていいほど通ることのない土手に来た。
(ここって嫌な思い出しかないんだよね…)
 遠くを見る。流れる川。何かを焼却処分しているらしい煙。そして思い出す忌まわしい記憶。
(あの時もこんな風に…あれ? アニキ? それに詩穂ちゃん?)
 それは川沿いで自転車の訓練を再開した二人だった。
 青くなる千尋。
 彼女はそのまま自転車で二人の元へと走っていく。

「なにやってんのよ! アニキ!」
 この怒声に詩穂理が驚いてまた転んだ。
「あいたたた…千尋ちゃん?」
「よう。千尋。今帰りか?」
 まったく平然と会話する兄。それに対して猛抗議する妹。
「アニキ。ここがどこだかわかってんの? ここで…あたしのせいでお母さんが…」
 涙まで浮かべる。そして立ち上がった詩穂理も察しがついた。
(もしかしてここが…あの事故現場?)

 7歳の千尋。8歳の裕生。それをつれて川沿いにきた在りし日の風見純子。二人の母にして風見哲也の妻。

 だが千尋が足を滑らせて川に落ちた。
 前夜の大雨で量が増えていたためあっと言う間に飲み込まれる。
「千尋!?」
 スカート姿だが躊躇わずに純子は飛び込んだ。

 川の中でスカートが足にまとわりつく。それが想像以上に体力の消耗を誘う。
 しかしなんとか愛娘においつき助けあげる。
 そして最後の力を振り絞り川岸に。救助に駆けつけた男に娘を託した。
 だがそれで力を使い果たした。今度は純子自身が川に飲み込まれた。
「お母さん!」
 叫ぶ千尋。元気なのを見届けて最後の微笑を返す母。
 二人の兄妹の前で母は水底へと沈んでいく。

 引き上げられたのは200メートル先。既に顔色がない。

「純子!?」
 病院に飛び込んできた風見哲也。しかし妻の顔は既に白い布がかぶせられていた。
 力が抜け崩れ落ちる哲也。男泣きに泣いた。
「何がヒーローだ…自分の妻すら救えないで、俺のどこがヒーローだ…」
 この悲鳴にも似た叫びが幼い裕生にとっては一種のトラウマとなった。

「あれ以来オヤジはヒーローを演じるのをやめちまった。そして千尋。お前も水を恐がるようになった。だけどさ…それでいいのか? それでオフクロが喜ぶのか? 
せめて元気に暮らすのがお袋に対しての供養じゃないのか? その助けられた命で出来る限りの長生きをするのが報いることじゃないのか?」
 彼とて傷ついていないわけではない。しかし彼は強さを取った。
「俺は救いたいんだよ。親父も。お前も。だから証明したいんだ。どんな危ないことをしても俺は死なないとお前に。そしてヒーローは必ず立ち直るとオヤジに思い出してもらいたい」
(それであんなに危険なアクションをするのね…)
 ロープスライダーなどは決して思いつきだけではないのだった。
「でも…それでも恐い」
「千尋。俺もスタントの時は恐いよ。けどな、その恐さを乗り越えるころが勇気なんだ。そして乗り越えられることを証明しつつげる。お前とオヤジ。そしてみんなにも勇気を送りたい」
 それゆえ彼はテレビのヒーローになるべく日々鍛錬を続けていたのだ。

「千尋ちゃん。あなたのお兄さんを信じましょ」
 詩穂理の柔らかい笑み。普段は人を寄せ付けないような堅さだが、傷ついた少女への優しさが彼女に自然とこの表情をさせていた。
「シホちゃん…」
「さぁ。風見君。練習を再開しましょ」
 あえて離れることで千尋に冷静になる時間を与えようとしていた。
 そして詩穂理は勢いよく自転車を走らせる。
 ところが勢い余って川へと向かってしまう。しかも
「キャーッ? なんで止まらないの?」
 度重なる転倒の際にブレーキを破損していた。凄まじい勢いで川へと。
「シホ!」
 裕生も駆け出すが自転車相手ではさすがに間に合わない。そして
「きゃあああああーっっっ」
 自転車ごと川へと詩穂理が投げ出された。顔面蒼白になる千尋。
 それを追い川へと飛び込む裕生。まさに9年前の悪夢の再現に千尋は膝をつく。

 だがさすがに鍛えていた裕生。しかも上着は既に上条が来たときに脱いでいたためまとわりつく物も無く、無事に詩穂理を救い出した。

 舞台の上。白雪姫となった詩穂理が眠っている芝居をしている。
 そこに王子役の裕生が。
(ヒロ君…)
 幼い頃から思う相手の登場に心臓が高鳴る。
「なんと美しい姫だ」
 王子は姫を抱きかかえる。緊張のあまり硬直する詩穂理。
 そして裕生の唇が近づく。
(えっ? ふりだけよね。キスのふり)
 唇が触れ合うことなどこの鈍感少年には期待出来ない。安堵半分。落胆半分。
「好きだよ。シホ」
 ところが王子の裕生は愛の言葉をささやくと、大勢の見守る中で詩穂理の唇に自分の唇を重ねた。
(ウソォーーーッ?)
 驚きと心が通じていた歓喜が混じりあう。
(夢? 夢よね。でもリアルな感触だわ。ううん。夢というのは脳が仮想体験をするから痛みなどの感触もあるはずだけど…でもこれがキスの感触なのかしら? したことないのに)

 ぱちぱちとはぜる音。何かが燃えている。その音で詩穂理が目を覚ますと、裕生の顔が至近距離にあった。
 そして自分の唇が彼の唇でふさがれていたことに驚く。
(え…ええーッ?)
「おっ。気がついたか。ふう。何でもやっておくもんだな。アクション中の事故で人口呼吸が必要の時のために教わっていたが役に立つとは思わなかったぜ」
 笑顔の裕生。何故か上半身は裸だ。逞しい裸体がさらされている。
(わ…私そういえば溺れたんだ…)
 記憶が混乱している。それで「人口呼吸」は納得した。
(こ…これはノーカウントよね。キスじゃないわよね)
 いくら好きな相手でも…いや。好きな相手だからこそ初めてがマウス・トゥ・マウスでは切ない。
「まったく。水飲んでたから大変だったぜ。吐かせるために服脱がせるのが一苦労で」
「ええっ?」
 ここで詩穂理は自分が上半身裸で上からブレザーをかけられていただけと知る。
 しかも大勢がその姿を。
「いくらやっても堅くてさ。どうも手触りからサラシらしいと思ったんで脱がせちまった。ごめんな」
(胸を隠すためのサラシが逆に人前で胸を…)
 青白い顔だったが頬に赤みが差す。
「いやぁ。お姉ちゃん。立派な胸だよ」
「俺が揉みたかったぜ」
「顔も色っぽいし」
 顔? 慌ててメガネを確認するがない。川に落ちた時に無くしたらしい。
 つまり素顔で裸体を人前にさらしていたことになる。
「アニキ…せめて水はかせるなら背中を押しなさいよね」
 その要素はまったく無いのに行為だけなら殆どラブシーンを演じていた自分の兄と幼なじみの女の子。
 千尋を赤面させるには充分であった。彼女が上半身がブラウスとベストだけなのを見ると、詩穂理にかけられていたのは千尋のものらしい。
 そして詩穂理は大混乱。
「おう。お前の服は乾かしているからもうちょっとしたら着とけよ。俺のはまだだめか」
(人前で、裸の私とヒロ君。胸をもまれて、キスまでされて…)
 涙がにじみ出る。
「おいおい。今頃恐くなったのか?」
 その思いも知らぬ無神経な一言。
「ヒロ君のバカーっっっ」
 左手が裕生の右頬を小気味よい音を立ててひっぱたいた。

 念のために医者に行くが異常なしと診断される。
 しかしその間、そして帰宅してからもずっと黙り込んでいた。
 現在は詩穂理の部屋で彼女はベッドにうつ伏せ。不貞寝である。
(ヒロ君のバカ。ヒロ君のバカ。ヒロ君のバカ。ヒロ君のバカ)
 仕打ちにたいしてか? 届かぬ思いに対してか呪詛の言葉が駆け巡る。
 そしてノックもなしに美穂が部屋に入ってくる。
「お姉ちゃん。部屋に入るならノックくらいしてよ」
「あんたの心を開くにもノックがいるのかしら?」
 黙りこむ。
 フェロモン過剰な姉はベッドに横ずわり。
「まぁ人前で裸さらして怒る気持ちはわかるけど、許してあげなさいよ。サラシほどくには仕方なかったんだし。立派な体なんだからむしろ隠している方が罪よ」
「私お姉ちゃんみたいに堂々と出来ないもん」
 まるで子供の言い方である。苦笑する美穂。
「あんたもそんな喋り方すると年相応で可愛いんだけどね。顔とスタイルがよくてもそんなに堅くちゃヒロ君もあんたになびかないんじゃない」
 むっとした表情になる詩穂理。しかしそれは指摘に対してではない。
「お姉ちゃんがヒロ君なんて言わないで。そう呼んでいいのは幼なじみの私だけだもん」
 本気で怒っている表情。
「あらあら。恐い。ヤキモチ?」
 美穂の言葉に我に返る。確かにこれは嫉妬だ。
「呼び方独り占めにしたいなら普段からしてなさい。もっと素直な方が女は可愛いわよ」
「ひねくれてなんて…」
「好きなんでしょ? 裕生君」
 姉の言葉で自分の気持ちを再確認させられた詩穂理は、赤い顔で頷いた。

 翌朝。

「おはよう。シホ」
 相変わらずの裕生である。
「おはよう。ヒロくん」
 メガネをなくしたためとりあえず間に合わせで使い捨てコンタクト。
 そしてメガネがブロックしていた前髪が目元に当たるのでピンで前髪を上げていた。
 前日の一件で懲りた上に既にばれたことからちゃんとしたブラジャーを着用。
 そのため前日までより胸元が目立つようになった。
「シホちゃん…でか!」
 同性でもセクハラになる発言だが詩穂理は気にした様子がない。
「もう色々隠すのはやめたわ。呼び方も変えたけど…いいかな?」
 意図的ではないが長身の裕生相手に平均的身長の詩穂理は上目遣いになる。
「おう。懐かしい呼び方だな。いいぜ」
 細かいことは気にしない少年だった。
「さぁて。行くか。今日もスーパーヒーローへの道を」
「ちょっとアニキ。また何かスタントする気じゃ」?
「さすがに準備は出来てないぜ。だけど心はいつでもヒーローさ」
(そうよ。ヒロくんは私にとってはもうヒーローなんだ)
 自分のヒーローに対して、改めて憧れを抱いた詩穂理であった。


 追記。

 素顔でプロポーションを強調した結果、男子生徒にはセクシーアイドル扱いされ、女子にはやっかみを受けた。
 何より猛烈な恥ずかしさからできた途端に元のメガネ。そして長い前髪で顔を隠すようになった詩穂理である。
 ただ胸だけはもうばれたし、窮屈なのは大変なのでサイズに合った下着を着用している。

次回予告

 家庭科部に入部した妹を見守るため部活に関わるようになった大地大樹。思い人の部活参加で緊張する美鈴。
 そして彼女を驚かせる事実が判明した。
 次回PLS第3話「大地の物語」
 恋せよ乙女。愛せよ少年。

第3話「大地の物語」へ

第2話「Get Wild」製作秘話へ

PLS専用掲示板へ

城弾シアターウィキへ

PLSメインページへ

トップページへ